源氏物語 第10帖 賢木(11)
朧月夜の文と法華八講
頭弁のあてこすりに用心して、源氏は朧月夜に便りをしなくなる。初時雨のころ、朧月夜の方から歌が届き、源氏は心をこめて返歌する。十一月一日の桐壺院の国忌に、源氏と藤壺は院をしのぶ歌を交わす。十二月、藤壺は院の一周忌に法華八講を営み、その荘厳さは極楽を思わせるほどであった。

- 1大將大將だいしょうははは頭頭とうののの辨辨べんのののずじずじずじつるつるつることことことををを思思おもふふうににに御心御心みこころのののおにおにおにゝゝに世世よののの中中なか煩煩わずらはしうはしうわしゅうおぼえおぼえおぼえ給給たまひひいててて、、、かんのかんのかんの君君きみにににももも音音おとづれづれづれきこえきこえきこえ給給たまははわででで久久ひさしうしうしゅうなりなりなりにににけりけりけり。。。
- 2初時雨初時雨はつしぐれいつしかいつしかいつしかとととけしきけしきけしきだつだつだつにににいかゞいかゞいかがおぼしおぼしおぼしけむけむけん、、、かれかれかれよりよりより、、、「「「木枯木枯こがらしののの吹吹ふくくくにににつけつけつけつゝつゝつつ待待まちちちしししまままにににおぼつかなさおぼつかなさおぼつかなさのののころころころももも經經へにににけりけりけり」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえりりり。。。
- 3折折おりもももあはれあはれあわれにににあながちあながちあながちににに忍忍しのびびび書書かききき給給たまへへえらららむむん御心御心みこころばへばへばえもももにくからにくからにくからねねねばばば御御おん使使つかいとゞめとゞめとどめさせさせさせ給給たまひひいててて、、、からからからのののかみかみかみどもどもども入入いれれれさせさせさせ給給たまへへえるるるみみみ厨子厨子ずしあけあけあけさせさせさせ給給たまひひいててて、、、なべてなべてなべてならならならぬぬぬをををえりえりえり出出いでででつゝつゝつつ筆筆ふでなどなどなどももも心心こころことことことににに引引ひきききつくろひつくろひつくろい給給たまへへえるるる氣色氣色けしきえんえんえんなるなるなるををを、、、おまへおまへおまえなるなるなる人々人々びと誰誰たればかりばかりばかりならならならむむんとととつきつきつきじろふじろふじろう。。。
- 4「「「聞聞きこえええさせさせさせてててももも、、、かひかひかいなきなきなきものごりものごりものごりにににこそこそこそ無下無下むげにににくづほれくづほれくずおれにににけれけれけれ、、、身身みのみのみのみものものものうさうさうさほどほどほどににに、、、あひあひあい見見みずずずてててしのぶるしのぶるしのぶるころころころののの淚淚なみだをををもももなべてなべてなべてののの秋秋あきのののしぐれしぐれしぐれとととややや見見みるるる。。。心心こころののの通通かよふふうならならならばばばいかにいかにいかにながめながめながめののの空空そらももも物物もの忘忘わすれれれししし侍侍はべらららむむん」」」などなどなどこまやかこまやかこまやかににになりなりなりにににけりけりけり。。。
- 5かやうかやうかようににに驚驚おどろかししし聞聞きこゆるゆるゆるたぐひたぐひたぐい多多おおかかかめれめれめれどどどなさけなからなさけなからなさけなからずずずうちうちうち返返かえりりりごちごちごち給給たまひひいててて御心御心みこころにににははは深深ふこうううしましましまざるざるざるべしべしべし。。。
- 6中宮中宮ちゅうぐうははは院院いんののの御御おんはてはてはてののの事事ことにににうちうちうちつゞきつゞきつづき御御おんのののいそぎいそぎいそぎをををさまざまさまざまさまざまににに心心こころづかひづかひづかいせせせさせさせさせ給給たまひひいけりけりけり。。。しもしもしも月月つきのののついたちついたちついたちごろごろごろみこみこみこなるなるなるににに雪雪ゆきいたういたういとう降降ふりりりたりたりたり。。。
- 7大將殿大將殿だいしょうどのよりよりより宮宮みやににに聞聞きこえええ給給たまふふう。。。「「「別別わかれれれにににしししけふけふきょうはははくれくれくれどもどもども見見みししし人人ひとににに行行ゆきききあふあふあうほどほどほどをををいついついつとととたのまたのまたのまむむん」」」。。。いづこいづこいずこにににももも今日今日きょうははは物物もの悲悲がなしうしうしゅうおぼさるゝおぼさるゝおぼさるるほどほどほどにてにてにて御御おんかへりかへりかえりありありあり「「「ながらふるながらふるながらうる程程ほどはははうけれうけれうけれどどど行行ゆきききめぐりめぐりめぐり今日今日きょうはははそのそのその世世よににに逢逢あふふう心心こころちちちしししててて」」」
- 8殊殊ことにににつくろひつくろひつくろいてててもももあらあらあらぬぬぬ御御おん書書かきききざまざまざまなれなれなれどどどあてあてあてにににけけけ高高だかきききははは思思おもひひいなしなしなしなるなるなるべしべしべし。。。すぢすぢすじかはりかはりかわり今今いまめかしうめかしうめかしゅうはははあらあらあらねねねどどど人人ひとにににはははことことことににに書書かかかかせせせ給給たまへへえりりり。。。今日今日きょうはははこのこのこの御御おん事事ことももも思思おもひひいけちけちけちてててあはれあはれあわれなるなるなる雪雪ゆきののの車車くるまにににぬれぬれぬれぬれぬれぬれ行行おこなひひい給給たまふふう。。。
- 9しはすしはすしわす十餘日十餘日じゅうよにちばかりばかりばかり中宮中宮ちゅうぐうののの御御おんはかうはかうはっこうなりなりなり。。。いみじういみじういみじゅうたふとしたふとしとうとし。。。日々日々ひびににに供養供養くようせせせさせさせさせ給給たまふふう。。。御御おん經經きょうよりよりよりはじめはじめはじめ玉玉たまののの軸軸じく羅羅らののの表紙表紙ひょうしのののかぎりかぎりかぎりももも世世よににになきなきなきさまさまさまにににとゝのへとゝのへととのえさせさせさせ給給たまへへえりりり。。。
- 10さらさらさらぬぬぬことことことののの淸淸きよらららだにだにだによよよのののつねつねつねならならならずずずおはしませおはしませおわしませばばばましてましてましてことわりことわりことわりなりなりなり。。。佛佛ほとけののの御御おんかざりかざりかざり花机花机はなづくえのののおほひおほひおおいなどなどなどまでまでまでまことまことまことののの極樂極樂ごくらく思思おもひひいやらやらやらるるる。。。
- 11初初はじめののの日日ひははは先帝先帝せんだいののの御御おんれうれうりょう、、、次次つぎののの日日ひははは母母ははきさききさききさきののの御御おんためためため、、、又又またののの日日ひははは院院いんののの御御おんれうれうりょう、、、五卷五卷ごかんののの日日ひなれなれなればばば上達部上達部かんだちめなどなどなどももも世世よのののつゝましさつゝましさつつましさをををえええしもしもしも憚憚はばかりかりかり給給たまははわでででいといといとあまたあまたあまた參參まいりりり給給たまへへえりりり。。。
- 12今日今日きょうのののははは心心こころことことことにににえらえらえらせせせ給給たまへへえばばばたきゞたきゞたきぎこるこるこる程程ほどよりよりよりうちうちうち初初はじめめめ、、、同同おなじうじうじゅういふいふいう言言ことののの葉葉はもももいみじういみじういみじゅうたうとしたうとしとうとし。。。御子御子みこたちたちたちももも、、、樣々樣々さまざまのののほうもちほうもちほうもち捧捧ささげげげてててめぐりめぐりめぐり給給たまふふうににに大將殿大將殿だいしょうどのののの御御おん用意用意よういなどなどなど猶猶なお似似にるるるものものものなしなしなし。。。
- 13常常つねににに同同おなじじじことことことのののやうやうようなれなれなれどもどもども見見み奉奉たてまつるるる度度たびごとごとごとににに珍珍めずらしからしからしからむむんをををばばばいかゞいかゞいかがはははせせせむむん。。。
現代語訳
大将は、頭弁が口ずさんだことを思うと、良心がとがめて、世の中が面倒に思われなさって、尚侍の君にもお便りを差し上げないまま、長くなってしまった。初時雨が早くも降りそうな様子の時に、どうお思いになったのだろうか、尚侍の君の方から、「木枯らしが吹くたびに、あなたの訪れを待っているうちに、気がかりなまま月日も過ぎてしまいました」と申し上げなさった。
折も折、しみじみとして、無理をして忍んでお書きになったのだろうお気持ちもいとしいので、使いを引き止めさせなさって、唐の紙などを入れさせていらっしゃる御厨子を開けさせなさって、並々でない紙を選び出しながら、筆なども格別に心を配っていらっしゃる様子が優美なので、御前にいる女房たちは、どれほどの方へのお手紙だろうかと、つつき合っている。
「申し上げても、そのかいのない懲りごりした思いに、すっかり気がくじけてしまいまして、わが身だけがつらい思いで、逢えないまま恋い忍んでいるこのごろの私の涙も、ありふれた秋の時雨と見ていらっしゃるのでしょうか。心が通い合うのなら、どんなにか物思いに沈む空も、つらさを忘れることでしょう」などと、心のこもったお手紙になった。
このように便りをして気を引こうとする女性は多いようだが、情けなくはなく返事をなさるものの、お心には深くしみないのだろう。
中宮は、院の一周忌のご法事に続いて、御八講の準備を、さまざまにお心づかいなさった。十一月の初めごろ、院の国忌の日に、雪がひどく降った。大将殿から中宮に申し上げなさる。「院とお別れした日が今年もめぐってきたけれど、お会いした院に再び行き会える時を、いつと頼みにしたらよいのでしょう」。
どなたも、今日はもの悲しくお思いになっている時なので、ご返事がある。「生きながらえている間はつらいけれど、めぐりめぐって今日は、あの院のご在世に逢うような気持ちがします」。特につくろってもいないお書きぶりであるが、上品で気高く見えるのは、思いなしだろう。筆跡の筋は風変わりで当世風ではないが、人とは格別にお書きになった。今日は、中宮へのお気持ちも抑えて、しみじみとした雪の雫に濡れながら、勤行をなさる。
十二月十日過ぎごろに、中宮の御八講である。たいそう尊い。毎日、供養をおさせになる。お経をはじめとして、玉の軸、羅の表紙、帙簀の飾りまで、世にまたとない様子に整えさせなさった。ちょっとしたことの美しさでさえ、並々でなくていらっしゃるので、まして(この御八講は)もっともなことである。仏のお飾りや、花机の覆いなどまで、本当の極楽が思いやられる。
初日は先帝(藤壺の父)のため、次の日は母后のため、その次の日は院のため、五巻の日なので、上達部なども、世の中への遠慮もはばかりきれずに、たいそう大勢参上なさった。今日の講師は特に念を入れてお選びになったので、「薪こる」のくだりから始めて、同じように言う言葉も、たいそう尊い。親王たちも、さまざまな捧げ物を捧げて巡りなさるが、大将殿のお心づかいなどは、やはり比べるものがない。いつも同じことのようだが、拝見するたびに珍しく思われるのを、どうしようもない。
意訳
頭弁のあてこすりに用心して、源氏は朧月夜に便りをしなくなる。朧月夜の方から歌が届くと、源氏は心をこめて返歌する。しかし源氏の心には、数多い恋文のどれも深くはしみない。
桐壺院の国忌の日、源氏と藤壺は院をしのぶ歌を交わす。十二月、藤壺は院の一周忌の法華八講を営む。その荘厳さは極楽を思わせるほどで、多くの上達部が大后方への遠慮を忘れて参列する。
語釈・文法注
- 八講
- 法華八講(ほっけはっこう)。法華経八巻を、朝夕一巻ずつ四日間で講説する法会。
- みこ忌
- 御国忌(みこき)。天皇や上皇の命日に行う仏事。ここでは桐壺院の一周忌。
- ぢす
- 帙簀(ちす)。経巻を包む竹のすだれ状の覆い。
- かうじ
- 講師(こうじ)。法会で経典を講説する僧。
文法
- 疑問の「や…見る」(しぐれとや見る)
- 「時雨と見ているのか」。相手の心を問う形で、自分の思いを訴える。
- 反語の「いかゞはせむ」
- 「どうしようか、どうしようもない」。
和歌
木枯の吹くにつけつゝ待ちしまにおぼつかなさのころも經にけり
- 詠者
- 朧月夜
- 状況
- 便りの途絶えた源氏に、朧月夜の方から送った歌。木枯らしが吹くたびに、あなたの訪れを待っているうちに、気がかりなまま月日も過ぎてしまいました。
あひ見ずてしのぶるころの淚をもなべての秋のしぐれとや見る
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 朧月夜への返歌。逢えないまま恋い忍んでいるこのごろの私の涙も、ありふれた秋の時雨と見ていらっしゃるのでしょうか。
別れにしけふはくれども見し人に行きあふほどをいつとたのまむ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 桐壺院の国忌の日、雪の中で藤壺に贈った歌。院とお別れした日が今年もめぐってきたけれど、お会いした院に再び行き会える時を、いつと頼みにしたらよいのでしょう。
ながらふる程はうけれど行きめぐり今日はその世に逢ふ心ちして
- 詠者
- 藤壺
- 状況
- 源氏への返歌。生きながらえている間はつらいけれど、めぐりめぐって今日は、あの院のご在世に逢うような気持ちがします。
解説
源氏は頭弁のあてこすりを恐れて朧月夜を避けるが、朧月夜の方から歌を贈ってくる。危険を承知で忍んで手紙を書く朧月夜の情熱と、それに応える源氏の恋は、やがて大きな破局を招くことになる。
藤壺の法華八講は、物語の中でも特に荘厳に描かれる。五巻の日に「薪こる」と唱えるのは、法華経第五巻の提婆達多品にちなむ。この八講の果ての日に、藤壺は誰にも知らせず出家を遂げる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、214–217頁(コマ109–110)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日