源氏物語 第6帖 末摘花(7)
雪の朝――姫君の鼻
雪の夜が明け、源氏は格子を上げて雪の庭を眺め、姫君を誘い出す。女房たちに促されていざり出た姫君を、源氏は横目で見る。座高が高く胴長で、何より目をひくのは、普賢菩薩の乗り物の象のように長く垂れて、先が赤く色づいた鼻だった。顔は青白く、額は広く、やせて骨ばっている。黒貂の皮衣を着て、口をおおって笑う姫君に、源氏はいたたまれず、歌を詠んで帰る。

- 1辛辛からうじてうじてうじて明明あけけけぬるぬるぬる氣色氣色けしきなれなれなればばば、、、格子格子こうし手手てづからづからずからあげあげあげ給給たまひひいててて前前まえののの前栽前栽せんざいののの雪雪ゆきををを見見み給給たまふふう。。。ふみふみふみあけあけあけたるたるたる跡跡あともももなくなくなくはるばるはるばるはるばるととと荒荒あれれれわたりわたりわたりててていみじういみじういみじゅうさびしげさびしげさびしげなるなるなるににに、、、
- 2ふりふりふり出出いでゝでゝでて行行ゆかかかむむんともともとも哀哀あわれにてにてにて「「「をかしきをかしきおかしきほどほどほどののの空空そらももも見見み給給たまへへえ盡盡つきききせせせぬぬぬ御心御心みこころののの隔隔へだてこそこそこそわりなけれわりなけれわりなけれ」」」ととと恨恨うらみみみ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 3まだまだまだほのぐらけれほのぐらけれほのぐらけれどどど雪雪ゆきののの光光ひかりにににいとゞいとゞいとど淸淸きよらららににに若若わこううう見見みえええ給給たまふふうををを、、、おいおいおい人人びとどもどもどもゑみゑみえみさかえさかえさかえててて見見み奉奉たてまつるるる。。。「「「はやはやはや出出いでででさせさせさせ給給たまへへえ。。。あぢきなしあぢきなしあじきなし。。。心心こころうつくしきうつくしきうつくしきこそこそこそ」」」などなどなど敎敎おしへへへ聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、
- 4さすがにさすがにさすがに人人ひとののの聞聞きこゆるゆるゆることことことをををえええいなびいなびいなび給給たまははわぬぬぬ御心御心みこころにてにてにて、、、とかうとかうとこう引引ひきききつくろひつくろひつくろいてててゐざりゐざりいざり出出いででで給給たまへへえりりり。。。見見みぬぬぬやうやうようにてにてにてとととののの方方かたををを眺眺ながめめめ給給たまへへえれれれどどどしりめしりめしりめはははたゞたゞただならならならずずず。。。
- 5いかにいかにいかにぞぞぞ、、、うちとけうちとけうちとけまさりまさりまさりののの聊聊いささかもももあらあらあらばばば嬉嬉うれしからしからしからむむんとととおぼすおぼすおぼすもももあながちあながちあながちなるなるなる御心御心みこころなりなりなりややや。。。まづまづまずのののたかうたかうたこうににに見見みえええ給給たまふふうににに、、、さればよさればよさればよととと胸胸むねつぶれつぶれつぶれぬぬぬ
- 6うちうちうちつぎつぎつぎてててあなあなあなかたはかたはかたわととと見見みゆるゆるゆるものものものははは御御おん鼻鼻はななりなりなりけりけりけり。。。ふとふとふと目目めぞぞぞとまるとまるとまる。。。普賢普賢ふげんぼさちぼさちぼさちのののととと覺覺おぼゆゆゆ。。。あさましうあさましうあさましゅう高高たこうううのびらかのびらかのびらかににに先先さきののの方方かた少少すこししし垂垂たりりりててて色色いろづきづきずきたるたるたるほどほどほど殊殊ことののの外外ほかにににうたてうたてうたてありありあり。。。
- 7色色いろははは雪雪ゆき耻耻はずかしくかしくかしく白白しろうううてててさをさをさおににに額額ひたいつきつきつきこよなうこよなうこよのうはれはれはれたるたるたるににに、、、猶猶なおしもがちしもがちしもがちなるなるなるおもやうおもやうおもようははは大方大方おおかたおどろおどろしくおどろおどろしくおどろおどろしく長長ながきききなるなるなるべしべしべし。。。
- 8瘦瘦やせせせ給給たまへへえるるることことこといとほしげいとほしげいとおしげにににさらぼひさらぼひさらぼいててて肩肩かたののの程程ほどなどなどなどははは痛痛いたげげげなるなるなるまでまでまできぬきぬきぬののの上上うえまでまでまで見見みゆゆゆ。。。なになになにゝゝにのこりのこりのこりなうなうのう見見み顯顯あらははわしししつつつらむらむらんととと思思おもふふうものものものからからから、、、珍珍めずらしきらしきらしきさまさまさまのののしししたれたれたればばばさすがにさすがにさすがにうちうちうち見見みやらやらやられれれ給給たまふふう。。。
- 9頭頭かしらつきつきつき髮髮かみのののかゝりかゝりかかりはははしもしもしもうつくしげうつくしげうつくしげにてにてにてめでたしめでたしめでたしととと思思おもひひい聞聞きこゆるゆるゆる人々人々びとにににもももをさをさをさをさおさおさ劣劣おとるるるまじうまじうまじゅううちぎうちぎうちぎののの裾裾すそにににたまりたまりたまりてててひかひかひかれれれたるたるたるほどほどほど一尺一尺いっしゃくばかりばかりばかり餘餘あまりりりたらたらたらむむんととと見見みゆゆゆ。。。
- 10着着き給給たまへへえるるる物物ものどもどもどもをををさへさへさへいひいひいいたつるたつるたつるももも物物ものいひいひいいさがなきさがなきさがなきやうやうようなれなれなれどどど、、、昔昔むかし物語物語ものがたりにににももも人人ひとののの御御おんさうぞくさうぞくそうぞくをををこそこそこそはははまづまづまずいひいひいいためためためれれれ。。。
- 11ゆるしゆるしゆるしのののわりなうわりなうわりのううはじらみうはじらみうわじらみたるたるたる一一ひとかさねかさねかさね、、、なごりなごりなごりなうなうのう黑黑くろききき袿袿うちき重重かさねねねててて、、、上着上着うわぎにににはははのののかはぎぬかはぎぬかわぎぬいといといと淸淸きよらにらにらにかうばしきかうばしきこうばしきををを着着き給給たまへへえりりり。。。
- 12こだいこだいこだいののの故故ゆえづきづきずきたるたるたる御御おんさうぞくさうぞくそうぞくなれなれなれどどど、、、猶猶なお若若わかやかやかやかなるなるなる女女おんなののの御御おんよそひよそひよそいにににははは似似にげなうげなうげのうおどろおどろしきおどろおどろしきおどろおどろしきことことこといといといともてもてもてはやさはやさはやされれれたりたりたり。。。されどされどされどげにげにげにこのこのこの皮皮かわなうなうのうてててははは寒寒さむからからからましましましととと見見みゆるゆるゆる御御おん顏顏かおざまざまざまなるなるなるををを心苦心苦こころぐるしししととと見見みたまふたまふたまう。。。
- 13何事何事なにごともももいはいはいわれれれ給給たまははわずずず、、、我我わさへさへさへ口口くち閉閉とぢぢじたるたるたる心地心地ここちししし給給たまへへえどどど例例れいのののしゞましゞましじまももも試試こころみみみむむんととととかうとかうとこう聞聞きこえええ給給たまふふうににに、、、いたういたういとうはぢらひはぢらひはじらいててて口口くちおほひおほひおおいししし給給たまへへえるるるさへさへさへ鄙鄙ひなびびびふるめかしうふるめかしうふるめかしゅう、、、
- 14ことごとしくことごとしくことごとしくぎしきぎしきぎしき官官かんのののねりねりねり出出いでででたるたるたるひぢもちひぢもちひじもちおぼえおぼえおぼえててて、、、さすがにさすがにさすがにうちうちうち笑笑えみみみ給給たまへへえるるるけしきけしきけしきはしたなうはしたなうはしたのうすゞろびすゞろびすずろびたりたりたり。。。いとほしくいとほしくいとおしく哀哀あわれにてにてにていとゞいとゞいとど急急いそききき出出いででで給給たまふふう。。。
- 15「「「たのもしきたのもしきたのもしき人人ひとなきなきなき御御おん有樣有樣ありさまををを見見みそめそめそめたるたるたる人人ひとにににははは、、、疎疎うとからからからずずず思思おもひひいむつびむつびむつび給給たまははわむむんこそこそこそほいほいほいあるあるある心地心地ここちすすすべけれべけれべけれゆるしゆるしゆるしなきなきなき御御おんけしきけしきけしきなれなれなればばばつらうつらうつろう」」」などなどなどことつけことつけことつけててて、、、
- 16「「「朝日朝日あさひさすさすさす軒軒のきのののたるひたるひたるいははは解解とけけけながらながらながらなどなどなどかかかつらゝつらゝつららのののむすぼゝるむすぼゝるむすぼおるらむらむらん」」」とととのたまへのたまへのたまえどどど、、、唯唯ただむゝむゝむむとととうちうちうち笑笑わらひひいててていといといと口口くち重重おもげげげなるなるなるもももいとほしけれいとほしけれいとおしければばば出出いででで給給たまひひいぬぬぬ。。。
現代語訳
やっと夜が明けた様子なので、源氏は格子を自分の手で上げなさって、前庭の植え込みの雪をご覧になる。踏み分けた跡もなく、はるばると荒れはてて、ひどく寂しそうなので、振り捨てて帰っていくのも気の毒で、「趣深い空の様子もご覧なさい。いつまでも隔てを置いていらっしゃるお心が困ったものです」とお恨み申し上げなさる。
まだほの暗いけれど、雪の光に、源氏はいっそう美しく若々しくお見えになるのを、老女房たちはにこにこして拝見する。「早くお出ましなさいませ。いけませんわ。素直なのがよろしいのです」などとお教え申し上げると、姫君はさすがに人の言うことを断れないご性分なので、あれこれと身づくろいをして、いざり出ていらっしゃった。源氏は見ないようにして、外の方を眺めていらっしゃるが、横目はただごとではない。
どうだろう、打ち解けて見たら見まさりするところが少しでもあったらうれしいのだがとお思いになるのも、無理なお心であることよ。まず座高が高く、胴長にお見えになるので、やはりそうかと胸がつぶれる思いがした。続いて、ああみっともないと見えるものは、お鼻だった。ふと目がとまる。普賢菩薩の乗り物(象)のようだと思われる。あきれるほど高く伸びていて、先の方が少し垂れて赤く色づいているのが、格別にいやな感じである。
顔色は雪も恥ずかしがるほど白くて青みがかり、額つきはたいそう広く、それでいて下ぶくれの顔立ちは、おおよそ、とんでもなく長いようだ。やせていらっしゃることは気の毒なほど骨ばって、肩のあたりなどは、痛々しいほどに着物の上からもわかる。どうしてすっかり見てしまったのだろうと思うものの、珍しい様子をしているので、さすがについ見てしまわれる。
頭の形や髪のかかり具合は、美しく、すばらしいと思い申し上げる方々にも、ほとんど劣らないほどで、袿の裾にたまって引かれているところは、一尺ほども余っているだろうと見える。お召しになっているものまで言い立てるのも、口が悪いようだが、昔物語にも、人のお召し物のことをまず言っているようだ。
薄紅色の、ひどく色あせて白っぽくなった一襲に、すっかり黒くなった袿を重ねて、上着には黒貂の皮衣の、たいそうきれいで香をたきしめたものを着ていらっしゃる。古風で由緒のある装束だが、やはり若い女性のお召し物としては似つかわしくなく、仰々しいことが、たいそう目立っている。けれども、本当にこの皮衣がなかったら寒いだろうと見えるお顔の様子を、源氏は気の毒にご覧になる。
源氏は何もおっしゃることができず、自分まで口が閉じてしまったような気がなさるが、いつもの沈黙も破ってみようと、あれこれ話しかけなさると、姫君はたいそう恥じらって、口元をおおっていらっしゃる様子までが田舎じみて古めかしく、大げさな儀式官が練り歩く時の肘の張り方のように思われて、それでもさすがにほほえんでいらっしゃる様子が、ちぐはぐで落ち着かない。源氏は気の毒で、かわいそうに思って、いっそう急いでお帰りになる。
「頼りになる人のいないご様子を、お見初めした私には、隔てなく親しくしてくださってこそ、本望だという気がするでしょうに、お許しのないご様子なので、つらい」などとかこつけて、「朝日のさす軒のつららは解けているのに、どうしてあなたの心のつららは結ばれたままなのでしょう」とおっしゃるが、姫君はただ「むむ」と笑って、たいそう口が重そうなのも気の毒なので、源氏はお出になった。
意訳
末摘花の巻で、もっとも有名な場面である。雪の朝、源氏は初めて姫君の顔をはっきりと見る。座高が高く胴長で、普賢菩薩の乗る象のように長い鼻の先が、赤く色づいている。
語り手は、姫君の容姿を遠慮なく描写し、古風な黒貂の皮衣まで言い立てる。それでも髪だけは美しいと公平に記している。源氏は気の毒に思いながらも、いたたまれず、早々に帰る。
語釈・文法注
- ゐだけ
- 居丈(いだけ)。座った時の背の高さ。座高。
- をせなが
- 「を背長」。胴長であること。
- 普賢ぼさちの乘物
- 普賢菩薩は白い象に乗った姿で描かれる。姫君の長い鼻を、象の鼻にたとえている。
- ゆるし色
- 聴(ゆる)し色。紅や紫の、色の薄いもの。誰でも着ることを許された色。
- ふるき
- 黒貂(ふるき)。クロテンの毛皮。古くは高級品だったが、この頃にはもう流行おくれになっていた。
文法
- 反実仮想「まし」(この皮なうては寒からまし)
- 「この皮衣がなかったら寒いだろう」。
- 推量の「らむ」(むすぼゝるらむ)
- 「どうして…結ばれたままなのだろう」と原因を推し量る。
和歌
朝日さす軒のたるひは解けながらなどかつらゝのむすぼゝるらむ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 雪の朝、何も言わない姫君に、帰りぎわに詠みかけた歌。朝日のさす軒のつららは解けているのに、どうしてあなたの心のつららは、固く結ばれたままなのでしょう。
修辞
- 比喩
- 打ち解けない姫君の心を、解けないつららにたとえる。「たるひ」も「つらゝ」も氷柱(つらら)のこと。
解説
末摘花の鼻の描写は、源氏物語の中でも異色の場面として知られる。理想的な美しさが描かれることの多い物語の中で、ここだけは容赦なく醜さが描写される。しかしその筆致には、どこかユーモアと、姫君への同情もこもっている。
「末摘花」とは紅花のことで、花の先を摘んで紅の染料にした。姫君の赤い鼻を「紅の花」にかけて、のちに源氏は「末摘花」と呼ぶ。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、130–131頁(コマ67)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日