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源氏物語 第7帖 紅葉賀(9)

源典侍

登場人物:光源氏・源典侍・桐壺帝・頭中将

宮中に、身分も教養もあるが、年をとってもたいそう色好みな源典侍という女官がいた。源氏が戯れに声をかけると、典侍は本気になる。帝の御髪上げの後、源氏が典侍の裳裾を引くと、典侍は艶めいた歌を詠みかけ、帝にのぞかれて笑われる。噂を聞いた頭中将も典侍と通じる。ある夕立の後の夜、源氏は温明殿のあたりで、典侍が琵琶を弾きながら歌うのを聞き、歌を交わして部屋に入る。

月夜の宮中で、華やかに着飾った源典侍が扇を手にし、廊の先の源氏を振り返っている場面(AI生成)
月夜の宮中で、華やかに着飾った源典侍が扇を手にし、廊の先の源氏を振り返っている場面
  1. 1年とし年としとしいたういたういとう老お老おおいいいたるたるたる、、、人ひと人ひとひともももやんごとなくやんごとなくやんごとなく心こころ心こころこころばせばせばせありありありてててあてあてあてにににおぼえおぼえおぼえ高たか高たかたかくくくはははありありありながらながらながら、、、いみじういみじういみじゅうあだめいあだめいあだめいたるたるたる心こころ心こころこころざまざまざまにてにてにてそなたそなたそなたにににははは重おも重おもおもからからからぬぬぬあるあるあるををを、、、
  2. 2かうかうこうさださださだ過す過すすぐるぐるぐるまでまでまでなどなどなどさしもさしもさしも亂みだ亂みだみだるるるらむらむらんととといぶかしくいぶかしくいぶかしくおぼえおぼえおぼえ給たま給たまたまひひいけれけれければばば、、、戯たは戯たはたわぶれぶれぶれ言ごと言ごとごといひいひいいふれふれふれててて試こころ試こころこころみみみ給たま給たまたまふふうににに似に似ににげなくげなくげなくももも思おも思おもおもははわざりざりざりけりけりけり。。。
  3. 3あさましあさましあさましととと覺おぼ覺おぼおぼしししながらながらながら、、、さすがにさすがにさすがにかゝるかゝるかかるもももをかしうをかしうおかしゅうててて物もの物ものものなどなどなどのたまひのたまひのたまいてててけれけれけれどどど、、、人ひと人ひとひとののの漏も漏ももりりり聞き聞ききかかかむむんもももふるめかしきふるめかしきふるめかしき程ほど程ほどほどなれなれなればばばつれなくつれなくつれなくもてなしもてなしもてなし給たま給たまたまへへえるるるををを、、、女をんな女をんなおんなはははいといといとつらしつらしつらしととと思おも思おもおもへへえりりり。。。
  4. 4上うへ上うへうえのののみみみけづりぐしけづりぐしけずりぐしににに侍さぶら侍さぶらさぶらひひいけるけるけるをををはてはてはてにににけれけれければばば、、、上うへ上うへうえはははみみみうちきうちきうちきののの人ひと人ひとひと召め召めめしししててて出い出いいでででさせさせさせ給たま給たまたまひひいぬるぬるぬる程ほど程ほどほどににに、、、またまたまた人ひと人ひとひともももなくなくなくてててこのこのこの內侍ないし內侍ないしないし常つね常つねつねよりよりよりももも淸きよ淸きよきよげげげにににやうだいやうだいようだいかしらつきかしらつきかしらつきなまめきなまめきなまめきてててさうぞくさうぞくそうぞくありさまありさまありさまいといといと花はな花はなはなやかやかやかにににこのましげこのましげこのましげににに見み見みみゆるゆるゆるををを、、、
  5. 5さささもももふりふりふりがたうがたうがとうもももととと心こころ心こころこころづきなくづきなくづきなく見み見みみ給たま給たまたまふふうものものものからからから、、、いかゞいかゞいかが思おも思おもおもふふうらむらむらんとととさすがにさすがにさすがに過す過すすぐしぐしぐしがたくがたくがたくててて裳も裳ももののの裾すそ裾すそすそををを引ひ引ひひききき驚おどろ驚おどろおどろかしかしかし給たま給たまたまへへえれれればばば、、、
  6. 6のののえならえならえならずずず畫か畫かかきききたるたるたるをををさしさしさし隱かく隱かくかくしししててて見み見みみかへりかへりかえりたるたるたるまみまみまみいたういたういとう見み見みみ延の延ののべべべたれたれたれどどど、、、まかはまかはまかわはははいたくいたくいたく黑くろ黑くろくろみみみ落お落おおちちち入い入いいりりりててていみじくいみじくいみじくはづれはづれはずれそゝけそゝけそそけたりたりたり。。。
  7. 7似に似ににつかはしからつかはしからつかわしからぬぬぬ扇あふぎ扇あふぎおうぎのののさまさまさまかなかなかなととと見み見みみ給たま給たまたまひひいててて、、、我わ我わわがががももも給たま給たまたまへへえるるるにににさしさしさし代か代かかへへえててて見み見みみ給たま給たまたまへへえばばば、、、赤あか赤あかあかききき紙かみ紙かみかみののの映うつ映うつうつるるるばかりばかりばかり色いろ色いろいろ深ふか深ふかふかきききににに木こ木ここ高だか高だかだかききき森もり森もりもりのののかたかたかたををを塗ぬ塗ぬぬりりりかくしかくしかくしたりたりたり。。。
  8. 8片かた片かたかたつつつ方かた方かたかたににに手て手ててはははいといといとさださださだすぎすぎすぎたれたれたれどどどよしよしよしなからなからなからずずず、、、「「「森もり森もりもりののの下草したくさ下草したくさしたくさ生お生おおひひいぬれぬれぬればばばなどなどなど書か書かかきききすさびすさびすさびたるたるたるををを、、、事こと事ことことしもしもしもこそこそこそあれあれあれうたてうたてうたてののの心こころ心こころこころばへばへばえやややとととゑまゑまえまれれれながらながらながら「「「森もり森もりもりこそこそこそ夏なつ夏なつなつのののととと見み見みみゆゆゆめるめるめるとととててて何なに何なになにくれくれくれとととのたまふのたまふのたまうももも似に似ににげなくげなくげなく人ひと人ひとひとややや見み見みみつけつけつけむむんととと苦くる苦くるくるしきしきしきををを女をんな女をんなおんなはははさささももも思おも思おもおもひひいたらたらたらずずず。。。
  9. 9「「「君きみ君きみきみしししこここばばば手て手ててなれなれなれののの駒こま駒こまこまにににかりかりかりかはかはかわむむんさかりさかりさかり過す過すすぎぎぎたるたるたる下葉したば下葉したばしたばなりなりなりともともとも」」」ととといふいふいうさまさまさまこよなうこよなうこよのう色いろ色いろいろめきめきめきたりたりたり。。。
  10. 10「「「さゝさゝささわけわけわけばばば人ひと人ひとひとやややとがめとがめとがめむむんいついついつとととなくなくなく駒こま駒こまこまなつくなつくなつくめるめるめる森もり森もりもりのののこがくれこがくれこがくれ。。。煩わづら煩わづらわずらはしさはしさわしさににに」」」とととててて立た立たたちちち給たま給たまたまふふうをををひかへひかへひかえててて、、、「「「まだまだまだかゝるかゝるかかるものものものをををこそこそこそ思おも思おもおもひひい侍はべ侍はべはべらららねねね。。。今更いまさら今更いまさらいまさらなるなるなる身み身みみののの耻はぢ耻はぢはじににになむなむなん」」」とととててて泣な泣ななくくくさまさまさまいといといといみじいみじいみじ。。。
  11. 11「「「今いま今いまいま聞きこ聞きこきこえええむむん。。。思おも思おもおもひひいながらながらながらぞぞぞややや」」」とととててて引ひ引ひひききき放はな放はなはなちちちててて出い出いいででで給たま給たまたまふふうををを、、、せめてせめてせめておよびておよびておよびて「「「はしばしらはしばしらはしばしらととと恨うら恨うらうらみみみかくるかくるかくるををを、、、上うへ上うへうえはははみみみ袿うちき袿うちきうちきはてゝはてゝはてて御おん御おんおんさうじさうじそうじののの內うち內うちうちよりよりより覗のぞ覗のぞのぞかかかせせせ給たま給たまたまひひいけりけりけり。。。
  12. 12似に似ににつかはしからつかはしからつかわしからぬぬぬあはひあはひあわいかなかなかなととといといといとをかしうをかしうおかしゅうおぼしおぼしおぼしめさめさめされれれててて、、、「「「すきすきすき心ごころ心ごころごころなしなしなしととと常つね常つねつねにににもてもてもて惱なや惱なやなやむむむめるめるめるををを、、、さささはははいへいへいえどどど過す過すすぐさぐさぐさゞりゞりざりけるけるけるははは」」」とととててて笑わら笑わらわらははわせせせ給たま給たまたまへへえばばば、、、
  13. 13內侍ないし內侍ないしないしはははなまなまなままばゆけれまばゆけれまばゆけれどどど、、、憎にく憎にくにくからからからぬぬぬ人ひと人ひとひとゆゑゆゑゆえはははぬれぎぬぬれぎぬぬれぎぬをををだにだにだに着き着ききまほしがるまほしがるまほしがるたぐひたぐひたぐいもももあああなれなれなればばばにににややや、、、いたういたういとうもももあらがひあらがひあらがい聞きこ聞きこきこえええさせさせさせずずず。。。
  14. 14人々びと人々びとびとももも「「「思おもひ思おもひおもいののの外ほか外ほかほかなるなるなることことことかなかなかな」」」とととあつかふあつかふあつかうめるめるめるををを、、、頭中將とうのちゆうじやう頭中將とうのちゆうじやうとうのちゅうじょう聞き聞きききききつけつけつけててて至いた至いたいたらららぬぬぬ隈くま隈くまくまなきなきなき心こころ心こころこころにてにてにてまだまだまだ思おも思おもおもひひいよらよらよらざりざりざりけるけるけるよよよととと思おも思おもおもふふうににに、、、盡つく盡つくつくせせせぬぬぬこのこのこのみみみ心こころ心こころこころももも見み見みみまほしうまほしうまほしゅうなりなりなりにににけれけれければばば語かた語かたかたらひらひらいつきつきつきにににけりけりけり。。。
  15. 15このこのこの君きみ君きみきみももも人ひと人ひとひとよりよりよりはははいといといと異こと異ことことなるなるなるをををかのかのかのつれなきつれなきつれなき人ひと人ひとひとののの御おん御おんおんなぐさめなぐさめなぐさめにににととと思おも思おもおもひひいつれつれつれどどど、、、見み見みみまほしきまほしきまほしきははは限かぎ限かぎかぎりりりありけるありけるありける世よ世よよとととややや、、、うたてうたてうたてのののこのみこのみこのみややや
  16. 16いたういたういとう忍しの忍しのしのぶれぶれぶればばば源氏げんじ源氏げんじげんじののの君きみ君きみきみはははえええ知し知ししりりり給たま給たまたまははわずずず、、、見み見みみつけつけつけ聞きこ聞きこきこえええてててはははまづまづまず恨うら恨うらうらみみみ聞きこ聞きこきこゆるゆるゆるをををよはひよはひよわいののの程ほど程ほどほどいとほしけれいとほしけれいとおしければばば慰なぐさ慰なぐさなぐさめめめむむんととと覺おぼ覺おぼおぼせせせどどどかなはかなはかなわぬぬぬ物もの物ものもの憂う憂ううさささにににいといといと久ひさ久ひさひさしうしうしゅうなりなりなりにににけるけるけるををを、、、
  17. 17ゆふだちゆふだちゆうだちしししててて名殘なごり名殘なごりなごり涼すず涼すずすずしきしきしき宵よひ宵よひよいのののまぎれまぎれまぎれにににのののわたりわたりわたりをををたゝずみたゝずみたたずみありきありきありき給たま給たまたまへへえばばばこのこのこの內侍ないし內侍ないしないし琵琶びは琵琶びはびわをををいといといとをかしうをかしうおかしゅう彈ひ彈ひひききき居ゐ居ゐいたりたりたり。。。
  18. 18御おん御おんおんまへまへまえなどなどなどにてにてにてももも男方をとこがた男方をとこがたおとこがたののの御おん御おんおん遊あそび遊あそびあそびにににまじりまじりまじりなどなどなどしししててて殊こと殊ことことにににまさるまさるまさる人ひと人ひとひとなきなきなき上手じやうず上手じやうずじょうずなれなれなればばば、、、物もの物ものもののののうらめしううらめしううらめしゅう覺おぼ覺おぼおぼえええけるけるける折をり折をりおりからからからいといといと哀あはれ哀あはれあわれににに聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。
  19. 19「「「うりつくりうりつくりうりつくりににになりなりなりやややしししなましなましなましととと聲こゑ聲こゑこえはははいといといとをかしうをかしうおかしゅうててて謠うた謠うたうたふふうぞぞぞ少すこ少すこすこししし心こころ心こころこころづきなきづきなきづきなき。。。にににありありありけむけむけん昔むかし昔むかしむかしののの人ひと人ひとひともももかくかくかくやややをかしかりをかしかりおかしかりけむけむけんととと耳みみ耳みみみみとまりとまりとまりててて聞き聞ききききき給たま給たまたまふふう。。。彈ひ彈ひひききき止や止ややみみみててていといといといたくいたくいたく思おも思おもおもひひい亂みだ亂みだみだれれれたるたるたるけはひけはひけわいなりなりなり。。。
  20. 20君きみ君きみきみ「「「あづまやあづまやあずまやををを忍しの忍しのしのびやかびやかびやかににに謠うた謠うたうたひひいててて寄よ寄よよりりり居ゐ居ゐい給たま給たまたまへへえるるるににに「「「おしおしおしひらいひらいひらいてててきませきませきませ」」」とととうちうちうちそへそへそえたるたるたるももも例れい例れいれいににに違たが違たがたがひひいたるたるたる心地ここち心地ここちここちぞぞぞするするする。。。
  21. 21「「「立た立たたちちちぬるゝぬるゝぬるる人ひと人ひとひとしもしもしもあらあらあらじじじあづまやあづまやあずまやにににうたてうたてうたてもももかゝるかゝるかかる雨あま雨あまあまぞゝぎぞゝぎぞそぎかなかなかな」」」とととうちうちうち歎なげ歎なげなげくくくををを我わ我わわ一人ひとり一人ひとりひとりしもしもしも聞き聞きききききおふおふおうまじけれまじけれまじけれどどどうとましうとましうとましややや、、、何事なにごと何事なにごとなにごとをををかくかくかくまでまでまではははとととおぼゆおぼゆおぼゆ。。。
  22. 22「「「人ひと人ひとひとづまづまづまはははあなあなあなわづらはしわづらはしわずらわしあづまやあづまやあずまやのののまやまやまやのののあまりあまりあまりももも馴な馴ななれれれじじじとととぞぞぞ思おも思おもおもふふう」」」とととてててうちうちうちすぎすぎすぎなまほしけれなまほしけれなまほしけれどどど、、、あまりあまりあまりはしたなくはしたなくはしたなくやややととと思おも思おもおもひひいかへしかへしかえしててて人ひと人ひとひとににに隨したが隨したがしたがへへえばばば、、、少すこ少すこすこしししはやりかはやりかはやりかなるなるなるたはぶれごとたはぶれごとたわぶれごとなどなどなど言い言いいひひいかはしかはしかわしててて、、、これこれこれももも珍めづら珍めづらめずらしきしきしき心地ここち心地ここちここちぞぞぞししし給たま給たまたまふふう。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

たいそう年老いた典侍で、家柄もよく、才気もあり、上品で人望も高くはありながら、たいそう浮気な気性で、その方面では軽々しい女がいたのを、源氏は、こんなに年をとってまで、どうしてそんなに乱れるのだろうと不思議にお思いになったので、冗談を言いかけて試してごらんになると、典侍は不釣り合いだとも思わなかった。

あきれたことだとお思いになりながら、それでもこうした女も興があって、何か言葉をかけたりなさったが、人が漏れ聞くのも、年寄り相手では体裁が悪いので、そっけなく振る舞っていらっしゃるのを、女はたいそうつらいと思っていた。

典侍が帝の御髪上げにお仕えしていたのが終わったので、帝は御袿の係の者を呼んで出ていかれたあと、ほかに人もいなくて、この典侍がいつもよりこざっぱりと、姿や頭つきも優美で、装束や様子もたいそう華やかで色っぽく見えるのを、源氏は、いつまでも若作りをしてと気に入らずご覧になるものの、どう思っているだろうかと、さすがに見過ごしかねて、裳の裾を引いてびっくりさせなさると、

典侍は、蝙蝠扇のえも言われず美しく描いてあるもので顔を隠して振り返ったが、その目つきは、たいそう流し目をつかっているけれど、まぶたはひどく黒ずんで落ちくぼみ、たいそうやつれて髪がほつれている。

年に似合わない扇だなとご覧になって、ご自分の持っていらっしゃる扇ととりかえてご覧になると、赤い紙で、顔に映るほど色の濃いものに、木高い森の絵を塗りつぶしてある。その片側に、筆跡はたいそう古めかしいけれど、たしなみがなくはない字で、「森の下草老いぬれば」などと書き流してあるのを、ほかに言いようもあろうに、いやな趣向だとほほえまれながら、源氏が「『森こそ夏の』と見えるね」と言って、何やかやとおっしゃるのも、不釣り合いで、人が見つけはしないかと気が気でないのに、女はそうとも思っていない。

典侍が「あなたがいらっしゃるなら、手なれた馬のために草を刈って与えましょう。盛りを過ぎた下葉であっても」と言う様子は、この上なく色っぽい。源氏は「笹を分けて入ったら、人がとがめるでしょう。いつも馬たちがなついているらしい森の木陰には。わずらわしいので」と言ってお立ちになるのを、典侍は引きとめて、「まだこんな思いはしたことがございません。今さら、身の恥でございます」と言って泣く様子は、ひどいものである。

源氏が「いずれ便りをしよう。思ってはいるのだよ」と言って振り切ってお出になるのを、典侍は無理に追いすがって、「橋柱」と恨み言を言いかけるのを、帝は御袿のお召し替えを終えて、襖の中からおのぞきになっていた。不釣り合いな取り合わせだなと、たいそうおかしくお思いになって、「好き心がないと、いつも困っているようだったが、そうはいっても見過ごさなかったのだな」とお笑いになると、

典侍は何となくきまり悪いけれど、憎からず思う人のためなら、濡れ衣でも着たがる類いもあるというからだろうか、それほど強く弁解も申し上げない。人々も「思いもよらないことですね」と噂し合うようなのを、頭中将が聞きつけて、行き届かない所のない好色な心で、まだ思いつかなかったなと思うと、尽きない典侍の好き心も見てみたくなったので、言い寄って関係を持ってしまった。

この頭中将も、人並みすぐれた人なので、典侍は、あのつれない人(源氏)の慰めにと思ったけれど、本当に会いたいのは源氏だけという世の中なのだろうか、困った好みですこと。典侍がひどく忍んでいるので、源氏の君はご存じない。典侍は源氏をお見かけすると、まず恨み言を申し上げるので、源氏は年齢が気の毒で、慰めてやろうとお思いになるが、気が進まなくて、たいそう長く通わずにいたところ、

夕立が降って、その名残の涼しい宵の暗がりに紛れて、源氏が温明殿のあたりをたたずみ歩いていらっしゃると、この典侍が琵琶をたいそう趣深く弾いていた。帝の御前などでも、殿方の管絃の遊びに加わったりして、格別にまさる人もない名手なので、恨めしく思っていた折だけに、たいそうしみじみと聞こえる。

「瓜作りになりやしなまし」と、声はたいそう美しく歌うのが、少し気にくわない。鄂州にいたという昔の女も、こんなに趣深かったのだろうかと、耳をとめてお聞きになる。典侍は弾きやめて、ひどく思い乱れている様子である。源氏が催馬楽の「東屋」を忍びやかに歌って近寄ってお座りになると、典侍が「押し開いて来ませ」と続けて歌うのも、普通とは違った気がする。

典侍が「立ちぬれて訪ねてくる人などいない東屋に、いやなことに雨だればかりかかることです」と嘆くのを、源氏は、自分一人が恨まれる筋合いではないが、いやなことだ、何をそれほどまでにと思われる。「人妻はまあ面倒なことだ。東屋の軒先のあたりにも、あまりなじむまいと思う」と言って通り過ぎたいけれど、あまりそっけないだろうかと思い直して、典侍の言うままにすると、少し浮ついた冗談を言い交わして、これもまた珍しい気持ちがなさる。

意訳

源典侍は、家柄も教養もありながら、年をとってもたいそう色好みな女官である。源氏が戯れに声をかけると、典侍は本気になり、若い源氏を追いかける。帝にのぞかれて笑われ、頭中将まで典侍と通じるようになる。

夕立の後の夜、源氏は典侍が琵琶を弾きながら歌うのを聞き、催馬楽「東屋」を歌い交わして部屋に入る。紅葉賀の巻の後半は、この喜劇的な挿話で彩られる。

語釈・文法注

ないしのすけ
典侍(ないしのすけ)。内侍司の次官。この女性は「源典侍(げんのないしのすけ)」と呼ばれる。このとき五十七、八歳とされる。
かはほり
蝙蝠(かわほり)扇。紙を張った扇。夏に用いる。
森の下草生ひぬれば
「大荒木の森の下草老いぬれば駒もすさめず刈る人もなし」(『古今集』)の一節。年をとった自分には、もう誰も見向きもしない、という意。
森こそ夏の
「ほととぎす来鳴くを聞けば大荒木の森こそ夏の宿りなるらし」(『信明集』)による。森には多くの鳥(男)が来て宿っている、とからかう。
はしばしら
「津の国の長柄の橋の橋柱古りぬる身こそ悲しかりけれ」の歌をふまえ、年老いた身を嘆く。
うんめいでん
温明殿(うんめいでん)。内裏の殿舎の一つで、神鏡を祀る内侍所がある。典侍たちが詰めていた。
うりつくり
催馬楽「山城」の一節。「瓜作り我を欲しといふ、いかにせむ、なりやしなまし」。求婚する男になびこうかと迷う女の歌。
鄂州
白居易の詩「夜聞歌者」に、鄂州で夜、舟の中で歌う美しい女の歌を聞いたことが詠まれている。
あづまや
催馬楽「東屋」。「東屋の真屋のあまりのその雨そそぎ、我立ち濡れぬ、殿戸開かせ」「鎹も錠もあらばこそ、その殿戸我鎖さめ、押し開いて来ませ、我や人妻」と、男女が掛け合う歌。

文法

反実仮想「なまし」(なりやしなまし)
「(あの人のものに)なってしまおうかしら」。ためらいを表す。
過去推量の「けむ」(ありけむ昔の人)
「…にいたという昔の人」。

和歌

君しこば手なれの駒にかりかはむさかり過ぎたる下葉なりとも

詠者
源典侍
状況
源氏が扇の絵の森をからかったのに応えて、典侍が詠みかけた歌。あなたがいらっしゃるなら、手なれた馬のために草を刈って与えましょう。盛りを過ぎた下葉であっても。

修辞

比喩
源氏を「駒(馬)」に、年をとった自分を「さかり過ぎたる下葉」にたとえて、老いてもなお源氏を誘う。

さゝわけば人やとがめむいつとなく駒なつくめる森のこがくれ

詠者
光源氏
状況
典侍の歌への源氏の返歌。笹を分けて入っていったら、人がとがめるでしょう。いつも馬たちがなついているらしい森の木陰には。

修辞

比喩
典侍のもとには、いつも多くの男が通っていると、からかって断る。

立ちぬるゝ人しもあらじあづまやにうたてもかゝる雨ぞゝぎかな

詠者
源典侍
状況
源氏の催馬楽に応えて、典侍が詠んだ歌。立ちぬれて訪ねてくる人などいない東屋に、いやなことに雨だればかりがかかることです。

修辞

縁語
「あづまや」「雨ぞゝぎ」が縁語。催馬楽「東屋」をふまえ、誰も訪ねてこない寂しさを訴える。

人づまはあなわづらはしあづまやのまやのあまりも馴れじとぞ思ふ

詠者
光源氏
状況
典侍の歌への源氏の返歌。人妻はまあ面倒なことだ。東屋の軒先のあたりにも、あまりなじむまいと思います。

修辞

本歌取り
催馬楽「東屋」の「東屋の真屋のあまりのその雨そそぎ」をふまえ、典侍には夫(修理大夫)がいることをあてこする。

解説

源典侍の挿話は、源氏物語の中でも珍しい、滑稽な場面である。五十七、八歳の老女が若い源氏に色目を使う様子が、ユーモラスに描かれる。それでも典侍は、琵琶の名手で、教養ある女性として描かれている。

典侍との歌の贈答には、催馬楽や古歌がふんだんに引用される。年をとっても機知に富んだ典侍と、それを軽くかわす源氏とのやりとりは、王朝の恋の遊びの一面を示している。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、150–153頁(コマ77–78)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日