源氏物語 第4帖 夕顔(7)
なにがしの院へ
十六夜の月の明け方、源氏は女を車に乗せ、右近を伴って近くの「なにがしの院」へ連れ出す。荒れはてた院で二人は一日を過ごし、源氏はようやく顔を見せて歌を詠みかけるが、女は名を明かさない。夕暮れ、源氏は宮中や六条の女君のことを思いながら、何心もない女をいとしく思う。

- 1いざよふいざよふいざよう月月つきにににゆくりなくゆくりなくゆくりなくあくがれあくがれあくがれむむんことことことををを女女おんなももも思思おもひひいやすらひやすらひやすらい、、、とかくとかくとかくののの給給のたまふふうほどほどほど、、、俄俄にわかかかににに雲雲くもがくれがくれがくれててて明明あけけけ行行ゆくくく空空そらいといといとをかしをかしをかし。。。
- 2はしたなきはしたなきはしたなき程程ほどにににならならならぬぬぬさきさきさきにににととと例例れいののの急急いそぎぎぎ出出いででで給給たまひひいててて輕輕かろらからからかにににうちうちうち載載のせせせ給給たまへへえれれればばば、、、右近右近うこんぞぞぞ乘乘のりりりけるけるける。。。
- 3そのそのそのわたりわたりわたり近近ちかきききなにがしなにがしなにがしのののにににおはしましおはしましおわしまし着着つきききててて、、、召召めししし出出いづるづるずるほどほどほど荒荒あれれれたるたるたる門門かどのののしのぶしのぶしのぶ草草ぐさ茂茂しげりりりててて見見み上上あげげげられられられたるたるたる、、、たとしへたとしへたとしえなくなくなくこぐらしこぐらしこぐらし。。。
- 4霧霧きりももも深深ふかくくく露露つゆけきけきけきににに簾垂簾垂すだれをををさへさへさへ上上あげげげ給給たまへへえれれればばば御袖御袖そでもももいたういたういとう濡濡ぬれれれにににけりけりけり。。。まだまだまだかやうかやうかようなるなるなることことことををを習習ならははわざりざりざりつるつるつるををを心心こころづくしづくしづくしなるなるなる事事ことにもにもにもありありありけるけるけるかなかなかな。。。
- 5「「「いにしへいにしへいにしえもももかくかくかくやややははは人人ひとのののまどひまどひまどいけむけむけん我我わがががまだまだまだ知知しらららぬぬぬしのゝめしのゝめしののめののの道道みち。。。ならひならひならい給給たまへへえりりりややや」」」とととののの給給のたまふふう。。。
- 6女女おんなはぢらひはぢらひはじらいててて、、、「「「山山やまののの端端はのののこゝろこゝろこころもももしらしらしらででで行行ゆくくく月月つきはははうはうはうわののの空空そらにてにてにてかげかげかげややや絕絕たえええなななむむん。。。心心こころぼそくぼそくぼそく」」」とととててて物物もの恐恐おそろしうしうしゅうすごげすごげすごげににに思思おもひひいたれたれたればばば、、、かのかのかのさしさしさしつどひつどひつどいたるたるたる住住すまひまひまいののの心心こころならひならひならいならならならむむんとととをかしうをかしうおかしゅうおぼすおぼすおぼす。。。
- 7御御おん車車くるま入入いれれれさせさせさせててて、、、西西にしののの對對たいにににおましおましおましなどなどなどよそふよそふよそう程程ほど勾欄勾欄こうらんににに御御おん車車くるまひきひきひきかけかけかけててて立立たちちち給給たまへへえりりり。。。右近右近うこんえんえんえんなるなるなる心地心地ここちしししててて、、、こしこしこし方方かたののの事事ことなどなどなどももも人人ひと知知しれれれずずず思思おもひひい出出いでででけりけりけり。。。
- 8あづかりあづかりあずかりいみじくいみじくいみじくしししてててありくありくありく氣色氣色けしきにににこのこのこの御御おんありさまありさまありさま知知しりりりはてはてはてぬぬぬ。。。ほのぼのほのぼのほのぼのととと物物もの見見みゆるゆるゆるほどほどほどにににおりおりおり給給たまひひいぬぬぬめりめりめり。。。かりそめかりそめかりそめなれなれなれどどど淸淸きよげげげにににしつらひしつらひしつらいたりたりたり。。。
- 9御供御供おおんともににに人人ひとももも侍侍さぶらははわざりざりざりけりけりけり。。。「「「ふびんふびんふびんなるなるなるわざわざわざかなかなかな」」」とととててて、、、睦睦むつましきしきしきにてにてにて殿殿とのにもにもにも仕仕つこうううまつるまつるまつるものものものなりなりなりけれけれければばば參參まいりりりよりよりよりててて「「「さるべきさるべきさるべき人人ひと召召めすすすべきべきべきにににややや」」」などなどなど申申もうさささすれすれすれどどど
- 10「「「殊更殊更ことさらににに人人ひとかくれがかくれがかくれが求求もとめめめたるたるたるなりなりなり。。。更更さらににに心心こころよりよりより外外ほかににに漏漏もらすすすななな」」」ととと口口くちがためがためがためさせさせさせ給給たまふふう。。。
- 11御御おんかゆかゆかゆなどなどなど急急いそぎぎぎ參參まいらららせせせたれたれたれどどど取取とりりりつぐつぐつぐ御御おんまかなひまかなひまかないうちうちうち合合あははわずずず。。。まだまだまだ知知しらららぬぬぬ事事ことなるなるなる御御おん旅寢旅寢たびねににに、、、おきなかおきなかおきなかととと契契ちぎりりりり給給たまふふうよりよりより外外ほかのののことことことなしなしなし。。。
- 12日日ひたくるたくるたくる程程ほどににに起起おききき給給たまひひいててて格子格子こうし手手てづからづからずから上上あげげげ給給たまふふう。。。いといといと痛痛いたくくく荒荒あれれれててて人目人目ひとめもももなくなくなくはるばるはるばるはるばるととと見見み渡渡わたささされれれてててこだちこだちこだちいといといと踈踈うとましくましくましく物物ものふりふりふりたりたりたり。。。
- 13けけけ近近ぢかききき草木草木くさきなどなどなどははは殊殊ことににに見見み所所どころなくなくなく、、、皆皆みな秋秋あきののの野野のらららにてにてにて池池いけもももみくさみくさみくさににに埋埋うずもれれれたれたれたればばばいといといとけうとげけうとげけうとげににになりなりなりにににけるけるける所所ところかなかなかな。。。
- 14のののかたかたかたにににぞぞぞざうしざうしぞうしなどなどなどしししててて人人ひと住住すむむむべかべかべかめれめれめれどどど、、、こなたこなたこなたははははなれはなれはなれたりたりたり。。。
- 15「「「けけけ踈踈うとくくくもももなりなりなりにににけるけるける所所ところかなかなかな。。。さりともさりともさりとも鬼鬼おになどなどなどももも、、、我我わをををばばば見見み許許ゆるしししてててむむん」」」とととののの給給のたまふふう。。。
- 16顏顏かおははは猶猶なお隱隱かくししし給給たまへへえれれれどどど、、、女女おんなののの、、、いといといとつらしつらしつらしととと思思おもふふうべけれべけれべければばば、、、げにげにげにかばかりかばかりかばかりにてにてにてへだてへだてへだてあらあらあらむむんももも事事ことのののさまさまさま違違たがひひいたりたりたりとととおぼしおぼしおぼしててて、、、
- 17「「「夕露夕露ゆうつゆにににひもひもひもとくとくとく花花はなはははたまぼこたまぼこたまぼこののの便便たよりににに見見みえええしししえええにににこそこそこそありありありけれけれけれ。。。露露つゆのののひかりひかりひかりやややいかにいかにいかに」」」とととののの給給のたまへへえばばば、、、
- 18しりしりしり目目めににに見見みおこせおこせおこせててて、、、「「「ひかりひかりひかりありありありととと見見みししし夕顏夕顏ゆうがおのののうはうはうわ露露つゆはははたそがれたそがれたそがれどきどきどきのののそらめそらめそらめなりなりなりけりけりけり」」」とととほのかほのかほのかにににいふいふいう。。。をかしをかしをかしとととおぼしおぼしおぼしなすなすなす。。。
- 19げにげにげにうちとけうちとけうちとけ給給たまへへえるるるさまさまさま世世よににになくなくなく所所どころがらがらがらまいてまいてまいてゆゝしきゆゝしきゆゆしきまでまでまで見見みえええたまふたまふたまう。。。
- 20「「「つきせつきせつきせずずずへだてへだてへだて給給たまへへえるるるつらさつらさつらさににに顯顯あらわさささじじじととと思思おもひひいつるつるつるものものものををを、、、いまだにいまだにいまだに名名なのりのりのりししし給給たまへへえ。。。いといといとむくつけしむくつけしむくつけし」」」とととののの給給のたまへへえどどど「「「あまあまあまののの子子こなれなれなればばばとととてててさすがにさすがにさすがにうちとけうちとけうちとけぬぬぬさまさまさまいといといとあいだれあいだれあいだれたりたりたり。。。
- 21「「「よしよしよしこれこれこれももも我我わからからからなななめりめりめり」」」ととと怨怨うらみみみかつかつかつははは語語かたらひらひらい暮暮くらししし給給たまふふう。。。
- 22惟光惟光これみつ尋尋たずねねねきこえきこえきこえててて御御おんくだものくだものくだものなどなどなど參參まいらすらすらす。。。右近右近うこんがががいはいはいわむむんことことことさすがにさすがにさすがにいとほしけれいとほしけれいとおしければばば、、、近近ちかくくくもももえええ侍侍さぶらひひいよらよらよらずずず。。。
- 23かくかくかくまでまでまでたどりたどりたどりありきありきありき給給たまふふうもももをかしうをかしうおかしゅう、、、さささもももありありありぬぬぬべきべきべき有樣有樣ありさまにににこそこそこそはははととと推推おししし量量はからららるゝるゝるるにににももも、、、我我わがががいといといとよくよくよく思思おもひひいよりよりよりぬぬぬべかりべかりべかりしししををを讓讓ゆずりりり聞聞きこえええててて心心こころひろさひろさひろさよよよなどなどなどめざましうめざましうめざましゅうぞぞぞおもひおもひおもいをるをるおる。。。
- 24たとしへたとしへたとしえなくなくなく靜靜しずかなるなるなる夕夕ゆうののの空空そらををを眺眺ながめめめ給給たまひひいててて「「「奧奧おくののの方方かたははは闇闇くろううう物物ものむつかしむつかしむつかし」」」ととと女女おんなははは思思おもひひいたれたれたればばばはしはしはしのののすだれすだれすだれををを上上あげげげててて添添そひひい臥臥ふししし給給たまへへえりりり。。。
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現代語訳
十六夜の月のもとで、思いがけず家を出てさまようことを、女もためらい、源氏があれこれとおっしゃるうちに、月が急に雲に隠れて、明けていく空がたいそう趣深い。人目につく明るさにならないうちにと、源氏はいつものように急いでお出かけになって、女を軽々と車にお乗せになると、右近が同乗した。
そのあたりに近い、なにがしの院にお着きになって、留守番の者を呼び出す間、荒れた門の忍ぶ草が茂って見上げられる様子は、たとえようもなく木暗い。霧も深く露っぽいうえに、車の簾まで上げていらっしゃったので、お袖もひどくぬれてしまった。「まだこのようなことに慣れていなかったが、心を尽くすことでもあったのだな。昔の人もこのように迷ったのだろうか、私がまだ知らなかった明け方の道に。あなたは慣れていらっしゃいますか」とおっしゃる。
女は恥じらって、「山の端の心も知らないで、ついて行く月は、空の途中で光が消えてしまうのでしょうか。心細くて」と言って、何となく恐ろしく、ぞっとするように思っているので、あの込み合った住まいに慣れた心なのだろうと、源氏はおかしくお思いになる。
お車を中に入れさせて、西の対にご座所などを整える間、勾欄に車の轅をかけて待っていらっしゃる。右近は華やいだ気持ちがして、これまでのことなども人知れず思い出すのだった。留守番の者がたいそう気を配って走りまわる様子で、右近はこの方のご身分をすっかり知ってしまった。物がほのぼのと見えるころに、車からお降りになったようだ。仮の住まいではあるが、こざっぱりと整えてある。
お供に人も控えていない。留守番の者は「不都合なことですな」と言って、源氏と親しい下家司で、左大臣家にもお仕えしている者だったので、参り寄って、「しかるべき人をお呼びしましょうか」などと申し上げさせるが、源氏は「わざと人の来ない隠れ家を求めたのだ。決してほかに漏らすな」と口止めをなさる。
お粥などを急いで差し上げたが、取り次ぐ給仕の人がそろわない。まだ経験したことのないお旅寝で、「息長川」のように末長くとお約束なさるよりほかのことはない。日が高くなるころに起きなさって、格子をご自分で上げなさる。たいそうひどく荒れていて、人影もなく、はるばると見渡されて、木立はたいそう気味悪く古びている。
近くの草木などは特に見どころもなく、一面に秋の野原のようで、池も水草に埋もれているので、まことに気味の悪い所になってしまったものだ。別棟の方に部屋などを設けて人が住んでいるようだが、こちらは離れている。源氏は「気味の悪い所になったものだね。それでも鬼なども、私なら見逃してくれるだろう」とおっしゃる。
顔はまだお隠しになっていたが、女がたいそうつらいと思っているようなので、なるほど、これほどの仲になって隔てがあるのも、事の次第にそぐわないとお思いになって、「夕露にほころぶ花のように、私が顔を見せるのは、道で通りかかったあの縁によるのでした。露の光はどうですか」とおっしゃると、女は横目で見やって、「光があると見えた夕顔の上の露は、黄昏時の見まちがいでした」とかすかに言う。源氏はおもしろいとお思いになる。
本当に、くつろいでいらっしゃる源氏のご様子は世に比べるものがなく、場所が場所だけに、なおさら不吉なほどにお見えになる。「いつまでも隔てを置いていらっしゃるつらさに、私も名のるまいと思っていたのに。今からでも名のってください。とても気味が悪い」とおっしゃるが、女は「海人の子ですから」と言って、さすがに打ち解けない様子は、たいそう甘えている。源氏は「まあ、これも私のせいなのだろう」と恨んだり、また語り合ったりして一日をお過ごしになる。
惟光が源氏の居所をお探し申し上げて、果物などを差し上げる。右近に言われることを思うと、さすがに気の毒なので、近くにはお仕えしない。こうまで女のもとを尋ね歩きなさるのもおかしく、そうなるだけの女の様子なのだろうと推し量られるにつけても、自分がうまく手に入れられたはずの女を譲ってさしあげて、なんと心の広いことよと、いまいましく思っている。
たとえようもなく静かな夕方の空を眺めなさって、女は「奥の方は暗くて気味が悪い」と思っているので、源氏は端の簾を上げて、添い寝していらっしゃる。夕映えの中で顔を見交わして、女もこうしたありさまを思いのほかで、不思議な気持ちはしながら、あらゆる嘆きを忘れて、少しずつ打ち解けていく様子がたいそうかわいらしい。ぴったりとお側に添って一日を過ごし、何かをたいそう恐ろしいと思っている様子は、子どもっぽくいじらしい。
源氏は格子を早く下ろしなさって、灯火をともさせて、すっかり打ち解けたご様子で、「まだ心の中に隔てを残していらっしゃるのがつらい」とお恨みになる。宮中では、どんなにお探しになっていることだろう、使いの者はどこを探しているだろうと思いやりなさって、一方では、我ながら奇妙な心だ、六条あたりでもどんなに思い乱れていらっしゃることだろう、恨まれるのもつらいが、もっともなことだと、気の毒な方のことをまず思い出し申し上げなさる。
何の心もなく向かい合っている女をいとしいとお思いになるままに、あまりに思慮深く、こちらが気づまりになるほどの六条の方のご様子を、少し取り去りたいものだと、つい比べずにはいられないのだった。
意訳
源氏は夕顔を連れて、荒れはてた「なにがしの院」へ行く。明け方の霧、忍ぶ草の茂る門、水草に埋もれた池、古びた木立。院の荒れたさまが重ねて描かれ、不吉な空気が漂いはじめる。
源氏はここで初めて顔を見せ、夕顔の最初の歌を受けた歌を詠む。夕顔も「見まちがいだった」と戯れて返し、二人の仲は打ち解けていく。それでも夕顔は「海人の子ですから」と名を明かさない。
夕暮れ、源氏は宮中や六条の女君のことを思い出す。思慮深く、こちらが気づまりになる六条の女君と、何心もない夕顔。二人の女性の対比が、次の場面の物の怪の出現へとつながっていく。
語釈・文法注
- なにがしの院
- 名前をぼかした言い方。源融(みなもとのとおる)の河原院がモデルとされる。
- あづかり
- 預かり。留守番役の管理人。
- けいめい
- 経営(けいめい)。あれこれと気を配って世話をすること。
- しもけいし
- 下家司(しもけいし)。貴族の家の事務をとる家司のうち、身分の低い者。
- くまじき
- 「来まじき」。来そうにない。
- おきなか川
- 息長川。「鳰鳥の息長川は絶えぬとも君に語らむ言尽きめやも」(『万葉集』)をふまえ、末長い契りを約束する。
- べちなふ
- 別納(べちのう)。母屋とは別に建てた建物。
- あまの子なれば
- 「白波の寄する渚に世を過ぐす海人の子なれば宿も定めず」(『和漢朗詠集』など)をふまえ、名のるほどの身分ではない、と名を明かすのを断る。
文法
- 反語の「やは」(かくやは人のまどひけむ)
- 係助詞「や」+「は」。ここでは「…だろうか」と疑いながら、昔の人も同じように迷ったのだろうかと思いやる。
- 強意の「て」+推量の「む」(見許してむ)
- 完了の助動詞「つ」の未然形+「む」で、「きっと見逃してくれるだろう」。
- 願望の終助詞「ばや」(取り捨てばや)
- 未然形について、自分の願望を表す。「取り去りたいものだ」。
和歌
いにしへもかくやは人のまどひけむ我がまだ知らぬしのゝめの道
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- なにがしの院に着いて、霧と露に袖をぬらしながら夕顔に詠みかけた歌。昔の人もこのように迷ったのだろうか、私がまだ知らなかった明け方の恋の道に。
修辞
- 掛詞
- 「まどひ」に、道に迷う意と、恋に心が乱れる意を重ねる。「しのゝめの道」は、女を連れ出して明け方に行く道。
山の端のこゝろもしらで行く月はうはの空にてかげや絕えなむ
- 詠者
- 夕顔
- 状況
- 源氏の歌への返歌。山の端の心も知らずに沈んでいく月は、空の途中で光が消えてしまうのでしょうか。
修辞
- 比喩
- 「山の端」を源氏に、「月」を自分にたとえる。源氏の心も知らずについて行く自分は、途中で消えてしまうのではないか、という不安を詠む。
- 掛詞
- 「うはの空」に、空の中ほどの意と、心が落ち着かない意を重ねる。
夕露にひもとく花はたまぼこの便に見えしえにこそありけれ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 院で顔を隠していた源氏が、ようやく顔を見せて詠んだ歌。夕露にほころぶ花のように、私が顔を見せるのは、道すがら通りかかったあの縁によるのでした。
修辞
- 掛詞
- 「ひもとく」に、花のつぼみが開く意と、衣の紐を解いて打ち解ける意を重ねる。「え」に「縁」と「江」を重ねる説もある。
- 枕詞
- 「たまぼこの」は「道」にかかる枕詞。ここでは「便(たより)」に続けて、道で通りかかったついでの意を表す。
ひかりありと見し夕顏のうは露はたそがれどきのそらめなりけり
- 詠者
- 夕顔
- 状況
- 源氏の歌への返歌。光があると見えた夕顔の上の露は、黄昏時の見まちがいだったのですね。
修辞
- 応答
- 最初に女が詠んだ「心あてに」の歌の「白露のひかりそへたる」を受け、あの時光り輝いて見えたのは見まちがいだった、と戯れて返す。
解説
なにがしの院は、源融の河原院がモデルとされる。融の死後、河原院には融の霊が現れたという話が『今昔物語集』などに伝わる。荒れた院を舞台に選んだことで、この後の物の怪の場面に説得力が生まれている。
顔を隠していた源氏がようやく顔を見せる場面で、夕顔の最初の歌「心あてに」と、それに応える源氏の歌が、ここで決着する。夕顔の「そらめなりけり」という返しは、軽やかな戯れでありながら、儚い恋の行く末を思わせる。
夕暮れに源氏が六条の女君を思い出し、夕顔と比べる場面は重要である。この直後に現れる物の怪は、六条の女君の生霊ではないかと、古くから読まれてきた。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、67–70頁(コマ35–36)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日