源氏物語 第4帖 夕顔(2)
よりてこそ
源氏は惟光に隣家の主を調べさせる。揚名介の家で、若い女房たちが住んでいるらしい。源氏は筆跡を変えて返歌を随身に届けさせ、その夜は六条わたりの女のもとへ忍んで行く。翌朝の帰り道にも、源氏は夕顔の宿の前を通り、心をとめる。

- 1惟光惟光これみつににに「「「このこのこの西西にしなるなるなる家家いえにににははは何何なに人人びとののの住住すむむむぞぞぞ。。。問問とひひい聞聞ききききたりたりたりややや」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、例例れいのののうるさきうるさきうるさき御心御心みこころとととははは思思おもへへえどどど、、、さささはははまうさまうさもうさででで
- 2「「「このこのこの五六日五六日いつかむいかこゝこゝここににに侍侍はべれれれどどど、、、ののの事事ことををを思思おもひひい給給たまへへえあつかひあつかひあつかい侍侍はべるるる程程ほどににに隣隣となりののの事事ことはははえええ聞聞きききき侍侍はべらららずずず」」」などなどなどはしたなげはしたなげはしたなげににに聞聞きこゆれゆれゆればばば
- 3「「「憎憎にくしししとととこそこそこそ思思おもひひいたれたれたれななな。。。されどされどされどこのこのこの扇扇おうぎののの尋尋たずぬぬぬべきべきべき故故ゆえありありありててて見見みゆるゆるゆるををを、、、猶猶なおこのこのこのあたりあたりあたりののの心心こころ知知しれれれらむらむらん者者ものををを召召めしししててて問問とへへへ」」」とととののの給給のたまへへえばばば、、、
- 4入入いりりりてててこのこのこの宿守宿守やどもりなるなるなるをのこをのこおのこををを呼呼よびびびててて問問とひひい聞聞きくくく。。。
- 5「「「やうめいやうめいようめいのののなりなりなりけるけるける人人ひとののの家家いえににになむなむなん侍侍はべりりりけるけるける。。。男男おとこはははゐなかゐなかいなかにににまかりまかりまかりててて、、、女女おんななむなむなんわかくわかくわかく事事こと好好このみみみててて、、、はらからはらからはらからなどなどなど宮仕宮仕みやずかへへえ人人びとにてにてにて來來き通通かよふふうととと申申もうすすす。。。くはしきくはしきくわしき事事ことはははしもしもしも人人ひとのののえええ知知しりりり侍侍はべらららぬぬぬにににやややあらあらあらむむん」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。
- 6「「「さらばさらばさらばそのそのその宮仕宮仕みやずかへへえ人人びとなななゝりゝりなり。。。したりしたりしたり顏顏がおににに物物ものなれなれなれててていへいへいえるるるかなかなかな」」」ととと、、、めざましかるめざましかるめざましかるべきべきべききはきはきわにににやややあらあらあらむむんととと覺覺おぼせせせどどど、、、さしさしさしててて聞聞きこえええかゝれかゝれかかれるるる心心こころののの憎憎にくからからからずずずすぐしすぐしすぐしがたきがたきがたきぞぞぞ、、、例例れいのののこのこのこのかたかたかたにはにはには重重おもからからからぬぬぬ御心御心みこころなななめりめりめりかしかしかし。。。
- 7御御おんたゝうたゝうたとう紙紙がみにににいたういたういとうあらあらあらぬぬぬさまさまさまににに書書かきききかへかへかえ給給たまひひいててて、、、
- 8「「「よりよりよりてててこそこそこそそれそれそれかかかともともとも見見みめめめたそがれたそがれたそがれにににほのぼのほのぼのほのぼの見見みつるつるつる花花はなのののゆふがほゆふがほゆうがお」」」ありありありつるつるつる御御み隨身隨身ずいじんしししてててつかはすつかはすつかわす。。。和歌
- 9「「「まだまだまだ見見みぬぬぬおほんおほんおおんさまさまさまなりなりなりけれけれけれどどどいといといとしるくしるくしるく思思おもひひいあてあてあてられられられたまへたまへたまえるるる御御おんそばめそばめそばめををを見見みすぐさすぐさすぐさでででさしさしさし驚驚おどろかしかしかしけるけるけるををを、、、御御おんいらへいらへいらえもももなくなくなく程程ほど經經へけれけれければばばなまなまなまはしたなきはしたなきはしたなきににに、、、
- 10かくかくかくわざとめかしわざとめかしわざとめかしけれけれければばば、、、あまへあまへあまえててていかにいかにいかに聞聞きこえええむむん」」」などなどなどいひしろふいひしろふいいしろうべかべかべかめれめれめれどどど、、、めざましめざましめざましととと思思おもひひいててて隨身隨身ずいじんははは參參まいりりりぬぬぬ。。。
- 11御御おんさきさきさきのののまつまつまつほのかほのかほのかにてにてにていといといと忍忍しのびびびててて出出いででで給給たまふふう。。。はじとみはじとみはじとみはははおろしおろしおろしてててけりけりけり。。。ひまびまひまびまひまびまよりよりより見見みゆるゆるゆる火火ひののの光光ひかり螢螢ほたるよりよりよりけにけにけにほのかほのかほのかににに哀哀あわれなりなりなり。。。
- 12御志御志おおんこころざしのののにはにはには木立木立こだち前栽前栽せんざいなどなどなどなべてなべてなべてののの所所ところににに似似にずずずいといといとのどかのどかのどかににに心心こころ憎憎にくくくく住住すみみみなしなしなし給給たまへへえりりり。。。
- 13うちとけうちとけうちとけぬぬぬ御御おん有樣有樣ありさまなどなどなどののの氣色氣色けしき異異ことなるなるなるににに、、、ありありありつるつるつる垣根垣根かきね思思おもほしほしおし出出いでででらるらるらるべくべくべくもももあらあらあらずずずかしかしかし。。。
- 14つとめてつとめてつとめて少少すこししし寢寢ねすぐしすぐしすぐし給給たまひひいててて日日ひさしさしさし出出いづるづるずる程程ほどににに出出いででで給給たまふふう。。。朝朝あさげげげののの御御おん姿姿すがたはははげにげにげに人人ひとのののめでめでめで聞聞きこえええむむんもももことわりことわりことわりなるなるなる御御おん樣樣さまなりなりなりけりけりけり。。。
- 15今日今日きょうもももこのこのこの蔀蔀しとみののの前前まえわたりわたりわたりししし給給たまふふう。。。きしきしきし方方かたももも過過すぎぎぎ給給たまひひいけむけむけんわたりわたりわたりなれなれなれどどど唯唯ただはかなきはかなきはかなき一一ひと節節ふしににに御心御心みこころとゞまりとゞまりとどまりててて、、、いかなるいかなるいかなる人人ひとのののすみかすみかすみかならならならむむんとととはははゆきゝゆきゝゆききににに御御おん目目めとまりとまりとまり給給たまひひいけりけりけり。。。
現代語訳
源氏が惟光に、「この西隣の家にはどういう人が住んでいるのか。尋ねてみたか」とおっしゃると、惟光は、いつものうるさいお心だとは思うが、そうとは申し上げずに、「この五、六日ここにおりますが、病人のことを心配して世話をしておりましたので、隣のことは聞いておりません」などと、そっけなく申し上げるので、源氏は「憎らしいと思っているのだな。けれどもこの扇には、尋ねるだけのわけがありそうに見えるのだから、やはりこのあたりの事情を知っている者を呼んで聞いてみよ」とおっしゃる。
惟光は中に入って、この家の留守番の男を呼んで尋ねる。「揚名介だった人の家でございます。主人は田舎に下っていて、妻は若く風流好みで、その姉妹などが宮仕えをしていて通ってくるのだと申しております。詳しいことは、下の者にはわからないのでございましょう」と申し上げる。
源氏は「それでは、その宮仕えの女房なのだな。得意顔に、物慣れた様子で詠みかけてきたものだ」と、たいしたことのない身分の者だろうかとお思いになるが、名指しして詠みかけてきた心が憎くなく、見過ごしがたいのは、例によって、こうした方面には軽いお心なのだろう。御畳紙に、まるで別人のような筆跡に書き変えなさって、
「近寄ってこそ、それかどうかもわかるでしょう。黄昏時にほのかに見た夕顔の花を」と書いて、さっきの御随身に届けさせる。
女の家では、「まだ見たことのないお姿だったけれど、はっきりそれとわかる横顔を見過ごせなくて、こちらからお声をかけたのに、ご返事もなく時がたったので、なんとなくきまり悪く思っていたところへ、こうしてわざわざお返事があったのだから、いい気になって、どうお返事しましょう」などと言い合っているようだが、随身はけしからぬことと思って帰参した。
源氏は先払いの松明もほのかにして、たいそうひそかにお出かけになる。夕顔の家の半蔀は下ろしてあった。すき間すき間から見える灯火の光は、蛍よりもかすかで、しみじみとした趣がある。お目当ての六条の女性のお邸は、木立や植え込みなども普通の所とは違って、たいそうのどかに、奥ゆかしく住みなしていらっしゃる。打ち解けないご様子などが格別なので、さっきの垣根の家のことは、思い出されるはずもない。
翌朝、少し寝過ごして、日が差し出る頃にお帰りになる。朝の光の中のお姿は、なるほど世の人がほめそやすのももっともなご様子であった。今日もこの蔀の家の前をお通りになる。これまでもお通りになった道だろうけれど、ただちょっとした一件にお心がとまって、どういう人の住まいなのだろうと、行き帰りにお目がとまるのだった。
意訳
源氏は、扇の歌の主が宮仕えの女房だろうと考え、身分の低い女に違いないと思いながらも、心ひかれる。筆跡を変えて返歌するのは、自分の素性を隠すためである。夕顔の家の女房たちが返事を喜び合う様子と、それを「めざまし」と見る随身の態度の対比には、身分の違いがはっきりと表れている。
その夜、源氏は六条の高貴な女性のもとへ行く。手入れの行き届いた邸と、打ち解けない女主人。一方は荒れた五条の小家と、気さくな女たち。対照的な二つの住まいが続けて描かれ、源氏の心が、思いがけず五条の方へ傾いていくことが予感される。
語釈・文法注
- ばうざ
- 病者(ばうざ)。病人。ここでは母の大弐の乳母。
- やうめいの介
- 揚名介(ようめいのすけ)。名目だけで実務も収入もない国司の次官。
- 御志の所
- お心を寄せている所。六条わたりの女性の邸。
文法
- 推定の助動詞「なり」の撥音便(宮仕へ人なゝり)
- 「なるなり」の撥音便「なんなり」の撥音無表記。底本は「なゝり」と踊り字で書く。「…であるようだ」。
- 推量の助動詞「む」の已然形(それかとも見め)
- 係助詞「こそ」を受けて、推量の「む」が已然形「め」で結ばれている。
- 推量「べし」+推定「めり」(いひしろふべかめれど)
- 語り手が、見ていないことを推し量る言い方。「言い合っているようだが」。
和歌
よりてこそそれかとも見めたそがれにほのぼの見つる花のゆふがほ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 夕顔の歌への返歌。筆跡を変えて書き、随身に届けさせた。近寄ってこそ、それかどうかもわかるでしょう、黄昏時にほのかに見た夕顔の花を。
修辞
- 応答
- 女の歌の「それかとぞ見る」を受けて「それかとも見め」と返す。もっと近くで見てほしい、と誘いかける歌。
- 掛詞
- 「たそがれ」に「誰そ彼(たそかれ)」を響かせ、誰とも知れない相手を思わせる。
解説
源氏が筆跡を変えて返歌するのは、身分を隠した恋の始まりを示している。この後、源氏は夕顔にも自分の名を明かさず、夕顔もまた素性を語らない。互いに名を知らない恋が、この巻の大きな特徴である。
揚名介は、名目だけの官職で、実際の権限はなかった。夕顔の宿の主が揚名介だというのは、そこが中流以下の貴族の家であることを示している。品定めで語られた「中の品」の世界である。
夕顔の家の灯を「螢よりけにほのかに」と表す一節は、夏の夜の情景を美しく描く。続く六条の邸の描写との対比が、二人の女性の違いを際立たせている。
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出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、57–58頁(コマ30–31)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
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