源氏物語 第10帖 賢木(6)
紫の上の幸いと朧月夜との密会
紫の上の幸運を世の人はたたえ、継母の北の方はねたむ。朝顔の姫君は新しい斎院となり、源氏は残念に思う。朱雀帝は気弱で、母后と祖父の右大臣に逆らえない。源氏は、帝が五壇の御修法で謹慎している隙に、朧月夜と細殿で密会する。明け方、宿直の者の声に追われるように帰る源氏の姿を、承香殿の女御の兄の頭中将が目撃していた。

- 1西西にしののの對對たいののの姫君姫君ひめぎみののの御御おん幸幸さいわいををを世世よののの人人ひともももめでめでめで聞聞きこゆゆゆ。。。少納言少納言しょうなごんなどなどなどももも人人ひと知知しれれれずずず故故こ尼上尼上あまうえののの御御おん祈祈いのりのののしるししるししるしととと見見み奉奉たてまつるるる。。。父父ちちみこみこみこももも思思おもふふうさまさまさまににに聞聞きこえええかはしかはしかわし給給たまふふう。。。
- 2むかひむかひむかい腹腹ばらののの限限かぎりなくなくなくとととおぼすおぼすおぼすははははかばかしうはかばかしうはかばかしゅうもももえええあらあらあらぬぬぬにににねたげねたげねたげなるなるなることことこと多多おおくくくてててまゝまゝまま母母ははののの北北きたののの方方かたははは安安やすからからからずずずおぼすおぼすおぼすべしべしべし。。。物語物語ものがたりににに殊更殊更ことさらににに作作つくりりり出出いでででたるたるたるやうやうようなるなるなる御御おん有樣有樣ありさまなりなりなり。。。
- 3齋院齋院さいいんははは御御おんにてにてにておりおりおり居居い給給たまひひいにににしかしかしかばばば、、、朝顏朝顏あさがおののの姫君姫君ひめぎみはははかはりかはりかわりににに居居い給給たまひひいにににききき。。。加茂加茂かものののいつきいつきいつきにににははは、、、ののの居居い給給たまふふうれいれいれい多多おおくくくもももあらあらあらざりざりざりけれけれけれどどどさるべきさるべきさるべき女女おんなみこみこみこやややおはせおはせおわせざりざりざりけむけむけん。。。
- 4大將大將だいしょうののの君君きみ年月年月としつき經經ふれれれどどど猶猶なお御心御心みこころ離離はなれれれ給給たまははわざりざりざりつるつるつるををを、、、かうかうこうすぢすぢすじことことことににになりなりなり給給たまひひいぬれぬれぬればばば口惜口惜くちおしししとととおぼすおぼすおぼす。。。中將中將ちゅうじょうににに音音おとづれづれづれ給給たまふふう事事ことももも同同おなじじじごとごとごとにてにてにて御御おん文文ふみなどなどなどははは絕絕たえええざるざるざるべしべしべし。。。昔昔むかしににに變變かわるるる御御おん有樣有樣ありさまなどなどなどをををばばば殊殊ことににに何何なにととともももおぼしおぼしおぼしたらたらたらずずず、、、かやうかやうかようのののはかなしはかなしはかなし事事ごとどもどもどもををを、、、紛紛まぎるゝるゝるることことことなきなきなきまゝまゝままににに此方彼方此方彼方こなたかなたとととおぼしおぼしおぼし惱惱なやめめめりりり。。。
- 5帝帝みかどははは院院いんののの御御おんゆゐごんゆゐごんゆいごん違違たがへへえずずずあはれあはれあわれにににおぼしおぼしおぼしたれたれたれどどど若若わこうううおはしますおはしますおわしますうちうちうちにににももも御心御心みこころなよびなよびなよびたるたるたる方方かたににに過過すぎぎぎててて强强つよさささ所所ところおはしまさおはしまさおわしまさぬぬぬなるなるなるべしべしべし。。。母母ははきさききさききさきおほきおほきおおきおとゞおとゞおとどとりどりとりどりとりどりにににししし給給たまふふうことことことはははえええ背背そむききき給給たまははわずずず。。。代代よのののまつりごとまつりごとまつりごと御心御心みこころにににかなはかなはかなわぬぬぬやうやうようなりなりなり。。。
- 6煩煩わずらはしさはしさわしさのみのみのみ增增まされれれどどどかんのかんのかんの君君きみははは人人ひと知知しれれれぬぬぬ御御おん心心こころざしざしざし通通かよへへえばばば、、、わりなくわりなくわりなくてててもももおぼつかなくおぼつかなくおぼつかなくはははあらあらあらずずず。。。五壇五壇ごだんのののみずみずみずのののはじめはじめはじめにてにてにて愼愼つつしみみみおはしますおはしますおわしますひまひまひまををを伺伺うかがひひいててて例例れいののの夢夢ゆめのののやうやうようににに聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 7かのかのかの昔昔むかしおぼえおぼえおぼえたるたるたる細殿細殿ほそどのののの局局つぼねににに、、、中納言中納言ちゅうなごんののの君君きみまぎらはしまぎらはしまぎらわしててて入入いれれれ奉奉たてまつりりりたりたりたり。。。人人ひとめめめももも繁繁しげききき頃頃ころなれなれなればばば常常つねよりよりよりももも端近端近はしぢかなるなるなるをををそらそらそらおそろしうおそろしうおそろしゅうおぼゆおぼゆおぼゆ。。。
- 8朝夕朝夕あさゆうににに見見み奉奉たてまつるるる人人ひとだにだにだに飽飽あかかかぬぬぬ御御おんさまさまさまなれなれなればばばましてましてまして珍珍めずらしきしきしき程程ほどにににのみのみのみあるあるある御御おんたいめたいめたいめのののいかでいかでいかでかかかはははおろかおろかおろかならならならむむん。。。女女おんなののの御御おんさまさまさまもももげにげにげにぞぞぞめでたきめでたきめでたき御御おん盛盛さかりなるなるなる。。。おもりかおもりかおもりかなるなるなるかたかたかたはははいかゞいかゞいかがあらあらあらむむん、、、をかしうをかしうおかしゅうなまめきなまめきなまめきわかびわかびわかびたるたるたる心心こころちちちしししててて見見みまほしきまほしきまほしき御御おんけはひけはひけわいなりなりなり。。。
- 9程程ほどなくなくなく明明あけけけゆくゆくゆくにににやややととと覺覺おぼゆるゆるゆるににに「「「唯唯ただこゝこゝここにににしもしもしもとのゐとのゐとのい申申もうししし侍侍さぶらふふう」」」とととこわづくるこわづくるこわづくるなりなりなり。。。又又またこのこのこのわたりわたりわたりにににかくろへかくろへかくろえたるたるたる近衛司近衛司こんえづかさぞぞぞあるあるあるべきべきべき。。。腹腹はら穢穢ぎたなきききかたかたかたののの敎敎おしへへへおこするおこするおこするぞぞぞかしかしかしととと大將大將だいしょうははは聞聞きききき給給たまふふう。。。をかしきをかしきおかしきものものものからからからわづらはしわづらはしわずらわし。。。
- 10此處彼處此處彼處ここかしこ尋尋たずねねねありきありきありきててて「「「寅寅とらひとつひとつひとつ」」」ととと申申もうすすすなりなりなり。。。女君女君おんなぎみ、、、「「「心心こころからからからかたがたかたがたかたがた袖袖そでをををぬらすぬらすぬらすかなかなかなあくあくあくとととをしふるをしふるおしうる聲聲こえにににつけつけつけてててももも」」」とととのたまふのたまふのたまうさまさまさま、、、はかなだちはかなだちはかなだちててていといといとをかしをかしをかし。。。
- 11「「「なげきなげきなげきつゝつゝつつ我身我身わがみはははかくかくかくててて過過すぐせぐせぐせとととやややむねむねむねのののあくあくあくべきべきべき時時ときぞぞぞととともももなくなくなく」」」しづしづしず心心こころなくなくなくててて出出いででで給給たまひひいぬぬぬ。。。
- 12夜夜よ深深ふかききき曉曉あかつきづくづくずく夜夜よのののえもえもえもいはいはいわずずずきりきりきり渡渡わたれれれるるるにににいといといといたういたういとう窶窶やつれれれてててふるまひふるまひふるまいなしなしなし給給たまへへえるるるしもしもしも似似にるるる物物ものなきなきなき御御おん有樣有樣ありさまにてにてにて、、、じようきやうじようきやうじょうきょうののの御御おんせうとせうとしょうとののの頭中將頭中將とうのちゅうじょう、、、藤壺藤壺ふじつぼよりよりより出出いでゝでゝでて月月つきののの少少すこししし隈隈くまあるあるある立部立部たてじとみのののもともともとににに立立たてててりりりけるけるけるををを知知しらららででで過過すぎぎぎ給給たまひひいけむけむけんこそこそこそいとほしけれいとほしけれいとおしけれ。。。もどきもどきもどき聞聞きこゆるゆるゆるやうやうようもももありありありなななむむんかしかしかし。。。
- 13かやうかやうかようのののことことことにににつけつけつけてててももももてもてもてはなれはなれはなれつれなきつれなきつれなき人人ひとののの御心御心みこころをををかつはかつはかつわめでたしめでたしめでたしととと思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまふふうものものものからからから我我わ心心こころのののひくひくひく方方かたにてにてにてははは猶猶なおつらうつらうつろう心心こころ憂憂うしししととと覺覺おぼえええ給給たまふふう折折おり多多おおかりかりかり。。。
現代語訳
西の対の姫君(紫の上)のご幸運を、世の人もほめそやし申し上げる。少納言なども、ひそかに、亡き尼君のご祈祷のおかげだと拝見する。父宮も思いどおりにお便りを交わしていらっしゃる。正妻腹のこの上なく大切にお思いの姫君たちは、それほど思わしくもいかないうえに、ねたましいことが多くて、継母の北の方は穏やかでなくお思いなのだろう。物語にわざわざ作り出したようなご様子である。
斎院は、院の喪に服して退下なさったので、朝顔の姫君が代わりに斎院にお立ちになった。賀茂の斎院には、孫王がお立ちになる例は多くもなかったが、ふさわしい皇女がいらっしゃらなかったのだろう。大将の君は、年月がたってもやはりお心が離れなかったのに、このように神に仕える特別な身の上におなりになったので、残念にお思いになる。
姫君の女房の中将に便りをなさることも以前と同じで、お手紙などは絶えないのだろう。昔と変わったご自分の境遇などは、特に何ともお思いにならず、このようなはかない恋の事柄を、気の紛れることもないままに、あちらこちらと思い悩んでいらっしゃる。
帝は、院のご遺言に背かず、源氏をしみじみと大切にお思いになっているが、お若くていらっしゃるうえに、お心がやさしすぎて、強いところがおありにならないのだろう。母后や祖父の大臣が、それぞれになさることには逆らうことがおできにならない。天下の政治は、帝のお心にかなわないようである。
面倒なことばかりがつのるけれど、尚侍の君(朧月夜)は、人知れずお心が通っているので、無理をしても、お便りが途絶えることはない。帝が五壇の御修法の初めで謹慎していらっしゃる隙をうかがって、源氏はいつものように、夢のようにお会いになる。あの昔を思い出させる細殿の局に、中納言の君が人目をごまかしてお入れ申し上げた。
人目も多いころなので、いつもより端近なのを、何となく恐ろしく思う。朝夕に拝見する人でさえ見飽きないご様子なので、まして、まれにしかないご対面が、どうしておろそかであろうか。女のご様子も、本当にすばらしい女盛りである。重々しい点ではどうだろうか、魅力的で優美で、若々しい感じがして、見ていたいご様子である。
まもなく夜が明けるのだろうかと思われる時に、「ちょうどここに宿直いたしております」と声をつくって言うのが聞こえる。また、このあたりに隠れている近衛府の役人がいるのだろう。意地の悪い同僚が教えてよこしたのだなと、大将はお聞きになる。おかしいものの、面倒である。あちこち探し歩いて、「寅一つ」と申すのが聞こえる。
女君が「自分の心から、あれこれと袖を涙で濡らすことです。夜が明けると教える声につけても」とおっしゃる様子は、頼りなげで、たいそう魅力的である。「嘆きながら、私の身はこうして過ごせというのでしょうか。胸の晴れる時もないままに」と詠んで、落ち着かない気持ちでお出になった。
夜の深い明け方の月夜で、何とも言えず霧が立ちこめている中を、たいそうひどくやつれた姿で、さりげなくふるまっていらっしゃるのが、かえって比べるものもないご様子で、承香殿の女御の兄の頭中将が、藤壺から出て、月の光が少し陰になっている立蔀のもとに立っていたのを、知らずに通り過ぎなさったのは、気の毒なことである。非難申し上げることもあるだろう。
こうしたことにつけても、源氏は、自分を遠ざけてつれない人(藤壺)のお心を、一方ではりっぱだと思い申し上げなさるものの、自分の心のひかれる方からすると、やはりつらく情けないとお思いになる時が多い。
意訳
紫の上は、源氏に大切にされて幸せに暮らし、世の人々の羨望を集める。朝顔の姫君は斎院となり、源氏は残念に思いながらも文を送り続ける。
朱雀帝は気が弱く、母后と右大臣に逆らえない。源氏は、帝が謹慎している隙に、朧月夜と宮中の細殿で密会する。明け方、帰っていく源氏の姿を、承香殿の女御の兄の頭中将が目撃していた。
語釈・文法注
- ぶく
- 服(ぶく)。喪に服すること。斎院は、天皇や上皇の崩御で交代した。
- そわう
- 孫王(そんおう)。天皇の孫にあたる皇族。朝顔の姫君は桃園式部卿宮の娘で、桐壺帝の姪にあたる。
- 五壇のみず法
- 五壇の御修法(ごだんのみずほう)。五大明王を五つの壇にまつって行う大がかりな祈祷。その間、天皇は身を慎んだ。
- かた人
- 方人(かとうど)。味方、仲間。ここでは近衛府の同僚。
- じようきやう殿
- 承香殿(じょうきょうでん)の女御。朱雀帝の女御の一人。その兄の頭中将は、源氏と朧月夜の密会を知る立場にいた。
文法
- 反語の「いかでかは…む」(いかでかはおろかならむ)
- 「どうしておろそかであろうか、いや、おろそかではない」。
- 疑問の「や」(過ぐせとや)
- 「過ごせというのか」。下に「言ふ」などが省略されている。
和歌
心からかたがた袖をぬらすかなあくとをしふる聲につけても
- 詠者
- 朧月夜
- 状況
- 密会の明け方、宿直の者が時刻を告げる声を聞いて、朧月夜が詠んだ歌。自分の心から、あれこれと袖を涙で濡らすことです。夜が明けると教える声につけても(あなたが私に飽きると教えるようで)。
修辞
- 掛詞
- 「あく」に「明く」と「飽く」をかける。
なげきつゝ我身はかくて過ぐせとやむねのあくべき時ぞともなく
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 朧月夜への返歌。嘆きながら、私の身はこうして過ごせというのでしょうか。胸の晴れる時もないままに。
修辞
- 掛詞
- 「あく」に「(胸が)晴れる」と「(夜が)明く」をかける。
解説
院の死後も、源氏は朧月夜との関係をやめない。帝が謹慎している最中に、宮中で密会するという大胆さは、源氏の恋の危うさを示している。その姿を頭中将に見られたことは、のちの破局の伏線である。
朝顔の姫君は斎院となり、源氏との距離はいっそう遠くなる。源氏は、手の届かない女性ほど心ひかれる。藤壺、朝顔の姫君、朧月夜と、源氏の恋はいずれも禁忌や障害を伴っている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、202–205頁(コマ103–104)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日