源氏物語 第6帖 末摘花(8)
荒れた門と老いた門番
帰りぎわ、源氏は雪に埋もれた荒れた邸を見て、ここにかわいらしい人を住まわせたらと思う。雪をかぶった橘の木を随身に払わせ、門を開けさせると、年老いた門番と、煤けた着物で寒さに震える孫娘らしい女が出てくる。源氏は老人の白髪を見て歌を口ずさみ、姫君の赤い鼻を思い出してほほえむ。その後、源氏は姫君の暮らしの面倒を見ようと決め、女房や門番にまで衣類を贈る。

- 1御御おん車車くるま寄寄よせせせたるたるたる中門中門ちゅうもんのののいといといといたういたういとうゆがみゆがみゆがみよろぼひよろぼひよろぼいててて夜目夜目よめにににこそこそこそしるきしるきしるきながらながらながらももも萬萬よろずかくろへかくろへかくろえたるたるたることことこと多多おおかりかりかりけれけれけれ。。。いといといと哀哀あわれににに寂寂さびしうしうしゅう荒荒あれれれ惑惑まどへへえるるるににに松松まつののの雪雪ゆきのみのみのみ暖暖あたたかかかげげげににに降降ふりりり積積つめめめるるる、、、山里山里やまざとののの心地心地ここちしししててて物物ものあはれあはれあわれなるなるなるををを、、、
- 2かのかのかの人々人々びとのののいひいひいいししし葎葎むぐらのののはははかやうかやうかようなるなるなる所所ところなりなりなりけむけむけんかしかしかし。。。げにげにげに心苦心苦こころぐるしくしくしくらうたげらうたげろうたげならならならむむん人人ひとをををこゝこゝここにににすゑすゑすえててて後後うしろめたうめたうめとう戀戀こいしししととと思思おもははわゞゞばややや、、、あるあるあるまじきまじきまじき物思物思ものおもいはははそれそれそれににに紛紛まぎれれれなななむむんかしかしかしととと、、、
- 3思思おもふふうやうやうようなるなるなるすみかすみかすみかににに合合あははわぬぬぬ御御おん有樣有樣ありさまははは取取とるるるべきべきべき方方かたなしなしなしととと思思おもひひいながらながらながら、、、我我わならならならぬぬぬ人人ひとはははましてましてまして見見み忍忍しのびびびてててむむんややや、、、わがわがわがかうかうこう見見み馴馴なれれれけるけるけるははは父父ちちみこみこみこののの後後うしろめたしめたしめたしとととたぐへたぐへたぐえ置置おききき給給たまひひいけむけむけんたましひたましひたましいのののしるべしるべしるべなななめりめりめりとととぞぞぞおぼさおぼさおぼさるゝるゝるる。。。
- 4橘橘たちばなののの木木きのののうづもれうづもれうずもれたるたるたる、、、御御おん隨身隨身ずいじん召召めしししててて拂拂はらははわせせせ給給たまふふう。。。うらみがほうらみがほうらみがおににに松松まつののの木木きのののおのれおのれおのれ起起おきききかへりかへりかえりててて、、、さとさとさとこぼるゝこぼるゝこぼるる雪雪ゆきももも名名なにににたつたつたつ末末すえととと見見みゆるゆるゆるなどなどなどををを、、、いといといと深深ふかからからからずずずともともともなだらかなだらかなだらかなるなるなる程程ほどにににあひしらはあひしらはあいしらわむむん人人ひともももがながながなととと見見み給給たまふふう。。。
- 5御御おん車車くるま出出いづづずべきべきべきかどかどかどはははまだまだまだあけあけあけざりざりざりけれけれければばば鍵鍵かぎのののあづかりあづかりあずかり尋尋たずねねね出出いでででたれたれたればばば翁翁おきなのののいといといといみじきいみじきいみじきぞぞぞ出出いででで來來きたるたるたる。。。
- 6むすめむすめむすめにににやややうまごうまごうまごにににややや、、、はしたなるはしたなるはしたなる大大おおきさきさきさののの女女おんなののの、、、きぬきぬきぬははは雪雪ゆきにににあひあひあいててて煤煤すすけけけ惑惑まどひひい寒寒さむしししととと思思おもへへえるるる氣色氣色けしき深深ふこうううててて、、、怪怪あやしきしきしきものものものににに火火ひをををたゞたゞただほのかほのかほのかににに入入いれれれててて袖袖そでぐゝみぐゝみぐくみにににもたりもたりもたり。。。
- 7翁翁おきなかどかどかどをををえええあけあけあけやらやらやらねねねばばば寄寄よりりりてててひきひきひき助助たすくるくるくるいといといとかたくなかたくなかたくなゝりゝりなり。。。御供御供おおんともののの人人ひと寄寄よりりりてててぞぞぞあけあけあけつるつるつる。。。
- 8「「「ふりふりふりにににけるけるける頭頭かしらのののゆきゆきゆきををを見見みるるる人人ひとももも劣劣おとらららずずずぬらすぬらすぬらすあさあさあさのののそでそでそでかなかなかな。。。若若わかききき者者ものはははかたちかたちかたちかくれかくれかくれずずずとととうちうちうちすじすじすじ給給たまひひいててて、、、花花はなののの色色いろににに出出いでゝでゝでていといといとさむしさむしさむしととと見見みえええつるつるつる御御おん面影面影おもかげふとふとふと思思おもひひい出出いでででられられられてててほゝゑまほゝゑまほほえまれれれ給給たまふふう。。。
- 9頭中將頭中將とうのちゅうじょうにににこれこれこれををを見見みせせせたらたらたらむむん時時とき如何如何いかなるなるなる事事ことをををよそへよそへよそえいはいはいわむむん。。。常常つねににに窺窺うかがひひいくれくれくればばば今今いま見見みつけつけつけられられられなななむむんとととすべなうすべなうすべのうおぼすおぼすおぼす。。。
- 10よよよのののつねつねつねなるなるなるほどほどほどのののことことことなるなるなることことことなさなさなさならならならばばば思思おもひひい捨捨すてゝてゝててももも止止やみみみぬぬぬべきべきべきををを、、、さだかさだかさだかににに見見み給給たまひひいてててはははなかなかなかなかなかなか哀哀あわれにににいみじくいみじくいみじくててて、、、まめやかまめやかまめやかなるなるなるさまさまさまににに常常つねににに音音おとづれづれずれ給給たまふふう。。。
- 11ふるきふるきふるきののの皮皮かわならならならぬぬぬ絹絹きぬ、、、あやあやあやわたわたわたなどなどなどおいびとおいびとおいびとどもどもどもののの着着きるるるべきべきべき物物ものののの類類たぐひひい、、、かのかのかのおきなおきなおきなのののためためためまでまでまでかみしもかみしもかみしもおぼしおぼしおぼしやりやりやりててて奉奉たてまつりりり給給たまふふう。。。
- 12かやうかやうかようのののまめやかまめやかまめやか事事ごとももも耻耻はずかしげしげしげならならならぬぬぬををを心心こころやすくやすくやすく、、、さるさるさるかたかたかたのののうしろみうしろみうしろみにてにてにてはぐゝまはぐゝまはぐくまむむんとととおもほしおもほしおもおしとりとりとりててて、、、さまさまさまことことことにににさささならならならぬぬぬうちうちうち解解とけけけわざわざわざもももししし給給たまひひいけりけりけり。。。
- 13かのかのかの空蟬空蟬うつせみのののうちうちうち解解とけけけたりたりたりししし宵宵よいのののそばめそばめそばめはははいといといとわろかりわろかりわろかりしししかたちざまかたちざまかたちざまなれなれなれどどど、、、もてなしもてなしもてなしにににかくさかくさかくされれれててて口惜口惜くちおしうしうしゅうはははあらあらあらざりざりざりきききかしかしかし。。。劣劣おとるるるべきべきべきほどほどほどののの人人ひとなりなりなりやややははは。。。げにげにげにしなしなしなにににもももよらよらよらぬぬぬわざわざわざなりなりなりけりけりけり。。。
- 14心心こころばせばせばせのののなだらかなだらかなだらかににに妬妬ねたげげげなりなりなりしししををを負負まけけけててて止止やみみみにににしししかなかなかなととと物物ものののの折折おりごとごとごとにににはははおぼしおぼしおぼし出出いづづず。。。
現代語訳
お車を寄せた中門が、たいそうひどくゆがみ傾いていて、夜目にはそれとはっきりわかりながらも、いろいろと隠れていたことが多かったのだった。たいそうしみじみと寂しく荒れはてているのに、松の雪だけが暖かそうに降り積もっているのが、山里のような気がしてもの哀れなので、
あの人々(雨夜の品定めの左馬頭たち)が言っていた「葎の門」とは、こうした所だったのだろう、本当に、いじらしくかわいらしい人を、こういう所に住まわせて、気がかりで恋しく思いたいものだ、あってはならない物思い(藤壺への思い)も、それで紛れるだろうにと、理想的な住まいに似合わない姫君のご様子は、取り柄がないと思いながらも、
私でない人なら、まして我慢して世話をすることはできまい、私がこうして親しくなったのは、父宮が姫君を案じて付き添わせておかれた魂の導きなのだろうと、お思いになる。雪に埋もれている橘の木を、随身を呼んで雪を払わせなさる。うらやましそうに、松の木がひとりでに起き返って、さっとこぼれる雪も、「名に立つ末の」と見えるのなどを、それほど深くはなくても、穏やかに受け答えしてくれる人がいたらなあとご覧になる。
お車の出るはずの門は、まだ開けていなかったので、鍵の番人を探し出したところ、たいそうひどく年老いた翁が出てきた。娘なのか孫なのか、どっちつかずの年ごろの女が、着物は雪に映えてひどく煤けて見え、寒いと思っている様子がありありとして、妙な器に火をほんの少し入れて、袖に包んで持っている。翁が門を開けきれないので、近寄って手伝うのが、たいそう不格好だ。お供の人が近寄って開けた。
源氏は「年を経た頭の雪を見る人も、それに劣らず涙で濡らす朝の袖だ。『若き者は形隠れず』」と口ずさみなさって、寒さで花の色(赤い鼻)に出ていたお顔を、ふと思い出されて、ほほえまれなさる。頭中将にこれを見せたら、どんなことにたとえて言うだろう、いつも様子をうかがって来るから、そのうち見つけられてしまうだろうと、困ったことにお思いになる。
世間並みの、ありふれた欠点なら、思い捨ててもやめてしまえるのに、はっきりとご覧になってからは、かえってかわいそうで気の毒になって、誠実な様子で、いつもお便りをなさる。黒貂の皮ではない絹や、綾、綿など、老女房たちが着るような物の類を、あの翁のためにまで、上下の者たちを思いやってお贈りになる。
姫君は、こうした実用的な贈り物も恥ずかしがらないので、源氏は気楽に、そうした方面の後見としてお世話しようとお決めになって、普通とは違って、そうでない打ち解けた世話までなさるのだった。あの空蝉が打ち解けていた宵の横顔は、たいそう器量の悪い顔立ちだったが、身のこなしに隠されて、見劣りはしなかったな、姫君は空蝉に劣るような身分の人だろうか、なるほど、女は身分にはよらないものだ。空蝉の気立てが穏やかで、いまいましいほどだったのに、負けたまま終わってしまったなと、何かの折ごとにお思い出しになる。
意訳
雪に埋もれた荒れた邸と、年老いた門番、煤けた着物で震える娘。宮家の零落ぶりが、帰りぎわの門の場面でも描かれる。源氏は、ここにかわいらしい人がいたらと思いながら、姫君のことを考える。
源氏は、自分以外にこの姫君の世話をする人はいないだろうと考え、父宮の魂の導きとして、姫君の暮らしの面倒を見ることにする。容姿に失望しても見捨てないところに、源氏の誠実さが表れている。
語釈・文法注
- 葎の門
- 帚木の巻の雨夜の品定めで、左馬頭が「さびしくあばれたらむ葎の門に、思ひの外にらうたげならむ人の閉ぢられたらむこそ」と語った言葉。荒れた家に思いがけず美しい女性がいるのはすばらしい、という意。
- 名にたつ末の
- 「君をおきてあだし心をわが持たば末の松山波も越えなむ」(『古今集』)による。末の松山を波が越えることはない、つまり心変わりしないという誓いの歌。
- 若き者はかたちかくれず
- 白居易の詩「秦中吟」の一節「幼き者は形蔽はれず」をふまえる。若い者は寒さに着る物もなく、体が隠れない、の意。
文法
- 願望の「もがな」(あひしらはむ人もがな)
- 「受け答えしてくれる人がいたらなあ」。
- 推量の「めり」(しるべなめり)
- 「なるめり」の撥音便「なんめり」の撥音無表記。「…導きなのだろう」。
解説
帚木の巻の雨夜の品定めで語られた「葎の門」の理想が、ここで皮肉な形で現れる。荒れた邸に住む宮家の姫君という条件はそろっているのに、肝心の姫君は理想とはほど遠い。源氏の夢想と現実との落差が、ユーモラスに描かれる。
源氏が門番の老人の白髪を見て口ずさむ歌と白居易の詩句は、源氏の教養を示すとともに、寒さに震える貧しい人々への同情も表している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、130–133頁(コマ67–68)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日