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徒然草 第24章(第137段)

花は盛りに

「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは」――満開の花や満月だけでなく、散った後や雲間の月にこそ情趣があると説く、『徒然草』を代表する段。賀茂祭の見物に騒ぐ田舎者と都の上品な人との対比を経て、祭の後の大路のさびしさから、人の死の避けがたさへと思いを深めていく。

花の散りしおれた春の庭と、雨にぬれる桜の梢
第137段「花は盛りに」の情景。桜の花が散り、雨にぬれた庭に花びらが残る。盛りを過ぎた景色にも心を寄せる、兼好の美意識を表している。
  1. 1花はな花はなはなははは盛さかり盛さかりさかりににに月つき月つきつきはははなきなきなきをををのみのみのみ見み見みみるものかるものかるものかははは。。。雨あめ雨あめあめにむかひてにむかひてにむかいて月つき月つきつきををを戀こ戀ここひひひ、、、春はる春はるはるのゆくへのゆくへのゆくえ知し知ししらぬもらぬもらぬも、、、なほあはれになさけなほあはれになさけなおあわれになさけふかしふかしふかし。。。咲さ咲ささきぬべききぬべききぬべきほどのほどのほどの梢こずゑ梢こずゑこずえ、、、散ち散ちちりしりしりしをををれたるれたるれたる庭には庭にはにわなどこそなどこそなどこそ見み見みみどころおほけれどころおほけれどころおおけれ。。。
  2. 2のことばがきにものことばがきにものことばがきにも、、、「「「花はな花はなはな見み見みみにまかれりけるににまかれりけるににまかれりけるに、、、はやくはやくはやく散ち散ちちりりり過す過すすぎにければぎにければぎにければ」」」ともともとも、、、「「「さはるさはるさわる事こと事ことことありてまからでありてまからでありてまからで」」」などもなどもなども書か書かかけるけるけるははは、、、「「「花はな花はなはなををを見み見みみててて」」」といへるにおとれることかといへるにおとれることかといえるにおとれることかははは。。。
  3. 3花はな花はなはなのちりのちりのちり月つき月つきつきののの傾かたぶ傾かたぶかたぶぶくぶくぶくををを慕した慕したしたふならひふならひうならいはははさることなれどさることなれどさることなれど、、、人ひと人ひとひとぞぞぞ「「「このこのこの枝えだ枝えだえだかのかのかの朶散えだち朶散えだちえだちりにけりりにけりりにけり。。。今いま今いまいまははは見所みどころ見所みどころみどころなしなしなし」」」などなどなどはははいふめるいふめるいうめる。。。
  4. 4萬よろづ萬よろづよろずののの事こと事ことこともももはじめはじめはじめをををはりこそはりこそはりこそをををかしけれかしけれかしけれ。。。男女なんによ男女なんによなんにょののの情なさけ情なさけなさけもももひとへにあひひとへにあひひとえにあい見み見みみるるるをばをばをばいふものかいふものかいうものかははは。。。逢あ逢ああはははでやみにしでやみにしでやみにしうさうさうさををを思おも思おもおもひひい、、、あだなるちぎりあだなるちぎりあだなるちぎりをををかこちかこちかこち、、、長なが長ながながききき夜よ夜よよをををひとりあかしひとりあかしひとりあかし、、、遠とほ遠とほとおきききゐゐいをををおもひやりおもひやりおもいやり、、、ががが宿やど宿やどやどにむかしにむかしにむかしををを忍しの忍しのしのぶこそぶこそぶこそ色いろ色いろいろこのむとこのむとこのむとはははいいいはははめめめ。。。
  5. 5望月もちづき望月もちづきもちづきのくまなきのくまなきのくまなきををを、、、千里ちさと千里ちさとちさとののの外ほか外ほかほかまでながめたるよりもまでながめたるよりもまでながめたるよりも、、、曉近あかつきちか曉近あかつきちかあかつきちかくなりてくなりてくなりて待ま待ままちいでたるがちいでたるがちいでたるが、、、いといといとふかうふかうふこう靑あを靑あをあおみたるやうにてみたるやうにてみたるようにて、、、ふかきふかきふかき山やま山やまやまののの杉すぎ杉すぎすぎののの梢こずゑ梢こずゑこずえににに見み見みみえたるえたるえたる木き木ききのまのかげのまのかげのまのかげ、、、うちしぐれたるむらうちしぐれたるむらうちしぐれたるむら雲くも雲くもくもがくれのがくれのがくれのほどほどほど、、、またなくあはれなりまたなくあはれなりまたなくあわれなり。。。
  6. 6などのぬれたるやうなるなどのぬれたるやうなるなどのぬれたるようなる葉は葉ははののの上うへ上うへうえにきらめきたるこそにきらめきたるこそにきらめきたるこそ、、、身み身みみにしみてにしみてにしみて心こころ心こころこころあらむあらむあらむ友とも友ともとももがなともがなともがなと、、、都みやこ都みやこみやここひしうおぼゆれこひしうおぼゆれこいしゅうおぼゆれ。。。すべてすべてすべて月花つきはな月花つきはなつきはなをばをばをばさのみさのみさのみ目め目めめにてにてにて見み見みみるものかるものかるものかははは。。。
  7. 7春はる春はるはるははは家いへ家いへいえををを立た立たたちさらでもちさらでもちさらでも、、、月つき月つきつきののの夜よ夜よよははは閨ねや閨ねやねやのののうちながらもうちながらもうちながらも思おも思おもおもへるこそいとたのもしうへるこそいとたのもしうえるこそいとたのもしゅうをををかしけれかしけれかしけれ。。。よきよきよき人ひと人ひとひとはははひとへにすけるさまにもひとへにすけるさまにもひとえにすけるさまにも見み見みみえずえずえず、、、興きよう興きようきょうずるさまもなほざりなりずるさまもなほざりなりずるさまもなおざりなり。。。
  8. 8かたかたかた田舍ゐなか田舍ゐなかいなかののの人ひと人ひとひとこそこそこそ色いろ色いろいろこくよろづこくよろづこくよろずはもはもはもててて興きよう興きようきょうずれずれずれ。。。花はな花はなはなのもとにのもとにのもとにははは立た立たたちよりちよりちより、、、あからめもせずまもりてあからめもせずまもりてあからめもせずまもりて、、、酒さけ酒さけさけのみのみのみ連歌れんが連歌れんがれんがしてしてして、、、はてはてはてははは大おほき大おほきおおきなるえだなるえだなるえだ心こころ心こころこころなくなくなく折を折をおりとりぬりとりぬりとりぬ。。。
  9. 9泉いづみ泉いづみいずみにににははは手足てあし手足てあしてあしさしさしさしひたしひたしひたしててて、、、雪ゆき雪ゆきゆきにににはははおりたちておりたちておりたちて跡あと跡あとあとつけなどつけなどつけなど、、、萬よろづ萬よろづよろずののの物もの物ものものよそながらよそながらよそながら見み見みみることなしることなしることなし。。。さやうのさやうのさようの人ひと人ひとひとのののしさましさましさま、、、いとめづらかなりきいとめづらかなりきいとめずらかなりき。。。
  10. 10見み見みみごといとおそしごといとおそしごといとおそし。。。そのそのそのほどほどほどははは不用ふよう不用ふようふようなりとてなりとてなりとて、、、奧おく奧おくおくなるなるなる屋や屋ややにてにてにて酒さけ酒さけさけのみものくひのみものくひのみものくい、、、圍碁ゐご圍碁ゐごいご雙六すぐろく雙六すぐろくすぐろくなどなどなど遊あそ遊あそあそびてびてびて、、、棧敷さじき棧敷さじきさじきにににははは人ひと人ひとひとをををおきたればおきたればおきたれば、、、「「「わたりわたりわたり候さふら候さふらそうろうふふう」」」といふといふという時とき時ときときににに、、、おのおのおのおのおのおの肝きも肝きもきもつぶるゝやうにつぶるゝやうにつぶるるように爭あらそ爭あらそあらそひひい走はし走はしはしりのぼりてりのぼりてりのぼりて、、、落お落おおちぬべきまでちぬべきまでちぬべきまで簾張すだれは簾張すだれはすだれはりいでゝおしあひつゝりいでゝおしあひつゝりいでておしあいつつ、、、一事いちじ一事いちじいちじももも見み見みみもらさじとまもりてもらさじとまもりてもらさじとまもりて、、、とありかゝりととありかゝりととありかかりと物事ものごと物事ものごとものごとにいひてわたりにいひてわたりにいいてわたり過す過すすぎぬればぎぬればぎぬれば「「「又渡またわた又渡またわたまたわたらむまでらむまでらむまで」」」といひておりぬといひておりぬといいておりぬ。。。
  11. 11唯物ただもの唯物ただものただものをををのみのみのみ見み見みみむとするなるべしむとするなるべしむとするなるべし。。。都みやこ都みやこみやこののの人ひと人ひとひとのゆゝしげなるのゆゝしげなるのゆゆしげなるははは、、、ねぶりていともねぶりていともねぶりていとも見み見みみずずず。。。若わか若わかわかくすゑずゑなるくすゑずゑなるくすえずえなるははは、、、宮仕みやづかへ宮仕みやづかへみやづかえにたちゐにたちゐにたちい、、、人ひと人ひとひとののの後のち後のちのちにさぶらふにさぶらふにさぶらうははは、、、さまあしくもさまあしくもさまあしくも及およ及およおよびかゝらずびかゝらずびかからず、、、わりなくわりなくわりなく見み見みみむとするむとするむとする人ひと人ひとひともなしもなしもなし。。。
  12. 12何なに何なになにとなくとなくとなくかけわたしてなまめかしきにかけわたしてなまめかしきにかけわたしてなまめかしきに、、、明あ明ああけけけ離はな離はなはなれぬれぬれぬほどほどほど、、、忍しの忍しのしのびてびてびて寄よ寄よよするするする車くるま車くるまくるまどものゆかしきどものゆかしきどものゆかしきををを、、、それかかれかなどそれかかれかなどそれかかれかなど思おも思おもおもひよすればひよすればいよすれば、、、牛飼うしかひ牛飼うしかひうしかい下部しもべ下部しもべしもべなどのなどのなどの見知みし見知みしみしれるもありれるもありれるもあり。。。
  13. 13をかしくもきらきらしくもをかしくもきらきらしくもおかしくもきらきらしくも、、、さまざまにさまざまにさまざまに行ゆ行ゆゆきかふきかふきかう見み見みみるもるもるもつれづれつれづれつれづれならずならずならず。。。暮く暮くくるゝるゝるるほどにほどにほどにははは、、、立た立たたてならべつるてならべつるてならべつる車くるま車くるまくるまどもどもども、、、所ところ所ところところなくなみゐつるなくなみゐつるなくなみいつる人ひと人ひとひとももも、、、いづかたいづかたいずかたへへへ行ゆ行ゆゆきつらむきつらむきつらむ、、、程ほど程ほどほどなくまれになりてなくまれになりてなくまれになりて、、、車くるま車くるまくるまどものらうがはしさもすみぬればどものらうがはしさもすみぬればどものろうがわしさもすみぬれば、、、簾すだれ簾すだれすだれたゝみもとりたゝみもとりたたみもとりはらひはらひはらい、、、目め目めめののの前まへ前まへまえにさびしげになりゆくこそにさびしげになりゆくこそにさびしげになりゆくこそ世よ世よよのためしものためしものためしも思おも思おもおもひひい知し知ししられてあはれなれられてあはれなれられてあわれなれ。。。
  14. 14大路見おほぢみ大路見おほぢみおおじみたるこそたるこそたるこそ祭見まつりみ祭見まつりみまつりみたるにてたるにてたるにてはははあれあれあれ。。。かのかのかの棧敷さじき棧敷さじきさじきののの前まへ前まへまえををを、、、こゝらこゝらここら行ゆ行ゆゆきかふきかふきかう人ひと人ひとひとののの見知みし見知みしみしれるがあまたあるにてれるがあまたあるにてれるがあまたあるにて知し知ししりぬりぬりぬ。。。世よ世よよののの人數にんじゆ人數にんじゆにんじゅもさのみもさのみもさのみはははおおおほからぬにこそほからぬにこそほからぬにこそ。。。
  15. 15このこのこの人ひと人ひとひとみなみなみな失う失ううせなむせなむせなむ後のち後のちのち、、、我わ我わわががが身死みし身死みしみしぬべきにさだまりたりともぬべきにさだまりたりともぬべきにさだまりたりともほどなくほどなくほどなく待ま待ままちつけぬべしちつけぬべしちつけぬべし。。。大おほ大おほおおきなるきなるきなる器うつはもの器うつはものうつわものににに水みづ水みづみずををを入い入いいれてれてれて、、、細ぼそ細ぼそぼそききき孔あな孔あなあなをををあけたらむにあけたらむにあけたらむに、、、滴したゞ滴したゞしたたることすくなしといふともることすくなしといふともることすくなしというとも、、、怠おこた怠おこたおこたるまなくるまなくるまなく漏も漏ももりゆかばりゆかばりゆかば、、、やがてやがてやがて盡つ盡つつきぬべしきぬべしきぬべし。。。
  16. 16都みやこ都みやこみやこのののうちにおほきうちにおほきうちにおおき人ひと人ひとひと、、、死し死ししなざるなざるなざる日ひ日ひひはははあるべからずあるべからずあるべからず。。。一日ひとひ一日ひとひひといににに一人二人ひとりふたり一人二人ひとりふたりひとりうたりのみならむやのみならむやのみならむや。。。鳥部野とりべの鳥部野とりべのとりべの、、、、、、さらぬさらぬさらぬ野山のやま野山のやまのやまにもにもにも、、、送おく送おくおくるるる數かず數かずかずおおおほかるほかるほかる日ひ日ひひはははあれどあれどあれど、、、おくらぬおくらぬおくらぬ日ひ日ひひはははなしなしなし。。。
  17. 17さればさればされば棺ひつぎ棺ひつぎひつぎをををひさぐものひさぐものひさぐもの、、、作つく作つくつくりてりてりてうちおくうちおくうちおくほどなしほどなしほどなし。。。わかきにもよらずわかきにもよらずわかきにもよらず、、、つよきにもよらずつよきにもよらずつよきにもよらず、、、思おも思おもおもひかけぬひかけぬいかけぬははは死期しご死期しごしごなりなりなり。。。今日けふ今日けふきょうまでのがれまでのがれまでのがれ來き來ききにけるにけるにけるははは、、、ありがたきありがたきありがたき不思議ふしぎ不思議ふしぎふしぎなりなりなり。。。
  18. 18しばしもしばしもしばしも世よ世よよをををのどかにのどかにのどかに思おも思おもおもひなむやひなむやいなむや。。。子立こだて子立こだてこだてといふものといふものというものををを、、、雙六すぐろく雙六すぐろくすぐろくののの石いし石いしいしにてつくりてにてつくりてにてつくりて立た立たたててて並なら並ならならべたるべたるべたるほどほどほどははは、、、とられむこといづれのとられむこといづれのとられむこといずれの石いし石いしいしともともとも知し知ししらねどもらねどもらねども、、、數かぞ數かぞかぞへあてゝへあてゝえあてて一ひと一ひとひとつつつをををとりぬればとりぬればとりぬれば、、、そのそのその外ほか外ほかほかはははのがれぬとのがれぬとのがれぬと見み見みみれどれどれど、、、またまたまたまたまたまた數かぞ數かぞかぞふればふればうれば、、、かれこれまぬきかれこれまぬきかれこれまぬき行ゆ行ゆゆくくくほどにほどにほどに、、、いづれものがれざるにいづれものがれざるにいずれものがれざるに似に似ににたりたりたり。。。
  19. 19つつつはもはもはものゝのゝのの軍いくさ軍いくさいくさにいづるにいづるにいずるははは、、、死し死ししににに近ちか近ちかちかきこときこときことををを知し知ししりてりてりて、、、家いへ家いへいえをもをもをも忘わす忘わすわすれれれ身み身みみをもをもをもわするわするわする。。。世よ世よよをををそむけるそむけるそむける草くさ草くさくさののの庵いほり庵いほりいおりにににははは、、、しづかにしづかにしずかにをもをもをもてあそびててあそびててあそびて、、、これこれこれをををよそによそによそに聞き聞ききくとくとくと思おも思おもおもへるへるえるはははいといといとはははかなしかなしかなし。。。
  20. 20しづかなるしづかなるしずかなる山やま山やまやまののの奧おく奧おくおく、、、無常むじやう無常むじやうむじょうのかたききほひのかたききほひのかたききおい來く來くくらざらむやらざらむやらざらむや。。。そのそのその死し死ししににに臨のぞ臨のぞのぞめることめることめること、、、軍いくさ軍いくさいくさののの陣ぢん陣ぢんじんににに進すゝ進すゝすすめるにおなじめるにおなじめるにおなじ。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔第137段〕桜の花は満開のときだけを、月はかげりのないときだけを見るものだろうか。雨に向かって見えない月を恋い慕い、簾をおろして家にこもり、春の過ぎゆくのを知らずにいるのも、やはりしみじみとして情趣が深い。今にも咲きそうなころの梢や、花の散りしおれた庭などこそ、見どころが多い。歌の詞書にも、「花見に出かけたところ、もう散ってしまっていたので」とか、「差しつかえることがあって出かけないで」などと書いてあるのは、「花を見て」と書いたのに劣ることがあろうか。花が散り、月が傾くのを惜しむならいはもっともなことだが、ことに物の情趣を解さない人は、「この枝もあの枝も散ってしまった。今はもう見どころがない」などと言うようだ。

何事も、始めと終わりこそおもしろい。男女の恋も、ひたすら逢って契ることだけを言うだろうか。逢わずに終わってしまったつらさを思い、はかない約束を嘆き、長い夜をひとりで明かし、遠い空の下の人を思いやり、浅茅の生い茂る荒れた家で昔をしのぶことこそ、恋の情趣を知るとは言うだろう。満月のかげりのないのを、千里のかなたまで眺めているよりも、明け方近くなって待ちに待って出てきた月が、たいそう深く青みがかったようで、深い山の杉の梢の間に見えている木の間の光や、さっと時雨を降らせる群雲に隠れているさまのほうが、この上なくしみじみとしている。椎柴や白樫などの、ぬれたような葉の上に月の光がきらめいているのは、身にしみて、情趣を解する友がいたらなあと、都が恋しく思われる。

すべて、月や花を、そうむやみに目でばかり見るものだろうか。春は家から出かけなくても、月の夜は寝室の中にいながらも、思いをはせているのこそ、たいそう頼もしく、趣深い。教養のある人は、ひたすら風流に打ちこむ様子にも見えず、楽しむ様子もさりげない。片田舎の人こそ、しつこく何でもおもしろがる。花のもとには身をねじるように近寄り、わき目もふらずに見つめて、酒を飲み、連歌をして、しまいには大きな枝を考えもなく折り取ってしまう。泉には手足をひたし、雪には降り立って足跡をつけるなど、何でもよそながら見るということがない。

そういう人が祭を見物した様子は、たいそう珍しいものだった。「行列の通るのがひどく遅い。それまでは桟敷はいらない」と言って、奥の建物で酒を飲み、物を食べ、囲碁や双六などをして遊び、桟敷には人を置いて見張らせていたので、「お通りです」と言う時に、めいめい肝をつぶすようにして争って走り上り、落ちそうになるほど簾を押し出して押し合いながら、一つも見のがすまいと目を見張って、「ああだ、こうだ」と一つ一つ言い立て、行列が通り過ぎてしまうと、「また次が通るまで」と言っておりてしまう。ただ行列だけを見ようとするのだろう。都の身分ある人は、居眠りをして、ろくに見もしない。若く身分の低い者は、主人の用事に立ったり座ったりし、人の後ろに控えている者は、見苦しく身を乗り出したりもせず、無理に見ようとする人もいない。

何ということもなく葵をかけ渡して優美な中に、夜が明けきらないうちに、ひっそりと寄せてくる車の主が知りたいので、あれかこれかなどと思い寄せると、牛飼や下男などで見知っている者もいる。趣深くも、きらびやかにも、さまざまに行き交うのを見るのも、退屈ではない。日が暮れるころには、立て並べてあった車も、隙間なく並んで座っていた人も、どこへ行ったのだろう、まもなくまばらになって、車の混雑も終わってしまうと、簾や畳も取り払い、目の前でさびしそうになってゆくのこそ、世の無常のためしも思い知られて、しみじみとしている。大路の様子を見てこそ、祭を見たことになるのだ。

あの桟敷の前を、大勢行き交う人の中に、見知った人が多くいることでわかった。世の中の人の数も、それほど多くはないのだ。この人たちがみな死んでしまった後に、自分が死ぬと決まっているとしても、まもなく(その順番を)待ちうけることになるだろう。大きな器に水を入れて、細い穴をあけたとしたら、したたることは少ないといっても、絶え間なく漏れてゆけば、やがて尽きてしまうだろう。都の中に大勢いる人が、死なない日はないはずだ。一日に一人や二人だけであろうか。鳥部野、舟岡、そのほかの野山にも、葬送の数の多い日はあっても、葬送のない日はない。だから棺を売る者は、作って置いておく間もない。若さにもよらず、強さにもよらず、思いがけないのが死期である。今日まで死をのがれてきたのは、めったにない不思議なことである。しばらくでも、この世をのんびりと思っていられようか。

ままこ立てというものを、双六の石で作って並べたときは、取られるのがどの石ともわからないが、数えあてて一つを取ると、そのほかはのがれたと見えるが、また数えてゆくと、あれこれと間引かれてゆくうちに、どれも取られずにはすまないのに似ている。兵士が戦に出るときは、死が近いことを知って、家も忘れ、わが身も忘れる。世を捨てた草庵では、静かに庭の水や石を楽しんで、死をよそごとと思っているのは、まことにはかない。静かな山の奥にも、無常という敵が押し寄せてこないことがあろうか。その死に直面していることは、戦場の陣に進み出ているのと同じである。

意訳

花は満開、月は満月だけが美しいのではない。雨の夜に見えない月を思い、散った庭に春をしのぶ心こそ深い。恋も、逢うことより、逢えずに思いをつのらせることにこそ情趣がある。夜明け前に木の間から見える月、時雨の雲に隠れる月――欠けたもの、隠れたもの、過ぎゆくものにこそ美を見いだす美意識は、第82段の「不具なるこそよけれ」と響き合う。

田舎者は花の下で騒ぎ、枝を折り、祭では行列だけを争って見る。都の人はさりげなく、祭そのものより、夜明け前に集まる車や、日暮れに人が去ってゆく大路のさびしさを味わう。

そして兼好は、見物の人ごみに知った顔が多いことから、世の人の数は意外に少なく、水が漏れる器のように、人は毎日死んでいくと思いいたる。若くても強くても死は思いがけず訪れ、草庵に住む者も例外ではない。美の話から無常の話へ、自然に移っていく構成は見事である。

語釈・文法注

隈なき
かげりのない。曇りのない。
たれこめて
簾を垂らして家に閉じこもって。
歌のことばがき
和歌の前に、詠んだ事情を記した文。詞書。
かたくなゝる人
物の情趣を解さない、無風流な人。
淺茅が宿
浅茅(丈の低い茅)が生い茂る荒れた家。
雲ゐ
遠く離れた所。
椎柴
椎の木。
白樫
樫の一種。
ねぢより
身をねじるようにして近寄る。
祭
賀茂祭。
棧敷
祭の行列を見物するために、道沿いに設けた高い席。
葵
賀茂祭では、家々の簾や車に葵の葉をかけた。
舟岡
京都の北にあった葬送の地。船岡山。
まゝ子立
継子立て。碁石を円く並べ、一定の数ごとに取り除いていく遊び。
水石
庭の池水と石。庭の風景。

文法

見るものかは
「かは」は反語。見るものだろうか、いやそうではない。
おとれることかは
「かは」は反語。劣ることがあろうか、いや劣らない。
色このむとはいはめ
「め」は推量の助動詞「む」の已然形で、上の「こそ」の結び。
心あらむ友もがな
「もがな」は願望。情趣を解する友がいたらなあ。
思ひなむや
「な」は強意、「む」は推量、「や」は反語。思っていられようか、いや思っていられない。
來らざらむや
「や」は反語。来ないことがあろうか、必ず来る。

解説

第137段は、『徒然草』の美意識をもっともよく表した段として名高い。「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは」という冒頭は、完全なもの、頂点にあるものだけを美しいとする見方を退け、過程や余韻、欠けたものや隠れたものに美を見いだす。この考え方は、第82段の「不具なるこそよけれ」とともに、のちの「わび」「さび」の美意識の源流の一つとされる。

中ほどの賀茂祭の見物の描写では、田舎者の騒々しい見物ぶりと、都の人の落ち着いた態度とを対比する。兼好の言う「よき人」の条件は、情趣を深く感じながらも、それを表に出さないことである。

後半は、祭の後のさびしさから、人の死の不可避へと話が転じる。水の漏れる器のたとえ、ままこ立ての遊びのたとえは、死が一人ずつ確実に訪れることを鮮やかに示している。美の讃美と無常の自覚が一つの段の中で結びついているところに、『徒然草』の思想の深さがある。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(徒然草) 板倉屋書房、明治36年(1903)、817〜819頁(コマ422–423)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日