源氏物語 第5帖 若紫(14)
少女を連れ出す
左大臣家にいた源氏は、惟光から宮が明日少女を迎えに来ると聞き、その前に少女を連れ出そうと決める。夜明け前に少女の邸に行き、眠っている少女を抱き起こして車に乗せる。少納言の乳母はどうしようもなく、縫った着物を抱えて同乗する。まだ暗いうちに二条院に着き、源氏は西の対で少女を抱いて車から降ろす。

- 1君君きみははは大殿大殿おおいとのににに坐坐おわしししけるけるけるににに例例れいののの女君女君おんなぎみとみとみとみにににももも對對たいめんめんめんししし給給たまははわずずず。。。物物ものむつかしくむつかしくむつかしく覺覺おぼえええ給給たまひひいてててをををすがゞきすがゞきすががきててて「「「ひたちひたちひたちにににははは田田たをををこそこそこそ作作つくれれれととといふいふいう歌歌うたををを聲聲こえはははいといといとなまめきなまめきなまめきてててすさびすさびすさび居居い給給たまへへえりりり。。。
- 2參參まいりりりたれたれたればばば召召めししし寄寄よせせせててて有樣有樣ありさま問問とひひい給給たまふふう。。。「「「しかしかしかしかしかしかなむなむなん」」」ととと聞聞きこゆれゆれゆればばば口口くち惜惜おしうしうしゅうおぼしおぼしおぼしててて、、、
- 3かのかのかの宮宮みやににに渡渡わたりりりなななばばばわざとわざとわざと迎迎むかへへえ出出いでででむむんもももすきずきしかるすきずきしかるすきずきしかるべしべしべし、、、をさなきをさなきおさなき人人ひとををを盜盜ぬすみみみ出出いでででたりたりたりととと、、、もどきもどきもどきおひおひおいなななむむん、、、そのそのその先先さきににに暫暫しばししし人人ひとにににももも口口くちがためがためがためててて渡渡わたしししてててむむんととと覺覺おぼしししててて、、、
- 4「「「曉曉あかつきかしこかしこかしこにににものせものせものせむむん。。。車車くるまのののさうさうそう束束ぞくさながらさながらさながら、、、隨身隨身ずいじん一人一人ひとり二人二人ふたり仰仰おおせせせおきおきおきたれたれたれ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。うけうけうけ給給たまはりはりわりててて立立たちちちぬぬぬ。。。
- 5君君きみははは、、、いかにいかにいかにせせせましましまし、、、聞聞きこえええありありありてててすきがましきすきがましきすきがましきやうやうようなるなるなるべきべきべき事事こと、、、人人ひとのののほどほどほどだにだにだに物物ものををを思思おもひひい知知しりりり、、、女女おんなののの心心こころかはしかはしかはしけるけるける事事ことととと推推おししし量量はかららられれれぬぬぬべくべくべくはははよよよのののつねつねつねなりなりなり、、、父宮父宮ちちみやののの尋尋たずねねね出出いででで給給たまへへえらららむむんもももはしたなうはしたなうはしたのうすゞろすゞろすずろなるなるなるべきべきべきをををとととおぼしおぼしおぼし亂亂みだるれるれるれどどど、、、
- 6さてさてさてはづしはづしはずしてててむむんはははいといといと口口くち惜惜おしかるしかるしかるべけれべけれべければばばまだまだまだ夜夜よ深深ふこううう出出いででで給給たまふふう。。。女君女君おんなぎみ例例れいのののしぶしぶしぶしぶしぶしぶににに心心こころももも解解とけけけずずずものしものしものし給給たまふふう。。。
- 7「「「かしこかしこかしこにににいといといとせちせちせちににに見見みるるるべきべきべきことことことののの侍侍はべるるるををを思思おもひひい給給たまへへえ出出いでゝでゝでてなむなむなん。。。立立たちちち歸歸かえりりり參參まいりりりきききなななむむん」」」とととててて出出いででで給給たまへへえばばば、、、侍侍さぶらふふう人々人々びとももも知知しらららざりざりざりけりけりけり。。。
- 8我我わががが御方御方かたにてにてにて御御おん直衣直衣のうしなどなどなどははは奉奉たてまつるるる。。。惟光惟光これみつばかりばかりばかりををを馬馬うまににに載載のせせせててておはしおはしおわしぬぬぬ。。。
- 9門門かど打打うちちち敲敲たたかかかせせせ給給たまへへえばばば心心こころももも知知しらららぬぬぬ者者もののののあけあけあけたるたるたるににに御御おん車車くるまをををやをらやをらやおら引引ひききき入入いれれれさせさせさせててて、、、大夫大夫たいふ妻戶妻戶つまどををを鳴鳴ならしししてててしはぶけしはぶけしわぶけばばば、、、少納言少納言しょうなごん聞聞きききき知知しりりりててて出出いででで來來きたりたりたり。。。
- 10「「「こゝこゝここににに坐坐おわしますしますします」」」ととといへいへいえばばば、、、「「「をさなきをさなきおさなき人人ひとははは御殿籠御殿籠おおとのごもりりりてててなむなむなん。。。などなどなどかかかいといといと夜夜よふかうふかうふこう立立たちちち出出いでででさせさせさせ給給たまへへえるるる」」」ととと、、、物物もののののたよりたよりたよりととと思思おもひひいててていふいふいう。。。
- 11「「「宮宮みやへへへ渡渡わたらららせせせ給給たまふふうべかべかべかなるなるなるををを、、、そのそのその先先さきににに物物もの一言一言ひとこと聞聞きこえええさせさせさせ置置おかかかむむんとととてててなむなむなん」」」とととののの給給のたまへへえばばば、、、「「「何事何事なにごとにににかかかははは侍侍はべらららむむん。。。いかにいかにいかにはかばかしきはかばかしきはかばかしき御御おんいらへいらへいらえ聞聞きこえええさせさせさせ給給たまははわむむん」」」とととてててうちうちうち笑笑わらひひいててて居居いたりたりたり。。。
- 12君君きみ入入いりりり給給たまへへえばばばいといといとかたはらいたくかたはらいたくかたわらいたく「「「うちとけうちとけうちとけててて怪怪あやしきしきしきふるふるふる人人びとどもどもどもののの侍侍はべるるるににに」」」ととと聞聞きこえええさすさすさす。。。「「「まだまだまだおどろいおどろいおどろい給給たまははわじじじななな。。。いでいでいで御目御目めさましさましさまし聞聞きこえええむむん。。。かゝるかゝるかかる朝霧朝霧あさぎりをををばばば知知しらららでででいぬるいぬるいぬるものものものかかか」」」とととててて入入いりりり給給たまへへえばばば「「「ややや」」」ととともももえええ聞聞きこえええずずず。。。
- 13君君きみははは何何なに心心ごころもももなくなくなく寢寢ね給給たまひひいつるつるつるををを抱抱いだききき驚驚おどろかしかしかし給給たまふふうににに驚驚おどろきききててて、、、宮宮みやののの御御おん迎迎むかえにににおはしおはしおわしたるたるたるととと寢寢ねおびれおびれおびれててておぼしおぼしおぼしたりたりたり。。。
- 14御御おんぐしぐしぐし掻掻かきききつくろひつくろひつくろいなどなどなどししし給給たまひひいててて「「「いざいざいざ給給たまへへえ。。。宮宮みやののの御御おん使使つかいにてにてにて參參まいりりり來來きつるつるつるぞぞぞ」」」とととののの給給のたまふふうににに、、、あらあらあらざりざりざりけりけりけりとととあきれあきれあきれててて、、、恐恐おそろしろしろしととと思思おもひひいたれたれたればばば、、、
- 15「「「あなあなあなこゝろうこゝろうこころう。。。まろまろまろももも同同おなじじじ人人ひとぞぞぞ」」」とととてててかきかきかき抱抱いだきききててて出出いででで給給たまへへえばばば大夫大夫たいふ少納言少納言しょうなごんなどなどなど「「「こここはははいかにいかにいかに」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。
- 16「「「こゝこゝここにににははは常常つねにににもももえええ參參まいらららぬぬぬががが覺束覺束おぼつかなけれなけれなければばば心心こころやすきやすきやすき所所ところにににととと聞聞きこえええしししををを、、、心心こころ憂憂うくくくわたりわたりわたり給給たまふふうべかべかべかなれなれなればばば、、、ましてましてまして聞聞きこえええ難難がたかるかるかるべけれべけれべければばば人人ひとひとりひとりひとり參參まいららられれれよよよかしかしかし」」」とととののの給給のたまへへえばばば、、、
- 17心心こころあわたゞしくあわたゞしくあわただしくててて「「「今日今日きょうはははいといといとびんなくびんなくびんなくなむなむなん侍侍はべるるるべきべきべき。。。宮宮みやののの渡渡わたらららせせせ給給たまははわむむんにににはははいかさまいかさまいかさまにににかかか聞聞きこえええやらやらやらむむん。。。おのづからおのづからおのずから程程ほど經經へてててさるべきさるべきさるべきにににおはしまさおはしまさおわしまさばばばともかうもともかうもともこうも侍侍はべりりりなななむむんををを、、、いといといと思思おもひひいやりやりやりなきなきなき程程ほどののの事事ことににに侍侍はべれれればばば侍侍さぶらふふう人々人々びと苦苦くるしうしうしゅう侍侍はべるるるべしべしべし」」」ととと聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、
- 18「「「よしよしよし後後のちにににももも人人ひとははは參參まいりりりなななむむんかしかしかし」」」とととててて御御おん車車くるま寄寄よせせせさせさせさせ給給たまへへえばばば、、、あさましうあさましうあさましゅういかさまいかさまいかさまにににかかかととと思思おもひひいあへあへあえりりり。。。若君若君わかぎみもももあやしあやしあやしととと覺覺おぼしししててて泣泣ないいい給給たまふふう。。。
- 19少納言少納言しょうなごん留留とどめめめ聞聞きこえええむむん方方かたなけれなけれなければばば、、、よべよべよべ縫縫ぬひひいししし御御おんぞぞぞどもどもどもひきひきひきさげさげさげててて自自みずからららもももよろしきよろしきよろしききぬきぬきぬ着着き更更かへへえててて乘乘のりりりぬぬぬ。。。
- 20二條院二條院にじょうのいんははは近近ちかけれけれければばばまだまだまだ明明あこうううならならならぬぬぬ程程ほどににに坐坐おわしししててて西西にしののの對對たいににに御御おん車車くるま寄寄よせせせててておりおりおり給給たまふふう。。。若君若君わかぎみをををばばばいといといとかるらかかるらかかるらかにににかきかきかき抱抱いだきききててておろしおろしおろし給給たまふふう。。。
現代語訳
源氏は左大臣家にいらっしゃったが、いつものように女君(葵の上)はすぐにはお会いにならない。源氏は何となくうっとうしくお思いになって、和琴をすががきに弾いて、「常陸には田をこそ作れ」という歌を、声はたいそう優美に口ずさんでいらっしゃった。惟光が参上したので、呼び寄せて様子をお尋ねになる。「これこれでございます」と申し上げると、源氏は残念にお思いになって、
あの宮の邸に移ってしまったら、わざわざ迎え出すのも色めいたことになるだろう、幼い人を盗み出したと非難を受けるだろう、その前に、しばらく人にも口止めをして、連れてきてしまおうとお思いになって、「明け方、あちらに行こう。車の装備はそのままにして、随身を一人二人、言いつけておけ」とおっしゃる。惟光は承知して立った。
源氏は、どうしようか、噂が広まって好色めいたことになるだろう、せめて相手が物の分別のつく年ごろで、女も心を通わせていたと推し量られるようなことなら、世間によくあることだ、父宮が探し出しなさったら、体裁が悪く、とんでもないことになるだろうと思い乱れなさるが、この機会を逃してしまったら、たいそう残念だろうから、まだ夜深いうちにお出かけになる。
女君は、いつものように気が進まない様子で、打ち解けずにいらっしゃる。源氏は「あちらで、どうしても見なければならないことがございますのを思い出しまして。すぐに帰って参りましょう」と言ってお出かけになるので、お仕えする女房たちも知らなかった。ご自分のお部屋で直衣などをお召しになる。惟光だけを馬に乗せておいでになった。
門をたたかせなさると、事情を知らない者が開けたので、お車をそっと引き入れさせて、大夫(惟光)が妻戸を鳴らして咳払いをすると、少納言が聞きつけて出てきた。「ここにいらっしゃいます」と言うと、「幼い人はお休みになっております。どうしてこんなに夜深くお出かけになったのですか」と、どこかからの帰りのついでと思って言う。
源氏が「宮のもとへお移りになるそうなので、その前にひと言申し上げておこうと思って」とおっしゃると、少納言は「何事でございましょう。どんなにはっきりとしたお返事を申し上げられましょうか」と言って笑っている。源氏が中にお入りになるので、少納言はたいそう困って、「くつろいで、見苦しい老女たちがおりますのに」と申し上げる。
源氏は「まだお目覚めではないでしょうね。さあ、お起こし申し上げよう。こんなすばらしい朝霧を知らずに寝ているものですか」と言ってお入りになるので、少納言は「あれ」とも申し上げられない。少女は何も知らずに眠っていらっしゃったのを、源氏が抱き起こしなさると、目をさまして、父宮がお迎えにいらっしゃったのだと、寝ぼけてお思いになっている。
源氏は御髪をかきつくろったりなさって、「さあ、いらっしゃい。父宮のお使いとして参ったのですよ」とおっしゃると、少女は、宮ではなかったとあきれて、怖いと思っているので、源氏は「ああ情けない。私も同じ人ですよ」と言って、抱いてお出になるので、大夫や少納言などは「これはどうなさるのです」と申し上げる。
源氏は「ここにはいつも参れないのが気がかりなので、気楽な所にと申し上げていたのに、残念なことに宮のもとへお移りになるそうなので、なおさらお話しにくくなるだろうから。誰か一人ついてきなさい」とおっしゃると、少納言はあわてて、「今日はたいそう不都合でございましょう。宮がおいでになりましたら、どう申し上げたらよいのでしょう。自然と年月がたって、そうなるはずのご縁でいらっしゃるなら、どうにでもなりましょうが、たいそう思いもかけないことでございますので、お仕えする者たちが困ることになりましょう」と申し上げると、
源氏は「まあいい。後からでも人は来ればよいだろう」と言って、お車を寄せさせなさるので、女房たちはあきれて、どうしたらよいのかと思い合っている。若君も、変だとお思いになって、お泣きになる。少納言はお止め申し上げるすべもないので、昨夜縫った着物などをひっさげて、自分も見苦しくない着物に着替えて乗った。
二条院は近いので、まだ明るくならないうちにお着きになって、西の対にお車を寄せてお降りになる。若君をたいそう軽々と抱いておろしなさる。
意訳
父宮が明日少女を迎えに来ると知った源氏は、その前に少女を連れ出そうと決意する。源氏は、世間に知られたら「幼い子を盗み出した」と非難されることを承知のうえで、行動に移す。
夜明け前、源氏は少女の邸に行き、眠っている少女を抱き起こす。少女は父宮が迎えに来たと思うが、源氏だとわかってあきれる。少納言の乳母は止めようとするが、源氏はかまわず少女を車に乗せる。乳母も、縫ったばかりの着物を抱えて同乗する。
こうして少女は二条院に迎えられる。源氏が少女を「盗み出す」この場面は、『伊勢物語』の芥川の段など、昔物語の「女を盗む」話を思わせる。
語釈・文法注
- あづま
- 東琴(あずまごと)。和琴(わごん)のこと。六弦の日本古来の琴。「すがゞき」は和琴の弾き方の一つ。
- ひたちには田をこそ作れ
- 風俗歌「常陸」の一節。「常陸には田をこそ作れ、あだ心、かぬとや君が山を越え、雨夜来ませる」と続く。浮気心を詠む歌で、源氏がこれから少女のもとへ行くことと重なる。
文法
- 強意+推量の「てむ」(渡してむ・はづしてむ)
- 「きっと連れてきてしまおう」「(機会を)逃してしまったら」。
- 推量の「べかなる」(わたり給ふべかなる)
- 「べかるなる」の撥音便「べかんなる」の撥音無表記。「…なさるそうだ」。
解説
源氏が少女を連れ出す場面は、若紫の巻のクライマックスである。源氏自身、これが「をさなき人を盗み出でたり」と非難されることをわかっている。それでも、父宮に引き取られてしまえば二度と機会はないと考えて、源氏は行動する。
源氏が左大臣家で「ひたちには田をこそ作れ」と口ずさむ場面は、葵の上との冷えた関係を背景にしている。正妻のもとを夜明け前に抜け出して、幼い少女を連れ出すという源氏の行動は、葵の上との関係をいっそう難しくしていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、112–115頁(コマ58–59)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日