古典ライブラリー

徒然草 第25章(第138段〜第141段)

後の葵と家にありたき木

祭が終わるとすぐに葵を取り捨てる人を惜しみ、古歌や『枕草子』を引いて枯れた葵や菖蒲の情趣を語る段、家に植えたい木や草花の好み、死後に財産を残すことの見苦しさ、東国人と都人の気質をめぐる堯蓮上人の言葉を収める。

祭の後、御簾に残された枯れかけの葵
第138段「後の葵」の情景。祭が過ぎても御簾に残る葵は、しだいに色あせ、枯葉になってゆく。その名残に、過ぎ去った日をしのぶ趣が感じられる。
  1. 1祭まつり祭まつりまつり過す過すすぎぬればぎぬればぎぬれば、、、ののの葵あふひ葵あふひあおい不用ふよう不用ふようふようなりとてなりとてなりとて、、、あるあるある人ひと人ひとひとののの御簾みす御簾みすみすなるなるなるををを皆みな皆みなみなとらせられとらせられとらせられ侍はべ侍はべはべりしがりしがりしが、、、色いろ色いろいろもなくおぼえもなくおぼえもなくおぼえ侍はべ侍はべはべりしりしりしををを、、、よきよきよき人ひと人ひとひとのしたまふことなればのしたまふことなればのしたまうことなれば、、、さるべきにやとさるべきにやとさるべきにやと思おも思おもおもひしかどひしかどいしかど、、、ののの內侍ないし內侍ないしないしががが、、、
  2. 2「「「かくれどもかひなきものかくれどもかひなきものかくれどもかいなきものはもはもはもろともにみすのろともにみすのろともにみすの葵あふひ葵あふひあおいののの枯葉かれは枯葉かれはかれわなりけりなりけりなりけり」」」
  3. 3とよめるもとよめるもとよめるも、、、「「「ののの御簾みす御簾みすみすににに葵あふひ葵あふひあおいのかゝりたるのかゝりたるのかかりたる枯葉かれは枯葉かれはかれわをををよめるよめるよめる」」」よしよしよしののの集しふ集しふしゅうにかけりにかけりにかけり。。。ふるきふるきふるき歌うた歌うたうたのことばがきにのことばがきにのことばがきに、、、「「「枯か枯かかれたるれたるれたる葵あふひ葵あふひあおいにさしてにさしてにさして遣つか遣つかつかはしけるはしけるわしける」」」ともともとも侍はべ侍はべはべりりり。。。
  4. 4枕草紙まくらのさうし枕草紙まくらのさうしまくらのそうしにもにもにも、、、「「「こしかたこしかたこしかた戀こひ戀こひこいしきものしきものしきもの、、、かれたるかれたるかれたる葵あふひ葵あふひあおい」」」とかけるこそいみじくなつかしうとかけるこそいみじくなつかしうとかけるこそいみじくなつかしゅう思おも思おもおもひよりたれひよりたれいよりたれ。。。鴨長明かものちやうめい鴨長明かものちやうめいかものちょうめいががが四季しき四季しきしきののの物語ものがたり物語ものがたりものがたりにもにもにも「「「玉たま玉たまたまだれにだれにだれに後のち後のちのちののの葵あふひ葵あふひあおいはははとまりけりとまりけりとまりけり」」」とぞかけるとぞかけるとぞかける。。。
  5. 5おのれとおのれとおのれと枯か枯かかるゝだにこそあるるゝだにこそあるるるだにこそあるををを、、、名殘なごり名殘なごりなごりなくいかゞとりなくいかゞとりなくいかがとり捨す捨すすつべきつべきつべき。。。御帳みちやう御帳みちやうみちょう、、、九月九日くぐわつここのか九月九日くぐわつここのかくがつここのか菊きく菊きくきくにとりかへらるゝといへばにとりかへらるゝといへばにとりかえらるるといえば、、、さうぶさうぶそうぶははは菊きく菊きくきくのののをををりまでもあるべきにこそりまでもあるべきにこそりまでもあるべきにこそ。。。
  6. 6ののの皇太后宮くわうたいこうぐう皇太后宮くわうたいこうぐうこうたいこうぐうかくれかくれかくれ給たま給たまたまひてのちひてのちいてのち、、、ふるきふるきふるき御帳みちやう御帳みちやうみちょうののの內うち內うちうちににに、、、さうぶさうぶそうぶ藥玉くすだま藥玉くすだまくすだまなどのなどのなどの枯か枯かかれたるがれたるがれたるが侍はべ侍はべはべりけるりけるりけるををを見み見みみててて、、、「「「をりならぬねをりならぬねおりならぬねをををなほぞかけつるなほぞかけつるなおぞかけつる」」」とととののの乳母めのと乳母めのとめのとのいへるのいへるのいえる返かへ返かへかえりごとにりごとにりごとに、、、「「「あやめのあやめのあやめの草くさ草くさくさはははありながらありながらありながら」」」ともともともののの侍從じじゆう侍從じじゆうじじゅうがよみしぞかしがよみしぞかしがよみしぞかし。。。
  7. 7家いへ家いへいえにありたきにありたきにありたき木き木ききははは松まつ松まつまつ、、、櫻さくら櫻さくらさくら。。。松まつ松まつまつはははもよしもよしもよし。。。花はな花はなはなはははひとへなるよしひとへなるよしひとえなるよし。。。八重櫻やへざくら八重櫻やへざくらやえざくらははは奈良なら奈良ならならののの都みやこ都みやこみやこにのみありけるにのみありけるにのみありけるををを、、、このころぞこのころぞこのころぞ世よ世よよににに多おほ多おほおおくなりくなりくなり侍はべ侍はべはべるなるるなるるなる。。。
  8. 8吉野よしの吉野よしのよしのののの花はな花はなはな、、、ののの櫻さくら櫻さくらさくら、、、皆みな皆みなみなひとへにてこそあれひとへにてこそあれひとえにてこそあれ、、、八重櫻やへざくら八重櫻やへざくらやえざくらはははことやうのものなりことやうのものなりことようのものなり。。。いとこちたくねぢけたりいとこちたくねぢけたりいとこちたくねじけたり。。。栽う栽ううゑずともありなむゑずともありなむえずともありなむ。。。遲櫻おそざくら遲櫻おそざくらおそざくらまたすさまじまたすさまじまたすさまじ。。。
  9. 9蟲むし蟲むしむしのつきたるものむづかしのつきたるものむづかしのつきたるものむずかし。。。梅うめ梅うめうめはははしろきしろきしろき、、、うすうすうす紅梅こうばい紅梅こうばいこうばい、、、一重ひとへ一重ひとへひとえなるがとくなるがとくなるがとく咲さ咲ささきたるもきたるもきたるも、、、かさなりたるかさなりたるかさなりたる紅梅こうばい紅梅こうばいこうばいののの、、、にほひめでたきもみなにほひめでたきもみなにおいめでたきもみなをををかしかしかし。。。
  10. 10おそきおそきおそき梅うめ梅うめうめははは櫻さくら櫻さくらさくらににに咲さ咲ささきあひてきあひてきあいて、、、おぼえおとりけおされておぼえおとりけおされておぼえおとりけおされて、、、枝えだ枝えだえだににに萎しを萎しをしおみつきたるこゝろうしみつきたるこゝろうしみつきたるこころうし。。。「「「一重ひとへ一重ひとへひとえなるがまづなるがまづなるがまず咲さ咲ささきてきてきて散ち散ちちりたるりたるりたるははは、、、心こころ心こころこころとくとくとくをををかしかしかし」」」とてとてとてははわ、、、なほなほなお一重梅ひとへうめ一重梅ひとへうめひとえうめをををなむなむなん軒近のきちか軒近のきちかのきちかくうゑられたりけるくうゑられたりけるくうえられたりける。。。
  11. 11京極きやうごく京極きやうごくきょうごくののの屋や屋ややののの南みなみ南みなみみなみむきにむきにむきに、、、今いま今いまいまももも二本ふたもと二本ふたもとふたもとはははべるめりべるめりべるめり。。。柳やなぎ柳やなぎやなぎまたまたまたをををかしかしかし。。。卯月うづき卯月うづきうづきばかりのわかばかりのわかばかりのわか楓かへで楓かへでかえで、、、すべてすべてすべて萬よろづ萬よろづよろずののの花紅葉はなもみぢ花紅葉はなもみぢはなもみじにもまさりてめでたきものなりにもまさりてめでたきものなりにもまさりてめでたきものなり。。。
  12. 12橘たちばな橘たちばなたちばな、、、桂かつら桂かつらかつら、、、いづれもいづれもいずれも木き木ききはもはもはものののふりふりふり大おほ大おほおおきなるよしきなるよしきなるよし。。。草くさ草くさくさははは山吹やまぶき山吹やまぶきやまぶき、、、藤ふぢ藤ふぢふじ、、、杜若かきつばた杜若かきつばたかきつばた、、、撫子なでしこ撫子なでしこなでしこ、、、池いけ池いけいけにににははは蓮はちす蓮はちすはちす、、、秋あき秋あきあきののの草くさ草くさくさははは荻をぎ荻をぎおぎ、、、薄すゝき薄すゝきすすき、、、、、、萩はぎ萩はぎはぎ、、、女郞花をみなへし女郞花をみなへしおみなえし、、、藤袴ふぢばかま藤袴ふぢばかまふじばかま、、、しししをををににに、、、われもかうわれもかうわれもこう、、、苅萱かるかや苅萱かるかやかるかや、、、りんだうりんだうりんどう、、、菊きく菊きくきく、、、黃菊きぎく黃菊きぎくきぎくももも、、、蔦つた蔦つたつた、、、葛かづら葛かづらかずら、、、朝顏あさがほ朝顏あさがほあさがお、、、いづれもいといづれもいといずれもいと高たか高たかたかからずからずからず、、、さゝやかなるさゝやかなるささやかなる垣かき垣かきかきにしげからぬよしにしげからぬよしにしげからぬよし。。。
  13. 13このこのこの外世ほかよ外世ほかよほかよにまれなるものにまれなるものにまれなるもの、、、唐から唐からからめきたるめきたるめきたる名な名ななのきゝにくゝのきゝにくゝのききにくく、、、花はな花はなはなももも見み見みみなれぬなどなれぬなどなれぬなど、、、いとなつかしからずいとなつかしからずいとなつかしからず。。。大おほ大おほおおかたかたかた何なに何なになにもめづらしくありがたきものもめづらしくありがたきものもめずらしくありがたきものははは、、、よからぬよからぬよからぬ人ひと人ひとひとのもてのもてのもて興きよう興きようきょうずるものなりずるものなりずるものなり。。。さやうのものなくてありなむさやうのものなくてありなむさようのものなくてありなむ。。。
  14. 14身死みし身死みしみししてしてして財たから財たからたからのこることのこることのこることははは智者ちしや智者ちしやちしゃのせざるところなりのせざるところなりのせざるところなり。。。よからぬものたくよからぬものたくよからぬものたくはははへおきたるもつたなくへおきたるもつたなくへおきたるもつたなく、、、よきものよきものよきものははは心こころ心こころこころをををとゞめけむととゞめけむととどめけむとはははかなしかなしかなし。。。
  15. 15こちたくこちたくこちたく多おほ多おほおおかるましてかるましてかるまして口くち口くちくちをををししし。。。「「「我わ我わわこそえめこそえめこそえめ」」」などいふものどもありてなどいふものどもありてなどいうものどもありて、、、あとにあとにあとに爭あらそ爭あらそあらそひたるさまあしひたるさまあしいたるさまあし。。。後のち後のちのちははは誰たれ誰たれたれにとこゝろざすものあらばにとこゝろざすものあらばにとこころざすものあらば、、、いけらむうちにぞゆづるべきいけらむうちにぞゆづるべきいけらむうちにぞゆずるべき。。。
  16. 16朝夕あさゆふ朝夕あさゆふあさゆうなくてかなはざらむものこそあらめなくてかなはざらむものこそあらめなくてかなわざらむものこそあらめ、、、そのそのその外ほか外ほかほかははは何なに何なになにももたでぞあらまほしきももたでぞあらまほしきももたでぞあらまほしき。。。
  17. 17ののの上人しやうにん上人しやうにんしょうにんははは、、、俗姓ぞくしやう俗姓ぞくしやうぞくしょうははは三浦みうら三浦みうらみゅうらのなにがしとかやのなにがしとかやのなにがしとかや、、、さうなきさうなきそうなき武者むしや武者むしやむしゃなりなりなり。。。故鄕ふるさと故鄕ふるさとふるさとののの人ひと人ひとひとののの來き來ききててて物もの物ものものがたりすとてがたりすとてがたりすとて、、、「「「あづまあづまあずま人ひと人ひとひとこそいひつることこそいひつることこそいいつることはははたのまるれたのまるれたのまるれ。。。都みやこ都みやこみやこののの人ひと人ひとひとはははうけのみよくてうけのみよくてうけのみよくて、、、まことなしまことなしまことなし」」」といひしといひしといいしををを、、、聖ひじり聖ひじりひじり「「「それそれそれはははさこそおぼすらめどもさこそおぼすらめどもさこそおぼすらめども、、、おのれおのれおのれははは都みやこ都みやこみやこににに久ひさ久ひさひさしくすみてしくすみてしくすみて、、、馴な馴ななれてれてれて見み見みみるにるにるに、、、人ひと人ひとひとののの心こころ心こころこころおとれりとおとれりとおとれりとははは思おも思おもおもひひい侍はべ侍はべはべらずらずらず。。。なべてなべてなべて心こころ心こころこころやはらかにやはらかにやわらかに情なさけ情なさけなさけあるゆゑにあるゆゑにあるゆえに、、、人ひと人ひとひとのいふのいふのいうほどのことほどのことほどのこと、、、けやけくいなびがたくけやけくいなびがたくけやけくいなびがたく、、、よろづえいひよろづえいひよろずえいいはははなたずなたずなたず、、、心こころ心こころこころよわくことよわくことよわくことうけしつうけしつうけしつ。。。僞いつはり僞いつはりいつわりせむとせむとせむとははは思おも思おもおもはははねどねどねど、、、ともしくかなはぬともしくかなはぬともしくかなわぬ人ひと人ひとひとのみあればのみあればのみあれば、、、おのづからおのづからおのずから本意ほい本意ほいほいとほらぬこととほらぬこととおらぬこと多おほ多おほおおかるべしかるべしかるべし。。。吾妻人あづまうど吾妻人あづまうどあずまうどははは我わ我わわがかたなれどがかたなれどがかたなれど、、、げにげにげにははは心こころ心こころこころののの色いろ色いろいろなくなくなく情なさけ情なさけなさけおくれおくれおくれ、、、偏ひとへ偏ひとへひとえ、、、はじめよりいなといひてはじめよりいなといひてはじめよりいなといいて止や止ややみぬみぬみぬ。。。にぎはひゆたかなればにぎはひゆたかなればにぎわいゆたかなれば、、、人ひと人ひとひとにににはははたのまるゝぞかしたのまるゝぞかしたのまるるぞかし」」」とことわられとことわられとことわられ侍はべ侍はべはべりしこそりしこそりしこそ。。。
  18. 18このこのこの聖聲ひじりこゑ聖聲ひじりこゑひじりこえうちゆがみあらあらしくてうちゆがみあらあらしくてうちゆがみあらあらしくて、、、聖敎しやうげう聖敎しやうげうしょうぎょうのこまやかなることわりのこまやかなることわりのこまやかなることわり、、、いとわきまへずもやといとわきまへずもやといとわきまえずもやと思おも思おもおもひしにひしにいしに、、、このこのこの一言ひとこと一言ひとことひとことののの後心のちこころ後心のちこころのちこころにくゝなりてにくゝなりてにくくなりて、、、多おほ多おほおおかるかるかる中なか中なかなかににに寺てら寺てらてらをもをもをも住持ぢゆうぢ住持ぢゆうぢじゅうじせらるゝせらるゝせらるるははは、、、かくやはらぎたるところありてかくやはらぎたるところありてかくやわらぎたるところありて、、、そのそのその益やく益やくやくもあるにこそとおぼえもあるにこそとおぼえもあるにこそとおぼえ侍はべ侍はべはべりしりしりし。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔第138段〕「祭が過ぎたから、後の葵は不用だ」と言って、ある人が御簾にかけてあった葵をすべて取らせなさいましたが、趣もなく思われましたのを、教養ある方のなさることだから、そうすべきわけがあるのかと思ったけれど、周防内侍が、

「かくれどもかひなきものはもろともにみすの葵の枯葉なりけり」

と詠んだのも、「母屋の御簾に葵がかかっている枯葉を詠んだ」ということが、家集に書いてある。古い歌の詞書にも、「枯れた葵にさして贈った」ともある。『枕草子』にも、「過ぎ去った昔が恋しくなるもの、枯れた葵」と書いてあるのは、たいそう心ひかれる思いつきである。鴨長明の『四季物語』にも、「玉だれに後の葵はとまりけり」と書いてある。自然に枯れていくのさえ惜しいのに、どうして名残もなく取り捨ててよかろうか。御帳にかけてある薬玉も、九月九日に菊に取り替えられるというのだから、菖蒲は菊の節句まではかけておくべきなのだろう。枇杷皇太后宮がお亡くなりになった後、古い御帳の中に、菖蒲や薬玉などの枯れたのがありましたのを見て、「折でもないのに根(音)をなおかけていることだ」と弁の乳母が詠んだ返歌に、「あやめの草はありながら」と江侍従が詠んだのであるよ。

〔第139段〕家に植えておきたい木は、松と桜。松は五葉の松もよい。花は一重のものがよい。八重桜は奈良の都にだけあったのを、このごろは世に多くなっているそうです。吉野の花も、左近の桜も、みな一重であるのに、八重桜は変わったものである。たいそう大げさで、ひねくれている。植えなくてもよいだろう。遅桜もまた興ざめである。虫のついたものは気味が悪い。梅は白いのも薄紅梅も、一重のものが早く咲いたのも、八重の紅梅で香りのすばらしいのも、みな趣がある。遅咲きの梅は、桜と咲き合わせて評判が落ち、圧倒されて、枝にしおれてついているのは情けない。「一重のものがまず咲いて散ったのは、気が早くておもしろい」と言って、京極入道中納言(藤原定家)は、やはり一重の梅を軒近くに植えられた。京極の家の南向きに、今も二本あるようです。柳もまた趣がある。四月ごろの若楓は、すべてどんな花や紅葉にもまさってすばらしいものである。橘や桂は、どちらも木は古びて大きいのがよい。

草は山吹、藤、杜若、撫子。池には蓮。秋の草は荻、薄、桔梗、萩、女郎花、藤袴、紫苑、吾亦紅、刈萱、竜胆、菊。黄菊もよい。蔦、葛、朝顔、どれもあまり丈が高くなく、小さな垣にあまり茂っていないのがよい。このほか、世にまれなものや、中国風の名前が聞きなれず、花も見なれないものなどは、まったく親しみがわかない。だいたい、何でも珍しくめったにないものは、品のない人がもてはやすものである。そういうものは、ないほうがよいだろう。

〔第140段〕死後に財産が残ることは、知恵ある人のしないことである。つまらないものを蓄えておいたのもみっともないし、よいものは、執着していたのだろうと思われて情けない。やたらに多いのは、なおさら残念だ。「自分こそもらおう」などと言う者たちがいて、死後に争っているのは見苦しい。死後はだれそれにと心に決めているものがあるならば、生きているうちに譲るべきである。朝夕なくては困るものはしかたがないが、そのほかは何も持たないでいたいものだ。

〔第141段〕悲田院の堯蓮上人は、俗姓は三浦の何某とかいって、並ぶ者のない武士である。故郷の人が来て話をするというので、「東国の人こそ、言ったことは信頼できる。都の人は、引き受けることばかり調子がよくて、誠実さがない」と言ったところ、上人は「あなたはそうお思いになるだろうが、私は都に長く住んで、慣れ親しんで見ると、人の心が劣っているとは思いません。総じて心が柔和で情があるので、人の頼むことを、きっぱりと断りにくく、何事もはっきりと言い切れず、気弱く引き受けてしまうのです。偽ろうとは思わないけれど、貧しくて思うにまかせない人ばかりなので、自然と本意が通らないことが多いのでしょう。東国の人は私の同郷ですが、実のところ心の優しさがなく、情に欠け、ひたすら武骨な者なので、初めから『いや』と言って終わりにしてしまう。(けれども)にぎわって豊かなので、人から頼りにされるのですよ」と道理を説かれましたのは、(立派であった)。この上人は、声がなまって荒々しくて、仏典の細かい道理などわきまえていないのではないかと思っていたが、この一言の後、奥ゆかしく思われて、多くの僧の中で寺の住職をなさっているのは、このように柔和なところがあって、その徳もあるからなのだろうと思われました。

意訳

〔第138段〕祭が終わったからと葵をすぐ取り捨てるのは味気ない。周防内侍の歌、古歌の詞書、『枕草子』の「こしかた恋しきもの、かれたる葵」、長明の『四季物語』と、先人の言葉を次々に引いて、枯れたものにも情趣があることを示す。第137段の美意識を、具体的な風習に即して語った段である。

〔第139段〕庭木は松と桜、桜は一重がよく、八重桜はくどい。梅は早咲きの一重が趣深いと定家も愛した。草花は丈が低く、垣に控えめに茂るのがよい。珍しい外来の花は品のない人が好むもの――兼好の庭の好みは、素朴で控えめなものに向いている。

〔第140段〕死後に財産を残すのは見苦しい。遺産をめぐる争いを招く。譲りたいものは生きているうちに譲り、日用品のほかは何も持たないのがよい。

〔第141段〕東国の武士出身の堯蓮上人は、「都の人は口先ばかりで誠がない」という同郷人に、「都の人は情が深いから断りきれず、貧しいから約束が果たせないのだ。東国人は情に欠けるが、豊かだから頼りにされるのだ」と答えた。見かけによらぬ思慮深さに、兼好は感服している。

語釈・文法注

後の葵
賀茂祭が終わった後の葵。祭の日に家々の簾などにかけた。
周防の內侍
平安後期の女房歌人。百人一首の「春の夜の夢ばかりなる」の作者。
母屋
寝殿造りの建物の中心部分。
家の集
個人の歌集。家集。
くすだま
薬玉。五月五日に、香料を入れた袋に菖蒲や蓬を添え、五色の糸を垂らしたもの。邪気を払うとされた。
枇杷の皇太后宮
藤原妍子(994〜1027)。三条天皇の中宮。
辨の乳母
妍子に仕えた女房歌人。
江の侍從
大江匡衡の娘。歌人。
五葉
五葉の松。
左近の櫻
紫宸殿の前の東側に植えられた桜。
京極入道中納言
藤原定家(1162〜1241)。
きちかう
桔梗。
悲田院
貧しい人や孤児を収容した施設。のち寺となった。
堯蓮上人
三浦氏出身の僧。伝未詳。
ことうけ
人の頼みを引き受けること。
すくよか
無骨なさま。

文法

さるべきにや
下に「あらむ」が省略されている。そうすべきわけがあるのだろうか。
いかゞとり捨つべき
「いかゞ…べき」は反語。どうして取り捨ててよかろうか。
栽ゑずともありなむ
「な」は強意、「む」は適当。植えなくてもよいだろう。
ことわられ侍りしこそ
「こそ」の下に「いみじけれ」などが省略されている。

和歌

かくれどもかひなきものはもろともにみすの葵の枯葉なりけり

詠者
周防内侍
状況
母屋の御簾にかかった葵の枯葉を詠んだ歌(『周防内侍集』)。第138段で、祭の後の葵にも情趣があることの証として引かれる。

修辞

掛詞
「かく」に「(葵を)掛く」と「斯く」、「葵」に「逢ふ日」、「かひなき」に「甲斐なき」をかけ、逢うことのかなわない恋のむなしさを、枯れた葵に託す。

解説

第138段は、第137段の「花は盛りに」の美意識を、賀茂祭の葵という具体例で展開した段である。兼好は、自分の感覚を裏づけるために、周防内侍、清少納言、鴨長明などの先人の言葉を次々に引く。古典に通じた兼好らしい、考証的な書き方である。

第139段は、兼好の好きな木と草花を列挙した段である。八重桜を「こちたくねぢけたり」と嫌い、一重の花を好む趣味は、第137段・第82段などと同じく、華美より素朴を尊ぶ美意識の表れである。定家の一重梅の逸話は、和歌の家の伝承として兼好が聞き知っていたものだろう。

第141段の堯蓮上人の言葉は、東国と都の人の気質の違いを、経済的な事情まで含めて分析したもので、鋭い人間観察として評価が高い。兼好は、荒々しい外見の上人が、実は深い思いやりを持っていたことに感じ入り、人を見かけで判断してはならないことを示している。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(徒然草) 板倉屋書房、明治36年(1903)、819〜822頁(コマ423–425)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日