源氏物語 第5帖 若紫(10)
藤壺との逢瀬と懷妊
病のため里に下がった藤壺に、源氏は王命婦の手引きで逢う。藤壺はかつての過ちを悔いて嘆くが、その気高さはやはり誰にも似ていない。短い夏の夜に、二人は夢のような逢瀬を嘆く歌を交わす。その後、藤壺は懷妊し、三か月になって人々も気づく。源氏は不思議な夢を夢解きに占わせ、思いもよらない運命を告げられる。七月、藤壺は参内し、帝の寵愛はいっそう深まる。

- 1藤壺藤壺ふじつぼののの宮宮みや惱惱なやみみみ給給たまふふう事事ことありありありてててまかでまかでまかで給給たまへへえりりり。。。うへうへうえのののおぼつかながりおぼつかながりおぼつかながり歎歎なげききき聞聞きこえええ給給たまふふう御御おん氣色氣色けしきもももいといといといとほしういとほしういとおしゅう見見み奉奉たてまつりりりながらながらながら、、、斯斯かかるるる折折おりだにだにだにととと心心こころもももあくがれあくがれあくがれ惑惑まどひひいててていづくいづくいずくにににもももいづくいづくいずくにににももも詣詣もうででで給給たまははわずずず。。。
- 2內內うちにてにてにてももも里里さとにてにてにてももも晝晝ひるはははつくづくつくづくつくづくととと詠詠ながめめめ暮暮くらしししててて、、、暮暮くるれるれるればばばをををせめせめせめありきありきありき給給たまふふう。。。
- 3いかゞいかゞいかがたばかりたばかりたばかりけむけむけん、、、いといといとわりなくわりなくわりなくててて見見み奉奉たてまつるるる程程ほどさへさへさへ現現うつつとととははは覺覺おぼえええぬぬぬぞぞぞわびしきわびしきわびしきややや。。。宮宮みやもももあさましかりあさましかりあさましかりをををおぼしおぼしおぼし出出いづるづるずるだにだにだによよよととと共共ともののの御御おん物思物思ものおもひひいなるなるなるををを、、、さてさてさてだにだにだにやみやみやみなななむむんととと深深ふこううう覺覺おぼしししたるたるたるににに、、、
- 4いといといと心心こころ憂憂うくくくててていみじきいみじきいみじき御御おん氣色氣色けしきなるなるなるものものものからからから懷懷なつかしうしうしゅうらうたげらうたげろうたげににに、、、さりとてさりとてさりとてうちとけうちとけうちとけずずず心心こころ深深ふこううう耻耻はずかしげかしげかしげなるなるなる御御おんもてなしもてなしもてなしなどなどなどののの猶猶なお人人ひとににに似似にさせさせさせ給給たまははわぬぬぬををを、、、などなどなどかかかなのめなのめなのめなるなるなることことことだにだにだにうちうちうち交交まじりりり給給たまははわざりざりざりけむけむけんとととつらうつらうつろうさへさへさへぞぞぞおぼさおぼさおぼさるゝるゝるる。。。
- 5何事何事なにごとをををかかかははは聞聞きこえええつくしつくしつくし給給たまははわむむん。。。くらぶくらぶくらぶのののにににやどりやどりやどりももも取取とらららまほしげまほしげまほしげなれなれなれどどど、、、あやにくあやにくあやにくなるなるなる短夜短夜みじかよにてにてにてあさましうあさましうあさましゅうなかなかなかなかなかなかなりなりなり。。。
- 6「「「見見みてててもももまたまたまた逢逢あふふう夜夜よまれまれまれなるなるなる夢夢ゆめののの中中うちにににやがてやがてやがてまざるゝまざるゝまざるる我我わががが身身みともともともがながながな」」」とととむせむせむせかへらかへらかえらせせせ給給たまふふうさまさまさまもももさすがにさすがにさすがにいみじけれいみじけれいみじければばば、、、
- 7「「「世世よがたりがたりがたりににに人人ひとややや傳傳つたへへえむむんたぐひたぐひたぐいなくなくなくうきうきうき身身みをををさめさめさめぬぬぬ夢夢ゆめににになしなしなしてててももも」」」。。。おもほしおもほしおもおし亂亂みだれれれたるたるたるさまさまさまもももいといといとことわりことわりことわりにににかたじけなしかたじけなしかたじけなし。。。
- 8命婦命婦みょうぶののの君君きみぞぞぞ御御おんなほしなほしなおしなどなどなどはははかきかきかき集集あつめめめもてもてもて來來くるるる。。。殿殿とのにににおはしおはしおわしてててなきなきなきねねねににに臥臥ふしししくらしくらしくらし給給たまひひいつつつ。。。
- 9御文御文ふみなどなどなどももも例例れいののの御覽御覽ごらんじじじ入入いれれれぬぬぬよしよしよしのみのみのみあれあれあればばば、、、常常つねののの事事ことながらながらながらもももつらうつらうつろういみじういみじういみじゅうおもほしおもほしおもおしほれほれほれててて、、、うちうちうちへへへももも參參まいらららででで二三日二三日ふつかみか籠籠こもりりりおはすれおはすれおわすればばば、、、またまたまたいかなるいかなるいかなるにににかかかととと御心御心みこころ動動うごかせかせかせ給給たまふふうべかべかべかめるめるめるももも恐恐おそろしうろしうろしゅうのみのみのみおもほえおもほえおもおえ給給たまふふう。。。
- 10宮宮みやももも、、、猶猶なおいといといと心心こころうきうきうき身身みなりなりなりけりけりけりとととおぼしおぼしおぼし歎歎なげくくくににに惱惱なやましさしさしさもももまさりまさりまさり給給たまひひいててて、、、とくとくとく參參まいりりり給給たまふふうべきべきべき御御おん使使つかいしきれしきれしきれどどどおもほしおもほしおもおしももも立立たたたたずずず。。。
- 11誠誠まことににに御心御心みこころちちち例例れいのののやうやうようにににもももおはしまさおはしまさおわしまさぬぬぬはははいかなるいかなるいかなるにににかかかととと人人ひと知知しれれれずずずおぼすおぼすおぼす事事こともももありありありけれけれければばば心心こころうくうくうく、、、いかならいかならいかならむむんとととのみのみのみおぼしおぼしおぼし亂亂みだるるる。。。
- 12あつきあつきあつき程程ほどはははいとゞいとゞいとど起起おきききもももあがりあがりあがり給給たまははわずずず、、、みつきみつきみつきににになりなりなり給給たまへへえばばばいといといとしるきしるきしるきほどほどほどにてにてにて人々人々びと見見み奉奉たてまつりりり咎咎とがむるむるむるににに、、、あさましきあさましきあさましき御御おんすくせすくせすくせののの程程ほど心心こころうしうしうし。。。
- 13人人ひとははは思思おもひひいよらよらよらぬぬぬことことことなれなれなればばば、、、このこのこの月月つきまでまでまで奏奏そうせせせさせさせさせ給給たまははわざりざりざりけるけるける事事ことととと驚驚おどろききききこゆきこゆきこゆ。。。我我わががが御心御心みこころ一一ひとつつつにににはははしるうしるうしるうおぼしおぼしおぼし分分わくくくことことこともももありありありけりけりけり。。。
- 14御湯殿御湯殿ゆどのなどなどなどにににももも親親したしうしうしゅう仕仕つこうううまつりまつりまつりててて何事何事なにごとののの御御おんけしきけしきけしきをををもももしるくしるくしるく見見み奉奉たてまつりりり知知しれれれるるる御御おんめのとごめのとごめのとごののの辨辨べん命婦命婦みょうぶなどなどなどぞぞぞ怪怪あやしししととと思思おもへへえどどどかたみかたみかたみににに言言いひひい合合あわすすすべきべきべきにににあらあらあらねねねばばば、、、猶猶なお遁遁のがれれれ難難がたかりかりかりけるけるける御御おん宿世宿世すくせをををぞぞぞ命婦命婦みょうぶはははあさましあさましあさましととと思思おもふふう。。。
- 15內內うちにににははは御御おんものものものゝゝのけけけのののまぎれまぎれまぎれにてにてにてとみとみとみにににけしきけしきけしきなうなうのうおはしましおはしましおわしましけるけるけるやうやうようにににぞぞぞ奏奏そうしししけむけむけんかしかしかし。。。皆人皆人みなひともももさささのみのみのみ思思おもひひいけりけりけり。。。いとゞいとゞいとど哀哀あわれにににかぎりかぎりかぎりなうなうのう覺覺おぼささされれれててて御御おん使使つかいなどなどなどのののひまひまひまなきなきなきもももそらそらそら恐恐おそろしうしうしゅう物物ものをををおもほすおもほすおもおす事事ことひまひまひまなしなしなし。。。
- 16中將中將ちゅうじょうののの君君きみもももおどろおどろしうおどろおどろしうおどろおどろしゅうさまさまさま異異ことなるなるなる夢夢ゆめををを見見み給給たまひひいててて、、、合合あわするするするををを召召めしししててて問問とはははせせせ給給たまへへえばばば、、、及及およびびびなうなうのう覺覺おぼしししもももかけかけかけぬぬぬすぢすぢすじののの事事ことををを合合あわせせせけりけりけり。。。
- 17「「「そのそのそのなかなかなかにににたがひめたがひめたがいめありありありててて愼愼つつしままませせせ給給たまふふうべきべきべき事事ことなむなむなん侍侍はべるるる」」」ととといふいふいうににに、、、煩煩わずらわしくしくしく覺覺おぼえええててて「「「みづからみづからみずからののの夢夢ゆめにににはははあらあらあらずずず人人ひとののの御御おん事事ことををを語語かたるるるなりなりなり、、、このこのこの夢夢ゆめ合合あふふうまでまでまでまたまたまた人人ひとにににまねぶまねぶまねぶななな」」」とととののの給給のたまひひいててて、、、
- 18心心こころののの中中うちにににははは、、、いかなるいかなるいかなることことことならならならむむんとととおぼしおぼしおぼしわたるわたるわたるににに、、、このこのこの宮宮みやののの御御おん事事こと聞聞きききき給給たまひひいててて、、、もしもしもしさるさるさるやうやうようもももやややととと覺覺おぼししし合合あわせせせ給給たまふふうににに、、、いとゞしくいとゞしくいとどしくいみじきいみじきいみじき言言いののの葉葉はををを盡盡つくししし聞聞きこえええ給給たまへへえどどど、、、
- 19命婦命婦みょうぶももも思思おもふふうにににいといといとむくつけうむくつけうむくつきょう煩煩わずらわしさしさしさ增增まさりりりててて更更さらにににたばかるたばかるたばかるべきべきべきかたかたかたなしなしなし。。。はかなきはかなきはかなき一一ひとくだりくだりくだりののの御御おん返返かえりりりのののたまさかたまさかたまさかなりなりなりしししももも絕絕たえええはてはてはてにににたりたりたり。。。
- 20七月七月ふみづきににになりなりなりてててぞぞぞ參參まいりりり給給たまひひいけるけるける。。。珍珍めずらしうしうしゅうあはれあはれあわれにてにてにていとゞしきいとゞしきいとどしき御御おん思思おもひひいののの程程ほどかぎりかぎりかぎりなしなしなし。。。少少すこしししふくらかふくらかふくらかににになりなりなり給給たまひひいてててうちうちうち惱惱なやみみみおもやせおもやせおもやせ給給たまへへえるるる、、、はたはたはたげにげにげに似似にるるるものものものなくなくなくめでたしめでたしめでたし。。。
- 21例例れいのののあけあけあけ暮暮くれこなたこなたこなたにににのみのみのみおはしましおはしましおわしましててて、、、御御おん遊遊あそびもももやうやうやうやうようようをかしきをかしきおかしきころころころなれなれなればばば、、、源氏源氏げんじののの君君きみもももいとまいとまいとまなくなくなくめしめしめしまつはしまつはしまつわしつゝつゝつつ御御おん琴琴こと笛笛ふえなどなどなどさまざまさまざまさまざまににに仕仕つこうううまつらまつらまつらせせせ給給たまふふう。。。
- 22いみじういみじういみじゅうつゝみつゝみつつみ給給たまへへえどどど忍忍しのびびび難難がたきききけしきけしきけしきののの漏漏もりりり出出いづるづるずる折々折々おりおり、、、宮宮みやもももさすがさすがさすがなるなるなる事事ことどもどもどもををを多多おおくくく覺覺おぼしししつゞけゝつゞけゝつづけけりりり。。。
現代語訳
藤壺の宮は、ご病気になることがあって、宮中から里へ退出なさった。帝が心配してお嘆き申し上げなさるご様子も、源氏はたいそうおいたわしく拝見しながら、せめてこうした折にだけでもと、心もうわの空になって、どこへもどこへもお出かけにならない。宮中でも自邸でも、昼はつくづくと物思いにふけって暮らし、日が暮れると王命婦を責めて頼みこみなさる。
どのように手引きしたのだろうか、たいそう無理をしてお逢い申し上げる間さえ、現実とは思われないのがつらいことだ。宮も、思いもかけなかったあの時のことを思い出しなさるだけでも、生涯の悩みの種なので、せめてそれきりで終わりにしようと深く決心していらっしゃったのに、たいそう情けなく、ひどくつらそうなご様子でありながら、慕わしくかわいらしく、それでいて打ち解けず、思慮深く気がひけるほど立派なおふるまいなどが、やはり誰にも似ていらっしゃらないのを、源氏は、どうして少しでも人並みの欠点がおありにならないのだろうと、恨めしくまでお思いになる。
何をお話し申し上げ尽くすことができようか。くらぶの山に宿を取りたいほどだが、あいにくの短い夏の夜で、あきれるほどかえってつらい。源氏は「お逢いしても、また逢える夜はめったにない、この夢の中に、このまま消えてしまう我が身であってほしい」と、むせび泣きなさる様子も、さすがに痛々しいので、宮は「世間の語り草として人が伝えるのではないでしょうか、比べるもののないほどつらいこの身を、さめない夢のことにしても」。思い乱れていらっしゃる様子も、まことにもっともで、恐れ多い。
命婦の君が、源氏のお直衣などをかき集めて持ってくる。源氏は自邸にお帰りになって、泣き寝入りして一日をお過ごしになった。お手紙なども、いつものようにご覧にならないとばかり返事があるので、いつものことながら、ひどくつらくぼんやりとなさって、宮中にも参上しないで二、三日籠っていらっしゃるので、帝が、またどうしたのかとご心配になっているらしいのも、ただ恐ろしく思われなさる。
宮も、やはりたいそうつらい身の上だったとお嘆きになるにつけて、ご気分の悪さもまさりなさって、早く参内なさるようにというお使いがしきりにあるけれど、その気にもおなりにならない。本当に、ご気分がいつものようでいらっしゃらないのはどうしたことかと、人知れず思い当たることもあったので、情けなく、どうなるのだろうとばかり思い乱れていらっしゃる。
暑いころは、いっそう起き上がることもなさらない。三か月におなりになると、たいそうはっきりとわかるほどになって、人々が拝見してお気づき申し上げるにつけても、思いがけない宿縁のほどがつらい。人々は思いもよらないことなので、この月まで帝に奏上なさらなかったことよと驚き申し上げる。宮ご自身のお心ひとつには、はっきりとおわかりになることもあった。
お湯殿などにも親しくお仕えして、何事のご様子もはっきりと存じ上げている、乳母の子の弁の命婦などは、不審に思うけれど、互いに口に出して言い合うことでもないので、王命婦は、やはり逃れられなかったご宿縁を、あきれたことと思う。帝には、物の怪のせいで、すぐにはそれとわからなかったように奏上したのだろう。人々もみなそう思っていた。帝はいっそういとしく、限りなくお思いになって、お使いなどがひっきりなしにあるのも、宮は空恐ろしく、物思いの絶える時がない。
中将の君(源氏)も、おどろおどろしい、普通とは違う夢をご覧になって、夢解きの者を呼んでお尋ねになると、及びもつかない、思いもかけない方面のことを占った。「その中に、思いどおりにならないことがあって、お慎みにならなければならないことがございます」と言うので、源氏はわずらわしく思って、「自分の夢ではない。人の夢のことを話したのだ。この夢がかなうまで、ほかの人に話すな」とおっしゃって、
心の中では、どういうことだろうと思い続けていらっしゃると、この宮のご懷妊のことをお聞きになって、もしかしたらそういうことかと思い当たりなさるので、いっそう切実な言葉を尽くしてお便り申し上げなさるが、命婦も、考えるとたいそう恐ろしく、わずらわしさがまさって、まったく手引きのしようもない。ほんのわずかな一行のご返事がたまにあったのも、すっかり途絶えてしまった。
七月になって、宮は参内なさった。帝は珍しくもいとしくて、いっそう深いご寵愛のほどは限りがない。少しふっくらとなさって、悩ましげに面やつれしていらっしゃるのが、また本当に比べるものもなくすばらしい。いつものように明け暮れこちらにばかりいらっしゃって、管絃のお遊びもだんだん趣深い季節なので、源氏の君もひっきりなしにお召し寄せになっては、琴や笛などをさまざまに演奏させなさる。源氏はひどく隠していらっしゃるが、こらえきれない様子が漏れ出る折々、宮もさすがに、あれこれと思い続けていらっしゃるのだった。
意訳
若紫の巻のもう一つの中心となる場面である。源氏は王命婦の手引きで藤壺と逢う。「あさましかりし」とあるように、二人には以前にも逢瀬があった。藤壺は二度とくり返すまいと決めていたが、またこうなってしまった。
短い夏の夜の逢瀬は、夢のようにはかない。源氏は夢の中に消えたいと詠み、藤壺は、夢としても世間の語り草になるのではないかと恐れる。
藤壺は懷妊する。源氏の子である。帝は何も知らず、藤壺をいっそう寵愛する。源氏の見た不思議な夢は、生まれてくる子が帝位につくことを予言するものだった。
語釈・文法注
- 王命婦
- 藤壺に仕える女房。源氏と藤壺の仲立ちをする。
- あさましかりし
- 以前にあった源氏との逢瀬のこと。物語の中では直接描かれていないが、それ以前にも二人の関係があったことが示されている。
- くらぶの山
- 鞍馬山の古名とされる。「暗部(くらぶ)」の名から、夜が明けない暗い山として、いつまでも夜であってほしいという気持ちを表す。
- 合するもの
- 夢合わせをする者。夢の意味を占う「夢解き」。
文法
- 願望の「もがな」(我が身ともがな)
- 「…であってほしい」。実現しにくいことを願う。
- 過去推量の「けむ」(いかゞたばかりけむ)
- 「どのように手引きしたのだろうか」。語り手が過去のことを推し量る。
- 禁止の「な」(まねぶな)
- 「(人に)話すな」。
和歌
見てもまた逢ふ夜まれなる夢の中にやがてまざるゝ我が身ともがな
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 藤壺との短い逢瀬の夜、別れを嘆いて詠んだ歌。こうしてお逢いしても、また逢える夜はめったにない、この夢の中に、このまま消えてしまう我が身であってほしい。
修辞
- 比喩
- 逢瀬を「夢」にたとえ、現実に戻りたくない気持ちを詠む。
世がたりに人や傳へむたぐひなくうき身をさめぬ夢になしても
- 詠者
- 藤壺
- 状況
- 源氏の歌への藤壺の返歌。世間の語り草として人が伝えるのではないでしょうか、比べるもののないほどつらいこの身を、さめない夢の中のことにしても。
修辞
- 応答
- 源氏の「夢」を受けて、たとえ夢としても、この罪は世間に知られてしまうのではないかと恐れる。
解説
藤壺との密通と懷妊は、源氏物語全体をつらぬく大きな秘密である。生まれた子はのちに冷泉帝として即位する。源氏は帝の実の父となるが、そのことは誰にも明かせない。
源氏が見た夢と、それを解いた夢解きの言葉は、生まれる子が帝位につくことを暗示している。「たがひめありて愼ませ給ふべき事」は、源氏自身が一時、須磨に退くことになる運命も予告しているとされる。
何も知らない帝が、藤壺をいっそう寵愛し、源氏を召して管絃を奏でさせる場面は、皮肉で痛ましい。源氏と藤壺は、帝の前で、互いの思いを押し殺さなければならない。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、102–105頁(コマ53–54)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日