源氏物語 第7帖 紅葉賀(10)
頭中将の乱入
源氏が源典侍の部屋にいるのを見つけた頭中将は、源氏をおどかしてやろうと忍びこむ。源氏は典侍の古い恋人の修理大夫かと思い、屏風の陰に隠れる。頭中将は怒ったふりをして太刀を抜き、典侍は手をすり合わせておろおろする。源氏は相手が頭中将だと気づき、二人は着物を引っ張り合って大笑いになる。翌朝、典侍は落とし物を届け、恨みの歌を送ってくる。

- 1頭中將頭中將とうのちゅうじょうはははこのこのこの君君きみのののいたくいたくいたくまめだちまめだちまめだち過過すぐしぐしぐしててて常常つねにににもどきもどきもどき給給たまふふうがががねたきねたきねたきををを、、、つれなくつれなくつれなくてててうちうちうちうちうちうちににに忍忍しのびびび給給たまふふう方々方々かたがた多多おおかかかめるめるめるをををいかでいかでいかで見見み顯顯あらわさささむむんとととのみのみのみ思思おもひひいわたるわたるわたるににに、、、これこれこれををを見見みつけつけつけたるたるたる心地心地ここちいといといとうれしうれしうれし。。。
- 2かゝるかゝるかかる折折おりににに少少すこしししおどしおどしおどし聞聞きこえええててて御心御心みこころ惑惑まどはしはしわしててて、、、「「「こりこりこりぬぬぬややや」」」ととと言言いははわむむんととと思思おもひひいてててたゆめたゆめたゆめ聞聞きこゆゆゆ。。。風風かぜ冷冷ひややかやかやかにににうちうちうち吹吹ふきききてててやゝやゝやや更更ふけけけ行行ゆくくく程程ほどににに、、、少少すこしししまどろむまどろむまどろむにににやややととと見見みゆるゆるゆる氣色氣色けしきなれなれなればばばやをらやをらやおら入入いりりりけるけるけるににに、、、
- 3君君きみははは解解とけけけてててしもしもしも寢寢ね給給たまははわぬぬぬこゝろこゝろこころなれなれなればばばふとふとふと聞聞ききききつけつけつけててて、、、このこのこの中將中將ちゅうじょうとととははは思思おもひひいよらよらよらずずず、、、なほなほなお忘忘わすれれれ難難がたくくくすすすなるなるなるすりすりすりのののにににこそこそこそあらあらあらめめめとととおぼすおぼすおぼすににに、、、
- 4おとなおとなしきおとなおとなしきおとなおとなしき人人ひとにににかくかくかく似似にげなきげなきげなきふるまひふるまひふるまいをををしししててて見見みつけつけつけられられられむむんとととははは耻耻はずかしけれしけれしければばば、、、「「「あなあなあなわづらはしわづらはしわずらわし出出いでででなななむむんよよよ。。。くもくもくものののはははしるかりしるかりしるかりつつつらむらむらんものものものををを心心こころ憂憂うくくくすかしすかしすかし給給たまひひいけるけるけるよよよ」」」とととててて直衣直衣のうしばかりばかりばかりををを取取とりりりててて屏風屏風びょうぶののの後後うしろににに入入いりりり給給たまひひいぬぬぬ。。。
- 5中將中將ちゅうじょうをかしきをかしきおかしきををを念念ねんじじじててて引引ひきききたてたてたて給給たまへへえるるる屏風屏風びょうぶのののもともともとににに寄寄よりりりてててごほごほごほごほごほごほととと疊疊たたみみみ寄寄よせせせててておどろおどろしうおどろおどろしうおどろおどろしゅう騷騷さわがすがすがすににに、、、
- 6內侍內侍ないしはははねびねびねびたれたれたれどどど痛痛いたくくくよしばみよしばみよしばみなよびなよびなよびたるたるたる人人ひとののの、、、さきざきさきざきさきざきもももかやうかやうかようにてにてにて心心こころ動動うごかすかすかす折々折々おりおりありありありけれけれければばば、、、ならひならひならいててていみじくいみじくいみじく心心こころあわたゞしきあわたゞしきあわただしきにににももも、、、このこのこの君君きみをををいかにいかにいかにしししなしなしなし聞聞きこえええぬるぬるぬるにににかかかととと侘侘わびしさしさしさににに、、、ふるふふるふふるうふるふふるふふるうつとつとつとひかへひかへひかえたりたりたり。。。
- 7誰誰たれとととしらしらしられれれでででいないないなばやばやばやとととおぼせおぼせおぼせどどど、、、しどけなきしどけなきしどけなき姿姿すがたにてにてにてかうぶりかうぶりこうぶりなどなどなどうちうちうちゆがめゆがめゆがめててて走走はしらららむむんうしろでうしろでうしろで思思おもふふうにににいといといとをこをこおこなるなるなるべしべしべしとととおぼしおぼしおぼしやすらふやすらふやすらう。。。
- 8中將中將ちゅうじょういかでいかでいかで我我わとととしらしらしられれれ聞聞きこえええじじじととと思思おもひひいててて、、、物物ものもももいはいはいわずずず唯唯ただいみじういみじういみじゅう怒怒いかれれれるるる氣色氣色けしきにににもてなしもてなしもてなしててて太刀太刀たちををを引引ひききき拔拔ぬけけけばばば、、、女女おんな「「「あがあがあが君君きみあがあがあが君君きみ」」」ととと向向むかひひいててて手手てををを摺摺するるるににに、、、ほとほとほとほとほとほと笑笑わらひひいぬぬぬべしべしべし。。。
- 9好好このましうましうましゅう若若わかやぎやぎやぎてててもてなしもてなしもてなしたるたるたるうはべうはべうわべこそこそこそさてさてさてもももありありありけれけれけれ、、、五十七八五十七八ごじゅうしちはちののの人人ひとのののうちとけうちとけうちとけててて物物もの思思おもひひい騷騷さわげげげるるるけはひけはひけわい、、、えならえならえならぬぬぬはたちはたちはたちのののわかうどわかうどわこうどだちだちだちののの御御おん中中なかにてにてにてものものものおぢおぢおじしししたるたるたるいといといとつきなしつきなしつきなし。。。
- 10かうかうこうあらあらあらぬぬぬさまさまさまにににもてもてもてひがめひがめひがめててて恐恐おそろしげしげしげなるなるなる氣色氣色けしきををを見見みすれすれすれどどど、、、なかなかなかなかなかなかしるくしるくしるく見見みつけつけつけ給給たまひひいててて、、、我我わとととしりしりしりててて殊更殊更ことさらにににするするするなりなりなりけりけりけりとととをこをこおこににになりなりなりぬぬぬ。。。
- 11そのそのその人人ひとなななめりめりめりととと見見み給給たまふふうにににいといといとをかしけれをかしけれおかしければばば、、、太刀太刀たち拔拔ぬきききたるたるたるかひなかひなかいなををを捕捕とらへへえててていといといといたういたういとう摘摘つみみみ給給たまへへえれれればばば妬妬ねたきききものものものからからからえええ堪堪たへへえででで笑笑わらひひいぬぬぬ。。。
- 12「「「まことまことまことにににはははうつしごゝろうつしごゝろうつしごころかかかとととよよよ。。。戯戯たわぶれぶれぶれにくしにくしにくしややや。。。いでいでいでこのこのこの直衣直衣のうし着着きむむん」」」とととのたまへのたまへのたまえどどど、、、つとつとつととらへとらへとらえててて更更さらにににゆるしゆるしゆるし聞聞きこえええずずず。。。
- 13「「「さらばさらばさらば諸共諸共もろともにににもももこそこそこそ」」」とととててて中將中將ちゅうじょうののの帶帶おびををを引引ひききき解解ときききてててぬがせぬがせぬがせ給給たまへへえばばば、、、ぬがぬがぬがじじじとととすまふすまふすまうをををとかくとかくとかくひきひきひきしろふしろふしろう程程ほどにににほころびほころびほころびはははほろほろほろほろほろほろととと絕絕たえええぬぬぬ。。。
- 14中將中將ちゅうじょう、、、「「「つゝむつゝむつつむめるめるめる名名なやややもりもりもり出出いでででむむんひきひきひきかはしかはしかわしかくかくかくほころぶるほころぶるほころぶる中中なかののの衣衣ころもににに。。。上上うえにににとりとりとり着着きばばばしるからしるからしるからむむん」」」ととといふいふいう。。。
- 15君君きみ、、、「「「かくれかくれかくれなきなきなきものものものとととしるしるしるしるしるしる夏夏なつごろもごろもごろもきききたるたるたるをををうすきうすきうすき心心こころとととぞぞぞ見見みるるる」」」ととといひいひいいかはしかはしかわしてててうらやみうらやみうらやみなきなきなきしどけなきしどけなきしどけなき姿姿すがたににに引引ひきききなさなさなされれれててて皆皆みな出出いででで給給たまひひいぬぬぬ。。。君君きみはははいといといと口惜口惜くちおしくしくしく見見みつけつけつけられられられぬるぬるぬる事事ことととと思思おもひひいふしふしふし給給たまへへえりりり。。。
- 16內侍內侍ないしはははあさましうあさましうあさましゅうおぼえおぼえおぼえけれけれければばば、、、落落おちちちとまれとまれとまれるるる御御おん指貫指貫さしぬき帶帶おびなどなどなどつとめてつとめてつとめて奉奉たてまつれれれりりり。。。「「「恨恨うらみみみてててもももいふいふいうかひかひかいぞぞぞなきなきなきたちたちたちかさねかさねかさね引引ひきききてててかへりかへりかえりししし波波なみのののなごりなごりなごりににに。。。そこそこそこもももあらはあらはあらわににに」」」とととありありあり。。。
- 17おもなおもなおもなのののさまさまさまやややととと見見み給給たまふふうもももにくけれにくけれにくけれどどど、、、わりなしわりなしわりなしととと思思おもへへえりりりしししもももさすがにさすがにさすがにててて、、、「「「あらだちあらだちあらだちししし波波なみにににこゝろこゝろこころはははさわがさわがさわがねねねどどどよせよせよせけむけむけん磯磯いそをををいかゞいかゞいかが恨恨うらみみみぬぬぬ」」」とととのみのみのみなむなむなんありありありけるけるける。。。
現代語訳
頭中将は、この源氏の君がひどくまじめぶって、いつも自分を非難なさるのがいまいましいので、素知らぬ顔をして内々に忍んで通っていらっしゃる所が多いようなのを、何とかして見つけ出してやろうとばかり思い続けていたので、これを見つけた気持ちは、たいそううれしい。こうした折に少しおどかし申し上げて、お心を惑わせて、「懲りたか」と言ってやろうと思って、油断させておく。
風が冷ややかに吹いて、だいぶ夜が更けていくころ、源氏が少しまどろんでいるのかと見える様子なので、頭中将はそっと入ったところ、源氏は気を許して寝てはいらっしゃらなかったので、すぐに聞きつけて、まさかこの頭中将とは思いもよらず、典侍がいまだに忘れられないでいるという修理大夫だろうとお思いになると、
分別のある年配の人に、こんな似つかわしくない振る舞いをして見つけられるのは恥ずかしいので、「ああ面倒な、出て行こう。蜘蛛のそぶりで、あの人が来ることはわかっていただろうに、ひどく私をだましたのですね」と言って、直衣だけを取って屏風の後ろにお入りになった。
頭中将はおかしさをこらえて、源氏が引き立てなさった屏風のもとに寄って、がたがたと屏風を畳み寄せて、大げさに騒ぎ立てると、典侍は年をとっているが、ひどく気取って色っぽい人で、以前にもこうして心を騒がせる折々があったので、慣れているものの、たいそうあわてる中でも、この源氏の君をどうなさるつもりなのだろうかとつらさに、震えながら、男をしっかりと押さえている。
源氏は、誰とも知られずに逃げ去りたいとお思いになるが、しどけない姿で、冠などをゆがめて走っていく後ろ姿を思うと、たいそう間が抜けているだろうとためらっていらっしゃる。頭中将は、何とかして自分だとは知られまいと思って、何も言わず、ただひどく怒っている様子をして太刀を引き抜くと、女は「あなた、あなた」と向かい合って手をすり合わせるので、頭中将はもう少しで笑い出してしまいそうだ。
好色らしく若作りをして振る舞っている表面は、それなりに見られたが、五十七、八の人が、取り乱してうろたえている様子は、二十歳ほどのすばらしい若者たちの間で、おびえているのは、たいそう似つかわしくない。頭中将は、こうして別人のように装って、恐ろしげな様子を見せるが、源氏はかえってはっきりと見破りなさって、自分だと知っていて、わざとしているのだなと、ばかばかしくなった。
その人(頭中将)らしいと見なさると、たいそうおかしいので、太刀を抜いた腕をつかまえて、ひどくつねりなさると、頭中将はくやしいながらも、こらえきれずに笑ってしまった。源氏が「本当に正気か。冗談にもほどがある。さあ、この直衣を着よう」とおっしゃるが、頭中将はしっかりとつかまえて、決して放し申し上げない。
源氏が「それなら、あなたもいっしょに」と言って、頭中将の帯を引き解いて脱がせなさると、頭中将は脱ぐまいと抵抗して、あれこれ引っ張り合ううちに、ほころびがほろほろと切れてしまった。頭中将が「隠しているあなたの浮き名が漏れ出てしまうでしょう。引っ張り合って、こんなにほころびた中の衣から。上に取って着たら、はっきりわかるでしょう」と言う。
源氏が「隠れようもないと知りながら、夏衣のように薄い心でやってきたあなたこそ、浅い心だと思いますよ」と言い交わして、うらやみっこなしの、しどけない姿に引きなされて、二人とも出ていらっしゃった。源氏は、たいそう残念なことに見つけられてしまったと思って、横になっていらっしゃった。
典侍はあきれたことだと思ったので、落ちて残っていた源氏の指貫や帯などを、翌朝お届け申し上げた。「恨んでも言うかいもありません。次々に寄せては引いて帰っていった波の名残の後では。底まであらわになってしまいました」とある。源氏は、厚かましい様子だなとご覧になるのも憎らしいが、困り果てていたのも、さすがにかわいそうで、「荒々しく立った波には驚きませんが、その波を寄せつけた磯を、どうして恨まずにいられましょう」とだけお返事があった。
意訳
源氏が源典侍の部屋にいるのを見つけた頭中将は、源氏をからかってやろうと忍びこむ。源氏は典侍の古い恋人が来たと思って屏風の陰に隠れ、頭中将は太刀を抜いて怒ったふりをする。典侍は手をすり合わせておろおろする。
源氏は頭中将だと気づき、二人は着物を引っ張り合って大笑いになる。仲のよい二人の貴公子と、うろたえる老女官。源氏物語の中でもっとも喜劇的な場面である。
語釈・文法注
- すりのかみ
- 修理大夫(すりのかみ)。修理職の長官。典侍の古くからの恋人。
- くものふるまひ
- 「我が背子が来べき宵なりささがにの蜘蛛のふるまひかねてしるしも」(『古今集』衣通姫)による。蜘蛛が巣をかけるのは恋人が来る前兆とされた。
文法
- 危ぶみの「もこそ」(諸共にもこそ)
- 「あなたもいっしょに(脱いでもらいましょう)」。
- 願望の「ばや」(いなばや)
- 「逃げ去りたい」。
和歌
つゝむめる名やもり出でむひきかはしかくほころぶる中の衣に
- 詠者
- 頭中将
- 状況
- 源氏と着物を引っ張り合い、ほころびができたのを見て頭中将が詠んだ歌。隠しているあなたの浮き名が漏れ出てしまうでしょう。引っ張り合って、こんなにほころびた中の衣から。
修辞
- 掛詞
- 「中の衣」に、下に着る衣と、二人の仲(源氏と典侍の仲)を重ねる。
かくれなきものとしるしる夏ごろもきたるをうすき心とぞ見る
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 頭中将の歌への源氏の返歌。隠れようもないと知りながら、夏衣のように薄い心で、こうしてやってきたあなたこそ、浅い心だと思いますよ。
修辞
- 掛詞
- 「きたる」に「着たる」と「来たる」を、「うすき」に夏衣の薄さと心の浅さを重ねる。
恨みてもいふかひぞなきたちかさね引きてかへりし波のなごりに
- 詠者
- 源典侍
- 状況
- 翌朝、落とし物を届けるときに典侍が添えた歌。恨んでも言うかいもありません。次々に寄せては引いて帰っていった波(お二人)の名残の後では。
修辞
- 縁語
- 「たちかさね」「引き」「かへり」「波」「なごり」が波の縁語。二人の貴公子が去った後の、取り残された寂しさを詠む。
あらだちし波にこゝろはさわがねどよせけむ磯をいかゞ恨みぬ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 典侍の歌への源氏の返歌。荒々しく立った波(頭中将)には驚きませんが、その波を寄せつけた磯(あなた)を、どうして恨まずにいられましょう。
修辞
- 比喩
- 頭中将を「あらだちし波」に、典侍を「磯」にたとえ、頭中将を引き入れた典侍を恨んでみせる。
解説
頭中将の乱入の場面は、源氏物語の中でもっとも笑いに満ちた場面である。屏風を押し倒し、太刀を抜き、着物を引っ張り合う二人の貴公子の姿は、まるで喜劇の一幕のようである。
しかしこの場面は、ただの笑い話ではない。源氏と頭中将の友情と競争心、そして源氏が隠している本当の恋(藤壺との関係)が、背景にある。頭中将は源氏の秘密を暴こうとするが、本当の秘密には気づかない。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、152–155頁(コマ78–79)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日