源氏物語 第6帖 末摘花(9)
唐衣の歌と正月の装束
年の暮れ、命婦は気まずそうに、姫君から源氏への手紙と正月用の装束を差し出す。厚ぼったい陸奥紙に「からごろも」の歌、古風で色あせた直衣に、源氏はあきれ、手紙の端に「すゑつむ花」の歌を書きつける。翌日、源氏は宮中で返事を投げ渡し、女房たちの前で姫君の赤い鼻をからかう歌を口ずさむ。大晦日、源氏は姫君に新しい装束を贈る。

- 1歲歲としももも暮暮くれれれぬぬぬ。。。內內うちののの御御おんとのゐとのゐとのい所所どころにににおはしますおはしますおわしますににに大輔大輔たいふののの命婦命婦みょうぶ參參まいれれれりりり。。。御御おんけづりけづりけずり櫛櫛ぐしなどなどなどにににはははけさうけさうけそうだつだつだつすぢすぢすじなうなうのう心心こころやすきやすきやすき者者ものののの、、、さすがにさすがにさすがにののの給給のたまひひい戯戯たわぶれぶれぶれなどなどなどしししててて使使つかひひいならしならしならし給給たまへへえれれればばば、、、召召めしししなきなきなき時時ときももも聞聞きこゆゆゆべきべきべき事事ことあるあるある折折おりははは參參もううう上上のぼりりりけりけりけり。。。
- 2「「「怪怪あやしきしきしきことことことののの侍侍はべるるるををを聞聞きこえええさせさせさせざらざらざらむむんもももひがひがしうひがひがしうひがひがしゅう思思おもひひい給給たまへへえ煩煩わずらひひいててて」」」ととと、、、ほゝゑみほゝゑみほほえみててて聞聞きこえええやらやらやらぬぬぬををを「「「何何なにざまざまざまのののことことことぞぞぞ。。。我我わにににははは包包つつむむむ事事ことあらあらあらじじじとととなむなむなん思思おもふふう」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、
- 3「「「いかゞいかゞいかがははは。。。みづからみづからみずからののの憂憂うれへへえはははかしこくかしこくかしこくともともともまづまづまずこそこそこそははは。。。これこれこれはははいといといと聞聞きこえええさせさせさせにくゝにくゝにくくなむなむなん」」」ととといたういたういとうことことことこめこめこめたれたれたればばば「「「例例れいのののえんえんえんなりなりなり」」」ととと惡惡にくみみみ給給たまふふう。。。
- 4かのかのかの宮宮みやよりよりより侍侍はべるるる御文御文ふみとととててて取取とりりり出出いでででたりたりたり。。。「「「ましてましてましてこれこれこれははは取取とりりり隱隱かくすすすべきべきべきことことことかかかははは」」」とととててて取取とりりり給給たまふふうももも胸胸むねつぶるつぶるつぶる。。。みちのくにみちのくにみちのくに紙紙がみのののあつあつあつこえこえこえたるたるたるににににほひにほひにおいばかりばかりばかりははは深深ふこうううしめしめしめ給給たまへへえりりり。。。いといといとようようよう書書かきききおほせおほせおおせたりたりたり。。。
- 5歌歌うたももも、、、「「「からごろもからごろもからごろも君君きみががが心心こころのののつらけれつらけれつらければばば袂袂たもとはははかくかくかくぞぞぞそぼちそぼちそぼちつゝつゝつつのみのみのみ」」」。。。心得心得こころえずずずうちうちうち傾傾かたぶきぶきぶき給給たまへへえるるるににに、、、つゝみつゝみつつみにににころもころもころも筥筥ばこのののおもりかおもりかおもりかににに古代古代こたいなるなるなるうちうちうちおきおきおきててて推推おししし出出いでででたりたりたり。。。
- 6「「「これこれこれをををいかでいかでいかでかかかはははかたはらいたくかたはらいたくかたわらいたく思思おもひひい給給たまへへえざらざらざらむむん。。。されどされどされどついたちついたちついたちののの御御おんよそひよそひよそいとととてててわざとわざとわざと侍侍はべるるるめるめるめるをををはしたなうはしたなうはしたのうはははえええかへしかへしかへし侍侍はべらららずずず。。。ひとりひとりひとり引引ひききき籠籠こめめめ侍侍はべらららむむんももも人人ひとののの御心御心みこころ違違たがひひい侍侍はべるるるべけれべけれべければばば御覽御覽ごらんぜぜぜさせさせさせてててこそこそこそははは」」」ととと聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、
- 7「「「引引ひききき籠籠こめめめられられられなななむむんはははからかりからかりからかりなななましましまし。。。袖袖そでまきまきまきほさほさほさむむん人人ひともももなきなきなき身身みにににいといといと嬉嬉うれしきしきしき志志こころざしにににこそこそこそははは」」」とととのたまひのたまひのたまいてててことことことににに物物もの言言いははわれれれ給給たまははわずずず。。。
- 8さてもさてもさてもあさましあさましあさましののの口口くちつきつきつきややや、、、これこれこれこそこそこそははは手手てづからづからずからののの御御おん事事ことのののかぎりかぎりかぎりなななめれめれめれ、、、侍從侍從じじゅうこそこそこそはははとりとりとりなほすなほすなおすべかべかべかめれめれめれ、、、またまたまた筆筆ふでのののまりまりまりとるとるとる博士博士はかせぞぞぞなかるなかるなかるべきべきべきととといふかひいふかひいうかいなくなくなくおぼすおぼすおぼす。。。
- 9心心こころををを盡盡つくしししててて詠詠よみみみ出出いででで給給たまへへえらららむむんほどほどほどをををおぼすおぼすおぼすににに、、、いといといともももかしこきかしこきかしこきかたかたかたとととはははこれこれこれをををもももいふいふいうべかりべかりべかりけりけりけりとととほゝゑみほゝゑみほほえみててて見見み給給たまふふうををを、、、命婦命婦みょうぶおもておもておもて赤赤あかみみみててて見見み奉奉たてまつるるる。。。
- 10今今いまやうやうようのののえええゆるすゆるすゆるすまじくまじくまじくつやつやつやなうなうのうふるめきふるめきふるめきたるたるたる直衣直衣のうしのののうらうらうらうへうへうえひとしうひとしうひとしゅうこまやかこまやかこまやかなるなるなる、、、いといといとなほなほしうなほなほしうなおなおしゅうつまづまつまづまつまづまぞぞぞ見見みえええたるたるたる。。。
- 11あさましあさましあさましとととおぼすおぼすおぼすににに、、、このこのこの文文ふみをををひろげひろげひろげながらながらながらはしはしはしににに手手て習習ならひひいすさびすさびすさび給給たまふふうをををそばめそばめそばめににに見見みれれればばば、、、「「「なつかしきなつかしきなつかしき色色いろともともともなしなしなしににに何何なににににこのこのこのすゑつむすゑつむすえつむ花花はなををを袖袖そでにににふれふれふれけむけむけん。。。色色いろ濃濃こききき花花はなととと見見みしかしかしかどもどもども」」」などなどなど書書かきききけがしけがしけがし給給たまふふう。。。
- 12はなはなはなのののとがめとがめとがめををを、、、猶猶なおあるあるあるやうやうようあらあらあらむむんととと思思おもひひい合合あはするはするわする折々折々おりおりののの月月つきかげかげかげなどなどなどををを、、、いとほしきいとほしきいとおしきものものものからからからをかしうをかしうおかしゅう思思おもひひいなりなりなりぬぬぬ
- 13「「「紅紅くれないのののひとはなひとはなひとはな衣衣ごろもうすくうすくうすくともともともひたすらひたすらひたすらくたすくたすくたす名名なをををしししたてたてたてずずずははは。。。心心こころぐるしぐるしぐるしののの世世よややや」」」ととといといといといたういたういとう馴馴なれれれてててひとりごつひとりごつひとりごつををを、、、善善よきききにににはははあらあらあらねねねどどどかうかうこうやうやうようのののかいなでかいなでかいなでにににだにだにだにあらあらあらましかましかましかばばばととと、、、かへすがへすかへすがへすかえすがえす口口くちをしをしおし。。。
- 14人人ひとのののほどほどほどののの心苦心苦こころぐるしきしきしきににに名名なののの朽朽くちちちなななむむんはははさすがさすがさすがなりなりなり。。。人々人々びと參參まいれれればばば「「「取取とりりり隱隱かくさささむむんややや。。。かゝるかゝるかかるわざわざわざははは人人ひとのののするするするものものものにににやややあらあらあらむむん」」」とととうちうちうちうめきうめきうめき給給たまふふう。。。なになになにゝゝに御覽御覽ごらんぜぜぜさせさせさせつつつらむらむらん、、、我我わさへさへさへ心心こころなきなきなきやうやうようにににととといといといと耻耻はずかしくしくしくてててやをらやをらやおらおりおりおりぬぬぬ。。。
- 15又又またののの日日ひうへうへうえににに侍侍さぶらへらへらえばばば臺盤所臺盤所だいばんどころにににさしさしさしのぞきのぞきのぞき給給たまひひいててて「「「くはやくはやくわや昨日昨日きのうのののかへりごとかへりごとかえりごとあやしくあやしくあやしく心心こころばみばみばみ過過すぐさぐさぐさるゝるゝるる」」」とととててて投投なげげげ給給たまへへえりりり。。。女房女房にょうぼうたちたちたち何事何事なにごとならならならむむんとととゆかしがるゆかしがるゆかしがる。。。
- 16「「「たゞたゞただ梅梅うめののの花花はなののの色色いろのののごとごとごと三笠三笠みかさののの山山やまのののをとめをとめおとめをををばばば棄棄すてゝてゝてて」」」ととと歌歌うたひひいすさびすさびすさびててて出出いででで給給たまひひいぬるぬるぬるををを、、、猶猶なお命婦命婦みょうぶはははいといといとをかしをかしをかしととと思思おもふふう。。。心心こころ知知しらららぬぬぬ人々人々びとははは「「「なぞなぞなぞ御御おんひとりひとりひとりゑみゑみえみははは」」」ととと咎咎とがめめめあへあへあえりりり。。。
- 17「「「あらあらあらずずず。。。寒寒さむきききしもしもしもあさあさあさににに、、、好好このめめめるるる鼻鼻はなののの色色いろあひあひあいややや見見みえええつつつらむらむらん。。。御御おんつゞしりつゞしりつづしり歌歌うたのののいといといとをかしきをかしきおかしき」」」ととといへいへいえばばば、、、
- 18「「「あながちあながちあながちなるなるなる御御おん事事ことかなかなかな。。。このこのこのなかなかなかにににははは匂匂におへへえるるる鼻鼻はなもももなかなかなかめりめりめり左近左近さこんののの命婦命婦みょうぶ肥後肥後ひごののの釆女釆女うねべややや交交まじらひらひらいつつつらむらむらん」」」などなどなど心心こころもももえええずずずいひいひいいしらふしらふしらう。。。
- 19御御おんかへりかへりかえり奉奉たてまつりりりたれたれたればばば宮宮みやにににははは女房女房にょうぼうつどひつどひつどいててて見見みめでめでめでけりけりけり。。。「「「逢逢あははわぬぬぬ夜夜よをををへだつるへだつるへだつる中中なかののの衣手衣手ころもでにににかさねかさねかさねててていとゞいとゞいとど見見みもももししし見見みよよよとととややや」」」。。。白白しろききき紙紙かみににに捨捨すててて書書かいいい給給たまへへえるるるしもしもしもぞぞぞなかなかなかなかなかなかをかしげをかしげおかしげなるなるなる。。。
- 20つごもりつごもりつごもりののの日日ひ夕夕ゆうつつつ方方かた、、、かのかのかの御御おんころもばこころもばこころもばこににに御料御料りょうとととててて人人ひとののの奉奉たてまつれれれるるる御御おんぞぞぞひとぐひとぐひとぐえびそめえびそめえびぞめののの織物織物おりものののの御御おんぞぞぞ又又また山吹山吹やまぶきかかか何何なにぞぞぞいろいろいろいろいろいろ見見みえええててて命婦命婦みょうぶぞぞぞ奉奉たてまつりりりたるたるたる。。。
- 21ありありありししし色色いろあひあひあいをををわろしわろしわろしとととややや見見み給給たまひひいけむけむけんととと思思おもひひい知知しらららるれるれるれどどど、、、「「「かれかれかれはははたたた紅紅くれないののの重々重々おもおもしかりしかりしかりしししをををややや。。。さりともさりともさりとも消消きえええじじじ」」」とととねびねびねび人人びとどもどもどもははは定定さだむるむるむる。。。
- 22「「「御御おん歌歌うたもももこれこれこれよりよりよりのののはははことわりことわりことわり聞聞きこえええてててしたゝかしたゝかしたたかにににこそこそこそあれあれあれ。。。御御おんかへりかへりかえりははは唯唯ただをかしきをかしきおかしき方方かたにににこそこそこそ」」」などなどなど口々口々くちぐちにににいふいふいう。。。姫君姫君ひめぎみもももおぼろげおぼろげおぼろげならならならでででしししいでいでいで給給たまへへえるるるわざわざわざなれなれなればばば物物ものににに書書かきききつけつけつけててて置置おききき給給たまへへえりりりけりけりけり。。。
現代語訳
年も暮れた。源氏が宮中の宿直所にいらっしゃると、大輔の命婦が参上した。御髪をくしけずる時などには、色めいた関係もなく気楽な者で、それでも冗談をおっしゃったりして使い慣れていらっしゃるので、お呼びがない時も、申し上げることがある折には参上するのだった。
「妙なことがございまして、申し上げないのもひねくれているようで、思い悩みまして」と、ほほえんで言いよどむので、源氏は「どういうことだ。私には隠しごとはあるまいと思うが」とおっしゃると、命婦は「どうして隠しごとなど。自分の悩みなら、恐れ多くても、まず申し上げます。これはたいそう申し上げにくくて」と、ひどくもったいぶるので、源氏は「いつものように、思わせぶりだな」とお憎みになる。
命婦は「あの宮からのお手紙でございます」と言って取り出した。「なおさら、これは隠すことではないだろう」と言って、お取りになるのも、命婦は胸がどきどきする。陸奥紙の厚ぼったいものに、香だけは深くたきしめていらっしゃる。たいそうよく書きおおせている。歌も、「あなたのお心がつらいので、私の袂はこのように、ただ涙にぬれてばかりいます」。
源氏が合点がいかず首をかしげていらっしゃると、命婦は、包みに衣装箱の重そうな古風なものを置いて、差し出した。「これを、どうして困ったことと存じないでいられましょう。けれども、元日のお召し物として、わざわざお贈りになったものですので、そっけなくお返しすることもできません。私ひとりでしまいこんでおきますのも、姫君のお気持ちに背くことになりますので、ご覧に入れてからと思いまして」と申し上げると、
源氏は「しまいこまれてしまったら、つらかっただろう。袖を巻いて乾かしてくれる人もいない身に、たいそううれしい心づかいだ」とおっしゃって、それ以上は何もおっしゃれない。それにしても、あきれた歌いぶりだ、これこそが姫君ご自身の精いっぱいのところなのだろう、侍従ならうまく直すだろうに、ほかに筆を取って指導する先生もいないのだろうと、どうしようもなくお思いになる。
心を尽くしてお詠みになったのだろうと思うと、「いともかしこき」とはこういうものを言うのだなと、ほほえんでご覧になるのを、命婦は顔を赤らめて拝見する。今様色の、とても許せないほど艶のない古びた直衣で、表も裏も同じ色の濃いもので、たいそうありふれていて、褄々のところまで見えている。
あきれたことだとお思いになって、この手紙を広げたまま、その端に手習いのように書きすさびなさるのを、命婦が横目で見ると、「心ひかれる色でもないのに、どうしてこの末摘花に袖を触れてしまったのだろう。色の濃い花だと見たけれど」などと書き散らしていらっしゃる。花(鼻)のことを言っているのを、何かわけがあるのだろうと、思い合わせる折々の月の光で見た姫君の顔などを、気の毒に思いながらもおかしく思うようになった。
命婦が「紅に一度染めただけの衣のように色が薄くても、ひたすら名を汚すようなことさえなさらなければ。心苦しい仲ですこと」と、たいそうもの慣れた様子でひとりごとを言うのを、源氏は、上手ではないけれど、せめてこれくらいの並みの歌でも詠めたらと、返す返す残念である。姫君の身分がお気の毒なので、評判が傷つくのは、さすがにかわいそうだ。
女房たちが参上したので、源氏は「隠そうか。こんなことは人のすることだろうか」とため息をおつきになる。命婦は、どうしてご覧に入れてしまったのだろう、自分まで思慮のない者のようにと、たいそう恥ずかしくて、そっと退出した。
翌日、命婦が帝の御前にお仕えしていると、源氏が台盤所にのぞきなさって、「ほら、昨日の返事だ。妙に気をつかいすぎてしまう」と言って投げてよこしなさった。女房たちは何事だろうと見たがる。源氏が「ただ梅の花の色のように、三笠の山の乙女を捨てて」と歌い流してお出になったのを、命婦はやはりたいそうおかしいと思う。
事情を知らない女房たちは「どうしてひとり笑いを」と口々にとがめる。命婦が「いいえ。寒い霜の朝に、練り紅の好きな鼻の色合いでもご覧になったのでしょう。源氏の君の口ずさみ歌の、とてもおかしいこと」と言うと、「ずいぶんなお言葉ですこと。この中に赤い鼻の人などいないでしょうに。左近の命婦か、肥後の采女でもまじっていたのでしょうか」などと、わけもわからずに言い合っている。
命婦がご返事を差し上げると、宮邸では女房たちが集まって、見てほめそやした。「逢わない夜を隔てている二人の間なのに、この衣を重ねて、いっそう逢ってくれとおっしゃるのですか」。白い紙に無造作にお書きになっているのが、かえって趣深い。
大晦日の夕方、あの衣装箱に、源氏のお召し料として人が献上した衣装一揃い、葡萄染めの織物の衣、また山吹襲か何か、いろいろなものが見えて、命婦がお届け申し上げた。女房たちは、先日の衣装の色合いをよくないとご覧になったのだろうかと思い知られるが、年配の女房たちは「あれだって紅の重々しいものでしたのに。まさか見劣りはしないでしょう」と判断する。
「お歌も、こちらから差し上げたのは、筋が通っていてしっかりしておりました。ご返事は、ただ趣向をこらしただけで」などと口々に言う。姫君も、並々でない苦心をしてお詠みになった歌なので、書きつけてしまっておかれたのだった。
意訳
年の暮れ、姫君は源氏に、正月用の装束と歌を贈る。厚ぼったい陸奥紙、古風な「からごろも」の歌、色あせた直衣。どれも時代おくれで、源氏はあきれる。
源氏は手紙の端に「すゑつむ花」の歌を書きつけ、紅花の「はな」に姫君の赤い「鼻」をかけてからかう。巻名「末摘花」は、この歌に由来する。
源氏は姫君の気持ちを無にせず返事をし、大晦日には新しい装束を贈る。しかし姫君の女房たちは、源氏の返歌よりも姫君の歌の方がしっかりしていると言い合う。
語釈・文法注
- 今やう色
- 今様色(いまよういろ)。紅花で染めた、少し薄い紅色。当時の流行色。
- かいねり
- 掻練(かいねり)。練って柔らかくした絹。ここでは紅で染めた掻練の色をいい、赤い鼻をあてこする。
文法
- 反実仮想「まし」(からかりなまし)
- 「(しまいこまれたら)つらかっただろう」。
- 過去推量の「けむ」(袖にふれけむ)
- 「どうして触れてしまったのだろう」。過去の行動の原因を悔やむ。
和歌
からごろも君が心のつらければ袂はかくぞそぼちつゝのみ
- 詠者
- 末摘花
- 状況
- 年の暮れ、正月の装束に添えて、姫君が源氏に贈った歌。あなたのお心がつらいので、私の袂はこのように、ただ涙にぬれてばかりいます。
修辞
- 枕詞の誤用
- 「からごろも」は「着る」「袖」などにかかる枕詞だが、ここでは歌の内容とうまく結びついていない。何かといえば「からごろも」を使う姫君の歌の古風さが、のちにからかわれる。
なつかしき色ともなしに何にこのすゑつむ花を袖にふれけむ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 姫君の手紙の端に、源氏が手習いのように書きつけた歌。心ひかれる色でもないのに、どうしてこの末摘花(紅花)に袖を触れてしまったのだろう。
修辞
- 掛詞
- 「すゑつむ花」は紅花のこと。紅花の「はな」に姫君の赤い「鼻」をかける。巻名「末摘花」はこの歌による。
紅のひとはな衣うすくともひたすらくたす名をしたてずは
- 詠者
- 大輔の命婦
- 状況
- 源氏の歌を見て、命婦がひとりごとのように詠んだ歌。紅に一度染めただけの衣のように色が薄くても、ひたすら名を汚すようなことさえなさらなければ。
修辞
- 比喩
- 源氏の愛情の薄さを、一度だけ染めた紅の衣の色の薄さにたとえる。
逢はぬ夜をへだつる中の衣手にかさねていとゞ見もし見よとや
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 姫君の歌への源氏の返歌。逢わない夜を隔てている二人の間なのに、この衣を重ねて、いっそう逢ってくれとおっしゃるのですか。
修辞
- 縁語
- 「衣手」「かさね」が縁語。贈られた衣装にかけて、皮肉まじりに返す。
解説
「すゑつむ花」の歌は、巻名の由来となった歌である。紅花は茎の先(末)に咲く花を摘んで染料にすることから「末摘花」と呼ばれた。源氏は、姫君の赤い鼻を紅花にたとえてからかっている。
姫君の贈り物と歌は、どれも古風で時代おくれだが、姫君自身は精いっぱいの心を尽くしている。源氏はそれを笑いながらも、無下にはせず、正月の装束を贈って応える。笑いと思いやりが入りまじった場面である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、132–135頁(コマ68–69)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日