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源氏物語 第3帖 空蝉(6)

空蟬の羽におく露

登場人物:光源氏・小君・空蟬・軒端荻

源氏は空蟬の残した小袿を衣の下に入れて寝る。眠れぬまま手習のように「空蟬の身をかへてける木のもとに」と書きすさび、小君はそれを姉に届ける。空蟬は弟を叱りながらも歌を読み、娘のままの身であったならと嘆いて、懐紙の端に「うつせみのはにおく露の」と書きつける。

夏の夜、源氏からの歌を受け取った空蟬が、灯火のもとで懐紙の端に返歌を書きつける場面(AI生成)
夏の夜、源氏からの歌を受け取った空蟬が、灯火のもとで懐紙の端に返歌を書きつける場面
  1. 1ありありありつるつるつるこうちきこうちきこうちきををを、、、さすがにさすがにさすがに御おほん御おほんおおんぞぞぞののの下しも下しもしもににに引ひ引ひひききき入い入いいれれれててて大殿籠おほとのごも大殿籠おほとのごもおおとのごもれれれりりり。。。
  2. 2小君こぎみ小君こぎみこぎみをををおまへおまへおまえににに臥ふ臥ふふせせせてててよろづよろづよろずににに怨うら怨うらうらみみみかつかつかつははは語かた語かたかたらひらひらい給たま給たまたまふふう。。。「「「あごあごあごはははらうたけれらうたけれろうたけれどどどつらきつらきつらきにににこそこそこそえええ思おも思おもおもひひいはつはつはつまじけれまじけれまじけれ」」」とととまめやかまめやかまめやかにににののの給のたま給のたまのたまふふうををを、、、いといといとわびしわびしわびしととと思おも思おもおもひひいたりたりたり。。。
  3. 3暫しば暫しばしばしししうちうちうちやすみやすみやすみ給たま給たまたまへへえどどど寢ね寢ねねられられられ給たま給たまたまははわずずず。。。御おん御おんおん硯すずり硯すずりすずり急いそ急いそいそぎぎぎ召め召めめしししてててさしはへさしはへさしはえたるたるたる御文おほんふみ御文おほんふみおおんふみにはにはにはあらあらあらででで、、、たゞたゞただのののやうやうようににに書か書かかきききすさびすさびすさび給たま給たまたまふふう。。。
  4. 4「「「ののの身み身みみをををかへかへかへてててけるけるける木き木ききのののもともともとににになほなほなお人ひと人ひとひとがらがらがらのののなつかしきなつかしきなつかしきかなかなかな」」」ととと書か書かかききき給たま給たまたまへへえるるるををを、、、懷ふところ懷ふところふところにににひきひきひき入い入いいれれれてててもたりもたりもたり。。。和歌
  5. 5かのかのかの人ひと人ひとひともももいかにいかにいかに思おも思おもおもふふうらむらむらんととといとほしけれいとほしけれいとおしけれどどど、、、かたがたかたがたかたがたおもほしおもほしおもおし返かへ返かへかえしししててて御おん御おんおんことづけことづけことずけもももなしなしなし。。。
  6. 6かのかのかの薄うす薄うすうすぎぬぎぬぎぬはははこうちきこうちきこうちきのののいといといと懷なつ懷なつなつしきしきしきにににしめしめしめるるるををを身み身みみ近ちか近ちかちかくくくならしならしならしつゝつゝつつ見み見みみ居ゐ居ゐい給たま給たまたまへへえりりり。。。
  7. 7小君こぎみ小君こぎみこぎみかしこかしこかしこにににいきいきいきたれたれたればばば、、、姉君あねぎみ姉君あねぎみあねぎみ待ま待ままちちちつけつけつけててていみじういみじういみじゅうののの給のたま給のたまのたまふふう。。。
  8. 8「「「あさましかりあさましかりあさましかりしししにににとかくとかくとかくまぎらしまぎらしまぎらしてててももも人ひと人ひとひとののの思おも思おもおもははわむむん事こと事ことことさりさりさりなきなきなきにににいといといとなむなむなんわりなきわりなきわりなき。。。
  9. 9いといといとかうかうこう心こころ心こころこころ幼をさな幼をさなおさなききき心こころ心こころこころばへばへばえをををかつかつかつはははいかにいかにいかにおもほすおもほすおもおすらむらむらん」」」とととててて耻はづ耻はづはずかしめかしめかしめ給たま給たまたまふふう。。。
  10. 10左ひだり左ひだりひだりみぎみぎみぎににに苦くる苦くるくるしくしくしく思おも思おもおもへへえどどどかのかのかの御おん御おんおん手習てならひ手習てならひてならいとりとりとり出い出いいでででたりたりたり。。。さすがにさすがにさすがにとりとりとりててて見み見みみ給たま給たまたまふふう。。。
  11. 11かのかのかのをををいかにいかにいかにいせをいせをいせおののののののしほなれしほなれしおなれてててやややなどなどなど思おも思おもおもふふうもももたゞたゞただならならならずずず、、、いといといとよろづよろづよろずににに亂みだ亂みだみだれれれたりたりたり。。。
  12. 12西にし西にしにしのののももも物もの物ものもの恥はづか恥はづかはずかしきしきしき心地ここち心地ここちここちしししててて渡わた渡わたわたりりり給たま給たまたまひひいにににけりけりけり。。。又また又またまた知し知ししるるる人ひと人ひとひともももなきなきなきことことことなれなれなればばば人ひと人ひとひと知し知ししれれれずずずうちうちうちながめながめながめててて居ゐ居ゐいたりたりたり。。。
  13. 13小君こぎみ小君こぎみこぎみののの渡わた渡わたわたりりりありくありくありくにににつけつけつけてててももも胸むね胸むねむねのみのみのみふたがれふたがれふたがれどどど御おん御おんおん消せう消せうしょうそこそこそこもももなしなしなし。。。
  14. 14あさましあさましあさましととと思おも思おもおもひひい得え得ええるるる方かた方かたかたもももなくなくなくてててざれざれざれたるたるたる心こころ心こころこころにににものものもの哀あは哀あはあわれれれなるなるなるべしべしべし。。。
  15. 15つれなきつれなきつれなき人ひと人ひとひともももさこそさこそさこそしづむれしづむれしずむれどどど、、、いといといとあさはかあさはかあさはかにもにもにもあらあらあらぬぬぬ御み御みみ氣色けしき氣色けしきけしきををを、、、ありありありしししながらながらながらののの我わ我わわががが身み身みみならならならばばばととと、、、取と取ととりりり返かへ返かへかえすすすものものものならならならねねねどどど忍しの忍しのしのびびびがたけれがたけれがたければばば
  16. 16このこのこの御おん御おんおんののの片かた片かたかたつかたつかたつかたににに、、、
  17. 17「「「うつせみうつせみうつせみのののはははにににおくおくおく露つゆ露つゆつゆのののこがくれこがくれこがくれてててしのびしのびしのびしのびしのびしのびにににぬるゝぬるゝぬるる袖そで袖そでそでかなかなかな」」」和歌

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

源氏は、あの小袿を、そうはいってもやはりご自分の衣の下に引き入れて、お休みになった。小君をおそばに寝かせて、あれこれと恨み言を言い、一方では親しく話しかけなさる。「おまえはかわいいけれど、あのつれない人の弟だと思うと、いつまでかわいがれるかわからない」と本気でおっしゃるのを、小君はたいそうつらいと思っている。

源氏はしばらく横になっていらっしゃるが、眠ることもおできにならない。硯を急いで取り寄せて、わざわざの手紙というのではなく、ただ手習のように書きすさびなさる。

「蝉が抜け殻を残して姿を変えていった木のもとで、やはりその人柄が慕わしく思われることだ」とお書きになったのを、小君は懐に入れて持っていた。源氏は、あの人もどう思っているだろうと気の毒に思うけれど、あれこれと考え直して、ことづけもなさらない。あの薄衣は、小袿のたいそう慕わしい人の香りがしみているのを、身近に置いて手慣らしながら見ていらっしゃる。

小君があちらの邸に行くと、姉君は待ちかまえていて、きつくお叱りになる。「あきれたことがあったのに、どうにかごまかしても、人がどう思うかは逃れようがないので、本当に困ったことです。こんなに子どもっぽいあなたの心づかいを、一方ではあの方もどうお思いでしょう」と言って、恥じ入らせなさる。小君はどちらからも責められて苦しく思うけれど、あの源氏の手習の歌を取り出した。空蟬は、さすがに手に取ってご覧になる。

あの脱ぎ捨てた小袿を、伊勢の海人の衣のように汗じみてはいなかっただろうかなどと思うのも心穏やかではなく、たいそうあれこれと心が乱れている。西の君(軒端荻)も、なんとなく恥ずかしい気持ちで、自分の部屋に帰っていった。ほかに知る人もないことなので、人知れず物思いに沈んでいた。小君が行き来するにつけても、胸がいっぱいになるけれど、源氏からのお便りもない。あきれたことだと気づくすべもなくて、浮ついた心にも、なんとなくもの悲しいのだろう。

つれないあの人(空蟬)も、あのように心を静めてはいるが、通りいっぺんではない源氏のご様子に、娘のままの身であったなら、と取り返しのつくものではないけれど、こらえきれないので、この御畳紙の片端に、

「蝉の羽に置く露が木の陰に隠れているように、私もひそかに人目を忍んで、涙に袖をぬらしていることです」。

意訳

巻の終わりで、源氏と空蟬はそれぞれの歌に思いを託す。源氏は、小袿を残して去った空蟬を蝉の抜け殻にたとえ、それでも人柄が慕わしいと詠む。空蟬は直接の返事をせず、源氏の歌が書かれた畳紙の端に、古歌をそのまま書きつける。源氏に届くことのない、心の中だけの返歌である。

空蟬は「ありしながらの我が身ならば」と、ここでも娘のままの身であったならと嘆く。源氏を拒みつづけたのは、心がなかったからではなく、人妻である身を守るためだった。表には出せない思いを、木の陰に隠れた露にたとえる古歌に託したところに、空蟬という女性のつつしみ深さと、深い心がよく表れている。

語釈・文法注

ゆかり
縁、つながり。「つらきゆかり」で、つれない人(空蟬)の縁者(弟)。
手習
思いつくままに歌や文字を書きすさぶこと。手紙として出すつもりのない書きつけ。
空蟬(うつせみ)
蝉の抜け殻。また、はかないこの世の身。この歌から、女は「空蟬」と呼ばれ、巻名にもなった。
人香
人の身についた香り。衣にしみた、その人の香の匂い。
さり所なき
避けどころがない、言い逃れのしようがない。
もぬけ
蝉などの抜け殻。ここでは脱ぎ残した小袿。
いせをの海士のしほなれて
伊勢の海人の衣が潮に慣れてよれよれになっているように、汗じみていなかったか、の意。『伊勢物語』などに見える「伊勢をの海人の潮馴れ衣」をふまえる。
西の君
西の対に住む娘。軒端荻。
たゝうがみ
畳紙(たとうがみ)。たたんで懐に入れておく紙。歌を書いたり、鼻紙にしたりした。

文法

係り結び(こそ…まじけれ)(ゆかりにこそえ思ひはつまじけれ)
係助詞「こそ」を受けて、打消推量の「まじ」が已然形「まじけれ」で結ばれている。
過去の助動詞「けり」+完了「つ」(かへてける)
「かへてける」は完了の助動詞「つ」の連用形「て」+過去の「けり」。「変えてしまった」。
推量「べし」(もの哀れなるべし)
語り手の推量。軒端荻の心を推し量る草子地。

和歌

空蟬の身をかへてける木のもとになほ人がらのなつかしきかな

詠者
光源氏
状況
空蟬の残した小袿を身近に置きながら、源氏が手習のように書きすさんだ歌。蝉が抜け殻を残して姿を変えていった木のもとで、なおその人柄が慕わしいことだ。

修辞

見立て
小袿を残して逃れた女を、抜け殻を残して飛び去った蝉にたとえる。この歌から、女は「空蟬」と呼ばれ、巻名にもなった。
掛詞
「人がら」に「人柄」と、蝉の「殻」を響かせる。

うつせみのはにおく露のこがくれてしのびしのびにぬるゝ袖かな

詠者
空蟬
状況
源氏の歌を見た空蟬が、懐紙の端に書きつけた歌。蝉の羽に置く露が木の陰に隠れているように、私もひそかに人目を忍んで涙に袖をぬらしていることだ。

修辞

本歌
『伊勢集』の「うつせみの羽に置く露の木隠れてしのびしのびに濡るる袖かな」をそのまま用いる。空蟬は自作ではなく古歌を書きつけて、思いを託している。
掛詞・縁語
「こがくれ」は「木隠れ」で、人目を忍ぶ意を重ねる。「露」「ぬるゝ」は縁語で、涙を表す。

解説

巻名「空蝉」は、源氏の歌「空蟬の身をかへてける木のもとに」による。小袿を残して逃れた女を、抜け殻を残して飛び去る蝉にたとえた歌であり、女はこの歌から「空蟬」と呼ばれる。サイトの帖名は通行の表記「空蝉」とし、本文は底本の字体「空蟬」のままにしている。

空蟬が書きつけた「うつせみのはにおく露の」の歌は、『伊勢集』に見える伊勢の歌をそのまま用いたものである。自作の歌を返さず、古歌を畳紙の端に書くだけにとどめたところに、源氏への思いを表に出すまいとする空蟬の心がうかがえる。この歌は源氏には届かない。

帚木の巻から続いた空蟬の物語は、ここでひとまず終わる。空蟬はのちに夫の伊予介とともに任国へ下り、関屋の巻で源氏と再会し、やがて夫の死後に出家する。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、54–55頁(コマ29)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日