古典ライブラリー

源氏物語 第7帖 紅葉賀(8)

紫の君の琴と左大臣家の噂

登場人物:光源氏・紫の君・桐壺帝・左大臣

心の晴れない源氏は、慰めを求めて西の対の紫の君のもとへ行く。すねて背を向ける紫の君に琴を教えると、すぐに難しい調子も覚え、源氏は思い通りに育っていると満足する。出かけようとすると紫の君は寂しがり、膝にもたれて寝てしまったので、源氏は外出をやめる。左大臣家では二条院の女の噂が立ち、帝も源氏を案じる。

灯火のともる夕暮れの二条院で、源氏が紫の君に箏の琴を教え、女房がそばで見守っている場面(AI生成)
灯火のともる夕暮れの二条院で、源氏が紫の君に箏の琴を教え、女房がそばで見守っている場面
  1. 1つくづくつくづくつくづくととと臥ふ臥ふふしししたるたるたるにににもももやるやるやる方かた方かたかたなきなきなき心こころ心こころこころちちちすれすれすればばば例れい例れいれいのののなぐさめなぐさめなぐさめにににははは西にし西にしにしののの對たい對たいたいにににぞぞぞ渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまふふう。。。しどけなくしどけなくしどけなくうちうちうちふくだみふくだみふくだみ給たま給たまたまへへえるるるびんぐきびんぐきびんぐきあざれあざれあざれたるたるたる袿うちき袿うちきうちき姿すがた姿すがたすがたにてにてにて笛ふえ笛ふえふえををを懷なつか懷なつかなつかしうしうしゅう吹ふ吹ふふきききすさびすさびすさびつゝつゝつつ覗のぞ覗のぞのぞききき給たま給たまたまへへえれれればばば、、、
  2. 2女君をんなぎみ女君をんなぎみおんなぎみ、、、ありありありつるつるつる花はな花はなはなののの露つゆ露つゆつゆにににぬれぬれぬれたるたるたる心地ここち心地ここちここちしししててて添そ添そそひひい臥ふ臥ふふししし給たま給たまたまへへえるるるさまさまさま美うつく美うつくうつくしうしうしゅうらうたげらうたげろうたげなりなりなり。。。あいぎやうあいぎやうあいきょうこぼるゝこぼるゝこぼるるやうやうようにてにてにておはしおはしおわしながらながらながら疾と疾ととくくくもももわたりわたりわたり給たま給たまたまははわぬぬぬ、、、なまなまなまうらめしかりうらめしかりうらめしかりけれけれければばば、、、例れい例れいれいならならならずずず背そむ背そむそむききき給たま給たまたまへへえるるるなるなるなるべしべしべし。。。
  3. 3はしはしはしののの方かた方かたかたににについついつい居ゐ居ゐいててて「「「こちこちこちややや」」」とととののの給のたま給のたまのたまへへえどどど驚おどろ驚おどろおどろかかかずずず。。。「「「入い入いいりりりぬるぬるぬるいそいそいそのののととと口くち口くちくちずさびずさびずさびててて口くち口くちくちおほひおほひおおいししし給たま給たまたまへへえるるるさまさまさま、、、いみじういみじういみじゅうざれざれざれてててうつくしうつくしうつくし。。。
  4. 4「「「あなあなあなにくにくにくかゝるかゝるかかる事こと事ことこと口くち口くちくちなれなれなれ給たま給たまたまひひいにににけりけりけりななな。。。みるめみるめみるめにににあくあくあくはははまさなきまさなきまさなき事こと事ことことぞぞぞよよよ」」」とととててて人ひと人ひとひと召め召めめしししててて御おん御おんおん琴こと琴ことこと取と取ととりりりよせよせよせててて彈ひ彈ひひかかかせせせ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまふふう。。。
  5. 5「「「等さう等さうそうののの琴こと琴ことことははは中なか中なかなかののの細緖ほそを細緖ほそをほそおののの堪た堪たたへへえ難がた難がたがたきききこそこそこそ所ところ所ところところせけれせけれせけれ」」」とととてててににに押お押おおしししくだしくだしくだしててて調しら調しらしらべべべ給たま給たまたまふふう。。。掻か掻かかききき合あは合あはあわせせせばかりばかりばかり彈ひ彈ひひきききてててさしさしさしやりやりやり給たま給たまたまへへえれれればばば、、、えええゑじゑじえじもももはてはてはてずずずいといといと美うつ美うつうつくしうくしうくしゅう彈ひ彈ひひきききたまふたまふたまう。。。
  6. 6小ちひさ小ちひさちいさききき御おん御おんおん程ほど程ほどほどにににさしさしさしやりやりやりててて給たま給たまたまふふう御手て御手ててつきつきつきいといといと美うつく美うつくうつくしけれしけれしければばばらうたしらうたしろうたしとととおぼしおぼしおぼしててて笛ふえ笛ふえふえ吹ふ吹ふふききき鳴なら鳴ならならしししつゝつゝつつ敎をし敎をしおしへへへ給たま給たまたまふふう。。。いといといとさとくさとくさとくててて難かた難かたかたききき調子てうし調子てうしちょうしどもどもどもををを唯ただ唯ただただ一ひと一ひとひとわたりわたりわたりににに習なら習ならならひひいとりとりとり給たま給たまたまふふう。。。
  7. 7大方おほかた大方おほかたおおかたらうらうしうらうらうしうろうろうしゅうをかしきをかしきおかしき御おん御おんおん心こころ心こころこころばへばへばえををを思おも思おもおもひひいししし事こと事ことこと叶かな叶かなかなふふうとととおぼすおぼすおぼす。。。ととといふいふいうものものものははは名な名ななはははにくけれにくけれにくけれどどどおもしろうおもしろうおもしろう吹ふ吹ふふきききすましすましすまし給たま給たまたまへへえるるるににに、、、かきあはせかきあはせかきあわせまだまだまだ若わか若わかわかけれけれけれどどどはうしはうしほうし違たが違たがたがははわずずず上手じやうず上手じやうずじょうずめきめきめきたりたりたり。。。
  8. 8おほとなぶらおほとなぶらおおとなぶら參まゐ參まゐまいりりりててて繪ゑ繪ゑえどもどもどもなどなどなど御覽ごらん御覽ごらんごらんずるずるずるににに「「「出い出いいででで給たま給たまたまふふうべしべしべし」」」とととありありありつれつれつればばば、、、人々びと人々びとびとこわづくりこわづくりこわづくり聞きこ聞きこきこえええててて「「「雨あめ雨あめあめ降ふ降ふふりりり侍はべ侍はべはべりりりぬぬぬべしべしべし」」」などなどなどいふいふいうににに、、、姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみ例れい例れいれいののの心こころ心こころこころぼそくぼそくぼそくてててくしくしくし給たま給たまたまへへえりりり。。。
  9. 9繪ゑ繪ゑえももも見み見みみさしさしさしてててうつぶしうつぶしうつぶしててておはすれおはすれおわすればばば、、、いといといとらうたくらうたくろうたくててて御おん御おんおんぐしぐしぐしのののいといといとめでたくめでたくめでたくこぼれこぼれこぼれかゝりかゝりかかりたるたるたるをををかきかきかきなでゝなでゝなでて、、、「「「外ほか外ほかほかなるなるなる程ほど程ほどほどははは戀こひ戀こひこいしくしくしくやややあるあるある」」」とととののの給のたま給のたまのたまへへえばばば、、、うなづきうなづきうなずき給たま給たまたまふふう。。。
  10. 10「「「我わ我わわももも一日ひとひ一日ひとひひとひももも見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららぬぬぬはははいといといと苦くる苦くるくるしうしうしゅうこそこそこそ。。。されどされどされど幼をさな幼をさなおさなくくくおはするおはするおわする程ほど程ほどほどははは心こころ心こころこころやすくやすくやすく思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええてててまづまづまずくねぐねしうくねぐねしうくねぐねしゅう怨うら怨うらうらむるむるむる人ひと人ひとひとののの心こころ心こころこころ破やぶ破やぶやぶらららじじじととと思おも思おもおもひひいてててむづかしけれむづかしけれむずかしければばば暫しば暫しばしばしししかくかくかくもももありありありてててぞぞぞ、、、
  11. 11おとなしくおとなしくおとなしく見み見みみなしなしなしてててははは外ほか外ほかほかへへへももも更さら更さらさらにににいくいくいくまじまじまじ人ひと人ひとひとのののうらみうらみうらみ負お負おおははわじじじなどなどなど思おも思おもおもふふうももも世よ世よよににに長なが長ながなごうううありありありててて思おも思おもおもふふうさまさまさまににに見み見みみえええ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららむむんととと思おも思おもおもふふうぞぞぞ」」」などなどなどこまごまこまごまこまごまととと語かた語かたかたらひらひらい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえばばば、、、さすがにさすがにさすがに耻はづか耻はづかはずかしくしくしくてててともかくもともかくもともかくもいらへいらへいらえ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまははわずずず。。。
  12. 12やがてやがてやがて御膝ひざ御膝ひざひざににによりよりよりかゝりかゝりかかりててて寢ね寢ねね入い入いいりりり給たま給たまたまひひいぬれぬれぬればばばいといといと心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしうしうしゅうててて、、、「「「今宵こよひ今宵こよひこよいははは出い出いいでででずずずなりなりなりぬぬぬ」」」とととののの給のたま給のたまのたまへへえばばば、、、皆みな皆みなみな立た立たたちちちててておものおものおものなどなどなどこなたこなたこなたににに參まゐ參まゐまいらせらせらせたりたりたり。。。
  13. 13姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみ起おこ起おこおこししし奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまひひいててて「「「出い出いいでででずずずなりなりなりぬぬぬ」」」ととと聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえばばば慰なぐさ慰なぐさなぐさみみみててて起お起おおききき給たま給たまたまへへえりりり。。。諸共もろとも諸共もろとももろともにににものものものなどなどなどまゐるまゐるまいるいといといとはかなげはかなげはかなげにににすさびすさびすさびててて、、、「「「さらばさらばさらば寢ね寢ねね給たま給たまたまひひいねねねかしかしかし」」」ととと危あや危あやあやふげふげうげにににおもうおもうおもう給たま給たまたまへへえれれればばば、、、かゝるかゝるかかるををを見み見みみ捨す捨すすてゝてゝててははは、、、いみじきいみじきいみじき道みち道みちみちなりなりなりともともとも赴おもむ赴おもむおもむききき難がた難がたがたくくくおぼえおぼえおぼえ給たま給たまたまふふう。。。
  14. 14かうかうこうやうやうようににに留とど留とどとどめめめられられられ給たま給たまたまふふう折々をりをり折々をりをりおりおりなどなどなどももも多おほ多おほおおかるかるかるをををおのづからおのづからおのずから漏も漏ももりりり聞き聞ききくくく人ひと人ひとひとおほいとのおほいとのおおいとのににに聞きこ聞きこきこえええけれけれければばば、、、
  15. 15「「「誰たれ誰たれたれならならならむむん、、、いといといとめざましきめざましきめざましき事こと事ことことにににもももあるあるあるかなかなかな。。。今いま今いまいままでまでまでそのそのその人ひと人ひとひとともともとも聞きこ聞きこきこえええずずずさやうさやうさようにににまつはしまつはしまつわし戯たはぶ戯たはぶたわぶれれれなどなどなどすすすらむらむらんはははあてやかあてやかあてやかににに心こころ心こころこころにくきにくきにくき人ひと人ひとひとにににはははあらあらあらじじじ。。。うちうちうちわたりわたりわたりなどなどなどにてにてにてはかなくはかなくはかなく見み見みみ給たま給たまたまひひいけむけむけん人ひと人ひとひとをををものものものめかしめかしめかし給たま給たまたまひひいててて、、、人ひと人ひとひとややや咎とが咎とがとがめめめむむんととと隱かく隱かくかくししし給たま給たまたまふふうなななゝりゝりなり心こころ心こころこころなげなげなげにににいはけいはけいわけててて聞きこ聞きこきこゆるゆるゆるははは」」」などなどなど侍さぶら侍さぶらさぶらふふう人々びと人々びとびとももも聞きこ聞きこきこえええあへあへあえりりり。。。
  16. 16內うち內うちうちにににもももかゝるかゝるかかる人ひと人ひとひとありありありととと聞きこ聞きこきこしししめしめしめしててていとほしくいとほしくいとおしく「「「おとゞおとゞおとどののの思おも思おもおもひひい歎なげ歎なげなげかかかるるるなるなるなることことことももも、、、げにげにげに物もの物ものものげなかりげなかりげなかりしししほどほどほどををを、、、おふなおふなおふなおふなおうなおうなかくかくかく物もの物ものものしししたるたるたる心こころ心こころこころををを、、、さばかりさばかりさばかりののの事こと事ことことたどらたどらたどらぬぬぬ程ほど程ほどほどにににはははあらあらあらじじじををを、、、などなどなどかかか情なさけ情なさけなさけなくなくなくはははもてなすもてなすもてなすらむらむらん」」」とととのたまはすれのたまはすれのたまわすれどどど、、、
  17. 17畏かしこ畏かしこかしこまりまりまりたるたるたるさまさまさまにてにてにて御おん御おんおんいらへいらへいらえももも聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまははわねねねばばば、、、心こころ心こころこころゆかゆかゆかぬぬぬなななめりめりめりととといとほしくいとほしくいとおしくおぼしおぼしおぼしめすめすめす。。。「「「さるはさるはさるはすきずきしうすきずきしうすきずきしゅう打う打ううちちち亂みだ亂みだみだれれれてててこのこのこの見み見みみゆるゆるゆる女房にようばう女房にようばうにょうぼうにににまれまれまれ又また又またまたこなたこなたこなたかなたかなたかなたののの人々びと人々びとびとなどなどなどなべてなべてなべてならならならずずずなどなどなどももも見み見みみえええ聞きこ聞きこきこえええざざざめるめるめるををを、、、
  18. 18いかなるいかなるいかなる物もの物ものものののの隈くま隈くまくまににに隱かく隱かくかくれれれありきありきありきてててかくかくかく人ひと人ひとひとにににももも恨うら恨うらうらみみみらるらるらるらむらむらん」」」とととのたまはすのたまはすのたまわす。。。帝みかど帝みかどみかどののの御おん御おんおん年とし年としとしねびねびねびさせさせさせ給たま給たまたまひひいぬれぬれぬれどどどかやうかやうかようののの方かた方かたかたはははえええ過す過すすぐさぐさぐさせせせ給たま給たまたまははわずずず。。。
  19. 19うねべうねべうねべ、、、によくらうどによくらうどによくろうどなどなどなどをををもももかたちかたちかたち心こころ心こころこころあるあるあるをををばばば殊こと殊ことことにににもてもてもてはやしはやしはやしおぼしおぼしおぼしめしめしめしたれたれたればばば、、、よしよしよしあるあるある宮仕人みやづかへびと宮仕人みやづかへびとみやづかえびと多おほ多おほおおかるかるかるころころころなりなりなり。。。
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引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

つくづくと横になっていても、心の晴らしようがない気がするので、いつもの慰めとして、西の対にお渡りになる。しどけなく、少しけばだった鬢の毛や、くつろいだ袿姿で、笛をなつかしい音色で吹きすさびながらのぞきなさると、女君は、さっきの撫子の花が露にぬれたような風情で、物に寄りかかって横になっていらっしゃる様子が、かわいらしくいじらしい。

愛らしさがこぼれるような様子でいらっしゃりながら、源氏がすぐにはお渡りにならないのが、何となく恨めしかったので、いつもと違って背を向けていらっしゃるのだろう。源氏が端の方に座って「こちらへ」とおっしゃっても、知らん顔をしている。「入りぬる磯の」と口ずさんで、口をおおっていらっしゃる様子は、たいそうしゃれていてかわいい。

「まあ憎らしい、そんな言葉を口にするようになられたのですね。いつも見ているのに飽きるのは、よくないことですよ」と言って、人を呼んで御琴を取り寄せて、お弾かせ申し上げなさる。「箏の琴は、中の細い弦が切れやすいのが困ったものだ」と言って、平調に下げて調弦なさる。小手調べだけ弾いて押しやりなさると、紫の君はいつまでもすねてはいられず、たいそうかわいらしくお弾きになる。

小さなお体で、手をさしのべて弦を揺すりなさる手つきがたいそうかわいらしいので、源氏はいとしくお思いになって、笛を吹き鳴らしながらお教えになる。たいそう賢くて、難しい調子なども、ただ一度で習い覚えてしまわれる。何事にも利発で、かわいらしいお心ばえを、思っていたとおりになったとお思いになる。保曽呂倶世利という曲は、名前は聞き苦しいが、源氏が趣深く澄んだ音で吹いていらっしゃるのに、紫の君の掻き合わせは、まだ幼いけれど、拍子を違えず上手らしい。

灯火をともして、絵などをご覧になっていると、「お出かけになるはずです」と言ってあったので、供人たちが声をかけて「雨が降りそうでございます」などと言うと、姫君はいつものように心細くて、ふさぎこんでいらっしゃる。絵も途中でやめて、うつぶしていらっしゃるので、源氏はたいそういとしく、御髪がたいそう美しくこぼれかかっているのをかき撫でて、「私がよそにいる時は、恋しいですか」とおっしゃると、うなずきなさる。

「私も、一日でもお会いしないのはたいそうつらいのですよ。けれども、あなたが幼くていらっしゃるうちは安心していられるので、まず、ひねくれて恨む人の心を傷つけまいと思って、面倒なので、しばらくはこうしているのです。大人になったとお見受けしたら、よそへは決して行きません。人の恨みを負うまいなどと思うのも、長生きをして、思いどおりにあなたと過ごしたいと思うからですよ」などと、こまごまとお話し申し上げなさると、紫の君はさすがに恥ずかしくて、何ともお返事申し上げなさらない。

そのまま源氏のお膝に寄りかかって眠ってしまわれたので、源氏はたいそうかわいそうになって、「今夜は出かけないことにした」とおっしゃると、女房たちはみな立って、お食事などをこちらに差し上げた。源氏は姫君を起こし申し上げなさって、「出かけないことにしたよ」と申し上げなさると、機嫌を直して起きなさった。いっしょにお食事などを召し上がるが、紫の君はほんの少し口をつけただけで、「それなら、お休みなさいませ」と、源氏が出かけないか心配そうに思っていらっしゃるので、源氏は、こんな人を見捨てては、たとえ死出の道であっても行けそうにないとお思いになる。

このように引き止められなさる折々なども多いのを、自然と漏れ聞く人が左大臣家にお伝えしたので、女房たちは「誰でしょう。たいそう心外なことですわ。今までどこの人とも噂にならず、そんなふうにまつわりついて甘えたりするのは、上品で奥ゆかしい人ではないでしょう。宮中あたりで、ちょっとご覧になった人を、もったいぶってお扱いになって、人に非難されるだろうと隠していらっしゃるのでしょう。分別もなく子どもっぽいと聞こえますのは」などと言い合っている。

帝も、こうした人がいるとお聞きになって、気の毒にお思いになり、「大臣が嘆いておられるというのも、もっともだ。まだ一人前でもなかった頃に、懸命にこうして世話をしてくれた心を、それほどのことがわからない年でもあるまいに、どうして冷たく扱うのだろう」とおっしゃるが、源氏は恐縮した様子で、お返事も申し上げなさらないので、帝は、気に入らないのだろうと気の毒にお思いになる。

帝は「そうはいっても、色好みで浮かれ歩いて、ここに見える女房であれ、あちこちの女たちであれ、特に深い仲になっているとも見えず、聞こえもしないようだが、どんな物陰に隠れ歩いて、こうして人に恨まれるのだろう」とおっしゃる。帝はお年を召していらっしゃるけれど、こうした方面のことは見過ごしになさらない。采女や女蔵人などでも、容貌や気立てのよい者を特にもてはやしていらっしゃるので、たしなみのある女房が多い頃である。

源氏がちょっとしたことでも話しかけなさると、相手が冷たくすることはめったにないので、見慣れているからだろうか、本当に不思議に色好みでいらっしゃらないようだと、試しに冗談を申しかけたりする折もあるが、源氏は無愛想にならない程度に受け答えをして、本気になって乱れることはなさらないので、まじめに物足りないと思い申し上げる人もいる。

意訳

藤壺への思いに沈む源氏は、紫の君のもとで心を慰める。すねて背を向ける紫の君に琴を教えると、すぐに上達し、源氏は思い通りに育っていると満足する。

源氏が出かけようとすると、紫の君は寂しがって膝にもたれて寝てしまう。源氏は外出をやめる。こうした様子が噂になり、左大臣家では二条院の女のことが取りざたされ、帝も源氏を案じる。

語釈・文法注

入りぬるいその
「潮満てば入りぬる磯の草なれや見らく少なく恋ふらくの多き」(『万葉集』『拾遺集』)の一節。会うことは少なく、恋しく思うことばかり多い、と源氏の訪れの少なさを恨む。
ひやうでう
平調(ひょうじょう)。雅楽の調子の一つ。
ゆし
揺(ゆ)。左手で弦を揺らして音に余韻をつける奏法。
ほそろぐせり
保曽呂倶世利(ほそろぐせり)。雅楽の曲名。

文法

命令の「ね」(寢給ひねかし)
完了の「ぬ」の命令形。「お休みなさいませ」。
推量の「べし」(背き給へるなるべし)
語り手が「背を向けていらっしゃるのだろう」と推し量る。

解説

紫の君が「入りぬる磯の」と古歌を口ずさんですねる場面は、紫の君が少しずつ大人びてきたことを示している。源氏の教育によって、紫の君は琴も歌も上達していく。

帝が源氏の女性関係を案じる場面は、何も知らない帝の皮肉さを感じさせる。源氏が本当に隠れて逢っているのは、帝の后である藤壺なのである。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、146–151頁(コマ75–77)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日