徒然草 第33章(第189段〜第194段)
不定と心得ぬるのみまことにて
予定どおりにならないのが世の常で、「不定と心得ぬるのみまことにて違はず」と説く第189段、妻を持たないのが心にくいという結婚論、夜の美しさを讃える段、愚かな人には賢い人の知恵は測れないという段、虚言に対する人々の反応をさまざまに分類して、達人の眼にはすべてが見透かされると説く第194段を収める。

- 1今日今日きょうはははそのそのその事事ことをををなさむとなさむとなさむと思思おもへどへどえど、、、出出いででで來來きてまぎれくらしてまぎれくらしてまぎれくらし、、、待待まつつつ人人ひとはははさはりありてさはりありてさわりありて、、、人人ひとはははきたりきたりきたり。。。賴賴たのみたるみたるみたる方方かたのことのことのことはははたがひてたがひてたがいて、、、思思おもひよらぬひよらぬいよらぬ道道みちばかりばかりばかりはははかなひぬかなひぬかないぬ。。。
- 2煩煩わずらはしかりつるはしかりつるわしかりつる事事ことはははことなくてことなくてことなくて、、、安安やすかるべきことかるべきことかるべきことはははいといといと心心こころぐるしぐるしぐるし。。。日々日々ひびににに過過すぎゆくさまぎゆくさまぎゆくさま、、、かねてかねてかねて思思おもひつるにひつるにいつるに似似にずずず。。。一年一年ひととせののの事事こともかくのごとしもかくのごとしもかくのごとし。。。
- 3一生一生いっしょうののの間間まもまたしかなりもまたしかなりもまたしかなり。。。かねてのあらましかねてのあらましかねてのあらまし皆皆みなたがひゆくかとたがひゆくかとたがいゆくかと思思おもふにふにうに、、、おのづからおのづからおのずから違違たがはぬはぬわぬ事事こともあればもあればもあれば、、、いよいよものいよいよものいよいよものははは定定さだめがたしめがたしめがたし。。。ととと心心こころえぬるのみまことにてえぬるのみまことにてえぬるのみまことにて違違たがはずはずわず。。。
- 4妻妻つまといふものこそといふものこそというものこそをををのこのもつまじきものなれのこのもつまじきものなれのこのもつまじきものなれ。。。いつもいつもいつもひとりずみにてなどひとりずみにてなどひとりずみにてなど聞聞きくこそくこそくこそ心心こころにくけれにくけれにくけれ。。。たれがしがむこになりぬともたれがしがむこになりぬともたれがしがむこになりぬとも、、、又又またいかなるいかなるいかなる女女おんなをををとりすゑてあひすむなどきゝつればとりすゑてあひすむなどきゝつればとりすえてあいすむなどききつれば、、、むげにむげにむげに心心こころおとりせらるゝわざなりおとりせらるゝわざなりおとりせらるるわざなり。。。
- 5ことなることなきことなることなきことなることなき女女おんなをををよしとよしとよしと思思おもひひい定定さだめてこそそひめてこそそひめてこそそい居居いたらめとたらめとたらめと、、、賤賤いやしくもおししくもおししくもおしはははかられかられかられ、、、よきよきよき女女おんなならばこのならばこのならばこの男男おとこをぞをぞをぞらうたくしてらうたくしてろうたくして、、、佛佛ほとけとまもりゐたらめとまもりゐたらめとまもりいたらめ。。。
- 6たとへばたとへばたとえば、、、さばかりにこそとさばかりにこそとさばかりにこそと覺覺おぼえぬべしえぬべしえぬべし。。。ましてましてまして家家いえののの內內うちををを行行おこなひひいをををさめたるさめたるさめたる女女おんな、、、いとくちいとくちいとくちをををししし。。。子子こなどいできてなどいできてなどいできて、、、かしづきかしづきかしずき愛愛あいしたるしたるしたる心心こころうしうしうし。。。
- 7男男おとこなくなりてなくなりてなくなりて後後のち、、、尼尼あまになりてになりてになりて年年としよりたるありさまよりたるありさまよりたるありさま、、、なきあとまであさましなきあとまであさましなきあとまであさまし。。。いかなるいかなるいかなる女女おんななりともなりともなりとも、、、明暮明暮あけくれそひみむにそひみむにそいみむにははは、、、いといといと心心こころづづづきなくにくかりなむきなくにくかりなむきなくにくかりなむ。。。
- 8女女おんな。。。よそながらよそながらよそながら時々通時々通ときどきかよひすまむこそひすまむこそひすまむこそ年月年月としつきへてもへてもへても絕絕た。。。あからさまにあからさまにあからさまに來來きてとまりてとまりてとまり居居いなどせむなどせむなどせむはははめづらしかりぬべしめづらしかりぬべしめずらしかりぬべし。。。
- 9夜夜よににに入入いりてものゝりてものゝりてもののはははえなしといふえなしといふえなしという人人ひと、、、いとくちいとくちいとくちをををししし。。。萬萬よろずののの物物もののきらかざりのきらかざりのきらかざり色色いろふしもふしもふしも、、、夜夜よのみこそめでたけれのみこそめでたけれのみこそめでたけれ。。。晝晝ひるははは姿姿すがたにてもありなむにてもありなむにてもありなむ。。。
- 10夜夜よはははきらゝかにきらゝかにきららかに華華はなやかなるさうぞくいとよしやかなるさうぞくいとよしやかなるそうぞくいとよし。。。人人ひとのけしきものけしきものけしきも、、、夜夜よのののはははよくよくよく、、、物物ものいひたるいひたるいいたる聲聲こえももも、、、暗暗くらくてきゝたるくてきゝたるくてききたる、、、用意用意よういあるあるある心心こころにくしにくしにくし。。。
- 11にほひもものゝにほひもものゝにおいもものの音音おとももも、、、たゞたゞただ夜夜よぞぞぞひときひときひときはははめでたきめでたきめでたき。。。さしてことなることなきさしてことなることなきさしてことなることなき夜夜ようちふけてうちふけてうちうけて參參まいれるれるれる人人ひとののの、、、きよげなるさましたるいとよしきよげなるさましたるいとよしきよげなるさましたるいとよし。。。
- 12若若わかきどちきどちきどち心心こころとゞめてとゞめてとどめて見見みるるる人人ひとははは、、、時時ときをもをもをもわかぬものなればわかぬものなればわかぬものなれば、、、殊殊ことにににうちうちうち解解とけぬべきをりふしぞけぬべきをりふしぞけぬべきおりふしぞ、、、はれはれはれなくなくなくひきつくろひきつくろひきつくろはははまほしきまほしきまほしき。。。よきよきよき男男おとこののの、、、日暮日暮ひく、、、女女おんなももも夜夜よふくるふくるふくるほどにすべりつゝほどにすべりつゝほどにすべりつつ、、、鏡鏡かがみとりてとりてとりて顏顏がおなどつくろひなどつくろひなどつくろい出出いづるこそづるこそずるこそをををかしけれかしけれかしけれ。。。
- 13神佛神佛かみおとけにもにもにも人人ひとのまうでぬのまうでぬのもうでぬ、、、日夜日夜にちやまゐりたるよしまゐりたるよしまいりたるよし。。。
- 14人人ひとののの人人ひとをををはははかりてかりてかりて、、、そのそのその智智ちをををしれりとおもはむしれりとおもはむしれりとおもわむ、、、更更さらにあたるべからずにあたるべからずにあたるべからず。。。拙拙つたなききき人人ひとののの棊棊ごうつことばかりにさとくたくみなるうつことばかりにさとくたくみなるうつことばかりにさとくたくみなるははは、、、かしこきかしこきかしこき人人ひとのこののこののこの藝藝げいにおろかなるにおろかなるにおろかなるををを見見みててて、、、おのれがおのれがおのれが智智ちににに及及およばずとさだめてばずとさだめてばずとさだめて、、、よろづのよろづのよろずの道道みちのたくみのたくみのたくみ、、、我我わががが道道みちををを人人ひとののの知知しらざるらざるらざるををを見見みててて、、、おのれすぐれたりとおのれすぐれたりとおのれすぐれたりと思思おもはむことはむことわむこと、、、大大おおきなるあやまりなるべしなるあやまりなるべしなるあやまりなるべし。。。
- 15ののの法師法師ほうし、、、ののの禪師禪師ぜんじ、、、互互たがいにににはははかりてかりてかりて、、、おのれにしかずとおのれにしかずとおのれにしかずと思思おもへるへるえる、、、ともにあたらずともにあたらずともにあたらず。。。おのれがおのれがおのれがにあらざるものにあらざるものにあらざるものをばをばをば、、、爭爭あらそふべからずふべからずうべからず。。。是非是非ぜいすべからずすべからずすべからず。。。
- 16ののの人人ひとををを見見みるるる眼眼まなこははは、、、すこしもすこしもすこしも誤誤あやまるところあるべからずるところあるべからずるところあるべからず。。。たとへばあるたとへばあるたとえばある人人ひとののの世世よににに虛言虛言そらごとをををかまへかまへかまえ出出いだしてしてして、、、人人ひとをををはははかることあらむにかることあらむにかることあらむに、、、すなほにまことゝすなほにまことゝすなおにまことと思思おもひてひていて、、、いふまゝにいふまゝにいうままにはははからるゝからるゝからるる人人ひとありありあり。。。
- 17あまりにあまりにあまりに深深ふかくくく信信しんをををおこしておこしておこして、、、なほわづらはしくなほわづらはしくなおわずらわしく虛言虛言そらごとををを心心こころえそふるえそふるえそうる人人ひとありありあり。。。またまたまた何何なにとしもおもとしもおもとしもおもはははででで、、、心心こころをををつけぬつけぬつけぬ人人ひとありありあり。。。又又またいさゝかおぼつかなくおぼえていさゝかおぼつかなくおぼえていささかおぼつかなくおぼえて、、、たのむにもあらずたのむにもあらずたのむにもあらず、、、たのまずもあらでたのまずもあらでたのまずもあらで案案あんじじじ居居いたるたるたる人人ひとありありあり。。。
- 18又又またまことしくまことしくまことしくははは覺覺おぼえねどもえねどもえねども、、、人人ひとのいふことなればのいふことなればのいうことなれば、、、さもあらむとてさもあらむとてさもあらむとて止止やみぬるみぬるみぬる人人ひともありもありもあり。。。又又またさまざまにさまざまにさまざまに推推おししし心心こころえたるよししてえたるよししてえたるよしして、、、かしこげにかしこげにかしこげにうちうちうちうなづきうなづきうなずき、、、ほゝゑみてほゝゑみてほほえみて居居いたれどつやつやたれどつやつやたれどつやつや知知しらぬらぬらぬ人人ひとありありあり。。。
- 19またまたまた推推おししし出出いだしてあはれさるめりとしてあはれさるめりとしてあわれさるめりと思思おもひながらひながらいながら、、、なほあやまりもこそあれとあやしむなほあやまりもこそあれとあやしむなおあやまりもこそあれとあやしむ人人ひとありありあり。。。又又またことなるやうもなかりけるとことなるやうもなかりけるとことなるようもなかりけると、、、手手てをををうつてうつてうつて笑笑わらふふう人人ひとありありあり。。。
- 20またまたまた心心こころえたれどもえたれどもえたれども、、、知知しれりともいはずれりともいはずれりともいわず、、、おぼつかなからぬおぼつかなからぬおぼつかなからぬははは、、、とかくのとかくのとかくの事事ことなくなくなく知知しらぬらぬらぬ人人ひととおなじやうにてとおなじやうにてとおなじょうにて過過すぐるぐるぐる人人ひとありありあり。。。またこのまたこのまたこの虛言虛言そらごとののの本意本意ほいをををはじめよりはじめよりはじめより心心こころえてえてえて、、、すこしもすこしもすこしも欺欺あざむかずかずかず、、、かまへかまへかまえ出出いだしたるしたるしたる人人ひととおなじとおなじとおなじ心心こころになりてになりてになりて、、、力力ちからをををあはするあはするあわする人人ひとありありあり。。。
- 21愚者愚者ぐしゃののの中中なかのたのたのたはははぶれだにぶれだにぶれだに知知しりたるりたるりたる人人ひとののの前前まえにてにてにてはははこのさまざまのこのさまざまのこのさまざまの得得えたるたるたる所所ところ、、、詞詞ことばにてもにてもにても顏顏がおにてもにてもにても、、、かくれなくしられぬべしかくれなくしられぬべしかくれなくしられぬべし。。。ましてあきらかならむましてあきらかならむましてあきらかならむ人人ひとののの、、、惑惑まどへるわれらへるわれらえるわれらををを見見みむことむことむこと、、、掌掌たなごころののの上上うえのもののもののものををを見見みむがごとしむがごとしむがごとし。。。
- 22但但ただしかやうのおししかやうのおししかようのおしはははかりにてかりにてかりにて、、、佛法佛法ぶっぽうまでまでまでをををなずらへいふべきになずらへいふべきになずらえいうべきにはははあらずあらずあらず。。。
現代語訳
〔第189段〕今日はそのことをしようと思っていても、思いがけない急用が先にできて、それにまぎれて一日を暮らし、待っている人は差しつかえがあって来ず、当てにしていない人は来る。期待していた方面のことははずれて、思いもよらない方面のことばかりがかなってしまう。めんどうだと思っていたことは何事もなくすみ、たやすいはずのことは、ひどく気苦労をする。日々過ぎてゆく様子は、前もって思っていたのとは似ていない。一年のこともこのとおりである。一生の間もまた同じである。前もっての予定がみな違っていくのかと思うと、たまたま違わないこともあるので、いよいよ物事は決めがたい。不定(何事も定まらない)と心得ておくことだけが、真実であって違わない。
〔第190段〕妻というものこそ、男の持ってはならないものである。「いつも独り住みで」などと聞くのこそ、奥ゆかしい。「だれそれの婿になった」とも、また「どういう女を迎えて一緒に住んでいる」などと聞くと、ひどく見下げたくなるものである。(その女が)大したこともない女なら、それをよいと思いこんで連れ添っているのだろうと、卑しくも推し量られ、よい女ならば、この男をかわいがって、「わが仏」と大事にしているのだろう。言ってみれば、その程度の男なのだろうと思われるにちがいない。まして家の中をきりもりしている女は、まことに残念である。子どもなどが生まれて、大事にかわいがっているのは情けない。夫が亡くなった後、尼になって年をとった様子は、死後までも見苦しい。どんな女であっても、明け暮れ連れ添っていたら、ひどく気に入らず憎らしくなるだろう。女のためにも、中途半端なことになるだろう。離れて住みながら、時々通って行くのこそ、年月を経ても絶えない仲ともなるだろう。ちょっと来て泊まっていったりするのは、新鮮に思われるにちがいない。
〔第191段〕「夜になると物の見ばえがしない」と言う人は、まことに残念である。あらゆる物の飾りや色合いも、夜こそすばらしい。昼は簡素で地味な姿でもよいだろう。夜は、きらびやかではなやかな装束がたいそうよい。人の様子も、夜の灯火の光で見るのは、よい人はいっそうよく見え、物を言う声も、暗い中で聞くと、心づかいのあるのが奥ゆかしい。香りも楽器の音も、ただ夜こそひときわすばらしい。これということもない夜、夜ふけて参上した人が、きれいな様子をしているのはたいそうよい。若い者同士で、心をとめて見る人は、時を選ばないものなので、とりわけ気を許してよい折こそ、ふだんも晴れの時も区別なく身なりを整えたいものだ。よい男が日が暮れてから髪を洗い、女も夜ふけになって(局に)さがって、鏡を取って顔などを化粧して出てくるのは、趣がある。
〔第192段〕神や仏にも、人の参詣しない日、夜にお参りするのがよい。
〔第193段〕愚かな人が人を推し量って、その人の知恵を知ったと思うのは、まったく当たるはずがない。つたない人で、碁を打つことばかりに鋭くたくみな者が、賢い人がこの芸に疎いのを見て、自分の知恵に及ばないと決めつけ、さまざまな道の職人が、自分の道を人が知らないのを見て、自分がすぐれていると思うのは、大きなまちがいであろう。経文の学問をする法師と、座禅を修める禅師とが、互いに推し量って、自分には及ばないと思っているのは、どちらも当たっていない。自分の領分でないものについては、争ってはならない。是非を論じてはならない。
〔第194段〕達人が人を見る眼は、少しも誤るところがないはずである。たとえば、ある人が世間にうそを作り出して、人をだますことがあるとすると、すなおに本当だと思って、言うままにだまされる人がいる。あまりに深く信じこんで、なおわずらわしく、うそに尾ひれをつけて理解する人がいる。また何とも思わず、気にとめない人がいる。また少し不審に思って、信じるでもなく、信じないでもなく、考えこんでいる人がいる。また、本当らしくは思えないが、人の言うことだから、そうでもあろうと思って、そのままにする人もいる。また、いろいろに推察して、わかったようなふりをして、賢そうにうなずき、ほほえんでいるが、まったくわかっていない人がいる。また推し量って、ああそうらしいと思いながら、なお誤りもあるかもしれないと怪しむ人がいる。また、「別に変わったこともなかった」と、手を打って笑う人がいる。また、わかっているけれども、知っているとも言わず、はっきりわかっていることには、何のこともなく、知らない人と同じようにして過ごす人がいる。また、このうその本意を初めから心得て、少しもだまされず、うそを作り出した人と同じ心になって、力を合わせる人がいる。愚かな者の中の戯れごとでさえ、わかっている人の前では、このようなさまざまな受けとめ方が、言葉にも顔にも、隠れなく知られてしまうだろう。まして道理に明らかな人が、迷っている私たちを見るのは、手のひらの上の物を見るようなものである。ただし、このような推量で、仏法のことまでをなぞらえて言ってはならない。
意訳
〔第189段〕今日しようと思ったことは急用にまぎれ、待つ人は来ず、来ないはずの人が来る。難しいと思ったことは楽にすみ、楽なはずのことに苦労する。一日も一年も一生も同じで、確かなのは「すべては定まらない」ということだけだ――予定どおりにいかない日常の真実を、鮮やかに言い当てた段である。
〔第190段〕男は妻を持たないのがよい。妻と暮らせば、相手がつまらない女でもよい女でも、男の値打ちが知れてしまう。毎日一緒にいれば、どんな女でも嫌になる。離れて住んで時々通うほうが、長続きする――出家者兼好の、皮肉のきいた結婚観である。
〔第191段〕〔第192段〕夜こそ、装束も声も香りも楽器の音も美しい。人の参らない夜の参詣もよい。昼の美より夜の美を好む、兼好の感覚が表れている。
〔第193段〕〔第194段〕碁の上手が、碁を知らない賢人を見下すように、人は自分の物差しで他人を測りがちだが、それは当たらない。うそを聞かされた人の反応を十通りに分けて描いたうえで、道理に通じた人には、私たちの迷いは手のひらの物のように見えていると説く。人間観察の細やかさが際立つ段である。
語釈・文法注
- あらぬいそぎ
- 思いもよらない急用。
- 当てにしていない人。
- 不定
- 定まらないこと。無常であること。
- あが佛
- わが仏。大切な人を呼ぶ言葉。
- なかぞら
- 中途半端。どっちつかず。
- なからひ
- 仲。間柄。
- ことそぎ
- 簡略にすること。
- ほかげ
- 灯火の光。
- けはれなく
- 褻(ふだん)と晴(晴れの場)の区別なく。
- ゆする
- 洗髪。
- くらき人
- 愚かな人。
- 文字の法師
- 経文の文字を学ぶ学僧。
- 暗證の禪師
- 経典によらず、座禅によって悟りを求める禅僧。
- 境界
- 自分の領分。
- 達人
- 物事の道理に深く通じた人。
文法
- かなひぬ
- 「ぬ」は完了。かなってしまう。
- もつまじきものなれ
- 「まじき」は打消当然。持ってはならないものである。「こそ…なれ」の係り結び。
- にくかりなむ
- 「な」は強意、「む」は推量。憎らしくなるだろう。
- ありなむ
- 「な」は強意、「む」は適当。…でもよいだろう。
- あやまりもこそあれ
- 「もこそ」は、…するといけない、…かもしれない、の意。
解説
第189段は、日常の予定が思いどおりにならないことを、だれもが身に覚えのある具体例で述べ、そこから「不定」という仏教の真理を導き出す。「不定と心得ぬるのみまことにて違はず」は、無常を逆説的に言い表した名言として知られる。
第190段の結婚否定論は、出家者兼好の立場からの発言だが、妻と毎日向き合うことのわずらわしさや、通い婚の長所を説く内容は、平安時代以来の貴族の結婚観もふまえている。第3段で恋の情趣を重んじた兼好は、恋と結婚とを別のものとして見ていたようである。
第194段は、うそを聞いた人々の反応を十種類に分類した段で、兼好の人間観察の鋭さと細やかさがよく表れている。どの反応も「達人」の眼には見透かされるという結論は、第73段の「そら言」論とも通じる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(徒然草) 板倉屋書房、明治36年(1903)、839〜841頁(コマ433–434)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日