源氏物語 第4帖 夕顔(14)
伊予介の下向――空蟬との別れ
源氏は頭中将に遺児のことを話したいと思いながら、言い出せない。五条の宿の人々は女君の行方がわからず嘆き、右近も知らせないまま月日が過ぎる。法要の翌夜、源氏は夢で、あの院に現れた女の姿をまた見る。十月初め、伊予介は空蝉を伴って伊予へ下り、源氏は餞別とともにあの小袿を返す。立冬の日、時雨の空を眺めて、源氏は去っていった二人の女をしのぶ。

- 1頭中將頭中將とうのちゅうじょうををを見見み給給たまふふうにににもももあいなくあいなくあいなく胸騷胸騷むなさわぎぎぎてててかのかのかのののの生生おひひいたつたつたつ有樣有樣ありさま聞聞きかかかせせせまほしけれまほしけれまほしけれどどど、、、かごとかごとかごとににに懼懼おぢぢじてててうちうちうち出出いででで給給たまははわずずず。。。
- 2かのかのかの夕顏夕顏ゆうがおのののやどりやどりやどりにににはははいづかたいづかたいずかたにににととと思思おもひひい惑惑まどへへえどどど、、、そのそのそのまゝまゝままにににえええ尋尋たずねねね聞聞きこえええずずず。。。右近右近うこんだにだにだにおとづれおとづれおとずれねねねばばばあやしあやしあやしととと思思おもひひい歎歎なげきききあへあへあえりりり。。。
- 3たしかたしかたしかならならならねねねどどど、、、けはひけはひけわいをををさばかりさばかりさばかりにににやややとととさゝめきさゝめきささめきしかしかしかばばば、、、惟光惟光これみつをををかこちかこちかこちけれけれけれどどど、、、いといといとかけかけかけはなれはなれはなれけしきけしきけしきなくなくなくいひいひいいなしなしなしててて、、、猶猶なお同同おなじじじごとごとごとすきすきすきありきありきありきけれけれければばば、、、
- 4いとゞいとゞいとど夢夢ゆめののの心地心地ここちしししててて、、、若若もしししののの子子こどもどもどものののすきずきしきすきずきしきすきずきしきががが頭頭とうののの君君きみににに懼懼おぢぢじ聞聞きこえええてててやがてやがてやがて率率いててて下下くだりりりけるけるけるにににやややとととぞぞぞ思思おもひひいよりよりよりけるけるける。。。
- 5このこのこの家家いえあるじあるじあるじぞぞぞ西西にしののの京京きょうのののめのとめのとめのとのののむすめむすめむすめなりなりなりけるけるける。。。三人三人みたりそのそのその子子こはははありありありててて、、、右近右近うこんはははことことことびとびとびとなりなりなりけれけれければばば、、、「「「思思おもひひいへだてゝへだてゝへだてて御御おん有樣有樣ありさまををを聞聞きかかかせせせぬぬぬなりなりなりけりけりけり」」」ととと泣泣なききき戀戀こひひいけりけりけり。。。
- 6右近右近うこんはははたたたかしがましくかしがましくかしがましく言言いひひい騷騷さわがががれれれむむんををを思思おもひひいててて、、、君君きみももも今更今更いまさらににに漏漏もらさささじじじととと忍忍しのびびび給給たまへへえばばば、、、若君若君わかぎみののの上上うえをををだにだにだにえええ聞聞きかかかずずず、、、あさましくあさましくあさましくゆくへゆくへゆくえなくなくなくててて過過すぎぎぎ行行ゆくくく。。。
- 7君君きみははは夢夢ゆめにににだにだにだに見見みばやばやばやとととおぼしおぼしおぼし渡渡わたるるるににに、、、このこのこの法事法事ほうじししし給給たまひひいててて又又またののの夜夜よ、、、ほのかほのかほのかにににかのかのかのありありありししし院院いんながらながらながら添添そひひいたりたりたりししし女女おんなのののさまさまさまももも同同おなじじじやうやうようにてにてにて見見みえええけれけれければばば、、、
- 8荒荒あれれれたりたりたりししし所所ところににに住住すみみみけむけむけんものものものゝゝの我我わにににみみみいれいれいれけむけむけんたよりたよりたよりにににかくかくかくなりなりなりぬるぬるぬる事事ことととと覺覺おぼししし出出いづるづるずるにににもももゆゝしくゆゝしくゆゆしくなむなむなん。。。
- 9伊豫伊豫いよののの介介すけ神無月神無月かんなづきのののついたちついたちついたちごろごろごろににに下下くだるるる。。。女房女房にょうぼうののの下下くだらららむむんにににとととててて、、、たむけたむけたむけ心心こころ殊殊ことにににせせせさせさせさせ給給たまふふう。。。
- 10又又またうちうちうちうちうちうちにににもももわざとわざとわざとししし給給たまひひいててて、、、こまやかこまやかこまやかにににをかしきをかしきおかしきさまさまさまなるなるなる櫛櫛くし扇扇おうぎ多多おおくくくしししててて、、、などなどなどわざとがましくわざとがましくわざとがましくててて、、、かのかのかの小袿小袿こうちきもももつかはすつかはすつかわす。。。
- 11「「「逢逢あふふうまでまでまでのののかたみかたみかたみばかりばかりばかりととと見見みししし程程ほどにににひたすらひたすらひたすら袖袖そでののの朽朽くちちちにににけるけるけるかなかなかな」」」。。。こまやかこまやかこまやかなるなるなる事事ことどもどもどもあれあれあれどどど、、、うるさけれうるさけれうるさければばば書書かかかかずずず。。。
- 12御御おん使使つかいかへりかへりかえりにににけれけれけれどどど小君小君こぎみしししてててこうちきこうちきこうちきののの御御おんかへりかへりかえりばかりばかりばかりははは聞聞きこえええさせさせさせたりたりたり。。。
- 13「「「蟬蟬せみののの羽羽はもももたちたちたちかへかへかえてててけるけるける夏夏なつごろもごろもごろもかへすかへすかえすををを見見みてててもももねねねはははなかなかなかれれれけりけりけり」」」。。。
- 14思思おもへへえどどど怪怪あやしうしうしゅう人人ひとににに似似にぬぬぬ心心こころづよさづよさづよさにてにてにてもももふりふりふり離離はなれれれぬるぬるぬるかなかなかなととと思思おもひひいつゞけつゞけつづけ給給たまふふう。。。
- 15今日今日きょうぞぞぞ冬冬ふゆ立立たつつつ日日ひなりなりなりけるけるけるもももしるくしるくしるく、、、うちうちうちしぐれしぐれしぐれててて空空そらののの景色景色けしきいといといとあはれあはれあわれなりなりなり。。。ながめながめながめくらしくらしくらし給給たまひひいててて、、、
- 16「「「過過すぎぎぎにににしししももも今日今日きょう別別わかるゝるゝるるもももふたみちふたみちふたみちににに行行ゆくくくかたかたかた知知しらららぬぬぬ秋秋あきののの暮暮くれかなかなかな」」」。。。
- 17猶猶なおかくかくかく人人ひと知知しれれれぬぬぬ事事ことははは苦苦くるしかりしかりしかりけりけりけりととと覺覺おぼししし知知しりりりぬぬぬらむらむらんかしかしかし。。。
- 18かやうかやうかようのののくだくだしきくだくだしきくだくだしき事事ことはははあながちあながちあながちにににかくろへかくろへかくろえ忍忍しのびびび給給たまひひいしししもももいとほしくいとほしくいとおしくててて皆皆みな漏漏もらしししとゞめとゞめとどめたるたるたるををを、、、などなどなど帝帝みかどののの御子御子みこならならならむむんからからからににに見見みむむん人人ひとさへさへさへかたほかたほかたほならならならずずずものものものほめがちほめがちほめがちなるなるなるととと、、、
- 19つくりごとつくりごとつくりごとめきめきめきてててとりなすとりなすとりなす人人ひとものしものしものし給給たまひひいけれけれければばばなむなむなん、、、あまりあまりあまりものものものいひいひいいさがなきさがなきさがなき罪罪つみさりどころさりどころさりどころなくなくなく。。。
現代語訳
源氏は頭中将をご覧になるにつけても、わけもなく胸が騒いで、あの撫子(夕顔の遺児)が育っていく様子を聞かせたいけれど、恨みごとを言われるのを恐れて、口にはお出しにならない。あの夕顔の宿では、女君がどこへ行かれたのかと思い惑うが、そのままお探し申し上げることもできない。右近さえ便りをしないので、不思議だと思って嘆き合っている。
確かではないが、男の様子を、あれほどの身分の方ではないかとささやき合っていたので、惟光に恨み言を言ったが、惟光はまったく関わりのない様子で言いつくろって、やはり以前と同じように女房のもとに通っていたので、ますます夢のような気持ちがして、もしや受領の子どもで色好みの者が、頭中将を恐れ申し上げて、そのまま任国に連れて下ったのだろうかと思うのだった。
この家の主人は、西の京の乳母の娘なのだった。乳母の子は三人いて、右近は他人だったので、「隔てを置いて、ご様子を知らせないのだ」と、泣いて恋しがった。右近は右近で、やかましく言い騒がれるだろうことを思って、源氏も今さら漏らすまいと隠していらっしゃるので、若君のことさえ聞くことができず、あきれるほど行方も知れないまま月日が過ぎていく。
源氏は、せめて夢にでも見たいとお思いつづけていらっしゃったが、この法事をなさった次の夜、ほのかに、あのなにがしの院のままで、添っていた女の様子も同じように見えたので、荒れていた所に住んでいたという物の怪が、私に取りついたついでに、こうなってしまったのだとお思い出しになるにつけても、不吉なことである。
伊予介は十月の初めごろに任国へ下る。女房たちが下るのにと言って、餞別を特に心をこめてご用意させなさる。また内々にも、特別に、細やかで趣のある様子の櫛や扇をたくさん用意して、幣なども格別に用意して、あの小袿もお返しになる。
「また逢うまでの形見と思って見ているうちに、ひたすら涙で袖が朽ちてしまったことよ」。細やかなことなども書いてあったが、くだくだしいので書かない。お使いは帰ってしまったが、空蝉は小君を使いにして、小袿のご返事だけは申し上げさせた。「蝉の羽のように薄い夏衣も裁ち替える季節になりましたが、お返しくださったのを見ても、声をあげて泣かずにはいられません」。
源氏は、思ってはみても、不思議なほど人とは違う気の強さで、自分を振り捨てていってしまったことよと、思いつづけていらっしゃる。今日は立冬の日だったのもそれとわかるように、時雨が降って、空の様子もたいそうしみじみとしている。一日中物思いにふけって過ごしなさって、「亡くなった人も、今日別れていく人も、二つの道に分かれて、行く方もわからない秋の暮れであることよ」。
やはり、このように人に知られない恋は苦しいものだと、思い知りなさったことだろう。こうしたくだくだしいことは、源氏が無理に隠して忍んでいらっしゃったのもお気の毒で、すべて書き漏らしておいたのだが、どうして帝の御子だからといって、それを見知っている人までが、欠点がないかのようにほめてばかりいるのかと、作り話のように取りなす人がいらっしゃったので、こうして書いたのだが、あまりにも口さがない罪は、逃れようもないことで。
意訳
夕顔の死は、五条の宿の人々にも、頭中将にも知らされない。夕顔の宿の人々は、女君が受領の子にでも連れて行かれたのかと思い、右近の沈黙を恨む。源氏は頭中将に遺児のことを話したいと思いながら、言い出せない。
法要の翌夜、源氏は夢で、あの院に現れた女を再び見て、荒れた院に住む物の怪が自分に取りついたのだと思う。
伊予介が空蝉を連れて伊予へ下る日、源氏はあの夜に空蝉が脱ぎ捨てていった小袿を返す。立冬の時雨の空を眺めながら、源氏は、死んだ夕顔と、去っていく空蝉を一首の歌にまとめて詠む。巻の最後は、語り手が、源氏の失敗談をあえて書いたわけを語って結ばれる。
語釈・文法注
- 瞿麥(なでしこ)
- 撫子。夕顔の遺児(のちの玉鬘)のこと。帚木の巻で、頭中将の常夏の女が、子のことを撫子にたとえて詠んだ歌をふまえる。
- ずりやう
- 受領(ずりょう)。国司として地方に赴任する者。
- ぬさ
- 幣(ぬさ)。旅の安全を道祖神に祈るために捧げるもの。布や紙を細かく切ったもの。
文法
- 願望の「ばや」(夢にだに見ばや)
- 未然形について、自分の願望を表す。「せめて夢にでも見たい」。
- 推量の「らむ」(覺し知りぬらむかし)
- 語り手が、源氏の心中を推し量る言い方。「思い知りなさったことだろう」。
和歌
逢ふまでのかたみばかりと見し程にひたすら袖の朽ちにけるかな
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 伊予へ下る空蝉に、あの夜に残していった小袿を返すときに添えた歌。また逢うまでの形見と思って見ているうちに、ひたすら涙で袖が朽ちてしまったことよ。
修辞
- 誇張
- 小袿を形見として大切にしてきたが、涙で袖が朽ちるほど泣いた、と別れの悲しみを強く訴える。
蟬の羽もたちかへてける夏ごろもかへすを見てもねはなかれけり
- 詠者
- 空蝉
- 状況
- 小君を通して返した歌。蝉の羽のように薄い夏衣も裁ち替える季節になりましたが、お返しくださったのを見ても、声をあげて泣かずにはいられません。
修辞
- 掛詞
- 「たちかへ」に、衣を「裁ち替へ」る意と、季節が「立ち替へ」る意を重ねる。「ね」に「音(泣く声)」と「蝉の音」を重ねる。
- 縁語
- 「蟬の羽」「夏ごろも」「たち」「かへす」が縁語。空蝉の名と、脱ぎ捨てた小袿とを結びつける。
過ぎにしも今日別るゝもふたみちに行くかた知らぬ秋の暮かな
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 立冬の日、時雨の空を眺めながら詠んだ歌。亡くなった人も、今日別れていく人も、二つの道に分かれて、行く方もわからない秋の暮れであることよ。
修辞
- 対句
- 「過ぎにし(亡くなった夕顔)」と「今日別るゝ(伊予へ下る空蝉)」を並べ、源氏のもとを去った二人の女を一首にまとめる。
- 掛詞
- 「秋の暮」は、季節の終わりと、恋の終わりを重ねる。
解説
夕顔の巻の最後で、源氏は空蝉の小袿を返し、空蝉との恋にも区切りをつける。帚木・空蝉・夕顔の三帖は、雨夜の品定めで語られた「中の品」の女性たちとの恋の物語として、ひとまとまりになっている。立冬の日に、去っていった二人の女を詠む源氏の歌は、この三帖をしめくくる歌でもある。
巻末の語り手の言葉は、源氏物語の書き方をよく表している。帝の御子だからといって欠点のない人のようにほめてばかりいるのは作り話めいている、と言う人がいたので、源氏の失敗談もあえて書いた、と語り手は弁解する。理想化された主人公ではなく、悩み、失敗する人間としての源氏を描こうとする姿勢が、ここに表れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、85–88頁(コマ44–45)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日