源氏物語 第10帖 賢木(8)
藤壺の出家の決意と東宮
源氏は藤壺に思い知らせようと、便りも絶って二条院に引きこもる。藤壺は、源氏の思いが続けば東宮のためにならないと案じ、大后の憎しみも思い合わせて、出家を決意する。その前に、ひそかに東宮を訪ねる。藤壺が姿を変えてもよいかと尋ねると、幼い東宮は無邪気に答える。東宮は源氏にそっくりで、藤壺はそれを玉の瑕と思う。

- 1いづこいづこいずこをををおもておもておもてにににかかかははは又又またももも見見みえええ奉奉たてまつらららむむん、、、いとほしいとほしいとおしとととおぼしおぼしおぼし知知しるるるばかりばかりばかりとととおぼしおぼしおぼしててて御御おん文文ふみももも聞聞きこえええ給給たまははわずずずうちうちうち絕絕たえええててて內內うち、、、春宮春宮とうぐうにににももも參參まいりりり給給たまははわずずず、、、籠籠こもりりりおはしおはしおわしててて起起おききき臥臥ふしししいみじかりいみじかりいみじかりけるけるける人人ひとののの御心御心みこころかなかなかなととと人人ひとわろくわろくわろく戀戀こいしうしうしゅう悲悲かなしきしきしきににに心心こころだましひだましひだましいももも失失うせせせにににけるけるけるにににややや惱惱なやましうしうしゅうさへさへさへおぼさるおぼさるおぼさる。。。
- 2物物もの心心こころ細細ぼそくくくなぞなぞなぞややや世世よにににふれふれふればばばうさうさうさこそこそこそまされまされまされとととおぼしおぼしおぼし立立たつつつにににははは、、、このこのこの女君女君おんなぎみのののいといといとらうたげらうたげろうたげにてにてにてあはれあはれあわれにににうちうちうち頼頼たのみみみ聞聞きこえええ給給たまへへえるるるををを振振ふりりり捨捨すてててむむんととといといといとかたしかたしかたし。。。
- 3宮宮みやもももそのそのその名殘名殘なごり例例れいにににもももおはしまさおはしまさおわしまさずずず、、、かうかうこうことさらことさらことさらめきめきめきててて籠籠こもりりり居居い音音おとづれづれづれ給給たまははわぬぬぬををを命婦命婦みょうぶなどなどなどはははいとほしがりいとほしがりいとおしがり聞聞きこゆゆゆ。。。
- 4宮宮みやももも春宮春宮とうぐうののの御御おんためためためをををおぼすおぼすおぼすにににははは御心御心みこころ置置おききき給給たまははわむむんことことこといとほしくいとほしくいとおしく世世よをををあぢきなきあぢきなきあじきなきものものものににに思思おもひひいなりなりなり給給たまははわゞゞばひたみちひたみちひたみちにににおぼしおぼしおぼし立立たつつつことことこともももやややととと、、、さすがさすがさすがににに苦苦くるしうしうしゅうおぼさるおぼさるおぼさるべしべしべし。。。
- 5かゝるかゝるかかることことこと絕絕たえええずずずばばばいとゞしきいとゞしきいとどしき世世よにににうきうきうき名名なさへさへさへもりもりもり出出いでででなななむむん、、、大大おおきさききさききさきのののあるあるあるまじきまじきまじきことことことにににのたまふのたまふのたまうなるなるなる位位くらいをををももも去去さりりりなななむむんととと、、、やうやうやうやうようようおぼしおぼしおぼしなるなるなる。。。
- 6院院いんのののおぼしおぼしおぼしのたまはせのたまはせのたまわせしししさまさまさまのののなのめなのめなのめならならならざりざりざりしししをををおぼしおぼしおぼし出出いづるづるずるにににももも、、、萬萬よろずののの事事ことありありありしししにににもももあらあらあらずずず變變かわりりり行行ゆくくく世世よにににこそこそこそあああめれめれめれ、、、ののの見見みけむけむけんめめめのののやうやうようにににこそこそこそあらあらあらずずずともともとも必必かならず人人ひと笑笑わらへへえなるなるなることことことはははありありありぬぬぬべきべきべき身身みにににこそこそこそあああめれめれめれなどなどなど、、、
- 7疎疎うとましうましうましゅう過過すぐしぐしぐし難難がとうううおぼさるれおぼさるれおぼさるればばば、、、背背そむきききなななむむん事事ことをををおぼしおぼしおぼし取取とるるるににに、、、春宮春宮とうぐう見見み奉奉たてまつらららでででおもかはりおもかはりおもがわりせせせむむんとととあはれあはれあわれにににおぼさるれおぼさるれおぼさるればばば忍忍しのびやかびやかびやかにてにてにて參參まいりりり給給たまへへえりりり。。。
- 8大將大將だいしょうののの君君きみはははさらさらさらぬぬぬ事事ことだにだにだにおぼしおぼしおぼし寄寄よらららぬぬぬ事事ことなくなくなく仕仕つこうううまつりまつりまつり給給たまふふうををを、、、御御おん心地心地ここち惱惱なやましきしきしきにににことづけことづけことづけててて御御おん送送おくりにににももも參參まいりりり給給たまははわずずず。。。大方大方おおかたののの御御おんとぶらひとぶらひとぶらいははは同同おなじじじやうやうようなれなれなれどどど「「「むげにむげにむげにおぼしおぼしおぼしくしくしくしにににけるけるける」」」ととと心心こころしるしるしるどちどちどちはははいとほしがりいとほしがりいとおしがり聞聞きこゆゆゆ。。。
- 9宮宮みやはははいみじういみじういみじゅう美美うつくしうしうしゅうおとなびおとなびおとなび給給たまひひいててて珍珍めずらしうしうしゅう嬉嬉うれしししとととおぼしおぼしおぼしててて、、、むつれむつれむつれきこえきこえきこえ給給たまふふうををを悲悲かなしししととと見見み奉奉たてまつりりり給給たまふふうにににもももおぼしおぼしおぼし立立たつつつすぢすぢすじはははいといといと難難かたげげげなれなれなれどどどうちうちうちわたりわたりわたりををを見見み給給たまふふうにににつけつけつけてててももも世世よののの有樣有樣ありさまあはれあはれあわれにににはかなくはかなくはかなく移移うつりりり變變かわるるることことことのみのみのみ多多おおかりかりかり。。。
- 10大大おおきさききさききさきののの御心御心みこころもももいといといと煩煩わずらはしくはしくわしくててて出出いででで入入いりりり給給たまふふうにににもももはしたなくはしたなくはしたなく事事ことににに觸觸ふれれれててて苦苦くるしけれしけれしければばば、、、宮宮みやののの御御おんためためためにににももも危危あやうくくくゆゝしうゆゝしうゆゆしゅう萬萬よろずにににつけつけつけててておぼしおぼしおぼしみだれみだれみだれててて
- 11「「「御覽御覽ごらんぜぜぜででで久久ひさしからしからしからむむんほどほどほどにににかたちかたちかたちのののことことことざまざまざまにてにてにてうたてげうたてげうたてげににに變變かわりりりててて侍侍はべらららばばばいかゞいかゞいかがおぼさるおぼさるおぼさるべきべきべき」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、御御おん顏顏かおをををうちうちうちまもりまもりまもり給給たまひひいててて「「「式部式部しきぶがががやうやうようにににやややいかでいかでいかでかかかさささはははなりなりなり給給たまははわむむん」」」ととと笑笑えみみみてててのたまふのたまふのたまう。。。
- 12いふかひいふかひいうかいなくなくなくあはれあはれあわれにてにてにて「「「それそれそれははは老老おいいいててて侍侍はべれれればばば醜醜みにくきききぞぞぞ、、、さささはははあらあらあらででで髮髮かみはははそれそれそれよりよりよりももも短短みじかくくくててて黑黑くろききききぬきぬきぬなどなどなどををを着着きててて夜居夜居よいののの僧僧そうのののやうやうようににになりなりなり侍侍はべらららむむんとととすれすれすればばば見見み奉奉たてまつらららむむん事事こともももいとゞいとゞいとど久久ひさしかるしかるしかるべきべきべきぞぞぞ」」」とととててて泣泣なききき給給たまへへえばばば、、、
- 13まめだちまめだちまめだちててて、、、「「「久久ひさしうしうしゅうおはせおはせおわせねねねばばば戀戀こいしきしきしきものものものををを」」」とととててて淚淚なみだのののおつれおつれおつればばば恥恥はずかしかしかしとととおぼしおぼしおぼしてててさすがさすがさすがににに背背そむききき給給たまへへえるるる、、、御御おんぐしぐしぐしはははゆらゆらゆらゆらゆらゆらととと淸淸きよらららにてにてにてまみまみまみののの懷懷なつかしげしげしげににに匂匂におひひい給給たまへへえるるるさまさまさま、、、おとなびおとなびおとなび給給たまふふうまゝまゝままににに唯唯ただかのかのかの御御おん顏顏かおをををぬぎぬぎぬぎすべすべすべ給給たまへへえりりり。。。
- 14御御おん齒齒はののの少少すこししし朽朽くちちちててて口口くちののの內內うち黑黑くろみみみててて笑笑えみみみ給給たまへへえるるるかをりかをりかおり美美うつくしきしきしきははは女女おんなにてにてにて見見み奉奉たてまつらららまほしうまほしうまほしゅう淸淸きよらららなりなりなり。。。いといといとかうかうこうしもしもしも覺覺おぼえええ給給たまへへえるるるこそこそこそ心心こころ憂憂うけれけれけれととと玉玉たまののの瑕瑕きずにににおぼさるゝおぼさるゝおぼさるるももも、、、世世よののの煩煩わずらはしさはしさわしさのののそらそらそら恐恐おそろしうしうしゅうおぼえおぼえおぼえ給給たまふふうなりなりなりけりけりけり。。。
現代語訳
源氏は、どの面を下げてまたお目にかかれようか、気の毒だとお思い知りになるまでと思って、お手紙も差し上げず、すっかり途絶えて、宮中にも東宮にも参上なさらず、引きこもっていらっしゃって、寝ても覚めても、ひどい人のお心だなあと、体裁が悪いほど恋しく悲しいので、魂も抜けてしまったのだろうか、気分まで悪くお感じになる。
何となく心細く、なぜか、世に生きているとつらさがまさるばかりだと、出家を思い立ちなさるにつけては、この女君(紫の上)が、たいそういじらしく、しみじみと頼りにし申し上げていらっしゃるのを、振り捨てるのはたいそう難しい。
中宮も、その名残でいつものご様子でもいらっしゃらない。源氏がこのようにわざとらしく引きこもってお便りもなさらないのを、命婦などは気の毒がり申し上げる。中宮も、東宮のためをお思いになると、源氏がお心を隔てなさるのは困ったことで、源氏が世の中をつまらないものと思うようになったら、ひたすら出家を思い立つこともあろうかと、さすがに苦しくお思いになるのだろう。
こうしたことが絶えなかったら、ただでさえつらい世に、浮き名までも漏れ出てしまうだろう、大后が、あってはならないことと言っていらっしゃるという中宮の位も退いてしまおうと、だんだんとお思いになる。
院がお心にかけておっしゃっていた様子が並々でなかったことを思い出しなさるにつけても、何もかも以前とは違って変わっていく世の中なのだろう、戚夫人が受けたようなひどい目にはあわないとしても、必ず人の物笑いになることはきっとある身の上なのだろうなどと、いとわしく、過ごしがたくお思いになるので、出家しようとご決心なさるが、東宮にお会いしないまま姿を変えるのはと、しみじみとお思いになるので、ひそかに参内なさった。
大将の君は、そうでない時でさえ、行き届かないことなくお仕えなさるのに、ご気分が悪いのを口実にして、お送りにも参上なさらない。一通りのお見舞いは同じようであるが、「すっかりふさぎこんでおしまいになった」と、事情を知る女房たちは気の毒がり申し上げる。
東宮は、たいそうかわいらしく大人びていらっしゃって、珍しくうれしいとお思いになって、まつわりついていらっしゃるのを、中宮は悲しく拝見なさるにつけても、思い立った出家の決心は、たいそう難しそうであるが、宮中の様子をご覧になるにつけても、世の有り様はしみじみとはかなく、移り変わることばかりが多い。
大后のお心もたいそう気がかりで、宮中に出入りなさるにつけても体裁が悪く、事あるごとに苦しいので、東宮のためにも危なく恐ろしく、あらゆることに思い乱れなさって、「長い間お会いしないうちに、私の姿が別の様子に、いやな感じに変わってしまったら、どうお思いになりますか」と申し上げなさると、東宮はお顔をじっと見つめなさって、「式部のように(年をとるの)かな。どうしてそんなふうにおなりになるだろう」と笑っておっしゃる。
言いようもなくいじらしくて、「それは年をとっているから醜いのですよ。そうではなくて、髪はそれよりも短くして、黒い衣などを着て、夜居の僧のようになろうと思うので、お会いすることもいっそう長く途絶えるでしょう」と言ってお泣きになると、
東宮はまじめな顔になって、「長くいらっしゃらないと恋しいのに」と言って涙がこぼれるので、恥ずかしいとお思いになって、さすがに顔をそむけていらっしゃる。御髪はゆらゆらと美しく、目もとがやさしく輝いていらっしゃる様子は、大きくおなりになるにつれて、ただあの方(源氏)のお顔を脱ぎ移したようである。
御歯が少し虫歯で、口の中が黒く見えて笑っていらっしゃる美しさは、女として拝見したいほど美しい。たいそうこれほどまでに似ていらっしゃるのがつらいと、玉の瑕のようにお思いになるのも、世間の噂の煩わしさが、何となく恐ろしくお思いになるからであった。
意訳
藤壺に拒まれた源氏は、便りも絶って引きこもり、出家まで考えるが、紫の上のことを思うと踏み切れない。藤壺は、源氏が世をはかなんで出家すれば東宮の後見がいなくなると案じる。
藤壺は、源氏の思いが続けば東宮の秘密が漏れるおそれがあること、大后から憎まれていることを考え、自ら出家することを決意する。その前に東宮を訪ね、姿を変えることを告げる。幼い東宮の顔は源氏にそっくりで、藤壺はそれを恐ろしく思う。
語釈・文法注
- 戚夫人
- 漢の高祖の寵姫。高祖の死後、正妻の呂后に憎まれて、手足を切られるなどの惨たらしい仕打ちを受けた。藤壺は自分の身を、大后に憎まれる戚夫人になぞらえて恐れている。
文法
- 仮定の「ば」(絕えずば)
- 未然形について「もし絶えなかったならば」。
- 反語の「いかでか…む」(いかでかさはなり給はむ)
- 「どうしてそのようにおなりになるだろうか、いや、ならない」。
解説
藤壺の出家の決意は、源氏から逃れるためだけではない。源氏の思いが続けば、東宮の出生の秘密が漏れる危険がある。また大后に憎まれる中宮の地位にとどまれば、東宮にも害が及ぶ。出家は、母として東宮を守るための選択であった。
東宮と藤壺の対話は、幼い子の無邪気さと母の悲しみとが対照的に描かれた、胸を打つ場面である。東宮が源氏にそっくりであることを「玉の瑕」と思う藤壺の心には、秘密を抱えて生きる母の恐れがこめられている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、206–209頁(コマ105–106)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日