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源氏物語 第9帖 葵(6)

物の怪の正体と夕霧の誕生

登場人物:葵の上・光源氏・六条御息所・左大臣・大宮・夕霧

葵の上は無事に男子(夕霧)を出産し、左大臣家は喜びに包まれる。一方、御息所は自分の衣に、祈祷で焚く芥子の香が染みついているのに気づき、生霊が自分であったことを思い知る。源氏は葵の上を見舞い、弱々しく横たわる妻をいとしく思って、院へ参上するために出かける。

左大臣邸で、生まれたばかりの若君を囲んで女房たちが喜び合い、奥では産後の葵の上が静かに臥している場面(AI生成)
左大臣邸で、生まれたばかりの若君を囲んで女房たちが喜び合い、奥では産後の葵の上が静かに臥している場面
  1. 1少すこ少すこすこししし御おん御おんおん聲こゑ聲こゑこえももも靜しづ靜しづしずまりまりまり給たま給たまたまへへえれれればばば、、、ひまひまひま坐おは坐おはおわするするするにににやややとととててて、、、宮みや宮みやみやののの御おん御おんおん湯ゆ湯ゆゆもてもてもて寄よ寄よよせせせ給たま給たまたまへへえるるるにににかきかきかきおこさおこさおこされれれ給たま給たまたまひひいててて、、、程ほど程ほどほどなくなくなく生むま生むまうまれれれ給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。
  2. 2嬉うれ嬉うれうれしししととと思おも思おもおもすすすことことことかぎりかぎりかぎりなきなきなきににに、、、人ひと人ひとひとにににかりかりかりうつしうつしうつし給たま給たまたまへへえるるる御おん御おんおんものゝけものゝけもののけどもどもどもののの妬ねた妬ねたねたがりがりがり惑まど惑まどまどふふうけはひけはひけわいいといといと物もの物ものものさわがしうさわがしうさわがしゅうててて後のち後のちのちののの事こと事ことことまたまたまたいといといと心こころ心こころこころもとなしもとなしもとなし。。。
  3. 3言い言いいふふうかぎりかぎりかぎりなきなきなきぐわんぐわんがんどもどもどもたてたてたてさせさせさせ給たま給たまたまふふうけにけにけにややや、、、たひらかたひらかたいらかににに事こと事ことこと成な成ななりりりはてはてはてぬれぬれぬればばば、、、山やま山やまやまののの座主ざす座主ざすざす何なに何なになにくれくれくれとととやんごとなきやんごとなきやんごとなき僧そう僧そうそうどもどもどもしたりしたりしたり顏がほ顏がほがおににに汗あせ汗あせあせおしおしおしのごひのごひのごいつゝつゝつつ急いそ急いそいそぎぎぎまかでまかでまかでぬぬぬ。。。
  4. 4多おほ多おほおおくくくののの人ひと人ひとひとののの心こころ心こころこころををを盡つく盡つくつくしししつるつるつる日比ひごろ日比ひごろひごろののの名殘なごり名殘なごりなごり少すこ少すこすこしししうちうちうちやすみやすみやすみててて今いま今いまいまはははさりともさりともさりともととと覺おぼ覺おぼおぼすすす御修法みずほふ御修法みずほふみずほうなどなどなどははは、、、又々またまた又々またまたまたまた始はじ始はじはじめめめそへそへそえさせさせさせ給たま給たまたまへへえどどどまづまづまずはははけうけうきょうありありあり。。。珍めづら珍めづらめずらしきしきしき御おん御おんおんかしづきかしづきかしずきににに皆みな皆みなみな人ひと人ひとひと心こころ心こころこころゆるべゆるべゆるべりりり。。。
  5. 5院ゐん院ゐんいんをををはじめはじめはじめ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりてててみこみこみこたちたちたち上達部かんだちめ上達部かんだちめかんだちめ殘のこり殘のこりのこりなきなきなきどもどもどものののめづらかめづらかめずらかにににいかめしきいかめしきいかめしきををを夜よ夜よよごとごとごとににに見み見みみのゝしるのゝしるののしる。。。男をとこ男をとこおとこにてにてにてさへさへさへおはすれおはすれおわすればばばそのそのそのほどほどほどののの作法さほふ作法さほふさほう賑にぎ賑にぎにぎはゝしくはゝしくわわしくめでたしめでたしめでたし。。。
  6. 6かのかのかの御おん御おんおんやすやすやす所どころ所どころどころはははかゝるかゝるかかる御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまををを聞き聞ききききき給たま給たまたまひひいてててもももたゞたゞただならならならずずず、、、かねてかねてかねてはははいといといと危あやふ危あやふあやうくくく聞きこ聞きこきこえええしししをををたひらかたひらかたいらかにににもももはたはたはたとととうちうちうちおぼしおぼしおぼしけりけりけり。。。
  7. 7あやしうあやしうあやしゅう我わ我わわにににもももあらあらあらぬぬぬ御おん御おんおん心地ここち心地ここちここちをををおぼしおぼしおぼし續つづ續つづつづくるくるくるににに御おん御おんおんぞぞぞなどなどなどももも唯ただ唯ただただのののかかかにににしみしみしみかへりかへりかえりたりたりたり。。。怪あや怪あやあやしさしさしさににに御おん御おんおんゆするゆするゆするまゐりまゐりまいり、、、御おん御おんおんぞぞぞ着き着ききかへかへかえなどなどなどししし給たま給たまたまひひいててて試こころ試こころこころみみみ給たま給たまたまへへえばばば猶なほ猶なほなお同おな同おなおなじじじやうやうようにににのみのみのみあれあれあればばば、、、
  8. 8我わ我わわががが身み身みみながらながらながらだにだにだにうとましううとましううとましゅう覺おぼ覺おぼおぼさささるゝるゝるるににに、、、ましてましてまして人ひと人ひとひとののの言い言いいひひい思おも思おもおもははわむむん事こと事ことことなどなどなど人ひと人ひとひとにににのたまふのたまふのたまうべきべきべき事こと事ことことならならならねねねばばば心こころ心こころこころひとつひとつひとつににに思おも思おもおもししし歎なげ歎なげなげくくくににに、、、いとゞいとゞいとど御おん御おんおん心こころ心こころこころがはりがはりがわりもももまさりまさりまさり行ゆ行ゆゆくくく。。。
  9. 9大將殿だいしやうどの大將殿だいしやうどのだいしょうどのははは心地ここち心地ここちここち少すこ少すこすこしししのどめのどめのどめてててあさましかりあさましかりあさましかりししし程ほど程ほどほどのののとはずがたりとはずがたりとわずがたりももも心こころ心こころこころ憂う憂ううくくく思おも思おもおもししし出い出いいでででられられられつゝつゝつつ、、、いといといと程ほど程ほどほど經へ經へへにににけるけるけるももも心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしくしくしく、、、またまたまたけぢかくけぢかくけじかくててて見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららむむんにににはははいかにいかにいかにぞぞぞやややうたてうたてうたて覺おぼ覺おぼおぼゆゆゆべきべきべきををを、、、人ひと人ひとひとののの御おん御おんおんためためためいとほしういとほしういとおしゅうよろづよろづよろずにににおぼしおぼしおぼしててて御おん御おんおん文ふみ文ふみふみばかりばかりばかりぞぞぞありありありけるけるける。。。
  10. 10痛いた痛いたいとううう煩わづら煩わづらわずらひひい給たま給たまたまひひいししし人ひと人ひとひとののの御おん御おんおん名殘なごり名殘なごりなごりゆゝしうゆゝしうゆゆしゅう、、、心こころ心こころこころゆるびゆるびゆるびなげなげなげににに誰たれ誰たれたれもももおぼしおぼしおぼしたれたれたればばばことわりことわりことわりにてにてにて御おん御おんおんありきありきありきもももなしなしなし。。。猶なほ猶なほなおいといといと惱なや惱なやなやましげましげましげにににのみのみのみししし給たま給たまたまへへえばばば例れい例れいれいのののさまさまさまにてにてにてもももまだまだまだたいめんたいめんたいめんししし給たま給たまたまははわずずず。。。
  11. 11若君わかぎみ若君わかぎみわかぎみのののいといといとゆゝしきゆゝしきゆゆしきまでまでまで見み見みみえええ給たま給たまたまふふう御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまをををいまいまいまからからからいといといとさまさまさま殊こと殊ことことにににもてもてもてかしづきかしづきかしずき聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうさまさまさまおろかおろかおろかならならならずずず。。。ことことことあひあひあいたるたるたる心地ここち心地ここちここちしししててておとゞおとゞおとどももも嬉うれ嬉うれうれしうしうしゅういみじいみじいみじととと思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえるるるににに、、、唯ただ唯ただただこのこのこの御おん御おんおん心地ここち心地ここちここち怠おこた怠おこたおこたりりりはてはてはて給たま給たまたまははわぬぬぬををを心こころ心こころこころもとなくもとなくもとなくおぼせおぼせおぼせどどど、、、
  12. 12さばかりさばかりさばかりいみじかりいみじかりいみじかりししし名殘なごり名殘なごりなごりにににこそこそこそはははとととおぼしおぼしおぼしててて、、、いかでいかでいかでかかかはははさささのみのみのみははは心こころ心こころこころをををももも惑まど惑まどまどはしはしわし給たま給たまたまははわむむん、、、若君わかぎみ若君わかぎみわかぎみののの御おん御おんおんまみまみまみののの美うつく美うつくうつくしさしさしさなどなどなどののの春宮とうぐう春宮とうぐうとうぐうにににいみじういみじういみじゅう似に似にに奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまへへえるるるををを見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまひひいてててもももまづまづまず戀こひ戀こひこいしうしうしゅう思おも思おもおもひひい出い出いいでででられられられさせさせさせ給たま給たまたまふふうににに忍しの忍しのしのびびび難がた難がたがたくくくててて、、、
  13. 13參まゐ參まゐまいりりり給たま給たまたまははわむむんとととててて「「「內うち內うちうちなどなどなどにににもももあまりあまりあまり久ひさ久ひさひさしくしくしく參まゐ參まゐまいりりり侍はべ侍はべはべらららねねねばばば、、、いぶせさいぶせさいぶせさににに今日けふ今日けふきょうなむなむなんうひだちうひだちういだちししし侍はべ侍はべはべるるるををを、、、少すこ少すこすこしししけぢかきけぢかきけじかき程ほど程ほどほどにてにてにて聞きこ聞きこきこえええさせさせさせばやばやばや餘あま餘あまあまりりりおぼつかなきおぼつかなきおぼつかなき御心みこころ御心みこころみこころののの隔へだて隔へだてへだてかなかなかな」」」ととと怨うら怨うらうらみみみ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえれれればばば、、、
  14. 14「「「げにげにげに唯ただ唯ただただ偏ひとへ偏ひとへひとえににに艶えん艶えんえんにににのみのみのみあるあるあるべきべきべき事こと事ことことかかかははは」」」とととててて、、、臥ふ臥ふふししし給たま給たまたまへへえるるる所ところ所ところところににに、、、おましおましおまし近ちか近ちかちこううう參まゐ參まゐまいりりりたれたれたればばば入い入いいりりりててて物もの物ものものなどなどなど聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふう。。。御おん御おんおんいらへいらへいらえ時々ときどき時々ときどきときどき聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうももも、、、猶なほ猶なほなおいといといと弱よわ弱よわよわげげげなりなりなり。。。
  15. 15されどされどされどむげむげむげににになきなきなき人ひと人ひとひとととと思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええししし御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまをををおぼしおぼしおぼし出い出いいづれづれずればばば、、、夢ゆめ夢ゆめゆめののの心地ここち心地ここちここちしししててて、、、ゆゝしかりゆゝしかりゆゆしかりしししほどほどほどののの事こと事ことことどもどもどもなどなどなど聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうついでついでついでにににもももかのかのかのむげむげむげににに息いき息いきいきももも絕た絕たたえええたるたるたるやうやうようににに坐おは坐おはおわせせせしししががが引ひ引ひひきききかへしかへしかえしつぶつぶつぶつぶつぶつぶとととのたまひのたまひのたまいししし事こと事ことことどもどもども思おも思おもおもししし出い出いいづるづるずるににに心こころ心こころこころ憂う憂ううけれけれければばば
  16. 16「「「いざやいざやいざや聞きこ聞きこきこえええまほしきまほしきまほしき事こと事ことこといといといと多おほ多おほおおかれかれかれどどどまだまだまだいといといとたゆげたゆげたゆげににに思おも思おもおもしししたたためれめれめればばばこそこそこそ」」」とととててて「「「御おん御おんおん湯ゆ湯ゆゆ參まゐ參まゐまいれれれ」」」などなどなどさへさへさへあつかひあつかひあつかい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうををを、、、いついついつ習なら習ならならひひい給たま給たまたまひひいけむけむけんととと人々びと人々びとびと哀あは哀あはあわれれれがりがりがり聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。
  17. 17いといといとをかしげをかしげおかしげなるなるなる人ひと人ひとひとののの痛いた痛いたいとううう弱よわ弱よわよわりりり傷そこな傷そこなそこなはれはれわれてててあるあるあるかかかなきなきなきかかかののの氣色けしき氣色けしきけしきにてにてにて臥ふ臥ふふししし給たま給たまたまへへえるるるさまさまさまいといといとらうたげらうたげろうたげににに苦くる苦くるくるしげしげしげなりなりなり。。。みぐしみぐしみぐしののの亂みだ亂みだみだれれれたるたるたるすぢすぢすじもももなくなくなくはらはらはらはらはらはらとととかゝれかゝれかかれるるる枕まくら枕まくらまくらののの程ほど程ほどほどありがたきありがたきありがたきまでまでまでににに見み見みみゆれゆれゆればばば、、、年頃としごろ年頃としごろとしごろ何事なにごと何事なにごとなにごとををを飽あ飽ああかかかぬぬぬ事こと事ことことありありありててて思おも思おもおもひひいつつつらむらむらんとととあやしきあやしきあやしきまでまでまでうちうちうちまもらまもらまもられれれ給たま給たまたまふふう
  18. 18「「「院ゐん院ゐんいんなどなどなどににに參まゐ參まゐまいりりりててていといといと疾と疾ととくくくまかでまかでまかでなななむむん。。。かやうかやうかようにてにてにて覺束おぼつか覺束おぼつかおぼつかなからなからなからずずず見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららばばばうれしかるうれしかるうれしかるべきべきべきををを、、、宮みや宮みやみやのののつとつとつとおはするおはするおわするににに心こころ心こころこころなくなくなくやややとととつゝみつゝみつつみててて過す過すすぐしぐしぐしつるつるつるももも苦くる苦くるくるしきしきしきををを、、、
  19. 19猶なほ猶なほなおやうやうやうやうようよう心こころ心こころこころ强づよ强づよづよくくくおぼしおぼしおぼしなしなしなしててて例れい例れいれいのののおましおましおまし所どころ所どころどころにににこそこそこそあまりあまりあまり若わか若わかわかくくくもてなしもてなしもてなし給たま給たまたまへへえばばば、、、かたへかたへかたえはははかくかくかくててて物もの物ものものししし給たま給たまたまふふうぞぞぞ」」」などなどなど聞きこ聞きこきこえええおきおきおき給たま給たまたまひひいててていといといと淸きよ淸きよきよげげげにににうちうちうちさうぞきさうぞきそうぞきててて出い出いいででで給たま給たまたまふふうををを、、、常つね常つねつねよりよりよりははは目め目めめとゞめとゞめとどめててて見み見みみいだしいだしいだしててて臥ふ臥ふふししし給たま給たまたまへへえりりり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

物の怪が少し声を静めなさったので、少し落ち着いた間があるのかと、大宮が薬湯を持ってお寄せになったところ、葵の上は抱き起こされなさって、まもなくお生まれになった。うれしいとお思いになることこの上ないが、よりましに移しなさった物の怪たちがねたましがって騒ぎ立てる様子が、たいそう騒がしくて、後産のこともまたたいそう心配である。

言い尽くせないほどの願を立てさせなさったせいか、無事にすべて終わったので、比叡山の座主や誰彼という尊い僧たちは、得意顔で汗を押しぬぐいながら、急いで退出した。大勢の人が心を尽くしてきた数日の名残で、少しほっとして、今はもう大丈夫だろうとお思いになる。御修法などは、また改めて始め加えさせなさるが、まずは喜びにあふれて、珍しい若君のお世話に、誰もが気がゆるんでいる。

院をはじめとして、親王たちや上達部が残らず贈る産養の品々が、珍しく盛大なのを、毎夜見て騒ぎ立てる。男の子でいらっしゃるので、その間の儀式はにぎやかで、すばらしい。

あの御息所は、こうしたご様子をお聞きになっても、穏やかではない。前々からたいそう危ないと聞いていたのに、無事にお産みになったのかと、はっとお思いになった。妙に自分が自分でないような気持ちを思い続けなさると、お召し物などにも、ただ芥子の香が染みついている。

不思議さに、髪を洗い、お召し物を着替えなどなさって試してごらんになるが、やはり同じようにばかりあるので、わが身ながらさえいとわしくお思いになるのに、まして人が言ったり思ったりすることなどは、人におっしゃれることでもないので、心一つにお嘆きになるうちに、いっそうお心の乱れもつのっていく。

大将殿は、気持ちが少し落ち着いて、あの時のあきれるような御息所の生霊の問わず語りも、つらく思い出されなさって、たいそう長く無沙汰をしてしまったのも気の毒で、また近くでお会いするのは、どうにもいやな気持ちがするに違いないが、御息所のためには気の毒だと、いろいろにお思いになって、お手紙だけを差し上げた。

ひどく患っていらっしゃった葵の上のご病後が不安で、誰もが気をゆるせないようにお思いなので、もっともなことで、源氏はお出かけもなさらない。葵の上は、まだたいそう苦しそうにばかりしていらっしゃるので、いつものようにはまだお会いにならない。

若君が不吉なまでにかわいらしく見えなさるご様子を、今からたいそう格別に大切にお世話申し上げなさる様子は並々でない。望みがかなった気持ちがして、大臣もうれしく、すばらしいと思い申し上げていらっしゃるが、ただ葵の上のご気分がすっかりよくならないのを心配にお思いになるが、あれほどひどかった病の名残なのだろうとお思いになって、どうしてそうばかり心配なさろうか。

若君の目もとの美しさなどが、東宮にたいそう似ていらっしゃるのをご覧になるにつけても、源氏はまず東宮が恋しく思い出されなさって、我慢しきれずに、参内しようとして、「宮中などにも長いこと参上しておりませんので、気がふさいで、今日初めて出かけるのですが、少しお近くでお話し申し上げたいものです。あまりにもよそよそしいお心の隔てですね」と恨み申し上げなさると、

女房たちが「本当に、いつまでも、ただ体裁ばかりつくろっていてよいものでしょうか」と言って、葵の上の臥していらっしゃる所に、源氏のお座席を近くに設けたので、源氏は入って何かとお話し申し上げなさる。お返事を時々申し上げなさるのも、まだたいそう弱々しい。

けれども、もう亡くなる人と思い申し上げたご様子を思い出しなさると、夢のような気持ちがして、危なかった時のことなどをお話し申し上げなさるついでにも、あのすっかり息も絶えたようでいらっしゃったのが、打って変わってぶつぶつとおっしゃったことなどを思い出しなさると、つらいので、

「さあ、お話ししたいことはたいそう多いけれど、まだたいそうだるそうにお思いのようだから」と言って、「お薬湯を召し上がれ」などと世話までして差し上げなさるのを、いつお習いになったのだろうと、女房たちはしみじみと感心し申し上げる。

たいそう美しい人が、ひどく弱ってやつれて、あるかないかの様子で臥していらっしゃる様子は、たいそういじらしく、痛々しい。御髪は乱れた筋もなく、はらはらと枕のあたりにかかっている様子がめったにないほどに見えるので、長年、何を不満に思っていたのだろうと、不思議なほどに見つめずにはいらっしゃれない。

「院などに参って、すぐに退出しましょう。このように、心配せずにお会いできたらうれしいでしょうが、大宮がずっとついていらっしゃるので、気がきかないかと遠慮して過ごしてきたのもつらいので、やはり少しずつ気を強くお持ちになって、いつものお部屋に(お戻りなさい)。あまり子どもっぽくふるまっていらっしゃるので、一つにはこうして長引いていらっしゃるのです」などと申し置きなさって、たいそうきれいに装束を整えてお出かけになるのを、葵の上は、いつもよりは目をとめて、見送りながら臥していらっしゃった。

意訳

物の怪が少し静まった隙に、葵の上は男子を出産する。左大臣家は喜びに包まれ、院をはじめ多くの人々から盛大な祝いが贈られる。

御息所は、自分の衣に祈祷の芥子の香が染みついていて、洗っても落ちないのに気づく。生霊の正体が自分であったことを、身をもって思い知るのである。

源氏は、ようやく打ち解けた葵の上をいとしく思い、看病をする。そして院へ参上するために出かける。葵の上はその後ろ姿を、いつもより目をとめて見送る。

語釈・文法注

うぶやしなひ
産養(うぶやしない)。子が生まれた三日目・五日目・七日目・九日目の夜に行う祝宴。親族や知人が衣服や食物を贈った。
芥子
芥子(けし)。加持祈祷の護摩で焚くもの。御息所の衣にその香が染みついていたことで、御息所の魂が祈祷の場にいたことがわかる。

文法

反語の「いかでかは…む」(いかでかはさのみは心をも惑はし給はむ)
「どうしてそうばかり心配なさろうか、いや、なさらない」。
「こそ…め」の省略(例のおまし所にこそ)
「いつものお部屋にお戻りなさい」の意で、後を言いさしている。

解説

御息所の衣に芥子の香が染みついているという描写は、源氏物語の中でもっとも恐ろしい場面の一つである。御息所自身は葵の上を呪うつもりはなかったのに、魂は祈祷の場にいて、その痕跡が体に残っている。理性ではどうすることもできない情念の恐ろしさが、香りという具体的な形で示される。

葵の上と源氏は、結婚して十年近くたって、ようやく心を通わせ始める。葵の上が出かける源氏を「常よりは目とゞめて」見送るのは、二人の最後の別れとなる伏線である。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、172–175頁(コマ88–89)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日