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源氏物語 第9帖 葵(1)

代替わりと六条御息所

登場人物:光源氏・桐壺院・藤壺・六条御息所・朝顔の姫君・葵の上

桐壺帝が譲位して朱雀帝の世となり、源氏は大将となる。院となった桐壺帝は藤壺とともに穏やかに暮らし、東宮(藤壺の皇子)の後見を源氏に託す。六条御息所の娘が斎宮に決まり、御息所は娘とともに伊勢へ下ろうかと思う。院は、源氏が御息所を軽々しく扱っていると戒める。葵の上は懐妊する。新しい斎院の御禊の日、葵の上も女房たちに勧められて見物に出かける。

賀茂の斎院の御禊の日、一条大路に見物の牛車がぎっしりと並び、桟敷には華やかな衣装の人々が集まっている場面(AI生成)
賀茂の斎院の御禊の日、一条大路に見物の牛車がぎっしりと並び、桟敷には華やかな衣装の人々が集まっている場面
  1. 1世よ世よよののの中なか中なかなかかはりかはりかわりててて後のち後のちのちよろづよろづよろず物もの物ものものうううくくくおぼさおぼさおぼされれれ、、、御身おほんみ御身おほんみおおんみのののやんごとなさやんごとなさやんごとなさももも添そ添そそふふうにににややや、、、かるがるしきかるがるしきかるがるしき御おん御おんおん忍しの忍しのしのびありきびありきびありきもももつゝましうつゝましうつつましゅうててて、、、こゝこゝここもももかしこかしこかしこもももおぼつかなさおぼつかなさおぼつかなさののの嘆なげ嘆なげなげきききををを重かさ重かさかさねねね給たま給たまたまふふう報むくい報むくいむくいにににややや、、、猶なほ猶なほなお我わ我わわにににつれなきつれなきつれなき人ひと人ひとひとののの御心みこころ御心みこころみこころをををつきせつきせつきせずずずのみのみのみおぼしおぼしおぼしなげくなげくなげく。。。
  2. 2今いま今いまいまはははましてましてましてひまひまひまなくなくなく、、、たゞたゞただ人びと人びとびとのののやうやうようにてにてにて添そ添そそひひい坐おは坐おはおわしますしますしますををを、、、きさききさききさきははは心こころ心こころこころやましうやましうやましゅうおぼすおぼすおぼすにににややや、、、うちうちうちにににのみのみのみ侍さぶら侍さぶらさぶらひひい給たま給たまたまへへえばばば、、、立た立たたちちちならぶならぶならぶ人ひと人ひとひとなうなうのう心こころ心こころこころ安やす安やすやすげげげなりなりなり。。。
  3. 3折節をりふし折節をりふしおりふしににに隨したが隨したがしたがひひいてててははは御おん御おんおん遊あそび遊あそびあそびなどなどなどをををこのましうこのましうこのましゅう世よ世よよののの響ひび響ひびひびくくくばかりばかりばかりせせせさせさせさせ給たま給たまたまひひいつゝつゝつつ今いま今いまいまののの御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさましもしもしもめでたしめでたしめでたし。。。唯ただ唯ただただ春宮とうぐう春宮とうぐうとうぐうをををぞぞぞいといといと戀こひ戀こひこいしうしうしゅう思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふう。。。
  4. 4御おん御おんおん後見うしろみ後見うしろみうしろみのののなきなきなきををを後うしろ後うしろうしろめたうめたうめとう思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええててて、、、大將だいしやう大將だいしやうだいしょうののの君きみ君きみきみににによろづよろづよろず聞きこ聞きこきこえええつけつけつけ給たま給たまたまふふうももも、、、傍痛かたはらいた傍痛かたはらいたかたわらいたきききものものものからからから嬉うれ嬉うれうれしししとととおぼすおぼすおぼす。。。
  5. 5誠まこと誠まことまことややや、、、かのかのかの六條ろくでう六條ろくでうろくじょうののの御おん御おんおんやすやすやす所どころ所どころどころののの御おん御おんおん腹はら腹はらはらのののののの姫宮ひめみや姫宮ひめみやひめみやににに居ゐ居ゐい給たま給たまたまひひいにににしかしかしかばばば、、、大將だいしやう大將だいしやうだいしょうののの御心みこころ御心みこころみこころばへばへばえもももいといといと賴たの賴たのたのもしげもしげもしげなきなきなきををを、、、かくかくかく幼をさな幼をさなおさなききき御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまののの後うしろ後うしろうしろめたさめたさめたさにににことづけことづけことづけててて下くだ下くだくだりりりやややしししなましなましなましととと、、、かねてかねてかねてよりよりよりおぼしおぼしおぼしけりけりけり。。。
  6. 6院ゐん院ゐんいんにににもももかゝるかゝるかかることことことなどなどなど聞きこ聞きこきこしししめしめしめしててて「「「故こ故ここ宮みや宮みやみやのののいといといとやんごとなくやんごとなくやんごとなくおぼしおぼしおぼし時とき時ときときめかしめかしめかし給たま給たまたまひひいしししものものものををを、、、かるがるしうかるがるしうかるがるしゅうおしおしおしなべなべなべたるたるたるさまさまさまにににもてなすもてなすもてなすなるなるなるがががいとほしきいとほしきいとおしきことことこと、、、
  7. 7齋宮さいぐう齋宮さいぐうさいぐうをををもももこのこのこの皇子みこ皇子みこみこ達たち達たちたちのののつらつらつらににになむなむなん思おも思おもおもへへえばばば、、、いづいづいず方かた方かたかたにににつけつけつけてててもももおろかおろかおろかならならならざらざらざらむむんこそこそこそよからよからよからめめめ。。。心こころ心こころこころのののすさびすさびすさびににに任まか任まかまかせせせてててかくかくかくすきすきすきわざわざわざするするするはははいといといと世よ世よよのののもどきもどきもどき負お負おおひひいぬぬぬべきべきべき事こと事ことことなりなりなり」」」などなどなど御おん御おんおん氣色けしき氣色けしきけしきあしけれあしけれあしければばば
  8. 8我わ我わわががが御おん御おんおん心地ここち心地ここちここちにににもももげにげにげにととと思おも思おもおもひひい知し知ししらららるれるれるればばば、、、かしこまりかしこまりかしこまりてててさぶらひさぶらひさぶらい給たま給たまたまふふう。。。「「「人ひと人ひとひとのののためためため耻は耻ははぢぢじがましきがましきがましき事こと事ことことなくなくなく、、、孰いづ孰いづいずれれれをををもももなだらかなだらかなだらかにににもてなしもてなしもてなしててて、、、女をんな女をんなおんなののの怨うらみ怨うらみうらみななな負お負おおひひいそそそ」」」とととのたまはするのたまはするのたまわするににに、、、
  9. 9けしからけしからけしからぬぬぬ心こころ心こころこころのののおほけなさおほけなさおおけなさををを聞きこ聞きこきこしししめしめしめしつけつけつけたらたらたらむむん時とき時ときときととと恐おそろ恐おそろおそろしけれしけれしければばば畏かしこ畏かしこかしこまりまりまりてててまかでまかでまかで給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。
  10. 10又また又またまたかくかくかく院ゐん院ゐんいんにににももも聞きこ聞きこきこしししめしめしめしのたまはするのたまはするのたまわするににに、、、人ひと人ひとひとののの御名な御名ななももも我わ我わわががが爲ため爲ためためもももすきがましうすきがましうすきがましゅういとほしきいとほしきいとおしきににに、、、いとゞいとゞいとどやんごとなくやんごとなくやんごとなく心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしきしきしきすぢすぢすじにににははは思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえどどどまだまだまだ顯あら顯あらあらはれはれわれてててはははわざとわざとわざともてなしもてなしもてなし聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまははわずずず。。。
  11. 11をんなをんなおんなももも似に似ににげなきげなきげなき御おん御おんおん年とし年としとしののの程ほど程ほどほどををを耻はづ耻はづはずかしうかしうかしゅうおぼしおぼしおぼしててて心こころ心こころこころとけとけとけ給たま給たまたまははわぬぬぬ氣色けしき氣色けしきけしきなれなれなればばば、、、それそれそれににに隨したが隨したがしたがひひいたるたるたるさまさまさまにににもてなしもてなしもてなしててて院ゐん院ゐんいんににに聞きこ聞きこきこしししめしめしめし入い入いいれれれ、、、世よ世よよののの中なか中なかなかののの人ひと人ひとひとももも知し知ししらららぬぬぬなくなくなくなりなりなりにににたるたるたるををを、、、深ふか深ふかふこうううしもしもしもあらあらあらぬぬぬ御心みこころ御心みこころみこころののの程ほど程ほどほどをををいみじういみじういみじゅうおぼしおぼしおぼし歎なげ歎なげなげきききけりけりけり。。。
  12. 12かゝるかゝるかかる事こと事ことことををを聞き聞ききききき給たま給たまたまふふうにににももも、、、朝顏あさがほ朝顏あさがほあさがおののの姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみはははいかでいかでいかで人ひと人ひとひとににに似に似ににじじじととと深ふか深ふかふこうううおぼせおぼせおぼせばばば、、、はかなきはかなきはかなきさまさまさまなりなりなりししし御おん御おんおん返かへ返かへかえりりりなどなどなどもももをさをさをさをさおさおさなしなしなし。。。さりとてさりとてさりとて人ひと人ひとひとにくゝにくゝにくくはしたなくはしたなくはしたなくはははもてなしもてなしもてなし給たま給たまたまははわぬぬぬ御おん御おんおん氣色けしき氣色けしきけしきををを君きみ君きみきみももも猶なほ猶なほなおことことことなりなりなりとととおぼしおぼしおぼしわたるわたるわたる。。。
  13. 13大殿おほいとの大殿おほいとのおおいとのにににはははかくかくかくのみのみのみ定さだ定さださだめめめなきなきなき御心みこころ御心みこころみこころををを心こころ心こころこころづきなしづきなしづきなしとととおぼせおぼせおぼせどどど、、、あまりあまりあまりつゝまつゝまつつまぬぬぬ御おん御おんおん氣色けしき氣色けしきけしきのののいふかひいふかひいうかいなけれなけれなければばばにににやややあらあらあらむむん、、、深ふか深ふかふこうううしもしもしも怨ゑん怨ゑんえんじじじ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまははわずずず、、、心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしきしきしきさまさまさまののの御おん御おんおん心地ここち心地ここちここちににに惱なや惱なやなやみみみ給たま給たまたまひひいててて物もの物ものもの心こころ心こころこころぼそげぼそげぼそげにににおぼいおぼいおぼいたりたりたり。。。
  14. 14珍めづら珍めづらめずらしうしうしゅう哀あはれ哀あはれあわれととと思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまひひいててて、、、嬉うれ嬉うれうれしきしきしきものものものからからから誰たれ誰たれたれももも誰たれ誰たれたれもももゆゝしうゆゝしうゆゆしゅうおぼしおぼしおぼしてててさまざまさまざまさまざまののの御おん御おんおんつゝしみつゝしみつつしみせせせさせさせさせ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまふふう。。。かやうかやうかようなるなるなる程ほど程ほどほどはははいとゞいとゞいとど御心みこころ御心みこころみこころののの暇いとま暇いとまいとまなくなくなくててて、、、おぼしおぼしおぼし怠おこた怠おこたおこたるるるとととはははなけれなけれなけれどどどとだえとだえとだえ多おほ多おほおおかるかるかるべしべしべし。。。
  15. 15そのそのその頃ころ頃ころころもももおりおりおり居ゐ居ゐい給たま給たまたまひひいてててきさいきさいきさい腹ばら腹ばらばらののの女をんな女をんなおんな三さん三さんさんののの宮みや宮みやみや居ゐ居ゐい給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。帝みかど帝みかどみかどきさききさききさきいといといとことことことににに思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえるるる宮みや宮みやみやなれなれなればばばすぢすぢすじことことことににになりなりなり給たま給たまたまふふうをををいといといと苦くる苦くるくるしうしうしゅうおぼしおぼしおぼしたれたれたれどどど、、、ことことこと宮みや宮みやみやたちたちたちのののさるべきさるべきさるべきおはせおはせおわせずずず、、、
  16. 16儀式ぎしき儀式ぎしきぎしきなどなどなど常つね常つねつねのののかんわざかんわざかんわざなれなれなれどどどいかめしういかめしういかめしゅうのののゝしるゝしるのしる。。。祭まつり祭まつりまつりのののほどほどほど限かぎり限かぎりかぎりあるあるある公事おほやけごと公事おほやけごとおおやけごとにににそふそふそうことことこと多おほ多おほおおくくく、、、見所みどころ見所みどころみどころこよなしこよなしこよなし。。。人ひと人ひとひとがらがらがらととと見み見みみえええたりたりたり。。。
  17. 17ののの日ひ日ひひ、、、上達部かんだちめ上達部かんだちめかんだちめなどなどなど數かず數かずかず定さだ定さださだまりまりまりててて仕つか仕つかつこうううまつりまつりまつり給たま給たまたまふふうわざわざわざなれなれなれどどど、、、おぼえおぼえおぼえことことことにににかたちかたちかたちあるあるあるかぎりかぎりかぎりしたがさねしたがさねしたがさねののの色いろ色いろいろうへうへうえののの袴はかま袴はかまはかまののの紋もん紋もんもん馬むま馬むまうま鞍くら鞍くらくらまでまでまで皆みな皆みなみな整ととの整ととのととのへへへたりたりたり。。。とりわきとりわきとりわきたるたるたる宣旨せんじ宣旨せんじせんじにてにてにて大將だいしやう大將だいしやうだいしょうののの君きみ君きみきみももも仕つか仕つかつこうううまつりまつりまつり給たま給たまたまふふう。。。
  18. 18かねてかねてかねてよりよりより物見車ものみぐるま物見車ものみぐるまものみぐるま心こころ心こころこころづかひづかひづかいしししけりけりけり。。。一條いちでう一條いちでういちじょうののの大路おほぢ大路おほぢおおじ所ところ所ところところなくなくなくむくつけきむくつけきむくつけきまでまでまで騷さわ騷さわさわぎぎぎたりたりたり。。。所々ところどころ所々ところどころところどころののの御おん御おんおんさじきさじきさじき心々こころごころ心々こころごころこころごころにににしししつくしつくしつくしたるたるたるしつらひしつらひしつらい人ひと人ひとひとののの袖口そでぐち袖口そでぐちそでぐちさへさへさへいみじきいみじきいみじき見み見みみものものものなりなりなり。。。
  19. 19大おほ大おほおおとのとのとのにににははは、、、かやうかやうかようののの御おん御おんおんありきありきありきもももをさをさをさをさおさおさししし給たま給たまたまははわぬぬぬににに御おん御おんおん心地ここち心地ここちここちさへさへさへなやましけれなやましけれなやましければばばおぼしおぼしおぼしかけかけかけざりざりざりけるけるけるををを、、、若わか若わかわかききき人々びと人々びとびと「「「いでやいでやいでや己おの己おのおのがががどちどちどち引ひ引ひひききき忍しの忍しのしのびびびててて見み見みみ侍はべ侍はべはべらららむむんこそこそこそはえはえはえなかるなかるなかるべけれべけれべけれ。。。
  20. 20おほよそおほよそおおよそ人ひと人ひとひとだにだにだに今日けふ今日けふきょうののの物見ものみ物見ものみものみにににははは、、、大將殿だいしやうどの大將殿だいしやうどのだいしょうどのをををこそこそこそはははあやしきあやしきあやしき山やま山やまやまがつがつがつさへさへさへ見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららむむんとととすれすれすればばば、、、遠とほ遠とほとおききき國々くにぐに國々くにぐにくにぐによりよりよりめこめこめこををを引ひ引ひひききき具ぐ具ぐぐしししつゝつゝつつ參ま參まもうううででで來く來くくなるなるなるををを御覽ごらん御覽ごらんごらんぜぜぜぬぬぬはははいといといとあまりあまりあまりももも侍はべ侍はべはべるるるかなかなかな」」」ととといふいふいうををを大宮おほみや大宮おほみやおおみや聞きこ聞きこきこしししめしめしめしててて、、、
  21. 21「「「御おん御おんおん心地ここち心地ここちここちもももよろしきよろしきよろしきひまひまひまなりなりなり。。。さぶらふさぶらふさぶらう人々びと人々びとびともももさうざうしげさうざうしげそうぞうしげなななめりめりめり」」」とととててて俄にはか俄にはかにわかにににめぐらしめぐらしめぐらし仰おほ仰おほおおせせせ給たま給たまたもうううててて見み見みみ給たま給たまたまふふう。。。日ひ日ひひたけたけたけ行ゆ行ゆゆきききてててけしきけしきけしきもももわざとわざとわざとならならならぬぬぬさまさまさまにてにてにて出い出いいででで給たま給たまたまへへえりりり。。。ひまひまひまももも無な無なのううう立た立たたちちち渡わた渡わたわたりりりたるたるたるににによそほしうよそほしうよそおしゅう引ひ引ひひききき續つづ續つづつづきききててて立た立たたちちち煩わづら煩わづらわずらふふう。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

御代が替わってから、源氏は何事も気が進まなくお思いになり、ご身分が重々しくなったせいもあるのだろうか、軽々しいお忍び歩きも遠慮されて、あちらでもこちらでも、女性たちに待ちわびる嘆きを重ねさせなさる報いなのだろうか、相変わらず自分につれない人(藤壺)のお心を、いつまでも嘆いていらっしゃる。

藤壺は、今では院(桐壺院)といっそういつもいっしょに、臣下の夫婦のように寄り添っていらっしゃるのを、今の后(弘徽殿大后)は面白くなくお思いになるのか、宮中にばかりいらっしゃるので、肩を並べる人もなく、気楽そうである。院は、折々につけて管絃の遊びなどを、世間に響くほど趣深く催させなさって、今のご様子こそ、かえってすばらしい。ただ東宮のことだけを、たいそう恋しく思い申し上げていらっしゃる。後見がいないのを気がかりに思い申し上げて、大将の君(源氏)に何もかもお頼み申し上げなさるのも、源氏は気がとがめるものの、うれしいとお思いになる。

そうそう、あの六条御息所のお腹の、前東宮の姫宮が斎宮にお決まりになったので、御息所は、大将のお気持ちもたいそう頼りないので、幼い斎宮のご様子が気がかりだということにかこつけて、いっしょに伊勢へ下ってしまおうかと、前々から思っていらっしゃった。

院もこうしたことをお聞きになって、「亡き東宮がたいそう大切にお思いになって、寵愛なさった方なのに、軽々しく、ありふれた女のように扱っているそうなのが気の毒だ。斎宮も、私の皇女たちと同じように思っているのだから、どちらにつけても、おろそかにしないのがよいだろう。気まぐれに任せて、こうした色恋沙汰をするのは、たいそう世間の非難を受けることだ」などと、ご機嫌が悪いので、源氏はご自分の心にも本当にそうだと思い知られるので、恐縮して控えていらっしゃる。

院は「相手に恥をかかせることなく、どの人も穏やかに扱って、女の恨みを負うな」とおっしゃるにつけても、源氏は、けしからぬ大それた心(藤壺への思い)をお聞きつけになった時はと思うと恐ろしいので、恐縮して退出なさった。また、こうして院もお聞きになっておっしゃるので、御息所の評判のためにも、ご自分のためにも、色めいたことで気の毒なので、いっそう大切で心苦しい方とは思い申し上げていらっしゃるが、まだ表立って正式に扱うことはなさらない。

女(御息所)も、年齢の不釣り合いを恥ずかしくお思いになって、打ち解けない様子なので、源氏はそれに従っているような様子で、院のお耳にも入り、世間の人も知らない者はいなくなってしまったのに、それほど深くもない源氏のお心を、御息所はたいそうお嘆きになっていた。

こうした噂をお聞きになるにつけても、朝顔の姫君は、何とかして御息所のようにはなるまいと深く思っていらっしゃるので、ちょっとした返事なども、めったになさらない。それでも、無愛想に体裁悪くは扱わないご様子を、源氏もやはり格別だと思い続けていらっしゃる。

左大臣家の姫君(葵の上)は、源氏のこうした定まらないお心を気に入らないとお思いになるが、あまりに隠しだてしない様子に、言ってもかいがないからだろうか、それほど深くお恨み申し上げることもなく、苦しそうなご気分(懐妊)で病みつかれて、何となく心細そうにしていらっしゃる。源氏は珍しくいとしく思い申し上げなさって、うれしいながらも、誰もが不吉なことのようにお思いになって、さまざまな物忌みをおさせ申し上げなさる。こうした間は、いっそうお心に暇がなくて、忘れていらっしゃるわけではないが、ほかの所への途絶えが多いのだろう。

そのころ、斎院も退下なさって、后腹の女三の宮がお立ちになった。院も大后もたいそう格別に思い申し上げていらっしゃる宮なので、神に仕える特別な身の上になられるのを、たいそうつらくお思いになったが、ほかの宮たちに適当な方がいらっしゃらない。儀式などは、いつもの神事であるが、盛大に行われる。祭のころは、定められた公の行事に加わることが多く、見どころがこの上ない。斎院のご身分によるものと見えた。

御禊の日には、上達部なども人数が決まっていてお仕えなさるものだが、評判が格別で容貌のよい人ばかりで、下襲の色や表袴の紋、馬や鞍まで、みな整えている。特別な宣旨で、大将の君もお仕えなさる。前々から、見物の車は心づもりをしていた。一条大路は、すき間もなく、恐ろしいほど混雑している。あちらこちらの桟敷は、思い思いに趣向を尽くした飾りつけで、女房たちの出し衣の袖口までもが、すばらしい見ものである。

左大臣家の姫君は、こうしたお出かけもめったになさらないうえに、ご気分まで悪いので、見物のことは考えてもいらっしゃらなかったが、若い女房たちが「さあ、私たちだけでこっそり見物いたしますのでは、張り合いがございません。関わりのない人でさえ、今日の見物には、大将殿をこそ、身分の低い山里の者まで拝見しようとして、遠い国々から妻子を連れて上京してくるそうですのに、ご覧にならないのは、あまりなことでございます」と言うのを、大宮がお聞きになって、

「ご気分もよい時です。お仕えしている人たちも物足りなそうですから」と言って、急に車の用意をお命じになって、ご見物になる。日が高くなってから、支度も目立たないようにしてお出かけになった。すき間もなく車が立ち並んでいるところに、物々しく行列を続けて、車を止める場所に困っている。

意訳

葵の巻は、桐壺帝の譲位と、源氏の大将への昇進から始まる。院となった桐壺帝は、藤壺と穏やかに暮らし、藤壺の産んだ東宮の後見を源氏に託す。

六条御息所は、娘が斎宮となったのを機に、源氏との関係に区切りをつけて伊勢へ下ろうかと考えている。院は源氏の御息所への扱いを戒めるが、源氏の心は御息所から離れつつある。

懐妊した葵の上は、女房たちに勧められて、斎院の御禊の見物に出かける。この見物が、葵の巻の悲劇の発端となる。

語釈・文法注

今きさき
新しい帝(朱雀帝)の母、弘徽殿大后。
前坊
前の東宮。桐壺院の弟で、六条御息所の夫だったが、即位前に亡くなった。
齋宮
斎宮(さいぐう)。天皇の代替わりごとに選ばれ、伊勢神宮に仕える未婚の皇女。
齋院
斎院(さいいん)。賀茂神社に仕える未婚の皇女。
ごけい
御禊(ごけい)。斎院が賀茂祭の前に賀茂川で身を清める儀式。行列が都大路を通り、多くの見物人が集まった。

文法

禁止の「な…そ」(女の怨な負ひそ)
「女の恨みを負うな」。
推量の「なまし」(下りやしなまし)
「(伊勢へ)下ってしまおうかしら」。ためらいを表す。

解説

葵の巻は、源氏物語の前半でもっとも劇的な巻の一つである。葵の上と六条御息所という、源氏をめぐる二人の高貴な女性の対立が、車争いと生霊という形で描かれる。

院が源氏を戒める場面は、源氏と御息所の関係が公然の秘密になっていたことを示している。御息所は前東宮の妃という高い身分で、源氏より七歳年上である。その誇りと、源氏への執着との間で、御息所は苦しむ。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、162–165頁(コマ83–84)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日