古典ライブラリー

源氏物語 第9帖 葵(2)

車争い

登場人物:光源氏・六条御息所・葵の上・式部卿宮・朝顔の姫君

見物の場所を取るため、葵の上の供人たちはほかの車を押しのける。その中に、お忍びで来ていた六条御息所の車があった。供人たちは御息所の車を奥へ押しやり、榻も折ってしまう。御息所は辱めを受けたうえ、源氏が自分に気づかず通り過ぎるのを見て、いっそう悲しむ。源氏の晴れ姿に、見物の人々は身分を問わず心を奪われる。

賀茂の祭の車争いで場所を押しのけられた牛車のそばを、源氏が供人たちとともに馬で通りかかる場面(AI生成)
賀茂の祭の車争いで場所を押しのけられた牛車のそばを、源氏が供人たちとともに馬で通りかかる場面
  1. 1よきよきよき女房車にようばうぐるま女房車にようばうぐるまにょうぼうぐるま多おほ多おほおおくくくててて、、、ののの人ひと人ひとひとなきなきなきひまひまひまををを思おも思おもおもひひい定さだ定さださだめめめててて皆みな皆みなみなさしさしさしのけのけのけさするさするさする中なか中なかなかににに、、、ののの少すこ少すこすこしししなれなれなれたるたるたる、、、したすだれしたすだれしたすだれのののさまさまさまなどなどなどよしばめよしばめよしばめるるるにににいたういたういとう引ひ引ひひききき入い入いいりりりてててほのかほのかほのかなるなるなる袖口そでぐち袖口そでぐちそでぐち裳も裳ももののの裾すそ裾すそすそかざみかざみかざみなどなどなど物もの物ものものののの色いろ色いろいろいといといと淸きよ淸きよきよらららにてにてにて、、、殊更ことさら殊更ことさらことさらににに窶やつ窶やつやつれれれたるたるたるけはひけはひけわいしるくしるくしるく見み見みみゆるゆるゆる車くるま車くるまくるま二ふた二ふたふたつつつありありあり。。。
  2. 2「「「これこれこれははは更さら更さらさらにににさやうさやうさようにににさしさしさしのけのけのけなどなどなどすすすべきべきべき御車みくるま御車みくるまみくるまにもにもにもあらあらあらずずず」」」ととと口くち口くちくちごはくごはくごわくててて手て手てて觸ふ觸ふふれれれさせさせさせずずず。。。いづいづいず方かた方かたかたにににももも若わか若わかわかきききものものものどもどもども醉ゑ醉ゑえひひい過す過すすぎぎぎ立た立たたちちち騷さわ騷さわさわぎぎぎたるたるたる程ほど程ほどほどのののことことことはははえええしたゝめしたゝめしたためあへあへあえずずず。。。
  3. 3おとなおとなしきおとなおとなしきおとなおとなしきののの人々びと人々びとびとははは、、、「「「かくかくかくななな」」」ととといへいへいえどどどえええとゞめとゞめとどめあへあへあえずずず。。。齋宮さいぐう齋宮さいぐうさいぐうののの御母おほんはは御母おほんははおおんはは御おん御おんおんやすやすやす所どころ所どころどころ、、、物もの物ものものおぼしおぼしおぼし亂みだ亂みだみだるゝるゝるる慰なぐさ慰なぐさなぐさめめめにににもももやややととと忍しの忍しのしのびびびててて出い出いいででで給たま給たまたまへへえるるるなりなりなりけりけりけり。。。つれなしつれなしつれなしづくれづくれづくれどどどおのづからおのづからおのずから見み見みみ知し知ししりりりぬぬぬ。。。
  4. 4「「「さばかりさばかりさばかりにてにてにてはははさささななないはいはいわせせせそそそ、、、大將殿だいしやうどの大將殿だいしやうどのだいしょうどのをををぞぞぞにににははは思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこゆゆゆらむらむらん」」」などなどなどいふいふいうををを、、、そのそのその御方かた御方かたかたののの人々びと人々びとびとももも交まじ交まじまじれゝれゝれればばばいとほしいとほしいとおしととと見み見みみながらながらながら用意ようい用意よういよういせせせむむんももも煩わづら煩わづらわずらはしけれはしけれわしければばば、、、しらしらしらずずず顏がほ顏がほがおをををつくるつくるつくる。。。
  5. 5遂つひ遂つひついににに御車みくるま御車みくるまみくるまどもどもども立た立たたててて續つづ續つづつづけけけつれつれつればばば、、、ののの奥おく奥おくおくにににおしおしおしやらやらやられれれてててものものものももも見み見みみえええずずず。。。心こころ心こころこころやましきやましきやましきをををばばばさるさるさるものものものにてにてにて、、、かゝるかゝるかかるやつれやつれやつれをををそれそれそれととと知し知ししららられれれぬるぬるぬるがががいみじういみじういみじゅう妬ねた妬ねたねたきききことことこと限かぎ限かぎかぎりりりなしなしなし。。。
  6. 6などなどなどももも皆みな皆みなみな押お押おおししし折を折をおららられれれてててすゞろすゞろすずろなるなるなる車くるま車くるまくるまののの胴どう胴どうどうにににうちうちうちかけかけかけたれたれたればばば又また又またまたなうなうのう人ひと人ひとひとわろくわろくわろく悔くや悔くやくやしうしうしゅう、、、何なに何なになにににに來き來ききつつつらむらむらんととと思おも思おもおもふふうにににかひかひかいなしなしなし。。。物もの物ものものももも見み見みみででで歸かへ歸かへかえらららむむんとととししし給たま給たまたまへへえどどど通とほ通とほとおりりり出い出いいでででむむんひまひまひまもももなきなきなきににに、、、「「「ことことことなりなりなりぬぬぬ」」」ととといへいへいえばばば、、、さすがさすがさすがにににつらきつらきつらき人ひと人ひとひとののの御おん御おんおんまへまへまえわたりわたりわたりののの待ま待ままたたたるゝるゝるるももも心こころ心こころこころ弱よわ弱よわよわしししややや。。。
  7. 7さゝさゝささのののくまくまくまにににだにだにだにあらあらあらねねねばばばにににややや、、、つれなくつれなくつれなく過す過すすぎぎぎ給たま給たまたまふふうにににつけつけつけてててもももなかなかなかなかなかなか御心みこころ御心みこころみこころづくしづくしづくしなりなりなり。。。
  8. 8げにげにげに常つね常つねつねよりよりよりももも好この好このこのみみみ整ととの整ととのととのへへへたるたるたる車くるま車くるまくるまどもどもどもののの、、、我わ我わわももも我わ我わわもももととと乘の乘ののりりりこぼれこぼれこぼれたるたるたるしたすだれしたすだれしたすだれのののすきすきすき間ま間ままどもどもどもゝゝもさらさらさらぬぬぬがほがほがおなれなれなれとととほゝゑみほゝゑみほほえみつゝつゝつつしりしりしり目め目めめにににとゞめとゞめとどめ給たま給たまたまふふうもももありありあり。。。大おほ大おほおおとのとのとのゝゝのはははしるけれしるけれしるければばばまめだちまめだちまめだちててて渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまふふう。。。
  9. 9御供とも御供ともともののの人々びと人々びとびとうちうちうち畏かしこ畏かしこかしこまりまりまり心こころ心こころこころばへばへばえありありありつゝつゝつつ渡わた渡わたわたるるるををを押お押おおしししけたけたけたれれれたるたるたるありさまありさまありさまこよなうこよなうこよのうおぼさるおぼさるおぼさる。。。
  10. 10「「「かげかげかげをををのみのみのみみたらしみたらしみたらし川がは川がはがわのののつれなきつれなきつれなきににに身み身みみのののうきうきうき程ほど程ほどほどぞぞぞいとゞいとゞいとど知し知ししらららるゝるゝるる」」」ととと淚なみだ淚なみだなみだのののこぼるゝこぼるゝこぼるるををを人ひと人ひとひとののの見み見みみるるるもももはしたなけれはしたなけれはしたなけれどどど、、、めめめもももあやあやあやなるなるなる御おん御おんおんさまさまさまかたちかたちかたちのののいとゞしういとゞしういとどしゅう出い出いいでででばえばえばえををを見み見みみざらざらざらましかましかましかばばばとととおぼさるおぼさるおぼさる
  11. 11ほどほどほどほどほどほどにににつけつけつけててて、、、さうぞくさうぞくそうぞく人ひと人ひとひとののの有樣ありさま有樣ありさまありさま、、、いみじういみじういみじゅう整ととの整ととのととのへへへたりたりたりととと見み見みみゆるゆるゆるなかなかなかにににももも上達部かんだちめ上達部かんだちめかんだちめはははいといといと殊こと殊ことことなるなるなるををを、、、ひとひとひと所ところ所ところところののの御おん御おんおんひかりひかりひかりにににはははおしおしおしけたけたけたれれれたたためりめりめり。。。
  12. 12大將だいしやう大將だいしやうだいしょうのののかりかりかりののの隨身ずいじん隨身ずいじんずいじんににに殿上てんじやう殿上てんじやうてんじょうのののなどなどなどのののするするすることことことははは常つね常つねつねののの事こと事ことことにににもももあらあらあらずずず、、、珍めづら珍めづらめずらしきしきしき行幸ぎやうかう行幸ぎやうかうぎょうこうなどなどなどののの折をり折をりおりのののわざわざわざなるなるなるををを、、、今日けふ今日けふきょうははは右近うこん右近うこんうこんののの藏人くらうど藏人くらうどくろうどのののざうざうぞう仕つか仕つかつこうううまつれまつれまつれりりり。。。
  13. 13さらさらさらぬぬぬ御おん御おんおん隨身ずいじん隨身ずいじんずいじんどもどもどもゝゝも、、、かたちかたちかたち姿すがた姿すがたすがたまばゆくまばゆくまばゆく整ととの整ととのととのへへへててて世よ世よよにににもてもてもてかしづかかしづかかしずかれれれ給たま給たまたまへへえるるるさまさまさま木草きくさ木草きくさきくさももも靡なび靡なびなびかかかぬぬぬはははあるあるあるまじげまじげまじげなりなりなり。。。
  14. 14壺つぼ壺つぼつぼなどなどなどいふいふいう姿すがた姿すがたすがたにてにてにて女によう女にようにょうばうばうぼうののの賤いや賤いやいやしからしからしからぬぬぬややや又また又またまた尼あま尼あまあまなどなどなどののの世よ世よよををを背そむ背そむそむきききけるけるけるなどなどなどももも外はづ外はづはずれれれまろびまろびまろびつゝつゝつつ物見ものみ物見ものみものみににに出い出いいでででたるたるたるもももれいれいれいはははあながちあながちあながちなりなりなりややや。。。
  15. 15あなあなあなにくにくにくととと見み見みみゆるゆるゆるににに今日けふ今日けふきょうはははことわりことわりことわりににに口くち口くちくちうちうちうちすげみすげみすげみててて髮かみ髮かみかみきこめきこめきこめたるたるたるあやしあやしあやしののの者もの者ものものどもどもどもののの手て手ててをををつくりつくりつくりてててひたひひたひひたいにににあてあてあてつゝつゝつつ見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりあげあげあげたるたるたるももも、、、をこがましげをこがましげおこがましげなるなるなる賤しづ賤しづしずののの夫を夫をおまでまでまで己おの己おのおのががが顏かほ顏かほかおのののならならならむむんさまさまさまをををばばば知し知ししらららでででゑみゑみえみさかえさかえさかえたりたりたり。。。
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  17. 17ましてましてましてこゝかしここゝかしこここかしこににに立た立たたちちち忍しの忍しのしのびびびててて通かよ通かよかよひひい給たま給たまたまふふう所々ところどころ所々ところどころところどころははは人ひと人ひとひと知し知ししれれれずずず數かず數かずかずならならならぬぬぬ歎なげ歎なげなげきききまさるまさるまさるももも多おほ多おほおおかりかりかりけりけりけり。。。
  18. 18式部卿宮しきぶきやうのみや式部卿宮しきぶきやうのみやしきぶきょうのみやさじきさじきさじきにてにてにてぞぞぞ見み見みみ給たま給たまたまひひいけるけるける。。。いといといとまばゆきまばゆきまばゆきまでまでまでねびねびねび行ゆ行ゆゆくくく人ひと人ひとひとのののかたちかたちかたちかなかなかな、、、神かみ神かみかみなどなどなどははは目め目めめもももこそこそこそとめとめとめ給たま給たまたまへへえとととゆゝしくゆゝしくゆゆしくおぼしおぼしおぼしたりたりたり。。。
  19. 19姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみははは、、、年頃としごろ年頃としごろとしごろ聞きこ聞きこきこえええ渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまふふう御心みこころ御心みこころみこころばへばへばえののの世よ世よよののの人ひと人ひとひとににに似に似ににぬぬぬをををなのめなのめなのめならならならむむんにてにてにてだにだにだにありありあり。。。ましてましてましてかうかうこうしもしもしもいかでいかでいかでととと御心みこころ御心みこころみこころとまりとまりとまりけりけりけり。。。いといといと近ちか近ちかちかくくくててて見み見みみえええむむんまでまでまではははおぼしおぼしおぼしよらよらよらずずず、、、若わか若わかわかききき人々びと人々びとびとははは聞き聞きききききにくきにくきにくきまでまでまでめでめでめで聞きこ聞きこきこえええあへあへあえりりり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

立派な女房車が多くて、雑人のいない場所を見定めて、供人たちがほかの車を皆押しのけさせる中に、網代車の少し使い慣れたもので、下簾の様子なども由緒ありげなのに、乗り手は奥深くに引っ込んで、わずかに見える袖口や裳の裾、汗衫など、衣装の色がたいそう美しく、わざと目立たないようにしている様子がはっきり見える車が二台ある。

「これは決して、そのように押しのけたりしてよいお車ではない」と、その車の供人たちが強く言って、手を触れさせない。どちらの側も、若い者たちが酔いすぎて騒いでいる時のことなので、取り鎮めることができない。年配の前駆の人々は「そんなことをするな」と言うが、止めることができない。

それは斎宮の母の御息所が、思い乱れる心の慰めにもなろうかと、こっそりお出かけになったのだった。素知らぬふりをしているが、自然とわかってしまった。「その程度の者に、そんな口をきかせるな。大将殿を頼みにしていると思っているのだろう」などと言うのを、源氏方の人々も交じっていたので、気の毒だとは思いながら、かばうのも面倒なので、知らないふりをする。

とうとう葵の上のお車を並べて立ててしまったので、御息所の車は副車の奥に押しやられて、何も見えない。腹立たしいのはもちろんのこと、こうした忍び姿を自分だと知られてしまったのが、たいそう悔しくてたまらない。

榻なども皆へし折られて、つまらない車の轂にかけてあるので、この上なく体裁が悪く、悔しく、どうして来てしまったのだろうと思っても、どうしようもない。見物もしないで帰ろうとなさるが、抜け出す隙間もないうちに、「行列が来た」と言うので、さすがにつれないあの人のお通りが待たれるのも、気の弱いことである。笹の隈でもないからか、源氏がつれなく通り過ぎていかれるにつけても、かえって物思いの限りを尽くすことになる。

本当に、いつもより趣向を凝らした車が、我も我もと袖口をこぼれ出させている下簾の隙間に、源氏は素知らぬ顔をしながらも、ほほえんで流し目をおとめになる車もある。左大臣家の車ははっきりわかるので、まじめな顔つきでお通りになる。お供の人々もかしこまって、敬意を示しながら通るので、御息所は押しのけられた自分のありさまを、この上なくみじめにお思いになる。

「御手洗川に映る姿だけを見て、つれなく通り過ぎて行くあの人。そのつれなさに、わが身の不幸せがいっそう思い知られることです」と、涙がこぼれるのを人が見るのも体裁が悪いけれど、まばゆいほどのお姿や顔立ちの、いっそう引き立った晴れ姿を、見なかったならと(それも残念だと)お思いになる。

身分に応じて、装束や人々の様子をたいそう整えていると見える中でも、上達部はとりわけ格別であるが、源氏おひとりの輝きには圧倒されてしまうようだ。大将の臨時の随身に、殿上の将監などがなるのは普通のことではなく、珍しい行幸などの時のことであるが、今日は右近の蔵人の将監がお仕えしている。そのほかの随身たちも、容貌や姿をまばゆく整えて、世にもてはやされていらっしゃる源氏の様子は、草木もなびかないものはないほどである。

壺装束などという姿で、身分の低くない女房や、また世を捨てた尼なども、倒れ転がりながら見物に出ているのも、普段なら無理なことと思われる。ああ嫌だと見えるのに、今日はもっともなことで、口をすぼめ、髪を衣に着込めた身分の低い女たちが、手を合わせて額に当てながら見上げ申し上げているのも、愚かしげな賤しい男まで、自分の顔がどんなふうになっているかも知らずに、笑み崩れている。

源氏が目もおとめにならないような、つまらない受領の娘などまでが、心の限りを尽くして飾った車に乗り、わざとらしく気取っているのが、面白いさまざまな見ものであった。まして、あちこちにこっそり通っていらっしゃる女性たちは、人知れず、数にも入らないわが身の嘆きがつのる者も多かった。

式部卿宮は桟敷でご覧になった。「まばゆいほどに美しく成長していく人の容貌だなあ。神などが目をおとめになるのではないか」と、不吉なまでにお思いになった。姫君(朝顔の姫君)は、長年言い寄り続けていらっしゃる源氏のお気持ちが、世間の人と違うのを、並一通りの人でさえそうなのに、ましてこれほどのお方がどうしてと、お心がひかれた。もっと近くでお会いしようとまでは思いもよらない。若い女房たちは、聞き苦しいほどにお褒め申し上げていた。

意訳

葵の上の供人たちは、見物の場所を取るために、ほかの車を押しのける。その中に、お忍びで来ていた六条御息所の車があった。御息所の供人たちは抵抗するが、酔った若者たちを止めることはできない。

御息所の車は奥へ押しやられ、榻も折られてしまう。そのうえ源氏は、葵の上の車には敬意を示しながら、御息所に気づかず通り過ぎる。御息所は屈辱と悲しみの中で歌を詠む。

源氏の晴れ姿は、尼や身分の低い者たちまでも夢中にさせる。父の式部卿宮も、娘の朝顔の姫君も、源氏の美しさに目を見張る。

語釈・文法注

ざふざふ
雑々(ぞうぞう)。身分の低い雑多な人々。
網代
網代車(あじろぐるま)。竹や檜の薄板を編んで張った牛車。身分の高い人のお忍び用にも使われた。
ごぜん
御前(ごぜん)。行列の先払いをする人々。前駆。
がうけ
豪家(ごうけ)。頼みにする権勢のある家。ここでは、御息所が源氏を後ろ盾にしていると悪口を言う。
ひとだまひ
副車(ひとだまい)。主人の車に続く、お供の女房たちの車。
榻
榻(しじ)。牛を外した車の轅(ながえ)を載せる台。これが折られると、車が傾いて体裁が悪い。
ざう
将監(ぞう)。近衛府の三等官。ここでは蔵人を兼ねる右近の将監。
壺さうぞく
壺装束(つぼそうぞく)。女性が徒歩で外出する時の服装。衣の裾をからげ、市女笠をかぶる。

文法

禁止の「な…そ」(さないはせそ)
「そのように言わせるな」。
反実仮想の「ましかば」(見ざらましかば)
「もし見なかったならば」。言いさしで、「残念だっただろう」の意を含む。

和歌

かげをのみみたらし川のつれなきに身のうき程ぞいとゞ知らるゝ

詠者
六条御息所
状況
車争いで辱めを受け、源氏が気づかずに通り過ぎるのを見て、御息所が心の中で詠んだ歌。御手洗川に映る姿だけを見て、つれなく通り過ぎて行くあの人。そのつれなさに、わが身の不幸せがいっそう思い知られることです。

修辞

掛詞
「みたらし川」に「(影だけを)見る」を、「うき」に「憂き」と「浮き」をかける。

解説

車争いは、源氏物語の中でもっとも有名な場面の一つである。供人たちの争いという形をとりながら、正妻の葵の上と、愛人の六条御息所の対立を描いている。葵の上自身は何もしていないが、その家の威勢が御息所を辱めたのである。

御息所が深く傷ついたのは、人目に立たないように忍んで来たのを見破られ、それでも源氏の姿を見たいと思ってしまう自分の弱さを思い知らされたからである。この屈辱が、やがて生霊となって葵の上を苦しめることになる。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、164–167頁(コマ84–85)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日