古典ライブラリー

源氏物語 第5帖 若紫(12)

尼君の死と霰の夜

登場人物:光源氏・若紫・少納言の乳母

尼君の忌明けの後、少女が京の邸に戻ったと聞いて、源氏は夜に訪ねる。少納言の乳母は、父宮に引き取られても継母のもとで肩身の狭い思いをするだろうと案じる。父宮が来たと思って出てきた少女を、源氏は膝に抱き寄せ、霰の降る荒れた夜、宿直をすると言って少女のそばで一夜を過ごす。少女は怖がりながらも、源氏のやさしい語りかけに、少しずつ心を許していく。

霰の降る夜、尼君を亡くした少女のもとを源氏が訪れ、乳母がそばに控えている場面(AI生成)
霰の降る夜、尼君を亡くした少女のもとを源氏が訪れ、乳母がそばに控えている場面
  1. 1いみいみいみなどなどなど過す過すすぎぎぎててて京きやう京きやうきょうののの殿との殿とのとのににになむなむなんととと聞き聞ききききき給たま給たまたまへへえばばば程ほど程ほどほど經へ經へへてててみづからみづからみずから長閑のどか長閑のどかのどかなるなるなる夜よ夜よよ坐おは坐おはおわしししたりたりたり。。。いといといとすごげすごげすごげににに荒あ荒ああれれれたるたるたる所ところ所ところところののの人ひと人ひとひと少ずく少ずくずくななななるなるなるにににいかにいかにいかに幼をさな幼をさなおさなききき人ひと人ひとひと恐おそろ恐おそろおそろしからしからしからむむんととと見み見みみゆゆゆ。。。
  2. 2例れい例れいれいののの所ところ所ところところににに入い入いいれれれ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりててて、、、少納言せうなごん少納言せうなごんしょうなごん御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまなどなどなどうちうちうち泣な泣ななきききつゝつゝつつ聞きこ聞きこきこえええ續つづ續つづつづくるくるくるににに、、、あいなうあいなうあいのう御袖そで御袖そでそでもももたゞたゞただならならならずずず。。。
  3. 3「「「宮みや宮みやみやににに渡わた渡わたわたししし奉たてまつ奉たてまつたてまつらららむむんととと侍はべ侍はべはべるるるををを、、、こここ姫君ひめぎみ姫君ひめぎみひめぎみのののいといといと情なさけ情なさけなさけなくなくなく憂う憂ううきききものものものににに思おも思おもおもひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまへへえりりりしししににに、、、いといといとむげにむげにむげにちごちごちごならならならぬぬぬ齡よはひ齡よはひよわいののの、、、まだまだまだはかばかしうはかばかしうはかばかしゅう人ひと人ひとひとのののおもむけおもむけおもむけをををももも見み見みみ知し知ししりりり給たま給たまたまははわずずず、、、
  4. 4なかぞらなかぞらなかぞらなるなるなる御おん御おんおん程ほど程ほどほどにてにてにてあまたあまたあまた物もの物ものものししし給たま給たまたまふふうなるなるなる中なか中なかなかののの、、、あなづらはしきあなづらはしきあなずらわしき人ひと人ひとひとにてにてにてやややまじりまじりまじり給たま給たまたまははわむむんなどなどなど過す過すすぎぎぎ給たま給たまたまひひいぬるぬるぬるももも世よ世よよととと共とも共ともともにににおもほしおもほしおもおし歎なげ歎なげなげきききつるつるつるもももしるきしるきしるき事こと事ことこと多おほ多おほおおくくく侍はべ侍はべはべるるるににに、、、
  5. 5斯かく斯かくかくかたじけなきかたじけなきかたじけなきなげなげなげののの御おん御おんおん言い言いいののの葉は葉ははははは、、、後のち後のちのちののの御心みこころ御心みこころみこころもももたどりたどりたどり聞きこ聞きこきこえええさせさせさせずずずいといといと嬉うれ嬉うれうれしうしうしゅう思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえられられられぬぬぬべきべきべき折をり折をりおりふしふしふしににに侍はべ侍はべはべりりりながらながらながら、、、
  6. 6少すこ少すこすこしししもももなずらひなずらひなずらいなるなるなるさまさまさまにににももも物もの物ものものししし給たま給たまたまははわずずず、、、御おん御おんおん年とし年としとしよりよりよりももも若わか若わかわかびびびててて習なら習ならならひひい給たま給たまたまへへえれれればばば、、、いといといと傍かたはら傍かたはらかたわらいたくいたくいたく侍はべ侍はべはべりりり」」」ととと聞きこ聞きこきこゆゆゆ。。。
  7. 7「「「何なに何なになにかかかかうかうこうくりくりくり返かへ返かへかえししし聞きこ聞きこきこえええしらするしらするしらする心こころ心こころこころののの程ほど程ほどほどをををつゝみつゝみつつみ給たま給たまたまふふうらむらむらん。。。そのそのそのいふいふいうかひかひかいなきなきなき御おん御おんおん有樣ありさま有樣ありさまありさまののの哀あはれ哀あはれあわれにににゆかしうゆかしうゆかしゅう覺おぼ覺おぼおぼえええ給たま給たまたまふふうももも、、、ちぎりちぎりちぎり殊こと殊ことことににになむなむなん心こころ心こころこころながらながらながら思おも思おもおもひひい知し知ししららられれれけるけるける。。。猶なほ猶なほなお人ひと人ひとひとづてづてづてならならならででで聞きこ聞きこきこえええ知し知ししらせらせらせばやばやばや。。。
  8. 8あしわかあしわかあしわかののの浦うら浦うらうらにににみるめみるめみるめはははかたくかたくかたくともともともこここははは立た立たたちちちながらながらながらかへるかへるかえる波なみ波なみなみかかかははは。。。めざましからめざましからめざましからむむん」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「げにげにげにこそこそこそいといといとかしこけれかしこけれかしこけれ」」」とととててて、、、
  9. 9「「「寄よ寄よよるるる波なみ波なみなみののの心こころ心こころこころもももしらしらしらでででわかわかわかののの浦うら浦うらうらににに玉藻たまも玉藻たまもたまもなびかなびかなびかむむんほどほどほどぞぞぞうきうきうきたるたるたる。。。わりなきわりなきわりなき事こと事ことこと」」」ととと聞きこ聞きこきこゆるゆるゆるさまさまさまのののなれなれなれたるたるたるににに少すこ少すこすこししし罪つみ罪つみつみ許ゆる許ゆるゆるささされれれ給たま給たまたまふふう。。。「「「なぞなぞなぞ越こ越ここえええざらざらざらむむんとととうちうちうちずじずじずじ給たま給たまたまへへえるるるををを身み身みみにににしみしみしみてててわかきわかきわかき人々びと人々びとびと思おも思おもおもへへえりりり。。。
  10. 10君きみ君きみきみははは上うへ上うへうえををを戀こ戀ここひひい聞きこ聞きこきこえええ給たま給たまたまひひいててて泣な泣ななききき臥ふ臥ふふししし給たま給たまたまへへえるるるににに、、、御おん御おんおん遊あそ遊あそあそびびびがたきがたきがたきどもどもどもののの「「「なほしなほしのうし着き着ききたるたるたる人ひと人ひとひとのののおはするおはするおわする、、、宮みや宮みやみやのののおはしますおはしますおわしますなななめりめりめり」」」ととと聞きこ聞きこきこゆれゆれゆればばば起お起おおききき出い出いいででで給たま給たまたまひひいててて、、、
  11. 11「「「少納言せうなごん少納言せうなごんしょうなごんよよよ、、、直衣なほし直衣なほしのうし着き着ききたりたりたりつつつらむらむらんはははいづらいづらいずら、、、宮みや宮みやみやのののおはするおはするおわするかかか」」」とととててて寄よ寄よよりりりおはしおはしおわしたるたるたる御おん御おんおん聲こゑ聲こゑこえいといといとらうたしらうたしろうたし。。。
  12. 12「「「宮みや宮みやみやにににはははあらあらあらねねねどどど又また又またまたおもほしおもほしおもおし放はな放はなはなつつつべうべうびょうもももあらあらあらずずず。。。こちこちこち」」」とととののの給のたま給のたまのたまふふうををを、、、恥はづ恥はづはずかしかりかしかりかしかりししし人ひと人ひとひととととさすがにさすがにさすがに聞き聞きききききなしなしなしてててあしうあしうあしゅう言い言いいひひいてててけりけりけりとととおぼしおぼしおぼしてててめのとめのとめのとにににさしさしさし寄よ寄よよりりりててて「「「いざいざいざかしかしかし、、、ねぶたきねぶたきねぶたきににに」」」とととののの給のたま給のたまのたまへへえばばば、、、
  13. 13「「「今いま今いまいまさらさらさらなどなどなど忍しの忍しのしのびびび給たま給たまたまふふうらむらむらん。。。このこのこの膝ひざ膝ひざひざののの上うへ上うへうえににに御おん御おんおんとのごもれとのごもれとのごもれよよよ。。。今いま今いまいま少すこ少すこすこししし寄よ寄よよりりり給たま給たまたまへへえ」」」とととののの給のたま給のたまのたまへへえばばば、、、乳母めのと乳母めのとめのとののの「「「さればこそさればこそさればこそかうかうこう世よ世よよづかづかずかぬぬぬ御おん御おんおん程ほど程ほどほどにてにてにてなむなむなん」」」とととててて押お押おおししし寄よ寄よよせせせ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりたれたれたればばば何なに何なになに心ごころ心ごころごころもももなくなくなく居ゐ居ゐい給たま給たまたまへへえるるるににに、、、
  14. 14手て手ててをををさしさしさし入い入いいれれれててて探さぐ探さぐさぐりりり給たま給たまたまへへえれれればばば、、、なよゝかなよゝかなよよかなるなるなる御おん御おんおんぞぞぞににに髮かみ髮かみかみはははつやつやつやつやつやつやとととかゝりかゝりかかりててて末すゑ末すゑすえのののふさやかふさやかふさやかにににさぐりさぐりさぐりつけつけつけられられられたるたるたるほどほどほどいといといと美うつく美うつくうつくしうしうしゅう思おも思おもおもひひいやらやらやらるるる。。。
  15. 15手て手ててををを執とら執とらとらへへえ給たま給たまたまへへえれれればばば、、、うたてうたてうたて例れい例れいれいならならならぬぬぬ人ひと人ひとひとのののかくかくかく近ちか近ちかちかづきづきづき給たま給たまたまへへえるるるははは恐おそろ恐おそろおそろしうしうしゅうててて「「「寢ね寢ねねなななむむんととといふいふいうものものものををを」」」とととててて忍しの忍しのしのびびびててて引ひ引ひひききき入い入いいりりり給たま給たまたまふふうにににつきつきつきてててすべりすべりすべり入い入いいりりりててて「「「今いま今いまいまはははまろまろまろぞぞぞ思おも思おもおもふふうべきべきべき人ひと人ひとひと。。。ななな疎うと疎うとうとみみみ給たま給たまたまひひいそそそ」」」とととののの給のたま給のたまのたまふふう。。。
  16. 16乳母めのと乳母めのとめのと「「「いでいでいであなあなあなうたてうたてうたてややや。。。ゆゝしうゆゝしうゆゆしゅうももも侍はべ侍はべはべるるるかなかなかな。。。聞きこ聞きこきこえええ知し知ししらせらせらせ給たま給たまたまふふうともともとも更さら更さらさらににに何なに何なになにのののしるししるししるしももも侍はべ侍はべはべらららじじじものものものををを」」」とととててて苦くる苦くるくるしげしげしげににに思おも思おもおもひひいたれたれたればばば「「「さりともさりともさりともかゝるかゝるかかる御おん御おんおん程ほど程ほどほどをををいかゞいかゞいかがはははあらあらあらむむん。。。猶なほ猶なほなお唯ただ唯ただただ世よ世よよににに知し知ししらららぬぬぬ志こころざし志こころざしこころざしののの程ほど程ほどほどををを見み見みみはてはてはて給たま給たまたまへへえ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。
  17. 17霰あられ霰あられあられ降ふ降ふふりりり荒あ荒ああれれれてててすごきすごきすごき夜よ夜よよのののさまさまさまなりなりなり。。。「「「いかでいかでいかでかうかうこう人ひと人ひとひと少ずく少ずくずくなななににに心こころ心こころこころ細ぼそ細ぼそぼそくくくてててすぐしすぐしすぐし給たま給たまたまふふうらむらむらん」」」とととうちうちうち泣な泣なないいい給たま給たまたまひひいててていといといと見み見みみ捨す捨すすててて難がた難がたがたききき程ほど程ほどほどなれなれなればばば、、、
  18. 18「「「御おん御おんおん格子かうし格子かうしこうしまゐりまゐりまいりねねね。。。ものものもの恐おそろ恐おそろおそろしきしきしき夜よ夜よよのののさまさまさまなななめるめるめるををを、、、とのゐとのゐとのい人びと人びとびとにてにてにて侍はべ侍はべはべらららむむん。。。人々びと人々びとびと近ちか近ちかちこううう侍はべ侍はべはべらららはれはれはれよよよかしかしかし」」」とととててていといといと馴な馴ななれれれがほがほがおにににみみみ帳ちやう帳ちやうちょうののの內うち內うちうちにににかきかきかき抱いだ抱いだいだきききててて入い入いいりりり給たま給たまたまへへえばばば、、、怪あや怪あやあやしうしうしゅう思おも思おもおもひひいのののほかほかほかにににもももとととあきれあきれあきれててて誰たれ誰たれたれももも誰たれ誰たれたれももも居ゐ居ゐいたりたりたり。。。
  19. 19乳母めのと乳母めのとめのとははは後うしろ後うしろうしろめたうめたうめとうわりなしわりなしわりなしととと思おも思おもおもへへえどどど、、、あらましうあらましうあらましゅう聞きこ聞きこきこえええ騷さわ騷さわさわぐぐぐべきべきべきならならならねねねばばばうちうちうち歎なげ歎なげなげきききつゝつゝつつ居ゐ居ゐいたりたりたり。。。
  20. 20若君わかぎみ若君わかぎみわかぎみはははいといといと恐おそろ恐おそろおそろしうしうしゅう、、、いかならいかならいかならむむんとととわなゝかわなゝかわななかれれれててて、、、いといといとうつくしきうつくしきうつくしき御おん御おんおんはだつきはだつきはだつきもももそゞろそゞろそぞろ寒さむ寒さむさむげげげにににおぼしおぼしおぼしたるたるたるををを、、、らうたくらうたくろうたくおぼえおぼえおぼえてててひとへひとへひとえばかりばかりばかりををを押お押おおしししくゝみくゝみくくみててて我わ我わわががが御心みこころ御心みこころみこころちちちもももかつかつかつはははうたてうたてうたて覺おぼ覺おぼおぼえええ給たま給たまたまへへえどどど哀あはれ哀あはれあわれにににうちうちうち語かた語かたかたらひらひらい給たま給たまたまひひいててて
  21. 21「「「いざいざいざ給たま給たまたまへへえよよよ。。。をかしきをかしきおかしき繪ゑ繪ゑえなどなどなど多おほ多おほおおくくく、、、ひゝなひゝなひいな遊あそび遊あそびあそびなどなどなどするするする所ところ所ところところににに」」」ととと心こころ心こころこころにににつくつくつくべきべきべき事こと事ことことをををのたまふのたまふのたまうけはひけはひけわいのののいといといと懷なつ懷なつなつかしきかしきかしきををを、、、をさなきをさなきおさなき心地ここち心地ここちここちにににもももいといといと痛いた痛いたいとうううもももおぢおぢおじずずず、、、さすがにさすがにさすがにむつかしうむつかしうむつかしゅう寢ね寢ねねももも入い入いいらららずずずみじろぎみじろぎみじろぎ臥ふ臥ふふししし給たま給たまたまへへえりりり。。。
  22. 22夜一夜よひとよ夜一夜よひとよよひとよ風かぜ風かぜかぜ吹ふ吹ふふききき荒あ荒ああるゝるゝるるににに「「「げにげにげにかうかうこうおはせおはせおわせざらざらざらましかましかましかばばばいかにいかにいかに心こころ心こころこころ細ぼそ細ぼそぼそからからからましましまし。。。同おな同おなおなじくじくじくはははよろしきよろしきよろしき程ほど程ほどほどにににおはしまさおはしまさおわしまさましかましかましかばばば」」」とととさゝめきさゝめきささめきあへあへあえりりり。。。乳母めのと乳母めのとめのとははは後うしろ後うしろうしろめたさめたさめたさにににいといといと近ちか近ちかちこううう侍さぶら侍さぶらさぶらふふう。。。
  23. 23風かぜ風かぜかぜ少すこ少すこすこししし吹ふ吹ふふききき止や止ややみみみたるたるたるににに夜よ夜よよ深ふか深ふかふこううう出い出いいででで給たま給たまたまふふうももも事こと事ことことありがほありがほありがおなりなりなりややや。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

忌みの期間が過ぎて、少女が京の邸に戻ったとお聞きになったので、しばらくたってから、源氏は自ら、のんびりとした夜においでになった。たいそうもの寂しく荒れた所で、人も少ないので、どんなに幼い人は怖いだろうと思われる。いつもの部屋にお入れ申し上げて、少納言は、尼君のご臨終の様子などを泣きながら申し上げ続けるので、源氏もわけもなくお袖を濡らされる。

「父宮のもとにお移し申し上げようということになっておりますが、亡くなった姫君(若君の母)が、たいそう薄情でつらい方とお思い申し上げていらっしゃった宮の北の方のもとに、まったくの赤子というわけでもない年ごろで、まだはっきりと人の気持ちもおわかりにならず、中途半端なお年で、大勢いらっしゃるというお子たちの中に、軽んじられる者としてまじっていかれるのではないかなどと、亡くなった尼君がいつもお嘆きになっていたのも、もっともなことが多くございますので、

こうしてもったいない、仮初めのお言葉でも、将来のお心も考えず、たいそううれしく存じるはずの折ではございますが、若君は少しもお似合いになるようなご様子でもなく、お年よりも幼くていらっしゃいますので、たいそうお気の毒でございます」と申し上げる。

源氏は「どうしてこうくり返し申し上げている私の気持ちを、遠慮なさるのでしょう。そのお話にならないほど幼いご様子がいとしく、会いたいと思われるのも、前世からの格別な縁なのだと、我ながら思い知られるのです。やはり人づてではなく、直接申し上げたい。若い葦の生える浦で、見る目(逢う機会)はむずかしくても、このまま立ち返る波でしょうか。失礼なことでしょうが」とおっしゃると、少納言は「本当に恐れ多いことで」と言って、

「寄せる波のお心もわからないまま、和歌の浦の玉藻がなびいてしまうのは、浮ついたことです。困ったことで」と申し上げる様子が物慣れているので、源氏は少し失礼を許す気になりなさる。「なぞ越えざらむ」と口ずさみなさるのを、若い女房たちは身にしみて聞いている。

少女は祖母君を恋しがり申し上げて、泣き伏していらっしゃったが、遊び相手の童たちが「直衣を着た人がいらっしゃいます。父宮がおいでになったのでしょう」と申し上げると、起き出してきて、「少納言、直衣を着ていた人はどこ。父宮がいらしたの」と言って近寄っていらっしゃったお声がたいそうかわいらしい。

源氏が「宮ではないけれど、私も見捨ててよい者ではありませんよ。こちらへ」とおっしゃるのを、あの立派な人だとさすがに聞き分けて、まずいことを言ってしまったとお思いになって、乳母に寄り添って、「ねえ、もう行きましょう。眠いの」とおっしゃると、源氏は「今さら、どうして隠れようとなさるのです。私の膝の上でお休みなさい。もう少しこちらへ」とおっしゃるので、乳母が「ですから、このようにまだ男女のことなど何もわからないお年で」と言って、少女を源氏のほうへ押しやり申し上げると、少女は何の気もなく座っていらっしゃるので、

源氏が御簾の中に手を差し入れて探りなさると、やわらかな着物に髪がつやつやとかかって、その先のふさふさとした手ざわりが、たいそうかわいらしく思いやられる。手をお取りになると、いやな、見知らぬ人がこうして近づいていらっしゃるのが怖くて、「寝ようと言っているのに」と言って、無理に奥へ入ろうとなさるのについて、源氏もすべるように入って、「今は私こそが、あなたを大切に思う人ですよ。嫌がらないでください」とおっしゃる。

乳母が「まあ、困ったこと。とんでもないことでございます。いくらお話しになっても、まったく何のかいもございませんでしょうに」と言って、困ったように思っているので、源氏は「いくら何でも、こんなお年の方に、どうこうしようというのではありません。ただ、世に類のない私の気持ちのほどを、最後まで見届けてください」とおっしゃる。

霰が降って荒れ、もの寂しい夜の様子である。源氏は「どうしてこんなに人少なに、心細くお過ごしになっているのだろう」と泣きなさって、たいそう見捨てがたい様子なので、「御格子を下ろしなさい。何だか恐ろしい夜の様子のようだから、私が宿直の者としてお仕えしよう。みなさん、近くにお控えなさい」と言って、たいそう慣れた様子で御帳台の中に少女を抱いてお入りになるので、女房たちは誰もかれも、思いもよらないことだとあきれて座っている。

乳母は心配で困ったことだと思うけれど、荒々しく騒ぎ立て申し上げるわけにもいかないので、ため息をつきながら座っている。若君はたいそう怖くて、どうなるのだろうと震えて、たいそうかわいらしいお肌も寒そうにしていらっしゃるのを、源氏はいとしく思って、単衣だけでくるんで、ご自分でも一方では妙なことだとお思いになるが、しみじみと語りかけなさって、

「さあ、私の所へいらっしゃい。きれいな絵などもたくさんあって、人形遊びなどもする所に」と、少女の気に入りそうなことをおっしゃる様子がたいそうやさしいので、少女は子ども心にも、それほどひどくは怖がらないが、やはり気味が悪くて寝つかれず、身じろぎしながら横になっていらっしゃる。

一晩中風が吹き荒れるので、女房たちは「本当に、こうしておいでにならなかったら、どんなに心細かったことでしょう」「同じことなら、若君がお似合いの年ごろでいらっしゃったら」とささやき合っている。乳母は心配で、すぐそばにお控えしている。風が少し吹きやんだので、源氏が夜深いうちにお帰りになるのも、まるで恋人のもとから帰るようである。

意訳

尼君の死後、源氏は少女の邸を訪ねる。少納言の乳母は、父宮に引き取られても、継母のもとで軽んじられるだろうと心配している。

父宮が来たと思って駆けてきた少女を、源氏は膝に抱き寄せる。霰の降る荒れた夜、源氏は宿直をすると言って少女を抱いて御帳台に入る。女房たちは驚くが、源氏はやさしく語りかけて、怖がる少女をなだめる。

源氏の行動は、乳母や女房たちには非常識に見える。しかし源氏は、心細く暮らす少女を見捨てることができない。このあと源氏は、少女を自分の邸に引き取ることを決意する。

語釈・文法注

なぞ越えざらむ
「人知れぬ身はいそげども年を経てなど越えがたき逢坂の関」(『後撰集』)などをふまえた言葉とされる。どうして越えられないことがあろうか、と思いを遂げる決意を表す。

文法

禁止の「な…そ」(な疎み給ひそ)
「嫌がらないでください」。やわらかな禁止。
命令の「ね」(御格子まゐりね)
完了の助動詞「ぬ」の命令形。「(格子を)下ろしてしまいなさい」。
反実仮想「ましかば…まし」(おはせざらましかば…心細からまし)
「おいでにならなかったら、どんなに心細かっただろう」。

和歌

あしわかの浦にみるめはかたくともこは立ちながらかへる波かは

詠者
光源氏
状況
少女の幼さを理由に断る少納言の乳母に、源氏が詠んだ歌。幼い若君に逢うのはむずかしくても、私は立ったまま引き返す波のように、このまま帰りはしません。

修辞

掛詞
「あしわか」に、葦の若芽と幼い少女を、「みるめ」に海藻の「海松布」と「見る目(逢う機会)」を重ねる。
縁語
「浦」「みるめ」「波」「かへる」が海の縁語。

寄る波の心もしらでわかの浦に玉藻なびかむほどぞうきたる

詠者
少納言の乳母
状況
源氏の歌への少納言の返歌。寄せる波(あなた)のお心もわからないまま、和歌の浦の玉藻(若君)がなびいてしまうのは、浮ついた頼りないことです。

修辞

掛詞
「うきたる」に、玉藻が「浮きたる」意と、「憂き(つらい)」意を重ねる。

解説

霰の夜の場面は、源氏と少女の関係が大きく動く場面である。源氏は少女を膝に抱き、御帳台の中で一夜を過ごす。もちろん少女はまだ子どもで、源氏も何もしないが、女房たちから見れば、まるで男が女のもとに通ってきたかのような振る舞いである。

語り手の「事ありがほなりや」という言葉には、源氏の行動を皮肉に見る目がある。若い源氏の一途さと、それがはた目にはどう見えるかが、巧みに描き分けられている。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、106–109頁(コマ55–56)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日