源氏物語 第14帖 澪標(5)
紫の上への打ち明け話
源氏は、明石の君が姫君を産んだことを紫の上に打ち明け、いずれ引き取って見せたいと語る。紫の上は顔を赤らめて恨み言を言い、源氏が明石の君の人柄や琴の音を懐かしげに語るのを聞いて、ひとり嘆きの歌を詠む。源氏は自分の真心を訴える歌を返し、箏の琴を勧めるが、紫の上は手も触れない。源氏は、その嫉妬する姿もかわいらしいと思う。

- 1女君女君おんなぎみにににははは殊殊ことにににあらはしあらはしあらわしてててをさをさをさをさおさおさ聞聞きこえええ給給たまははわぬぬぬををを聞聞きききき合合あわせせせ給給たまふふう事事こともももこそこそこそとととおぼしおぼしおぼしててて、、、「「「さささこそこそこそあああなれなれなれ。。。あやしうあやしうあやしゅうねぢけねぢけねじけたるたるたるわざわざわざなりなりなりややや。。。さささもももおはせおはせおわせなむなむなんととと思思おもふふうあたりあたりあたりにににははは心心こころもとなくもとなくもとなくててて思思おもひひいののの外外ほかににに口惜口惜くちおしくしくしくなむなむなん。。。
- 2女女おんなにてにてにてさへさへさへあああなれなれなればばばいといといとこそこそこそものものものしけれしけれしけれ。。。尋尋たずねねね知知しらららでででもももありありありぬぬぬべきべきべきことことことなれなれなれどどど、、、さささはははえええ思思おもひひいすつすつすつまじきまじきまじきわざわざわざなりなりなりけりけりけり。。。よびよびよびにににやりやりやりててて見見みせせせ奉奉たてまつらららむむん。。。憎憎にくみみみ給給たまふふうなななよよよ」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえばばばおもておもておもてうちうちうち赤赤あかみみみててて「「「あやしうあやしうあやしゅう常常つねにににかやうかやうかようなるなるなるすぢすぢすじのののたまひたまひたまいつくるつくるつくる心心こころののの程程ほどこそこそこそ我我わながらながらながらうとましけれうとましけれうとましけれ。。。ものものものにくみにくみにくみはははいついついつ習習ならふふうべきべきべきにににかかか」」」ととと怨怨えんじじじ給給たまへへえばばば、、、
- 3いといといとよくよくよくうちうちうちゑみゑみえみててて、、、「「「そよそよそよ、、、誰誰たがががならはしならはしならわしにににかかかあらあらあらむむん。。。思思おもははわずずずにににぞぞぞ見見みえええ給給たまふふうややや。。。人人ひとののの心心こころよりよりよりほかほかほかなるなるなる思思おもひひいやりやりやりごとごとごとしししててて物物もの怨怨えんじじじなどなどなどししし給給たまふふうよよよ。。。思思おもへへえばばば悲悲かなししし」」」とととてててはてはてはてはてはてはてははは淚淚なみだぐみぐみぐみ給給たまふふう。。。
- 4年比年比としごろ飽飽あかかかずずず戀戀こいしししととと思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまひひいししし御心御心みこころののの中中うちどもどもども折々折々おりおりののの御御おん文文ふみののの通通かよひひいなどなどなどおぼしおぼしおぼし出出いづるづるずるにににはははよろづよろづよろずののの事事ことすさびすさびすさびにににこそこそこそあれあれあれととと、、、思思おもひひいけたけたけたれれれ給給たまふふう。。。
- 5「「「このこのこの人人ひとをををかうかうこうまでまでまで思思おもひひいやりやりやりことことこととふとふとうははは猶猶なお思思おもひひいやうやうようののの侍侍はべるるるぞぞぞ。。。まだきまだきまだきににに聞聞きこえええばばばまたまたまたひがひがひが心心こころ得得え給給たまふふうべけれべけれべければばば」」」とととのののたまふたまふたまう。。。「「「さしさしさしててて人人ひとがらがらがらのののをかしかりをかしかりおかしかりしししももも所所ところからからからにににややや、、、珍珍めずらしうしうしゅうおぼえおぼえおぼえきききかしかしかし」」」などなどなど語語かたりりり聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 6あはれあはれあわれなりなりなりししし夕夕ゆうべののの煙煙けぶり、、、いひいひいいしししことことことなどなどなどまほまほまほならならならねねねどどど、、、そのそのその夜夜よのののかたちかたちかたちほのほのほの見見みしししののの音音ねのののなまめきなまめきなまめきたりたりたりしししもももすべてすべてすべて心心こころとまれとまれとまれるるるさまさまさまにににのののたまひたまひたまい出出いづるづるずるにににももも、、、われわれわれははは又又またなくなくなくこそこそこそ悲悲かなしししととと思思おもひひい歎歎なげきききしかしかしか、、、すさびすさびすさびにてにてにてももも心心こころををを別別わけけけ給給たまひひいけむけむけんよよよととと、、、たゞたゞただならならならずずず思思おもひひい續續つづけけけられられられててて
- 7われわれわれはははわれわれわれとととうちうちうちそむきそむきそむきながめながめながめててて、、、「「「あはれあはれあわれなりなりなりししし世世よのののありさまありさまありさまかなかなかな」」」とととひとりごとひとりごとひとりごとのののやうやうようにににうちうちうちなげきなげきなげきててて、、、「「「思思おもふふうどちどちどち靡靡なびくくくかたかたかたにににはははあらあらあらずずずともともともわれわれわれぞぞぞけぶりけぶりけぶりにににさきだちさきだちさきだちなななましましまし」」」。。。
- 8「「「何何なにとととかかかやややこゝろうこゝろうこころうややや誰誰たれににによりよりより世世よをををうみうみうみ山山やまににに行行ゆきききめぐりめぐりめぐり絕絕たえええぬぬぬ淚淚なみだにににうきうきうきしづむしづむしずむ身身みぞぞぞ。。。いでいでいでやややいかでいかでいかでかかか見見みえええ奉奉たてまつらららむむん。。。命命いのちこそこそこそかなひかなひかない難難がたかべいかべいかべい物物ものなめれなめれなめれ。。。はかなきはかなきはかなきことことことにてにてにて人人ひとににに心心こころおかおかおかれれれじじじととと思思おもふふうももも、、、唯唯ただひとつひとつひとつ故故ゆえぞぞぞややや」」」とととててて、、、
- 9箏箏そうののの御御おん琴琴こと引引ひききき寄寄よせせせてててかきかきかき合合あわせせせすさびすさびすさび給給たまひひいててて、、、そゝのかしそゝのかしそそのかし聞聞きこえええ給給たまへへえどどど、、、かのかのかのすぐれすぐれすぐれたりたりたりけむけむけんもももねたきねたきねたきにににややや、、、手手てももも觸觸ふれれれたまはたまはたまわずずず、、、いといといとおほどかおほどかおおどかににに美美うつくしうしうしゅうたをやぎたをやぎたおやぎ給給たまへへえるるるものものものからからから、、、さすがさすがさすがにににしうねきしうねきしゅうねき所所ところつきつきつきててて物物もの怨怨えんじじじしししたまへたまへたまえるるるがががなかなかなかなかなかなかあいぎやうづきあいぎやうづきあいぎょうずきててて腹腹はらだちだちだちなしなしなし給給たまふふうををををかしうをかしうおかしゅう見見み所所どころありありありとととおぼすおぼすおぼす。。。
現代語訳
女君(紫の上)には、とりたてて打ち明けて申し上げることもなさらなかったが、ほかから聞き合わせなさることもあってはいけないとお思いになって、「そういうことだそうです。妙にひねくれたことですね。生まれてほしいと思うあなたの所には、なかなか生まれなくて、思いもよらない所に生まれたのは残念なことです。しかも女の子だというので、本当につまらない。捨てておいてもよいことだけれど、そうも見捨てられないものでした。迎えにやってお見せしましょう。憎まないでくださいよ」と申し上げなさると、紫の上は顔を赤らめて、「妙にいつもそういうことを言いつけなさる私の心のほどが、我ながら嫌になります。嫉妬などは、いつ習ったらよいのでしょう」と恨みなさるので、
源氏はたいそうにっこり笑って、「そうそう、誰に教えられたのでしょう。思いがけない方にお見えになりますね。人の思いもしないような邪推をして、恨んだりなさるとは。思えば悲しい」と言って、しまいには涙ぐみなさる。長年、飽きることなく恋しいとお思い申し上げなさった互いのお心の内や、折々の手紙のやりとりなどを思い出しなさるにつけては、ほかのことはすべて一時の慰みにすぎないのだと、紫の上は恨みも消える思いがなさる。
源氏は「この人をこうまで思いやって見舞うのは、やはり考えることがあるのです。早まって申し上げると、またあなたが誤解なさるといけないので」とおっしゃる。「人柄が魅力的に思えたのも、場所柄のせいだったのでしょうか、珍しく思われたのです」などとお話し申し上げなさる。しみじみとした夕べの煙や、詠み交わした歌のことなど、はっきりとではないが、その夜の容貌をほのかに見たことや、琴の音が優美だったことも、すべて心惹かれた様子でお話しになるにつけても、紫の上は、私はこの上なく悲しいと思い嘆いていたのに、慰みにせよ心を分けていらっしゃったのだろうよと、穏やかでなく思い続けられて、
私は私と、顔をそむけて物思いにふけって、「しみじみとした仲でしたこと」とひとり言のように嘆いて、「思い合う者同士で煙が同じ方へなびくのではなくても、私の方が先に煙となって死んでしまいたい」。源氏は「何ですって。情けないことを。誰のために、この世をつらいと思いながら海や山をさすらい、絶えない涙に浮き沈みしてきた身だと思うのですか。さあ、どうにかして私の真心をお見せしたい。命ばかりは思うにまかせないもののようです。つまらないことで人に恨まれまいと思うのも、ただあなた一人のためなのですよ」と言って、
箏の琴を引き寄せて、調子を合わせて軽くお弾きになって、紫の上にもお勧め申し上げなさるが、あのすぐれていたという人の琴も妬ましいのか、手もお触れにならない。たいそうおっとりとかわいらしく、しなやかでいらっしゃるものの、さすがに執念深いところがあって嫉妬していらっしゃるのが、かえって愛嬌があって、腹を立てていらっしゃるのを、源氏はおもしろく見どころがあるとお思いになる。
意訳
源氏は、明石の君が姫君を産んだことを紫の上に打ち明ける。紫の上は顔を赤らめて恨み言を言うが、源氏は笑ってはぐらかし、涙ぐんでみせる。
源氏が明石の君の人柄や琴の音を懐かしげに語るので、紫の上は、ひとり嘆きの歌を詠む。源氏は、すべてはあなたのためだと真心を訴える歌を返す。紫の上が嫉妬して琴に手も触れない姿を、源氏はかわいらしいと思う。
語釈・文法注
- 琴の音
- ここでの「琴(きん)」は七絃の琴。明石の巻で、明石の君は源氏の求めに応じて琴を弾き、その音色のすばらしさが源氏の心をとらえた。
文法
- 危惧の「もこそ」(聞き合せ給ふ事もこそ)
- 「聞き合わせなさることがあっては困る」。よくない事態を予測して心配する。
- 過去推量の「けむ」(心を別け給ひけむよ)
- 「心を分けていらっしゃったのだろうよ」。自分の知らない過去の事実を推量する。
和歌
思ふどち靡くかたにはあらずともわれぞけぶりにさきだちなまし
- 詠者
- 紫の上
- 状況
- 源氏が明石の君を懐かしげに語るのを聞いて、ひとり言のように詠んだ歌。思い合う者同士で、煙が同じ方向になびくように心を通わせているのではなくても、私の方が先に煙となって死んでしまいたい。
修辞
- 縁語
- 「靡く」「けぶり」は、源氏が語った明石の「夕の煙」を受ける。
誰により世をうみ山に行きめぐり絕えぬ淚にうきしづむ身ぞ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 紫の上への返歌。誰のために、この世をつらいと思いながら海や山をさすらい、絶えない涙に浮き沈みしてきた身だと思うのですか。
修辞
- 掛詞
- 「うみ」に「倦み(いやになる)」と「海」、「うき」に「浮き」と「憂き」をかける。
解説
紫の上の嫉妬が初めて正面から描かれる場面である。源氏は明石の君との関係を隠さずに語るが、それはかえって紫の上の心を傷つける。紫の上の「われぞけぶりにさきだちなまし」という歌は、明石の「夕の煙」に対する激しい嫉妬を表している。
源氏は紫の上の嫉妬を「をかし」と見て楽しむ余裕を見せるが、子のない紫の上と、姫君を産んだ明石の君との対比は、のちに姫君を紫の上の養女とする展開につながっていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、288–291頁(コマ147–148)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日