源氏物語 第4帖 夕顔(4)
六条わたりの朝顔
秋になり、源氏の足は左大臣邸からも六条わたりの女のもとからも遠のきがちになる。思い詰める性分の六条の女は、年の差もあって人目を気にし、ひとり悩む。霧の深い朝、源氏は見送りに出た女房の中将の君と、朝顔の歌を交わす。

- 1秋秋あきにもにもにもなりなりなりぬぬぬ。。。やりやりやりならならならずずず心心こころづくしづくしずくしににに思思おもほしほしおし亂亂みだるゝるゝるる事事ことどもどもどもありありありててておほいおほいおおい殿殿とのにはにはにはたえまたえまたえま置置おきききつゝつゝつつ恨恨うらめしくめしくめしくのみのみのみ思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまへへえりりり。。。
- 2六條六條ろくじょうわたりわたりわたりにもにもにも解解とけけけ難難かたかりかりかりししし御御おん氣色氣色けしきをををおもむけおもむけおもむけ聞聞きこえええ給給たまひひいててて後後のちひきひきひきかへしかへしかえしなのめならなのめならなのめならむむんはははいとほしいとほしいとおしかしかしかし。。。
- 3されどされどされどよそよそよそなりなりなりししし御御おん心心こころ惑惑まどひひいのののやうやうようにににあながちあながちあながちなるなるなる事事ことはははなきなきなきもももいかなるいかなるいかなる事事ことにににかかかととと見見みえええたりたりたり。。。
- 4女女おんなはははいといといと物物ものをををあまりあまりあまりなるなるなるまでまでまで覺覺おぼししししめしめしめたるたるたる御御おん心心こころざまざまざまにてにてにて、、、齡齡よわいののの程程ほどももも似似にげなくげなくげなく人人ひとののの漏漏もりりり聞聞きかかかむむんににに、、、いとゞいとゞいとどかくかくかくつらきつらきつらき御御おんのののねざめねざめねざめねざめねざめねざめ覺覺おぼししし萎萎しおるゝるゝるる事事こといといといとさまざまさまざまさまざまなりなりなり。。。
- 5霧霧きりのののいといといと深深ふかきききあしたあしたあしたいたくいたくいたくそゝのかさそゝのかさそそのかされれれ給給たまひひいてててねぶたげねぶたげねぶたげなるなるなる氣色氣色けしきにににうちうちうち歎歎なげきききつゝつゝつつ出出いででで給給たまふふうををを、、、
- 6中將中將ちゅうじょうのののおもとおもとおもと御御おん格子格子こうし一一ひと間間ま上上あげげげててて見見み奉奉たてまつりりり送送おくりりり給給たまへへえとととおぼしくおぼしくおぼしく御御おん几帳几帳きちょう引引ひきききやりやりやりたれたれたればばば、、、御御おんぐしぐしぐしもたげもたげもたげててて見見み出出いだししし給給たまへへえりりり。。。
- 7前栽前栽せんざいのののいろいろいろいろいろいろ亂亂みだれれれたるたるたるををを過過すぎぎぎがてがてがてにににやすらひやすらひやすらい給給たまへへえるるる樣樣さまげにげにげにたぐひたぐひたぐいなしなしなし。。。
- 8廊廊ろうののの方方かたへへへおはするおはするおわするににに、、、中將中將ちゅうじょうののの君君きみ御供御供おおんともににに參參まいるるる。。。
- 9しをんしをんしおんののの折折おりにににあひあひあいたるたるたるうすものうすものうすものゝゝの裳裳もあざやかあざやかあざやかににに引引ひきききゆひゆひゆいたるたるたる腰腰こしつきつきつきさはやかさはやかさわやかににになまめきなまめきなまめきたりたりたり。。。
- 10見見みかへりかへりかえり給給たまひひいててて隅隅すみののの間間まののの勾欄勾欄こうらんににに暫暫しばししし引引ひきききすゑすゑすえ給給たまへへえりりり。。。打打うちちち解解とけけけたらたらたらぬぬぬもてなしもてなしもてなし、、、髮髮かみのののさがりばさがりばさがりばめざましくめざましくめざましくもももととと見見み給給たまふふう。。。
- 11「「「咲咲さくくく花花はなにににうつるうつるうつるてふてふちょう名名なはははつゝめつゝめつつめどもどもども折折おりらららででで過過すぎぎぎうきうきうきけさけさけさののの朝顏朝顏あさがお。。。いかゞいかゞいかがすすすべきべきべき」」」とととててて手手てををを捕捕とらへへえ給給たまへへえれれればばばいといといと馴馴なれれれててて疾疾とくくく、、、和歌
- 12「「「朝霧朝霧あさぎりのののはれまはれまはれまもももまたまたまたぬぬぬけしきけしきけしきにてにてにて花花はなにににこゝろこゝろこころをををとめとめとめぬぬぬとととぞぞぞ見見みるるる」」」とととにににぞぞぞきこえきこえきこえなすなすなす。。。和歌
- 13をかしげをかしげおかしげなるなるなるののの姿姿すがたこのましうこのましうこのましゅうことさらめきことさらめきことさらめきたるたるたる、、、ののの裾裾すそ露露つゆけゞけゞけげににに花花はなののの中中なかにににまじりまじりまじりててて朝顏朝顏あさがお折折おりりりりててて參參まいるるるほどほどほどなどなどなど繪繪えににに書書かかかかまほしげまほしげまほしげなりなりなり。。。
- 14大方大方おおかたにににうちうちうち見見み奉奉たてまつるるる人人ひとだにだにだに心心こころしめしめしめ奉奉たてまつらららぬぬぬはははなしなしなし。。。
- 15物物ものののの情情なさけ知知しらららぬぬぬやまがつやまがつやまがつももも花花はなののの影影かげにににははは猶猶なおやすらはやすらはやすらわまほしきまほしきまほしきにににややや、、、このこのこの御御おん光光ひかりををを見見み奉奉たてまつるるるあたりあたりあたりはははほどほどほどほどほどほどにににつけつけつけててて我我わががが悲悲かなしししとととおもふおもふおもうむすめむすめむすめををを仕仕つこうううまつらまつらまつらせせせばやばやばやととと願願ねがひひい、、、
- 16若若もしはしはしはくちくちくち惜惜おしからしからしからずずずととと思思おもふふういもうといもうといもうとなどなどなどもたるもたるもたる人人ひとははは賤賤いやしきしきしきにてにてにてももも猶猶なおこのこのこの御御おんあたりあたりあたりににに侍侍はべははわせせせむむんととと思思おもひひいよらよらよらぬぬぬはははなかりなかりなかりけりけりけり。。。
- 17ましてましてましてさりぬべきさりぬべきさりぬべき序序ついでののの御御おん言言いののの葉葉はももも懷懷なつかしきかしきかしき御御おん氣色氣色けしきををを見見み奉奉たてまつるるる人人ひとののの少少すこししし物物ものののの心心こころををを思思おもひひい知知しるるるはははいかゞいかゞいかがはははおろかおろかおろかににに思思おもひひいきこえきこえきこえむむん。。。
- 18明暮明暮あけくれうちうちうち解解とけけけてててしもしもしもおはせおはせおわせぬぬぬををを心心こころもとなきもとなきもとなき事事ことににに思思おもふふうべかべかべかめりめりめり。。。
現代語訳
秋にもなった。誰のせいでもなく、ご自分から心を尽くして思い乱れることがあって、左大臣邸にはとだえがちで、恨めしいとばかり思われていらっしゃった。六条あたりのお方にも、打ち解けにくかったお心を説き伏せて、思いをかなえられた後は、手のひらを返したように通りいっぺんの扱いをするのは、お気の毒なことだ。けれども、よそよそしかった頃の心の乱れのように、無理にでもというお気持ちはないのも、どうしたことかと見えた。
女君は、たいそう物事を度を越すほど深く思いつめるご性分で、年齢も釣り合わず、人が漏れ聞いたらどう思うかと、ますますこうしてつらいお訪れの途絶えに、寝覚めのたびに思いしおれなさることが、さまざまである。
霧のたいそう深い朝、女房たちにしきりにせかされなさって、眠そうな様子でため息をつきながらお出になるのを、中将のおもとが御格子を一間上げて、お見送りなさいませというように御几帳を引きやったので、女君は頭をもたげて外をご覧になる。源氏が前栽の色とりどりに咲き乱れているのを、通り過ぎかねてたたずんでいらっしゃる様子は、まことに比べるものもない。
源氏が廊の方へいらっしゃると、中将の君がお供をする。季節にあった紫苑色の、薄物の裳をあざやかに結んだ腰つきは、すっきりとして優美である。源氏は振り返りなさって、隅の間の高欄にしばらく引き寄せて座らせなさった。打ち解けない物腰や、髪の垂れ具合が、すばらしいとご覧になる。
「咲く花に心を移したという評判ははばかられるけれど、折らずに通り過ぎるのはつらい、今朝の朝顔よ。どうしたものか」と言って手をおとりになると、たいそう物慣れた様子で、すばやく、
「朝霧の晴れ間も待たずにお帰りになるご様子では、花に心をおとめにならないように見えます」と、主人のことにして申し上げる。
かわいらしい侍童の、姿も好ましく、わざわざ装わせたような者が、指貫の裾を露にぬらしながら花の中にまじって朝顔を折ってくるところなど、絵に描きたいほどである。
通りすがりにお見かけする人でさえ、心をひかれない者はいない。ものの情けを知らない山賤でも、花の陰には休みたいと思うのだろうか、このお方の光を拝見する人々は、それぞれの身分に応じて、自分のかわいい娘をお仕えさせたいと願い、あるいは、まずまずと思う妹などを持っている人は、身分の低い召使いとしてでも、やはりこのお方のおそばにお仕えさせたいと、思わない者はなかった。
まして、ふさわしい機会にお言葉をかけていただき、優しいご様子を拝見する人で、少しでも物の情趣を解する者が、どうしていいかげんにお思い申し上げようか。明け暮れ打ち解けておいでにならないのを、もどかしく思っているようだ。
意訳
六条わたりの女性(六条御息所)が、この巻で初めて具体的に描かれる。源氏よりも年上で、身分も高く、物事を深く思いつめる性分である。源氏の訪れが途絶えがちになると、人目を気にしてひとり思い悩む。この思いつめる心が、やがて物の怪となって現れることを、読者は後の巻で知ることになる。
源氏と女房の中将の君との朝顔の歌の贈答は、源氏の軽やかな色好みと、女房のたしなみ深い切り返しを描く。主人への戯れを、主人のことにすりかえて答える中将の君の機知は、高貴な女主人に仕える女房の教養を示している。
語釈・文法注
- 人やりならず
- 人から強いられたのではなく、自分から進んで。
- よがれ
- 夜離れ(よがれ)。男の夜の訪れが途絶えること。
- しをん色
- 紫苑色。薄い青みがかった紫色。秋の色目。
- おほやけごと
- 公(おおやけ)ごと。ここでは、自分のことではなく、主人の六条の女のことにかこつけて言うこと。
- さぶらひわらは
- 侍童。貴人に仕える少年。
- さしぬき
- 指貫(さしぬき)。裾をくくる紐のついた袴。
文法
- 伝聞の「てふ」(うつるてふ名)
- 「といふ」が縮まった形。「移るという評判」。
- 係り結び(ぞ…見る)(とめぬとぞ見る)
- 係助詞「ぞ」を受けて、「見る」が連体形で結ばれている(上一段動詞なので終止形と同形)。
- 願望の終助詞「ばや」(仕うまつらせばや)
- 「お仕えさせたい」。
和歌
咲く花にうつるてふ名はつゝめども折らで過ぎうきけさの朝顏
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 六条の女の邸から帰る朝、見送りに出た女房の中将の君の手をとって詠みかけた歌。咲く花に心を移したという評判ははばかられるが、折らずに通り過ぎるのはつらい、今朝の朝顔(あなた)を。
修辞
- 見立て
- 「朝顔」に、朝の光の中で見た中将の君の美しい顔を重ねる。
- 掛詞
- 「うつる」に、花の色が移ることと、心が移ることを掛ける。
朝霧のはれまもまたぬけしきにて花にこゝろをとめぬとぞ見る
- 詠者
- 中将の君
- 状況
- 中将の君の返歌。朝霧の晴れ間も待たずにお帰りになるご様子では、花(女主人)に心をおとめにならないように見えます。
修辞
- すりかえ
- 源氏が自分に向けた戯れを、主人の六条の女のことにすりかえて答える。女房としての、たしなみのある切り返し。
解説
六条わたりの女性は、この巻では名前を明かされないが、のちの葵の巻で「六条御息所」として登場し、生霊となって葵の上を苦しめる。夕顔の巻の物の怪を六条御息所の生霊と見る説も古くからある。
霧の朝の別れ、色とりどりの前栽、紫苑色の裳、朝顔を折る侍童。この場面は、物語の中でも特に絵画的な一節として知られ、源氏絵にもたびたび描かれた。
後半は、源氏の美しさに人々がどれほどひかれたかを語る一節である。娘や妹を源氏に仕えさせたいと願う人々の姿は、源氏の魅力を誇張して描くと同時に、平安貴族社会で権力者に仕えることの意味も示している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、61–62頁(コマ32–33)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日