古典ライブラリー

源氏物語 第12帖 須磨(9)

伊勢との文通と朧月夜の再出仕

登場人物:光源氏・六条御息所・花散里・朧月夜・朱雀帝・右大臣

伊勢の六条御息所からも、心のこもった文と歌が届き、源氏は使者を二、三日引きとめて伊勢の話を聞き、返歌を送る。花散里からの歌に、源氏は邸の修理を命じる。一方、朧月夜は許されて七月に再び宮中に上がる。朱雀帝は朧月夜を変わらず寵愛しながらも、源氏のいない寂しさを語り、院の遺言に背いたことを悔やむ。朧月夜は帝の優しさに涙する。

宮中の一室で、朱雀帝が朧月夜を見つめて語りかけ、朧月夜が涙をこぼしている場面(AI生成)
宮中の一室で、朱雀帝が朧月夜を見つめて語りかけ、朧月夜が涙をこぼしている場面
  1. 1まことまことまことややや騷さわが騷さわがさわがしかりしかりしかりししし程ほど程ほどほどのののまぎれまぎれまぎれににに洩も洩ももらしらしらしてててけりけりけり。。。かのかのかの伊勢いせ伊勢いせいせのののへへへももも御おん御おんおん使つかひ使つかひつかいありありありけりけりけり。。。かれかれかれよりよりよりもももふりはへふりはへふりはえ尋たづ尋たづたずねねね參まゐ參まゐまいれれれりりり。。。淺あさ淺あさあさからからからぬぬぬ事こと事ことことどもどもども書か書かかききき給たま給たまたまへへえりりり。。。言こと言ことことののの葉は葉はは筆ふで筆ふでふでづかひづかひづかいなどなどなどははは人ひと人ひとひとよりよりより殊こと殊ことことににになまめかしうなまめかしうなまめかしゅういたりいたりいたり深ふか深ふかふかくくく見み見みみえええたりたりたり。。。
  2. 2「「「猶なほ猶なほなおうつゝうつゝうつつとととははは思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえられられられぬぬぬ御おん御おんおん住す住すすまひまひまいをををうけうけうけ給たま給たまたまはるはるわるももも明あ明ああけけけぬぬぬ夜よ夜よよののの心こころ心こころこころ惑まど惑まどまどひひいかかかとととなむなむなん。。。さりともさりともさりとも年月としつき年月としつきとしつきははは隔へだ隔へだへだててて給たま給たまたまははわじじじととと思おも思おもおもひひいやりやりやり聞きこ聞きこきこえええさするさするさするにににももも罪つみ罪つみつみ深ふか深ふかふかききき身み身みみのみのみのみこそこそこそ又また又またまた聞きこ聞きこきこえええさせさせさせむむんことことこともももはるかはるかはるかなるなるなるべけれべけれべけれ、、、
  3. 3うきうきうきめめめかるかるかるいせいせいせをををののの海士あま海士あまあまををを思おも思おもおもひひいやれやれやれもしほもしほもしおたるたるたるてふてふちょう須磨すま須磨すますまののの浦うら浦うらうらにてにてにて。。。萬よろづ萬よろづよろずににに思おも思おもおもううう給たま給たまたまへへえみだるゝみだるゝみだるる世よ世よよののの有樣ありさま有樣ありさまありさまももも猶なほ猶なほなおいかにいかにいかになりなりなりはつはつはつべきべきべきにににかかか」」」とととおほかりおほかりおおかり。。。「「「伊勢島いせじま伊勢島いせじまいせじまやややしほひしほひしおいのののかたかたかたにににあさりあさりあさりてててもももいふかひいふかひいうかいなきなきなきははは我身わがみ我身わがみわがみなりなりなりけりけりけり」」」
  4. 4物もの物ものものをををあはれあはれあわれとととおぼしおぼしおぼしけるけるけるまゝまゝままにににうちうちうちおきおきおきうちうちうちおきおきおき書か書かかききき給たま給たまたまへへえるるる、、、白しろ白しろしろきききからからからののの紙かみ紙かみかみ四五枚しごまい四五枚しごまいしごまいばかりばかりばかりををを書か書かかききき續つづ續つづつづけけけててて墨すみ墨すみすみつきつきつきなどなどなど見み見みみどころどころどころありありあり。。。
  5. 5哀あはれ哀あはれあわれににに思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええししし人ひと人ひとひとをををひとひとひとふしふしふしうしうしうしととと思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええさせさせさせししし心こころ心こころこころあやまりあやまりあやまりにににこのこのこのみやすみやすみやす所どころ所どころどころももも思おも思おもおもひひいうんじうんじうんじててて別わか別わかわかれれれ給たま給たまたまひひいにににしししとととおぼせおぼせおぼせばばば、、、今いま今いまいまにににいとほしういとほしういとおしゅう忝かたじけな忝かたじけなかたじけなきききものものものににに思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふう。。。
  6. 6折をり折をりおりからからからののの御おん御おんおん文ふみ文ふみふみいといといとあはれあはれあわれなれなれなればばば、、、御おん御おんおん使つかひ使つかひつかいさへさへさへむつましうむつましうむつましゅうててて二三日ふつかみか二三日ふつかみかふつかみかすゑすゑすえさせさせさせ給たま給たまたまひひいててて彼處かしこ彼處かしこかしこののの物語ものがたり物語ものがたりものがたりなどなどなどせせせさせさせさせててて聞きこ聞きこきこしししめすめすめす。。。若わか若わかわかやかやかやかににに氣色けしき氣色けしきけしきあるあるあるさぶらひさぶらひさぶらいののの人ひと人ひとひとなりなりなりけりけりけり。。。
  7. 7かくかくかくあはれあはれあわれなるなるなる御おん御おんおん住す住すすまひまひまいなれなれなればばば、、、かやうかやうかようののの人ひと人ひとひともももおのづからおのづからおのずから物もの物ものもの遠どほ遠どほどおからからからでででほのほのほの見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつるるる御おん御おんおんさまさまさまかたちかたちかたちをををいみじういみじういみじゅうめでたしめでたしめでたしととと淚なみだ淚なみだなみだ落おと落おとおとしししけりけりけり。。。御おん御おんおんかへりかへりかえり書か書かかききき給たま給たまたまふふう言こと言ことことののの葉は葉はは思おも思おもおもひひいやるやるやるべしべしべし。。。
  8. 8「「「かくかくかく世よ世よよををを離はな離はなはなるるるべきべきべき身み身みみととと思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえらららましかましかましかばばばおなじうおなじうおなじゅうはははしたひしたひしたい聞きこ聞きこきこえええましましましものものものをををなどなどなどなむなむなん。。。つれづれつれづれつれづれににに心こころ心こころこころぼそきぼそきぼそきまゝまゝままににに伊勢人いせびと伊勢人いせびといせびとののの浪なみ浪なみなみのののうへうへうえ漕こ漕ここぐぐぐ小舟をぶね小舟をぶねおぶねにににもももうきうきうきめめめはははかれかれかれでででのらのらのらましましましものものものををを。。。
  9. 9あまあまあまがががつむつむつむなげきなげきなげきののの中なか中なかなかにににしほたれしほたれしおたれててていついついつまでまでまで須磨すま須磨すますまののの浦うら浦うらうらとととながめながめながめむむん。。。聞きこ聞きこきこえええさせさせさせむむんことことことのののいついついつとととももも侍はべ侍はべはべらららぬぬぬこそこそこそ盡つ盡つつきききせせせぬぬぬ心地ここち心地ここちここちししし侍はべ侍はべはべれれれ」」」などなどなどぞぞぞありありありけるけるける。。。かやうかやうかようににに何處いづく何處いづくいずくにににももも覺束おぼつか覺束おぼつかおぼつかなからなからなからずずず聞きこ聞きこきこえええかはしかはしかわし給たま給たまたまふふう。。。
  10. 10花散里はなちるさと花散里はなちるさとはなちるさとももも悲かな悲かなかなしししとととおぼしおぼしおぼしけるけるけるまゝまゝままにににかきかきかき集あつ集あつあつめめめ給たま給たまたまひひいけるけるける御おん御おんおん心々こころごころ心々こころごころこころごころ見み見みみ給たま給たまたまふふうににに、、、をかしきをかしきおかしきもももめめめなれなれなれぬぬぬ心地ここち心地ここちここちしししててていづれいづれいずれもももうちうちうち見み見みみつゝつゝつつ慰なぐさ慰なぐさなぐさめめめ給たま給たまたまひひい、、、かつはかつはかつわ物思ものおも物思ものおもものおもひひいのののもよほしもよほしもよおしぐさぐさぐさなななめりめりめり。。。
  11. 11「「「荒あ荒ああれれれまさるまさるまさる軒のき軒のきのきのののしのぶしのぶしのぶをををながめながめながめつゝつゝつつしげくしげくしげくももも露つゆ露つゆつゆのののかゝるかゝるかかる袖そで袖そでそでかなかなかな」」」とととあるあるあるををを、、、げにげにげに葎むぐら葎むぐらむぐらよりよりより外ほか外ほかほかののの後見うしろみ後見うしろみうしろみもももなきなきなきさまさまさまにてにてにておはすおはすおわすらむらむらんとととおぼしおぼしおぼしやりやりやりててて、、、
  12. 12長雨ながあめ長雨ながあめながあめににについぢついぢついじ所々ところどころ所々ところどころところどころ崩くづ崩くづくずれれれてててなどなどなど聞き聞ききききき給たま給たまたまへへえばばば、、、京きやう京きやうきょうのののけいしけいしけいしののの許もと許もともとににに仰おほ仰おほおおせせせつかはしつかはしつかわしててて、、、近ちか近ちかちかききき國々くにぐに國々くにぐにくにぐにののの御おん御おんおん莊さう莊さうそうののの者もの者ものものなどなどなどもよほさもよほさもよおさせせせててて仕つか仕つかつこううう奉まつ奉まつまつるるるべきべきべきよしよしよしのたまはすのたまはすのたまわす。。。
  13. 13かんのかんのかんの君きみ君きみきみははは人ひと人ひとひとわらへわらへわらえにににいみじういみじういみじゅうおぼしおぼしおぼしくづほるゝくづほるゝくずおるるをををおとゞおとゞおとどいといといと悲かな悲かなかなしうしうしゅうししし給たま給たまたまふふう君きみ君きみきみにてにてにて、、、せちせちせちににに宮みや宮みやみやにににももも申まう申まうもうししし內うち內うちうちにににももも奏そう奏そうそうししし給たま給たまたまひひいけれけれければばば、、、限かぎり限かぎりかぎりあるあるある女御にようご女御にようごにょうごみやすみやすみやす所どころ所どころどころにににもももおはせおはせおわせずずずおほやけざまおほやけざまおおやけざまののの宮仕みやづかへ宮仕みやづかへみやづかえとととおぼしおぼしおぼしなせなせなせりりり。。。
  14. 14又また又またまたかのかのかのにくかりにくかりにくかりししし故ゆゑ故ゆゑゆえこそこそこそいかめしきいかめしきいかめしきことことことももも出い出いいでででこここしかしかしか赦ゆる赦ゆるゆるささされれれ給たま給たまたまひひいててて參まゐ參まゐまいりりり給たま給たまたまふふうべきべきべきにににつけつけつけてててももも猶なほ猶なほなお心こころ心こころこころにににしみしみしみにににしししことことことのみのみのみぞぞぞあはれあはれあわれにににおぼえおぼえおぼえ給たま給たまたまひひいけるけるける。。。
  15. 15七月ふみづき七月ふみづきふみづきににになりなりなりててて參まゐ參まゐまいりりり給たま給たまたまふふう。。。いみじかりいみじかりいみじかりししし御おん御おんおん思おも思おもおもひひいののの名殘なごり名殘なごりなごりなれなれなればばば人ひと人ひとひとのののそしりそしりそしりもももしろししろししろし召め召めめささされれれずずず、、、例れい例れいれいのののうへうへうえにににつとつとつとさぶらはさぶらはさぶらわせせせ給たま給たまたまひひいててて、、、よろづよろづよろずにににうらみうらみうらみかつはかつはかつわあはれあはれあわれににに契ちぎ契ちぎちぎらららせせせ給たま給たまたまふふう。。。御おん御おんおんさまさまさまかたちかたちかたちもももいといといとなまめかしうなまめかしうなまめかしゅう淸きよ淸きよきよらららなれなれなれどどど、、、思おも思おもおもひひい出い出いいづるづるずる事こと事ことことのみのみのみ多おほ多おほおおかるかるかる心こころ心こころこころののの內うち內うちうちぞぞぞかたじけなきかたじけなきかたじけなき。。。
  16. 16御おん御おんおん遊あそび遊あそびあそびのののついでついでついでににに「「「そのそのその人ひと人ひとひとなきなきなきこそこそこそいといといとさうざうしけれさうざうしけれそうぞうしけれ。。。如何いか如何いかいかにににましてましてましてさささ思おも思おもおもふふう人ひと人ひとひと多おほ多おほおおからからからむむん。。。何事なにごと何事なにごとなにごとにににももも光ひかり光ひかりひかりなきなきなき心地ここち心地ここちここちするするするかなかなかな」」」とととのたまはせのたまはせのたまわせててて「「「院ゐん院ゐんいんのののおぼしおぼしおぼしのたまはせのたまはせのたまわせししし御心みこころ御心みこころみこころををを違たが違たがたがへへえつるつるつるかなかなかな。。。罪つみ罪つみつみうらむうらむうらむかしかしかし」」」とととててて淚なみだ淚なみだなみだぐまぐまぐませせせ給たま給たまたまふふうににに、、、えええ念ねん念ねんねんじじじ給たま給たまたまははわずずず。。。
  17. 17「「「世よ世よよののの中なか中なかなかこそこそこそあるあるあるにににつけつけつけてててもももあぢきなきあぢきなきあじきなきものものものなりなりなりけれけれけれととと思おも思おもおもひひい知し知ししるるるまゝまゝままににに、、、久ひさ久ひさひさしくしくしく世よ世よよにににあらあらあらむむんものものものとととなむなむなん更さら更さらさらににに思おも思おもおもははわぬぬぬ。。。さささもももありありありなななむむんにににいかゞいかゞいかがおぼさるおぼさるおぼさるべきべきべき。。。近ちか近ちかちかききき程ほど程ほどほどののの別わかれ別わかれわかれににに思おも思おもおもひひいおとさおとさおとされれれむむんこそこそこそねたけれねたけれねたけれ。。。生い生いいけけけるるるにににとととははは、、、げにげにげに善よ善よよからからからぬぬぬ人ひと人ひとひとののの言い言いいひひい置お置おおきききけむけむけん」」」
  18. 18ととといといといと懷なつか懷なつかなつかしきしきしき御おん御おんおんさまさまさまにてにてにて、、、物もの物ものものをををまことまことまことにににあはれあはれあわれとととおぼしおぼしおぼし入い入いいりりりてててのたまはするのたまはするのたまわするにににつけつけつけててて、、、ほろほろほろほろほろほろとととこぼれこぼれこぼれ出い出いいづれづれずればばば「「「さりやさりやさりや、、、いづれいづれいずれにににおつるおつるおつるにににかかか」」」とととのたまはすのたまはすのたまわす。。。
  19. 19「「「今いま今いまいままでまでまでみみみ子こ子ここ達たち達たちたちのののなきなきなきこそこそこそさうざうしけれさうざうしけれそうぞうしけれ、、、春宮とうぐう春宮とうぐうとうぐうををを院ゐん院ゐんいんのののののの給たま給たまたまはせはせわせしししさまさまさまににに思おも思おもおもへへえどどど、、、よからよからよからぬぬぬ事こと事ことことももも出い出いいでででくくくめれめれめればばば心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしうしうしゅう」」」などなどなど世よ世よよををを御心みこころ御心みこころみこころののの外ほか外ほかほかにににまつりごちまつりごちまつりごちなしなしなし給たま給たまたまふふう人々びと人々びとびとのののあるあるあるににに、、、若わか若わかわかききき御心みこころ御心みこころみこころののの强つよ强つよつよききき所ところ所ところところなきなきなき程ほど程ほどほどにてにてにていとほしいとほしいとおしとととおぼしおぼしおぼしたるたるたる事こと事ことことももも多おほ多おほおおかりかりかり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

そうそう、騒がしかった時の紛れに書き漏らしてしまった。あの伊勢の宮へもお使いがあった。あちらからも、わざわざ使者が訪ねて参上した。浅からぬことなどをお書きになっていた。言葉づかいや筆づかいなどは、人よりも格別に優美で、たしなみ深く見えた。

「やはり現実とは思われないお住まいのことを伺いますにつけても、明けない夜の夢の惑いかと思われます。それでも、長い年月は隔てられないだろうとお察し申し上げますにつけても、罪深い身の私こそ、またお便りを差し上げることもはるか先のことでしょう。浮き海布を刈る伊勢の海人を思いやってください。藻塩たれるという須磨の浦で。何事につけても思い乱れます世の中の有り様も、やはりどうなってしまうのでしょうか」と長々と書いてある。

「伊勢の島の干潟で、あさっても貝がないように、言うかいもないのは私の身の上でした」。しみじみとお思いになるままに、筆をおいてはまた書き続けなさった白い唐の紙、四、五枚ほどを書き継いで、墨の色なども見ごたえがある。

いとしいと思い申し上げていた人を、ひとつのことでいやだと思い申し上げた心の誤りから、この御息所も嫌気がさして別れていかれたのだとお思いになると、今でもお気の毒に、もったいない方と思い申し上げなさる。折も折のお手紙がたいそうしみじみとしているので、お使いの者まで親しく思われて、二、三日引きとめて、伊勢の話などをさせてお聞きになる。

若々しく、たしなみのある侍であった。このようなしみじみとしたお住まいなので、このような身分の者も自然とお近くで、ほのかに拝見するお姿や容貌を、たいそうすばらしいと涙を落とした。ご返事にお書きになった言葉は想像してほしい。

「このように世を離れなければならない身だと存じておりましたならば、同じことなら、あなたのお後を慕ってついて参りましたのに、などと思います。所在なく心細いままに、伊勢の人が波の上を漕ぐ小舟にでも、浮き海布を刈るような憂き目を見ずに乗って、ついて行けばよかったのに。海人が積む投げ木の中で涙に濡れて、いつまで須磨の浦を眺めて暮らすのだろう。お目にかかれる時がいつとも知れませんのが、尽きない悲しみでございます」などと書いてあった。このように、どなたにも気がかりのないようにお便りを交わしなさる。

花散里も、悲しいとお思いになったままに書き集めなさったそれぞれのお心をご覧になると、趣深いものも、見慣れない新鮮な気持ちがして、どれもご覧になりながら慰められるが、一方では物思いを誘う種となるようだ。

「荒れていく軒の忍ぶ草を眺めながら、しきりに涙の露がかかる袖であることよ」とあるのを、本当に、葎のほかには後見もない様子でいらっしゃるのだろうと思いやりなさって、長雨で築地があちこち崩れてなどとお聞きになるので、京の家司のもとに命じて、近くの国々の荘園の者などを呼び集めて、修理をしてさしあげるようにとおっしゃる。

尚侍の君は、世間の物笑いになって、ひどくふさぎこんでいらっしゃるのを、大臣(右大臣)がたいそうかわいがっていらっしゃる娘なので、しきりに大后にも申し上げ、帝にも奏上なさったので、帝も、決まった身分のある女御や御息所でもいらっしゃらず、公的な宮仕えなのだからとお考えになった。

また、あの憎らしかった源氏のせいで、厳しい処分も出たのであるが、許されて参内なさることになるにつけても、やはり心にしみた源氏のことばかりが、しみじみと思われなさるのだった。七月になって参内なさる。たいそう深かったご寵愛の名残なので、人の非難もお気になさらず、いつものように帝のおそばにずっとお仕えさせなさって、何かと恨みごとをおっしゃりながらも、一方ではしみじみと将来をお約束なさる。

帝のお姿やご容貌も、たいそう優美で美しいが、尚侍の君は、源氏のことを思い出すことばかりが多いお心の内が、恐れ多いことである。管絃の遊びのついでに、帝は「あの人がいないのは、たいそう物足りないなあ。まして、そう思う人は多いことだろう。何事にも光がない気持ちがすることよ」とおっしゃって、「院がお心にかけておっしゃったお気持ちに背いてしまったなあ。罪を受けることだろう」と言って涙ぐまれるので、尚侍の君もこらえきれない。

帝は「世の中は、生きているにつけても、つまらないものだと思い知るにつれて、長くこの世に生きていようとはまったく思わない。そうなったら、あなたはどうお思いになるだろう。近ごろ別れた源氏のことより軽く思われるとしたら、くやしいことだ。『生ける世に』とは、本当によくない人が言い残した歌だろう」と、たいそうやさしいご様子で、物事を本当にしみじみと思いつめておっしゃるにつけて、尚侍の君の涙がほろほろとこぼれ出たので、「そらごらん、どちらのために落ちる涙だろうか」とおっしゃる。

「今まで皇子がいないのが物足りないことだ。東宮を院がおっしゃったように大切に思っているが、よくないことも起こるようなので心苦しくて」など、帝のお心とは違うように政治を動かしていく人々があるので、若いお心の強いところのないご性格で、お気の毒にお思いになることも多かった。

意訳

伊勢の六条御息所からも、心のこもった文と歌が届く。源氏は、御息所を疎んじたことを悔やみ、使者を引きとめて伊勢の話を聞き、返歌を送る。花散里からの歌に、源氏は邸の修理を命じる。

朧月夜は右大臣のとりなしで許され、七月に再び宮中に上がる。朱雀帝は朧月夜を変わらず寵愛しながら、源氏のいない寂しさを語り、院の遺言に背いたことを悔やむ。帝のやさしさに、朧月夜は涙する。

語釈・文法注

伊勢の宮
伊勢の斎宮のもとにいる六条御息所。娘の斎宮とともに伊勢に下っていた。
生ける世に
「恋ひ死なむ後は何せむ生ける日のためこそ人は見まくほしけれ」(拾遺集)などによる表現とされる。生きている間の逢瀬こそ大切だ、という歌。

文法

反実仮想の「ましかば…まし」(思ひ給へらましかば…したひ聞えまし)
「もしそう思っていたならば、お慕いしてついて行っただろうに」。
疑問の「にか」(いづれにおつるにか)
「どちらのために落ちる涙だろうか」。下に「あらむ」が省略されている。

和歌

うきめかるいせをの海士を思ひやれもしほたるてふ須磨の浦にて

詠者
六条御息所
状況
伊勢から須磨の源氏に送った歌。浮き海布(つらい目)を刈る伊勢の海人(私)を思いやってください。藻塩たれるという須磨の浦で。

修辞

掛詞
「うきめ」に「浮き海布」と「憂き目」、「いせを」に「伊勢を」と「伊勢男(海人)」をかける。

伊勢島やしほひのかたにあさりてもいふかひなきは我身なりけり

詠者
六条御息所
状況
同じ文に添えた歌。伊勢の島の干潟で、あさっても貝がないように、言うかいもないのは私の身の上でした。

修辞

掛詞
「かひ」に「貝」と「甲斐」をかける。

伊勢人の浪のうへ漕ぐ小舟にもうきめはかれでのらましものを

詠者
光源氏
状況
御息所への返歌。伊勢の人が波の上を漕ぐ小舟にでも、浮き海布を刈るような憂き目を見ずに乗って、ついて行けばよかったのに。

あまがつむなげきの中にしほたれていつまで須磨の浦とながめむ

詠者
光源氏
状況
同じく御息所への返歌。海人が積む投げ木(嘆き)の中で涙に濡れて、いつまで須磨の浦を眺めて暮らすのだろう。

修辞

掛詞
「なげき」に「嘆き」と「投げ木(薪)」、「ながめ」に「眺め」と「長雨」をかける。

荒れまさる軒のしのぶをながめつゝしげくも露のかゝる袖かな

詠者
花散里
状況
須磨の源氏に送った歌。荒れていく軒の忍ぶ草を眺めながら、しきりに涙の露がかかる袖であることよ。

修辞

掛詞
「しのぶ」に「忍ぶ草」と、源氏を「偲ぶ」をかける。

解説

須磨の源氏と伊勢の御息所との文通は、同じく都を離れた者どうしの共感に満ちている。源氏は、御息所を疎んじて伊勢へ去らせたことを悔やむ。

朱雀帝が朧月夜に語る言葉には、帝の優しさと弱さがよく表れている。帝は源氏と朧月夜の関係を知りながら朧月夜を愛し、源氏を追いやったことを悔やんでいる。朧月夜の涙が「いづれにおつるにか」と問う帝の言葉には、深い哀感がある。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、244–247頁(コマ125–126)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日