源氏物語 第7帖 紅葉賀(9)
源典侍
宮中に、身分も教養もあるが、年をとってもたいそう色好みな源典侍という女官がいた。源氏が戯れに声をかけると、典侍は本気になる。帝の御髪上げの後、源氏が典侍の裳裾を引くと、典侍は艶めいた歌を詠みかけ、帝にのぞかれて笑われる。噂を聞いた頭中将も典侍と通じる。ある夕立の後の夜、源氏は温明殿のあたりで、典侍が琵琶を弾きながら歌うのを聞き、歌を交わして部屋に入る。

- 1年年としいたういたういとう老老おいいいたるたるたる、、、人人ひともももやんごとなくやんごとなくやんごとなく心心こころばせばせばせありありありてててあてあてあてにににおぼえおぼえおぼえ高高たかくくくはははありありありながらながらながら、、、いみじういみじういみじゅうあだめいあだめいあだめいたるたるたる心心こころざまざまざまにてにてにてそなたそなたそなたにににははは重重おもからからからぬぬぬあるあるあるををを、、、
- 2かうかうこうさださださだ過過すぐるぐるぐるまでまでまでなどなどなどさしもさしもさしも亂亂みだるるるらむらむらんととといぶかしくいぶかしくいぶかしくおぼえおぼえおぼえ給給たまひひいけれけれければばば、、、戯戯たわぶれぶれぶれ言言ごといひいひいいふれふれふれててて試試こころみみみ給給たまふふうににに似似にげなくげなくげなくももも思思おもははわざりざりざりけりけりけり。。。
- 3あさましあさましあさましととと覺覺おぼしししながらながらながら、、、さすがにさすがにさすがにかゝるかゝるかかるもももをかしうをかしうおかしゅうててて物物ものなどなどなどのたまひのたまひのたまいてててけれけれけれどどど、、、人人ひとののの漏漏もりりり聞聞きかかかむむんもももふるめかしきふるめかしきふるめかしき程程ほどなれなれなればばばつれなくつれなくつれなくもてなしもてなしもてなし給給たまへへえるるるををを、、、女女おんなはははいといといとつらしつらしつらしととと思思おもへへえりりり。。。
- 4上上うえのののみみみけづりぐしけづりぐしけずりぐしににに侍侍さぶらひひいけるけるけるをををはてはてはてにににけれけれければばば、、、上上うえはははみみみうちきうちきうちきののの人人ひと召召めしししててて出出いでででさせさせさせ給給たまひひいぬるぬるぬる程程ほどににに、、、またまたまた人人ひともももなくなくなくてててこのこのこの內侍內侍ないし常常つねよりよりよりももも淸淸きよげげげにににやうだいやうだいようだいかしらつきかしらつきかしらつきなまめきなまめきなまめきてててさうぞくさうぞくそうぞくありさまありさまありさまいといといと花花はなやかやかやかにににこのましげこのましげこのましげににに見見みゆるゆるゆるををを、、、
- 5さささもももふりふりふりがたうがたうがとうもももととと心心こころづきなくづきなくづきなく見見み給給たまふふうものものものからからから、、、いかゞいかゞいかが思思おもふふうらむらむらんとととさすがにさすがにさすがに過過すぐしぐしぐしがたくがたくがたくててて裳裳もののの裾裾すそををを引引ひききき驚驚おどろかしかしかし給給たまへへえれれればばば、、、
- 6のののえならえならえならずずず畫畫かきききたるたるたるをををさしさしさし隱隱かくしししててて見見みかへりかへりかえりたるたるたるまみまみまみいたういたういとう見見み延延のべべべたれたれたれどどど、、、まかはまかはまかわはははいたくいたくいたく黑黑くろみみみ落落おちちち入入いりりりててていみじくいみじくいみじくはづれはづれはずれそゝけそゝけそそけたりたりたり。。。
- 7似似につかはしからつかはしからつかわしからぬぬぬ扇扇おうぎのののさまさまさまかなかなかなととと見見み給給たまひひいててて、、、我我わがががももも給給たまへへえるるるにににさしさしさし代代かへへえててて見見み給給たまへへえばばば、、、赤赤あかききき紙紙かみののの映映うつるるるばかりばかりばかり色色いろ深深ふかきききににに木木こ高高だかききき森森もりのののかたかたかたををを塗塗ぬりりりかくしかくしかくしたりたりたり。。。
- 8片片かたつつつ方方かたににに手手てはははいといといとさださださだすぎすぎすぎたれたれたれどどどよしよしよしなからなからなからずずず、、、「「「森森もりののの下草下草したくさ生生おひひいぬれぬれぬればばばなどなどなど書書かきききすさびすさびすさびたるたるたるををを、、、事事ことしもしもしもこそこそこそあれあれあれうたてうたてうたてののの心心こころばへばへばえやややとととゑまゑまえまれれれながらながらながら「「「森森もりこそこそこそ夏夏なつのののととと見見みゆゆゆめるめるめるとととててて何何なにくれくれくれとととのたまふのたまふのたまうももも似似にげなくげなくげなく人人ひとややや見見みつけつけつけむむんととと苦苦くるしきしきしきををを女女おんなはははさささももも思思おもひひいたらたらたらずずず。。。
- 9「「「君君きみしししこここばばば手手てなれなれなれののの駒駒こまにににかりかりかりかはかはかわむむんさかりさかりさかり過過すぎぎぎたるたるたる下葉下葉したばなりなりなりともともとも」」」ととといふいふいうさまさまさまこよなうこよなうこよのう色色いろめきめきめきたりたりたり。。。
- 10「「「さゝさゝささわけわけわけばばば人人ひとやややとがめとがめとがめむむんいついついつとととなくなくなく駒駒こまなつくなつくなつくめるめるめる森森もりのののこがくれこがくれこがくれ。。。煩煩わずらはしさはしさわしさににに」」」とととててて立立たちちち給給たまふふうをををひかへひかへひかえててて、、、「「「まだまだまだかゝるかゝるかかるものものものをををこそこそこそ思思おもひひい侍侍はべらららねねね。。。今更今更いまさらなるなるなる身身みののの耻耻はじににになむなむなん」」」とととててて泣泣なくくくさまさまさまいといといといみじいみじいみじ。。。
- 11「「「今今いま聞聞きこえええむむん。。。思思おもひひいながらながらながらぞぞぞややや」」」とととててて引引ひききき放放はなちちちててて出出いででで給給たまふふうををを、、、せめてせめてせめておよびておよびておよびて「「「はしばしらはしばしらはしばしらととと恨恨うらみみみかくるかくるかくるををを、、、上上うえはははみみみ袿袿うちきはてゝはてゝはてて御御おんさうじさうじそうじののの內內うちよりよりより覗覗のぞかかかせせせ給給たまひひいけりけりけり。。。
- 12似似につかはしからつかはしからつかわしからぬぬぬあはひあはひあわいかなかなかなととといといといとをかしうをかしうおかしゅうおぼしおぼしおぼしめさめさめされれれててて、、、「「「すきすきすき心心ごころなしなしなしととと常常つねにににもてもてもて惱惱なやむむむめるめるめるををを、、、さささはははいへいへいえどどど過過すぐさぐさぐさゞりゞりざりけるけるけるははは」」」とととててて笑笑わらははわせせせ給給たまへへえばばば、、、
- 13內侍內侍ないしはははなまなまなままばゆけれまばゆけれまばゆけれどどど、、、憎憎にくからからからぬぬぬ人人ひとゆゑゆゑゆえはははぬれぎぬぬれぎぬぬれぎぬをををだにだにだに着着きまほしがるまほしがるまほしがるたぐひたぐひたぐいもももあああなれなれなればばばにににややや、、、いたういたういとうもももあらがひあらがひあらがい聞聞きこえええさせさせさせずずず。。。
- 14人々人々びとももも「「「思思おもいののの外外ほかなるなるなることことことかなかなかな」」」とととあつかふあつかふあつかうめるめるめるををを、、、頭中將頭中將とうのちゅうじょう聞聞ききききつけつけつけててて至至いたらららぬぬぬ隈隈くまなきなきなき心心こころにてにてにてまだまだまだ思思おもひひいよらよらよらざりざりざりけるけるけるよよよととと思思おもふふうににに、、、盡盡つくせせせぬぬぬこのこのこのみみみ心心こころももも見見みまほしうまほしうまほしゅうなりなりなりにににけれけれければばば語語かたらひらひらいつきつきつきにににけりけりけり。。。
- 15このこのこの君君きみももも人人ひとよりよりよりはははいといといと異異ことなるなるなるをををかのかのかのつれなきつれなきつれなき人人ひとののの御御おんなぐさめなぐさめなぐさめにににととと思思おもひひいつれつれつれどどど、、、見見みまほしきまほしきまほしきははは限限かぎりりりありけるありけるありける世世よとととややや、、、うたてうたてうたてのののこのみこのみこのみややや
- 16いたういたういとう忍忍しのぶれぶれぶればばば源氏源氏げんじののの君君きみはははえええ知知しりりり給給たまははわずずず、、、見見みつけつけつけ聞聞きこえええてててはははまづまづまず恨恨うらみみみ聞聞きこゆるゆるゆるをををよはひよはひよわいののの程程ほどいとほしけれいとほしけれいとおしければばば慰慰なぐさめめめむむんととと覺覺おぼせせせどどどかなはかなはかなわぬぬぬ物物もの憂憂うさささにににいといといと久久ひさしうしうしゅうなりなりなりにににけるけるけるををを、、、
- 17ゆふだちゆふだちゆうだちしししててて名殘名殘なごり涼涼すずしきしきしき宵宵よいのののまぎれまぎれまぎれにににのののわたりわたりわたりをををたゝずみたゝずみたたずみありきありきありき給給たまへへえばばばこのこのこの內侍內侍ないし琵琶琵琶びわをををいといといとをかしうをかしうおかしゅう彈彈ひききき居居いたりたりたり。。。
- 18御御おんまへまへまえなどなどなどにてにてにてももも男方男方おとこがたののの御御おん遊遊あそびにににまじりまじりまじりなどなどなどしししててて殊殊ことにににまさるまさるまさる人人ひとなきなきなき上手上手じょうずなれなれなればばば、、、物物もののののうらめしううらめしううらめしゅう覺覺おぼえええけるけるける折折おりからからからいといといと哀哀あわれににに聞聞きこゆゆゆ。。。
- 19「「「うりつくりうりつくりうりつくりににになりなりなりやややしししなましなましなましととと聲聲こえはははいといといとをかしうをかしうおかしゅうててて謠謠うたふふうぞぞぞ少少すこししし心心こころづきなきづきなきづきなき。。。にににありありありけむけむけん昔昔むかしののの人人ひともももかくかくかくやややをかしかりをかしかりおかしかりけむけむけんととと耳耳みみとまりとまりとまりててて聞聞きききき給給たまふふう。。。彈彈ひききき止止やみみみててていといといといたくいたくいたく思思おもひひい亂亂みだれれれたるたるたるけはひけはひけわいなりなりなり。。。
- 20君君きみ「「「あづまやあづまやあずまやををを忍忍しのびやかびやかびやかににに謠謠うたひひいててて寄寄よりりり居居い給給たまへへえるるるににに「「「おしおしおしひらいひらいひらいてててきませきませきませ」」」とととうちうちうちそへそへそえたるたるたるももも例例れいににに違違たがひひいたるたるたる心地心地ここちぞぞぞするするする。。。
- 21「「「立立たちちちぬるゝぬるゝぬるる人人ひとしもしもしもあらあらあらじじじあづまやあづまやあずまやにににうたてうたてうたてもももかゝるかゝるかかる雨雨あまぞゝぎぞゝぎぞそぎかなかなかな」」」とととうちうちうち歎歎なげくくくををを我我わ一人一人ひとりしもしもしも聞聞ききききおふおふおうまじけれまじけれまじけれどどどうとましうとましうとましややや、、、何事何事なにごとをををかくかくかくまでまでまではははとととおぼゆおぼゆおぼゆ。。。
- 22「「「人人ひとづまづまづまはははあなあなあなわづらはしわづらはしわずらわしあづまやあづまやあずまやのののまやまやまやのののあまりあまりあまりももも馴馴なれれれじじじとととぞぞぞ思思おもふふう」」」とととてててうちうちうちすぎすぎすぎなまほしけれなまほしけれなまほしけれどどど、、、あまりあまりあまりはしたなくはしたなくはしたなくやややととと思思おもひひいかへしかへしかえしててて人人ひとににに隨隨したがへへえばばば、、、少少すこしししはやりかはやりかはやりかなるなるなるたはぶれごとたはぶれごとたわぶれごとなどなどなど言言いひひいかはしかはしかわしててて、、、これこれこれももも珍珍めずらしきしきしき心地心地ここちぞぞぞししし給給たまふふう。。。
現代語訳
たいそう年老いた典侍で、家柄もよく、才気もあり、上品で人望も高くはありながら、たいそう浮気な気性で、その方面では軽々しい女がいたのを、源氏は、こんなに年をとってまで、どうしてそんなに乱れるのだろうと不思議にお思いになったので、冗談を言いかけて試してごらんになると、典侍は不釣り合いだとも思わなかった。
あきれたことだとお思いになりながら、それでもこうした女も興があって、何か言葉をかけたりなさったが、人が漏れ聞くのも、年寄り相手では体裁が悪いので、そっけなく振る舞っていらっしゃるのを、女はたいそうつらいと思っていた。
典侍が帝の御髪上げにお仕えしていたのが終わったので、帝は御袿の係の者を呼んで出ていかれたあと、ほかに人もいなくて、この典侍がいつもよりこざっぱりと、姿や頭つきも優美で、装束や様子もたいそう華やかで色っぽく見えるのを、源氏は、いつまでも若作りをしてと気に入らずご覧になるものの、どう思っているだろうかと、さすがに見過ごしかねて、裳の裾を引いてびっくりさせなさると、
典侍は、蝙蝠扇のえも言われず美しく描いてあるもので顔を隠して振り返ったが、その目つきは、たいそう流し目をつかっているけれど、まぶたはひどく黒ずんで落ちくぼみ、たいそうやつれて髪がほつれている。
年に似合わない扇だなとご覧になって、ご自分の持っていらっしゃる扇ととりかえてご覧になると、赤い紙で、顔に映るほど色の濃いものに、木高い森の絵を塗りつぶしてある。その片側に、筆跡はたいそう古めかしいけれど、たしなみがなくはない字で、「森の下草老いぬれば」などと書き流してあるのを、ほかに言いようもあろうに、いやな趣向だとほほえまれながら、源氏が「『森こそ夏の』と見えるね」と言って、何やかやとおっしゃるのも、不釣り合いで、人が見つけはしないかと気が気でないのに、女はそうとも思っていない。
典侍が「あなたがいらっしゃるなら、手なれた馬のために草を刈って与えましょう。盛りを過ぎた下葉であっても」と言う様子は、この上なく色っぽい。源氏は「笹を分けて入ったら、人がとがめるでしょう。いつも馬たちがなついているらしい森の木陰には。わずらわしいので」と言ってお立ちになるのを、典侍は引きとめて、「まだこんな思いはしたことがございません。今さら、身の恥でございます」と言って泣く様子は、ひどいものである。
源氏が「いずれ便りをしよう。思ってはいるのだよ」と言って振り切ってお出になるのを、典侍は無理に追いすがって、「橋柱」と恨み言を言いかけるのを、帝は御袿のお召し替えを終えて、襖の中からおのぞきになっていた。不釣り合いな取り合わせだなと、たいそうおかしくお思いになって、「好き心がないと、いつも困っているようだったが、そうはいっても見過ごさなかったのだな」とお笑いになると、
典侍は何となくきまり悪いけれど、憎からず思う人のためなら、濡れ衣でも着たがる類いもあるというからだろうか、それほど強く弁解も申し上げない。人々も「思いもよらないことですね」と噂し合うようなのを、頭中将が聞きつけて、行き届かない所のない好色な心で、まだ思いつかなかったなと思うと、尽きない典侍の好き心も見てみたくなったので、言い寄って関係を持ってしまった。
この頭中将も、人並みすぐれた人なので、典侍は、あのつれない人(源氏)の慰めにと思ったけれど、本当に会いたいのは源氏だけという世の中なのだろうか、困った好みですこと。典侍がひどく忍んでいるので、源氏の君はご存じない。典侍は源氏をお見かけすると、まず恨み言を申し上げるので、源氏は年齢が気の毒で、慰めてやろうとお思いになるが、気が進まなくて、たいそう長く通わずにいたところ、
夕立が降って、その名残の涼しい宵の暗がりに紛れて、源氏が温明殿のあたりをたたずみ歩いていらっしゃると、この典侍が琵琶をたいそう趣深く弾いていた。帝の御前などでも、殿方の管絃の遊びに加わったりして、格別にまさる人もない名手なので、恨めしく思っていた折だけに、たいそうしみじみと聞こえる。
「瓜作りになりやしなまし」と、声はたいそう美しく歌うのが、少し気にくわない。鄂州にいたという昔の女も、こんなに趣深かったのだろうかと、耳をとめてお聞きになる。典侍は弾きやめて、ひどく思い乱れている様子である。源氏が催馬楽の「東屋」を忍びやかに歌って近寄ってお座りになると、典侍が「押し開いて来ませ」と続けて歌うのも、普通とは違った気がする。
典侍が「立ちぬれて訪ねてくる人などいない東屋に、いやなことに雨だればかりかかることです」と嘆くのを、源氏は、自分一人が恨まれる筋合いではないが、いやなことだ、何をそれほどまでにと思われる。「人妻はまあ面倒なことだ。東屋の軒先のあたりにも、あまりなじむまいと思う」と言って通り過ぎたいけれど、あまりそっけないだろうかと思い直して、典侍の言うままにすると、少し浮ついた冗談を言い交わして、これもまた珍しい気持ちがなさる。
意訳
源典侍は、家柄も教養もありながら、年をとってもたいそう色好みな女官である。源氏が戯れに声をかけると、典侍は本気になり、若い源氏を追いかける。帝にのぞかれて笑われ、頭中将まで典侍と通じるようになる。
夕立の後の夜、源氏は典侍が琵琶を弾きながら歌うのを聞き、催馬楽「東屋」を歌い交わして部屋に入る。紅葉賀の巻の後半は、この喜劇的な挿話で彩られる。
語釈・文法注
- ないしのすけ
- 典侍(ないしのすけ)。内侍司の次官。この女性は「源典侍(げんのないしのすけ)」と呼ばれる。このとき五十七、八歳とされる。
- かはほり
- 蝙蝠(かわほり)扇。紙を張った扇。夏に用いる。
- 森の下草生ひぬれば
- 「大荒木の森の下草老いぬれば駒もすさめず刈る人もなし」(『古今集』)の一節。年をとった自分には、もう誰も見向きもしない、という意。
- 森こそ夏の
- 「ほととぎす来鳴くを聞けば大荒木の森こそ夏の宿りなるらし」(『信明集』)による。森には多くの鳥(男)が来て宿っている、とからかう。
- はしばしら
- 「津の国の長柄の橋の橋柱古りぬる身こそ悲しかりけれ」の歌をふまえ、年老いた身を嘆く。
- うんめいでん
- 温明殿(うんめいでん)。内裏の殿舎の一つで、神鏡を祀る内侍所がある。典侍たちが詰めていた。
- うりつくり
- 催馬楽「山城」の一節。「瓜作り我を欲しといふ、いかにせむ、なりやしなまし」。求婚する男になびこうかと迷う女の歌。
- 鄂州
- 白居易の詩「夜聞歌者」に、鄂州で夜、舟の中で歌う美しい女の歌を聞いたことが詠まれている。
- あづまや
- 催馬楽「東屋」。「東屋の真屋のあまりのその雨そそぎ、我立ち濡れぬ、殿戸開かせ」「鎹も錠もあらばこそ、その殿戸我鎖さめ、押し開いて来ませ、我や人妻」と、男女が掛け合う歌。
文法
- 反実仮想「なまし」(なりやしなまし)
- 「(あの人のものに)なってしまおうかしら」。ためらいを表す。
- 過去推量の「けむ」(ありけむ昔の人)
- 「…にいたという昔の人」。
和歌
君しこば手なれの駒にかりかはむさかり過ぎたる下葉なりとも
- 詠者
- 源典侍
- 状況
- 源氏が扇の絵の森をからかったのに応えて、典侍が詠みかけた歌。あなたがいらっしゃるなら、手なれた馬のために草を刈って与えましょう。盛りを過ぎた下葉であっても。
修辞
- 比喩
- 源氏を「駒(馬)」に、年をとった自分を「さかり過ぎたる下葉」にたとえて、老いてもなお源氏を誘う。
さゝわけば人やとがめむいつとなく駒なつくめる森のこがくれ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 典侍の歌への源氏の返歌。笹を分けて入っていったら、人がとがめるでしょう。いつも馬たちがなついているらしい森の木陰には。
修辞
- 比喩
- 典侍のもとには、いつも多くの男が通っていると、からかって断る。
立ちぬるゝ人しもあらじあづまやにうたてもかゝる雨ぞゝぎかな
- 詠者
- 源典侍
- 状況
- 源氏の催馬楽に応えて、典侍が詠んだ歌。立ちぬれて訪ねてくる人などいない東屋に、いやなことに雨だればかりがかかることです。
修辞
- 縁語
- 「あづまや」「雨ぞゝぎ」が縁語。催馬楽「東屋」をふまえ、誰も訪ねてこない寂しさを訴える。
人づまはあなわづらはしあづまやのまやのあまりも馴れじとぞ思ふ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 典侍の歌への源氏の返歌。人妻はまあ面倒なことだ。東屋の軒先のあたりにも、あまりなじむまいと思います。
修辞
- 本歌取り
- 催馬楽「東屋」の「東屋の真屋のあまりのその雨そそぎ」をふまえ、典侍には夫(修理大夫)がいることをあてこする。
解説
源典侍の挿話は、源氏物語の中でも珍しい、滑稽な場面である。五十七、八歳の老女が若い源氏に色目を使う様子が、ユーモラスに描かれる。それでも典侍は、琵琶の名手で、教養ある女性として描かれている。
典侍との歌の贈答には、催馬楽や古歌がふんだんに引用される。年をとっても機知に富んだ典侍と、それを軽くかわす源氏とのやりとりは、王朝の恋の遊びの一面を示している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、150–153頁(コマ77–78)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日