源氏物語 第13帖 明石(1)
嵐の続く須磨と紫の上の使い
須磨の嵐はなおも続き、雷も鳴りやまない。源氏は、都に帰ることも、さらに山奥へ隠れることもできず思い悩む。そこへ、二条院の紫の上から、ずぶ濡れの使いがやって来る。紫の上の文には、須磨を思いやる歌が添えられていた。使いは、都でもこの雨風は怪しい物のさとしとされ、政も途絶えていると語る。

- 1猶猶なお雨風雨風あめかぜ止止やまままずずずかみなりかみなりかみなりしづまらしづまらしずまらででで日頃日頃ひごろににになりなりなりぬぬぬ。。。いといといと物物ものわびしきわびしきわびしきことことこと數數かず知知しらららずずず。。。きしかたきしかたきしかた行行ゆくくくさきさきさき悲悲かなしきしきしき御御おん有樣有樣ありさまににに心心こころ强强づようううしもしもしも得得えおぼしおぼしおぼしなさなさなさずずず。。。
- 2いかにいかにいかにせせせましましまし、、、かゝりかゝりかかりとととててて都都みやこににに歸歸かえらららむむんととともももまだまだまだ世世よににに許許ゆるささされれれもももなくなくなくてててははは人人ひとわらはれわらはれわらわれなるなるなることことことこそこそこそまさらまさらまさらめめめ、、、猶猶なおこれこれこれよりよりより深深ふかききき山山やまををを覓覓もとめめめてててややや跡跡あと絕絕たえええなななましましましとととおぼすおぼすおぼすにににももも
- 3波風波風なみかぜににに騷騷さわがががささされれれてててなどなどなど人人ひとののの言言いひひい傳傳つたへへえむむんととと後後のちののの世世よまでまでまでいといといとかろがろしきかろがろしきかろがろしき名名なをををややや流流ながしししはてはてはてむむんとととおぼしおぼしおぼしみだるみだるみだる。。。御御おん夢夢ゆめにににももも唯唯ただ同同おなじじじさまさまさまなるなるなる物物もののみのみのみきききつゝつゝつつまつはしまつはしまつわし聞聞きこゆゆゆととと見見み給給たまふふう。。。
- 4雲間雲間くもまもももなくなくなく明明あけけけ暮暮くるゝるゝるる日數日數ひかずにににそへそへそえててて京京きょうののの方方かたもももいとゞいとゞいとど覺束覺束おぼつかなくなくなく、、、かくかくかくながらながらながら身身みをををはふらかしはふらかしはふらかしつるつるつるにににやややととと心心こころぼそうぼそうぼそうおぼせおぼせおぼせどどど、、、かしらかしらかしらさしさしさし出出いづづずべくべくべくもももあらあらあらぬぬぬ空空そらののの亂亂みだれれれににに出出いででで立立たちちちまゐるまゐるまいる人人ひともももなしなしなし。。。
- 5二條院二條院にじょういんよりよりよりぞぞぞあながちあながちあながちにににあやしきあやしきあやしき姿姿すがたにてにてにてそぼちそぼちそぼち參參まいれれれるるる。。。みちかひみちかひみちかいにてにてにてだにだにだに人人ひとかかか何何なにぞぞぞとととだにだにだに御覽御覽ごらんじじじわくわくわくべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。まづまづまず追追おひひい拂拂はらひひいつつつべきべきべき賤賤しずのののをををののの哀哀あわれにににむつまじうむつまじうむつまじゅうおぼさるゝおぼさるゝおぼさるるももも我我わながらながらながらかたじけなくかたじけなくかたじけなくくしくしくしにににけるけるける心心こころののの程程ほど思思おもひひい知知しらららるるる。。。
- 6御御おん文文ふみにににははは「「「あさましくあさましくあさましくをやみをやみおやみなきなきなき頃頃ころののの氣色氣色けしきにににいとゞいとゞいとど空空そらさへさへさへ閉閉とづるづるずる心地心地ここちしししてててながめながめながめやるやるやるがたがたがたなくなくなくなむなむなん。。。うらうらうら風風かぜやややいかにいかにいかに吹吹ふくくくらむらむらん思思おもひひいやるやるやる袖袖そでうちうちうちぬらしぬらしぬらしなみまなみまなみまなきなきなきころころころ」」」。。。哀哀あわれににに悲悲かなしきしきしきことことことゞゞどももも書書かききき集集あつめめめ給給たまへへえりりり。。。ひきひきひきあくるあくるあくるよりよりよりいとゞいとゞいとどみぎはみぎはみぎわまさりまさりまさりぬぬぬべくべくべくかきかきかきくらすくらすくらす心心こころちちちししし給給たまふふう。。。
- 7「「「京京きょうにににもももこのこのこの雨風雨風あめかぜいといといと怪怪あやしきしきしき物物もののののさとしさとしさとしなりなりなりとととててて、、、などなどなど行行おこなははわるるるべしべしべしとととなむなむなん聞聞きこえええ侍侍はべりりりししし。。。うちうちうちににに參參まいりりり給給たまふふう上達部上達部かんだちめなどなどなどもももすべてすべてすべて道道みちとぢとぢとじててて政政まつりごとももも絕絕たえええてててなむなむなん侍侍はべるるる」」」などなどなどはかばかしうはかばかしうはかばかしゅうもももあらあらあらずずずかたくなしうかたくなしうかたくなしゅう語語かたりりりなせなせなせどどど、、、
- 8京京きょうののの方方かたのののことことことゝゝと思思おぼせせせばばばいぶかしういぶかしういぶかしゅうててて御御おんまへまへまえににに召召めししし出出いでゝでゝでて問問とはははせせせ給給たまふふう。。。「「「唯唯ただ例例れいののの雨雨あめのののをやみをやみおやみなくなくなく降降ふりりりててて風風かぜははは時々時々ときどき吹吹ふききき出出いでででつゝつゝつつ日頃日頃ひごろににになりなりなり侍侍はべるるるををを、、、例例れいならならならぬぬぬことことことににに驚驚おどろききき侍侍はべるるるなりなりなり。。。
- 9いといといとかくかくかくちちちののの底底そこ通通とおるるるばかりばかりばかりのののひふりひふりひふり、、、いかづちいかづちいかずちのののしづまらしづまらしずまらぬぬぬことことことははは侍侍はべらららざりざりざりききき」」」などなどなどいみじきいみじきいみじきさまさまさまににに驚驚おどろきききおぢおぢおじてててをるをるおる顏顏かおのののいといといとからきからきからきにににももも心心こころ細細ぼそさささまさりまさりまさりけるけるける。。。
現代語訳
やはり雨風がやまず、雷も静まらないまま、何日にもなった。たいそうわびしいことが数知れない。過去も将来も悲しいご様子に、とても気強くお思いになることができない。どうしたらよいだろう、こうなったからといって都に帰ろうにも、まだ世間に許されてもいないのでは、物笑いになることがまさるだろう。やはりここよりも深い山を求めて、行方をくらましてしまおうかとお思いになるにつけても、
波風に騒がれて逃げたなどと人が言い伝えるだろうと、後の世まで、たいそう軽々しい名を流してしまうのだろうかと思い乱れなさる。お夢にも、ただ同じような者ばかりが来ては、まつわりつき申し上げると、ご覧になる。
雲の晴れ間もなく明け暮れる日数が重なるにつれて、京のこともいっそう気がかりで、このまま身を落ちぶれさせてしまうのだろうかと心細くお思いになるが、頭を差し出すこともできないような空の乱れに、出かけて参上する人もいない。
二条院から、無理をして、みすぼらしい姿で、ずぶ濡れになって使いが参上した。道ですれ違ったとしても、人か何かとさえ見分けがつかないほどである。まず追い払ってしまいそうな身分の低い男が、しみじみと親しく思われなさるのも、我ながらもったいなく、気がくじけてしまった心のほどが思い知られる。
お手紙には、「あきれるほど小やみのないこのごろの様子に、いっそう空までふさがってしまう気がして、眺めやる方もなく。須磨の浦風は、どんなに激しく吹いているでしょう。思いやる私の袖も涙に濡れて、波の絶え間がないこのごろです」。しみじみと悲しいことなどを書き集めていらっしゃる。開くなり、いっそう涙の水かさがまさってしまいそうに、目の前が暗くなる気持ちがなさる。
使いは「京でも、この雨風はたいそう怪しい物のさとしだということで、仁王会などが行われるはずだと聞きました。宮中に参内なさる上達部なども、皆道がふさがって、政治も途絶えております」など、はっきりともせず、たどたどしく話すが、京のことだとお思いになると、気がかりで、御前に呼び出してお尋ねになる。
「ただいつものように、雨が小やみなく降って、風は時々吹き出しながら、何日にもなりますのを、いつもと違うことだと驚いております。たいそうこのように、地の底まで突き通るほどの雹が降り、雷が静まらないことはございませんでした」などと、ひどい様子に驚きおびえている顔が、たいそうつらそうなのにつけても、心細さがまさった。
意訳
須磨の嵐はなおも続き、源氏は、都に帰ることも、さらに山奥へ隠れることもできずに思い悩む。そこへ紫の上から、ずぶ濡れの使いが文を届ける。紫の上の歌には、源氏を思って涙の乾く間もない思いがこめられていた。
使いは、都でもこの嵐は不吉な物のさとしとされ、政治も途絶えていると語る。嵐は須磨だけでなく、都にも及んでいたのである。
語釈・文法注
- にんわうゑ
- 仁王会(にんのうえ)。『仁王経』を講じて、国家の安泰を祈る法会。天変地異の際などに臨時に行われた。
文法
- 反実仮想の「まし」(跡絕えなまし)
- 「行方をくらましてしまおうか」。ためらいを表す。
- 疑問の「や…む」(名をや流しはてむ)
- 「名を流してしまうのだろうか」。
和歌
うら風やいかに吹くらむ思ひやる袖うちぬらしなみまなきころ
- 詠者
- 紫の上
- 状況
- 嵐の中、須磨の源氏に送った歌。須磨の浦風は、どんなに激しく吹いているでしょう。思いやる私の袖も涙に濡れて、波の絶え間がない(涙の乾く間もない)このごろです。
修辞
- 掛詞
- 「なみま」に「波間」と「(涙の)絶え間」をかける。
解説
明石の巻は、須磨の巻の嵐の場面をそのまま引き継いで始まる。源氏は、都にも帰れず、山奥にも隠れられない八方ふさがりの状況に置かれる。
紫の上からの使いは、源氏にとって大きな慰めとなる。身分の低い使いまでがいとしく思われるという描写は、源氏がいかに心細い状況にあったかをよく示している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、256–259頁(コマ131–132)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日