古典ライブラリー

源氏物語 第10帖 賢木(2)

野宮の別れと斎宮の下向

登場人物:光源氏・六条御息所・秋好中宮

久しぶりの対面に、源氏も御息所も思い乱れ、夜通し語り合う。明け方、二人は歌を交わして別れる。御息所の決心は変わらず、九月十六日、斎宮は桂川で御祓をする。源氏は別れを惜しむ歌を贈り、斎宮の代わりに女別当が返歌する。源氏は幼い斎宮に心ひかれる。御息所は娘とともに宮中に参り、十六歳で入内した昔を思い起こす。

明け方の野宮で、源氏が廊に立ち、御息所との別れを惜しんで庭を眺めている場面(AI生成)
明け方の野宮で、源氏が廊に立ち、御息所との別れを惜しんで庭を眺めている場面
  1. 1心こころ心こころこころににに任まか任まかまかせせせててて見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりつつつべくべくべく人ひと人ひとひとももも慕した慕したしたひひいざまざまざまにににおぼしおぼしおぼしたりたりたりつるつるつる年月としつき年月としつきとしつきははは長閑のどか長閑のどかのどかなりなりなりつるつるつる御心みこころ御心みこころみこころおごりおごりおごりにににさしもさしもさしもおぼさおぼさおぼされれれざりざりざりききき。。。
  2. 2又また又またまた心こころ心こころこころのののうちうちうちにににはははいかにいかにいかにぞぞぞややや、、、きずきずきずありありありててて思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまひひいにににししし後のち後のちのちはははたたたあはれあはれあわれもももさめさめさめつゝつゝつつかくかくかくおほんおほんおおん中なか中なかなかももも隔へだ隔へだへだたりたりたりぬるぬるぬるををを、、、珍めづら珍めづらめずらしきしきしきおほんおほんおおんたいめんたいめんたいめんのののむかしむかしむかしおぼえおぼえおぼえたるたるたるにににあはれあはれあわれとととおぼしおぼしおぼし亂みだ亂みだみだるゝるゝるることことことかぎりかぎりかぎりなしなしなし。。。
  3. 3きしかたきしかたきしかた行ゆ行ゆゆくくくさきさきさきおぼしおぼしおぼし續つづ續つづつづけけけられられられててて心こころ心こころこころ弱よわ弱よわよわくくく泣な泣ななききき給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。女をんな女をんなおんなはははさしもさしもさしも見み見みみえええじじじとととおぼしおぼしおぼしつゝむつゝむつつむめれめれめれどどどえええ忍しの忍しのしのびびび給たま給たまたまははわぬぬぬ御おん御おんおん氣色けしき氣色けしきけしきをををいよいよいよいよいよいよ心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしうしうしゅう猶なほ猶なほなおおぼしおぼしおぼしとまるとまるとまるべきべきべきさまさまさまをををぞぞぞ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうめるめるめる。。。
  4. 4月つき月つきつきももも入い入いいりりりぬるぬるぬるにににやややあはれあはれあわれなるなるなる空そら空そらそらをををながめながめながめつゝつゝつつ怨うら怨うらうらみみみ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうににに、、、こゝらこゝらここら思おも思おもおもひひい集あつ集あつあつめめめ給たま給たまたまへへえるるるつらさつらさつらさももも消き消ききえええぬぬぬべしべしべし。。。やうやうやうやうようよう今いま今いまいまはははととと思おも思おもおもひひい離はな離はなはなれれれ給たま給たまたまへへえるるるににに、、、さればよさればよさればよとととなかなかなかなかなかなか心こころ心こころこころ動うご動うごうごきききててておぼしおぼしおぼし亂みだ亂みだみだるるる。。。
  5. 5殿上てんじやう殿上てんじやうてんじょうののの若わか若わかわかきききんんん達だち達だちだちなどなどなどうちうちうち連つ連つつれれれてててとかくとかくとかく立た立たたちちち煩わづら煩わづらわずらふふうなるなるなる庭には庭にはにわのののたゝずまひたゝずまひたたずまいもももげにげにげに艶えん艶えんえんなるなるなる方かた方かたかたにににうけばりうけばりうけばりたるたるたる有樣ありさま有樣ありさまありさまなりなりなり。。。思おも思おもおもほしほしおし殘のこ殘のこのこすすすことことことなきなきなき御おん御おんおん中なか中なかなからひらひらいににに聞きこ聞きこきこえええかはしかはしかわし給たま給たまたまふふうことことことどもどもどもまねびまねびまねびやらやらやらむむんかたかたかたなしなしなし。。。
  6. 6やうやうやうやうようよう明あ明ああけけけ行ゆ行ゆゆくくく空そら空そらそらののの氣色けしき氣色けしきけしき殊更ことさら殊更ことさらことさらにににつくりつくりつくり出い出いいでででたらたらたらむむんやうやうようなりなりなり。。。「「「あかつきあかつきあかつきののの別わかれ別わかれわかれはははいつもいつもいつも露つゆ露つゆつゆけきけきけきをををこここははは世よ世よよににに知し知ししらららぬぬぬ秋あき秋あきあきのののそらそらそらかなかなかな」」」出い出いいでででがてがてがてににに御手て御手ててををを執とら執とらとらへへえてててやすらひやすらひやすらい給たま給たまたまへへえるるる、、、いみじういみじういみじゅうなつかしなつかしなつかし。。。
  7. 7風かぜ風かぜかぜいといといとひやゝかひやゝかひややかににに吹ふ吹ふふきききててて松蟲まつむし松蟲まつむしまつむしののの鳴な鳴ななきききからからからしししたるたるたる聲こゑ聲こゑこえももも折をり折をりおり知し知ししりりり顏がほ顏がほがおなるなるなるををを、、、さしてさしてさして思おも思おもおもふふうことことことなきなきなきだにだにだに聞き聞きききききすぐしすぐしすぐし難がた難がたがたげげげなるなるなるににに、、、ましてましてましてわりなきわりなきわりなき御おん御おんおん心こころ心こころこころ惑まど惑まどまどひひいどもどもどもににになかなかなかなかなかなかことことこともももゆかゆかゆかぬぬぬにににややや。。。
  8. 8「「「大おほ大おほおおかたかたかたののの秋あき秋あきあきのののわかれわかれわかれもももかなしきかなしきかなしきににに鳴な鳴ななくくくねねねなななそへそへそえそそそ野邊のべ野邊のべのべののの松蟲まつむし松蟲まつむしまつむし」」」。。。悔くや悔くやくやしきしきしきことことこと多おほ多おほおおかれかれかれどどどかひかひかいなけれなけれなければばば明あ明ああけけけ行ゆ行ゆゆくくく空そら空そらそらもももはしたなくはしたなくはしたなくててて出い出いいででで給たま給たまたまふふう道みち道みちみちののの程ほど程ほどほどいといといと露つゆ露つゆつゆけしけしけし。。。
  9. 9女をんな女をんなおんなもももえええ心こころ心こころこころ强づよ强づよづよからからからずずず名殘なごり名殘なごりなごりあはれあはれあわれにてにてにて眺なが眺ながながめめめ給たま給たまたまふふう。。。ほのほのほの見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまへへえるるる月影つきかげ月影つきかげつきかげのののおほんおほんおおんかたちかたちかたち猶なほ猶なほなおとまれとまれとまれるるるにほひにほひにおいなどなどなど、、、若わか若わかわかききき人々びと人々びとびとははは身み身みみにににしめしめしめててて過あやま過あやまあやまちちちもももしししつつつべくべくべくめでめでめで聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。いかいかいかばかりばかりばかりののの道みち道みちみちにてにてにてかかか斯かか斯かかかかるるるおほんおほんおおん有樣ありさま有樣ありさまありさまををを見み見みみ棄す棄すすててててててははは別わか別わかわかれれれ聞きこ聞きこきこえええむむんとととあいなくあいなくあいなく淚なみだ淚なみだなみだぐみぐみぐみあへあへあえりりり。。。
  10. 10御おん御おんおん文ふみ文ふみふみ常つね常つねつねよりよりよりももも細こま細こまこまやかやかやかなるなるなるはははおぼしおぼしおぼし靡なび靡なびなびくくくばかりばかりばかりなれなれなれどどど又また又またまたうちうちうちかへしかへしかえし定さだ定さださだめめめかねかねかね給たま給たまたまふふうべきべきべきことことことならならならねねねばばばいといといとかひかひかいなしなしなし。。。
  11. 11男をとこ男をとこおとこはははさしもさしもさしもおぼさおぼさおぼさぬぬぬことことことをををだにだにだになさけなさけなさけのののためためためにににははは能よ能よよくくくいひいひいい續つづ續つづつづけけけ給たま給たまたまふふうべかべかべかめれめれめればばば、、、ましてましてましておしなべておしなべておしなべてのののつらつらつらにににははは思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまははわざりざりざりししし御おん御おんおん中なか中なかなかのののかくかくかくててて背そむ背そむそむききき給たま給たまたまひひいなななむむんとととするするするををを、、、口惜くちを口惜くちをくちおしうしうしゅうもももいとほしういとほしういとおしゅうもももおぼしおぼしおぼし惱なや惱なやなやむむむべしべしべし。。。
  12. 12旅たび旅たびたびのののおほんおほんおおんさうさうそう束ぞく束ぞくぞくよりよりよりはじめはじめはじめ人々びと人々びとびとのののまでまでまで何なに何なになにくれくれくれののの御おん御おんおん調度てうど調度てうどちょうどなどなどなど嚴いか嚴いかいかめしうめしうめしゅう珍めづら珍めづらめずらしきしきしきさまさまさまにてにてにてとぶらひとぶらひとぶらい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえどどど何なに何なになにととともももおぼさおぼさおぼされれれずずず。。。あはあはしうあはあはしうあわあわしゅう心こころ心こころこころ憂う憂ううききき名な名ななをををのみのみのみ流なが流ながながしししててて淺あさ淺あさあさましきましきましき身み身みみののの有樣ありさま有樣ありさまありさまををを今いま今いまいま始はじ始はじはじめめめたらたらたらむむんやうやうようににに程ほど程ほどほど近ちか近ちかちかくくくなるなるなるまゝまゝままににに起お起おおきききふしふしふし嘆なげ嘆なげなげききき給たま給たまたまふふう。。。
  13. 13齋宮さいぐう齋宮さいぐうさいぐうははは若わか若わかわかきききおほんおほんおおん心こころ心こころこころにににふぢやうふぢやうふじょうなりなりなりつるつるつる御おん御おんおん出立いでたち出立いでたちいでたちのののかくかくかく定さだ定さださだまりまりまり行ゆ行ゆゆくくくををを嬉うれ嬉うれうれしししとととのみのみのみおぼしおぼしおぼしたりたりたり。。。世よ世よよののの人ひと人ひとひとはははれいれいれいなきなきなきことことことゝゝともどきもどきもどきもももあはれあはれあわれにににももも樣々さまざま樣々さまざまさまざまににに聞きこ聞きこきこゆゆゆべしべしべし。。。何事なにごと何事なにごとなにごとももも人ひと人ひとひとにににもどきもどきもどきあつかはあつかはあつかわれれれぬぬぬきはきはきわゝゝはやすげやすげやすげなりなりなり、、、なかなかなかなかなかなか世よ世よよにににぬけぬけぬけ出い出いいでででぬるぬるぬる人ひと人ひとひとののの御おん御おんおんあたりあたりあたりははは所ところ所ところところせきせきせき事こと事ことこと多おほ多おほおおくくくなむなむなん。。。
  14. 14十六日じふろくにち十六日じふろくにちじゅうろくにち桂川かつらがは桂川かつらがはかつらがわにてにてにておほんおほんおおんはらへはらへはらえししし給たま給たまたまふふう。。。常つね常つねつねののの儀式ぎしき儀式ぎしきぎしきにににまさりまさりまさりててて送使そうし送使そうしそうしなどなどなどさらさらさらぬぬぬ上達部かんだちめ上達部かんだちめかんだちめもももやんごとなくやんごとなくやんごとなくおぼえおぼえおぼえあるあるあるをををえらえらえらせせせ給たま給たまたまへへえりりり。。。院ゐん院ゐんいんののの御心みこころ御心みこころみこころよせよせよせもももあれあれあればばばなるなるなるべしべしべし。。。
  15. 15出い出いいででで給たま給たまたまふふうほどほどほど大將殿だいしやうどの大將殿だいしやうどのだいしょうどのよりよりよりれいれいれいののの盡つ盡つつきききせせせぬぬぬことことことどもどもども聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえりりり。。。「「「かけまくかけまくかけまくももも畏かしこ畏かしこかしこきききおまへおまへおまえににに」」」とととててて木綿ゆふ木綿ゆふゆうにににつけつけつけててて「「「なるなるなる神かみ神かみかみだにだにだにこそこそこそ、、、八洲やしま八洲やしまやしまもるもるもる國くに國くにくにつつつ御神みかみ御神みかみみかみもももこゝろこゝろこころあらあらあらばばば飽あ飽ああかかかぬぬぬわかれわかれわかれののの中なか中なかなかをををことわれことわれことわれ。。。思おも思おもおもひひい給たま給たまたまふるふるうるににに飽あ飽ああかかかぬぬぬ心地ここち心地ここちここちししし侍はべ侍はべはべるるるかなかなかな」」」とととありありあり。。。
  16. 16いといといとさわがしきさわがしきさわがしきほどほどほどなれなれなれどどど御おん御おんおんかへりかへりかえりありありあり。。。宮みや宮みやみやのののおほんおほんおおんをばをばをばによによによしししててて書か書かかかかかせせせ給たま給たまたまへへえりりり。。。「「「國くに國くにくにつつつ神かみ神かみかみそらそらそらにににことわることわることわる中なか中なかなかならならならばばばなほざりごとなほざりごとなおざりごとをををまづまづまずやややたゞさたゞさたださむむん」」」
  17. 17大將だいしやう大將だいしやうだいしょうははは御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまゆかしうゆかしうゆかしゅうててて內裏うち內裏うちうちにににももも參まゐ參まゐまいらららまほしうまほしうまほしゅうおぼせおぼせおぼせどどど、、、うちうちうち棄す棄すすてててられられられててて見み見みみ送おく送おくおくらららむむんももも人ひと人ひとひとわろきわろきわろき心地ここち心地ここちここちししし給たま給たまたまへへえばばば、、、おぼしおぼしおぼしとまりとまりとまりててて徒然つれづれ徒然つれづれつれづれにににながめながめながめ居ゐ居ゐい給たま給たまたまへへえりりり。。。
  18. 18宮みや宮みやみやののの御おん御おんおん返かへ返かへかえりりりのののおとなおとなしきおとなおとなしきおとなおとなしきをををほゝゑみほゝゑみほほえみててて見み見みみ居ゐ居ゐい給たま給たまたまへへえりりり。。。御おん御おんおん年とし年としとしのののほどほどほどよりよりよりはははをかしうをかしうおかしゅうもももおはすおはすおわすべきべきべきかなかなかなとととたゞたゞただならならならずずず、、、かやうかやうかようにににれいれいれいににに違たが違たがたがへへえるるる煩わづら煩わづらわずらはしさはしさわしさににに必かなら必かならかならずずず心こころ心こころこころかゝるかゝるかかる御おん御おんおん癖くせ癖くせくせにてにてにて
  19. 19いといといと能よ能よよううう見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりつつつべかりべかりべかりししし、、、いはけなきいはけなきいわけなき御おん御おんおん程ほど程ほどほどををを見み見みみずずずなりなりなりぬるぬるぬるこそこそこそ妬ねた妬ねたねたけれけれけれ、、、世よ世よよののの中なか中なかなかさだめさだめさだめなけれなけれなければばばたいめたいめたいめするするするやうやうようもももありありありなななむむんかしかしかしなどなどなどおぼすおぼすおぼす。。。
  20. 20心こころ心こころこころにくゝにくゝにくくよしよしよしあるあるある御おん御おんおんけはひけはひけわいなれなれなればばば物見車ものみぐるま物見車ものみぐるまものみぐるま多おほ多おほおおかるかるかる日ひ日ひひなりなりなり。。。申さる申さるさるののの時とき時ときときにににうちうちうちににに參まゐ參まゐまいりりり給たま給たまたまふふう。。。御息所みやすんどころ御息所みやすんどころみやすんどころ御輿みこし御輿みこしみこしににに乘の乘ののりりり給たま給たまたまへへえるるるにににつけつけつけてててももも、、、父ちち父ちちちちおとゞおとゞおとどのののかぎりかぎりかぎりなきなきなきすぢすぢすじにににおぼしおぼしおぼし心こころ心こころこころざしざしざしててていつきいつきいつき奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまひひいししし有樣ありさま有樣ありさまありさまかはりかはりかわりててて末すゑ末すゑすえののの世よ世よよににに內うち內うちうちををを見み見みみ給たま給たまたまふふうにににももも物もの物ものもののみのみのみつきせつきせつきせずずずあはれあはれあわれにににおぼさるおぼさるおぼさる。。。
  21. 21十六じふろく十六じふろくじゅうろくにてにてにて故こ故ここ宮みや宮みやみやににに參まゐ參まゐまいりりり給たま給たまたまひひいててて、、、はたちはたちはたちにてにてにて後おく後おくおくれれれ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまふふう。。。三十みそぢ三十みそぢみそじにてにてにてぞぞぞ今日けふ今日けふきょうまたまたまた九重ここのへ九重ここのへここのえををを見み見みみ給たま給たまたまひひいけるけるける。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

思いのままにお会いできて、相手も慕っていらっしゃった年月は、のんびりとしたおごった気持ちから、それほど大切にもお思いにならなかった。また心の中では、どういうものか、欠点があると思い申し上げてから後は、愛情もさめていって、こうしてお二人の仲も隔たってしまったのに、久しぶりのご対面が昔を思い出させるので、しみじみと思い乱れなさることこの上ない。

過去のことや将来のことを思い続けられて、心弱くお泣きになった。女は、そうとは見せまいと包み隠していらっしゃるようだが、こらえきれないご様子を、いっそう気の毒にお思いになって、やはり伊勢へは行かずに思いとどまるようにと申し上げなさるようだ。

月も沈んでしまったのだろうか、しみじみとした空を眺めながら恨み言を申し上げなさるので、御息所の心に積もり積もったつらさも消えてしまいそうである。だんだんと、今はもうと思い切っていらっしゃったのに、やはりこうなると思ったとおり、かえって心が揺れて思い乱れなさる。

殿上の若い君達などが連れ立って、あれこれと立ち去りかねていたという庭のたたずまいも、本当に優美な方面では第一の場所である。思い残すことのないお二人の間で語り合われたことは、とても書き表しようがない。

だんだんと明けていく空の様子は、わざわざ作り出したかのようである。「明け方の別れは、いつも涙の露に濡れるものだが、今朝の別れは、これまで知らなかったほど悲しい秋の空だ」。帰りかねて御息所のお手を取ってためらっていらっしゃる様子は、たいそう心ひかれる。

風がたいそう冷ややかに吹いて、松虫の鳴きからした声も、折を心得たようなのを、特に物思いのない者でさえ聞き過ごしがたいのに、まして、どうにもならないほど心が乱れているお二人には、かえって歌もうまく詠めないのだろうか。「ただでさえ秋の別れは悲しいのに、鳴く声を添えて悲しみを深めないでおくれ、野辺の松虫よ」。

悔やまれることは多いが、どうしようもないので、明けていく空もきまりが悪くて、お帰りになる道中は、たいそう涙がちである。女も気丈にしていられず、名残惜しくて物思いにふけっていらっしゃる。ほのかに拝見した月光の中のお姿や、まだ残っている香りなどを、若い女房たちは身にしみて、過ちもしてしまいそうなほどお褒め申し上げる。「どれほどの旅だからといって、このようなお方を見捨ててお別れ申し上げるのでしょう」と、わけもなく涙ぐみ合っている。

お手紙がいつもより心がこもっているのは、御息所のお心がなびいてしまいそうなほどであるが、また考え直して決心を変えられるようなことでもないので、まったくかいがない。男は、それほどお思いでないことでさえ、情けのためには上手に言い続けなさるようだから、まして並一通りには思い申し上げなかった仲の方が、こうして背いていこうとなさるのを、残念にも気の毒にもお思い悩みになるのだろう。

旅のご装束をはじめとして、女房たちのものまで、あれこれの道具類などを、立派で珍しい様子でお贈り申し上げなさるが、御息所は何ともお思いにならない。軽々しくつらい浮き名ばかりを流して、あきれるような身の上を、今初めて知ったかのように、出立が近くなるにつれて、寝ても覚めても嘆いていらっしゃる。

斎宮は、幼いお心に、決まらなかったご出立がこうして決まっていくのを、うれしいとばかりお思いになっていた。世間の人は、母が付き添うのは例のないことだと非難もし、同情もして、さまざまに噂するのだろう。何事も人に非難されない身分の者は気楽なものだ。かえって世に抜きん出た人の身の回りは、窮屈なことが多いのである。

九月十六日、桂川で御祓をなさる。いつもの儀式にまさって、長奉送使など、ほかの上達部も、身分が高く評判のよい人をお選びになった。院のお心寄せもあるからだろう。出立なさる時、大将殿から、いつものように尽きない思いを申し上げなさった。「かけまくもかしこき御前に」と言って、木綿につけて、「鳴る神でさえ(仲を裂かないというのに)。日本の国を守る国つ神にも心があるならば、名残の尽きない二人の別れのわけを、判断してください。いくら考えても、名残の尽きない気持ちがすることです」と書いてある。

たいそう取り込んでいる時であるが、ご返事がある。斎宮のご返事は、女別当に書かせなさった。「国つ神が空から二人の仲を判断なさるなら、あなたのいいかげんな言葉を、まず問いただされることでしょう」。大将は、そのご様子を見たくて、宮中にも参上したいとお思いになるが、捨てられて見送るのも体裁が悪い気がなさるので、思いとどまって、所在なく物思いにふけっていらっしゃった。

斎宮のご返事が大人びているのを、ほほえんでご覧になっていた。お年のわりには、魅力的でいらっしゃるにちがいないなあと、心穏やかでない。このように普通と違って面倒なことには、必ず心がひかれるご性分で、たいそうよく拝見できたはずの幼いころを見ずに終わってしまったのが残念だ、世の中は定めがないから、お会いすることもあるだろうなどとお思いになる。

奥ゆかしく、たしなみのある方々なので、見物の車が多い日である。申の時に宮中に参入なさる。御息所は、御輿にお乗りになるにつけても、父大臣がこの上ない地位をと志して大切にお育てになったご様子とは変わって、晩年になって宮中をご覧になるにつけても、尽きることなくしみじみとお思いになる。十六歳で故東宮に入内なさって、二十歳で先立たれ申し上げなさった。三十歳で、今日また宮中をご覧になったのであった。

意訳

久しぶりの対面に、源氏は御息所への思いがよみがえり、伊勢へ行かないでほしいと引き止める。御息所の心も揺れるが、明け方、二人は歌を交わして別れる。

九月十六日、斎宮は桂川で御祓をし、宮中に参る。源氏は別れを惜しむ歌を贈り、斎宮の代わりに女別当が返歌する。源氏はまだ見ぬ斎宮に心をひかれる。御息所は、十六歳で東宮妃として入内した昔を思い起こしながら、三十歳で再び宮中を見る。

語釈・文法注

ちやうぶ
長奉送使(ちょうぶそうし)。斎宮が伊勢へ下る時、伊勢まで送り届ける勅使。
によ別當
女別当(にょべっとう)。斎宮に仕える女官の長。

文法

禁止の「な…そ」(鳴くねなそへそ)
「鳴く声を添えないでおくれ」。
反実仮想を含む推量(いと能う見奉りつべかりし)
「たいそうよく拝見できたはずの(幼いころ)」。「つべし」は強い可能性を表す。

和歌

あかつきの別はいつも露けきをこは世に知らぬ秋のそらかな

詠者
光源氏
状況
野宮での別れの明け方、源氏が詠んだ歌。明け方の別れは、いつも涙の露に濡れるものだが、今朝の別れは、これまで知らなかったほど悲しい秋の空だ。

大かたの秋のわかれもかなしきに鳴くねなそへそ野邊の松蟲

詠者
六条御息所
状況
源氏への返歌。ただでさえ秋の別れは悲しいのに、鳴く声を添えて悲しみを深めないでおくれ、野辺の松虫よ。

修辞

掛詞
「松蟲」の「まつ」に「待つ」を響かせ、源氏を待ち続けた日々を思わせる。

八洲もる國つ御神もこゝろあらば飽かぬわかれの中をことわれ

詠者
光源氏
状況
斎宮の下向の日、木綿につけて贈った歌。日本の国を守る国つ神にも心があるならば、名残の尽きない二人の別れのわけを、判断してください。

國つ神そらにことわる中ならばなほざりごとをまづやたゞさむ

詠者
秋好中宮(女別当の代筆)
状況
源氏への返歌。国つ神が空から二人の仲を判断なさるなら、あなたのいいかげんな言葉を、まず問いただされることでしょう。

解説

野宮の別れは、源氏物語の中でもっとも情趣深い場面の一つである。秋の明け方、松虫の声の中での別れは、のちに能「野宮」の題材にもなった。御息所は、源氏への思いがよみがえりながらも、伊勢へ下る決心を変えない。そこに、誇り高い御息所の生き方が表れている。

源氏が斎宮に心をひかれる場面は、のちの展開の伏線である。この斎宮は、のちに源氏の養女として冷泉帝に入内し、秋好中宮となる。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、196–199頁(コマ100–101)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日