源氏物語 第6帖 末摘花(4)
初めての逢瀬
八月二十日過ぎの夜、命婦の手引きで、源氏は襖越しに姫君と対面する。源氏がいくら語りかけても姫君は何も答えず、乳母子の侍従が姫君に代わって歌を返す。じれた源氏は襖を押し開けて入り、姫君と契りを結ぶが、姫君はただ恥ずかしがるばかりで、源氏は物足りない思いで夜深く帰る。

- 1八月八月はずき廿廿はつか餘日餘日あまり、、、よひよひよい過過すぐるぐるぐるまでまでまで待待またたたるゝるゝるる月月つきののの心心こころもとなきもとなきもとなきににに、、、星星ほしののの光光ひかりばかりばかりばかりさやけくさやけくさやけく松松まつののの梢梢こずえ吹吹ふくくく風風かぜのののおとおとおと心心こころ細細ぼそくくくててて、、、古古いにしえのののことことこと語語かたりりり出出いでゝでゝでて打打うちちち泣泣なきききなどなどなどししし給給たまふふう。。。
- 2いといといとよきよきよき折折おりかなかなかなととと思思おもひひいててて御御おんせうそこせうそこしょうそこややや聞聞きこえええつつつらむらむらん、、、例例れいのののいといといと忍忍しのびびびててておはしおはしおわしたりたりたり。。。月月つきやうやうやうやうようよう出出いでゝでゝでて荒荒あれれれたるたるたる籬籬まがきのののほどほどほど疎疎うとましくましくましく打打うちちち眺眺ながめめめ給給たまふふうににに、、、きんきんきん、、、そゝのかさそゝのかさそそのかされれれてててほのかほのかほのかににに搔搔かききき鳴鳴ならししし給給たまふふう程程ほどけしうけしうけしゅうはははあらあらあらずずず。。。
- 3少少すこししし今今いまめきめきめきたるたるたるけけけをををつけつけつけばやばやばやとととぞぞぞ亂亂みだれれれたるたるたる心心こころにににははは心心こころもとなくもとなくもとなく思思おもひひい居居いたるたるたる。。。人人ひとめめめしなきしなきしなき所所ところなれなれなればばば心心こころ安安やすくくく入入いりりり給給たまふふう。。。命婦命婦みょうぶををを呼呼よばばばせせせ給給たまふふう。。。
- 4今今いましもしもしも驚驚おどろききき顏顏がおににに、、、「「「いといといとかたはらいたきかたはらいたきかたわらいたきわざわざわざかなかなかな。。。しかじかしかじかしかじかこそこそこそおはしましおはしましおわしましたたたなれなれなれ。。。常常つねにににかうかうこう恨恨うらみみみ聞聞きこえええ給給たまふふうををを心心こころにににかなはかなはかなわぬぬぬよしよしよしをををのみのみのみ聞聞きこえええすまひすまひすまい侍侍はべれれればばば、、、みづからみづからみずからことわりことわりことわりもももきこえきこえきこえ知知しらせらせらせむむんとととのたまひのたまひのたまいわたるわたるわたるなりなりなりいかゞいかゞいかが聞聞きこえええ返返かえさささむむん。。。
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- 22さうじみさうじみそうじみははは唯唯ただ我我わにににもももあらあらあらずずず耻耻はずかしくしくしくつゝましきつゝましきつつましきよりよりより外外ほかののの事事こと又又またなけれなけれなければばば、、、今今いまはははかゝるかゝるかかるぞぞぞあはれあはれあわれなるなるなるかしかしかし、、、まだまだまだ世世よ馴馴なれれれぬぬぬ人人ひとのののうちうちうちかしづかかしづかかしずかれれれたるたるたるととと見見み許許ゆるししし給給たまふふうものものものからからから、、、心得心得こころえずずずなまなまなまいとほしいとほしいとおしととと覺覺おぼゆるゆるゆる御御おんさまさまさまなりなりなり。。。
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- 24二條院二條院にじょうのいんにににおはしおはしおわしてててうちうちうちふしふしふし給給たまひひいてててももも、、、猶猶なお思思おもふふうににに適適かなひひい難難がたききき世世よにににこそこそこそとととおぼしおぼしおぼし續續つづけけけててて、、、かるらかかるらかかるらかならならならぬぬぬ人人ひとののの御御おんほどほどほどををを心苦心苦こころぐるしししとととぞぞぞ覺覺おぼしししけるけるける。。。
現代語訳
八月二十日過ぎ、宵を過ぎるまで待たれる月の出がもどかしいのに、星の光だけがさやかで、松の梢を吹く風の音も心細くて、姫君は昔のことを語り出して泣いたりしていらっしゃる。たいそうよい機会だと思って、命婦が源氏にお便りを差し上げたのだろうか、源氏はいつものようにたいそう忍んでおいでになった。
月がだんだん出てきて、荒れた籬のあたりを気味悪く眺めていらっしゃると、姫君は、琴を勧められてかすかにかき鳴らしなさるのが、悪くはない。命婦は、もう少し当世風の趣を加えたらよいのにと、落ち着かない気持ちで心もとなく思っている。人目のない所なので、源氏は気楽にお入りになる。命婦をお呼ばせになる。
命婦は今はじめて知ったように驚いた顔で、「たいそう困ったことですわ。これこれの方がおいでになったそうです。いつもこうして恨み言を申し上げなさるのを、思うようにならないとばかりお断り申し上げておりましたので、ご自身で事情をお話ししたいと、ずっとおっしゃっていたのです。どうお断りいたしましょう。並みの軽々しいお振る舞いでもないので、お気の毒ですから、物越しにお話しなさって、お聞きなさいませ」と言うと、姫君はたいそう恥ずかしいと思って、「人とお話しする方法も知りませんのに」と言って、奥の方へいざってお入りになる様子が、たいそう初々しい。
命婦は笑って、「本当に子どもっぽくていらっしゃるのがお気の毒です。この上ない身分の方でも、親がお世話をし、後見をなさっている間こそ、子どもっぽくなさるのももっともですが、これほど心細いご境遇で、いつまでも世の中を遠慮なさっているのは、ふさわしくありません」とお教え申し上げる。さすがに人の言うことを強く拒めないご性分で、「お返事をしないで、ただ聞いていよというのなら、格子などを閉めておけばよいでしょう」とおっしゃる。
命婦は「簀子では不都合でございましょう。無理に押し入ったり、軽はずみなお振る舞いなどは、まさか」などと、たいそううまく言いくるめて、二間の境の襖を自分の手でたいそうしっかりと閉めて、源氏の御座布団を置いて整える。姫君はたいそう気恥ずかしそうにしていらっしゃるが、こうした方と話をする心得なども夢にもご存じなかったので、命婦がこう言うのを、そういうものなのだろうと思っていらっしゃる。
乳母のような年寄りの女房などは、部屋に入って横になって、夕方からうとうとしているころである。若い女房が二、三人いるのは、世間でもてはやされていらっしゃる源氏のご様子を見たいものだと思い申し上げて、胸をときめかせている。姫君にましな着物をお召し替えさせて身なりを整え申し上げると、ご本人は何の心づかいもなくていらっしゃる。
男君は、この上なく美しいお姿を目立たないようにして、心づかいをしていらっしゃる様子がたいそう優美で、命婦は、わかる人にこそ見せたいものだ、何の見ばえもしないような所なのに、ああお気の毒にと思うけれど、ただおっとりとしていらっしゃるのを安心なこととして、出すぎた様子はお見せ申し上げないだろうと思った。自分がいつも責められ申し上げている言い逃れに、気の毒な姫君の物思いの種ができるのではないかなどと、落ち着かない気持ちでいる。
源氏は、姫君のご身分をお考えになると、ふざけた当世風の気取りよりは、この上なく奥ゆかしいとお思いになっていたが、あれこれ勧められて、姫君がいざり寄っていらっしゃる気配がひそやかで、えびの香がたいそう慕わしく漂ってきて、おっとりとしているので、やはり思ったとおりだとお思いになる。長年思い続けてきた気持ちなどを、たいそう上手におっしゃり続けるけれど、まして近くでのお返事はまったくない。どうしようもないことだとため息をおつきになる。
「何度あなたの沈黙に負けたことでしょう。『物を言うな』とはおっしゃらないのを頼みにして。いっそ、きっぱりとおっしゃってください。玉だすきのように苦しい」とおっしゃる。女君の乳母の娘で、侍従という、たいそう気の早い若い女房が、たいそうじれったく、見ていられないと思って、姫君のそばに寄って申し上げる。
「鐘をついて話を打ち切るのは、さすがにできませんが、お答えしにくいのは、我ながらわけのわからないことです」と、若々しい声で、特に重々しくもない声を、人づてではないように申し上げると、源氏は、身分のわりには打ち解けた様子だとお聞きになるが、珍しいので、かえって口がふさがる思いだな、と思って、「言わないのは言うのにまさると知ってはいますが、黙っておられるのは苦しいものです」。何やかやと、たわいのないことだが、おもしろく、またまじめにもおっしゃるが、何のかいもない。
こうしているのも、普通とは違って、ほかに思う人がいらっしゃる方なのだろうかと、くやしくなって、源氏はそっと襖を押し開けてお入りになってしまった。命婦は、まあひどい、油断させておいてと、姫君がお気の毒なので、知らないふりをして自分の部屋へ行ってしまった。
ここの若い女房たちは、世に類のないご様子の評判に、罪も許し申し上げて、大げさに嘆くこともせず、ただ思いもよらず、急なことで、姫君にそのお心構えもないことを案じていた。ご本人は、ただ我を忘れて、恥ずかしく気がひけるよりほかのことはないので、源氏は、今はこういうのがかわいらしいのだ、まだ男女の仲に慣れない人で、大切に育てられてきたのだからと、大目に見なさるものの、合点がいかず、何となく気の毒に思われるご様子である。
何につけてお心がとまることがあろうか、源氏はため息をつかれて、夜深いうちにお帰りになった。命婦は、どうなっただろうと目をさまして、聞き耳を立てて横になっていたが、知っている顔をすまいと思って、お見送りにと咳払いもしない。源氏もそっと忍んでお帰りになった。二条院においでになって横になりなさっても、やはり思いどおりにいかない世の中だと思い続けなさって、軽々しくはない姫君のご身分を、お気の毒にお思いになった。
意訳
命婦の手引きで、源氏は襖越しに姫君と対面する。源氏がいくら語りかけても、姫君は一言も答えない。見かねた乳母子の侍従が、姫君に代わって歌を返す。
じれた源氏は襖を押し開けて入り、姫君と契りを結ぶ。しかし姫君は、ただ恥ずかしがるばかりで、源氏の心をひくものは何もない。源氏は、思いどおりにならない世の中だと嘆きながら帰る。
語釈・文法注
- えびのか
- 衣被香(えびこう)。衣にたきしめる香の一種。
- しゞま
- 無言の行(しじま)。黙っていること。法会で無言を守る行のことで、鐘を合図に始めたり終えたりした。
文法
- 禁止の「な…そ」(物ないひそ)
- 「物を言うな」。
- 推量の「らむ」(まけぬらむ)
- 「(何度)負けたことだろう」。
- 過去推量の「けむ」(聞えつらむ)
- 語り手が「…申し上げたのだろうか」と推し量る。
和歌
いくそたび君がしゞまにまけぬらむ物ないひそといはぬたのみに
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 何を言っても答えない姫君に、源氏が詠みかけた歌。何度あなたの沈黙に負けたことでしょう。「物を言うな」とは言われないことを頼みにして。
修辞
- 掛詞
- 「しゞま」は、無言の行。黙っていることに「負ける」という、言葉遊びの趣向。
鐘つきてとぢめむことはさすがにてこたへまうきぞかつはあやなき
- 詠者
- 侍従(姫君の代作)
- 状況
- 姫君に代わって、乳母子の侍従が姫君の言葉のように返した歌。鐘をついて「もう話すな」と打ち切るのは、さすがにできませんが、お答えしにくいのは、我ながらわけのわからないことです。
修辞
- 縁語
- 「鐘」「つき」「とぢめ」は、無言の行の終わりを告げる鐘の縁語。
いはぬをもいふにまさると知りながらおしこめたるは苦しかりけり
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 侍従の返歌を受けて、源氏が詠んだ歌。言わないのは言うのにまさると知ってはいますが、何もおっしゃらないのは、やはり苦しいものです。
修辞
- 本歌取り
- 「心には下行く水のわきかへり言はで思ふぞ言ふにまされる」(『古今六帖』)をふまえる。
解説
末摘花は、歌の返事どころか、ひと言も口をきかない。侍従が姫君の代わりに歌を詠む場面は、姫君に和歌の教養がないことを示すとともに、侍従の機転を描いている。
源氏が襖を押し開けて入る場面は、空蝉の巻と似ているが、結果はまったく違う。空蝉は源氏を拒み通したが、末摘花はただ恥ずかしがるばかりで、拒むことも受け入れることもできない。源氏の期待は大きく裏切られる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、124–127頁(コマ64–65)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日