源氏物語 第6帖 末摘花(5)
後朝の文
翌朝、頭中将が二条院を訪れ、朱雀院行幸の楽人や舞人を決める話をする。源氏は宮中で一日を過ごし、姫君への後朝の文を夕方になってやっと送る。姫君は返事に悩み、侍従が教えて歌を書かせるが、古びた紫の紙に、古風な書きぶりで書かれた返事に、源氏はがっかりする。その後、源氏は行幸の準備に追われ、秋も暮れていく。

- 1思思おもひひい亂亂みだれれれててておはするおはするおわするににに頭中將頭中將とうのちゅうじょうおはしおはしおわしててて、、、「「「こよなきこよなきこよなき御御おん朝朝あさいいいかなかなかな。。。故故ゆえあらあらあらむむんかしかしかしとととこそこそこそ思思おもひひい給給たまへへえらるれらるれらるれ」」」ととといへいへいえばばば、、、起起おきききあがりあがりあがり給給たまひひいててて、、、「「「心心こころ安安やすききき獨寢獨寢ひとりねののの床床とこにてにてにてゆるびゆるびゆるびにににけりけりけり。。。うちうちうちよりよりよりかかか」」」とととののの給給のたまへへえばばば
- 2「「「しかしかしか、、、まかでまかでまかで侍侍はべるるるまゝまゝままなりなりなり。。。朱雀院朱雀院すざくいんののの行幸行幸ぎょうこう今日今日きょうなむなむなんがくがくがく人人にんまひびとまひびとまいびとさだめさだめさだめらるらるらるべきべきべきよしよしよし承承うけたまわりりりしししをををおとゞおとゞおとどにににもももつたへつたへつたえ申申もうさささむむんとととてててなむなむなんまかでまかでまかで侍侍はべるるる。。。やがてやがてやがて歸歸かえりりり參參まいりりりぬぬぬべうべうびょう侍侍はべりりり」」」ととと忙忙いそがしげしげしげなれなれなればばば、、、
- 3「「「さらばさらばさらば諸共諸共もろともににに」」」とととててて御御おん粥粥かゆこはいひこはいひこわいいめしめしめしてててまらうどまらうどまろうどにににももも參參まいりりり給給たまひひいててて、、、引引ひききき續續つづけけけたれたれたれどどど一一ひとつつつににに奉奉たてまつりりりててて「「「猶猶なおいといといとねぶたげねぶたげねぶたげなりなりなり」」」ととと咎咎とがめめめ出出いでゝでゝでて「「「かくいかくいかくいたまふたまふたまうことことこと多多おおかりかりかり」」」とととぞぞぞ恨恨うらみみみ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 4事事ことどもどもども多多おおくくく定定さだめめめらるゝらるゝらるる日日ひにてにてにて、、、うちうちうちににに侍侍さぶらひひい暮暮くらししし給給たまひひいつつつ。。。かしこかしこかしこにににははは文文ふみをををだにだにだにととといとほしくいとほしくいとおしくおぼしおぼしおぼし出出いでゝでゝでて夕夕ゆうつつつ方方かたぞぞぞ有有ありりりけるけるける。。。雨雨あめ降降ふりりり出出いでゝでゝでて所所ところせくせくせくもももあるあるあるにににかさやどりかさやどりかさやどりせせせむむんとととはははたたたおぼさおぼさおぼされれれずずずやややありありありけむけむけん。。。
- 5かしこかしこかしこにににははは待待まつつつほどほどほど過過すぎぎぎててて、、、命婦命婦みょうぶもももいといといといとほしきいとほしきいとおしき御御おんさまさまさまかなかなかなととと心心こころ憂憂うくくく思思おもひひいけりけりけり。。。さうじみさうじみそうじみははは御心御心みこころのののうちうちうちにににはづかしうはづかしうはずかしゅう思思おもひひい續續つづけけけ給給たまひひいててて、、、今朝今朝けさののの御文御文ふみののの暮暮くれれれぬるぬるぬるもももとかうとかうとこうしもしもしもなかなかなかなかなかなか思思おもひひいわきわきわき給給たまははわざりざりざりけりけりけり。。。
- 6「「「夕霧夕霧ゆうぎりののの晴晴はるゝるゝるるけしきけしきけしきもももまだまだまだ見見みぬぬぬにににいぶせさいぶせさいぶせさそふるそふるそうるよひよひよいののの雨雨あめかなかなかな。。。雲間雲間くもま待待まちちち見見みむむんほどほどほどいかにいかにいかに心心こころもとなうもとなうもとのう」」」とととありありあり。。。
- 7おはしますおはしますおわしますまじきまじきまじき御御おんけしきけしきけしきををを人々人々びと胸胸むねつぶれつぶれつぶれててて思思おもへへえどどど、、、「「「猶猶なお聞聞きこえええさせさせさせ給給たまへへえ」」」とととそゝのかしそゝのかしそそのかしあへあへあえれれれどどど、、、いとゞいとゞいとど思思おもひひい亂亂みだれれれ給給たまへへえるるるほどほどほどにてにてにて、、、えええかたかたかたのののやうやうようにににももも續續つづけけけ給給たまははわねねねばばば、、、夜夜よ更更ふけけけぬぬぬとととててて侍從侍從じじゅうぞぞぞ例例れいののの敎敎おしへへへ聞聞きこゆるゆるゆる。。。
- 8「「「晴晴はれれれぬぬぬ夜夜よののの月月つき待待まつつつ里里さとをををおもひおもひおもいやれやれやれ同同おなじじじ心心こころにににながめながめながめせせせずずずともともとも」」」。。。
- 9くちぐちくちぐちくちぐちににに責責せめめめられられられててて紫紫むらさきののの紙紙かみののの、、、年年とし經經へにににけれけれければばばはひはひはいおくれおくれおくれふるめいふるめいふるめいたるたるたるににに、、、御手御手てはははさすがにさすがにさすがにもじもじもじつようつようつよう中中なかのののすぢすぢすじにてにてにてももも等等ひとしくしくしく書書かいいい給給たまへへえりりり。。。
- 10見見みるるるかひかひかいなうなうのううちうちうち置置おききき給給たまふふう。。。如何如何いかににに思思おもふふうらむらむらんととと思思おもひひいやるやるやるももも安安やすからからからずずず。。。かゝるかゝるかかることことことををを悔悔くやしやしやしなどなどなどはははいふいふいうにににやややあらあらあらむむん、、、さりとてさりとてさりとていかゞいかゞいかがはははせせせむむん、、、我我わさりともさりともさりとも心心こころ長長なごううう見見みはてゝはてゝはててむむんととと、、、おぼしおぼしおぼしなすなすなす御心御心みこころををを知知しらららねねねばばばかしこかしこかしこにににはははいみじういみじういみじゅうぞぞぞ嘆嘆なげいいい給給たまひひいけるけるける。。。
- 11おとゞおとゞおとど夜夜よににに入入いりりりてててまかでまかでまかで給給たまふふうにににひかひかひかれれれたてまつりたてまつりたてまつりててて、、、大殿大殿おおいとのにににおはしましおはしましおわしましぬぬぬ。。。行幸行幸ぎょうこうののの事事ことををを興興きようありとありとありとおもほしおもほしおもおしてててきんだちきんだちきんだち集集あつまりりりてててのたまひのたまひのたまいおのおのおのおのおのおの舞舞まいどもどもども習習ならひひい給給たまふふうををを、、、
- 12そのそのそのころころころのののことことことにてにてにて物物もののののねねねどもどもども常常つねよりよりよりももも耳耳みみかしがましくかしがましくかしがましくてててかたがたかたがたかたがたいどみいどみいどみつゝつゝつつ、、、例例れいののの御御おんあそびあそびあそびならならならずずず、、、、、、ののの笛笛ふえなどなどなどののの大聲大聲おおごえををを吹吹ふききき上上あげげげつゝつゝつつ、、、
- 13たいこたいこたいこをををさへさへさへ高欄高欄こうらんのののもともともとにににまろばしまろばしまろばし寄寄よせせせててて手手てづからづからずから打打うちちち鳴鳴ならししし遊遊あそびびびおはさうずおはさうずおわそうず。。。
- 14御御おん暇暇いとまなきなきなきやうやうようにてにてにてせちせちせちにににおぼすおぼすおぼす所所ところばかりばかりばかりにににこそこそこそぬすまぬすまぬすまはれはれはれ給給たまへへえ、、、かのかのかのわたりわたりわたりにににはははいといといと覺束覺束おぼつかなくなくなくててて秋秋あき暮暮くれれれはてはてはてぬぬぬ。。。なほなほなお賴賴たのみみみこしこしこしかひかひかいなくなくなくててて過過すぎぎぎゆくゆくゆく。。。
現代語訳
源氏が思い乱れていらっしゃるところに、頭中将がおいでになって、「たいそうな朝寝坊ですね。きっとわけがあるのだろうと思われます」と言うので、源氏は起き上がりなさって、「気楽な独り寝の床で、のんびりしてしまった。宮中からか」とおっしゃると、頭中将は「そうです。退出してきたところです。朱雀院の行幸の楽人や舞人が、今日決められるはずだとうかがいましたので、父大臣にもお伝え申し上げようと思って退出したのです。すぐに宮中に戻らなければなりません」と忙しそうなので、
源氏は「それでは、いっしょに」と言って、お粥や強飯を召し上がり、客人にも差し上げなさって、車を連ねたけれど、一つの車にお乗りになって、頭中将は「まだたいそう眠そうですね」と見とがめて、「隠していらっしゃることが多いですね」とお恨み申し上げなさる。いろいろなことを決める日だったので、源氏は宮中で一日を過ごしなさった。
あちらには、せめて手紙だけでもと、気の毒に思い出しなさって、夕方に手紙をお送りになった。雨が降り出して、外出もしにくいので、笠宿りをしようとはお思いにならなかったのだろうか。あちらでは、後朝の文を待つ時刻も過ぎて、命婦もたいそうお気の毒なことだと、情けなく思っていた。ご本人は、心の中で恥ずかしく思い続けていらっしゃって、今朝来るべき手紙が夕暮れになって来たのも、かえって何とも思い分けていらっしゃらないのだった。
「夕霧が晴れる様子もまだ見ないのに、うっとうしさを加える宵の雨ですね。雲間を待つ間、どんなにか心もとないことでしょう」とある。おいでになりそうもないご様子を、女房たちは胸がつぶれる思いで思っているが、「やはりご返事をなさいませ」と勧め合うけれど、姫君はいっそう思い乱れていらっしゃるところで、型どおりにも歌を続けられないので、夜が更けてしまうと言って、侍従がいつものようにお教え申し上げる。
「晴れない夜に月を待つ里のことを思いやってください。たとえ同じ心で眺めていらっしゃらなくても」。女房たちに口々に責められて、姫君は紫の紙で、年数がたったので色あせて古びたものに、筆跡はさすがに文字がしっかりとして、ひと昔前の書風で、行の上下もそろえてお書きになった。
源氏は見るかいもなく、手紙をうち置きなさる。姫君がどう思っているだろうと思いやるのも落ち着かない。こういうことを後悔などと言うのだろうか、それでもどうしようもない、自分はそれでも気長に最後まで世話をしようと、思い定めなさるお心を知らないので、あちらではひどく嘆いていらっしゃった。
大臣が夜になって宮中から退出なさるのに引かれ申し上げて、源氏は左大臣邸においでになった。大臣は行幸のことをおもしろいとお思いになって、ご子息たちが集まって話し合い、それぞれ舞などを習いなさるのを、そのころの常として、楽の音なども普段よりやかましく、方々で競い合って、いつもの管絃のお遊びではなく、大篳篥や尺八の笛などの大きな音を吹き上げては、太鼓まで高欄のもとに転がしてきて、自ら打ち鳴らして遊んでいらっしゃる。
源氏はお暇がないようで、どうしてもとお思いになる所にだけは時間を盗んでお出かけになるが、あの姫君のところには、たいそうご無沙汰のまま、秋も暮れてしまった。姫君は、やはり頼みにしてきたかいもなく過ぎていく。
意訳
逢瀬の翌朝、源氏は後朝の文をすぐに送らず、宮中で一日を過ごした後、夕方になってやっと送る。当時の作法では、後朝の文は翌朝すぐに送るもので、源氏の気の乗らなさがよくわかる。
姫君の返事は、侍従が教えた型どおりの歌を、古びた紫の紙に古風な書きぶりで書いたもので、源氏をがっかりさせる。それでも源氏は、見捨てずに世話をしようと思い定める。
語釈・文法注
- 中さだ
- 中ごろ。ひと昔前。古風な書きぶりをいう。
- かみち
- 上下(かみしも)。行の上と下。上下をきちんとそろえて書くのは、古風で堅苦しい書き方とされた。
- おほひちりき
- 大篳篥(おおひちりき)。大型の篳篥。
- さくはち
- 尺八(しゃくはち)。
文法
- 強意+推量の「てむ」(見はてゝむ)
- 「最後まで面倒を見よう」。強い意志を表す。
- 過去推量の「けむ」(おぼされずやありけむ)
- 語り手が「…お思いにならなかったのだろうか」と推し量る。
和歌
夕霧の晴るゝけしきもまだ見ぬにいぶせさそふるよひの雨かな
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 逢瀬の翌日の夕方、やっと送った後朝の文に書いた歌。夕霧が晴れる様子もまだ見ないのに、うっとうしさを加える宵の雨ですね。
修辞
- 掛詞
- 「晴るゝけしき」に、霧が晴れる様子と、姫君の心が打ち解ける様子を重ね、今夜は訪ねられないことをほのめかす。
晴れぬ夜の月待つ里をおもひやれ同じ心にながめせずとも
- 詠者
- 末摘花
- 状況
- 侍従に教えられて姫君が書いた返歌。晴れない夜に月(あなた)を待つ里のことを思いやってください。たとえあなたが同じ心で眺めていなくても。
修辞
- 比喩
- 源氏を「月」にたとえ、来てくれないのを恨む。侍従が考えた、型どおりの歌である。
解説
後朝の文が夕方になったことは、姫君の側から見れば、大きな屈辱である。女房たちが胸をつぶす様子に、当時の恋の作法の重みがうかがえる。
姫君の手紙の古びた紫の紙や、古風な書きぶりは、姫君が時代から取り残された人であることを象徴している。源氏はがっかりしながらも、「心長う見はてむ」と、責任をもって世話をしようと決める。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、126–129頁(コマ65–66)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日