源氏物語 第9帖 葵(13)
新枕と三日夜の餅
亥の子の餅が届けられた夜、源氏は惟光に、明日の晩に別の餅を用意するよう命じる。察しのよい惟光は、婚礼の三日夜の餅とさとって、ひそかに準備する。少納言は、源氏が紫の君を正式な妻として遇してくれたことに涙して感謝する。源氏は紫の君を片時も離れがたく思い、ほかの女性たちのもとへは通わなくなる。弘徽殿大后は、妹の御匣殿を源氏に嫁がせることを望まず、入内させようとする。

- 1そのそのその夜夜よさりさりさりゐのこゐのこいのこののの參參まいらららせせせたりたりたり。。。かゝるかゝるかかる思思おもいののの程程ほどなれなれなればばばことごとしきことごとしきことごとしきさまさまさまにににはははあらあらあらでででこなたこなたこなたばかりばかりばかりにににをかしげをかしげおかしげなるなるなるひわりごひわりごひわりごなどなどなどばかりばかりばかりをををいろいろいろいろいろいろにてにてにて參參まいれれれるるるををを見見み給給たまひひいててて
- 2君君きみ、、、みなみみなみみなみののの方方かたににに出出いででで給給たまひひいててて惟光惟光これみつををを召召めしししててて「「「このこのこのもちひもちひもちいかうかうこう數々數々かずかずににに所所ところせきせきせきさまさまさまにににはははあらあらあらででであすあすあすののの暮暮くれににに參參まいらららせよせよせよ。。。今日今日きょうはははいまいましきいまいましきいまいましき日日ひなりなりなりけりけりけり」」」とととうちうちうちほゝゑみほゝゑみほほえみてててのたまふのたまふのたまう御御おん氣色氣色けしきををを心心こころときときときものものものにてにてにてふとふとふと思思おもひひいよりよりよりぬぬぬ。。。
- 3惟光惟光これみつ確確たしかにににもももうけたまはらうけたまはらうけたまわらででで「「「げにげにげにあいぎやうあいぎやうあいきょうののの始始はじめはははひえりひえりひえりしししててて聞聞きこしししめすめすめすべきべきべきことことことにににこそこそこそ。。。さてもさてもさてもはははいくついくついくつかかか仕仕つこううう奉奉まつらららすすすべうべうびょう侍侍はべらららむむん」」」とととまめまめまめ立立たちちちててて申申もうせせせばばば、、、
- 4「「「三三みつつつかかか一一ひとつつつかかかにてにてにてもももあらあらあらむむんかしかしかし」」」とととのたまふのたまふのたまうににに心得心得こころえはてゝはてゝはてて立立たちちちぬぬぬ。。。物物ものなれなれなれのののさまさまさまやややととと君君きみはははおぼすおぼすおぼす。。。人人ひとにににもももいはいはいわででで手手てづからづからずからととといふいふいうばかりばかりばかり里里さとにてにてにてぞぞぞ作作つくりりり居居いたりたりたりけるけるける。。。
- 5君君きみはははこしらへこしらへこしらえわびわびわび給給たまひひいててて今今いまはじめてはじめてはじめて盜盜ぬすみみみもてもてもて來來きたらたらたらむむん人人ひとののの心地心地ここちするするするもももいといといとをかしくをかしくおかしくててて、、、年頃年頃としごろ哀哀あわれととと思思おもひひい聞聞きこえええつるつるつるはははかたはしかたはしかたはしにににもももあらあらあらざりざりざりけりけりけり、、、人人ひとののの心心こころこそこそこそうたてうたてうたてあるあるあるものものものはははあれあれあれ、、、今今いまははは一夜一夜ひとよももも隔隔へだてててむむんことことことのののわりなかるわりなかるわりなかるべきべきべきことことことゝゝとおぼさるおぼさるおぼさる。。。
- 6のたまひのたまひのたまいしししもちひもちひもちい忍忍しのびびびててていたういたういとう夜夜よふかしふかしふかしてててもてもてもて參參まいれれれりりり。。。少納言少納言しょうなごんはははおとなしくおとなしくおとなしくててて耻耻はずかしうしうしゅうややや思思おもさささむむんととと思思おもひひいやりやりやり深深ふかくくく心心こころしらひしらひしらいててて、、、
- 7むすめむすめむすめののの辨辨べんととといふいふいうををを呼呼よびびび出出いでゝでゝでて「「「これこれこれ忍忍しのびびびてててまゐらせまゐらせまいらせ給給たまへへえ」」」とととてててののの箱箱はこををを一一ひとつつつさしさしさし入入いれれれたりたりたり。。。「「「確確たしかににに御御おんまくらがみまくらがみまくらがみににに參參まいらすらすらすべきべきべき祝祝いわいのののものものものにににはべるはべるはべる。。。あなあなあなかしこかしこかしこあだあだあだにににななな」」」ととといへいへいえばばば
- 8あやしあやしあやしととと思思おもへへえどどど「「「あだあだあだなるなるなる事事ことはははまだまだまだ習習ならははわぬぬぬものものものををを」」」とととててて取取とれれればばば「「「誠誠まことににに今今いまはははさるさるさるもじもじもじいませいませいませ給給たまへへえ。。。よもよもよもまじりまじりまじり侍侍はべらららじじじ」」」ととといふいふいう。。。
- 9若若わかききき人人ひとにてにてにて氣色氣色けしきもももえええ深深ふかくくく思思おもひひいよらよらよらねねねばばばもてもてもて參參まいりりりててて御御おんまくらがみまくらがみまくらがみののの御御おん几帳几帳きちょうよりよりよりさしさしさし入入いれれれたるたるたるををを君君きみぞぞぞ例例れいののの聞聞きこえええ知知しらせらせらせ給給たまふふうらむらむらんかしかしかし。。。
- 10人人ひとはははえええしらしらしらぬぬぬにににつとめてつとめてつとめてこのこのこの箱箱はこをををまかでまかでまかでさせさせさせ給給たまへへえるるるにににぞぞぞ親親したしきしきしきかぎりかぎりかぎりののの人々人々びと思思おもひひい合合あわするするする事事ことどもどもどもありありありけるけるける。。。御御おんさらさらさらどもどもどもなどなどなどいついついつののの間間まにににかかかししし出出いでででけむけむけんいといといと淸淸きよらららにににしししてててもちひもちひもちいのののさまさまさまもももことさらびことさらびことさらびいといといとをかしうをかしうおかしゅうとゝのへとゝのへととのえたりたりたり。。。
- 11少納言少納言しょうなごんはははいといといとかうかうこうしもしもしもやややはははとととこそこそこそ思思おもひひい聞聞きこえええさせさせさせつれつれつれ、、、哀哀あわれにににかたじけなくかたじけなくかたじけなくおぼしおぼしおぼし至至いたらららぬぬぬ事事ことなきなきなき御心御心みこころばへばへばえをををまづまづまずうちうちうちなかなかなかれれれぬぬぬ。。。「「「さてもさてもさてもうちうちうちうちうちうちにににのたまはせよのたまはせよのたまわせよかしかしかしななな。。。かのかのかの人人ひともももいかにいかにいかに思思おもひひいつつつらむらむらん」」」とととさゝめきさゝめきささめきあへあへあえりりり。。。
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- 17君君きみもももおしなべておしなべておしなべてのののさまさまさまにににはははおぼえおぼえおぼえざりざりざりしししををを口惜口惜くちおしししとととおぼせおぼせおぼせどどど、、、只今只今ただいまはははことことことさまさまさまににに分分わくるくるくる御心御心みこころもももなくなくなくててて何何なにかはかはかわかばかりかばかりかばかり短短みじかかゝかゝかかめるめるめる世世よにににかくかくかくててて思思おもひひい定定さだまりまりまりなななむむん、、、人人ひとののの恨恨うらみももも負負おふふうまじかりまじかりまじかりけりけりけりととといとゞいとゞいとど危危あやうくくくおもほしおもほしおもおしこりこりこりにににたりたりたり。。。
現代語訳
その夜、亥の子の餅を差し上げた。こうした喪中の折なので、仰々しい様子ではなく、こちらの西の対にだけ、かわいらしい檜破子などばかりを、色とりどりにして差し上げたのをご覧になって、
源氏は、南の方にお出になって、惟光を呼んで、「この餅を、こんなにたくさん大げさにではなく、明日の暮れに差し上げよ。今日は縁起の悪い日だったよ」と、ほほえんでおっしゃるご様子を、気のきく者なので、ふと察した。
惟光は、はっきりとお尋ねすることもしないで、「本当に、愛敬の始めは、日を選んで召し上がるべきことでございます。それにしても、子の子の餅はいくつお作り申し上げたらよいでしょうか」と、まじめな顔で申し上げると、
源氏が「この三分の一でよいだろう」とおっしゃるので、すっかり心得て下がっていった。もの慣れた様子だなあと、源氏はお思いになる。惟光は人にも言わず、ほとんど自分の手でと言ってよいほどに、実家で作っていた。
源氏は姫君の機嫌をとりあぐねなさって、今初めて盗み出してきた人のような気持ちがするのも、たいそう面白くて、長年いとしいと思い申し上げてきたのは、今の気持ちのほんの一端にも及ばなかった。人の心というのは嫌なものだ、今は一夜でも離れていることが耐えられないだろうと思われなさる。
惟光は、おっしゃった餅を、こっそりとたいそう夜更けに持って参上した。少納言は年配なので、姫君が恥ずかしくお思いになるだろうかと、思いやり深く気をつかって、娘の弁という者を呼び出して、「これをこっそりと差し上げてください」と言って、香壺の箱を一つ差し入れた。
「確かにお枕元に差し上げるべき祝いの品でございます。決して、いいかげんに扱わないように」と言うと、弁は妙だと思うが、「いいかげんなことは、まだ習ったことがありませんのに」と言って受け取ると、惟光は「本当に、今はそうした(あだ、などという)言葉はお慎みください。まさか混じってはおりますまい」と言う。
弁は若い人なので、事情も深く察することができないので、持って参上して、お枕元の御几帳から差し入れたのを、源氏が、いつものように、そのいわれをお聞かせになったのだろう。
女房たちは知らなかったが、翌朝、この箱を下げさせなさったので、親しい女房たちだけは、思い当たることがあった。お皿なども、いつの間に用意したのだろう、花足の台もたいそう美しくして、餅の様子も格別に、たいそう趣深く整えてあった。
少納言は、まさかこれほどまでとは思い申し上げなかったのに、しみじみともったいなく、行き届かないことのないお心づかいに、まず涙がこぼれてしまった。「それにしても、内々に私たちにおっしゃってくださればよかったのに。あの惟光もどう思ったことでしょう」とささやき合っている。
こうして後は、宮中にも院にも、ほんのしばらく参上なさる間でさえ、まずむやみに姫君の面影が恋しいので、妙な心だなあと、ご自分ながらお思いになる。以前お通いになっていた方々からは、恨めしそうにお便りを申し上げなさったりするので、気の毒だとお思いになる方もあるが、新枕を交わしたばかりの姫君がいじらしくて、一夜でも離れていられようかと思い悩まれなさるので、
たいそう気が進まなくて、気分が悪そうにばかりふるまいなさって、「世の中がたいそうつらく思われる時期を過ごしてから、お目にかかりましょう」とだけ返事をなさりながら過ごしていらっしゃる。
今の后(弘徽殿大后)は、妹の御匣殿が、やはりこの大将にばかり心を寄せていらっしゃるのを、大臣(右大臣)が「なるほど、あのように身分の高かった正妻も亡くなられたのだから、そうなっても何の不都合があろうか」などとおっしゃるので、たいそう憎らしいとお思い申し上げなさって、宮仕えも、しっかりとさえお勤めになれば、何の悪いことがあろうかと、入内させ申し上げることに力を入れていらっしゃる。
源氏も、並一通りの人とは思っていなかったのに、残念だとお思いになるが、今はほかに心を分けるお気持ちもなくて、何の、これほど短いらしい人の世に、このまま姫君に心を決めてしまおう、人の恨みも負うまいと、いっそう、危ういことにはこりごりだと思っていらっしゃる。
意訳
亥の子の餅が届いた夜、源氏は惟光に、明日の晩に餅を用意するよう命じる。察しのよい惟光は、それが婚礼の三日目の夜に食べる「三日夜の餅」であることをさとり、ひそかに準備する。
餅は少納言の娘の弁を通して、紫の君の枕元に届けられる。翌朝、それと知った少納言は、源氏が紫の君を正式な妻として遇してくれたことに涙して感謝する。
源氏は紫の君を片時も離れがたく思い、ほかの女性たちのもとへは通わなくなる。一方、弘徽殿大后は、妹の御匣殿(朧月夜)を源氏に嫁がせようとする右大臣に反対し、入内させようとする。
語釈・文法注
- ゐのこのもちひ
- 亥の子の餅(いのこのもちい)。十月の最初の亥の日に食べる餅。無病息災や子孫繁栄を願う。
- ねのこ
- 子の子(ねのこ)。亥の子の翌日は子の日なので、惟光は「子の子の餅」としゃれた。実際には、婚礼の三日目の夜に新郎新婦が食べる「三日夜の餅」をさす。
- かうご
- 香壺(こうご)。香を入れる小箱。ここでは餅を入れて、目立たないように届けた。
- けそく
- 花足(けそく)。供物や食物をのせる台の脚に、花形の飾りをつけたもの。
- にひたまくら
- 新手枕(にいたまくら)。初めて共寝をすること。新婚。
- 御櫛匣殿
- 御匣殿(みくしげどの)。宮中で天皇の衣服を調える所の長官。ここでは弘徽殿大后の妹で、のちの朧月夜の君をさす。
文法
- 禁止の「な」(あなかしこあだにな)
- 「決していいかげんに扱うな」。下に「せそ」などが省略されている。
- 反語の「などか…む」(などかあしからむ)
- 「どうして悪いことがあろうか、いや、ない」。
解説
平安時代の結婚では、男が女のもとに三晩続けて通い、三日目の夜に「三日夜の餅」を食べて、正式な夫婦となった。源氏は、親もいない紫の君のために、惟光に命じてひそかにこの儀式を整える。紫の君を一時の愛人ではなく、正式な妻として遇するという源氏の意思の表れである。
惟光と源氏のやりとりは、「三つか一つか」(三分の一)という言葉で婚礼をほのめかす機知に富んだものである。少納言の涙は、北山から引き取られた孤児同然の姫君が、ついに源氏の妻となったことへの安堵の涙でもある。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、186–189頁(コマ95–96)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日