古典ライブラリー

源氏物語 第6帖 末摘花(9)

唐衣の歌と正月の装束

登場人物:光源氏・大輔の命婦・末摘花

年の暮れ、命婦は気まずそうに、姫君から源氏への手紙と正月用の装束を差し出す。厚ぼったい陸奥紙に「からごろも」の歌、古風で色あせた直衣に、源氏はあきれ、手紙の端に「すゑつむ花」の歌を書きつける。翌日、源氏は宮中で返事を投げ渡し、女房たちの前で姫君の赤い鼻をからかう歌を口ずさむ。大晦日、源氏は姫君に新しい装束を贈る。

宮中の宿直所で、古風な衣装箱と厚い紙の手紙を前に、苦笑しながら筆をとる貴公子と、顔を赤らめて控える女房の場面(AI生成)
宮中の宿直所で、古風な衣装箱と厚い紙の手紙を前に、苦笑しながら筆をとる貴公子と、顔を赤らめて控える女房の場面
  1. 1歲とし歲としとしももも暮く暮くくれれれぬぬぬ。。。內うち內うちうちののの御おん御おんおんとのゐとのゐとのい所どころ所どころどころにににおはしますおはしますおわしますににに大輔たいふ大輔たいふたいふののの命婦みやうぶ命婦みやうぶみょうぶ參まゐ參まゐまいれれれりりり。。。御おん御おんおんけづりけづりけずり櫛ぐし櫛ぐしぐしなどなどなどにににはははけさうけさうけそうだつだつだつすぢすぢすじなうなうのう心こころ心こころこころやすきやすきやすき者もの者ものものののの、、、さすがにさすがにさすがにののの給のたま給のたまのたまひひい戯たは戯たはたわぶれぶれぶれなどなどなどしししててて使つか使つかつかひひいならしならしならし給たま給たまたまへへえれれればばば、、、召め召めめしししなきなきなき時とき時ときときももも聞きこ聞きこきこゆゆゆべきべきべき事こと事ことことあるあるある折をり折をりおりははは參ま參まもううう上のぼ上のぼのぼりりりけりけりけり。。。
  2. 2「「「怪あや怪あやあやしきしきしきことことことののの侍はべ侍はべはべるるるををを聞きこ聞きこきこえええさせさせさせざらざらざらむむんもももひがひがしうひがひがしうひがひがしゅう思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえ煩わづら煩わづらわずらひひいててて」」」ととと、、、ほゝゑみほゝゑみほほえみててて聞きこ聞きこきこえええやらやらやらぬぬぬををを「「「何なに何なになにざまざまざまのののことことことぞぞぞ。。。我わ我わわにににははは包つつ包つつつつむむむ事こと事ことことあらあらあらじじじとととなむなむなん思おも思おもおもふふう」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、
  3. 3「「「いかゞいかゞいかがははは。。。みづからみづからみずからののの憂うれ憂うれうれへへえはははかしこくかしこくかしこくともともともまづまづまずこそこそこそははは。。。これこれこれはははいといといと聞きこ聞きこきこえええさせさせさせにくゝにくゝにくくなむなむなん」」」ととといたういたういとうことことことこめこめこめたれたれたればばば「「「例れい例れいれいのののえんえんえんなりなりなり」」」ととと惡にく惡にくにくみみみ給たま給たまたまふふう。。。
  4. 4かのかのかの宮みや宮みやみやよりよりより侍はべ侍はべはべるるる御文ふみ御文ふみふみとととててて取と取ととりりり出い出いいでででたりたりたり。。。「「「ましてましてましてこれこれこれははは取と取ととりりり隱かく隱かくかくすすすべきべきべきことことことかかかははは」」」とととててて取と取ととりりり給たま給たまたまふふうももも胸むね胸むねむねつぶるつぶるつぶる。。。みちのくにみちのくにみちのくに紙がみ紙がみがみのののあつあつあつこえこえこえたるたるたるににににほひにほひにおいばかりばかりばかりははは深ふか深ふかふこうううしめしめしめ給たま給たまたまへへえりりり。。。いといといとようようよう書か書かかきききおほせおほせおおせたりたりたり。。。
  5. 5歌うた歌うたうたももも、、、「「「からごろもからごろもからごろも君きみ君きみきみががが心こころ心こころこころのののつらけれつらけれつらければばば袂たもと袂たもとたもとはははかくかくかくぞぞぞそぼちそぼちそぼちつゝつゝつつのみのみのみ」」」。。。心得こころえ心得こころえこころえずずずうちうちうち傾かた傾かたかたぶきぶきぶき給たま給たまたまへへえるるるににに、、、つゝみつゝみつつみにににころもころもころも筥ばこ筥ばこばこのののおもりかおもりかおもりかににに古代こたい古代こたいこたいなるなるなるうちうちうちおきおきおきててて推お推おおししし出い出いいでででたりたりたり。。。
  6. 6「「「これこれこれをををいかでいかでいかでかかかはははかたはらいたくかたはらいたくかたわらいたく思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえざらざらざらむむん。。。されどされどされどついたちついたちついたちののの御おん御おんおんよそひよそひよそいとととてててわざとわざとわざと侍はべ侍はべはべるるるめるめるめるをををはしたなうはしたなうはしたのうはははえええかへしかへしかへし侍はべ侍はべはべらららずずず。。。ひとりひとりひとり引ひ引ひひききき籠こ籠ここめめめ侍はべ侍はべはべらららむむんももも人ひと人ひとひとののの御心みこころ御心みこころみこころ違たが違たがたがひひい侍はべ侍はべはべるるるべけれべけれべければばば御覽ごらん御覽ごらんごらんぜぜぜさせさせさせてててこそこそこそははは」」」ととと聞きこ聞きこきこゆれゆれゆればばば、、、
  7. 7「「「引ひ引ひひききき籠こ籠ここめめめられられられなななむむんはははからかりからかりからかりなななましましまし。。。袖そで袖そでそでまきまきまきほさほさほさむむん人ひと人ひとひともももなきなきなき身み身みみにににいといといと嬉うれ嬉うれうれしきしきしき志こころざし志こころざしこころざしにににこそこそこそははは」」」とととのたまひのたまひのたまいてててことことことににに物もの物ものもの言い言いいははわれれれ給たま給たまたまははわずずず。。。
  8. 8さてもさてもさてもあさましあさましあさましののの口くち口くちくちつきつきつきややや、、、これこれこれこそこそこそははは手て手ててづからづからずからののの御おん御おんおん事こと事ことことのののかぎりかぎりかぎりなななめれめれめれ、、、侍從じじゆう侍從じじゆうじじゅうこそこそこそはははとりとりとりなほすなほすなおすべかべかべかめれめれめれ、、、またまたまた筆ふで筆ふでふでのののまりまりまりとるとるとる博士はかせ博士はかせはかせぞぞぞなかるなかるなかるべきべきべきととといふかひいふかひいうかいなくなくなくおぼすおぼすおぼす。。。
  9. 9心こころ心こころこころををを盡つく盡つくつくしししててて詠よ詠よよみみみ出い出いいででで給たま給たまたまへへえらららむむんほどほどほどをををおぼすおぼすおぼすににに、、、いといといともももかしこきかしこきかしこきかたかたかたとととはははこれこれこれをををもももいふいふいうべかりべかりべかりけりけりけりとととほゝゑみほゝゑみほほえみててて見み見みみ給たま給たまたまふふうををを、、、命婦みやうぶ命婦みやうぶみょうぶおもておもておもて赤あか赤あかあかみみみててて見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつるるる。。。
  10. 10今いま今いまいまやうやうようのののえええゆるすゆるすゆるすまじくまじくまじくつやつやつやなうなうのうふるめきふるめきふるめきたるたるたる直衣なほし直衣なほしのうしのののうらうらうらうへうへうえひとしうひとしうひとしゅうこまやかこまやかこまやかなるなるなる、、、いといといとなほなほしうなほなほしうなおなおしゅうつまづまつまづまつまづまぞぞぞ見み見みみえええたるたるたる。。。
  11. 11あさましあさましあさましとととおぼすおぼすおぼすににに、、、このこのこの文ふみ文ふみふみをををひろげひろげひろげながらながらながらはしはしはしににに手て手てて習なら習ならならひひいすさびすさびすさび給たま給たまたまふふうをををそばめそばめそばめににに見み見みみれれればばば、、、「「「なつかしきなつかしきなつかしき色いろ色いろいろともともともなしなしなしににに何なに何なになににににこのこのこのすゑつむすゑつむすえつむ花はな花はなはなををを袖そで袖そでそでにににふれふれふれけむけむけん。。。色いろ色いろいろ濃こ濃ここききき花はな花はなはなととと見み見みみしかしかしかどもどもども」」」などなどなど書か書かかきききけがしけがしけがし給たま給たまたまふふう。。。
  12. 12はなはなはなのののとがめとがめとがめををを、、、猶なほ猶なほなおあるあるあるやうやうようあらあらあらむむんととと思おも思おもおもひひい合あ合ああはするはするわする折々をりをり折々をりをりおりおりののの月つき月つきつきかげかげかげなどなどなどををを、、、いとほしきいとほしきいとおしきものものものからからからをかしうをかしうおかしゅう思おも思おもおもひひいなりなりなりぬぬぬ
  13. 13「「「紅くれなゐ紅くれなゐくれないのののひとはなひとはなひとはな衣ごろも衣ごろもごろもうすくうすくうすくともともともひたすらひたすらひたすらくたすくたすくたす名な名ななをををしししたてたてたてずずずははは。。。心こころ心こころこころぐるしぐるしぐるしののの世よ世よよややや」」」ととといといといといたういたういとう馴な馴ななれれれてててひとりごつひとりごつひとりごつををを、、、善よ善よよきききにににはははあらあらあらねねねどどどかうかうこうやうやうようのののかいなでかいなでかいなでにににだにだにだにあらあらあらましかましかましかばばばととと、、、かへすがへすかへすがへすかえすがえす口くち口くちくちをしをしおし。。。
  14. 14人ひと人ひとひとのののほどほどほどののの心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしきしきしきににに名な名ななののの朽く朽くくちちちなななむむんはははさすがさすがさすがなりなりなり。。。人々びと人々びとびと參まゐ參まゐまいれれればばば「「「取と取ととりりり隱かく隱かくかくさささむむんややや。。。かゝるかゝるかかるわざわざわざははは人ひと人ひとひとのののするするするものものものにににやややあらあらあらむむん」」」とととうちうちうちうめきうめきうめき給たま給たまたまふふう。。。なになになにゝゝに御覽ごらん御覽ごらんごらんぜぜぜさせさせさせつつつらむらむらん、、、我わ我わわさへさへさへ心こころ心こころこころなきなきなきやうやうようにににととといといといと耻はづか耻はづかはずかしくしくしくてててやをらやをらやおらおりおりおりぬぬぬ。。。
  15. 15又また又またまたののの日ひ日ひひうへうへうえににに侍さぶ侍さぶさぶらへらへらえばばば臺盤所だいばんどころ臺盤所だいばんどころだいばんどころにににさしさしさしのぞきのぞきのぞき給たま給たまたまひひいててて「「「くはやくはやくわや昨日きのふ昨日きのふきのうのののかへりごとかへりごとかえりごとあやしくあやしくあやしく心こころ心こころこころばみばみばみ過す過すすぐさぐさぐさるゝるゝるる」」」とととててて投な投ななげげげ給たま給たまたまへへえりりり。。。女房にようばう女房にようばうにょうぼうたちたちたち何事なにごと何事なにごとなにごとならならならむむんとととゆかしがるゆかしがるゆかしがる。。。
  16. 16「「「たゞたゞただ梅むめ梅むめうめののの花はな花はなはなののの色いろ色いろいろのののごとごとごと三笠みかさ三笠みかさみかさののの山やま山やまやまのののをとめをとめおとめをををばばば棄す棄すすてゝてゝてて」」」ととと歌うた歌うたうたひひいすさびすさびすさびててて出い出いいででで給たま給たまたまひひいぬるぬるぬるををを、、、猶なほ猶なほなお命婦みやうぶ命婦みやうぶみょうぶはははいといといとをかしをかしをかしととと思おも思おもおもふふう。。。心こころ心こころこころ知し知ししらららぬぬぬ人々びと人々びとびとははは「「「なぞなぞなぞ御おん御おんおんひとりひとりひとりゑみゑみえみははは」」」ととと咎とが咎とがとがめめめあへあへあえりりり。。。
  17. 17「「「あらあらあらずずず。。。寒さむ寒さむさむきききしもしもしもあさあさあさににに、、、好この好このこのめめめるるる鼻はな鼻はなはなののの色いろ色いろいろあひあひあいややや見み見みみえええつつつらむらむらん。。。御おん御おんおんつゞしりつゞしりつづしり歌うた歌うたうたのののいといといとをかしきをかしきおかしき」」」ととといへいへいえばばば、、、
  18. 18「「「あながちあながちあながちなるなるなる御おん御おんおん事こと事ことことかなかなかな。。。このこのこのなかなかなかにににははは匂にほ匂にほにおへへえるるる鼻はな鼻はなはなもももなかなかなかめりめりめり左近さこん左近さこんさこんののの命婦みやうぶ命婦みやうぶみょうぶ肥後ひご肥後ひごひごののの釆女うねべ釆女うねべうねべややや交まじ交まじまじらひらひらいつつつらむらむらん」」」などなどなど心こころ心こころこころもももえええずずずいひいひいいしらふしらふしらう。。。
  19. 19御おん御おんおんかへりかへりかえり奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりたれたれたればばば宮みや宮みやみやにににははは女房にようばう女房にようばうにょうぼうつどひつどひつどいててて見み見みみめでめでめでけりけりけり。。。「「「逢あ逢ああははわぬぬぬ夜よ夜よよをををへだつるへだつるへだつる中なか中なかなかののの衣手ころもで衣手ころもでころもでにににかさねかさねかさねててていとゞいとゞいとど見み見みみもももししし見み見みみよよよとととややや」」」。。。白しろ白しろしろききき紙かみ紙かみかみににに捨す捨すすててて書か書かかいいい給たま給たまたまへへえるるるしもしもしもぞぞぞなかなかなかなかなかなかをかしげをかしげおかしげなるなるなる。。。
  20. 20つごもりつごもりつごもりののの日ひ日ひひ夕ゆふ夕ゆふゆうつつつ方かた方かたかた、、、かのかのかの御おん御おんおんころもばこころもばこころもばこににに御料れう御料れうりょうとととててて人ひと人ひとひとののの奉たてまつ奉たてまつたてまつれれれるるる御おん御おんおんぞぞぞひとぐひとぐひとぐえびそめえびそめえびぞめののの織物おりもの織物おりものおりものののの御おん御おんおんぞぞぞ又また又またまた山吹やまぶき山吹やまぶきやまぶきかかか何なに何なになにぞぞぞいろいろいろいろいろいろ見み見みみえええててて命婦みやうぶ命婦みやうぶみょうぶぞぞぞ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりたるたるたる。。。
  21. 21ありありありししし色いろ色いろいろあひあひあいをををわろしわろしわろしとととややや見み見みみ給たま給たまたまひひいけむけむけんととと思おも思おもおもひひい知し知ししらららるれるれるれどどど、、、「「「かれかれかれはははたたた紅くれなゐ紅くれなゐくれないののの重々おもおも重々おもおもおもおもしかりしかりしかりしししをををややや。。。さりともさりともさりとも消き消ききえええじじじ」」」とととねびねびねび人びと人びとびとどもどもどもははは定さだ定さださだむるむるむる。。。
  22. 22「「「御おん御おんおん歌うた歌うたうたもももこれこれこれよりよりよりのののはははことわりことわりことわり聞きこ聞きこきこえええてててしたゝかしたゝかしたたかにににこそこそこそあれあれあれ。。。御おん御おんおんかへりかへりかえりははは唯ただ唯ただただをかしきをかしきおかしき方かた方かたかたにににこそこそこそ」」」などなどなど口々くちぐち口々くちぐちくちぐちにににいふいふいう。。。姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみもももおぼろげおぼろげおぼろげならならならでででしししいでいでいで給たま給たまたまへへえるるるわざわざわざなれなれなればばば物もの物ものものににに書か書かかきききつけつけつけててて置お置おおききき給たま給たまたまへへえりりりけりけりけり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

年も暮れた。源氏が宮中の宿直所にいらっしゃると、大輔の命婦が参上した。御髪をくしけずる時などには、色めいた関係もなく気楽な者で、それでも冗談をおっしゃったりして使い慣れていらっしゃるので、お呼びがない時も、申し上げることがある折には参上するのだった。

「妙なことがございまして、申し上げないのもひねくれているようで、思い悩みまして」と、ほほえんで言いよどむので、源氏は「どういうことだ。私には隠しごとはあるまいと思うが」とおっしゃると、命婦は「どうして隠しごとなど。自分の悩みなら、恐れ多くても、まず申し上げます。これはたいそう申し上げにくくて」と、ひどくもったいぶるので、源氏は「いつものように、思わせぶりだな」とお憎みになる。

命婦は「あの宮からのお手紙でございます」と言って取り出した。「なおさら、これは隠すことではないだろう」と言って、お取りになるのも、命婦は胸がどきどきする。陸奥紙の厚ぼったいものに、香だけは深くたきしめていらっしゃる。たいそうよく書きおおせている。歌も、「あなたのお心がつらいので、私の袂はこのように、ただ涙にぬれてばかりいます」。

源氏が合点がいかず首をかしげていらっしゃると、命婦は、包みに衣装箱の重そうな古風なものを置いて、差し出した。「これを、どうして困ったことと存じないでいられましょう。けれども、元日のお召し物として、わざわざお贈りになったものですので、そっけなくお返しすることもできません。私ひとりでしまいこんでおきますのも、姫君のお気持ちに背くことになりますので、ご覧に入れてからと思いまして」と申し上げると、

源氏は「しまいこまれてしまったら、つらかっただろう。袖を巻いて乾かしてくれる人もいない身に、たいそううれしい心づかいだ」とおっしゃって、それ以上は何もおっしゃれない。それにしても、あきれた歌いぶりだ、これこそが姫君ご自身の精いっぱいのところなのだろう、侍従ならうまく直すだろうに、ほかに筆を取って指導する先生もいないのだろうと、どうしようもなくお思いになる。

心を尽くしてお詠みになったのだろうと思うと、「いともかしこき」とはこういうものを言うのだなと、ほほえんでご覧になるのを、命婦は顔を赤らめて拝見する。今様色の、とても許せないほど艶のない古びた直衣で、表も裏も同じ色の濃いもので、たいそうありふれていて、褄々のところまで見えている。

あきれたことだとお思いになって、この手紙を広げたまま、その端に手習いのように書きすさびなさるのを、命婦が横目で見ると、「心ひかれる色でもないのに、どうしてこの末摘花に袖を触れてしまったのだろう。色の濃い花だと見たけれど」などと書き散らしていらっしゃる。花(鼻)のことを言っているのを、何かわけがあるのだろうと、思い合わせる折々の月の光で見た姫君の顔などを、気の毒に思いながらもおかしく思うようになった。

命婦が「紅に一度染めただけの衣のように色が薄くても、ひたすら名を汚すようなことさえなさらなければ。心苦しい仲ですこと」と、たいそうもの慣れた様子でひとりごとを言うのを、源氏は、上手ではないけれど、せめてこれくらいの並みの歌でも詠めたらと、返す返す残念である。姫君の身分がお気の毒なので、評判が傷つくのは、さすがにかわいそうだ。

女房たちが参上したので、源氏は「隠そうか。こんなことは人のすることだろうか」とため息をおつきになる。命婦は、どうしてご覧に入れてしまったのだろう、自分まで思慮のない者のようにと、たいそう恥ずかしくて、そっと退出した。

翌日、命婦が帝の御前にお仕えしていると、源氏が台盤所にのぞきなさって、「ほら、昨日の返事だ。妙に気をつかいすぎてしまう」と言って投げてよこしなさった。女房たちは何事だろうと見たがる。源氏が「ただ梅の花の色のように、三笠の山の乙女を捨てて」と歌い流してお出になったのを、命婦はやはりたいそうおかしいと思う。

事情を知らない女房たちは「どうしてひとり笑いを」と口々にとがめる。命婦が「いいえ。寒い霜の朝に、練り紅の好きな鼻の色合いでもご覧になったのでしょう。源氏の君の口ずさみ歌の、とてもおかしいこと」と言うと、「ずいぶんなお言葉ですこと。この中に赤い鼻の人などいないでしょうに。左近の命婦か、肥後の采女でもまじっていたのでしょうか」などと、わけもわからずに言い合っている。

命婦がご返事を差し上げると、宮邸では女房たちが集まって、見てほめそやした。「逢わない夜を隔てている二人の間なのに、この衣を重ねて、いっそう逢ってくれとおっしゃるのですか」。白い紙に無造作にお書きになっているのが、かえって趣深い。

大晦日の夕方、あの衣装箱に、源氏のお召し料として人が献上した衣装一揃い、葡萄染めの織物の衣、また山吹襲か何か、いろいろなものが見えて、命婦がお届け申し上げた。女房たちは、先日の衣装の色合いをよくないとご覧になったのだろうかと思い知られるが、年配の女房たちは「あれだって紅の重々しいものでしたのに。まさか見劣りはしないでしょう」と判断する。

「お歌も、こちらから差し上げたのは、筋が通っていてしっかりしておりました。ご返事は、ただ趣向をこらしただけで」などと口々に言う。姫君も、並々でない苦心をしてお詠みになった歌なので、書きつけてしまっておかれたのだった。

意訳

年の暮れ、姫君は源氏に、正月用の装束と歌を贈る。厚ぼったい陸奥紙、古風な「からごろも」の歌、色あせた直衣。どれも時代おくれで、源氏はあきれる。

源氏は手紙の端に「すゑつむ花」の歌を書きつけ、紅花の「はな」に姫君の赤い「鼻」をかけてからかう。巻名「末摘花」は、この歌に由来する。

源氏は姫君の気持ちを無にせず返事をし、大晦日には新しい装束を贈る。しかし姫君の女房たちは、源氏の返歌よりも姫君の歌の方がしっかりしていると言い合う。

語釈・文法注

今やう色
今様色(いまよういろ)。紅花で染めた、少し薄い紅色。当時の流行色。
かいねり
掻練(かいねり)。練って柔らかくした絹。ここでは紅で染めた掻練の色をいい、赤い鼻をあてこする。

文法

反実仮想「まし」(からかりなまし)
「(しまいこまれたら)つらかっただろう」。
過去推量の「けむ」(袖にふれけむ)
「どうして触れてしまったのだろう」。過去の行動の原因を悔やむ。

和歌

からごろも君が心のつらければ袂はかくぞそぼちつゝのみ

詠者
末摘花
状況
年の暮れ、正月の装束に添えて、姫君が源氏に贈った歌。あなたのお心がつらいので、私の袂はこのように、ただ涙にぬれてばかりいます。

修辞

枕詞の誤用
「からごろも」は「着る」「袖」などにかかる枕詞だが、ここでは歌の内容とうまく結びついていない。何かといえば「からごろも」を使う姫君の歌の古風さが、のちにからかわれる。

なつかしき色ともなしに何にこのすゑつむ花を袖にふれけむ

詠者
光源氏
状況
姫君の手紙の端に、源氏が手習いのように書きつけた歌。心ひかれる色でもないのに、どうしてこの末摘花(紅花)に袖を触れてしまったのだろう。

修辞

掛詞
「すゑつむ花」は紅花のこと。紅花の「はな」に姫君の赤い「鼻」をかける。巻名「末摘花」はこの歌による。

紅のひとはな衣うすくともひたすらくたす名をしたてずは

詠者
大輔の命婦
状況
源氏の歌を見て、命婦がひとりごとのように詠んだ歌。紅に一度染めただけの衣のように色が薄くても、ひたすら名を汚すようなことさえなさらなければ。

修辞

比喩
源氏の愛情の薄さを、一度だけ染めた紅の衣の色の薄さにたとえる。

逢はぬ夜をへだつる中の衣手にかさねていとゞ見もし見よとや

詠者
光源氏
状況
姫君の歌への源氏の返歌。逢わない夜を隔てている二人の間なのに、この衣を重ねて、いっそう逢ってくれとおっしゃるのですか。

修辞

縁語
「衣手」「かさね」が縁語。贈られた衣装にかけて、皮肉まじりに返す。

解説

「すゑつむ花」の歌は、巻名の由来となった歌である。紅花は茎の先(末)に咲く花を摘んで染料にすることから「末摘花」と呼ばれた。源氏は、姫君の赤い鼻を紅花にたとえてからかっている。

姫君の贈り物と歌は、どれも古風で時代おくれだが、姫君自身は精いっぱいの心を尽くしている。源氏はそれを笑いながらも、無下にはせず、正月の装束を贈って応える。笑いと思いやりが入りまじった場面である。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、132–135頁(コマ68–69)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日