源氏物語 第6帖 末摘花(1)
故常陸宮の姫君の噂
源氏は、年月がたっても、打ち解けてかわいらしかった夕顔を忘れられず、気兼ねのいらない女性を見つけたいと思い続けている。源氏の乳母子の大輔の命婦は、故常陸宮が晩年にもうけて大切に育てた姫君が、父宮の死後、心細く暮らしていると語る。姫君は琴だけを親しい友としていると聞き、源氏はその琴を聞かせてほしいと命婦に頼む。

- 1思思おもへへえどもどもども猶猶なお飽飽あかかかざりざりざりししし夕顏夕顏ゆうがおののの露露つゆににに後後おくれれれししし程程ほどののの心心こころちちちををを年月年月としつき經經ふれれれどどどおぼしおぼしおぼし忘忘わすれれれずずず、、、こゝこゝここもももかしこかしこかしこもももうちとけうちとけうちとけぬぬぬかぎりかぎりかぎりのののけしきばみけしきばみけしきばみ心心こころ深深ふかききき方方かたののの御御おんいどましさいどましさいどましさににに、、、けぢかくけぢかくけぢかくなつかしかりなつかしかりなつかしかりしししあはれあはれあわれににに似似にるるるものものものなうなうのう戀戀こいしくしくしく覺覺おぼえええ給給たまふふう。。。
- 2いかでいかでいかでことごとしきことごとしきことごとしきおぼえおぼえおぼえはははなくなくなくいといといとらうたげらうたげろうたげならならならむむん人人ひとのののつゝましきつゝましきつつましき事事ことなからなからなからむむん見見みつけつけつけてててしがしがしがなななとととこりずまこりずまこりずまにににおぼしおぼしおぼしわたれわたれわたればばば、、、すこしすこしすこしゆゑゆゑゆえづきづきづきててて聞聞きこゆるゆるゆるわたりわたりわたりははは御耳御耳みみとまりとまりとまり給給たまははわぬぬぬ隈隈くまなきなきなきににに、、、
- 3さてさてさてもももやややととと覺覺おぼしししよるよるよるばかりばかりばかりのののけはひけはひけわいあるあるあるあたりあたりあたりにににこそこそこそはははひとひとひとくだりくだりくだりをををもももほのめかしほのめかしほのめかし給給たまふふうめるめるめるににに、、、靡靡なびききき聞聞きこえええずずずもてもてもてはなれはなれはなれたるたるたるはははをさをさをさをさおさおさあるあるあるまじきまじきまじきぞぞぞいといといと目目め馴馴なれれれたるたるたるややや。。。
- 4つれなうつれなうつれのう心心こころづよきづよきづよきはははたとしへたとしへたとしえなうなうのう情情なさけ後後おくるゝるゝるるまめやかさまめやかさまめやかさなどなどなど、、、あまりあまりあまり物物もののののほどほどほど知知しらららぬぬぬやうやうようににに、、、さてさてさてしもしもしも過過すぐしぐしぐしはてはてはてずずず名殘名殘なごりなくなくなくくづほれくづほれくずおれてててなほなほしきなほなほしきなおなおしき方方かたににに定定さだまりりりなどなどなどするするするもももあれあれあればばば、、、のたまひのたまひのたまいさしさしさしつるつるつるももも多多おおかりかりかりけりけりけり。。。
- 5かのかのかの空蟬空蟬うつせみををを物物ものののの折々折々おりおりにににははは妬妬ねとううう覺覺おぼししし出出いづづず。。。荻荻おぎののの葉葉はもももさりぬべきさりぬべきさりぬべき風風かぜのののたよりたよりたよりあるあるある時時ときははは驚驚おどろかしかしかし給給たまふふう折折おりもももあるあるあるべしべしべし。。。ほほほ影影かげののの亂亂みだれれれたりたりたりしししさまさまさまははは又又またさやうさやうさようにてにてにてももも見見みまほしくまほしくまほしくおぼすおぼすおぼす。。。大方大方おおかた名殘名殘なごりなきなきなき物忘物忘ものわすれをををぞぞぞえええししし給給たまははわざりざりざりけるけるける。。。
- 6左衛門左衛門さえもんののの乳母乳母めのととととててて大貳大貳だいにののの尼君尼君あまぎみのののさしつぎさしつぎさしつぎににに覺覺おぼいいいたるたるたるがががむすめむすめむすめ大輔大輔たいふののの命婦命婦みょうぶとととてててうちうちうちににに侍侍さぶらふふう。。。ののの兵部兵部ひょうぶののの大輔大輔たいふなるなるなるがががむすめむすめむすめなりなりなりけりけりけり。。。
- 7いといといといたういたういとう色色いろ好好このめめめるるる若人若人わこうどにてにてにてありありありけるけるけるををを君君きみももも召召めししし使使つかひひいなどなどなどししし給給たまふふう。。。母母ははははは筑前筑前ちくぜんののの守守かみのののめめめにてにてにてくだりくだりくだりにににけれけれければばば父君父君ちちぎみのののもともともとををを里里さとにてにてにて行行ゆききき通通かよふふう。。。
- 8故故こ常陸常陸ひたちのののみこみこみこののの末末すえにににまうけまうけもうけててていみじういみじういみじゅうかしづきかしづきかしずき給給たまひひいししし御御おんむすめむすめむすめ心心こころ細細ぼそくくくててて殘殘のこりりり居居い給給たまひひいたるたるたるををを事事ことののの序序ついでににに語語かたりりり聞聞きこえええけれけれければばば、、、「「「哀哀あわれのののことことことややや」」」とととててて問問とひひい聞聞きききき給給たまふふう。。。
- 9「「「心心こころばへばへばえかたちかたちかたちなどなどなど深深ふかききき方方かたはははえええ知知しりりり侍侍はべらららずずず。。。かいかいかいひそめひそめひそめ人人ひと疎疎うとうううもてなしもてなしもてなし給給たまへへえばばば、、、さべきさべきさべき宵宵よいなどなどなど物物ものごしごしごしにてにてにてぞぞぞかたらひかたらひかたらい侍侍はべるるる。。。きんきんきんをををぞぞぞ懷懷なつかしきかしきかしき語語かたらひらひらい人人ひとととと思思おもひひい給給たまへへえるるる」」」ととと聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、
- 10「「「三三みつつつつのののにてにてにて今今いま一一ひとくさくさくさやややうたてうたてうたてあらあらあらむむん」」」とととててて、、、「「「我我わににに聞聞きかかかせよせよせよ。。。父父ちちみこみこみこのののさやうさやうさようののの方方かたにににいといといとよしよしよしづきづきづきててて物物ものししし給給たまひひいけれけれければばば、、、おしなべておしなべておしなべてののの手手てづかひづかひづかいにににはははあらあらあらじじじととと思思おもふふう」」」ととと語語かたらひらひらい給給たまふふう。。。
- 11「「「さやうさやうさようににに聞聞きこしししめすめすめすばかりばかりばかりにににははは侍侍はべらららずずずやややあらあらあらむむん」」」ととといへいへいえばばば、、、「「「いたういたういとうけしきばましけしきばましけしきばましややや。。。このこのこの頃頃ころののの朧月夜朧月夜おぼろづきよににに忍忍しのびびびててて物物ものせせせむむん。。。まかでまかでまかでよよよ」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、煩煩わずらはしはしわしととと思思おもへへえどどどうちうちうちわたりわたりわたりももものどやかのどやかのどやかなるなるなる春春はるのののつれづれつれづれつれづれにににまかでまかでまかでぬぬぬ。。。
- 12父父ちちののの大輔大輔たいふののの君君きみははは外外ほかにににぞぞぞ住住すみみみけるけるける。。。こゝこゝここにににははは時々時々ときどきぞぞぞ通通かよひひいけるけるける。。。命婦命婦みょうぶははは繼母繼母ままははのののあたりあたりあたりははは住住すみみみもももつかつかつかずずず、、、姫君姫君ひめぎみののの御御おんあたりあたりあたりをををむつびむつびむつびてててこゝこゝここにににはははくるくるくるなりなりなりけりけりけり。。。
現代語訳
源氏は、いくら思っても飽きることのなかった夕顔が露のようにはかなく亡くなった時の悲しい気持ちを、年月がたってもお忘れにならず、どこもかしこも打ち解けない女性たちの気取りや、思慮深さを競うようなご様子に比べて、親しみやすく慕わしかったあの人のいとしさに似るものはないと、恋しく思っていらっしゃる。
何とかして、大げさな評判はなくても、たいそうかわいらしい人で、気兼ねのいらない人を見つけたいものだと、懲りずに思い続けていらっしゃるので、少しでも由緒ありげに噂される所には、お耳をとめなさらない所はなく、それではと思い寄るほどの気配のある所には、一行ほどの手紙でもほのめかしなさるようだが、なびかずによそよそしくしている女は、めったにないというのも、まったく見慣れたことである。
つれなく気丈な女は、たとえようもなく情の欠けたまじめさで、あまりに身のほどを知らないようで、それでも最後まで通しきれずに、すっかりくずれて、平凡な男に縁づいたりする者もいるので、源氏が途中で言いやめてしまうことも多かった。
あの空蝉を、何かの折ごとに、いまいましく思い出しなさる。荻の葉(軒端荻)にも、しかるべき風の便りのある時は、驚かすように手紙をおやりになることもあるだろう。灯影で見た、しどけない様子は、またあのようにしてでも見たいとお思いになる。まったく、すっかり忘れてしまうということがおできにならないご性分なのだった。
左衛門の乳母といって、大弐の尼君(惟光の母)の次に源氏が大切に思っていらっしゃる人の娘が、大輔の命婦といって宮中にお仕えしている。皇族の血筋をひく兵部の大輔の娘だった。たいそう色好みの若い女房だったが、源氏も召し使いなどなさる。母は筑前守の妻として任国に下ってしまったので、父君のもとを里として通っている。
命婦が、故常陸宮が晩年にもうけて大切に育てていらっしゃった姫君が、心細く取り残されていらっしゃることを、何かのついでにお話し申し上げたところ、源氏は「気の毒なことだ」と言って、あれこれとお尋ねになる。
命婦は「お気立てやお顔立ちなど、詳しいことは存じません。ひっそりと人を遠ざけていらっしゃるので、しかるべき宵などに、物越しにお話しするくらいです。琴だけを、親しい話し相手と思っていらっしゃいます」と申し上げると、源氏は「三つの友(琴・詩・酒)のうち、あとの一つ(酒)はいけないだろう」と言って、「私に聞かせてくれ。父宮がそうした方面にたいそうたしなみ深くていらっしゃったから、並みの腕前ではあるまいと思う」とお話しになる。
「そうお思いになるほどではございませんでしょう」と言うと、源氏は「ひどくもったいぶるね。この頃の朧月夜に、こっそり出かけよう。退出しなさい」とおっしゃるので、命婦はわずらわしいと思うけれど、宮中ものんびりとした春の退屈な時なので退出した。父の大輔の君は、ほかに住んでいた。この常陸宮邸には、時々通っていた。命婦は継母のいる家にはなじめず、姫君のおそばを慕って、こちらに来ているのだった。
意訳
末摘花の巻は、夕顔を忘れられない源氏の思いから始まる。源氏は、気取らず、打ち解けたかわいらしい女性を探し続けている。
大輔の命婦が語る故常陸宮の姫君は、父宮を亡くし、荒れた邸で琴だけを友としてひっそり暮らしている。源氏は、荒れた宿に美しい姫君がひそむという、昔物語のような話に心ひかれる。
語釈・文法注
- わかんどほり
- 皇族の血筋をひくこと。
- 三つの友
- 白居易の詩「北窓三友」で、琴・詩・酒を三つの友とすることによる。姫君の友が琴だけなら、酒まで友とするのは困る、と源氏は冗談を言っている。
文法
- 願望の「てしがな」(見つけてしがな)
- 「見つけたいものだ」。自分の願望を表す。
- 推量の「べし」(驚かし給ふ折もあるべし)
- 語り手が「…こともあるだろう」と推し量る。
解説
末摘花の巻は、夕顔の巻と並行する時期の出来事を描く。夕顔の死の悲しみを抱えた源氏が、新しい恋の相手を探す。荒れた邸に住む零落した宮家の姫君という設定は、夕顔の宿と同じく、昔物語によく見られる型である。
大輔の命婦は、源氏の乳母の娘で、気軽に使える女房である。若紫の巻の王命婦が藤壺との仲立ちをしたように、末摘花の巻では大輔の命婦が仲立ちをする。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、116–119頁(コマ60–61)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日