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源氏物語 第9帖 葵(3)

紫の君の髪そぎと源典侍

登場人物:光源氏・紫の君・少納言の乳母・源典侍・惟光

車争いを聞いた源氏は御息所を気の毒に思って訪ねるが、会ってもらえない。祭の当日、源氏は紫の君の髪を自らそぎ、歌を詠み交わして、ともに見物に出かける。見物の場所に困っていると、ある女車から場所を譲ろうと声がかかる。それは老いてなお色めかしい源典侍だった。

二条院で、源氏が幼い紫の君の長い黒髪の端を、自ら鋏でそいでやっている場面(AI生成)
二条院で、源氏が幼い紫の君の長い黒髪の端を、自ら鋏でそいでやっている場面
  1. 1まつりまつりまつりののの日ひ日ひひははは大殿おほいとの大殿おほいとのおおいとのにににははは物見ものみ物見ものみものみ給たま給たまたまははわずずず。。。大將だいしやう大將だいしやうだいしょうののの君きみ君きみきみ、、、かのかのかの御車みくるま御車みくるまみくるまののの所ところ所ところところあらそひあらそひあらそいをををまねびまねびまねび聞きこ聞きこきこゆるゆるゆる人ひと人ひとひとありありありけれけれければばばいといといといとほしういとほしういとおしゅう憂う憂ううしししとととおぼしおぼしおぼしててて、、、
  2. 2猶なほ猶なほなおあたらあたらあたらおもりかおもりかおもりかににに坐おは坐おはおわするするする人ひと人ひとひとののの、、、ものものものににになさけなさけなさけ後おく後おくおくれれれてててすくすくしきすくすくしきすくすくしき所ところ所ところところつきつきつき給たま給たまたまへへえるるるあまりあまりあまりににに自みづか自みづかみずからららはははさしもさしもさしもおぼさおぼさおぼさゞゞざめれめれめれどどど、、、かゝるかゝるかかるなからひなからひなからいははは情なさけ情なさけなさけかはすかはすかわすべきべきべきものものものととともももおぼいおぼいおぼいたらたらたらぬぬぬををを御心みこころ御心みこころみこころおきておきておきてににに從したが從したがしたがひひいててて、、、つきづきつきづきつきづきよからよからよからぬぬぬ人ひと人ひとひとのののせせせさせさせさせたるたるたるならならならむむんかしかしかし。。。
  3. 3御おん御おんおんやすやすやす所どころ所どころどころははは心こころ心こころこころばせばせばせのののいといといとはづかしくはづかしくはずかしくよしよしよしありありありててておはするおはするおわするものものものををを、、、いかにいかにいかにおぼしおぼしおぼしうんじうんじうんじにににけむけむけんととといとほしういとほしういとおしゅうててて參ま參まもうううででで給たま給たまたまへへえりりりけれけれけれどどど、、、齋宮さいぐう齋宮さいぐうさいぐうのののまだまだまだもともともとののの宮みや宮みやみやにににおはしませおはしませおわしませばばば、、、榊さかき榊さかきさかきのののはゞかりはゞかりはばかりにににことづけことづけことづけててて、、、心こころ心こころこころ安やす安やすやすくくくもももたいめんたいめんたいめんししし給たま給たまたまははわずずず。。。ことわりことわりことわりとととはははおぼしおぼしおぼしながらながらながら「「「なぞなぞなぞやややかくかくかくかたみかたみかたみにににそばそばしからそばそばしからそばそばしからででで坐おは坐おはおわせせせよよよかしかしかし」」」とととうちうちうちつぶやかつぶやかつぶやかれれれ給たま給たまたまふふう。。。
  4. 4今日けふ今日けふきょうははは二條院にでうのゐん二條院にでうのゐんにじょういんににに離はな離はなはなれれれおはしおはしおわしててて祭まつり祭まつりまつり見み見みみににに出い出いいででで給たま給たまたまふふう。。。西にし西にしにしののの對たい對たいたいにににわたりわたりわたり給たま給たまたまひひいててて惟光これみつ惟光これみつこれみつににに車くるま車くるまくるまののの事こと事ことこと仰おほ仰おほおおせせせたりたりたり。。。「「「女房にようばう女房にようばうにょうぼう出い出いいででで立た立たたつつつややや」」」とととのたまひのたまひのたまいててて、、、姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみのののいといといと美うつく美うつくうつくしげしげしげにににつくろひつくろひつくろい立た立たたてゝてゝてておはするおはするおわするををを、、、うちうちうちゑみゑみえみててて見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまふふう
  5. 5「「「君きみ君きみきみはははいざいざいざ給たま給たまたまへへえ、、、諸共もろとも諸共もろとももろともににに見み見みみむむんよよよ」」」とととててて御おん御おんおんぐしぐしぐしののの常つね常つねつねよりよりよりももも淸きよ淸きよきよらららににに見み見みみゆるゆるゆるををを、、、かきかきかきなでなでなで給たま給たまたまひひいててて「「「久ひさ久ひさひさしうしうしゅうそぎそぎそぎ給たま給たまたまははわざざざめるめるめるををを今日けふ今日けふきょうはははよきよきよき日ひ日ひひならならならむむんかしかしかし」」」とととててて、、、曆こよみ曆こよみこよみののの博士はかせ博士はかせはかせ召め召めめしししててて時とき時ときとき問と問ととはははせせせなどなどなどししし給たま給たまたまふふう程ほど程ほどほどににに
  6. 6「「「まづまづまず女房にようばう女房にようばうにょうぼう出い出いいでででねねね」」」とととててて童わらは童わらはわらわののの姿すがた姿すがたすがたどもどもどものののをかしげをかしげおかしげなるなるなるををを御覽ごらん御覽ごらんごらんずずず。。。いといといとらうたげらうたげろうたげなるなるなる髮かみ髮かみかみどもどもどもののの裾すそ裾すそすそ華はな華はなはなやかやかやかにににそぎそぎそぎわたしわたしわたしててて浮紋うきもん浮紋うきもんうきもんのののうへうへうえののの袴はかま袴はかまはかまにににかゝれかゝれかかれるるる程ほど程ほどほどけざやかけざやかけざやかににに見み見みみゆゆゆ。。。
  7. 7「「「君きみ君きみきみののの御おん御おんおんぐしぐしぐしははは我わ我わわそがそがそがむむん」」」とととててて「「「うたてうたてうたて所ところ所ところところせうせうせうもももあるあるあるかなかなかな。。。如何いか如何いかいかにににおひやらおひやらおいやらむむんとととすすすらむらむらん」」」とととそぎそぎそぎわづらひわづらひわずらい給たま給たまたまふふう。。。「「「いといといと長なが長ながながききき人ひと人ひとひともももひたひひたひひたい髮がみ髮がみがみははは少すこ少すこすこししし短みじか短みじかみじかくくくぞぞぞあああめるめるめるをををむげむげむげににに後おく後おくおくれれれたるたるたるすぢすぢすじのののなきなきなきやややあまりあまりあまりなさけなさけなさけなからなからなからむむん」」」とととてててそぎそぎそぎはてゝはてゝはてて「「「」」」ととと祝いは祝いはいわひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうををを、、、少納言せうなごん少納言せうなごんしょうなごん哀あはれ哀あはれあわれにににかたじけなしかたじけなしかたじけなしととと見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつるるる。。。
  8. 8「「「はかりはかりはかりなきなきなきちひろちひろちひろののの底そこ底そこそこのののみるぶさみるぶさみるぶさののの生お生おおひひいゆくゆくゆく末すゑ末すゑすえはははわれわれわれのみのみのみぞぞぞ見み見みみむむん」」」ととと聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえばばば、、、「「「千尋ちひろ千尋ちひろちひろととともももいかでいかでいかでかかか知し知ししらららむむんさだめさだめさだめなくなくなくみちひるみちひるみちひる潮しほ潮しほしおののののどけからのどけからのどけからぬぬぬににに」」」とととものものものににに書か書かかきききつけつけつけててて坐おは坐おはおわするするするさまさまさま、、、らうらうしきらうらうしきろうろうしきものものものからからから若わか若わかわこうううをかしきをかしきおかしきをををめでたしめでたしめでたしとととおぼすおぼすおぼす。。。
  9. 9今日けふ今日けふきょうももも所ところ所ところところもももなくなくなく立た立たたちちちこみこみこみにににけりけりけり。。。うまうまうま塲ば塲ばばののののののほどほどほどににに立た立たたててて煩わづら煩わづらわずらひひいててて、、、「「「上達部かんだちめ上達部かんだちめかんだちめののの車くるま車くるまくるまどもどもども多おほ多おほおおくくくててて物もの物ものもの騷さわが騷さわがさわがしげしげしげなるなるなるわたりわたりわたりかなかなかな」」」ととと休やす休やすやすらひらひらい給たま給たまたまふふうににに、、、
  10. 10よろしきよろしきよろしきをんなをんなおんな車ぐるま車ぐるまぐるまのののいたういたういとう乘の乘ののりりりこぼれこぼれこぼれたるたるたるよりよりより扇あふぎ扇あふぎおうぎをををさしさしさし出い出いいでゝでゝでて人ひと人ひとひとををを招まね招まねまねききき寄よ寄よよせせせててて「「「こゝこゝここにににやややははは立た立たたたたたせせせ給たま給たまたまははわぬぬぬ所ところ所ところところさりさりさり聞きこ聞きこきこえええむむん」」」ととと聞きこ聞きこきこえええたりたりたり。。。
  11. 11いかなるいかなるいかなるすきすきすき者もの者ものものならならならむむんとととおぼさおぼさおぼされれれててて、、、所ところ所ところところもももげにげにげによきよきよきわたりわたりわたりなれなれなればばば引ひ引ひひききき寄よ寄よよせせせさせさせさせ給たま給たまたまひひいててて「「「いかでいかでいかでかかか得え得ええ給たま給たまたまへへえるるる所ところ所ところところぞぞぞとととねたさねたさねたさににになむなむなん」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、よしよしよしあるあるある扇あふぎ扇あふぎおうぎのののつまつまつまををを折を折をおりりりててて、、、
  12. 12「「「はかなしはかなしはかなしややや人ひと人ひとひとのののかざせかざせかざせるるるあふひあふひあおいゆゑゆゑゆえ神かみ神かみかみのののしるししるししるしのののけふけふきょうををを待ま待ままちちちけるけるける。。。しめしめしめのののうちうちうちにににははは」」」とととあるあるある手て手ててをををおぼしおぼしおぼし出い出いいづれづれずればばば、、、かのかのかの源內侍げんないし源內侍げんないしげんないしのののなりなりなりけりけりけり。。。
  13. 13あさましうあさましうあさましゅうふりふりふり難がた難がたがたくくくももも今いま今いまいまめくめくめくかなかなかなととと憎にく憎にくにくさささにににはしたなうはしたなうはしたのう、、、「「「かざしかざしかざしけるけるける心こころ心こころこころぞぞぞあだあだあだにににおもほゆるおもほゆるおもおゆる八十氏人やそうぢびと八十氏人やそうぢびとやそうじびとよよよなべてなべてなべてあふひあふひあおいををを」」」。。。女をんな女をんなおんなはづかしはづかしはずかしととと思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええたりたりたり。。。「「「くやしくくやしくくやしくもももかざしかざしかざしけるけるけるかなかなかな名な名ななのみのみのみしししててて人ひと人ひとひと賴だの賴だのだのめめめなるなるなる草葉くさば草葉くさばくさばばかりばかりばかりををを」」」ととと聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。
  14. 14人ひと人ひとひととととあひあひあい乘の乘ののりりりてててすだれすだれすだれをををだにだにだに上あ上ああげげげ給たま給たまたまははわぬぬぬををを心こころ心こころこころやましうやましうやましゅう思おも思おもおもふふう人ひと人ひとひと多おほ多おほおおかりかりかり。。。一日ひとひ一日ひとひひとひののの御おん御おんおんありさまありさまありさまののの麗うる麗うるうるはしかりはしかりわしかりしにしにしに、、、今日けふ今日けふきょうはははうちうちうち亂みだ亂みだみだれれれてててありきありきありき給たま給たまたまふふうかしかしかし。。。誰たれ誰たれたれならならならむむん、、、乘の乘ののりりり並なら並ならならぶぶぶ人ひと人ひとひとけしうけしうけしゅうはははあらあらあらじじじはははやややととと推お推おおししし量はか量はかはかりりり聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。
  15. 15挑いど挑いどいどましからましからましからぬぬぬかざしかざしかざし爭あらそ爭あらそあらそひひいかなかなかなととと、、、さうざうしくさうざうしくそうぞうしくおぼせおぼせおぼせどどど、、、かやうかやうかようにににいといといとおもなからおもなからおもなからぬぬぬ人ひと人ひとひとはたはたはた、、、人ひと人ひとひとあひあひあい乘の乘ののりりり給たま給たまたまへへえるるるにににつゝまつゝまつつまれれれててて、、、はかなきはかなきはかなき御おん御おんおんいらへいらへいらえももも心こころ心こころこころ安やす安やすやすくくく聞きこ聞きこきこえええむむんもももまばゆしまばゆしまばゆしかしかしかし。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

祭の日は、左大臣家では見物をなさらない。大将の君(源氏)は、あの車の場所争いのことを話してお聞かせする人があったので、たいそう気の毒で、つらいことだとお思いになって、

やはり惜しいことに、重々しくていらっしゃる人(葵の上)が、何かにつけて情愛に欠けて、そっけない所がおありになるあまりに、ご自身はそれほどお思いでないだろうが、こうした間柄の者どうしは、情けをかけ合うべきものともお考えにならないので、そのお心に従って、仕える者たちのうち、気のきかない者がしたことなのだろう。

御息所は、気だてがたいそう奥ゆかしく、たしなみ深くていらっしゃるのに、どんなにかいやな思いをなさったことだろうと、気の毒になって、お訪ねになったけれど、斎宮がまだ元の御殿にいらっしゃるので、神事に仕える榊の遠慮にかこつけて、気安くお会いにならない。もっともなことだとお思いになりながらも、「どうしてこのように、お互いによそよそしくしないでいてくださらないのか」と、ついつぶやかずにはいらっしゃれない。

今日は二条院に離れていらして、祭を見にお出かけになる。西の対においでになって、惟光に車のことをお命じになった。「女房たちも出かけるのか」とおっしゃって、姫君(紫の君)がたいそうかわいらしく着飾っていらっしゃるのを、にっこりとご覧になる。

「さあ、いっしょに見物しましょうよ」と言って、御髪がいつもよりきれいに見えるのを、かきなでなさって、「長い間、髪をそいでいらっしゃらないようだが、今日は日がよいだろう」と言って、暦の博士を呼んで、髪そぎによい時刻を尋ねさせなどなさるうちに、

「まず女房たちから出かけなさい」と言って、童女たちのかわいらしい姿をご覧になる。たいそういじらしい髪の裾を華やかにそろえてそいで、浮紋の表袴にかかっているところが、くっきりと見える。

「姫君の御髪は私がそいであげよう」と言って、「いやに量が多いことだ。どれほど長く伸びていくつもりなのだろう」と、そぐのにお困りになる。「たいそう髪の長い人も、額髪は少し短いようだが、全然短い髪がないのも、かえって風情がないだろう」と言って、そぎ終えて、「千尋」と祝いの言葉を申し上げなさるのを、少納言の乳母は、しみじみともったいないことだと拝見する。

「測り知れない千尋の海の底の海松のように、豊かに伸びていく髪の行く末は、私だけが見届けよう」と申し上げなさると、紫の君は「千尋の深さとまで、どうしてわかりましょう。定めなく満ち引きする潮のように、落ち着かないあなたのお心なのに」と紙に書きつけていらっしゃる様子が、もの慣れているようでいて、若々しくかわいらしいのを、すばらしいとお思いになる。

今日も、すき間もなく車が立てこんでいた。馬場殿のあたりで車を止める場所に困って、「上達部の車が多くて、騒がしそうなあたりだなあ」とためらっていらっしゃると、まずまずの女車で、ひどく袖口をこぼれ出させているものから、扇を差し出して人を招き寄せて、「ここにお止めになりませんか。場所をお譲り申しましょう」と申し上げた。

どんな色好みの女だろうとお思いになって、場所も本当によいあたりなので、車を引き寄せさせなさって、「どうやって手に入れなさった場所かと、うらやましくて」とおっしゃると、趣のある扇の端を折って、「むなしいことです。ほかの人とかざしている葵なのに、神の許しで逢える日と、今日を待っていたとは。しめの内には(入れませんね)」と書いてある筆跡を思い出しなさると、あの源典侍だった。

あきれたことに、年をとってもまだ若々しくふるまうことだと、憎らしさに素っ気なく、「葵をかざしていたあなたの心こそ浮気に思われます。大勢の人の誰とでも、逢う日としているのですから」と返す。女は恥ずかしいと思い申し上げた。「くやしいことに、かざしてしまいました。『逢ふ日』とは名ばかりで、人に期待させるだけの草葉なのに」と申し上げる。

源氏が女と同じ車に乗って、簾さえ上げなさらないのを、面白くなく思う人が多い。先日の御禊の日のご様子がきちんとしていらしたのに、今日はくつろいで出歩いていらっしゃることよ。誰だろう、いっしょに乗っている人は、並の人ではあるまい、と推測し申し上げる。張り合いのないかざし争いだなあと、物足りなくお思いになるが、この女のようにあつかましい人でさえ、源氏が人と同乗していらっしゃるのに遠慮されて、ちょっとしたご返事も、気安く申し上げるのは気恥ずかしいことだろう。

意訳

源氏は車争いのことを聞いて、葵の上の気位の高さが招いたことだと考え、御息所を見舞うが、斎宮の潔斎を理由に会ってもらえない。

祭の当日、源氏は紫の君の髪を自らそいでやり、その成長を見守る歌を詠む。紫の君は、源氏の移り気を潮の満ち引きにたとえて返す。幼いながらも、源氏の女性関係を感じ取っているのである。

見物の場所に困っていた源氏に、場所を譲ろうと声をかけてきたのは、あの源典侍だった。葵(逢ふ日)をめぐって、二人は機知に富んだ歌を詠み交わす。

語釈・文法注

ちひろ
千尋(ちひろ)。髪そぎの後に唱える祝いの言葉。髪が千尋(非常に長く)伸びるようにと祈る。
うま塲のおとゞ
馬場殿(うまばのおとど)。一条大路に面した、右近の馬場の建物。
源內侍のすけ
源典侍(げんのないしのすけ)。紅葉賀の巻に登場した、年老いても色好みの女官。

文法

反語の「いかでか…む」(いかでか知らむ)
「どうしてわかろうか、わからない」。
「こそ…め」の勧誘(立たせ給はぬ)
「ここにお止めになりませんか」。「や」を伴って相手に勧める。

和歌

はかりなきちひろの底のみるぶさの生ひゆく末はわれのみぞ見む

詠者
光源氏
状況
紫の君の髪をそいだ後、源氏が詠んだ歌。測り知れない千尋の海の底の海松(みる)のように、豊かに伸びていく髪の行く末は、私だけが見届けよう。

修辞

掛詞
「みるぶさ」(海松房、海藻)に「見る」をかけ、髪の豊かさにたとえる。

千尋ともいかでか知らむさだめなくみちひる潮ののどけからぬに

詠者
紫の君
状況
源氏の歌への返歌。千尋の深さとまで、どうしてわかりましょう。定めなく満ち引きする潮のように、落ち着かないあなたのお心なのに。

修辞

比喩
満ち引きする潮に、ほかの女性へ通う源氏の心の移ろいやすさを重ねる。

はかなしや人のかざせるあふひゆゑ神のしるしのけふを待ちける

詠者
源典侍
状況
場所を譲るという女車から、扇に書いて差し出された歌。むなしいことです。ほかの人とかざしている葵なのに、神の許しで逢える日と、今日を待っていたとは。

修辞

掛詞
「あふひ」に祭の「葵」と「逢ふ日」をかける。

かざしける心ぞあだにおもほゆる八十氏人よなべてあふひを

詠者
光源氏
状況
源典侍への返歌。葵をかざしていたあなたの心こそ浮気に思われます。大勢の人の誰とでも、逢う日としているのですから。

修辞

掛詞
「あふひ」に「葵」と「逢ふ日」をかける。

くやしくもかざしけるかな名のみして人賴めなる草葉ばかりを

詠者
源典侍
状況
源氏への返歌。くやしいことに、かざしてしまいました。「逢ふ日」とは名ばかりで、人に期待させるだけの草葉なのに。

解説

車争いの直後に、紫の君の髪そぎの場面が置かれている。御息所と葵の上という二人の高貴な女性の対立と、源氏が自らの手で育てている幼い紫の君とが、対照的に描かれる。

源典侍との歌のやりとりは、葵の巻の重苦しい雰囲気の中で、ほっと一息つかせる滑稽な場面である。「葵」と「逢ふ日」の掛詞は、賀茂祭の歌の定番である。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、166–169頁(コマ85–86)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日