源氏物語 第3帖 空蝉(1)
再び中川の宿へ
空蟬に拒まれた夜、源氏は小君に恨み言を言いながら眠れずに過ごす。空蟬も、源氏の訪れが絶えれば絶えたでつらく、心が揺れる。源氏はあきらめきれず、紀伊守が任国に下った隙に、小君の車でひそかに中川の邸を訪れる。

- 1寢寢ねられられられ給給たまははわぬぬぬまゝまゝままににに「「「我我わはははかくかくかく人人ひとににに憎憎にくまままれれれてててもももならはならはならわぬぬぬををを、、、今宵今宵こよいなむなむなん始始はじめめめめてててうしうしうしととと世世よををを思思おもひひい知知しりりりぬれぬれぬればばば、、、はづかしうはづかしうはずかしゅうてててながらふながらふながらうまじくまじくまじくこそこそこそ思思おもひひいなりなりなりぬれぬれぬれ」」」などなどなどのたまへのたまへのたまえばばば、、、淚淚なみだをををさへさへさへこぼしこぼしこぼしててて臥臥ふしししたりたりたり。。。
- 2いといといとらうたしらうたしろうたしとととおぼすおぼすおぼす。。。手手てさぐりさぐりさぐりののの細細ほそくくく小小ちいさきききほどほどほど髪髪かみのののいといといと長長ながからからからざりざりざりしししけはひけはひけわいのののさまさまさま似通似通にかよひひいたるたるたるもももひなしひなしいなしにににややや哀哀あわれなりなりなり。。。
- 3强强あながちちちにににかゝづらひかゝづらひかかずらいたどりたどりたどりよらよらよらむむんもももわろかるわろかるわろかるべくべくべくまめやかまめやかまめやかにににめざましめざましめざましとととおぼしおぼしおぼし明明あかしししつゝつゝつつ例例れいのののやうやうようにもにもにもののの給給のたまひひいまつはさまつはさまつわさずずず夜夜よふかうふかうふこう出出いででで給給たまへへえばばば、、、このこのこの子子こはははいとほしくいとほしくいとおしくさうざうしさうざうしそうぞうしととと思思おもふふう。。。
- 4女女おんなもももなみなみなみなみなみなみならならならずずずかたはらかたはらかたわら痛痛いたしししととと思思おもふふうににに御御おん消消しょうそこそこそこももも絕絕たえええてててなしなしなし。。。
- 5おぼしおぼしおぼし懲懲こりりりにににけるけるけるととと思思おもふふうにもにもにも、、、やがてやがてやがてつれなくつれなくつれなくててて止止やみみみ給給たまひひいなななましかましかましかばばばうからうからうからましましまし、、、强强しひひいててていとほしきいとほしきいとおしき御御おんふるまひふるまひふるまいののの絕絕たえええざらざらざらむむんもももうたてうたてうたてあるあるあるべしべしべし、、、よきよきよきほどほどほどにてにてにてかくかくかくててて閉閉とぢめぢめじめてててむむんととと思思おもふふうものものものからからからたゞたゞただならならならずずずながめながめながめがちがちがちなりなりなり。。。
- 6君君きみははは心心こころづきなしづきなしずきなしとととはははおぼしおぼしおぼしながらながらながら、、、かくかくかくてててはははえええ止止やむむむまじうまじうまじゅう御心御心みこころにににかゝりかゝりかかり人人ひとわろくわろくわろく思思おもほしほしおしわびわびわびててて小君小君こぎみににに
- 7「「「いといといとつらうつらうつろうもももももも覺覺おぼゆるゆるゆるににに强强しひひいててて思思おもひひい返返かえせせせどどど心心こころにににしもしもしも隨隨したがははわずずず苦苦くるしきしきしきををを、、、さりぬべきさりぬべきさりぬべき折折おりををを見見みててて對面對面たいめんすすすべくべくべくたばかれたばかれたばかれ」」」とととののの給給のたまひひいわたれわたれわたればばば、、、
- 8煩煩わずらはしけれはしけれわしけれどどど、、、かゝるかゝるかかる方方かたにてにてにてももものたまひのたまひのたまいまつはすまつはすまつわすははは嬉嬉うれしうしうしゅうおぼえおぼえおぼえけりけりけり。。。
- 9幼幼おさなききき心地心地ここちにににいかならいかならいかならむむん折折おりにににかかかととと持持もちちちるるるににに、、、紀紀きのののかみかみかみ國國くにににに下下しもりりりなどなどなどしししててて女女おんなのどやかのどやかのどやかなるなるなる夕闇夕闇ゆうやみののの道道みちたどたどしげたどたどしげたどたどしげなるなるなるまぎれまぎれまぎれににに我我わががが車車くるまにてにてにて率率いててて奉奉たてまつるるる。。。
- 10このこのこの子子こももも幼幼おさなきききをををいかならいかならいかならむむんととと覺覺おぼせせせどどどさささのみのみのみもももえええおぼしおぼしおぼしのどむのどむのどむまじかりまじかりまじかりけれけれければばば、、、さりげなきさりげなきさりげなき姿姿すがたにてにてにて門門かどなどなどなどさゝさゝささぬぬぬさきさきさきにににととと急急いそぎぎぎおはすおはすおわす。。。
- 11人人ひと見見みぬぬぬ方方かたよりよりより引引ひききき入入いれれれててておろしおろしおろし奉奉たてまつるるる。。。童童わらわなれなれなればばばとのゐとのゐとのい人人びとなどなどなどももも殊殊ことににに見見み入入いれれれ、、、せせせずずず心心こころやすしやすしやすし。。。
- 12ひんがしひんがしひんがしのののににに立立たててて奉奉たてまつりりりててて我我わははは南南みなみののの隅隅すみのののまままよりよりより格子格子こうし叩叩たたきききのゝじりのゝじりののじりててて入入いりりりぬぬぬ。。。御達御達ごたち「「「あらはあらはあらわなりなりなり」」」ととといふいふいうなりなりなり。。。
- 13「「「なぞなぞなぞかうかうこう暑暑あつきききにににこのこのこの格子格子こうしはははおろさおろさおろされれれたるたるたる」」」ととと問問とへへへばばば、、、「「「晝晝ひるよりよりより西西にしのののののの渡渡わたらららせせせ給給たまひひいててて碁碁ご打打うたたたせせせ給給たまふふう」」」ととといふいふいう。。。
- 14さてさてさてむかひむかひむかい居居いたらたらたらむむんををを見見みばやばやばやととと思思おもひひいてててやをらやをらやおら歩歩あゆみみみ出出いでゝでゝでて簾垂簾垂すだれのののはざまはざまはざまににに入入いりりり給給たまひひいぬぬぬ。。。
現代語訳
源氏は眠ることもおできにならないまま、小君に「私はこんなに人に嫌われたことはなかったのに、今夜初めて男女の仲のつらさを思い知ったので、恥ずかしくて、もう生きていられないような気持ちになってしまった」などとおっしゃるので、小君は涙までこぼして横になっている。源氏はたいそういじらしいとお思いになる。手探りで触れたこの子の、ほっそりと小柄な体つきや、髪がそれほど長くなかった様子が、姉に似通っているのも、そう思うせいか、しみじみと心にしみる。
むやみにかかずらって、あの人のところへたどり寄るのも体裁が悪いだろうし、本当に心外なことだと思い明かして、いつものように小君にあれこれ話しかけてそばに引きつけることもなく、まだ夜深いうちにお帰りになったので、小君は源氏をお気の毒に思い、物足りなく感じる。
女(空蟬)も、ひととおりではなく心苦しく思っていたが、その後、お便りもすっかり絶えてしまった。懲りておしまいになったのだと思うにつけても、このままつれなくお見限りになったら、それはつらいことだろう、かといって、無理に強引なお振る舞いが続くのも困ることだ、ちょうどよいところで、こうして終わりにしてしまおう、と思いながらも、心穏やかではなく、物思いに沈みがちである。
源氏は、気に入らない女だとはお思いになりながらも、このままではあきらめきれないほどお心にかかり、体裁悪くも思い悩んで、小君に「たいそうつらく、いまいましくも思われるので、無理に思い返そうとしても、心が思うようにならず苦しいので、よい折を見て、あの人に会えるよう取り計らってくれ」と、何度もおっしゃるので、小君は煩わしく思いながらも、こうした用事でも、そばに置いて親しくお言葉をかけてくださるのはうれしく思うのだった。
子ども心に、どんな機会があるだろうかと待っていたところ、紀伊守が任国に下るなどして、女たちだけがのんびりしている夕闇の、道もはっきり見えない暗がりにまぎれて、小君は自分の車に源氏をお乗せしてお連れする。源氏は、この子もまだ幼いので、どうなることかとお思いになるが、そうのんびりと構えてもいられなかったので、目立たない姿で、門などを閉めないうちにと急いでおいでになる。
人の見ない方から車を引き入れて、源氏をお降ろし申し上げる。小君は子どもなので、宿直の者なども特に気にとめたり、機嫌をとったりもせず、気楽である。東の妻戸のところに源氏をお立たせ申し上げて、小君自身は南の隅の間から、格子を叩いて大声で呼んで入っていった。女房たちが「丸見えになります」と言っているようだ。小君が「どうしてこんなに暑いのに、この格子を下ろしているの」と尋ねると、「昼から西の御方がおいでになって、碁を打っていらっしゃるのです」と言う。源氏は、それなら向かい合っているところを見たいものだと思って、そっと歩み出して、簾の間にお入りになった。
意訳
空蟬の巻は、帚木の巻の最後の夜の続きから始まる。拒まれた源氏は、「今宵なむ始めてうしと世を思ひ知りぬれば」と、生まれて初めての挫折を口にする。思い通りにならない女性の存在が、かえって源氏の思いをつのらせていく。
一方の空蟬も、源氏の訪れが絶えると、それはそれでつらいと感じる。拒みながらも心が揺れる空蟬の複雑な心理が、短い言葉の中に描かれている。小君の手引きによる再訪は、少年の無邪気さと、源氏の執着とが組み合わさって実現したものである。
語釈・文法注
- 思ひなし
- そう思うせいか、気のせいか。
- 人わろし
- 体裁が悪い、みっともない。
- うれたし
- いまいましい、腹立たしい。
- 持ち渡る
- 底本の表記。通行の本文は「待ちわたる」で、待ち続ける意。
- 女どち
- 女たちだけ、女同士。
- つゐそう
- 追従(ついしょう)。機嫌をとること。底本は「つゐそう」と表記する。
- 妻戶(つまど)
- 寝殿造の四隅にある両開きの板戸。
- 西の御方
- 西の対に住む人。紀伊守の妹で、伊予介の娘。空蟬にとっては継娘にあたる。のちに軒端荻(のきばのおぎ)と呼ばれる。
文法
- 反実仮想「ましかば…まし」(止み給ひなましかばうからまし)
- 「もしこのまま終わってしまわれたら、つらいだろう」。空蟬の揺れる心を表す。
- 強意「て」+推量「む」(閉ぢめてむ)
- 完了の助動詞「つ」の未然形「て」+意志の「む」。「きっと終わりにしてしまおう」。
- 願望の終助詞「ばや」(見ばや)
- 「見たいものだ」。
解説
空蟬の巻は、帚木・空蟬・夕顔の「帚木三帖」の中ほどにあたる短い巻である。前半は、源氏が空蟬と継娘の軒端荻を垣間見る場面、後半は空蟬が薄衣を残して逃れる場面からなる。
小君が「女どちのどやかなる夕闇」の折に源氏を手引きする場面には、平安貴族の邸の出入りの様子が具体的に描かれている。車を人目につかない所から引き入れ、妻戸のところに源氏を立たせておくなど、少年なりに工夫している。
「西の御方」は伊予介の娘で、紀伊守の妹にあたる。この巻では名前で呼ばれず、のちの夕顔の巻で、源氏が荻の枝に結んで歌を贈ったことから「軒端荻」と呼ばれるようになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、47–49頁(コマ25–26)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日