古典ライブラリー

源氏物語 第6帖 末摘花(10)

正月の訪れと紫の君の絵遊び

登場人物:光源氏・末摘花・紫の君

正月七日の節会の後、源氏は姫君を訪ねる。邸は少し華やいで、姫君も源氏の贈った装束を着ている。今年こそ声を聞かせてほしいと言うと、姫君はやっと「さへづる春は」とだけ答える。二条院に帰った源氏は、愛らしい紫の君と絵を描いて遊び、絵の女の鼻に紅をつけ、自分の鼻にも紅を塗って見せて紫の君を笑わせる。

春の日差しの明るい二条院の部屋で、鏡に映る自分の鼻に紅を塗っておどける貴公子と、それを見て笑いながら手を伸ばす少女の場面(AI生成)
春の日差しの明るい二条院の部屋で、鏡に映る自分の鼻に紅を塗っておどける貴公子と、それを見て笑いながら手を伸ばす少女の場面
  1. 1ついたちついたちついたちのののほどほどほど過す過すすぎぎぎててて、、、今年ことし今年ことしことしをとこをとこおとこあるあるあるべけれべけれべければばば、、、例れい例れいれいののの所々ところどころ所々ところどころところどころ遊あそ遊あそあそびびびのののゝしりゝしりのしり給たま給たまたまふふうににに、、、物もの物ものものさわがしけれさわがしけれさわがしけれどどどさびしきさびしきさびしき所ところ所ところところのののあはれあはれあわれにににおぼしおぼしおぼしやらやらやらるれるれるればばば、、、
  2. 2七日なぬか七日なぬかなのかののの日ひ日ひひののの節會せちゑ節會せちゑせちえはてゝはてゝはてて夜よ夜よよににに入い入いいりりりててて御前おまへ御前おまへおまえよりよりよりまかでまかでまかで給たま給たまたまひひいけるけるけるををを、、、御おん御おんおんとのゐとのゐとのい所どころ所どころどころにににやがてやがてやがてとまりとまりとまり給たま給たまたまひひいぬるぬるぬるやうやうようにてにてにて夜よ夜よよふかしふかしふかしててて坐おは坐おはおわしししたりたりたり。。。
  3. 3例れい例れいれいののの有樣ありさま有樣ありさまありさまよりよりよりはははけはひけはひけわいうちうちうちそよめきそよめきそよめき世よ世よよづいづいづいたりたりたり。。。君きみ君きみきみももも少すこ少すこすこしししたをやぎたをやぎたおやぎ給たま給たまたまへへえるるる氣色けしき氣色けしきけしきもてもてもてつけつけつけ給たま給たまたまへへえりりり。。。いかにいかにいかにぞぞぞ、、、改あらた改あらたあらためめめてててひきひきひきかへかへかえたらたらたらむむん時とき時ときときとととぞぞぞ覺おぼ覺おぼおぼししし續つづ續つづつづけけけらるゝらるゝらるる。。。
  4. 4日ひ日ひひさしさしさし出い出いいづるづるずる程ほど程ほどほどにににやすらひやすらひやすらいなしなしなしててて出い出いいででで給たま給たまたまふふう。。。ひんがしひんがしひんがしののの妻戶つまど妻戶つまどつまど押お押おおしししあけあけあけたれたれたればばば、、、向むか向むかむかひひいたるたるたる廊らう廊らうろうののの上うへ上うへうえもももなくなくなくあばれあばれあばれたれたれたればばば、、、日ひ日ひひのののあしあしあしほどほどほどなくなくなくさしさしさし入い入いいりりりててて雪ゆき雪ゆきゆき少すこ少すこすこししし降ふ降ふふりりりたるたるたる光ひかり光ひかりひかりにににいといといとけざやかけざやかけざやかににに見み見みみ入い入いいれれれらるらるらる。。。
  5. 5御おん御おんおん直衣なほし直衣なほしのうしなどなどなど奉たてまつ奉たてまつたてまつるるるををを見み見みみ出いだ出いだいだしししててて少すこ少すこすこしししさしさしさし出い出いいでゝでゝでて、、、傍かたはら傍かたはらかたわららららふしふしふし給たま給たまたまへへえるるる頭かしら頭かしらかしらつきつきつきこぼれこぼれこぼれ出い出いいでででるるるほどほどほどいといといとめでたしめでたしめでたし。。。生お生おおひひいなほりなほりなおりををを見み見みみ出い出いいでででたらたらたらむむん時とき時ときときとととおぼさおぼさおぼされれれててて格子かうし格子かうしこうし引ひ引ひひきききあげあげあげ給たま給たまたまへへえりりり。。。
  6. 6いとほしかりいとほしかりいとおしかりしししものごりものごりものごりににに上あ上ああげげげもももはてはてはて給たま給たまたまははわででで脇息けふそく脇息けふそくきょうそくをををおしおしおしよせよせよせてててうちうちうちかけかけかけててて、、、御おん御おんおんびんぐきびんぐきびんぐきのののしどけなきしどけなきしどけなきをををつくろひつくろひつくろい給たま給たまたまふふう。。。わりなうわりなうわりのうふるめきふるめきふるめきたるたるたる、、、からくしげからくしげからくしげ、、、かゝげかゝげかかげのののはこはこはこなどなどなど取と取ととりりり出い出いいでででたりたりたり。。。
  7. 7さすがにさすがにさすがに男をとこ男をとこおとこののの御おん御おんおん具ぐ具ぐぐさへさへさへほのぼのほのぼのほのぼのあるあるあるをををざれざれざれてててをかしをかしをかしととと見み見みみ給たま給たまたまふふう。。。女をんな女をんなおんなののの御おん御おんおんざうざうぞう束ぞく束ぞくぞく今日けふ今日けふきょうはははよよよづきづきづきたりたりたりととと見み見みみゆるゆるゆるははは、、、ありありありししし筥はこ筥はこはこののの心こころ心こころこころばへばへばえをををさながらさながらさながらなりなりなりけりけりけり。。。さささもももおぼしおぼしおぼしよらよらよらずずずけうけうきょうあるあるある紋もん紋もんもんつきつきつきてててしるきしるきしるき上着うはぎ上着うはぎうわぎばかりばかりばかりぞぞぞ怪あや怪あやあやしししとととははは覺おぼ覺おぼおぼしししけるけるける。。。
  8. 8「「「今年ことし今年ことしことしだにだにだに聲こゑ聲こゑこえ少すこ少すこすこししし聞き聞ききかかかせせせ給たま給たまたまへへえかしかしかし。。。待ま待ままたたたるゝるゝるるものものものはははさしさしさし置お置おおかかかれれれててて御おん御おんおん氣色けしき氣色けしきけしきののの改あらた改あらたあらたまらまらまらむむんなむなむなんゆかしきゆかしきゆかしき」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「さへづるさへづるさえずる春はる春はるはるはははととと辛から辛からからうじてうじてうじてわなゝかしわなゝかしわななかし出い出いいでででたりたりたり。。。
  9. 9「「「さりさりさりややや、、、年とし年としとし經へ經へへぬるぬるぬるしるししるししるしよよよ」」」とととうちうちうち笑わら笑わらわらひひい給たま給たまたまひひいててて、、、「「「夢ゆめ夢ゆめゆめかかかとととぞぞぞ見み見みみるるるとととうちうちうちすじすじすじててて出い出いいでででたまふたまふたまうををを見み見みみ送おく送おくおくりりりててて添そ添そそひひい臥ふ臥ふふししし給たま給たまたまへへえりりり。。。
  10. 10口くち口くちくちおほひおほひおおいのののそばめそばめそばめよりよりより猶なほ猶なほなおかのかのかの末すゑ末すゑすえ摘つ摘つつむむむ花はな花はなはないといといとにほひやかにほひやかにおいやかにににさしさしさし出い出いいでででたりたりたり。。。見み見みみ苦ぐる苦ぐるぐるしししのののわざわざわざやややとととおぼさおぼさおぼさるるる。。。
  11. 11二條にでう二條にでうにじょうののの院ゐん院ゐんいんにににおはしおはしおわしたれたれたればばば紫むらさき紫むらさきむらさきののの君きみ君きみきみいといといとももも美うつ美うつうつくしきくしきくしき片かた片かたかたおひおひおいにてにてにて、、、紅くれなゐ紅くれなゐくれないはははかうかうこう懷なつ懷なつなつかしきかしきかしきもももありありありけりけりけりととと見み見みみゆるゆるゆるににに、、、無紋むもん無紋むもんむもんののの櫻さくら櫻さくらさくらののの細長ほそなが細長ほそながほそながなよゝかなよゝかなよよかににに着き着ききなしなしなしててて何なに何なになに心ごころ心ごころごころもももなくなくなくててて物もの物ものものししし給たま給たまたまふふうさまさまさまいみじういみじういみじゅうらうたしらうたしろうたし。。。
  12. 12古代こたい古代こたいこたいのののおばぎみおばぎみおばぎみののの御おん御おんおんなごりなごりなごりにてにてにて歯は歯ははぐろめぐろめぐろめもももまだしかりまだしかりまだしかりけるけるけるををを引ひ引ひひききき繕つくろ繕つくろつくろははわせせせ給たま給たまたまへへえれれればばば、、、眉まゆ眉まゆまゆのののけざやかけざやかけざやかににになりなりなりたるたるたるももも美うつ美うつうつくしうくしうくしゅう淸きよ淸きよきよらららなりなりなり。。。
  13. 13心こころ心こころこころからからからなどなどなどあかうあかうあこう憂う憂ううききき世よ世よよををを見み見みみあつかふあつかふあつかうらむらむらん。。。かくかくかく心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしきしきしきものものものをををももも見み見みみてててゐゐいたらたらたらでででとととおぼしおぼしおぼしつゝつゝつつ例れい例れいれいののの諸共もろとも諸共もろとももろともにににひゝなひゝなひいな遊あそび遊あそびあそびししし給たま給たまたまふふう。。。
  14. 14繪ゑ繪ゑえなどなどなど書か書かかきききててて色いろ色いろいろどりどりどり給たま給たまたまふふう。。。萬よろづ萬よろづよろずにににをかしうをかしうおかしゅうすさびすさびすさび散ちら散ちらちらししし給たま給たまたまひひいけりけりけり。。。我わ我わわももも書か書かかききき添そ添そそへへえ給たま給たまたまふふう。。。髮かみ髮かみかみいといといと長なが長ながながききき女をんな女をんなおんなををを書か書かかききき給たま給たまたまひひいててて、、、鼻はな鼻はなはなにににべにべにべにをををつけつけつけててて見み見みみ給たま給たまたまふふうににに、、、かたかたかたににに書か書かかきききてててももも見み見みみまうきまうきもうきさまさまさましししたりたりたり。。。
  15. 15我わ我わわががが御おん御おんおんかげかげかげのののきやうだいきやうだいきょうだいにににうつれうつれうつれるるるがががいといといと淸きよ淸きよきよらららなるなるなるををを見み見みみ給たま給たまたまひひいててて、、、手て手ててづからづからずからこのこのこのあかあかあかはなはなはなをををかきかきかきつけつけつけにほはしにほはしにおわしててて見み見みみ給たま給たまたまふふうににに、、、かくかくかくよきよきよき顏かほ顏かほかおだにだにだにさてさてさて交まじ交まじまじれれれらららむむんははは見み見みみ苦ぐる苦ぐるぐるしかるしかるしかるべかりべかりべかりけりけりけり。。。
  16. 16姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみ見み見みみててていみじくいみじくいみじく笑わら笑わらわらひひい給たま給たまたまふふう。。。「「「まろまろまろがががかくかくかくかたはかたはかたわににになりなりなりなななむむん時とき時ときときいかならいかならいかならむむん」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「うたてうたてうたてこそこそこそあらあらあらめめめ」」」とととてててさささもももやややしみしみしみつかつかつかむむんととと危あやふ危あやふあやうくくく思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえりりり。。。
  17. 17空そら空そらそらのごひのごひのごいをををしししててて「「「更さら更さらさらにににこそこそこそしろましろましろまねねね。。。ようようようなきなきなきすさびすさびすさびなりなりなりややや。。。內うち內うちうちにににいかにいかにいかにのたまはのたまはのたまわむむんとととすすすらむらむらん」」」ととといといといとまめやかまめやかまめやかにににのたまふのたまふのたまうををを、、、いといといといとほしいとほしいとおしとととおぼしおぼしおぼしててて寄よ寄よよりりりてててのごひのごひのごい給たま給たまたまへへえばばば、、、
  18. 18「「「がががやうやうようにににいろどりいろどりいろどり添そ添そそへへえたまふたまふたまうななな。。。あかゝらあかゝらあかからむむんはははあえあえあえなななむむん」」」とととたはぶれたはぶれたわぶれ給たま給たまたまふふうさまさまさまいといといとをかしきをかしきおかしきいもせいもせいもせととと見み見みみえええたまへたまへたまえりりり。。。
  19. 19日ひ日ひひのののいといといとうらゝかうらゝかうららかなるなるなるにににいつしかいつしかいつしかとととかすみかすみかすみわたれわたれわたれるるるこずゑこずゑこずえどもどもどもののの心こころ心こころこころもとなきもとなきもとなき中なか中なかなかにににももも、、、梅むめ梅むめうめはははけしきばみけしきばみけしきばみほゝゑみほゝゑみほほえみわたれわたれわたれるるる、、、とりわきとりわきとりわきててて見み見みみゆゆゆ。。。はしがくしはしがくしはしがくしのののもともともとののの紅梅こうばい紅梅こうばいこうばいいといといと疾と疾ととくくく咲さ咲ささくくく花はな花はなはなにてにてにて色いろ色いろいろづきづきづきにににけりけりけり。。。
  20. 20「「「紅くれなゐ紅くれなゐくれないののの花はな花はなはなぞぞぞあやなくあやなくあやなくうとまるゝうとまるゝうとまるる梅むめ梅むめうめのののたちたちたち枝え枝ええはははなつかしけれなつかしけれなつかしけれどどど。。。いでやいでやいでや」」」とととあいなくあいなくあいなくうちうちうちうめかうめかうめかれれれ給たま給たまたまふふう。。。かゝるかゝるかかる人々びと人々びとびとののの末々すゑずゑ末々すゑずゑすえずえいかなりいかなりいかなりけむけむけん。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

元日の儀式などが過ぎて、今年は男踏歌があることになっているので、いつものようにあちらこちらで楽の練習に大騒ぎをなさるが、源氏はそのあわただしさの中でも、寂しい所(常陸宮邸)がかわいそうに思いやられるので、七日の節会が終わって、夜になって帝の御前から退出なさったのを、宿直所にそのまま泊まりなさったようにして、夜更けてから常陸宮邸においでになった。

いつもの様子よりは、邸の中の気配がざわめいて、世間並みになっている。姫君も少しやわらかな様子を身につけていらっしゃる。どうだろう、改まって見違えるようになっていたらと、思い続けなさる。日が差し出るころまでぐずぐずしてから、お帰りになる。

東の妻戸を押し開けると、向かいの廊が、屋根もなくすっかり荒れているので、日の光がすぐに差しこんで、雪が少し降った光に、部屋の中がたいそうはっきりと見える。源氏が直衣などをお召しになるのを見て、姫君は少し端の方に出て、横になっていらっしゃる頭の形や、こぼれ出た髪のあたりがたいそう美しい。生まれ変わったように見違えたら、とお思いになって、格子を引き上げなさった。

以前、姫君の顔を見て気の毒だったことに懲りて、格子を上げきらずに、脇息を押し寄せて、それに格子を立てかけて、源氏は鬢の毛のほつれをお直しになる。ひどく古めかしい鏡台や唐櫛笥、掻上の箱などを、女房が取り出した。さすがに男の道具までいくらかそろっているのを、しゃれていて、おもしろいとご覧になる。

姫君の装束が今日は世間並みに見えるのは、源氏が先日贈った衣装箱の中身をそのまま着ているのだった。源氏はそうともお思いにならず、趣のある紋がついて目立つ上着だけを、見覚えがあるとお思いになった。「今年こそ、せめて少しでもお声を聞かせてください。待たれる鶯の声はさておいて、あなたのご様子が改まるのを見たいのです」とおっしゃると、姫君は「さへづる春は」と、やっとのことで震える声で言い出した。

源氏は「それだ、年をとった効があったね」とお笑いになって、「夢かとぞ見る」と口ずさんでお出になるのを、姫君は見送って横になっていらっしゃる。口をおおった横顔から、やはりあの末摘花が、たいそう色鮮やかにのぞいている。見苦しいことだとお思いになる。

二条院においでになると、紫の君は、たいそうかわいらしい少女の姿で、紅もこんなに慕わしいものもあるのだなと見える。無紋の桜襲の細長を、しなやかに着こなして、無邪気にしていらっしゃる様子が、たいそうかわいらしい。古風な祖母君のしつけの名残で、お歯黒もまだだったのを、きちんと化粧させなさったので、眉がくっきりとなったのも、かわいらしく美しい。

自分の心から、どうしてこんなに、つらい世の中で苦労をしているのだろう、こんなにかわいらしい人を見ていないでと、お思いになりながら、いつものようにいっしょに人形遊びをなさる。紫の君は絵などを描いて色を塗りなさる。いろいろとおもしろく描き散らしていらっしゃった。源氏もいっしょに描き添えなさる。

髪のたいそう長い女を描きなさって、その鼻に紅をつけてご覧になると、絵に描いても見たくない様子である。ご自分の姿が鏡台に映っているのがたいそう美しいのをご覧になって、自分の手でこの赤い鼻を描きつけて、赤く塗ってご覧になると、これほど美しい顔でも、こうして赤い鼻がまじっていたら、見苦しいにちがいない。紫の君はご覧になって、たいそうお笑いになる。

源氏が「私がこんなふうに不格好になってしまったら、どうでしょう」とおっしゃると、紫の君は「いやでしょうね」と言って、本当にしみついてしまうのではないかと心配していらっしゃる。源氏は拭くふりをして、「少しも白くならない。つまらない、いたずらをしたものだ。帝はどうおっしゃるだろう」と、たいそうまじめにおっしゃるのを、紫の君はたいそう気の毒にお思いになって、寄ってきて拭きなさるので、

源氏は「平中のように、墨を塗り添えなさるな。赤いのは、まだ我慢できるが」とふざけなさる様子は、たいそう仲のよい兄妹のように見える。日がたいそううららかで、早くも霞みわたっている梢の、花が待ち遠しい中でも、梅はつぼみがふくらんでほほえみかけているのが、とりわけ目立つ。階隠しのもとの紅梅は、たいそう早く咲く花で、もう色づいていた。

「紅の花(鼻)は、わけもなく疎ましく思われる。梅の高く伸びた枝は慕わしいけれど。ああ」と、どうしようもなくため息をつかれる。こうした人々の行く末は、どうなったのだろうか。

意訳

正月、源氏は再び姫君を訪ねる。姫君は源氏の贈った装束を着て、邸も少し華やいでいる。今年こそ声を聞かせてほしいと言われて、姫君はやっと「さへづる春は」と古歌の一節を口にする。

二条院に帰った源氏は、愛らしい紫の君と絵を描いて遊ぶ。絵の女の鼻に紅を塗り、自分の鼻にも紅を塗っておどけて見せ、紫の君を笑わせる。末摘花と紫の君という、対照的な二人の女性で、巻は結ばれる。

語釈・文法注

をとこ蹈歌
男踏歌(おとことうか)。正月十四日に、殿上人たちが催馬楽を歌いながら宮中や院を巡る行事。
きやうだい
鏡台(きょうだい)。鏡をかける台。
さへづる春は
「百千鳥さへづる春は物ごとにあらたまれども我ぞふりゆく」(『古今集』)の一節。何もかも新しくなる春に、自分だけが古びていく、という歌。
夢かとぞ見る
「忘れては夢かとぞ思ふ思ひきや雪踏みわけて君を見むとは」(『伊勢物語』『古今集』)の一節。
へいちう
平中(へいちゅう)。平貞文。色好みで知られ、女の前で泣くふりをするために水差しの水で目をぬらしていたのを、女に墨を入れられて顔が黒くなったという話が伝わる。

文法

禁止の「な」(いろどり添へたまふな)
「(墨を)塗り添えなさるな」。
過去推量の「けむ」(いかなりけむ)
語り手が「どうなったのだろうか」と、物語の外から推し量る結びの言葉。

和歌

紅の花ぞあやなくうとまるゝ梅のたち枝はなつかしけれど

詠者
光源氏
状況
二条院の紅梅が早くも色づいたのを見て、源氏が詠んだ歌。紅の花(鼻)がわけもなく疎ましく思われる。梅の高く伸びた枝は慕わしいけれど。

修辞

掛詞
「紅の花」に、紅梅と、末摘花の赤い「鼻」を重ねる。巻の結びに、もう一度姫君の鼻をあてこする。

解説

巻末の場面で、源氏が紫の君と鼻に紅を塗って遊ぶ場面は、源氏物語の中でもとくにほほえましい場面である。末摘花をからかう遊びではあるが、紫の君の無邪気な笑いと、源氏をいたわる優しさが、生き生きと描かれている。

末摘花の巻は、全体として喜劇的な色合いの強い巻である。しかし源氏は、末摘花を笑いながらも見捨てない。のちの蓬生の巻では、源氏の須磨退去の間も一途に源氏を待ち続けた末摘花が、ふたたび源氏に迎えられることになる。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、134–139頁(コマ69–71)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日