源氏物語 第5帖 若紫(1)
北山の聖
瘧病にかかった源氏は、加持祈祷のききめがないので、北山の寺に住む聖を頼り、三月の末にお忍びで出かける。山桜の盛りの中、聖の加持を受けた源氏は、外に出て山の下を見わたし、小柴垣をめぐらした美しい僧坊に目をとめる。そこには女たちの姿が見える。

- 1にににわづらひわづらひわずらい給給たまひひいてててよろづよろづよろずにににまじなひまじなひまじない加持加持かじなどなどなどせせせさせさせさせ給給たまへへえどどどしるししるししるしなくなくなくてててあまたあまたあまたたびたびたび起起おこりりり給給たもうううけれけれければばば、、、
- 2或或ある人人ひと「「「北山北山きたやまににになむなむなんなにがしなにがしなにがし寺寺でらととといふいふいう所所ところににに賢賢かしこきききおこなひおこなひおこない人人びと侍侍はべるるる。。。去年去年こぞののの夏夏なつももも世世よにににおこりおこりおこりててて人々人々びとまじなひまじなひまじない煩煩わずらひひいしししををを頓頓やがててて留留とどむるむるむる類類たぐいあまたあまたあまた侍侍はべりりりききき。。。
- 3つるつるつる時時ときはははうたてうたてうたて侍侍はべるるるををを疾疾とくくくこそこそこそ試試こころみみみさせさせさせ給給たまははわめめめ」」」などなどなど聞聞きこゆれゆれゆればばば召召めしししににに遣遣つかわしししたるたるたるににに「「「老老おいいいかゞまりかゞまりかがまりてててのののとととにににもももまかでまかでまかでずずず」」」ととと申申もうしししたれたれたればばば
- 4「「「いかゞいかゞいかがはははせせせむむん。。。忍忍しのびびびててて物物ものせせせむむん」」」とととののの給給のたまひひいててて御供御供おおんともににに睦睦むつまじきまじきまじき四五人四五人しごにんばかりばかりばかりしししてててまだまだまだ曉曉あかつきにににおはすおはすおわす。。。
- 5やゝやゝやや深深ふこううう入入いるるる所所ところなりなりなりけりけりけり。。。三月三月やよいのののつごもりつごもりつごもりなれなれなればばば、、、京京きょうののの花盛花盛はなざかりははは皆皆みな過過すぎぎぎにににけりけりけり。。。山山やまののの櫻櫻さくらはははまだまだまだ盛盛さかりにてにてにて入入いりりりもてもてもておはするおはするおわするまゝまゝままににに霞霞かすみのののたゝずまひたゝずまひたたずまいもももをかしうをかしうおかしゅう見見みゆれゆれゆればばば、、、
- 6かゝるかゝるかかる有樣有樣ありさまもももならひならひならい給給たまははわずずず所所ところせきせきせき御身御身おおんみにてにてにて珍珍めずらしうしうしゅうおぼさおぼさおぼされれれけりけりけり。。。寺寺てらのののさまさまさまもももいといといとあはれあはれあわれなりなりなり。。。峯峯みね高高たかくくく深深ふかききき岩岩いわのののなかなかなかにににぞぞぞ聖聖ひじり入入いりりりゐゐいたりたりたりけるけるける。。。
- 7登登のぼりりり給給たまひひいててて誰誰たれともともとも知知しらせせせ給給たまははわずずずいといといといたういたういとうやつれやつれやつれ給給たまへへえれれれどどどしるきしるきしるき御御おんさまさまさまなれなれなればばば、、、「「「あなあなあなかしこかしこかしこややや。。。一日一日ひとひ召召めししし侍侍はべりりりしししにににやややおはしますおはしますおわしますらむらむらん。。。
- 8今今いまはははこのこのこの世世よののの事事ことををを思思おもひひい給給たまへへえねねねばばばののの行行おこなひひいももも棄棄すててて忘忘わすれれれててて侍侍はべるるるをををいかでいかでいかでかかかうううおはしましおはしましおわしましつつつらむらむらん」」」ととと驚驚おどろきききさわぎさわぎさわぎうちうちうちゑみゑみえみつゝつゝつつ見見み奉奉たてまつるるる。。。
- 9いといといと尊尊とうとききき大大だいとことことこなりなりなりけりけりけり。。。さるべきさるべきさるべきものものもの作作つくりりりてててすかせすかせすかせ奉奉たてまつるるる。。。加持加持かじなどなどなどまゐるまゐるまいる程程ほど日日ひ高高たかくくくさしさしさしあがりあがりあがりぬぬぬ。。。
- 10少少すこししし立立たちちち出出いでででつゝつゝつつ見見み渡渡わたししし給給たまへへえばばば、、、高高たかききき所所ところにてにてにてこゝかしここゝかしこここかしこ僧坊僧坊そうぼうどもどもどもあらはあらはあらわににに見見みおろさおろさおろさるるる。。。
- 11「「「たゞたゞただこのこのこのつゞらをりつゞらをりつづらおりのののしもしもしもににに、、、同同おなじじじこここ柴柴しばなれなれなれどどど麗麗うるわしうしうしゅうししし渡渡わたしししててて淸淸きよげげげなるなるなる屋屋やらうらうろうなどなどなど續續つづけけけててて、、、木立木立こだちいといといとよしよしよしあるあるあるははは何何なに人人びとののの住住すむむむにににかかか」」」ととと問問とひひい給給たまへへえばばば、、、
- 12御供御供おおんともなるなるなる人人ひと「「「これこれこれなむなむなんなにがしなにがしなにがし僧都僧都そうずのののこのこのこの二年二年ふたとせ籠籠こもりりり侍侍はべるるる坊坊ぼうににに侍侍はべるるるなるなるなる」」」、、、「「「心心こころ恥恥はずかしきかしきかしき人人ひと住住すむむむなるなるなる所所ところにににこそこそこそあああなれなれなれ。。。怪怪あやしうしうしゅうもももあまりあまりあまりやつしやつしやつしけるけるけるかなかなかな。。。聞聞ききききもももこそこそこそすれすれすれ」」」などなどなどののの給給のたまふふう。。。
- 13淸淸きよげげげなるなるなるわらはわらはわらわなどなどなどあまたあまたあまた出出いででで來來きててて閼伽閼伽あか奉奉たてまつりりり花花はな折折おりりりなどなどなどするするするもももあらはあらはあらわににに見見みゆゆゆ。。。
- 14「「「かしこかしこかしこににに女女おんなこそこそこそありありありけれけれけれ、、、僧都僧都そうずはははよもよもよもさやうさやうさようにににはははすゑすゑすえ給給たまははわじじじををを、、、いかなるいかなるいかなる人人ひとならならならむむん」」」ととと口々口々くちぐちいふいふいう。。。おりおりおりてててのぞくのぞくのぞくもももありありあり。。。「「「をかしげをかしげおかしげなるなるなる女子女子おんなごどもどもども若若わかききき人人ひとわらはべわらはべわらわべなむなむなん見見みゆるゆるゆる」」」ととといふいふいう。。。
現代語訳
源氏は瘧病にかかりなさって、あれこれとまじないや加持などをおさせになるが、ききめがなくて、何度も発作が起こりなさったので、ある人が、「北山に、なにがし寺という所に、すぐれた修行者がおります。去年の夏も世間で流行して、人々がまじないに手こずっていたのを、すぐに治した例がたくさんございました。こじらせてしまうと厄介ですから、早くお試しになるのがよいでしょう」などと申し上げるので、源氏はその聖を呼びにやったところ、「年老いて腰も曲がり、岩屋の外にも出られません」と申したので、「しかたがない。こっそりと出かけよう」とおっしゃって、親しいお供を四、五人ほど連れて、まだ夜明け前にお出かけになる。
少し山深く入った所であった。三月の末なので、京の花盛りはみな過ぎてしまっていた。山の桜はまだ盛りで、分け入っていらっしゃるにつれて、霞のたなびく様子も趣深く見えるので、こうした景色にもお慣れにならない、窮屈なご身分なので、珍しくお思いになった。寺の様子もたいそうしみじみとしている。峰が高く、深い岩の中に、聖はこもっていたのだった。
源氏は登っていらっしゃって、誰とも知らせなさらず、たいそうひどく身をやつしていらっしゃったが、はっきりとそれとわかるご様子なので、聖は「ああ、恐れ多いことです。先日お呼びくださった方でいらっしゃいましょうか。今はこの世のことを考えておりませんので、加持の修法も忘れてしまっておりますのに、どうしてこうしておいでになったのでしょう」と、驚き騒いで、にこにこしながら拝見する。たいそう尊い大徳であった。しかるべき護符などを作って、お飲ませ申し上げる。加持などをしてさしあげるうちに、日が高くのぼった。
源氏は少し外に出て見わたしなさると、高い所なので、あちらこちらの僧坊などがはっきりと見おろされる。「ちょうどこのつづら折りの道の下に、同じ小柴垣ではあるが、きちんとめぐらして、こざっぱりとした建物や廊などを続けて、木立もたいそう趣のあるのは、誰が住んでいるのか」とお尋ねになると、お供の人が「これは、なにがし僧都が、この二年ほどこもっております坊だそうでございます」。源氏は「気がひけるほど立派な人が住んでいる所なのだな。あまりにもみすぼらしい姿で来てしまったことだ。聞きつけられては困る」などとおっしゃる。
こざっぱりとした童などがたくさん出てきて、閼伽の水を供えたり、花を折ったりなどするのも、はっきりと見える。お供の人々は、「あそこに女がいるぞ」「僧都はまさか、そんなふうに女を住まわせてはいらっしゃるまいに」「どういう人だろう」と口々に言う。下りて行ってのぞく者もいる。「かわいらしい女の子や、若い女房、童などが見える」と言う。
意訳
若紫の巻は、源氏が瘧病の治療のために北山を訪れる場面から始まる。京ではすでに散った桜が、山ではまだ盛りで、霞がたなびいている。宮中や邸の中で暮らす源氏にとって、山の春の景色は新鮮である。
聖の加持を受けた後、源氏は高い所から、小柴垣をめぐらした僧坊を見つける。僧都の坊に女たちがいることに、お供の人々は興味をそそられる。この発見が、のちの紫の上との出会いにつながっていく。
語釈・文法注
- わらはやみ
- 瘧病(わらわやみ)。一定の間隔で発熱と悪寒をくり返す病気。今のマラリアの類とされる。
- しゝこらかし
- 「しし凝らかす」。病気をこじらせる。
- むろ
- 室(むろ)。山中の岩屋など、修行者がこもる住まい。
- げんがた
- 験方(げんがた)。加持祈祷によって病気を治す修法。
文法
- 適当・勧誘の「め」(試みさせ給はめ)
- 推量の助動詞「む」の已然形。「こそ…め」で、「…なさるのがよいでしょう」と勧める。
- 推定の「なる」(坊に侍るなる)
- 伝聞・推定の助動詞「なり」の連体形。人から聞いたことを伝えて「…だそうでございます」。
- 危ぶみの「もこそ」(聞きもこそすれ)
- 「…したら困る」。悪い事態を心配する言い方。
解説
若紫の巻の冒頭は、春の北山という新しい舞台を開く。京の花盛りは過ぎても、山ではまだ桜が盛りだという設定は、遅れて咲く花のような少女との出会いを予感させる。
源氏が高い所から僧坊を見おろす場面は、このあとの垣間見の伏線になっている。源氏物語では、男が女を「かいま見る」ことが恋の始まりとなることが多い。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、86–87頁(コマ45)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日