源氏物語 第5帖 若紫(16)
新しい暮らし
少女を迎えに来た兵部卿宮は、行方がわからず、乳母が勝手に連れ去ったのだろうと泣く泣く帰る。宮の北の方も、思いどおりにできなかったのを残念がる。二条院では女房や女童も集まり、少女は明るく暮らしはじめる。少女は源氏になつき、外出から帰るとまず出迎えて、懐に入って甘える。源氏は、娘とも違う、不思議な愛情の対象として少女を大切にする。

- 1かのかのかのとまりとまりとまりにににししし人々人々びと、、、宮宮みや渡渡わたりりり給給たまひひいててて尋尋たずねねね聞聞きこえええ給給たまひひいけるけるけるににに聞聞きこえええやらやらやらむむん方方かたなくなくなくてててぞぞぞわびわびわびあへあへあえりりりけるけるける。。。「「「暫暫しばししし人人ひとににに知知しらせらせらせじじじ」」」ととと君君きみもももののの給給のたまひひい少納言少納言しょうなごんももも思思おもふふう事事ことなれなれなればばば、、、
- 2せちせちせちににに口口くちがためがためがためやりやりやりつゝつゝつつ唯唯ただ「「「行行ゆくへくへくえももも知知しらららずずず少納言少納言しょうなごんがががゐゐいててて隱隱かくししし聞聞きこえええたるたるたる」」」とととのみのみのみ聞聞きこえええさするさするさするににに、、、宮宮みやもももいふかひいふかひいうかいなうなうのうおぼしおぼしおぼしててて、、、
- 3「「「故故こ尼君尼君あまぎみもももかしこかしこかしこににに渡渡わたりりり給給たまははわむむん事事ことをををいといといと物物ものしししとととおぼしおぼしおぼしたりたりたりしししことことことなれなれなればばば、、、めのとめのとめのといといといとさしさしさしすぐしすぐしすぐしたるたるたる心心こころばせばせばせのののあまりあまりあまり、、、おいらかおいらかおいらかにににわたさわたさわたさむむんをををびんなしびんなしびんなしなどなどなどはははいはいはいわででで、、、心心こころにににまかせまかせまかせてててゐゐいてててはふらかしはふらかしほうらかしつるつるつるなななめりめりめり」」」ととと泣泣なくくく泣泣なくくく歸歸かえりりり給給たまひひいぬぬぬ。。。
- 4「「「もしもしもし聞聞きききき出出いででで奉奉たてまつらららばばば告告つげげげよよよ」」」とととのたまふのたまふのたまうもももわづらはしくわづらはしくわずらわしく、、、僧都僧都そうずののの御許御許もとにににももも尋尋たずねねね聞聞きこえええ給給たまへへえどどどあとあとあとはかなくはかなくはかなくててて、、、あたらしかりあたらしかりあたらしかりししし御御おんかたちかたちかたちなどなどなど戀戀こいしくしくしく悲悲かなしししとととおぼすおぼすおぼす。。。
- 5北北きたののの方方かたももも母君母君ははぎみををを憎憎にくしししととと思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまひひいけるけるける心心こころももも失失うせせせててて我我わががが心心こころににに任任まかせせせつつつべうべうびょうおもほしおもほしおもおしけるけるけるににに、、、たがひたがひたがいぬるぬるぬるははは口口くち惜惜おしうしうしゅうおぼしおぼしおぼしけりけりけり。。。
- 6やうやうやうやうようよう人人ひと參參まいりりり集集あつまりりりぬぬぬ。。。御御おんあそびがたきあそびがたきあそびがたきのののわらはべわらはべわらわべちごちごちごどもどもどもいといといとめづらかめづらかめずらかににに今今いまめかしきめかしきめかしき御御おん有樣有樣ありさまどもどもどもなれなれなればばば、、、思思おもふふう事事ことなくなくなくててて遊遊あそびびびあへあへあえりりり。。。
- 7君君きみははは男君男君おとこぎみのののおはせおはせおわせずずずなどなどなどしししてててさうざうしきさうざうしきそうぞうしき夕暮夕暮ゆうぐれなどなどなどばかりばかりばかりぞぞぞ尼君尼君あまぎみををを戀戀こひひい聞聞きこえええ給給たまがががてててうちうちうち泣泣なきききなどなどなどししし給給たまへへえどどど、、、宮宮みやをををばばば殊殊ことににに思思おもひひい出出いででで聞聞きこえええ給給たまははわずずず。。。
- 8もともともとよりよりより見見みならひならひならい聞聞きこえええ給給たまははわでででならひならひならい給給たまへへえれれればばば、、、今今いまははは唯唯ただこのこのこの後後のちののの親親おやをををいみじういみじういみじゅうむつびむつびむつびまつはしまつはしまつわし聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 9物物ものよりよりよりおはすれおはすれおわすればばばまづまづまず出出いででで向向むかひひいててて哀哀あわれにににうちうちうち語語かたらひらひらい御御おんふところふところふところににに入入いりりり居居いててていさゝかいさゝかいささか疎疎うとくくく恥恥はずかしししとととももも思思おもひひいたらたらたらずずず、、、さるさるさる方方かたにににはははいみじういみじういみじゅうらうたきらうたきろうたきわざわざわざなりなりなりけりけりけり。。。
- 10さかしらさかしらさかしら心心こころありありあり何何なにくれくれくれとととむつかしきむつかしきむつかしきすぢすぢすじににになりなりなりぬれぬれぬればばば、、、我我わががが心地心地ここちももも少少すこしししたがふたがふたがうふしふしふしももも出出いでででくくくやややととと心心こころおかおかおかれれれ、、、人人ひともももうらみがちうらみがちうらみがちににに思思おもいののの外外ほかののの事事こともももおのづからおのづからおのずから出出いででで來來きるるるををを、、、いといといとをかしきをかしきおかしきもてあそびもてあそびもてあそびなりなりなり。。。
- 11むすめむすめむすめなどなどなどはははたたた、、、かばかりかばかりかばかりににになりなりなりぬれぬれぬればばば心心こころ安安やすくくくうちうちうちふるまひふるまひふるまい隔隔へだてなきなきなきさまさまさまにににおきおきおきふしふしふしなどなどなどはははえええしもしもしもすさまじきすさまじきすさまじきををを、、、これこれこれはははいといといとさまさまさまかはりかはりかわりたるたるたるかしづきぐさかしづきぐさかしずきぐさなりなりなりとととおぼいおぼいおぼいたたためりめりめり。。。
現代語訳
あの邸に残っていた人々は、父宮がおいでになってお尋ね申し上げなさったが、申し上げようもなくて、困り合っていた。「しばらく人に知らせないように」と源氏もおっしゃり、少納言もそう思っていたことなので、固く口止めしておいて、ただ「行方もわかりません。少納言がお連れしてお隠し申し上げたのです」とばかり申し上げさせるので、宮もどうしようもなくお思いになって、
「亡くなった尼君も、私の所へ移ることをたいそう嫌だと思っていらっしゃったのだから、乳母がひどく出すぎた考えのあまり、素直に渡すのは不都合だなどとは言わないで、自分の思うままに連れ出して、行方知れずにしてしまったのだろう」と、泣く泣くお帰りになった。
「もし居所を聞き出し申し上げたら知らせよ」とおっしゃるのも、女房たちには困ったことで、宮は僧都のもとにもお尋ね申し上げなさるが、手がかりもなくて、もったいないほどだった姫君のお顔立ちなどを、恋しく悲しいとお思いになる。北の方も、姫君の母君を憎いと思い申し上げていらっしゃった気持ちも消えて、自分の思うままに扱えるだろうとお思いになっていたのに、当てがはずれたのを残念にお思いになった。
二条院には、しだいに女房たちが参り集まった。お遊び相手の童や幼い子どもたちも、たいそう珍しく当世風なご様子なので、何の屈託もなく遊び合っている。姫君は、源氏の君がいらっしゃらなかったりして寂しい夕暮れなどだけ、尼君を恋しがり申し上げてお泣きになったりなさるが、父宮のことは特に思い出し申し上げなさらない。もともと宮のもとで暮らすことに慣れていらっしゃらなかったので、今はただこの新しい親(源氏)を、たいそう慕ってつきまとっていらっしゃる。
源氏が外出先からお帰りになると、まず出迎えて、しみじみと話しかけ、お懐に入って、少しもよそよそしく恥ずかしいとも思っていない。そういう点では、たいそうかわいらしいことだった。分別がついて、何かと面倒な間柄になると、自分の気持ちと少し食い違うところも出てくるのではないかと気をつかい、相手も恨みがちになって、思いのほかのことも自然と起こってくるものだが、この姫君はたいそうかわいらしい遊び相手である。
自分の娘などでも、これくらいの年になれば、気楽にふるまって、隔てなく起き伏しを共にすることなどはできないものだが、この姫君はまったく変わった大切な秘蔵の人だと、源氏はお思いになっているようだ。
意訳
少女が行方知れずになり、父の兵部卿宮は、乳母が勝手に連れ去ったのだろうと泣く泣く帰る。宮の北の方は、少女を思いどおりに扱えなくなったのを残念がる。少女の居所は、しばらくのあいだ秘密にされる。
二条院で、少女は明るく暮らしはじめる。父宮とはもともと一緒に暮らしていなかったので、少女は源氏を新しい親として慕い、外出から帰るとまず出迎えて、懐に入って甘える。
源氏にとって少女は、恋人とも娘とも違う、不思議な存在である。若紫の巻は、この新しい関係の始まりを描いて終わる。
語釈・文法注
文法
- 推定の「めり」(おぼいためり)
- 「おぼいたるめり」の撥音便「おぼいたんめり」の撥音無表記。語り手が源氏の心中を「…とお思いのようだ」と推し量る。
- 強意+推量の「つべう」(任せつべう)
- 「つべく」のウ音便。「きっと思いどおりにできるだろう」。
解説
若紫の巻は、少女が二条院で源氏を慕って暮らす姿で終わる。源氏が北山で見つけた「若草」は、源氏の手で育てられ、やがて紫の上として、源氏の生涯でもっとも大切な女性となる。
語り手は、源氏と少女の関係を「娘とも違う、変わった秘蔵の人」と表現している。親子のようでもあり、のちに夫婦となる関係でもある。この二重性が、紫の上の生涯を通じて、二人の関係に独特の陰影を与えることになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、116–117頁(コマ60)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日