源氏物語 第4帖 夕顔(3)
惟光の報告と伊予介の上京
惟光は、隣家には五月ごろから素性を隠した女が住んでおり、物思わしげな美しい人だと報告する。源氏は、品定めで聞いた「下の品」の中にも思いがけない人がいるかもしれないと興味をつのらせる。一方、空蟬の夫の伊予介が任国から上京し、空蟬を連れて下ることになると聞いて、源氏は心を乱す。

- 1惟光惟光これみつ日頃日頃ひごろありありありててて參參まいれれれりりり。。。「「「煩煩わずらひひい侍侍はべるるる人人ひと猶猶なおよわげよわげよわげににに侍侍はべれれればばばとかくとかくとかく見見み給給たまひひいあつかひあつかひあつかいてててなむなむなん」」」などなどなど聞聞きこえええててて近近ちかくくく參參まいりりり寄寄よりりりててて聞聞きこゆゆゆ。。。
- 2「「「仰仰おおせせせられられられししし後後のちなむなむなん隣隣となりののの事事こと知知しりりりててて侍侍はべるるる者者もの呼呼よびびびててて問問とはははせせせ侍侍はべりりりしかしかしかどどど、、、はかばかしくはかばかしくはかばかしくももも申申もうししし侍侍はべらららずずず。。。
- 3いといといと忍忍しのびびびてててさつきさつきさつきのののころほひころほひころおいよりよりより物物ものししし給給たまふふう人人ひとなむなむなんあるあるあるべけれべけれべけれどどど、、、そのそのその人人ひととととははは更更さらににに家家いえののの中中なかののの人人ひとにににだにだにだに知知しらせらせらせずずずとととなむなむなん申申もうすすす。。。
- 4時々時々ときどき中垣中垣なかがきのののかいまみかいまみかいまみししし侍侍はべるるるににに、、、げにげにげに若若わかききき女女おんなどもどもどもののの透影透影すきかげ見見みえええ侍侍はべりりり。。。だつだつだつ物物ものかごとばかりかごとばかりかごとばかり引引ひきききかけかけかけてててかしづくかしづくかしずく人人ひと侍侍はべるるるめりめりめり。。。
- 5昨日昨日きのうののの夕日夕日ゆうひのこりのこりのこりなくなくなくさしさしさし入入いりりりててて侍侍はべりりりしししににに文文ふみ書書かくくくとととててて居居いててて侍侍はべりりりししし人人ひとののの顏顏かおこそこそこそいといといとよくよくよく侍侍はべりりりしかしかしか。。。物物もの思思おもへへえるるるけはひけはひけわいしししててて有有あるるる人々人々ひとびとももも忍忍しのびびびてててうちうちうち泣泣なくくく樣樣さまなどなどなどなむなむなんしるくしるくしるく見見みえええ侍侍はべるるる」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。
- 6君君きみうちうちうちゑみゑみえみ給給たまひひいててて知知しらららばやばやばやとととおもほしおもほしおもおしたりたりたり。。。
- 7覺覺おぼえええこそこそこそ重重おもかるかるかるべきべきべき御御おん身身みののの程程ほどなれなれなれどどど、、、御御おん齡齡よわいののの程程ほど人人ひとののの靡靡なびきききめでめでめで聞聞きこえええたるたるたるさまさまさまなどなどなど思思おもふふうにはにはには、、、すきすきすき給給たまははわざらざらざらむむんももも情情なさけなくなくなくさうざうしかるさうざうしかるそうぞうしかるべしべしべしかしかしかし。。。
- 8人人ひとのののうけひかうけひかうけひかぬぬぬ程程ほどにてにてにてだにだにだに、、、猶猶なおさりぬべきさりぬべきさりぬべきあたりあたりあたりのののことことことははは好好このましうましうましゅう覺覺おぼゆるゆるゆる物物ものをををととと思思おもひひい居居いりりり。。。
- 9「「「若若もししし見見み給給たまへへえうるうるうる事事こともももややや侍侍はべるるるととと、、、はかなきはかなきはかなきついでついでついで作作つくりりり出出いでゝでゝでて消消しょうそこそこそこなどなどなど遣遣つかわしししたりたりたりききき。。。書書かききき馴馴なれれれたるたるたる手手てしししててて口口くち疾疾とくくく返事返事かえりごとなどなどなどししし侍侍はべりりりききき。。。いといといと口惜口惜くちおしうしうしゅうはははあらあらあらぬぬぬわかわかわか人人うどどもどもどもなむなむなん侍侍はべるるるめるめるめる」」」ととときこゆれきこゆれきこゆればばば、、、
- 10「「「猶猶なおいひいひいいよれよれよれ、、、尋尋たずねねね知知しらららででではははさうざうしかりさうざうしかりそうぞうしかりなむなむなん」」」とととののの給給のたまふふう。。。
- 11「「「かのかのかの下下しもががが下下しもととと人人ひとののの思思おもひひい捨捨すてててしししすまひすまひすまいなれなれなれどどど、、、そのそのそのなかなかなかにもにもにも思思おもひひいののの外外ほかににに口惜口惜くちおしからしからしからぬぬぬををを見見みつけつけつけたらたらたらばばば」」」ととと珍珍めずらしうしうしゅうおもほすおもほすおもおすなりなりなりけりけりけり。。。
- 12さてさてさてかのかのかの空蟬空蟬うつせみのののあさましうあさましうあさましゅうつれなきつれなきつれなきをををこのこのこの世世よののの人人ひとにはにはには違違たがひひいててて覺覺おぼすすすににに、、、老老おいならならならましかましかましかばばば心苦心苦こころぐるしきしきしきあやまちあやまちあやまちにてにてにてももも止止やみみみぬぬぬべきべきべきをををいといといと妬妬ねたくくく負負まけけけてててやみやみやみなななむむんををを、、、心心こころにににかゝらかゝらかからぬぬぬ折折おりなしなしなし。。。
- 13かやうかやうかようののの並々並々なみなみまでまでまではははおもほしおもほしおもおしかゝらかゝらかからざりざりざりつるつるつるををを、、、ありありありししし雨夜雨夜あまよののの品品しなさだめさだめさだめののの後後のち、、、いぶかしくいぶかしくいぶかしくおもほしおもほしおもおしなるなるなる品々品々しなじなのののあるあるあるににに、、、いとゞいとゞいとど隈隈くまなくなくなくなりなりなりぬるぬるぬる御心御心みこころなななめりめりめりかしかしかし。。。
- 14もももなくなくなく待待まちちちきこえきこえきこえ顏顏かおなるなるなるつつつ方方かたののの人人ひとををを哀哀あわれととと覺覺おぼさささぬぬぬにににしもしもしもあらあらあらねねねどどど、、、つれなくつれなくつれなくててて聞聞きききき居居いたらたらたらむむんとととののの恥恥はずかしけれかしけれかしければばばまづまづまずこなたこなたこなたののの心心こころ見見みはてゝはてゝはててととと覺覺おぼすすす程程ほどににに、、、伊豫介伊豫介いよのすけのぼりのぼりのぼりぬぬぬ。。。
- 15まづまづまず急急いそぎぎぎまゐれまゐれまいれりりり。。。のののしわざしわざしわざとととててて少少すこししし黑黑くろみみみやつれやつれやつれたるたるたる旅姿旅姿たびすがたいといといとふつゝかふつゝかふつつかににに心心こころづきなしづきなしずきなし。。。
- 16されどされどされど人人ひとももも賤賤いやしからしからしからぬぬぬすぢすぢすじにににかたちかたちかたちなどなどなどねびねびねびたれたれたれどどど淸淸きよげげげにににててて、、、たゞたゞただならならならずずず氣色氣色けしきよしづきよしづきよしずきてててなどなどなどぞぞぞありありありけるけるける。。。
- 17國國くにののの物語物語ものがたりなどなどなど申申もうすすすににに「「「湯湯ゆはははいくついくついくつ」」」ととと問問とはははまほしくまほしくまほしく覺覺おぼせせせどどどあいなくあいなくあいなくまばゆくまばゆくまばゆくててて御心御心みこころののの中中なかににに覺覺おぼししし出出いづるづるずる事事こともももさまざまさまざまさまざまなりなりなり。。。
- 18物物ものまめやかまめやかまめやかなるなるなるおとなおとなおとなをををかくかくかく思思おもふふうもももげにげにげにをこがましうをこがましうおこがましゅう後後うしろめたきめたきめたきわざわざわざなりなりなりややや。。。げにげにげにこれこれこれぞぞぞなのめならなのめならなのめならぬぬぬかたはかたはかたわなななめるめるめるととと、、、うまうまうまのののかみかみかみのののいさめいさめいさめおぼしおぼしおぼし出出いでゝでゝでていとほしきいとほしきいとおしきににに、、、つれなきつれなきつれなき心心こころははは妬妬ねたけれけれけれどどど人人ひとののの爲爲ためははは哀哀あわれととと覺覺おぼしししなさるなさるなさる。。。
- 19「「「むすめむすめむすめをををばばばさるべきさるべきさるべき人人ひとににに預預あずけけけててて北北きたののの方方かたをををばばばゐゐいててて下下くだりりりぬぬぬべしべしべし」」」ととと聞聞きききき給給たまふふうににに、、、一一ひと方方かたならならならずずず心心こころあわたゞしくあわたゞしくあわただしくててて「「「今今いま一一ひと度度たびはははえええあるあるあるまじきまじきまじき事事ことにににややや」」」ととと小君小君こぎみををを語語かたらひらひらい給給たまへへえどどど、、、
- 20人人ひとののの心心こころををを合合あわせせせたらたらたらむむんことことことにてにてにてだにだにだに輕輕かろらからからかにににえええしもしもしも紛紛まぎれれれ給給たまふふうまじきまじきまじきををを、、、ましてましてまして似似にげなきげなきげなき事事ことににに思思おもひひいててて今今いま更更さらににに見見み苦苦ぐるしかるしかるしかるべしべしべしととと思思おもひひい離離はなれれれたりたりたり。。。
- 21さすがにさすがにさすがに絕絕たえええててておもほしおもほしおもおし忘忘わすれれれなななむむんことことことももも、、、いといといといふがひなくいふがひなくいうがいなく憂憂うかるかるかるべきべきべきことことことににに思思おもひひいててて、、、さるべきさるべきさるべき折々折々おりおりののの御御おんいらへいらへいらえなどなどなど懷懷なつしくしくしく聞聞きこえええつゝつゝつつ、、、
- 22なげなげなげののの筆筆ふでづかひづかひずかいにににつけつけつけたるたるたる言言いののの葉葉は怪怪あやしうしうしゅうらうたげらうたげろうたげににに目目め止止とまるるるべきべきべきふしふしふし加加くわへへえなどなどなどしししててて、、、哀哀あわれとととははは覺覺おぼしししぬぬぬべきべきべき人人ひとのののけはひけはひけわいなれなれなればばば、、、つれなくつれなくつれなくねたきねたきねたきものものものゝゝの忘忘わすれれれ難難かたきききににに覺覺おぼすすす。。。
- 23今今いまはははぬしぬしぬしつよくつよくつよくなるなるなるともともとも變變かわらららずずずうちうちうち解解とけけけぬぬぬべくべくべく見見みえええししし樣樣さまなるなるなるををを賴賴たのみみみてててとかくとかくとかく聞聞きききき給給たまへへえどどど御心御心みこころももも動動うごかかかずずずぞぞぞありありありけるけるける。。。
現代語訳
惟光は数日して参上した。「病人がやはり弱っておりますので、あれこれと世話をしておりまして」などと申し上げて、近くに寄って申し上げる。「仰せをいただいた後、隣のことを知っている者を呼んで尋ねさせましたが、はっきりとは申しません。ごく内密に、五月ごろからいらっしゃる方がいるらしいのですが、それが誰かは、家の中の者にさえ知らせないのだと申します。
時々、中垣からのぞいてみますと、なるほど若い女たちの透き影が見えます。褶(しびら)のようなものを形ばかり腰に引きかけて、仕えている人がいるようです。昨日、夕日がすっかり差し込んでおりましたとき、手紙を書こうとして座っていた人の顔が、たいそう美しゅうございました。物思いにふけっている様子で、そばにいる人々も、こっそり泣いている様子などが、はっきり見えました」と申し上げる。
源氏はほほえんで、知りたいものだとお思いになっている。世間の評判こそ重々しくなければならないご身分だが、そのお年頃や、人々がなびいてほめそやしている様子を思うと、色恋をなさらないのも、かえって情趣がなく物足りないことだろう。人が承知しないような身分の者でさえ、やはりそれなりの相手のことは、好ましく思われるものなのに、と惟光は思っている。
「もしかしたら拝見できることもあろうかと、ちょっとした口実をこしらえて、手紙などを送ってみました。書き慣れた筆跡で、すばやく返事などをよこしました。たいそう悪くはない若い女房たちがいるようです」と申し上げると、源氏は「さらに言い寄ってみよ。素性を確かめないでは物足りない」とおっしゃる。
「あの、下の下だと人が見捨てた住まいだけれど、その中にも、思いのほかに悪くない人を見つけたら」と、珍しくお思いになるのだった。
さて、あの空蟬があきれるほどつれなかったのを、この世の人とは違っているとお思いになるにつけても、もっとおとなしくなびいていたら、気の毒な過ちとしてでも終わってしまったであろうに、まことにいまいましく負けたまま終わってしまうのが、心にかからない時がない。こうした並々の身分の者にまではお心をかけなかったのに、あの雨夜の品定めの後、興味をお持ちになった品々の女性がいるので、ますます残りなく関心をお持ちになるお心なのだろう。
何の疑いもなく源氏をお待ちしている様子の、もう一人の女(軒端荻)を、かわいいとお思いにならないわけではないが、空蟬が素知らぬふりで聞いていると思うと恥ずかしいので、まずこちらの心を見届けてからとお思いになっているうちに、伊予介が上京した。
伊予介はまず急いで源氏のもとに参上した。船旅のせいで少し日焼けしてやつれた旅姿は、たいそう無骨で気に入らない。けれども、人柄も賤しくない家筋で、容貌なども年をとってはいるがこぎれいで、並々ならず、風格のある様子などをしていた。任国の話などを申し上げるので、源氏は「湯桁はいくつ」と尋ねたくお思いになるが、わけもなく気がひけて、お心の中に思い出されることもさまざまである。
まじめな年配の人に対して、こんなことを思うのも、なるほど愚かしく、うしろめたいことだ。なるほど、これこそ並々でない過ちなのだと、左馬頭の忠告を思い出されて気の毒なので、つれない心はいまいましいけれど、夫のためには立派なことだとお思いになる。「娘はしかるべき人に嫁がせて、北の方を連れて任国に下るつもりです」とお聞きになると、ひとかたならず心が落ち着かなくて、「もう一度は会えないものだろうか」と小君に相談なさるが、
空蟬は、たとえ相手と心を合わせていることであっても、軽々しく人目を忍んで会うことなどできそうにないのに、まして不釣り合いなことと思って、今さら見苦しいことになるだろうと思い切っていた。それでもさすがに、すっかり忘れられてしまうのも、まことに言いようもなくつらいことだと思って、しかるべき折々のお返事などは、親しみをこめて申し上げ、何気ない筆づかいにそえた言葉も、不思議にかわいらしく、目にとまるような趣を加えたりして、いとしいとお思いにならずにはいられない人柄なので、源氏は、つれなくいまいましいものの、忘れがたくお思いになる。
もう一人の女(軒端荻)は、たとえ夫が決まったとしても、変わらずに打ち解けてくれそうに見えた様子なのを頼みにして、あれこれと噂をお聞きになるが、お心も動かなかった。
意訳
惟光の報告によって、夕顔の宿の女が、素性を隠して身を潜めていることがわかる。手紙を書きながら物思いにふけり、周りの女房たちも泣いている。その様子は、帚木の巻で頭中将が語った、行方知れずになった常夏の女の物語を思い起こさせる。
この場面の後半では、空蟬の物語がもう一度語られる。空蟬の夫の伊予介が上京し、源氏はその実直な姿に、うしろめたさを感じる。品定めで左馬頭が言った、人妻との恋の危うさを、源氏は身にしみて思い知るのである。
語釈・文法注
- しびら
- 褶(しびら)。身分の低い女性が腰に巻く、裳の略式のもの。
- 老らか
- 底本の表記。通行の本文は「おいらか」で、おっとりしている、素直だ、の意。
- うら
- 心の内、隠しだて。「うらもなく」で、何の疑いもなく。
- 片つ方の人
- もう一人の女。軒端荻を指す。
- ふなみち
- 船路。伊予から京への船旅。
- 湯げた
- 伊予の湯(道後温泉)の湯桁。空蝉の巻で、軒端荻が碁の目を数える様子を「伊予の湯桁も」と思った源氏が、それを思い出している。
- 今ひとかた
- もう一方の人。軒端荻。
文法
- 反実仮想「ましかば」(老らかならましかば…止みぬべきを)
- 「もしおっとりしていたら、…で終わったであろうに」。事実に反する仮定。
- 係り結び(こそ…しか)(顏こそいとよく侍りしか)
- 係助詞「こそ」を受けて、過去の助動詞「き」が已然形「しか」で結ばれている。
- 推量「べし」+断定「なり」+推定「めり」(御心なめりかし)
- 語り手が源氏の心を推し量る草子地。「お心なのだろうよ」。
解説
惟光が隣家の様子を探り、手紙を送って女房たちと通じていく過程は、平安時代の恋の手順をよく示している。主人の恋のために、従者が仲立ちをするのは珍しいことではなかった。
「下が下と人の思ひ捨てしすまひ」という言葉は、品定めで頭中将が「下のきざみ」と言ったことを受けている。品定めの話が、源氏の行動を実際に動かしているのである。
伊予介の登場は、空蟬の物語の締めくくりへの伏線となる。伊予介は実直な受領として描かれ、その姿を前にした源氏のうしろめたさは、人妻との恋の罪深さをあらためて感じさせる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、58–61頁(コマ31–32)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日