源氏物語 第12帖 須磨(7)
紫の上との別れと須磨への旅
出立の夜明け前、源氏は紫の上を端近に誘い、月影の中で別れの歌を交わす。源氏は船に乗り、追風を受けてその日の午後には須磨に着く。大江殿の荒れた跡を過ぎ、行平の中納言が住んだという地の近くに、葦葺きの廊などのある趣のある住まいを設ける。源氏は、話し相手もいない見知らぬ国にいるような寂しさを感じる。

- 1そのそのその日日ひははは女君女君おんなぎみににに御御おん物語物語ものがたりのどやかのどやかのどやかににに聞聞きこえええ暮暮くらししし給給たまひひいててて、、、例例れいののの夜夜よ深深ふかくくく出出いででで給給たまふふう。。。假假かりののの御御おんぞぞぞなどなどなど旅旅たびののの御御おんよそひよそひよそいいたくいたくいたくやつしやつしやつし給給たまひひいててて
- 2「「「月月つき出出いでででにににけりけりけりななな、、、猶猶なお少少すこししし出出いでゝでゝでて見見みだにだにだに送送おくりりり給給たまへへえかしかしかし。。。いかにいかにいかに聞聞きこゆゆゆべきべきべき事事こと多多おおくくくつもりつもりつもりにににけりけりけりとととのみのみのみおぼえおぼえおぼえむむんとととすすすらむらむらん。。。一日一日ひとひ二日二日ふつかたまさかたまさかたまさかににに隔隔へだつるつるつる折折おりだにだにだに怪怪あやしうしうしゅういぶせきいぶせきいぶせき心地心地ここちするするするものものものををを」」」とととててて御簾御簾みすまきまきまき上上あげげげててて端端はしののの方方かたにににいざなひいざなひいざない聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、
- 3女君女君おんなぎみ泣泣なきききしづみしづみしずみ給給たまへへえるるる、、、ためらひためらひためらいてててゐざりゐざりいざり出出いででで給給たまへへえるるる。。。月影月影つきかげにににいみじういみじういみじゅうをかしげをかしげおかしげにてにてにて居居い給給たまへへえりりり。。。我我わががが身身みかくかくかくてててはかなきはかなきはかなき世世よををを別別わかれれれなななばばばいかなるいかなるいかなるさまさまさまにににさすらひさすらひさすらい給給たまははわむむんととと後後うしろめたくめたくめたく悲悲かなしけれしけれしけれどどど、、、
- 4おぼしおぼしおぼしいりいりいりたるたるたるがががいとゞしかるいとゞしかるいとどしかるべけれべけれべければばば、、、「「「いけいけいけるるる世世よのののわかれわかれわかれををを知知しらららででで契契ちぎりりりつゝつゝつつ命命いのちををを人人ひとにににかぎりかぎりかぎりけるけるけるかなかなかな。。。はかなしはかなしはかなし」」」などなどなどあさはかあさはかあさはかににに聞聞きこえええなしなしなし給給たまへへえばばば、、、「「「をしからをしからおしからぬぬぬ命命いのちにににかへかへかへててて目目めののの前前まえのののわかれわかれわかれをををしばししばししばしとゞめとゞめとどめてててしがしがしがななな」」」。。。
- 5げにげにげにさぞさぞさぞおぼさるおぼさるおぼさるらむらむらんととといといといと見見み捨捨すててて難難がたけれけれけれどどど、、、明明あけけけはてはてはてなななばばばはしたなかるはしたなかるはしたなかるべきべきべきににによりよりより急急いそぎぎぎ出出いででで給給たまひひいぬぬぬ。。。道道みちすがらすがらすがら面影面影おもかげにににつとつとつとそひそひそいててて胸胸むねもももふたがりふたがりふたがりながらながらながら御船御船みふねににに乘乘のりりり給給たまひひいぬぬぬ。。。
- 6日日ひ長長ながききき頃頃ころなれなれなればばば、、、追風追風おいかぜさへさへさへそひそひそいてててまだまだまだ申申さるののの時時ときばかりばかりばかりにににかのかのかの浦浦うらににに着着つききき給給たまひひいぬぬぬ。。。かりそめかりそめかりそめののの道道みちにてにてにてもももかゝるかゝるかかる旅旅たびをををならひならひならい給給たまははわぬぬぬ心地心地ここちににに心心こころぼそさぼそさぼそさもももをかしさをかしさおかしさもももめづらかめづらかめずらかなりなりなり。。。
- 7おほえおほえおおえととと言言いひひいけるけるける所所ところははは、、、いたくいたくいたく荒荒あれれれててて松松まつばかりばかりばかりぞぞぞしるししるししるしなりなりなりけるけるける。。。「「「からからから國國くにににに名名なをををのこしのこしのこしけるけるける人人ひとよりよりよりもももゆくへゆくへゆくえ知知しららられれれぬぬぬ家居家居いえいをををやややせせせむむん」」」
- 8渚渚なぎさににに寄寄よるるる浪浪なみのののかつかつかつ返返かえるるるををを見見み給給たまひひいててて「「「うらやましくうらやましくうらやましくもももととと打打うちちちずんじずんじずんじ給給たまへへえるるるさまさまさま、、、さるさるさる世世よのののふるごとふるごとふるごとなれなれなれどもどもども珍珍めずらしくしくしく聞聞ききききなさなさなされれれ、、、悲悲かなしししとととのみのみのみ御供御供ともののの人々人々びと思思おもへへえりりり、、、
- 9うちうちうち顧顧かえりみみみ給給たまへへえるるるににに、、、來來こししし方方かたののの山山やまははは霞霞かすみはるかはるかはるかにてにてにて誠誠まことににに三千里三千里さんぜんりののの外外ほかののの心地心地ここちするするするにににかいかいかいののの雫雫しずくももも堪堪たへへえがたしがたしがたし。。。「「「ふるふるふる里里さとををを峯峯みねのののかすみかすみかすみはははへだつれへだつれへだつれどどどながむるながむるながむる空空そらはははおなじおなじおなじ雲井雲井くもいかかか」」」つらからつらからつらからぬぬぬものものものなくなくなくなむなむなん。。。
- 10おはすおはすおわすべきべきべき所所ところははは行平行平ゆきひらののの中納言中納言ちゅうなごんのののもしほもしほもしおたれたれたれつゝつゝつつわびわびわびけるけるける家居家居いえい近近ちかきききわたりわたりわたりなりなりなりけりけりけり。。。海海うみづらづらづらはははやゝやゝやや入入いりりりてててあはれあはれあわれににに心心こころすごけすごけすごけなるなるなる山中山中やまなかなりなりなり。。。
- 11垣垣かきのののさまさまさまよりよりより始始はじめめめててて珍珍めずらからからかににに見見み給給たまふふう。。。茅屋茅屋かややどもどもども葦葦あしふけるふけるふける廊廊ろうめくめくめくやややなどなどなどをかしうをかしうおかしゅうしつらひしつらひしつらいなしなしなしたりたりたり。。。所所ところにににつけつけつけたるたるたる御御おん住住すまひまひまいやうやうよう變變かわりりりててて、、、かゝるかゝるかかる折折おりならならならずずずばばばをかしうをかしうおかしゅうもももありありありなななましましましととと昔昔むかしののの御心御心みこころのののすさびすさびすさびおぼしおぼしおぼしいづいづいず。。。
- 12近近ちかききき所々所々ところどころのののみさうみさうみそうののの司司つかさ召召めしししててて、、、さるべきさるべきさるべき事事ことどもどもどもなどなどなど良淸良淸よしきよののの朝臣朝臣あそんなどなどなど親親したしきしきしきけいしけいしけいしにてにてにて仰仰おおせせせ行行おこなふふうもももあはれあはれあわれなりなりなり。。。時時ときのののまままにににいといといと見所見所みどころありありありてててしししなさなさなさせせせ給給たまふふう。。。水水みず深深ふこううう遣遣やりりりなしなしなし植木植木うえきどもどもどもなどなどなどしししててて、、、今今いまはははとととしづまりしづまりしずまり給給たまふふう心心こころちちちうつゝうつゝうつつならならならずずず。。。
- 13國國くにののの守守かみももも親親したしきしきしき殿人殿人とのびとなれなれなればばば忍忍しのびびびててて心心こころよせよせよせ仕仕つこうううまつるまつるまつる。。。かゝるかゝるかかる旅所旅所たびどころととともももなくなくなく人人ひとさわがしけれさわがしけれさわがしけれどもどもども、、、はかばかしくはかばかしくはかばかしく物物ものをををももものたまひのたまひのたまい合合あわすすすべきべきべき人人ひとしししなけれなけれなければばば、、、知知しらららぬぬぬ國國くにののの心地心地ここちしししててていといといとうもれいたくうもれいたくうもれいたく、、、いかでいかでいかで年月年月としつきををを過過すぐさぐさぐさましましましとととおぼしおぼしおぼしやらやらやらるるる。。。
現代語訳
その日は女君(紫の上)にゆっくりとお話し申し上げて日をお暮らしになって、いつものように夜の深いうちにお出かけになる。狩衣など旅のご装束を、たいそう質素になさって、
「月が出たなあ。もう少し端に出て、せめて見送りだけでもしてください。どんなに、申し上げるべきことがたくさん積もってしまったと思うことでしょう。一日二日、たまに離れている時でさえ、妙に気がふさぐ思いがするのに」と言って、御簾を巻き上げて、端の方へお誘い申し上げなさると、
女君は泣き沈んでいらっしゃったのを、気持ちを静めて、膝行して出ていらっしゃった。月の光の中で、たいそう美しい様子で座っていらっしゃる。自分がこうして、はかない世を去ってしまったら、この人はどんなふうにさすらうことになるのだろうと、気がかりで悲しいけれど、
思いつめていらっしゃるのが、いっそうつらくなるだろうから、「生きているうちに別れがあるとは知らずに、命のある限りはあなたと共にと、約束していたことよ。はかないことだ」などと、軽く申し上げなさると、紫の上は「惜しくもない私の命と引き換えにしてでも、目の前の別れを、しばらくでもとどめたいものです」。
本当にそうお思いになっているのだろうと、たいそう見捨てがたいけれど、夜がすっかり明けてしまったら体裁が悪いので、急いでお出になった。道中ずっと、紫の上の面影がぴったりと寄り添って、胸もふさがりながら、お船にお乗りになった。
日の長いころなので、追い風まで加わって、まだ申の時ごろに、あの須磨の浦にお着きになった。ほんのちょっとした道のりでも、このような旅をし慣れていらっしゃらないお気持ちには、心細さも興味深さも、珍しいことである。
大江殿といった所は、ひどく荒れて、松だけがその跡をとどめていた。「唐の国で名を残した人よりも、行方も知れない住まいをすることになるのだろうか」。渚に寄る波が寄せては返すのをご覧になって、「うらやましくも」と口ずさみなさる様子は、言い古された古歌であるけれど、新鮮に聞こえて、お供の人々はただ悲しいとばかり思っている。
振り返ってごらんになると、通ってきた方の山は霞んで遠く、本当に三千里の外に来たような気がして、櫂の雫のような涙もこらえがたい。「故郷の都を峰の霞は隔てているけれど、眺める空は、都の人が見るのと同じ空なのだろうか」。何もかもがつらく思われる。
お住まいになる所は、行平の中納言が「藻塩たれつつ」と嘆いて住んだという家の近くであった。海辺から少し入って、しみじみともの寂しい山中である。垣の様子をはじめとして、珍しくご覧になる。茅葺きの家々や、葦で葺いた廊のような建物などを、趣深くしつらえてある。
所にふさわしいお住まいは、いつもとは様子が違っていて、このような時でなければ、面白くもあっただろうにと、昔のお心の慰みごとを思い出しなさる。近くの荘園の役人を呼んで、しかるべきことなどを、良清の朝臣などが、親しい家司として命じて行わせるのも、しみじみとしている。
たちまちのうちに、たいそう見ごたえのあるように造らせなさる。遣水を深く引き、植木などを植えたりして、いよいよここに落ち着かれるお気持ちは、現実のこととも思われない。摂津の国守も、親しい家人なので、ひそかに好意を寄せてお仕えする。
このような旅の住まいとも思えないほど、人の出入りが多く騒がしいけれど、しっかりと話し合える相手もいないので、知らない国にいるような気持ちがして、たいそう気がふさいで、どうやって年月を過ごしたらよいだろうと思いやられる。
意訳
出立の夜明け前、源氏は紫の上を端近に誘い、月影の中で別れの歌を交わす。紫の上は、命に代えても別れをとどめたいと詠む。源氏は船に乗り、その日の午後には須磨に着く。
源氏は、行平の中納言が住んだという地の近くに、葦葺きの廊などのある住まいを設ける。国守もひそかに好意を寄せるが、親しく語り合える相手もなく、源氏は異国にいるような寂しさを感じる。
語釈・文法注
- おほえ殿
- 大江殿(おおえどの)。淀川の河口近くにあった、斎宮の帰京の際などに使われた建物。
- うらやましくも
- 「いとどしく過ぎゆく方の恋しきにうらやましくも返る波かな」(伊勢物語・後撰集)による。都へ返る波をうらやむ。
文法
- 願望の「てしがな」(とゞめてしがな)
- 「とどめたいものだ」。自分の願望を表す。
- 反実仮想の「ずば…まし」(かゝる折ならずばをかしうもありなまし)
- 「このような時でなければ、面白くもあっただろうに」。
和歌
いける世のわかれを知らで契りつゝ命を人にかぎりけるかな
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 出立の夜明け前、月影の中で紫の上に詠んだ歌。生きているうちに別れがあるとは知らずに、命のある限りはあなたと共にと、約束していたことよ。
をしからぬ命にかへて目の前のわかれをしばしとゞめてしがな
- 詠者
- 紫の上
- 状況
- 源氏への返歌。惜しくもない私の命と引き換えにしてでも、目の前の別れを、しばらくでもとどめたいものです。
から國に名をのこしける人よりもゆくへ知られぬ家居をやせむ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 大江殿の荒れた跡を見て詠んだ歌。唐の国で名を残した人(屈原)よりも、行方も知れない住まいをすることになるのだろうか。
ふる里を峯のかすみはへだつれどながむる空はおなじ雲井か
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 須磨へ向かう途中、都の方を振り返って詠んだ歌。故郷の都を峰の霞は隔てているけれど、眺める空は、都の人が見るのと同じ空なのだろうか。
解説
紫の上との別れは、須磨の巻の中でもっとも哀切な場面の一つである。源氏は、紫の上を思いつめさせないよう、わざと軽く歌を詠むが、紫の上は命と引き換えにしてでも別れをとどめたいと答える。
須磨の住まいは、行平の中納言の「わくらばに問ふ人あらば須磨の浦に藻塩たれつつわぶと答へよ」(古今集)の歌をふまえて描かれる。源氏は、流謫の文学の伝統に連なる人物として描かれている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、240–241頁(コマ123)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日