源氏物語 第14帖 澪標(4)
乳母の派遣
源氏は、明石の姫君のために、故院に仕えた宣旨の娘を乳母に選ぶ。源氏は荒れた家を自ら訪ねて頼み、戯れの歌を交わして送り出す。乳母は明石に着き、姫君のかわいらしさに旅の嘆きも忘れる。入道は源氏の厚意に感激し、明石の君も心を慰めて、源氏に返歌する。

- 1さるさるさる所所ところにににはかばかしきはかばかしきはかばかしき人人ひともももありがたからありがたからありがたからむむんをををおぼしおぼしおぼしててて、、、故院故院こいんににに侍侍さぶらひひいししし宣旨宣旨せんじのののむすめむすめむすめ、、、宮內卿宮內卿くないきょうののの宰相宰相さいしょうにてにてにてなくなりなくなりなくなりにににししし人人ひとののの子子こなりなりなりしししををを、、、母母ははなどなどなどもももうせうせうせてててかすかかすかかすかなるなるなる世世よににに經經へけるけるけるがががはかなきはかなきはかなきさまさまさまにてにてにて子子こ產產うみみみたりたりたりととと聞聞きこしししめしめしめしつけつけつけたるたるたるををを、、、知知しるるるたよりたよりたよりありありありててて事事ことのののついでついでついでにににまねびまねびまねび聞聞きこえええけるけるける人人ひと召召めしししてててさるべきさるべきさるべきさまさまさまにににのののたまひたまひたまい契契ちぎるるる。。。
- 2まだまだまだ若若わかくくくててて何何なに心心こころもももなきなきなき人人ひとにてにてにて明明あけ暮暮くれれれ人人ひとしれしれしれぬぬぬあばらやあばらやあばらやににに眺眺ながむるむるむる心心こころぼそさぼそさぼそさなれなれなればばば深深ふこうううももも思思おもひひいたどらたどらたどらずずず、、、このこのこの御御おんあたりあたりあたりのののことことことをををひとへにひとへにひとえにめでたうめでたうめでとう思思おもひひいきこえきこえきこえててて參參まいるるるべきべきべきよしよしよし申申もうさささせせせたりたりたり。。。いといといとあはれあはれあわれにににかつはかつはかつわおぼしおぼしおぼしててていだしいだしいだしたてたてたて給給たまふふう。。。
- 3物物もののののついでついでついでにににいみじういみじういみじゅう忍忍しのびびびまぎれまぎれまぎれててておはしまいおはしまいおわしまいたりたりたり。。。さささははは聞聞きこえええながらながらながらいかにいかにいかにせせせましましましととと思思おもひひい亂亂みだれれれけるけるけるををを、、、いといといとかたじけなきかたじけなきかたじけなきににによろづよろづよろず思思おもひひい慰慰なぐさめめめててて「「「たゞたゞただのののたまはせたまはせたまわせむむんまゝまゝままににに」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。
- 4よろしきよろしきよろしき日日ひなりなりなりけれけれければばば急急いそがしがしがし立立たててて給給たまひひいててて「「「あやしうあやしうあやしゅう思思おもひひいやりやりやりなきなきなきやうやうようなれなれなれどどど、、、思思おもふふうさまさまさまことことことなるなるなる事事ことにてにてにてなむなむなん、、、自自みずからららももも覺覺おぼえええぬぬぬ住住すまひひいにににむすぼゝれむすぼゝれむすぼおれたりたりたりしししためしためしためしををを思思おもひひいよそへよそへよそえててて暫暫しばしししははは念念ねんじじじ給給たまへへえ」」」などなどなど事事ことののの有樣有樣ありさま委委くわしうしうしゅう語語かたらひらひらい給給たまふふう。。。
- 5上上うえののの宮仕宮仕みやづかえ時々時々ときどきせせせしかしかしかばばば見見み給給たまふふう折折おりもももありありありしししをををいたういたういとう衰衰おとろへへえにににけりけりけり。。。家家いえのののさまさまさまもももいひいひいいしらしらしらずずずあれあれあれ惑惑まどひひいてててさすがさすがさすがににに大大おおきなるなるなる所所ところののの木立木立こだちなどなどなどうとましげうとましげうとましげにににいかでいかでいかですぐしすぐしすぐしつつつらむらむらんととと見見みゆゆゆ。。。人人ひとざまざまざま若若わかやかやかやかにににをかしけれをかしけれおかしければばば御覽御覽ごらんじじじ放放はなたたたれれれずずず。。。
- 6とかくとかくとかく戯戯たわぶれぶれぶれのののたまひたまひたまいててて「「「取取とりりりかへしかへしかえしつつつべきべきべき心地心地ここちこそこそこそすれすれすれ。。。いかにいかにいかに」」」とととのののたまふたまふたまうにににつけつけつけてててももも、、、げにげにげに同同おなじうじうじゅうははは御身御身おんみ近近ちかくくくももも仕仕つこうううまつりまつりまつりなれなれなればばばうきうきうき身身みももも慰慰なぐさみみみなななましましましととと見見み奉奉たてまつるるる。。。
- 7「「「かねてかねてかねてよりよりよりへだてへだてへだてぬぬぬ中中なかとととならはならはならわねねねどどど別別わかれははは惜惜おしきしきしきものものものにににぞぞぞありありありけるけるける。。。慕慕したひひいやややせせせましましまし」」」とととのののたまへたまへたまえばばば、、、うはぢらひうはぢらひうわじらいててて、、、「「「うちつけうちつけうちつけののの別別わかれををを惜惜おしむしむしむかごとかごとかごとにてにてにて思思おもははわぬぬぬかたかたかたににに慕慕したひひいやややはははせせせぬぬぬ」」」。。。馴馴なれれれててて聞聞きこゆるゆるゆるをををいたしいたしいたしとととおぼすおぼすおぼす。。。
- 8車車くるまにてにてにてぞぞぞ京京きょうのののほどほどほどははは行行ゆききき離離はなれれれけるけるける。。。いといといと親親したしきしきしき人人ひとさしさしさしそへそへそえててて、、、ゆめゆめゆめもらすもらすもらすまじくまじくまじく口口くちがためがためがため給給たまひひいてててつかはすつかはすつかわす。。。御御おん、、、さるべきさるべきさるべきものものものなどなどなど、、、所所ところせきせきせきまでまでまでおぼしおぼしおぼしやらやらやらぬぬぬくまくまくまなしなしなし。。。めのとめのとめのとにににもももありがたうありがたうありがとうこまやかこまやかこまやかなるなるなる御御おんいたはりいたはりいたわりののの程程ほど淺淺あさからからからずずず。。。
- 9入道入道にゅうどう思思おもひひいかしづきかしづきかしずき思思おもふふうらむらむらん有樣有樣ありさま思思おもひひいやるやるやるもももほゝゑまほゝゑまほほえまれれれ給給たまふふうことことこと多多おおくくく、、、又又またあはれあはれあわれににに心苦心苦こころぐるしくしくしくももも、、、唯唯ただこのこのこのことことことののの御心御心みこころにににかゝるかゝるかかるももも淺淺あさからからからぬぬぬにににこそこそこそははは。。。御御おん文文ふみにににももも「「「おろかおろかおろかにににもてなしもてなしもてなし給給たまふふうまじまじまじ」」」ととと返返かえすすすがへすがへすがえすいましめいましめいましめ給給たまへへえりりり。。。
- 10「「「いつしかいつしかいつしかももも袖袖そでうちうちうちかけかけかけむむんをとめをとめおとめ子子ごががが世世よをををへへへてててなでなでなでむむん岩岩いわのののおいさきおいさきおいさき」」」。。。津津つののの國國くにまでまでまでははは船船ふねにてにてにてそれそれそれよりよりよりあなたあなたあなたははは馬馬うまにてにてにて急急いそぎぎぎつきつきつきぬぬぬ。。。入道入道にゅうどう待待まちちちとりとりとり喜喜よろこびびびかしこまりかしこまりかしこまり聞聞きこゆるゆるゆる事事ことかぎりかぎりかぎりなしなしなし。。。
- 11そなたそなたそなたににに向向むきききててて拜拜おがみみみ聞聞きこえええてててありがたきありがたきありがたき御心御心こころばへばへばえををを思思おもふふうにににいよいよいよいよいよいよいたはしういたはしういたわしゅう恐恐おそろしきしきしきまでまでまで思思おもふふう。。。ちごちごちごのののいといといとゆゝしきゆゝしきゆゆしきまでまでまでうつくしううつくしううつくしゅうおはするおはするおわする事事ことたぐひたぐひたぐいなしなしなし。。。
- 12げにげにげにかしこきかしこきかしこき御心御心みこころにににかしづきかしづきかしずき聞聞きこえええむむんとととおぼしおぼしおぼしたるたるたるはははうべうべうべなりなりなりけりけりけりととと見見み奉奉たてまつるるるにににあやしきあやしきあやしき道道みちににに出出いででで立立たちちちててて夢夢ゆめののの心地心地ここちしししつるつるつる歎歎なげきもももさめさめさめにににけりけりけり。。。いといといとうつくしううつくしううつくしゅうらうたくらうたくろうたくおぼえおぼえおぼえてててあつかひあつかひあつかい聞聞きこゆゆゆ。。。
- 13こもちこもちこもちののの君君きみももも月比月比つきごろ物物ものをををのみのみのみ思思おもひひい沈沈しずみみみててていとゞいとゞいとどよわれよわれよわれるるる心地心地ここちににに生生いきききたらたらたらむむんととともももおぼえおぼえおぼえざりざりざりつるつるつるををを、、、このこのこの御心御心みこころおきておきておきてののの少少すこししし物思物思ものおもひひい慰慰なぐさめめめらるゝらるゝらるるにににぞぞぞかしらかしらかしらもたげもたげもたげててて御御おん使使つかいにににもももににになきなきなきさまさまさまののの志志こころざしをををつくすつくすつくす。。。
- 14とくとくとく參參まいりりりなななむむんととと急急いそぎぎぎ苦苦くるしししがれがれがればばば思思おもふふう事事ことどもどもども少少すこししし聞聞きこえええ續續つづけけけててて、、、「「「ひとりひとりひとりしししてててなづるなづるなずるははは袖袖そでののの程程ほどなきなきなきにににおほふおほふおおうばかりばかりばかりのののかげかげかげをををしししぞぞぞまつまつまつ」」」ととと聞聞きこえええたりたりたり。。。あやしきあやしきあやしきまでまでまで御心御心みこころにににかゝりかゝりかかりゆかしうゆかしうゆかしゅうおぼさおぼさおぼさるるる。。。
現代語訳
源氏は、ああいう所にはしっかりした人もめったにいないだろうとお思いになって、故院にお仕えしていた宣旨の娘で、宮内卿の宰相で亡くなった人の子であった者が、母なども亡くなって、心細い暮らしをしていたが、頼りない様子で子を産んだとお聞きつけになったので、つてがあって、何かのついでにその話を申し上げた人をお呼びになって、しかるべきようにお約束なさる。
その女はまだ若く、何の分別もない人で、明け暮れ人に知られないあばら家で物思いにふける心細さなので、深くも思案せずに、源氏のお身の回りのことをひたすらすばらしいとお思い申し上げて、参上する旨を申し上げさせた。源氏はたいそう気の毒に、一方ではうれしくお思いになって、出立させなさる。何かのついでに、たいそう人目を忍んでお立ち寄りになった。女は、承知の返事はしたものの、どうしようかと思い乱れていたが、たいそう畏れ多いので、万事思い慰めて、「ただおっしゃるとおりにいたします」と申し上げる。
日柄もよかったので、急いで出立させなさって、「妙に思いやりのないことのようだが、特別な考えがあってのことなのだ。私自身も思いがけない土地に閉じこもっていた例を思い比べて、しばらくは辛抱してください」などと、事情を詳しくお話しになる。この女は、上(桐壺院)の宮仕えを時々していたので、源氏はご覧になる折もあったが、ひどくやつれてしまっていた。家の様子も何とも言いようがなく荒れ果てて、さすがに広い所の木立なども気味悪そうで、どうやって過ごしてきたのだろうと見える。人柄が若々しく魅力的なので、源氏はお見捨てになれない。
あれこれと冗談をおっしゃって、「取り返したい気持ちがする。どうだね」とおっしゃるにつけても、女は、本当に同じことならお側近くにお仕えできるなら、つらい身の上も慰められるだろうにと拝見する。源氏は「前々から親しい仲として慣れ親しんだわけではないけれど、別れは惜しいものであることよ。後を追って行こうかしら」とおっしゃるので、女ははにかんで、「急な別れを惜しむというのは口実で、思っていらっしゃる方のもとへ慕って行きたいのではありませんか」。物慣れた様子でお答え申し上げるのを、たいしたものだとお思いになる。
車で京の内は離れて行った。たいそう親しい人を付き添わせて、決して他言しないよう口止めなさって、お遣わしになる。御佩刀や、しかるべき品々など、置き場所に困るほど、お心配りの行き届かないところはない。乳母にも、めったにないほど細やかなおいたわりが並々でない。入道が姫君を大切に育てて思っているだろう様子を想像なさるにつけても、ほほえまれなさることが多く、またしみじみと気の毒にも思われ、ただこの姫君のことがお心にかかるのも、浅くはない宿縁なのだろう。お手紙にも、「おろそかにお育てなさるな」と繰り返し戒めなさった。「早く袖をかけていとおしみたいものだ。天女が長い年月をかけてなでるという岩のように、末長い姫君の将来を」。
摂津の国までは船で、そこから先は馬で急いで到着した。入道は待ち受けて、喜び、恐縮申し上げることこの上ない。京の方角に向かって拝み申し上げて、ありがたいお心遣いを思うと、いよいよ姫君を大切に、恐ろしいほどに思う。幼い姫君がたいそう不吉なほどかわいらしくいらっしゃることは、比べるものもない。なるほど、畏れ多いお心で大切にお育て申し上げようとお思いになっているのはもっともなことだったと、乳母は拝見すると、辺鄙な旅路に出立して夢のような気持ちでいた嘆きも覚めてしまった。たいそうかわいらしく、いとしく思われて、お世話申し上げる。
子を持つ君(明石の君)も、何か月も物思いに沈んで、ますます弱った気持ちで、生きていられるとも思わなかったのに、この源氏のお心配りに少し物思いが慰められて、頭をもたげて、お使いにもこの上ないもてなしをする。使いが早く帰参しようと急いでつらがるので、思うことを少し申し上げ続けて、「私一人でなでいつくしむには、袖が狭くて足りませんので、姫君を覆うほどのあなたのお蔭をお待ちしております」と申し上げた。源氏は不思議なほどお心にかかり、会いたくお思いになる。
意訳
源氏は、故院に仕えた宣旨の娘を姫君の乳母に選び、荒れた家を自ら訪ねて頼む。若く魅力的な乳母に、源氏は戯れの歌を詠みかけ、乳母も機転のきいた返歌をする。
乳母は明石に着き、姫君のかわいらしさに旅の嘆きも忘れる。入道は源氏の厚意に感激し、明石の君も心を慰めて、源氏の庇護を願う歌を返す。
語釈・文法注
- 御はかし
- 御佩刀。誕生した子に守り刀として贈る刀。皇族の子女の誕生に贈る習わしがあり、源氏が姫君を高貴な子として扱っていることを示す。
文法
- 反実仮想の「まし」(慰みなまし)
- 「慰められるだろうに」。お側に仕えられたらという仮定のもとでの想像を表す。
- 反語の「やは」(慕ひやはせぬ)
- 「慕って行きたいのではありませんか」。
和歌
かねてよりへだてぬ中とならはねど別は惜しきものにぞありける
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 乳母を送り出す時に、戯れて詠んだ歌。前々から親しい仲として慣れ親しんだわけではないけれど、別れは惜しいものであることよ。
うちつけの別を惜しむかごとにて思はぬかたに慕ひやはせぬ
- 詠者
- 乳母
- 状況
- 源氏への返歌。急な別れを惜しむというのは口実で、本当は思っていらっしゃる方(明石の君)のもとへ慕っていらっしゃりたいのではありませんか。
いつしかも袖うちかけむをとめ子が世をへてなでむ岩のおいさき
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 明石の君への手紙に添えた歌。早く袖をかけていとおしみたいものだ。天女が長い年月をかけてなでるという岩のように、末長い姫君の将来を。
修辞
- 引歌
- 天女が三年に一度降りて羽衣で岩をなで、岩がすり減ってなくなるまでを一劫とする仏典の説をふまえ、姫君の長寿を祝う。
ひとりしてなづるは袖の程なきにおほふばかりのかげをしぞまつ
- 詠者
- 明石の君
- 状況
- 源氏への返歌。私一人でなでいつくしむには、袖が狭くて足りませんので、姫君を覆うほどのあなたのお蔭(ご庇護)をお待ちしております。
解説
源氏が乳母を自ら選び、荒れた家まで訪ねていくのは、姫君を后がねとして育てようとする強い意志の表れである。御佩刀を贈ることも、姫君を皇女に準じて扱おうとする源氏の考えを示している。
乳母との戯れの贈答は、源氏の色好みの性格がいまだ変わらないことを示す一方、乳母の機転のある返歌は、彼女が明石の姫君の養育係にふさわしい教養の持ち主であることを印象づける。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、286–289頁(コマ146–147)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日