源氏物語 第6帖 末摘花(3)
頭中将との張り合い
頭中将も姫君に手紙を送るが、源氏にも頭中将にも返事は来ない。頭中将は、自分には返事がないと源氏に打ち明け、源氏は内心おかしく思う。源氏は、口のうまい頭中将の方に姫君がなびくのではないかと気になり、命婦に仲立ちを頼む。春夏が過ぎ、秋になっても姫君からの返事はなく、源氏は意地になって命婦を責める。命婦は、物越しに会わせるくらいならと考えはじめる。

- 1君君きみたちたちたちはははありありありつるつるつるきんきんきんのののねねねををを覺覺おぼししし出出いでゝでゝでて、、、哀哀あわれげげげなりなりなりつるつるつるすまひすまひすまいのののさまさまさまなどなどなどもももやうやうようかへかへかへてててをかしうをかしうおかしゅう思思おもひひい續續つづけけけ、、、
- 2あらましごとあらましごとあらましごとにににいといといとをかしうをかしうおかしゅうらうたきらうたきろうたき人人ひとのののさてさてさて年月年月としつきををを重重かさねねね居居いたらたらたらむむん時時とき見見みそめそめそめててていみじういみじういみじゅう心苦心苦こころぐるしくしくしくばばば人人ひとにににももももてもてもてさわがさわがさわがるるるばかりばかりばかりややや我我わががが心心こころもももさまさまさまあしからあしからあしからむむんなどなどなどさへさへさへ中將中將ちゅうじょうははは思思おもひひいけりけりけり。。。
- 3このこのこの君君きみのののかうかうこう氣色氣色けしきばみばみばみありきありきありき給給たまふふうををを、、、まさにまさにまさにさてさてさてはははすぐしすぐしすぐし給給たまひひいてててむむんやややとととなまなまなまねたうねたうねとう危危あやうがりがりがりけりけりけり。。。そのそのその後後のち此方此方こなたかなたかなたかなたよりよりより文文ふみなどなどなど遣遣やりりり給給たまふふうべしべしべし。。。
- 4いづれいづれいずれもももいづれいづれいずれももも返事返事かえりごと見見みえええずずず覺束覺束おぼつかなくなくなく心心こころやましきやましきやましきににに、、、あまりあまりあまりうたてうたてうたてもももあるあるあるかなかなかな、、、さやうさやうさようなるなるなるすまひすまひすまいするするする人人ひとははは、、、物物もの思思おもひひい知知しりりりたるたるたるけしきけしきけしき、、、はかなきはかなきはかなき木草木草きくさ空空そらののの氣色氣色けしきにににつけつけつけてててもももとりなしとりなしとりなしなどなどなどしししててて心心こころばせばせばせ推推おししし量量はからららるゝるゝるる折々折々おりおりあらあらあらむむんこそこそこそ哀哀あわれなるなるなるべけれべけれべけれ、、、
- 5重重おもしししとととてててもももいといといとかうかうこうあまりあまりあまりうもれうもれうもれたらたらたらむむんははは心心こころづきなくづきなくづきなくわろびわろびわろびたりたりたりととと中將中將ちゅうじょうはははまいてまいてまいて心心こころいられいられいられしししけりけりけり。。。
- 6例例れいのののへだてへだてへだて聞聞きこえええ給給たまははわぬぬぬ心心こころにてにてにて、、、「「「しかじかしかじかしかじかののの返事返事かえりごとははは見見み給給たまふふうややや。。。試試こころみにににかすめかすめかすめたりたりたりしししこそこそこそはしたなくはしたなくはしたなくててて止止やみみみにににしかしかしか」」」ととと憂憂うれふれふれうればばば、、、
- 7さればよさればよさればよ、、、ひよりひよりひよりにににけるけるけるをををやややとととほゝゑまほゝゑまほほえまれれれててて、、、「「「いさいさいさ、、、見見みむむんとととしもしもしも思思おもははわねねねばばばにににややや見見みるるるとととしもしもしもなしなしなし」」」ととといらへいらへいらえ給給たまふふうををを、、、人人ひとわきわきわきしししけるけるけるととと妬妬ねとううう思思おもふふう。。。
- 8君君きみははは深深ふこうううしもしもしも思思おもははわぬぬぬことことことのののかうかうこう情情なさけなきなきなきをををすさまじくすさまじくすさまじく思思おもひひいなりなりなり給給たまひひいにににしかしかしかどどど、、、かうかうこうこのこのこの中將中將ちゅうじょうのののいひいひいいありきありきありきけるけるけるををを、、、ことことこと多多おおくくくいひいひいいなれなれなれたらたらたらむむん方方かたにににぞぞぞ靡靡なびかかかむむんかしかしかし。。。
- 9したりしたりしたり顏顏がおにてにてにてもともともとのののことことことををを思思おもひひい放放はなちちちたらたらたらむむん氣色氣色けしきこそこそこそうれはしかるうれはしかるうれわしかるべけれべけれべけれとととおぼしおぼしおぼしててて、、、命婦命婦みょうぶをををまめやかまめやかまめやかににに語語かたらひらひらい給給たまふふう。。。
- 10「「「おぼつかなくおぼつかなくおぼつかなくもてもてもてはなれはなれはなれたるたるたる御御おん氣色氣色けしきなむなむなんいといといと心心こころ憂憂うききき。。。すきずきしきすきずきしきすきずきしき方方かたににに疑疑うたがひひいよせよせよせ給給たまふふうにににこそこそこそあらあらあらめめめ。。。さりともさりともさりとも短短みじかききき心心こころはははえええつかはつかはつかわぬぬぬものものものををを、、、人人ひとののの心心こころののののどやかのどやかのどやかなるなるなることことことなくなくなくててて思思おもははわずずずにににのみのみのみあるあるあるににになむなむなんおのづからおのづからおのずから我我わががが過過あやまちちちにににもももなりなりなりぬぬぬべきべきべき。。。
- 11心心こころのどかのどかのどかにてにてにて、、、親親おやはらからはらからはらからのののもてもてもてあつかひあつかひあつかい恨恨うらむるむるむるももも無無のううう心心こころ安安やすからからからむむん人人ひとはははなかなかなかなかなかなかなむなむなんらうたかるらうたかるろうたかるべきべきべきををを」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、
- 12「「「いでやいでやいでや、、、さやうさやうさようにににをかしきをかしきおかしき方方かたののの御御おんにににはははえええしもしもしもやややととと、、、つきなげつきなげつきなげにににこそこそこそ見見みえええ侍侍はべれれれ。。。偏偏ひとえににに物物ものづゝみづゝみづつみしししひきひきひき入入いりりりたるたるたる方方かたはははしもしもしもありがたうありがたうありがとう物物ものししし給給たまふふう人人ひとににになむなむなん」」」ととと見見みるるるありさまありさまありさまかたりかたりかたり聞聞きこゆゆゆ。。。
- 13「「「らうらうしうらうらうしうろうろうしゅうかどかどかどめきめきめきたるたるたる心心こころはははなきなきなきなななめりめりめり。。。いといといと子子こめかしうめかしうめかしゅうおほどかおほどかおおどかならならならむむんこそこそこそらうたくらうたくろうたくはははあるあるあるべけれべけれべけれ」」」ととと覺覺おぼししし忘忘わすれれれずずずののの給給のたまふふう。。。
- 14わらはやみわらはやみわらわやみににに煩煩わずらひひい給給たまひひい、、、人人ひと知知しれれれぬぬぬ物思物思ものおもいののの紛紛まぎれれれももも御心御心みこころのののいとまいとまいとまなきなきなきやうやうようにてにてにて春夏春夏はるなつ過過すぎぎぎぬぬぬ。。。
- 15秋秋あきののの頃頃ころほひほひおい靜靜しずかにににおぼしおぼしおぼし續續つづけけけててて、、、かのかのかのきぬたきぬたきぬたののの音音おとももも耳耳みみにににつきつきつきててて聞聞ききききにくかりにくかりにくかりしししさへさへさへ戀戀こいしうしうしゅうおぼしおぼしおぼし出出いでででらるゝらるゝらるるまゝまゝままににに、、、常陸常陸ひたちののの君君きみにににはははしばしばしばしばしばしば聞聞きこえええ給給たまへへえどどど、、、
- 16猶猶なおおぼつかなうおぼつかなうおぼつかのうのみのみのみあれあれあればばば世世よづかづかづかずずず心心こころやましうやましうやましゅう、、、まけまけまけてててははは止止やまままじじじののの御心御心みこころさへさへさへ添添そひひいててて命婦命婦みょうぶををを責責せめめめ給給たまふふう。。。「「「いかなるいかなるいかなるやうやうようぞぞぞ、、、いといといとかゝるかゝるかかる事事ことこそこそこそまだまだまだ知知しらららねねね」」」ととと、、、いといといとものしものしものしととと思思おもひひいてててのたまへのたまへのたまえばばば、、、
- 17いとほしいとほしいとおしととと思思おもひひいててて「「「もてもてもてはなれはなれはなれててて似似にげなきげなきげなき御御おん事事ことともともともおもむけおもむけおもむけ侍侍はべらららずずず。。。唯唯ただ大方大方おおかたののの御御おん物物ものづゝみづゝみづつみのののわりなきわりなきわりなきににに手手てをををえええさしさしさし出出いででで給給たまははわぬぬぬとととなむなむなん見見み給給たまふるふるうる」」」ととと聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、
- 18「「「それそれそれこそこそこそははは世世よづかづかづかぬぬぬことことことなれなれなれ。。。物物もの思思おもひひい知知しるるるまじきまじきまじきほどほどほど獨身獨身ひとりみをををえええ心心こころににに任任まかせせせぬぬぬほどほどほどこそこそこそさやうさやうさようにににかゞやかしきかゞやかしきかがやかしきもももことわりことわりことわりなれなれなれ。。。何事何事なにごとももも思思おもひひいしづまりしづまりしずまり給給たまへへえらむらむらんととと思思おもふふうにににこそこそこそ。。。
- 19そこはかとなくそこはかとなくそこはかとなくつれづれつれづれつれづれににに心心こころ細細ぼそうううのみのみのみ覺覺おぼゆるゆるゆるををを、、、同同おなじじじ心心こころにににいらへいらへいらえ給給たまははわむむんははは願願ねがひひいかなふかなふかなう心地心地ここちなむなむなんすすすべきべきべき。。。何何なにやややかやかやかやととと世世よづけづけづけるるるすぢすぢすじならならならででで、、、そのそのその荒荒あれれれたるたるたるすのこすのこすのこにににたゞずまゝたゞずまゝただずままほしきほしきほしきなりなりなり
- 20いといといとおぼつかなうおぼつかなうおぼつかのう心心こころ得得えぬぬぬ心地心地ここちするするするををを、、、かのかのかの御御おんゆるしゆるしゆるしなくなくなくともともともたばかれたばかれたばかれかしかしかし。。。心心こころいられいられいられしししうたてうたてうたてあるあるあるもてなしもてなしもてなしにににはははよもよもよもあらあらあらじじじ」」」などなどなど語語かたらひらひらい給給たまふふう。。。
- 21猶猶なお世世よににに在在あるるる人人ひとののの有樣有樣ありさまををを大方大方おおかたなるなるなるやうやうようにてにてにて聞聞きききき集集あつめめめ耳耳みみとゞめとゞめとどめ給給たまふふう癖癖くせのののつきつきつき給給たまへへえるるるををを、、、さうざうしきさうざうしきそうぞうしき宵居宵居よいいなどなどなどにににはかなきはかなきはかなきついでついでついでににに「「「さるさるさる人人ひとこそこそこそ」」」とととばかりばかりばかりきこえきこえきこえ出出いでででたりたりたりしししににに
- 22かくかくかくわざとがましうわざとがましうわざとがましゅうのたまひのたまひのたまいわたれわたれわたればばばなまなまなま煩煩わずらはしくらはしくらわしく姫君姫君ひめぎみののの御御おん有樣有樣ありさまももも似似につかはしくつかはしくつかわしくよしめきよしめきよしめきなどなどなどもももあらあらあらぬぬぬををを、、、なかなかなかなかなかなかなるなるなるみちびきみちびきみちびきにににいとほしきいとほしきいとおしきことことことややや見見みえええなななむむんととと思思おもひひいけれけれけれどどど、、、君君きみのののかくかくかくまめやかまめやかまめやかにににのたまふのたまふのたまうににに聞聞きききき入入いれれれざらざらざらむむんもももひがひがしかるひがひがしかるひがひがしかるべしべしべし。。。
- 23父父ちちみこみこみこのののおはしおはしおわしけるけるける折折おりにににだにだにだにふりふりふりにににたるたるたるあたりあたりあたりとととててておとなひおとなひおとない聞聞きこゆるゆるゆる人人ひともももなかりなかりなかりけるけるけるををを、、、ましてましてまして今今いまははは淺芽淺芽あさじわくるわくるわくる人人ひとももも跡跡あと絕絕たえええたるたるたるににに、、、かくかくかく世世よににに珍珍めずらしきしきしき御御おんけはひけはひけわいのののもりもりもり匂匂におひひいくるくるくるをををばばばなまなまなま女女おんなばらばらばらなどなどなどもももゑみゑみえみまけまけまけててて、、、
- 24「「「猶猶なお聞聞きこえええ給給たまへへえ」」」とととそゝのかしそゝのかしそそのかし奉奉たてまつれれれどどど、、、淺淺あさましうましうましゅう物物ものづゝみづゝみづつみししし給給たまふふう心心こころにてにてにてひたぶるひたぶるひたぶるににに見見みももも入入いれれれ給給たまははわぬぬぬなりなりなりけりけりけり。。。
- 25命婦命婦みょうぶははは、、、さらばさらばさらばさりぬべからさりぬべからさりぬべからむむん折折おりににに物物ものごしごしごしににに聞聞きこえええ給給たまははわむむんほどほどほど御心御心みこころにににつかつかつかずずずばばばさてさてさてももも止止やみみみねねねかしかしかし、、、又又またさるべきさるべきさるべきにてにてにて假假かりにににもももおはしおはしおわし通通かよははわむむんををを咎咎とがめめめ給給たまふふうべきべきべきひとひとひとなしなしなしなどなどなど、、、あだめきあだめきあだめきたるたるたるはやりはやりはやり心心こころはははうちうちうち思思おもひひいててて、、、父君父君ちちぎみにににもももかゝるかゝるかかる事事ことなどなどなどもももいはいはいわざりざりざりけりけりけり。。。
現代語訳
君達(源氏と頭中将)は、さっきの琴の音を思い出しなさって、みすぼらしかった住まいの様子なども、普通とは違っておもしろいと思い続け、頭中将は、もし、たいそう美しくかわいらしい人が、あのようにして年月を過ごしていた時に、自分が見初めて、ひどくいとしく思うようになったら、人にも騒がれるほどに、自分の心も見苦しく乱れるだろうか、などと想像までしたのだった。
この源氏の君がこうして気をそそられて通っていらっしゃるのを、まさかこのままでお済ませにはなるまいと、頭中将は何となくいまいましく、気がかりに思った。その後、二人ともあちらこちらから手紙などをお送りになったのだろう。どちらにも返事がなく、気がかりでいらいらするので、頭中将は、あまりにもひどいではないか、ああした住まいをする人なら、物の情趣がわかっている様子で、ちょっとした木や草、空の様子につけても返事をして、気立てが推し量られる折々があってこそ、心ひかれるものだろうに、重々しいといっても、こうまで引っこみ思案なのは、気にくわず、みっともないと、なおさらいらいらしていた。
いつものように源氏に隔てを置き申し上げない気性なので、「これこれの返事はご覧になりましたか。試しにちょっと手紙を送ってみたのですが、きまり悪いことに、それきりになってしまいました」と嘆くので、源氏は、やはりそうか、言い寄ったのだなとほほえまれて、「さあ、見たいとも思わないからだろうか、見たこともない」とお答えになるのを、頭中将は、分けへだてをしたなと、いまいましく思う。
源氏は、それほど深くも思っていないことなので、こうまでつれないのを興ざめに思うようになっていらっしゃったが、こうしてこの頭中将が言い寄っていたのなら、口数多く言い慣れているほうになびくだろう、頭中将が得意顔になって、先に言い寄った私のことなど思い捨てた様子になったら、つらいことだろうとお思いになって、命婦にまじめにご相談なさる。
「はっきりしない、よそよそしいご様子がたいそう情けない。私を浮気な者と疑っていらっしゃるのだろう。それにしても、私は気の短い心は持たないのに、相手の心がおっとりとしていないで、思いがけないことばかりあるので、自然と私の過ちにもなってしまうのだ。心がおっとりとして、親や兄弟が世話を焼いたり恨んだりすることもなく、気楽な人こそ、かえってかわいらしいだろうに」とおっしゃると、
命婦は「いえいえ、そのような風流なお遊びの雨宿りには、とてもふさわしくないようにお見受けします。ひたすら遠慮深く引っこんでいらっしゃる点では、めったにない方で」と、見ている様子をお話し申し上げる。源氏は「気がきいて、才走った心はないようだね。たいそう子どもっぽく、おっとりとしているのこそ、かわいらしいものだ」と、お忘れにならずにおっしゃる。
瘧病にお悩みになり、人知れぬ物思い(藤壺のこと)の紛れもあって、お心に余裕がないようなうちに、春も夏も過ぎた。秋のころ、静かに思い続けなさって、あの夕顔の宿で聞いた砧の音も、耳について聞きにくかったことまでが恋しく思い出されるにつけて、常陸宮の姫君にはしばしばお手紙をお送りになるが、やはりはっきりしない様子ばかりなので、常識はずれで、いらいらし、負けてはいられないというお気持ちまで加わって、命婦をお責めになる。
「どういうことなのだ。こんなことは、まだ経験したことがない」と、たいそう不愉快に思っておっしゃるので、命婦は気の毒に思って、「まったく不釣り合いなご縁だとも、姫君は思っていらっしゃいません。ただ、ひととおりでない内気さのせいで、お手紙に手をお出しになれないのだと拝見しております」と申し上げると、
源氏は「それこそ世間知らずなことだ。物の分別もつかない年ごろや、自分の身を思いどおりにできない身の上なら、そのように恥ずかしがるのももっともだが、何事も落ち着いて考えていらっしゃるだろうと思えばこそ。何となく退屈で心細くばかり思われるのを、同じ心で返事をしてくださったら、願いがかなう心地がするだろう。何やかやと色めいた方面ではなく、あの荒れた簀子にたたずんでいたいのだ。たいそう気がかりで、わけのわからない気がするから、姫君のお許しがなくても、取り計らっておくれ。いらいらして、ひどいことをするようなことはまさかしないから」などとお話しになる。
世の中にいる女性の様子を、何気ないふうに聞き集めて、耳をとめなさる癖がおつきになっていたのを、命婦は、退屈な夜の話相手などの折に、ちょっとしたついでに「こんな方が」とだけ申し上げたのに、こうしてわざわざ言い続けなさるので、何となくわずらわしく、姫君のご様子も、源氏にふさわしいようなたしなみもないので、なまじっかな手引きをして、お気の毒なことになるのではないかと思ったけれど、源氏がこうしてまじめにおっしゃるのに、聞き入れないのもひねくれているだろう。
父宮がいらっしゃった時でさえ、古びた家だということで、訪ねてくる人もなかったのに、まして今は、浅茅を分けて訪れる人も跡絶えているところに、こうして世にも珍しいお方の気配が漏れてくるのを、年配の女房たちもにこにこして、「やはりご返事なさいませ」とお勧め申し上げるけれど、姫君はあきれるほど内気なお心で、まったくご覧にもならないのだった。
命婦は、それならば、適当な折に、物越しにお話しなさって、お気に召さなかったら、それでおしまいにすればよい、また、もしご縁があって、仮にも通っていらっしゃるようになっても、とがめなさる人もいないなどと、浮ついた、はやりの心で思って、父君にもこうしたことなどは言わなかった。
意訳
源氏と頭中将は、ともに常陸宮の姫君に手紙を送るが、どちらにも返事は来ない。頭中将は源氏に打ち明けるが、源氏ははぐらかす。
姫君は、ただ内気で、手紙の返事も書けないのだった。返事のないことにかえって意地になった源氏は、命婦を責めて、仲立ちを頼む。命婦は、物越しに会わせてみて、だめならそれまでと考える。
語釈・文法注
- かさやどり
- 笠宿り。雨宿り。催馬楽「妹が門」の「笠宿り」をふまえ、ちょっとした気まぐれの恋の相手、という意で使っている。
文法
- 推量の「べし」(文など遣り給ふべし)
- 語り手が「…お送りになったのだろう」と推し量る。
- 命令の「ね」(さても止みねかし)
- 完了の「ぬ」の命令形。「それでおしまいになってしまえばよい」。
解説
源氏と頭中将が同じ女性をめぐって張り合う様子が、ユーモラスに描かれる。源氏は、姫君にそれほど深い思いがあるわけではないのに、頭中将に負けたくないという気持ちから、意地になっていく。
姫君は、返事が書けないほど内気で、和歌のやりとりもできない。当時の貴族社会では、和歌の贈答は恋の基本であり、返事がないことは、姫君の教養のなさを暗示している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、120–125頁(コマ62–64)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日