源氏物語 第8帖 花宴(2)
朧月夜との出会い
宴の後、月の明るい夜、酔い心地の源氏は藤壺のあたりをうかがうが、戸は閉ざされている。弘徽殿の細殿に寄ると戸が開いていて、「朧月夜に似るものぞなき」と口ずさみながら若い女がやってくる。源氏は女の袖をとらえて抱きおろし、契りを結ぶ。夜明けに女は名を明かさず歌を詠み、二人は扇を取り替えて別れる。源氏は、女は弘徽殿女御の妹たちの一人で、東宮に入内予定の六の君ではないかと思いめぐらす。

- 1上達部上達部かんだちめおのおのおのおのおのおのあがれあがれあがれきさききさききさき春宮春宮とうぐう還還かえらららせせせ給給たまひひいぬれぬれぬればばばのどやのどやのどやににになりなりなりぬるぬるぬるににに月月つきいといといと明明あこうううさしさしさしいでゝいでゝいでてをかしきをかしきおかしきををを源氏源氏げんじののの君君きみゑひゑひえい心地心地ごこちににに見見み過過すぐしぐしぐし難難がたくくく覺覺おぼえええ給給たまひひいけれけれければばば、、、
- 2上上うえののの人々人々びともももうちうちうち休休やすみみみてててかやうかやうかようににに思思おもひひいかけかけかけぬぬぬ程程ほどににに、、、もしもしもしさりぬべきさりぬべきさりぬべきひまひまひまもももやややあるあるあるととと藤壺藤壺ふじつぼわたりわたりわたりをををわりなうわりなうわりのう忍忍しのびびびててて窺窺うかがひひいありけありけありけどどど語語かたらふらふらうべきべきべき戶口戶口とぐちもももさしさしさしてててけれけれければばばうちうちうち歎歎なげきききててて猶猶なおあらあらあらじじじににに弘徽殿弘徽殿こきでんののの細殿細殿ほそどのににに立立たちちち寄寄よりりり給給たまへへえれれればばば、、、三三さんののの口口くちあきあきあきたりたりたり。。。
- 3女御女御にょうごははは上上うえののの御局御局みつぼねにににやがてやがてやがて參參もううう上上のぼりりり給給たまひひいにににけれけれければばば、、、人人ひとずくなずくなずくななるなるなるけはひけはひけわいなりなりなり。。。奧奧おくのののくるゝくるゝくるるもももあきあきあきててて人音人音ひとおともももせせせずずず。。。かやうかやうかようにてにてにて世世よののの中中なかのののあやまちあやまちあやまちはははするするするぞぞぞかしかしかしととと思思おもひひいてててやをらやをらやおら昇昇のぼりりりててて覗覗のぞききき給給たまふふう。。。
- 4人人ひとははは皆皆みな寢寢ねたるたるたるべしべしべし。。。いといといと若若わこうううをかしげをかしげおかしげなるなるなる聲聲こえのののなべてなべてなべてののの人人ひととととははは聞聞きこえええぬぬぬ「「「朧月夜朧月夜おぼろづきよににに似似にるるるものものものぞぞぞなきなきなきとととうちうちうちずじずじずじてててこなたこなたこなたざまざまざまににに來來くるるるものものものかかか。。。いといといと嬉嬉うれしくしくしくてててふとふとふと袖袖そでをををとらへとらへとらえ給給たまふふう。。。
- 5女女おんな恐恐おそろしろしろしととと思思おもへへえるるる氣色氣色けしきにてにてにて「「「あなあなあなむくつけむくつけむくつけ、、、こここはははたたたぞぞぞ」」」とととののの給給のたまへへえどどど、、、「「「何何なにかかかうとましきうとましきうとましき」」」とととててて、、、「「「深深ふかききき夜夜よののの哀哀あわれをををしるしるしるももも入月入月いるつきのののおぼろけおぼろけおぼろけならならならぬぬぬ契契ちぎりとととぞぞぞ思思おもふふう」」」とととてててやをらやをらやおら抱抱いだきききおろしおろしおろしててて、、、戶戶とははは押押おしししたてたてたてつつつ。。。
- 6淺淺あさましきましきましきにににあきれあきれあきれたるたるたるさまさまさまいといといと懷懷なつかしうしうしゅうをかしげをかしげおかしげなりなりなり。。。わなゝくわなゝくわななくわなゝくわなゝくわななく「「「こゝこゝここににに、、、人人ひとののの」」」とととのたまへのたまへのたまえどどど「「「まろまろまろははは皆皆みな人人ひとにににゆるさゆるさゆるされれれたれたれたればばば、、、召召めししし寄寄よせせせたりたりたりともともともなでうなでうなじょうことことことかかかあらあらあらむむん。。。たゞたゞただ忍忍しのびびびてててこそこそこそ」」」とととのたまふのたまふのたまう聲聲こえににに、、、このこのこの君君きみなりなりなりけりけりけりととと聞聞きききき定定さだめめめててて聊聊いささかかか慰慰なぐさめめめけりけりけり。。。
- 7わびしわびしわびしととと思思おもへへえるるるものものものからからからなさけなくなさけなくなさけなくこはごはしうこはごはしうこわごわしゅうははは見見みえええじじじととと思思おもへへえりりり。。。ゑひゑひえい心地心地ごこちややや例例れいならならならざりざりざりけむけむけん、、、許許ゆるさささむむんことことことははは口惜口惜くちおしきしきしきににに女女おんなももも若若わこうううたをやぎたをやぎたおやぎててて强强つよききき心心こころももも知知しらららぬぬぬなるなるなるべしべしべし。。。
- 8らうたしらうたしろうたしととと見見み給給たまふふうににに程程ほどなくなくなく明明あけけけ行行ゆけけけばばば心心こころあわたゞしあわたゞしあわただし。。。女女おんなはははましてましてましてさまざまさまざまさまざまににに思思おもひひい亂亂みだれれれたるたるたる氣色氣色けしきなりなりなり。。。「「「猶猶なお名名なのりのりのりししし給給たまへへえ。。。いかでいかでいかでかかか聞聞きこゆゆゆべきべきべき。。。かうかうこうててて止止やみみみなななむむんとととはははさりともさりともさりともおぼさおぼさおぼされれれじじじ」」」などなどなどのたまへのたまへのたまえばばば、、、
- 9「「「うきうきうき身身み世世よにににやがてやがてやがて消消きえええなななばばば尋尋たずねねねてててももも草草くさののの原原はらをををばばばとはとはとはじじじとととややや思思おもふふう」」」ととといふいふいうさまさまさま艶艶えんににになまめきなまめきなまめきたりたりたり。。。
- 10「「「ことわりことわりことわりややや聞聞きこえええたがへたがへたがえたるたるたるもしもしもしかなかなかな」」」とととててて、、、「「「いづれいづれいずれぞぞぞととと露露つゆのののやどりやどりやどりをををわかわかわかむむんまままにににこざゝこざゝこざさががが原原はらににに風風かぜもももこそこそこそふけふけふけ。。。煩煩わずらはしうはしうわしゅうおぼすおぼすおぼすことことことならならならずずずははは何何なにかかかつゝまつゝまつつまむむん。。。若若もしししすかいすかいすかい給給たまふふうかかか」」」ととともももえええいひいひいいあへあへあえずずず人々人々びと起起おきききさわぎさわぎさわぎ上上うえののの御局御局みつぼねににに參參まいりりりちがふちがふちがうけしきけしきけしきどもどもどもしげくしげくしげくまよへまよへまよえばばば、、、
- 11いといといとわりなくわりなくわりなくててて、、、扇扇おうぎばかりばかりばかりをををしるししるししるしににに取取とりりり替替かへへえててて出出いででで給給たまひひいぬぬぬ。。。桐壺桐壺きりつぼにににははは人々人々びと多多おおくくくさぶらひさぶらひさぶらいててて、、、驚驚おどろきききたるたるたるもももあれあれあればばばかゝるかゝるかかるをををさささもももたゆみたゆみたゆみなきなきなき御御おんしのびありきしのびありきしのびありきかなかなかなとととつきじろひつきじろひつきじろいつゝつゝつつそらねそらねそらねをををぞぞぞしししあへあへあえるるる。。。
- 12入入いりりり給給たまひひいててて臥臥ふししし給給たまへへえれれれどどどねねねいらいらいられれれずずず。。。をかしかりをかしかりおかしかりつるつるつる人人ひとのののさまさまさまかなかなかな、、、女御女御にょうごののの御御おんおとうとおとうとおとうとたちたちたちにににこそこそこそはははあらあらあらめめめ、、、まだまだまだ世世よににに馴馴なれれれぬぬぬははは五六五六ごろくののの君君きみならならならむむんかしかしかし、、、
- 13そちそちそちののの宮宮みやののの北北きたののの方方かた、、、頭中將頭中將とうのちゅうじょうのののすさめすさめすさめぬぬぬ四四しののの君君きみなどなどなどこそこそこそよしよしよしととと聞聞ききききしかしかしか、、、なかなかなかなかなかなかそれそれそれならならならましかましかましかばばば今今いま少少すこしししをかしからをかしからおかしからましましまし、、、六六ろくははは春宮春宮とうぐうににに奉奉たてまつらららむむんととと志志こころざししし給給たまへへえるるるをををいとほしういとほしういとおしゅうもももあるあるあるべいべいべいかなかなかな、、、
- 14煩煩わずらはしうはしうわしゅう尋尋たずねねねむむん程程ほどもももまぎらはしまぎらはしまぎらわし、、、さてさてさて絕絕たえええなななむむんとととははは思思おもははわぬぬぬ氣色氣色けしきなりなりなりつるつるつるををを、、、いかなれいかなれいかなればばばことことこと通通かよはすはすわすべきべきべきさまさまさまををを敎敎おしへへへずずずなりなりなりぬぬぬらむらむらんなどなどなど萬萬よろずににに思思おもふふうももも心心こころのののとまるとまるとまるなるなるなるべしべしべし。。。
- 15かやうかやうかようなるなるなるにににつけつけつけてててもももまづまづまずかのかのかのわたりわたりわたりののの有樣有樣ありさまのののこよなうこよなうこよのう奧奧おくまりまりまりたるたるたるはははやややとととありありあり難難がとううう思思おもひひい比比くらべべべられられられ給給たまふふう。。。
現代語訳
上達部はそれぞれ退出し、中宮や東宮もお帰りになったので、静かになったところに、月がたいそう明るく差し出て趣深いのを、源氏の君は酔い心地で見過ごしがたくお思いになったので、殿上の人々も休んで寝静まっている、このように思いがけない時に、もしかしたら都合のよいすきもあろうかと、藤壺のあたりを無理に忍んでうかがい歩かれるが、手引きを頼めそうな戸口も閉まっていたので、ため息をついて、それでもこのままではと、弘徽殿の細殿に立ち寄りなさると、三の口が開いている。
女御は、帝の上の御局にそのまま参上なさっていたので、人の少ない様子である。奥の枢戸も開いていて、人の気配もしない。こういう時に、世の中の過ちは起こるのだなと思って、そっと上がってのぞきなさる。人はみな寝ているのだろう。たいそう若々しく美しい声で、並の身分の人とは思えない声が「朧月夜に似るものぞなき」と口ずさんで、こちらの方へ来るではないか。源氏はたいそううれしくて、さっと袖をおとらえになる。
女は怖いと思っている様子で、「まあ気味が悪い。誰なの」とおっしゃるが、源氏は「どうして嫌がるのです」と言って、「夜更けの情趣を知るのも、沈もうとする朧月が並々でない縁を結んでくれたからだと思います」と言って、そっと抱きおろして、戸は閉めてしまった。あまりのことにあきれている様子が、たいそうなつかしく、かわいらしい。
女は震えながら、「ここに、人が」とおっしゃるが、源氏は「私は誰からも許されているので、人を呼んでも、どうということはありません。ただ静かにしていらっしゃい」とおっしゃる声に、この源氏の君だったのだと聞き分けて、少し安心した。困ったとは思うものの、情けを知らない、こわばった女とは見られまいと思っている。源氏は、酔い心地がいつもと違っていたのだろうか、このまま放してしまうのは残念で、女も若くしなやかで、強く拒む心も持たないのだろう。
かわいいとご覧になるうちに、まもなく夜が明けていくので、心があわただしい。女はなおさら、あれこれと思い乱れている様子である。源氏が「やはりお名前をお明かしください。どうやって便りをしたらよいのでしょう。これきりで終わりにしようとは、まさかお思いではないでしょう」などとおっしゃると、女は「不幸な私がこのまま死んでしまったら、あなたは尋ねても、草の原までは訪ねてくださらないと思うのですか」と言う様子が、艶やかで優美である。
源氏は「もっともです。言い方をまちがえてしまいましたね」と言って、「どこの方かと露の宿を探しているうちに、小笹の原に風が吹いては困ります。わずらわしいとお思いでなければ、何も隠すことはないでしょう。もしや、私をおだましになるのですか」とも言い終わらないうちに、女房たちが起きて騒ぎ、上の御局に行き来する気配がしきりなので、どうしようもなくて、扇だけを証拠に取り替えて、お出になった。
源氏の桐壺には女房が大勢お仕えしていて、目をさましている者もいるので、こうして朝帰りなさるのを、本当にご熱心なお忍び歩きですことと、つつき合いながら、寝たふりをしている。源氏はお入りになって横になられたが、寝つけない。美しかった人の様子だな、女御の妹君たちの一人だろう、まだ男女の仲を知らないのは、五の君か六の君だろう、
帥宮の北の方や、頭中将が冷たくしている四の君などが美しいと聞いていたが、かえってその人たちだったら、もう少しおもしろかっただろうに、六の君は東宮に差し上げようとお考えなのに、そうならお気の毒なことだ、面倒なことに、探し出すのも難しい、あのまま終わりにしようとは思っていない様子だったのに、どうして便りを通わす方法を教えないでしまったのだろうなど、あれこれ思うのも、心が引かれているのだろう。
こうしたことにつけても、まず、あの藤壺のあたりの様子が、この上なく奥ゆかしく隙のないことよと、めったにないものと比べずにはいられない。
意訳
宴の後、源氏は藤壺に近づこうとするが、戸は閉ざされている。弘徽殿の細殿で、源氏は「朧月夜に似るものぞなき」と口ずさむ若い女に出会う。女は源氏の政敵、右大臣家の娘で、のちに「朧月夜」と呼ばれる。
女は源氏だと知って安心し、強く拒まない。夜明け、女は名を明かさないまま、本気なら探し出してほしいと歌を詠む。二人は扇を取り替えて別れる。この出会いは、のちに源氏が須磨へ退去する原因となる。
語釈・文法注
- くるゝ戶
- 枢戸(くるるど)。回転軸のついた開き戸。
- 朧月夜に似るものぞなき
- 大江千里の「照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき」(『新古今集』)をふまえる。この言葉から、女は「朧月夜」と呼ばれる。
文法
- 危ぶみの「もこそ」(風もこそふけ)
- 「風が吹いたら困る」。
- 反実仮想「ましかば…まし」(それならましかば…をかしからまし)
- 「その人たちだったら、もう少しおもしろかっただろうに」。
和歌
深き夜の哀をしるも入月のおぼろけならぬ契とぞ思ふ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 細殿で出会った女の袖をとらえて、源氏が詠みかけた歌。夜更けの情趣を知るのも、沈もうとする朧月が並々でない縁を結んでくれたからだと思います。
修辞
- 掛詞
- 「おぼろけ」に、女の口ずさんだ「朧月夜」の「おぼろ」と、「おぼろけならぬ(並々でない)」を重ねる。
うき身世にやがて消えなば尋ねても草の原をばとはじとや思ふ
- 詠者
- 朧月夜
- 状況
- 名を明かすよう求める源氏に、女が詠んだ歌。不幸な私がこのまま死んでしまったら、あなたは尋ねても、草の原(墓所)までは訪ねてくださらないと思うのですか。
修辞
- 応答
- 名を明かさないかわりに、名を知らなくても本気なら探し出してくれるはずだ、と源氏の心を試す。
いづれぞと露のやどりをわかむまにこざゝが原に風もこそふけ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 女の歌への源氏の返歌。どこの家の方かと露の宿を探し分けているうちに、小笹の原に風が吹いて露が散るように、噂が立ってしまったら困ります。
修辞
- 比喩
- 女を「露」、その住まいを「露のやどり」にたとえ、探しているうちに人目について邪魔が入ることを恐れる。
解説
朧月夜との出会いは、源氏物語の中でももっとも劇的な出会いの一つである。藤壺に近づけない源氏が、その代わりのように、敵方の弘徽殿の細殿で出会った女と契りを結ぶ。
朧月夜は、源氏の政敵である右大臣の娘で、弘徽殿女御の妹である。しかも東宮(のちの朱雀帝)への入内が予定されていた。この恋は、のちに源氏を政治的な窮地に追いこみ、須磨への退去を招くことになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、156–159頁(コマ80–81)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日