源氏物語 第12帖 須磨(14)
上巳の祓と嵐
三月一日の巳の日、源氏は人に勧められて海辺で祓をする。人形を流しながら歌を詠み、犯した罪はないと神に訴えると、にわかに暴風が起こり、雷雨が激しく襲う。人々は逃げまどうが、源氏は落ち着いて経を読む。夜になって風雨はいくらか収まる。明け方、源氏はまどろんだ夢に、見知らぬ者が現れて、宮からお召しがあるのになぜ参らぬのかと探し回るのを見る。源氏は、海の竜王に魅入られたのだと思い、須磨の住まいに耐えがたくなる。

- 1やよひやよひやよいのののついたちついたちついたちににに出出いででで來來きたるたるたる巳巳みののの日日ひ「「「今日今日きょうなむなむなんかくかくかくおぼすおぼすおぼすことことことあるあるある人人ひとはははみそぎみそぎみそぎししし給給たまふふうべきべきべき」」」とととなまさかしきなまさかしきなまさかしき人人ひとののの聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、海海うみづらづらづらもももゆかしくゆかしくゆかしくててて出出いででで給給たまふふう。。。
- 2いといといとおろそかおろそかおろそかにににばかりばかりばかりををを引引ひききき廻廻めぐらしらしらしてててこのこのこの國國くにににに通通かよひひいけるけるける陰陽師陰陽師おんようじ召召めしししてててはらへはらへはらえせせせさせさせさせ給給たまふふう。。。船船ふねにににことごとしきことごとしきことごとしきひとがたひとがたひとがた載載のせせせててて流流ながすすすををを見見み給給たまふふうにににもももよそへよそへよそえられられられててて、、、
- 3「「「しらしらしらざりざりざりししし大海大海おおうみのののはらはらはらににに流流ながれれれきききてててひとかたひとかたひとかたにににやはやはやはものものものははは悲悲かなしきしきしき」」」とととててて居居い給給たまへへえるるるさまさまさま、、、さるさるさるはれはれはれににに出出いでゝでゝでて言言いふふうよしよしよしなくなくなく見見みえええ給給たまふふう。。。
- 4海海うみのののおもておもておもてはははうらうらうらうらうらうらとととなぎなぎなぎ渡渡わたりりりててて行行ゆくへくへくえももも知知しらららぬぬぬにににこしかたこしかたこしかた行行ゆくくくさきさきさきおぼしおぼしおぼしつゞけつゞけつづけられられられててて、、、「「「八百八百やおよろづよろづよろず神神かみもももあはれあはれあわれととと思思おもふふうらむらむらんをかせをかせおかせるるる罪罪つみのののそれそれそれとととなけれなけれなければばば」」」とととのたまふのたまふのたまうににに
- 5俄俄にわかににに風風かぜ吹吹ふききき出出いでゝでゝでて空空そらもももかきかきかき暮暮くれれれぬぬぬ。。。御御おんはらへはらへはらえもももしししはてはてはてずずず立立たちちちさわぎさわぎさわぎたりたりたり。。。ひぢがさひぢがさひじがさとととかかか降降ふりりりきききててていといといとあわたゞしけれあわたゞしけれあわただしければばば皆皆みな歸歸かえりりり給給たまははわむむんとととするするするににに笠笠かさもももとりとりとりあへあへあえずずずさるさるさる心心こころもももなきなきなきににに萬萬よろず吹吹ふきききちらしちらしちらしまたまたまたなきなきなき風風かぜなりなりなり。。。
- 6波波なみいといといといかめしういかめしういかめしゅう立立たちちちきききててて人々人々びとののの足足あしをををそらそらそらなりなりなり。。。海海うみのののおもておもておもてはははふすまふすまふすまををを張張はりりりたらたらたらむむんやうやうようににに光光ひかり滿滿みちちちててて神神かみ鳴鳴なりりりひらめくひらめくひらめく。。。
- 7落落おちちちかゝるかゝるかかる心地心地ここちしししててて辛辛からうじてうじてうじてたどりたどりたどりきききててて「「「かゝるかゝるかかるめめめははは見見みずずずもももあるあるあるかなかなかな。。。風風かぜなどなどなどははは吹吹ふけけけどどど氣色氣色けしきづきづきずきてててこそこそこそあれあれあれ、、、あさましうあさましうあさましゅう珍珍めずらからからかなりなりなり」」」ととと惑惑まどふふうににに猶猶なお止止やまままずずず鳴鳴なりりりみちみちみちててて雨雨あめのののあしあしあしあたるあたるあたる所所ところ通通とおりりりぬぬぬべくべくべくはらめきはらめきはらめきおつおつおつ。。。
- 8かくかくかくててて世世よははは盡盡つきききぬるぬるぬるにににやややととと心心こころ細細ぼそくくく思思おもひひい惑惑まどふふうににに、、、君君きみはははのどやかのどやかのどやかににに經經きょううちうちうちずじずじずじててておはすおはすおわす。。。暮暮くれれれぬれぬれぬればばば神神かみ少少すこしししなりなりなり止止やみみみててて風風かぜぞぞぞよるよるよるもももふくふくふく。。。多多おおくくく立立たてててつるつるつる願願がんののの力力ちからなるなるなるべしべしべし。。。
- 9「「「今今いましばししばししばしかくかくかくだにだにだにあらあらあらばばば浪浪なみににに引引ひかかかれれれててて入入いりりりぬぬぬべかりべかりべかりけりけりけり。。。高潮高潮たかしおととといふいふいうものものものににになむなむなんとりあへずとりあへずとりあえず人人ひとそこなはそこなはそこなわるゝるゝるるとととははは聞聞きけけけどどどいといといとかゝるかゝるかかることことことはははまだまだまだ知知しらららずずず」」」ととといひいひいいあへあへあえりりり。。。
- 10曉曉あかつきがたがたがた皆皆みなうちうちうち休休やすみみみたりたりたり。。。君君きみももも聊聊いささか寢寢ね入入いりりり給給たまへへえれれればばばそのそのそのさまさまさまとととももも見見みえええぬぬぬ人人ひときききててて「「「などなどなど宮宮みやよりよりより召召めしししあるあるあるにににははは參參まいりりり給給たまははわぬぬぬ」」」とととてててたどりたどりたどりありくありくありくととと見見みるるるにににおどろきおどろきおどろきててて、、、
- 11さささははは海海うみののの中中なかのののりうりうりゅうのののいといといといたういたういとう物物ものめでめでめでするするするものものものにてにてにて見見み入入いれれれたるたるたるなりなりなりけりけりけりとととおぼすおぼすおぼす。。。いといといとものものものむづかしうむづかしうむずかしゅうこのこのこの住住すまひひい堪堪たへへえがたくがたくがたくおぼしおぼしおぼしなりなりなりぬぬぬ。。。
現代語訳
三月一日にめぐってきた巳の日に、「今日は、このように悩み事のある人は禊をなさるべきです」と、なまじっか物知りぶった人が申し上げるので、海辺も見たくて、お出かけになる。たいそう簡素に、軟障だけを張りめぐらして、この国に通ってきていた陰陽師を呼んで、祓をおさせになる。
船に仰々しい人形を載せて流すのをご覧になるにつけても、わが身になぞらえられて、「見たこともない大海原に流れてきて、人形のように、ひととおりの悲しさであろうか」と詠んで座っていらっしゃる様子は、このような晴れ晴れとした所に出て、言いようもなく美しくお見えになる。
海の面はうららかに一面に凪いで、果てもわからないので、過去や将来のことが思い続けられて、「八百万の神々も、私を哀れと思ってくださるだろう。犯した罪の、これといってないのだから」とおっしゃると、急に風が吹き出して、空も真っ暗になった。
お祓いもすっかり終わらないうちに、人々は立ち騒いだ。肱笠雨とかいうものが降ってきて、たいそうあわただしいので、皆お帰りになろうとするが、笠も手に取る暇もない。そのような気配もなかったのに、何もかも吹き散らす、またとない風である。
波がたいそう激しく立ってきて、人々は足も地につかない。海の面は、衾を広げたように一面に光り満ちて、雷が鳴りひらめく。今にも落ちかかってくるような気がして、やっとのことでたどり着いて、「こんな目には遭ったことがない。風などは吹くけれど、前もって兆しがあるものなのに、あきれるほど珍しいことだ」と惑っていると、やはりやまずに雷が鳴り響いて、雨脚が当たる所は突き通りそうなほど、ばらばらと激しく降り落ちる。
このまま世も終わってしまうのだろうかと心細く思い惑っているのに、源氏は落ち着いてお経を読んでいらっしゃる。日が暮れると、雷は少し鳴りやんだが、風は夜も吹き続ける。たくさん立てた願の力なのだろう。
「もう少しこのような状態が続いたら、波にさらわれて海に入ってしまったにちがいない。高潮というものに、あっという間に人が命を落とすとは聞いていたが、こんなことはまだ知らない」と言い合っていた。
明け方、皆寝静まった。源氏も少しお眠りになると、何とも見分けのつかない者が来て、「どうして宮からお召しがあるのに参上なさらないのか」と言って、探し回っているのを見て、目をお覚ましになって、さては海の中の竜王が、たいそう美しいものを好むので、自分に目をつけたのだったとお思いになる。たいそう気味が悪く、この住まいが耐えがたくお思いになった。
意訳
三月一日の巳の日、源氏は海辺で祓をし、人形を流しながら、犯した罪はないと神に訴える歌を詠む。すると、にわかに暴風が起こり、雷雨が激しく襲う。人々は逃げまどうが、源氏は落ち着いて経を読む。
夜になって風雨はいくらか収まる。明け方、源氏はまどろんだ夢に、見知らぬ者が現れて、宮からのお召しになぜ参らぬのかと探し回るのを見る。源氏は、海の竜王に魅入られたのだと思い、須磨の住まいに耐えがたくなる。
語釈・文法注
- ぜんじやう
- 軟障(ぜじょう)。幕の一種。絵を描いた布の幕で、屋外の仮の囲いなどに用いた。
- ひぢがさ雨
- 肱笠雨(ひじがさあめ)。急に降り出し、笠を取る暇もなく肘を頭にかざして避けるような雨。にわか雨。
- りう王
- 竜王(りゅうおう)。海の底に住むとされた竜神。美しいものを好み、人を海に引き入れると信じられた。
文法
- 反語の「やは」(ひとかたにやはものは悲しき)
- 「ひととおりの悲しさであろうか、いや、そうではない」。
- 推量の「べかりけり」(入りぬべかりけり)
- 「海に入ってしまったにちがいない」。
和歌
しらざりし大海のはらに流れきてひとかたにやはものは悲しき
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 祓で人形を流すのを見て詠んだ歌。見たこともない大海原に流れてきて、人形のように、ひととおりの悲しさであろうか。
修辞
- 掛詞
- 「ひとかた」に「人形」と「一方(ひととおり)」をかける。
八百よろづ神もあはれと思ふらむをかせる罪のそれとなければ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 海を眺めながら詠んだ歌。八百万の神々も、私を哀れと思ってくださるだろう。犯した罪の、これといってないのだから。
解説
須磨の巻は、上巳の祓の日に起こった突然の嵐で閉じられる。源氏が「をかせる罪のそれとなければ」と自らの潔白を神に訴えた途端に嵐が起こるという展開は、神意の表れとして描かれている。
夢に現れる竜王の使いは、次の明石の巻へとつながる。嵐はさらに続き、やがて故桐壺院の霊が夢に現れて、源氏に須磨を去るよう告げることになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、254–257頁(コマ130–131)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日