古典ライブラリー

源氏物語 第9帖 葵(12)

二条院の紫の君

登場人物:光源氏・紫の君・少納言の乳母・中将の君

二条院に戻った源氏は、美しく成長した紫の君を見て、藤壺によく似てきたことを喜ぶ。喪中の所在なさに、源氏は紫の君と碁や偏つぎをして過ごすうち、その魅力に心ひかれ、ついに新枕を交わす。思いもよらなかった紫の君は衝撃を受け、源氏の文にも返事をせず、終日夜具をかぶって臥している。

二条院の西の対で、灯火のもと、源氏と美しく成長した紫の君が碁盤を挟んで向かい合っている場面(AI生成)
二条院の西の対で、灯火のもと、源氏と美しく成長した紫の君が碁盤を挟んで向かい合っている場面
  1. 1二條院にでうのゐん二條院にでうのゐんにじょういんにににはははかたがたかたがたかたがた拂はら拂はらはらひひい磨みが磨みがみがきききてててをとこをとこおとこをんなをんなおんな待ま待ままちちち聞きこ聞きこきこえええたりたりたり。。。上臈じやうらふ上臈じやうらふじょうろうどもどもども皆みな皆みなみな參ま參まもうううのぼりのぼりのぼりてててわれわれわれもももわれわれわれもももとととさうぞきさうぞきそうぞきけさうじけさうじけそうじたるたるたるををを見み見みみるるるにににつけつけつけてててもももかのかのかの居ゐ居ゐい並な並ななみみみくんじくんじくんじたりたりたりつるつるつる氣色けしき氣色けしきけしきどもどもどもぞぞぞ哀あはれ哀あはれあわれににに思おも思おもおもひひい出い出いいでででられられられたまふたまふたまう。。。
  2. 2御おん御おんおんさうさうそう束ぞく束ぞくぞく奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりかへかへかえててて、、、西にし西にしにしののの對たい對たいたいににに渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまへへえりりり。。。ころもがへころもがへころもがえののの御おん御おんおんしつらひしつらひしつらい曇くもり曇くもりくもりなくなくなくあざやかあざやかあざやかににに見み見みみえええてててよきよきよきわかうどわかうどわこうどわらはべわらはべわらわべ、、、なりなりなり姿すがた姿すがたすがためやすくめやすくめやすくとゝのへとゝのへととのえててて少納言せうなごん少納言せうなごんしょうなごんがががもてなしもてなしもてなし心こころ心こころこころもとなきもとなきもとなき所ところ所ところところなくなくなく心こころ心こころこころにくしにくしにくしととと見み見みみ給たま給たまたまふふう。。。
  3. 3姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみいといといと美うつ美うつうつくしうくしうくしゅうひきひきひきつくろひつくろひつくろいててておはすおはすおわす。。。「「「久ひさ久ひさひさしかりしかりしかりつるつるつるほどほどほどにににいといといとこよなうこよなうこよのうこそこそこそおとなびおとなびおとなび給たま給たまたまひひいにににけれけれけれ」」」とととてててちいさきちいさきちいさき御おん御おんおん几帳きちやう几帳きちやうきちょうひきひきひきあげあげあげててて見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまへへえばばばうちうちうちそばみそばみそばみててて恥は恥ははぢらひぢらひじらい給たま給たまたまへへえるるる御おん御おんおんさまさまさま飽あ飽ああかかかぬぬぬ所ところ所ところところなしなしなし。。。
  4. 4ほかげほかげほかげののの御おん御おんおんかたばらかたばらかたばら目め目めめかしらつきかしらつきかしらつきなどなどなど、、、唯ただ唯ただただかのかのかの心こころ心こころこころづくしづくしづくし聞きこ聞きこきこゆるゆるゆる人ひと人ひとひとののの御おん御おんおんさまさまさま、、、違たが違たがたがふふう所ところ所ところところなくなくなくももも成な成ななりりり行ゆ行ゆゆくくくかなかなかなととと見み見みみ給たま給たまたまふふうにににいといといとうれしうれしうれし。。。
  5. 5近ちか近ちかちかくくく寄よ寄よよりりり給たま給たまたまひひいててて、、、おぼつかなかりおぼつかなかりおぼつかなかりつるつるつるほどほどほどののの事こと事ことことどもどもどもなどなどなど聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまひひいててて「「「日頃ひごろ日頃ひごろひごろののの物語ものがたり物語ものがたりものがたり、、、のどかのどかのどかににに聞きこ聞きこきこえええまほしけれまほしけれまほしけれどどどいまいましういまいましういまいましゅう覺おぼ覺おぼおぼえええ侍はべ侍はべはべれれればばば暫しば暫しばしばしししはははことことことかたかたかたにににやすらひやすらひやすらいててて參まゐ參まゐまいりりりこここむむん。。。今いま今いまいまはははとだえとだえとだえなくなくなく見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつるるるべけれべけれべければばば厭いと厭いといとはしうはしうわしゅうさへさへさへややや思おも思おもおもささされれれむむん」」」ととと語かた語かたかたらひらひらい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうををを
  6. 6少納言せうなごん少納言せうなごんしょうなごんははは嬉うれ嬉うれうれしししととと聞き聞ききくくくものものものからからから猶なほ猶なほなお危あやふ危あやふあやうくくく思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。やんごとなきやんごとなきやんごとなき御おん御おんおん忍しの忍しのしのびびび所どころ所どころどころ多おほ多おほおおうううかゝづらひかゝづらひかかずらい給たま給たまたまへへえれれればばば又また又またまたわづらはしきわづらはしきわずらわしきややや立た立たたちちち代かは代かはかわりりり給たま給たまたまははわむむんととと思おも思おもおもふふうぞぞぞにくきにくきにくき心こころ心こころこころなるなるなる。。。
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  8. 8いといといとつれづれつれづれつれづれにににながめながめながめがちがちがちなれなれなれどどど何なに何なになにとととなきなきなき御おん御おんおんありきありきありきももも物もの物ものものうううくくく覺おぼ覺おぼおぼしししなりなりなりててておぼしおぼしおぼしももも立た立たたたたたれれれずずず。。。
  9. 9姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみののの何事なにごと何事なにごとなにごともももあらまほしうあらまほしうあらまほしゅう整ととの整ととのととのひひいはてゝはてゝはてていといといとめでたうめでたうめでとうのみのみのみ見み見みみえええ給たま給たまたまふふうををを似に似ににげなからげなからげなからぬぬぬ程ほど程ほどほどにににはははたたた見み見みみなしなしなし給たま給たまたまへへえれれればばば氣色けしき氣色けしきけしきばみばみばみたるたるたることことことなどなどなど折々をりをり折々をりをりおりおり聞きこ聞きこきこえええ試こころ試こころこころみみみ給たま給たまたまへへえどどど見み見みみももも知し知ししりりり給たま給たまたまははわぬぬぬけしきけしきけしきなりなりなり。。。
  10. 10つれづれつれづれつれづれなるなるなるまゝまゝままににに唯ただ唯ただただ此方こなた此方こなたこなたにてにてにて碁ご碁ごごうちうちうち偏へん偏へんへんなどなどなどししし給たま給たまたまひひいつゝつゝつつ日ひ日ひひをををくらしくらしくらしたまふたまふたまうににに心こころ心こころこころばへばへばえのののらうらうしうらうらうしうろうろうしゅうあいぎやうづきあいぎやうづきあいきょうづきはかなきはかなきはかなきたはぶれたはぶれたわぶれ事ごと事ごとごとののの中なか中なかなかにににもももうつくしきうつくしきうつくしきすぢすぢすじをををしししいでいでいで給たま給たまたまへへえばばば、、、
  11. 11おぼしおぼしおぼし放はな放はなはなちちちたるたるたる年月としつき年月としつきとしつきこそこそこそたゞたゞたださるさるさる方かた方かたかたのののらうたさらうたさろうたさのみのみのみはははありありありつれつれつれ。。。忍しの忍しのしのびびび難がた難がたがたくくくなりなりなりててて心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしけれしけれしけれどどどいかゞいかゞいかがありありありけむけむけん。。。
  12. 12人ひと人ひとひとのののけぢめけぢめけじめ見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり分わ分わわくくくべきべきべき御おん御おんおん中なか中なかなかにににもももあらあらあらぬぬぬににに男君をとこぎみ男君をとこぎみおとこぎみはははとくとくとく起お起おおききき給たま給たまたまひひいてててをんなをんなおんな君ぎみ君ぎみぎみははは更さら更さらさらににに起お起おおききき給たま給たまたまははわぬぬぬあしたあしたあしたありありあり。。。
  13. 13人々びと人々びとびといかなれいかなれいかなればばばかくかくかくおはしますおはしますおわしますならならならむむん、、、御おん御おんおん心地ここち心地ここちここちののの例れい例れいれいならならならずずずおぼさるゝおぼさるゝおぼさるるにににやややととと見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり歎なげ歎なげなげくくくににに、、、君きみ君きみきみははは渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまふふうとととててて、、、御おん御おんおん硯すずり硯すずりすずりののの箱はこ箱はこはこををを、、、御帳みちやう御帳みちやうみちょうののの內うち內うちうちにににさしさしさし入い入いいれれれててておはしおはしおわしにににけりけりけり。。。
  14. 14人ひと人ひとひとまままににに辛から辛からからうじてうじてうじて頭かしら頭かしらかしらもたげもたげもたげ給たま給たまたまへへえるるるににに、、、引ひ引ひひききき結むす結むすむすびびびたるたるたる文ふみ文ふみふみ御おん御おんおん枕まくら枕まくらまくらのののもともともとにににありありあり。。。何なに何なになに心ごころ心ごころごころもももなくなくなく引ひ引ひひきききあけあけあけててて見み見みみ給たま給たまたまへへえばばば、、、「「「あやなくあやなくあやなくももも隔へだ隔へだへだてててけるけるけるかなかなかな夜よ夜よよをををかさねかさねかさねさすがさすがさすがににになれなれなれししし中なか中なかなかののの衣ころも衣ころもころもををを」」」ととと書か書かかきききすさびすさびすさび給たま給たまたまへへえるるるやうやうようなりなりなり。。。
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  16. 16晝ひる晝ひるひるつかたつかたつかた渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまひひいててて「「「惱なやま惱なやまなやましげしげしげにににししし給たま給たまたまふふうらむらむらんはははいかなるいかなるいかなる御おん御おんおん心こころ心こころこころちちちぞぞぞ。。。今日けふ今日けふきょうははは碁ご碁ごごもももうたうたうたでででさうざうしさうざうしそうぞうしややや」」」とととてててのぞきのぞきのぞき給たま給たまたまへへえばばばいよいよいよいよいよいよ御おん御おんおんぞぞぞ引ひ引ひひきききかづきかづきかずきててて臥ふ臥ふふししし給たま給たまたまへへえりりり。。。
  17. 17人々びと人々びとびと退しりぞ退しりぞしりぞきききつゝつゝつつさぶらへさぶらへさぶらえばばば寄よ寄よよりりり給たま給たまたまひひいててて「「「などなどなどかくかくかくいぶせきいぶせきいぶせき御おん御おんおんもてなしもてなしもてなしぞぞぞ。。。思おもひ思おもひおもいののの外ほか外ほかほかににに心こころ心こころこころ憂う憂ううくくくこそこそこそおはしおはしおわしけれけれけれななな。。。人ひと人ひとひともももいかにいかにいかに怪あや怪あやあやしししととと思おも思おもおもふふうらむらむらん」」」とととててて御おん御おんおん衾ふすま衾ふすまふすまををを引ひ引ひひきききやりやりやり給たま給たまたまへへえれれればばば汗あせ汗あせあせにににおしおしおしひたしひたしひたしてててひたひひたひひたい髮がみ髮がみがみももも痛いた痛いたいとうううぬれぬれぬれ給たま給たまたまへへえりりり。。。
  18. 18「「「あなあなあなうたてうたてうたて、、、これこれこれはははいといといとゆゝしきゆゝしきゆゆしきわざわざわざよよよ」」」とととててて萬よろづ萬よろづよろずにににこしらへこしらへこしらえ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえどどど、、、誠まこと誠まことまことにににいといといとつらしつらしつらしととと思おも思おもおもひひい給たま給たまたまひひいててて露つゆ露つゆつゆののの御おん御おんおんいらへいらへいらえもももしししたまはたまはたまわずずず。。。
  19. 19「「「よしよしよしよしよしよし更さら更さらさらにににみえみえみえ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららじじじ。。。いといといと耻はづか耻はづかはずかししし」」」などなどなどゑじゑじえじ給たま給たまたまひひいててて御おん御おんおん硯すずり硯すずりすずりあけあけあけててて見み見みみ給たま給たまたまへへえどどど物もの物ものものもももなけれなけれなければばばわかわかわかののの御おん御おんおん心こころ心こころこころありさまありさまありさまやややとととらうたくらうたくろうたく見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまひひいててて日ひ日ひひ一日ひとひ一日ひとひひとひ入い入いいりりり居ゐ居ゐいててて慰なぐさ慰なぐさなぐさめめめ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえどどど解と解ととけけけがたきがたきがたき御おん御おんおん氣色けしき氣色けしきけしきいとゞいとゞいとどらうたげらうたげろうたげなりなりなり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

二条院では、あちこちを掃き清め磨き立てて、男も女もお待ち申し上げていた。上臈の女房たちも皆参上して、我も我もと装束を整え化粧しているのを見るにつけても、あの左大臣邸で並んでふさぎこんでいた女房たちの様子が、しみじみと思い出されなさる。源氏はご装束をお召し替えになって、西の対においでになった。衣替えのお部屋の飾りつけが、くもりなく鮮やかに見えて、器量のよい若い女房や女童たちの身なりや姿を見苦しくなく整えて、少納言の取り計らいは行き届かない所がなく、奥ゆかしいとご覧になる。

姫君はたいそうかわいらしく身なりを整えていらっしゃる。「長い間会わないうちに、ずいぶんと大人びなさったなあ」と言って、小さな御几帳を引き上げてご覧になると、横を向いて恥じらっていらっしゃるご様子は、申し分ない。灯影に照らされた横顔や頭の形など、ただあの心を尽くしてお慕い申し上げる人(藤壺)のお姿に、違うところもなく似てきたなあとご覧になるにつけて、たいそううれしい。

近くにお寄りになって、会えずに気がかりだった間のことなどを申し上げなさって、「この数日の話を、ゆっくりと申し上げたいけれど、喪中で縁起が悪く思われますので、しばらくは別の部屋で休んでから、また参りましょう。これからは途切れることなくお会いできるのだから、うるさいとまでお思いになるかもしれませんね」と語りかけ申し上げなさるのを、

少納言はうれしいと聞くものの、やはり危ぶんでお思い申し上げる。身分の高いお忍びの通い所に多く関わっていらっしゃるので、また面倒な方が、亡き方の代わりにお立ちになるのではないかと思うのは、憎らしい心である。

源氏はご自分のお部屋においでになって、中将の君という女房に、お脚などをもませて、お休みになった。翌朝には、若君のもとにお手紙を差し上げなさる。しみじみとしたご返事をご覧になるにつけても、尽きない悲しみばかりである。たいそう所在なく物思いにふけりがちであるが、何ということもないお出かけも気が進まなくお思いになって、思い立ちもなさらない。

姫君が、何事も理想的にすっかり整って、たいそうすばらしくばかりお見えになるのを、もう不似合いではない年ごろだと見なしていらっしゃるので、それとなく思わせぶりなことなどを、折々に申し上げて試してごらんになるが、まったくおわかりにならない様子である。

所在ないままに、ただこちらで碁を打ったり偏つぎをしたりなさりながら日を暮らしていらっしゃると、姫君の気だてが利発で愛らしく、ちょっとした遊びごとの中にも、かわいらしい筋をお見せになるので、心にかけずにいた年月こそ、ただそうした子どもとしてのいとしさばかりであったが、今は我慢できなくなって、気の毒ではあるが、どういうことがあったのだろうか。

人目には、二人の間の区別がつくようなご関係でもないのに、男君は早くお起きになって、女君はいつまでもお起きにならない朝があった。女房たちは、どうしてこうしていらっしゃるのだろう、ご気分がすぐれないのだろうかと拝見して心配していると、源氏はご自分の部屋へお戻りになるというので、硯の箱を御帳台の中に差し入れてお出になった。

人のいない間に、やっと頭をもたげなさると、引き結んだ手紙が枕元にある。何気なく開けてご覧になると、「どうしてこれまで隔てていたのだろう。幾夜も重ねて、さすがに慣れ親しんできた仲で、間に衣を隔てていたとは」と、書き流していらっしゃるようである。こうしたお心がおありだろうとは、まったく思いもよらなかったので、どうしてこんないやなお心の方を、疑いもなく頼もしい者とお思い申し上げていたのだろうと、情けなくお思いになる。

昼ごろ源氏はおいでになって、「ご気分が悪そうにしていらっしゃるのは、どんなご気分なのですか。今日は碁も打たないで、つまらないなあ」と言ってのぞきなさると、いよいよ夜具を引きかぶって臥していらっしゃる。

女房たちが下がって控えているので、源氏はお寄りになって、「どうしてこんなに気づまりなおもてなしをなさるのか。思いのほかに冷たい方でいらっしゃるのですね。女房たちもどんなに変だと思っているでしょう」と言って、夜具を引きのけなさると、汗をびっしょりかいて、額髪もひどく濡れていらっしゃる。

「ああ、いやだ。これはたいそう縁起の悪いことですよ」と言って、いろいろとなだめ申し上げなさるが、姫君は本当にたいそうつらいとお思いになって、少しのご返事もなさらない。「よしよし、もう決してお目にかかりません。たいそうきまりが悪い」などと恨みごとをおっしゃって、硯の箱を開けてご覧になるが、何も返事がないので、なんと子どもっぽいご様子だろうと、いじらしく拝見なさって、一日中そばにいてお慰め申し上げなさるが、打ち解けにくいご様子が、いっそういじらしい。

意訳

二条院に戻った源氏は、美しく成長した紫の君を見て、藤壺にますます似てきたことを喜ぶ。少納言の乳母は、源氏がまた別の女性を正妻に迎えるのではないかと心配する。

喪中の所在なさに、源氏は紫の君と碁などをして過ごすうち、その魅力に抗しきれなくなり、ついに新枕を交わす。源氏を父親のように慕っていた紫の君は、思いもよらないことに衝撃を受け、源氏の歌にも返事をせず、一日中夜具をかぶって臥している。

語釈・文法注

偏つぎ
偏つぎ(へんつぎ)。漢字の旁(つくり)を示して、偏を当てさせる遊び。

文法

推量の「けむ」(いかゞありけむ)
「どういうことがあったのだろうか」。語り手がはっきり語らずにぼかす表現。
疑問の「などて…けむ」(などてかう心うかりける御心を…思ひ聞えけむ)
「どうして…と思い申し上げていたのだろうか」。過去への後悔を表す。

和歌

あやなくも隔てけるかな夜をかさねさすがになれし中の衣を

詠者
光源氏
状況
新枕の翌朝、源氏が紫の君の枕元に置いた歌。どうしてこれまで隔てていたのだろう。幾夜も重ねて、さすがに慣れ親しんできた仲で、間に衣を隔てていたとは。

修辞

掛詞
「中の衣」に、二人の「仲」と、間を隔てる「衣」をかける。

解説

葵の上の死から間もなく、源氏は紫の君と新枕を交わす。語り手は「いかゞありけむ」とぼかして、直接には描かない。翌朝、男君だけが起き、女君が起きてこないという描写で、何があったかを読者に悟らせる。

紫の君の衝撃は大きい。源氏を「うらなく賴もしきもの」と信じていた少女にとって、それは裏切りに等しかった。北山で見いだされてから四年、紫の君は源氏の手で育てられ、ついに妻となる。ここから紫の上としての人生が始まる。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、184–187頁(コマ94–95)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日