古典ライブラリー

源氏物語 第6帖 末摘花(4)

初めての逢瀬

登場人物:光源氏・末摘花・大輔の命婦・侍従

八月二十日過ぎの夜、命婦の手引きで、源氏は襖越しに姫君と対面する。源氏がいくら語りかけても姫君は何も答えず、乳母子の侍従が姫君に代わって歌を返す。じれた源氏は襖を押し開けて入り、姫君と契りを結ぶが、姫君はただ恥ずかしがるばかりで、源氏は物足りない思いで夜深く帰る。

月の昇る秋の夜、荒れた邸の襖越しに、奥にうずくまる姫君へ語りかける貴公子と、そばで気をもむ若い女房の場面(AI生成)
月の昇る秋の夜、荒れた邸の襖越しに、奥にうずくまる姫君へ語りかける貴公子と、そばで気をもむ若い女房の場面
  1. 1八月はづき八月はづきはずき廿はつか廿はつかはつか餘日あまり餘日あまりあまり、、、よひよひよい過す過すすぐるぐるぐるまでまでまで待ま待ままたたたるゝるゝるる月つき月つきつきののの心こころ心こころこころもとなきもとなきもとなきににに、、、星ほし星ほしほしののの光ひかり光ひかりひかりばかりばかりばかりさやけくさやけくさやけく松まつ松まつまつののの梢こずゑ梢こずゑこずえ吹ふ吹ふふくくく風かぜ風かぜかぜのののおとおとおと心こころ心こころこころ細ぼそ細ぼそぼそくくくててて、、、古いにしへ古いにしへいにしえのののことことこと語かた語かたかたりりり出い出いいでゝでゝでて打う打ううちちち泣な泣ななきききなどなどなどししし給たま給たまたまふふう。。。
  2. 2いといといとよきよきよき折をり折をりおりかなかなかなととと思おも思おもおもひひいててて御おん御おんおんせうそこせうそこしょうそこややや聞きこ聞きこきこえええつつつらむらむらん、、、例れい例れいれいのののいといといと忍しの忍しのしのびびびててておはしおはしおわしたりたりたり。。。月つき月つきつきやうやうやうやうようよう出い出いいでゝでゝでて荒あ荒ああれれれたるたるたる籬まがき籬まがきまがきのののほどほどほど疎うと疎うとうとましくましくましく打う打ううちちち眺なが眺ながながめめめ給たま給たまたまふふうににに、、、きんきんきん、、、そゝのかさそゝのかさそそのかされれれてててほのかほのかほのかににに搔か搔かかききき鳴なら鳴ならならししし給たま給たまたまふふう程ほど程ほどほどけしうけしうけしゅうはははあらあらあらずずず。。。
  3. 3少すこ少すこすこししし今いま今いまいまめきめきめきたるたるたるけけけをををつけつけつけばやばやばやとととぞぞぞ亂みだ亂みだみだれれれたるたるたる心こころ心こころこころにににははは心こころ心こころこころもとなくもとなくもとなく思おも思おもおもひひい居ゐ居ゐいたるたるたる。。。人ひと人ひとひとめめめしなきしなきしなき所ところ所ところところなれなれなればばば心こころ心こころこころ安やす安やすやすくくく入い入いいりりり給たま給たまたまふふう。。。命婦みやうぶ命婦みやうぶみょうぶををを呼よ呼よよばばばせせせ給たま給たまたまふふう。。。
  4. 4今いま今いまいましもしもしも驚おどろ驚おどろおどろききき顏がほ顏がほがおににに、、、「「「いといといとかたはらいたきかたはらいたきかたわらいたきわざわざわざかなかなかな。。。しかじかしかじかしかじかこそこそこそおはしましおはしましおわしましたたたなれなれなれ。。。常つね常つねつねにににかうかうこう恨うら恨うらうらみみみ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうををを心こころ心こころこころにににかなはかなはかなわぬぬぬよしよしよしをををのみのみのみ聞きこ聞きこきこえええすまひすまひすまい侍はべ侍はべはべれれればばば、、、みづからみづからみずからことわりことわりことわりもももきこえきこえきこえ知し知ししらせらせらせむむんとととのたまひのたまひのたまいわたるわたるわたるなりなりなりいかゞいかゞいかが聞きこ聞きこきこえええ返かへ返かへかえさささむむん。。。
  5. 5なみなみなみなみなみなみのののたはやすきたはやすきたわやすき御おん御おんおんふるまひふるまひふるまいならならならねねねばばば心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしきしきしきををを物もの物ものものごしごしごしにてにてにて聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまははわむむんととと聞きこ聞きこきこしししめせめせめせ」」」ととといへいへいえばばば、、、いといといとはづかしはづかしはずかしととと思おも思おもおもひひいててて、、、「「「人ひと人ひとひとににに物もの物ものもの聞きこ聞きこきこえええむむんやうやうようももも知し知ししらららぬぬぬををを」」」とととててて奧おく奧おくおくざまざまざまへへへゐざりゐざりいざり入い入いいりりり給たま給たまたまふふうさまさまさまいといといとうひうひしげうひうひしげういういしげなりなりなり。。。
  6. 6うちうちうち笑わら笑わらわらひひいててて、、、「「「いといといとわかわかしうわかわかしうわかわかしゅうおはしますおはしますおわしますこそこそこそ心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしけれしけれしけれかぎりかぎりかぎりなきなきなき人ひと人ひとひとももも親おや親おやおやのののあつかひあつかひあつかい後見うしろみ後見うしろみうしろみ聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまふふうほどほどほどこそこそこそ若わか若わかわかびびび給たま給たまたまふふうもももことわりことわりことわりなれなれなれ。。。かばかりかばかりかばかり心こころ心こころこころぼそきぼそきぼそき御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまににになほなほなお世よ世よよをををつきせつきせつきせずずず覺おぼ覺おぼおぼししし憚はばか憚はばかはばかるるるはははつきなうつきなうつきのうこそこそこそ」」」ととと敎をし敎をしおしへへへ聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。
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  8. 8「「「簀子すのこ簀子すのこすのこなどなどなどはははびんなうびんなうびんのう侍はべ侍はべはべりりりなななむむん。。。おしおしおし立た立たたちちちてててあはあはしきあはあはしきあわあわしき御おん御おんおんふるまひふるまひふるまいなどなどなどはははよもよもよも」」」などなどなどいといといとよくよくよくいひいひいいなしなしなしててて、、、二ふた二ふたふたまままのののきはきはきわなるなるなるさうじさうじそうじ手て手ててづからづからずからいといといと强つよ强つよつよくくくさしさしさしててて御おん御おんおんしとねしとねしとねうちうちうち置お置おおきききひきひきひきつくろふつくろふつくろう。。。
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  10. 10めのとめのとめのとだつだつだつおいおいおい人びと人びとびとなどなどなどはははざうしざうしぞうしににに入い入いいりりり臥ふ臥ふふしししててて夕ゆふ夕ゆふゆう惑まど惑まどまどひひいしししたるたるたるほどほどほどなりなりなり。。。若わか若わかわかききき人ひと人ひとひと二三人ふたりみたり二三人ふたりみたりふたりみたりあるあるあるははは世よ世よよにににめでめでめでられられられ給たま給たまたまふふう御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまをををゆかしきゆかしきゆかしきものものものににに思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええててて心こころ心こころこころげさうげさうげそうしししあへあへあえりりり。。。
  11. 11宜よろ宜よろよろしきしきしき御おん御おんおんぞぞぞ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりかへかへかえつくろひつくろひつくろい聞きこ聞きこきこゆれゆれゆればばば、、、さうじみさうじみそうじみははは何なに何なになにののの心こころ心こころこころげさうげさうげそうもももなくなくなくててておはすおはすおわす。。。
  12. 12男をとこ男をとこおとこはははいといといとつきせつきせつきせぬぬぬ御おん御おんおんさまさまさまをををうちうちうち忍しの忍しのしのびびび用意ようい用意よういよういししし給たま給たまたまへへえるるる御おん御おんおんけはひけはひけわいいみじういみじういみじゅうなまめきなまめきなまめきててて、、、見み見みみ知し知ししらららむむん人ひと人ひとひとにににこそこそこそ見み見みみせせせめめめ。。。何なに何なになにのののはえはえはえあるあるあるまじきまじきまじきわたりわたりわたりををを、、、あなあなあないとほしいとほしいとおしととと命婦みやうぶ命婦みやうぶみょうぶははは思おも思おもおもへへえどどど、、、唯ただ唯ただただおほどかおほどかおおどかににに物もの物ものものししし給たま給たまたまふふうをををぞぞぞうしろやすううしろやすううしろやすう、、、さしさしさし過す過すすぎぎぎたるたるたる事こと事ことことははは見み見みみえええ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり給たま給たまたまははわじじじととと思おも思おもおもひひいけるけるける。。。
  13. 13我わ我わわががが常つね常つねつねににに責せ責せせめめめられられられ奉たてまつ奉たてまつたてまつるるるつみつみつみさりごとさりごとさりごとににに、、、心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしきしきしき人ひと人ひとひとののの御おん御おんおん物思ものおも物思ものおもものおもひひいややや出い出いいでででこここむむんなどなどなど安やす安やすやすからからからずずず思おも思おもおもひひい居ゐ居ゐいたりたりたり。。。
  14. 14君きみ君きみきみははは人ひと人ひとひとののの御おん御おんおん程ほど程ほどほどをををおぼせおぼせおぼせばばばざれざれざれくつがへるくつがへるくつがえる今いま今いまいまやうやうようのののよしばみよしばみよしばみよりよりよりはははこよなうこよなうこよのう奧おく奧おくおくゆかしゆかしゆかしとととおぼしおぼしおぼしわたるわたるわたるににに、、、とかうとかうとこうそゝのかさそゝのかさそそのかされれれてててゐざりゐざりいざり寄よ寄よよりりり給たま給たまたまへへえるるるけはひけはひけわい忍しの忍しのしのびやかびやかびやかにににいといといとなつかしうなつかしうなつかしゅう薰かを薰かをかおりりり出い出いいでゝでゝでておほどかおほどかおおどかなるなるなるををを、、、さればよさればよさればよとととおぼさおぼさおぼさるるる。。。
  15. 15年とし年としとしごろごろごろ思おも思おもおもひひいわたるわたるわたるさまさまさまなどなどなどいといといとよくよくよくのたまひのたまひのたまい續つづ續つづつづくれくれくれどどど、、、ましてましてまして近ちか近ちかちかききき御おん御おんおんいらへいらへいらえははは絕た絕たたえええてててなしなしなし。。。わりなわりなわりなのののわざわざわざやややとととうちうちうち歎なげ歎なげなげききき給たま給たまたまふふう。。。
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  17. 17女君をんなぎみ女君をんなぎみおんなぎみののの御おん御おんおんめのとごめのとごめのとご侍從じじゆう侍從じじゆうじじゅうとととててていといといとはやりかはやりかはやりかなるなるなるわかうどわかうどわこうど、、、いといといと心こころ心こころこころもとなうもとなうもとのうかたはらかたはらかたわら痛いた痛いたいたしししととと思おも思おもおもひひいててて、、、さしさしさし寄よ寄よよりりりててて聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。
  18. 18「「「鐘かね鐘かねかねつきつきつきてててとぢめとぢめとじめむむんことことことはははさすがにさすがにさすがにてててこたへこたへこたえまうきまうきもうきぞぞぞかつかつかつはははあやなきあやなきあやなき」」」とととわかびわかびわかびたるたるたる聲こゑ聲こゑこえのののことことことにににおもりかおもりかおもりかならならならぬぬぬををを人ひと人ひとひとづてづてづてにににはははあらあらあらぬぬぬやうやうようににに聞きこ聞きこきこえええなせなせなせばばば、、、ほどほどほどよりよりよりはははあまえあまえあまえてててととと聞き聞ききききき給たま給たまたまへへえどどど、、、めづらしきめづらしきめずらしきににになかなかなかなかなかなか口くち口くちくちぶたがるぶたがるぶたがるわざわざわざかなかなかな。。。
  19. 19「「「いはいはいわぬぬぬをををもももいふいふいうにににまさるまさるまさるととと知し知ししりりりながらながらながらおしおしおしこめこめこめたるたるたるははは苦くる苦くるくるしかりしかりしかりけりけりけり」」」。。。何なに何なになにやややかやかやかやとととはかなきはかなきはかなきことことことなれなれなれどどどをかしきをかしきおかしきさまさまさまにににもももまめやかまめやかまめやかにににももものたまへのたまへのたまえどどど、、、何なに何なになにのののかひかひかいなしなしなし。。。
  20. 20いといといとかゝるかゝるかかるもももさまさまさまかへかへかへででで思おも思おもおもふふうかたかたかたことことことににに物もの物ものものししし給たま給たまたまふふう人ひと人ひとひとにににやややととと、、、妬ねた妬ねたねたくくくてててやをらやをらやおら押お押おおしししあけあけあけててて入い入いいりりり給たま給たまたまひひいにににけりけりけり。。。命婦みやうぶ命婦みやうぶみょうぶ、、、あなあなあなうたてうたてうたてたゆめたゆめたゆめ給たま給たまたまへへえるるるととといとほしけれいとほしけれいとおしければばば、、、知し知ししらららずずず顏がほ顏がほがおにてにてにて我わ我わわががが方かた方かたかたへへへいにいにいにけりけりけり。。。
  21. 21このこのこの若わか若わかわかうどうどうどゞもゞもどもはははたたた、、、世よ世よよににに類たぐひ類たぐひたぐいなきなきなき御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまののの音おと音おとおとぎゝぎゝぎきににに罪つみ罪つみつみ許ゆる許ゆるゆるししし聞きこ聞きこきこえええててておどろおどろしうおどろおどろしうおどろおどろしゅうももも嘆なげ嘆なげなげかかかれれれずずず、、、唯ただ唯ただただ思おも思おもおもひひいもももよらよらよらずずず俄にはか俄にはかにわかにてにてにてさるさるさる御心みこころ御心みこころみこころもももなきなきなきをををぞぞぞ思おも思おもおもひひいけるけるける。。。
  22. 22さうじみさうじみそうじみははは唯ただ唯ただただ我わ我わわにににもももあらあらあらずずず耻はづか耻はづかはずかしくしくしくつゝましきつゝましきつつましきよりよりより外ほか外ほかほかののの事こと事ことこと又また又またまたなけれなけれなければばば、、、今いま今いまいまはははかゝるかゝるかかるぞぞぞあはれあはれあわれなるなるなるかしかしかし、、、まだまだまだ世よ世よよ馴な馴ななれれれぬぬぬ人ひと人ひとひとのののうちうちうちかしづかかしづかかしずかれれれたるたるたるととと見み見みみ許ゆる許ゆるゆるししし給たま給たまたまふふうものものものからからから、、、心得こころえ心得こころえこころえずずずなまなまなまいとほしいとほしいとおしととと覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆる御おん御おんおんさまさまさまなりなりなり。。。
  23. 23何事なにごと何事なにごとなにごとにににつけつけつけてててかかかははは御心みこころ御心みこころみこころのののとまらとまらとまらむむん、、、うちうちうちうめかうめかうめかれれれててて夜よ夜よよふかうふかうふこう出い出いいででで給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。命婦みやうぶ命婦みやうぶみょうぶははは、、、いかならいかならいかならむむんととと目め目めめ覺ざ覺ざざめめめててて聞き聞ききききき臥ふ臥ふふせせせりりりけれけれけれどどど、、、知し知ししりりりがほがほがおならならならじじじとととててて御おん御おんおん送おくり送おくりおくりにににともともともこわづくらこわづくらこわづくらずずず、、、君きみ君きみきみもももやをらやをらやおら忍しの忍しのしのびびびててて出い出いいででで給たま給たまたまひひいにににけりけりけり。。。
  24. 24二條院にでうのゐん二條院にでうのゐんにじょうのいんにににおはしおはしおわしてててうちうちうちふしふしふし給たま給たまたまひひいてててももも、、、猶なほ猶なほなお思おも思おもおもふふうににに適かな適かなかなひひい難がた難がたがたききき世よ世よよにににこそこそこそとととおぼしおぼしおぼし續つづ續つづつづけけけててて、、、かるらかかるらかかるらかならならならぬぬぬ人ひと人ひとひとののの御おん御おんおんほどほどほどををを心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしししとととぞぞぞ覺おぼ覺おぼおぼしししけるけるける。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

八月二十日過ぎ、宵を過ぎるまで待たれる月の出がもどかしいのに、星の光だけがさやかで、松の梢を吹く風の音も心細くて、姫君は昔のことを語り出して泣いたりしていらっしゃる。たいそうよい機会だと思って、命婦が源氏にお便りを差し上げたのだろうか、源氏はいつものようにたいそう忍んでおいでになった。

月がだんだん出てきて、荒れた籬のあたりを気味悪く眺めていらっしゃると、姫君は、琴を勧められてかすかにかき鳴らしなさるのが、悪くはない。命婦は、もう少し当世風の趣を加えたらよいのにと、落ち着かない気持ちで心もとなく思っている。人目のない所なので、源氏は気楽にお入りになる。命婦をお呼ばせになる。

命婦は今はじめて知ったように驚いた顔で、「たいそう困ったことですわ。これこれの方がおいでになったそうです。いつもこうして恨み言を申し上げなさるのを、思うようにならないとばかりお断り申し上げておりましたので、ご自身で事情をお話ししたいと、ずっとおっしゃっていたのです。どうお断りいたしましょう。並みの軽々しいお振る舞いでもないので、お気の毒ですから、物越しにお話しなさって、お聞きなさいませ」と言うと、姫君はたいそう恥ずかしいと思って、「人とお話しする方法も知りませんのに」と言って、奥の方へいざってお入りになる様子が、たいそう初々しい。

命婦は笑って、「本当に子どもっぽくていらっしゃるのがお気の毒です。この上ない身分の方でも、親がお世話をし、後見をなさっている間こそ、子どもっぽくなさるのももっともですが、これほど心細いご境遇で、いつまでも世の中を遠慮なさっているのは、ふさわしくありません」とお教え申し上げる。さすがに人の言うことを強く拒めないご性分で、「お返事をしないで、ただ聞いていよというのなら、格子などを閉めておけばよいでしょう」とおっしゃる。

命婦は「簀子では不都合でございましょう。無理に押し入ったり、軽はずみなお振る舞いなどは、まさか」などと、たいそううまく言いくるめて、二間の境の襖を自分の手でたいそうしっかりと閉めて、源氏の御座布団を置いて整える。姫君はたいそう気恥ずかしそうにしていらっしゃるが、こうした方と話をする心得なども夢にもご存じなかったので、命婦がこう言うのを、そういうものなのだろうと思っていらっしゃる。

乳母のような年寄りの女房などは、部屋に入って横になって、夕方からうとうとしているころである。若い女房が二、三人いるのは、世間でもてはやされていらっしゃる源氏のご様子を見たいものだと思い申し上げて、胸をときめかせている。姫君にましな着物をお召し替えさせて身なりを整え申し上げると、ご本人は何の心づかいもなくていらっしゃる。

男君は、この上なく美しいお姿を目立たないようにして、心づかいをしていらっしゃる様子がたいそう優美で、命婦は、わかる人にこそ見せたいものだ、何の見ばえもしないような所なのに、ああお気の毒にと思うけれど、ただおっとりとしていらっしゃるのを安心なこととして、出すぎた様子はお見せ申し上げないだろうと思った。自分がいつも責められ申し上げている言い逃れに、気の毒な姫君の物思いの種ができるのではないかなどと、落ち着かない気持ちでいる。

源氏は、姫君のご身分をお考えになると、ふざけた当世風の気取りよりは、この上なく奥ゆかしいとお思いになっていたが、あれこれ勧められて、姫君がいざり寄っていらっしゃる気配がひそやかで、えびの香がたいそう慕わしく漂ってきて、おっとりとしているので、やはり思ったとおりだとお思いになる。長年思い続けてきた気持ちなどを、たいそう上手におっしゃり続けるけれど、まして近くでのお返事はまったくない。どうしようもないことだとため息をおつきになる。

「何度あなたの沈黙に負けたことでしょう。『物を言うな』とはおっしゃらないのを頼みにして。いっそ、きっぱりとおっしゃってください。玉だすきのように苦しい」とおっしゃる。女君の乳母の娘で、侍従という、たいそう気の早い若い女房が、たいそうじれったく、見ていられないと思って、姫君のそばに寄って申し上げる。

「鐘をついて話を打ち切るのは、さすがにできませんが、お答えしにくいのは、我ながらわけのわからないことです」と、若々しい声で、特に重々しくもない声を、人づてではないように申し上げると、源氏は、身分のわりには打ち解けた様子だとお聞きになるが、珍しいので、かえって口がふさがる思いだな、と思って、「言わないのは言うのにまさると知ってはいますが、黙っておられるのは苦しいものです」。何やかやと、たわいのないことだが、おもしろく、またまじめにもおっしゃるが、何のかいもない。

こうしているのも、普通とは違って、ほかに思う人がいらっしゃる方なのだろうかと、くやしくなって、源氏はそっと襖を押し開けてお入りになってしまった。命婦は、まあひどい、油断させておいてと、姫君がお気の毒なので、知らないふりをして自分の部屋へ行ってしまった。

ここの若い女房たちは、世に類のないご様子の評判に、罪も許し申し上げて、大げさに嘆くこともせず、ただ思いもよらず、急なことで、姫君にそのお心構えもないことを案じていた。ご本人は、ただ我を忘れて、恥ずかしく気がひけるよりほかのことはないので、源氏は、今はこういうのがかわいらしいのだ、まだ男女の仲に慣れない人で、大切に育てられてきたのだからと、大目に見なさるものの、合点がいかず、何となく気の毒に思われるご様子である。

何につけてお心がとまることがあろうか、源氏はため息をつかれて、夜深いうちにお帰りになった。命婦は、どうなっただろうと目をさまして、聞き耳を立てて横になっていたが、知っている顔をすまいと思って、お見送りにと咳払いもしない。源氏もそっと忍んでお帰りになった。二条院においでになって横になりなさっても、やはり思いどおりにいかない世の中だと思い続けなさって、軽々しくはない姫君のご身分を、お気の毒にお思いになった。

意訳

命婦の手引きで、源氏は襖越しに姫君と対面する。源氏がいくら語りかけても、姫君は一言も答えない。見かねた乳母子の侍従が、姫君に代わって歌を返す。

じれた源氏は襖を押し開けて入り、姫君と契りを結ぶ。しかし姫君は、ただ恥ずかしがるばかりで、源氏の心をひくものは何もない。源氏は、思いどおりにならない世の中だと嘆きながら帰る。

語釈・文法注

えびのか
衣被香(えびこう)。衣にたきしめる香の一種。
しゞま
無言の行(しじま)。黙っていること。法会で無言を守る行のことで、鐘を合図に始めたり終えたりした。

文法

禁止の「な…そ」(物ないひそ)
「物を言うな」。
推量の「らむ」(まけぬらむ)
「(何度)負けたことだろう」。
過去推量の「けむ」(聞えつらむ)
語り手が「…申し上げたのだろうか」と推し量る。

和歌

いくそたび君がしゞまにまけぬらむ物ないひそといはぬたのみに

詠者
光源氏
状況
何を言っても答えない姫君に、源氏が詠みかけた歌。何度あなたの沈黙に負けたことでしょう。「物を言うな」とは言われないことを頼みにして。

修辞

掛詞
「しゞま」は、無言の行。黙っていることに「負ける」という、言葉遊びの趣向。

鐘つきてとぢめむことはさすがにてこたへまうきぞかつはあやなき

詠者
侍従(姫君の代作)
状況
姫君に代わって、乳母子の侍従が姫君の言葉のように返した歌。鐘をついて「もう話すな」と打ち切るのは、さすがにできませんが、お答えしにくいのは、我ながらわけのわからないことです。

修辞

縁語
「鐘」「つき」「とぢめ」は、無言の行の終わりを告げる鐘の縁語。

いはぬをもいふにまさると知りながらおしこめたるは苦しかりけり

詠者
光源氏
状況
侍従の返歌を受けて、源氏が詠んだ歌。言わないのは言うのにまさると知ってはいますが、何もおっしゃらないのは、やはり苦しいものです。

修辞

本歌取り
「心には下行く水のわきかへり言はで思ふぞ言ふにまされる」(『古今六帖』)をふまえる。

解説

末摘花は、歌の返事どころか、ひと言も口をきかない。侍従が姫君の代わりに歌を詠む場面は、姫君に和歌の教養がないことを示すとともに、侍従の機転を描いている。

源氏が襖を押し開けて入る場面は、空蝉の巻と似ているが、結果はまったく違う。空蝉は源氏を拒み通したが、末摘花はただ恥ずかしがるばかりで、拒むことも受け入れることもできない。源氏の期待は大きく裏切られる。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、124–127頁(コマ64–65)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日