古典ライブラリー

徒然草 第23章(第134段〜第136段)

おのれを知ることと資季大納言のあらがひ

鏡に映る自分の醜さを知って人前から退いた律師の話を手がかりに、己を知ることこそ物を知ることだと説く第134段、何でも答えるという大納言入道を意味不明の言葉で負かした具氏の宰相中将、塩の字の偏を問われて恥をかいた医師あつしげの話を収める。

小さな鏡を手に、自分の顔を見つめる律師
第134段、鏡を手にして自分の顔をつくづくと見る律師の情景。己を知ることから、身の振る舞いや心のあり方を顧みるという、この章の問いを映している。
  1. 1高倉院たかくらのゐん高倉院たかくらのゐんたかくらのいんののの法華堂ほつけだう法華堂ほつけだうほっけどうののの、、、なにがしのなにがしのなにがしのとかやいふものとかやいふものとかやいうもの、、、あるあるある時鏡ときかゞみ時鏡ときかゞみときかがみをををとりてとりてとりて貌かたち貌かたちかたちをををつくづくつくづくつくづくととと見み見みみててて、、、我わ我わわがかたちのみにくゝあさましきことがかたちのみにくゝあさましきことがかたちのみにくくあさましきことをををあまりにあまりにあまりに心憂う心憂ううくくく覺おぼ覺おぼおぼえてえてえて、、、鏡かがみ鏡かがみかがみさへさへさえうとましきうとましきうとましき心こころ心こころこころちしければちしければちしければ、、、そのそのその後永のちなが後永のちながのちながくくく鏡かがみ鏡かがみかがみをををおそれておそれておそれて手て手ててにだにとらずにだにとらずにだにとらず、、、更さら更さらさらににに人ひと人ひとひとにまじはることなしにまじはることなしにまじわることなし。。。
  2. 2御堂みだう御堂みだうみどうのつとめばかりにあひてのつとめばかりにあひてのつとめばかりにあいて、、、籠こも籠こもこもりりり居ゐ居ゐいたりとたりとたりと聞き聞ききききき傳つた傳つたつたへしこそありがたくおぼえしかへしこそありがたくおぼえしかえしこそありがたくおぼえしか。。。かしこげなるかしこげなるかしこげなる人ひと人ひとひとももも、、、人ひと人ひとひとのののうへうへうえをををのみのみのみはははかりておのれかりておのれかりておのれをばをばをば知し知ししらざるなりらざるなりらざるなり。。。
  3. 3我われ我われわれををを知し知ししらずしてらずしてらずして外ほか外ほかほかををを知し知ししるといふことわりあるべからずるといふことわりあるべからずるということわりあるべからず。。。さればおのれさればおのれさればおのれををを知し知ししるるるををを物知ものし物知ものしものしれるれるれる人ひと人ひとひとといふべしといふべしというべし。。。かたちみにくけれどもかたちみにくけれどもかたちみにくけれども知し知ししらずらずらず、、、心こころ心こころこころのおろかなるのおろかなるのおろかなるをもをもをも知し知ししらずらずらず、、、藝げい藝げいげいののの拙つたな拙つたなつたなきききをもをもをもしらずしらずしらず、、、身み身みみののの數かず數かずかずならぬならぬならぬをもをもをも知し知ししらずらずらず、、、年とし年としとしののの老お老おおいぬるいぬるいぬるをもをもをもしらずしらずしらず、、、病やまひ病やまひやまいののの冒をか冒をかおかすすすをもをもをもしらずしらずしらず、、、死し死ししののの近ちか近ちかちかききき事こと事ことことをもをもをもしらずしらずしらず、、、行おこな行おこなおこなふふう道みち道みちみちのいたらざるのいたらざるのいたらざるをもをもをもしらずしらずしらず、、、身み身みみののの上うへ上うへうえののの非ひ非ひひをもをもをもしらねばしらねばしらねば、、、ましてましてまして外ほか外ほかほかのそしりのそしりのそしりをもをもをもしらずしらずしらず。。。
  4. 4たゞしたゞしただし「「「かたちかたちかたちははは鏡かゞみ鏡かゞみかがみににに見み見みみゆゆゆ。。。年とし年としとしははは數かぞ數かぞかぞへてしるへてしるえてしる。。。我わ我わわががが身み身みみののの事知ことし事知ことしことしらぬにらぬにらぬにはははあらねどあらねどあらねど、、、すべきすべきすべき方かた方かたかたのなければのなければのなければ知し知ししらぬにらぬにらぬに似に似ににたりたりたり」」」とぞいとぞいとぞいはははましましまし。。。
  5. 5かたちかたちかたちをををあらためあらためあらため、、、齡よはひ齡よはひよわいををを若わか若わかわかくせよといふにくせよといふにくせよというにはははあらずあらずあらず。。。拙つたな拙つたなつたなきききををを知し知ししらばらばらば、、、なんぞやがてなんぞやがてなんぞやがて退の退ののかざるかざるかざる。。。老お老おおいぬといぬといぬと知し知ししらばらばらば、、、なんぞしづかになんぞしづかになんぞしずかに身み身みみをやをやをやすくせざるすくせざるすくせざる。。。
  6. 6行ゆ行ゆゆおろかなりとおろかなりとおろかなりと知し知ししらばらばらば、、、なんぞなんぞなんぞ茲ここ茲ここここをををおもふことおもふことおもうこと茲ここ茲ここここにあらざるにあらざるにあらざる。。。すべてすべてすべて人ひと人ひとひとにににせられずしてせられずしてせられずして衆しゆ衆しゆしゅにまじはるにまじはるにまじわるははは耻はぢ耻はぢはじなりなりなり。。。かたちみにくゝかたちみにくゝかたちみにくく心こころ心こころこころおくれにしておくれにしておくれにして出い出いいでつかへでつかへでつかえ、、、無智むち無智むちむちにしてにしてにして大才たいさい大才たいさいたいさいににに交まじ交まじまじりりり、、、不堪ふかん不堪ふかんふかんののの藝げい藝げいげいをもをもをもちてちてちてののの座ざ座ざざにつらなりにつらなりにつらなり、、、ののの頭かしら頭かしらかしらををを戴いただ戴いただいただきてさかりなるきてさかりなるきてさかりなる人ひと人ひとひとにならびにならびにならび、、、いはむやいはむやいわむや及およ及およおよばざることばざることばざることををを望のぞ望のぞのぞみみみ、、、かなはぬことかなはぬことかなわぬことをををうれへうれへうれえ、、、來く來くくらざることらざることらざることををを待ま待ままちちち、、、人ひと人ひとひとにおそれにおそれにおそれ、、、人ひと人ひとひとににに媚こ媚ここぶるぶるぶるははは、、、人ひと人ひとひとののの與あた與あたあたふるふるうる耻はぢ耻はぢはじにあらずにあらずにあらず。。。
  7. 7貪むさぼ貪むさぼむさぼるるる心こころ心こころこころにににひかれてひかれてひかれて、、、みづからみづからみずから身み身みみをををはははづかしむなりづかしむなりずかしむなり。。。貪むさぼ貪むさぼむさぼることのやまざるることのやまざるることのやまざるははは、、、命いのち命いのちいのちををををををふるふるふる大事今だいじいま大事今だいじいまだいじいまこゝにきたれりとたしかにこゝにきたれりとたしかにここにきたれりとたしかに知し知ししらざればなりらざればなりらざればなり。。。
  8. 8大納言だいなごん大納言だいなごんだいなごん入道にふだう入道にふだうにゅうどうとかやきこえけるとかやきこえけるとかやきこえける人ひと人ひとひと、、、宰相中將さいしやうのちゆうじやう宰相中將さいしやうのちゆうじやうさいしょうのちゅうじょうににに逢あ逢ああひてひていて、、、「「「わぬしのわぬしのわぬしの問と問ととはれむはれむわれむほどのことほどのことほどのこと、、、なになになに事こと事ことことなりともなりともなりとも答こた答こたこたへへえ申まう申まうもうさゞらむやさゞらむやさざらむや」」」といはれければといはれければといわれければ、、、具氏ともうぢ具氏ともうぢともうじ「「「いかゞいかゞいかが侍はべ侍はべはべらむらむらむ」」」ととと申まう申まうもうされけるされけるされけるををを「「「給たま給たまたまへへえ」」」といはれてといはれてといわれて、、、「「「はかばかしきはかばかしきはかばかしき事こと事ことことははは片かた片かたかたはははしもまねびしもまねびしもまねび知し知ししりりり侍はべ侍はべはべらねばらねばらねば、、、尋たづ尋たづたずねねね申まう申まうもうすまでもなしすまでもなしすまでもなし。。。何なに何なになにとなきそゞろごとのとなきそゞろごとのとなきそぞろごとの中なか中なかなかににに、、、おぼつかなきおぼつかなきおぼつかなき事こと事ことことこそこそこそ問と問ととひひい奉たてまつ奉たてまつたてまつらめらめらめ」」」ととと申まう申まうもうされけりされけりされけり。。。
  9. 9「「「ましてこゝもとのましてこゝもとのましてここもとの淺あさ淺あさあさきこときこときことははは、、、何事なにごと何事なにごとなにごとなりともあきらめなりともあきらめなりともあきらめ申まう申まうもうさむさむさむ」」」といはれければといはれければといわれければ、、、近習きんじゆ近習きんじゆきんじゅののの人々ひとびと人々ひとびとひとびと、、、女房にようばう女房にようばうにょうぼうなどもなどもなども「「「興きよう興きようきょうあるあらがひなりあるあらがひなりあるあらがいなり。。。同おな同おなおなじくじくじくははは御前おまへ御前おまへおまえにてにてにて諍じやう諍じやうじょうはるべしはるべしわるべし。。。負ま負ままけたらむけたらむけたらむ人ひと人ひとひとははは供御くご供御くごくごををを饗きやう饗きやうきょうけらるべしけらるべしけらるべし」」」ととと定さだ定さださだめてめてめて、、、御前おまへ御前おまへおまえにてめしあはせられたりけるににてめしあはせられたりけるににてめしあわせられたりけるに、、、具氏ともうぢ具氏ともうぢともうじ「「「幼をさな幼をさなおさなくよりくよりくより聞き聞きききならひきならひきならい侍はべ侍はべはべれどれどれど、、、そのそのその心こころ心こころこころしらぬことしらぬことしらぬことはべりはべりはべり。。。馬むま馬むまうまのきつりやうきつにののきつりやうきつにののきつりょうきつにのをををかかか、、、なかくぼれいりくれんどうとなかくぼれいりくれんどうとなかくぼれいりくれんどうと申まう申まうもうすことすことすことははは、、、いかなるこゝろにかいかなるこゝろにかいかなるこころにか侍はべ侍はべはべらむらむらむ、、、うけたまはらむうけたまはらむうけたまわらむ」」」ととと申まう申まうもうされけるにされけるにされけるに、、、大納言だいなごん大納言だいなごんだいなごん入道にふだう入道にふだうにゅうどうはははたとつまりてたとつまりてたとつまりて、、、「「「これこれこれはははそゞろごとなればそゞろごとなればそぞろごとなれば、、、いふにもいふにもいうにも足た足たたらずらずらず」」」といはれけるといはれけるといわれけるををを、、、「「「もとよりもとよりもとより深ふか深ふかふかききき道みち道みちみちははは知し知ししりりり侍はべ侍はべはべらずらずらず。。。そゞろごとそゞろごとそぞろごとををを尋たづ尋たづたずねねね奉たてまつ奉たてまつたてまつらむとらむとらむと、、、定さだ定さださだめめめ申まう申まうもうしつしつしつ」」」ととと申まう申まうもうされければされければされければ、、、大納言だいなごん大納言だいなごんだいなごん入道にふだう入道にふだうにゅうどうまけになりてまけになりてまけになりて、、、いかめしくせられたりけるとぞいかめしくせられたりけるとぞいかめしくせられたりけるとぞ。。。
  10. 10のあつしげのあつしげのあつしげ、、、ののの御前おまへ御前おまへおまえにさぶらひてにさぶらひてにさぶらいて、、、供御くご供御くごくごのまゐりけるにのまゐりけるにのまいりけるに、、、「「「今いま今いまいままゐりまゐりまいり侍はべ侍はべはべるるる供御くご供御くごくごのいろいろのいろいろのいろいろををを、、、文字もじ文字もじもじももも功能くのう功能くのうくのうもたづねもたづねもたずね下くだ下くだくだされてされてされて、、、そらにそらにそらに申まう申まうもうしししはべらばはべらばはべらば、、、ににに御覽ごらん御覽ごらんごらんじあはせられじあはせられじあわせられ侍はべ侍はべはべれかしれかしれかし。。。一ひと一ひとひとつもつもつも申まう申まうもうししし誤あやま誤あやまあやまりりり侍はべ侍はべはべらじらじらじ」」」ととと申まう申まうもうしけるしけるしける。。。
  11. 11時とき時ときときしもしもしもののの故內府こだいふ故內府こだいふこだいうまゐりまゐりまいり給たま給たまたまひてひていて、、、「「「有房ありふさ有房ありふさありうさついでについでについでに物習ものなら物習ものならものならひひい侍はべ侍はべはべらむらむらむ」」」とてとてとて「「「まづしほといふまづしほといふまずしおという文字もじ文字もじもじははは、、、いづれのいづれのいずれの偏ひとへ偏ひとへひとえにかにかにか侍はべ侍はべはべらむらむらむ」」」ととと問と問ととはれたりけるにはれたりけるにわれたりけるに「「「土偏つちへん土偏つちへんつちえんににに候さふら候さふらそうろうふふう」」」ととと申まう申まうもうしたりければしたりければしたりければ、、、「「「才ざえ才ざえざえのののほどほどほど旣すで旣すですでにあらはれにたりにあらはれにたりにあらわれにたり。。。今いま今いまいまはははさばかりにてさばかりにてさばかりにて候さふら候さふらそうらへへえ。。。ゆかしきところなしゆかしきところなしゆかしきところなし」」」ととと申まう申まうもうされけるにされけるにされけるに、、、。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔第134段〕高倉院の法華堂の三昧僧で、何とかの律師とかいう者が、ある時、鏡を手に取って顔をつくづくと見て、自分の容貌の醜く情けないことをあまりにつらく思って、鏡までもいとわしい気持ちがしたので、その後は長く鏡を恐れて手にさえ取らず、まったく人と交わることがなかった。御堂のお勤めにだけ出て、こもっていたと聞き伝えたのは、めったにないことだと思われた。賢そうな人も、他人のことばかり推し量って、自分のことは知らないものである。自分を知らないで他を知るという道理はあるはずがない。だから、自分を知る人を、物を知っている人と言うべきである。

容貌が醜くてもそれを知らず、心の愚かなのも知らず、芸のつたないのも知らず、身が取るに足りないのも知らず、年の老いたのも知らず、病気が冒すのも知らず、死の近いことも知らず、修める道の至らないのも知らず、わが身の欠点も知らないのだから、まして外からのそしりも知らない。ただし、「容貌は鏡に映る。年は数えてわかる。わが身のことを知らないわけではないが、どうしようもないので、知らないのと同じなのだ」と言うだろう。容貌を改め、年を若くせよと言うのではない。つたないと知ったなら、どうしてすぐに退かないのか。老いたと知ったなら、どうして静かに身を休めないのか。行いが愚かだと知ったなら、どうしてここで思うことをここで改めないのか。

すべて、人に愛されないで大勢の中に交わるのは恥である。容貌が醜く、心も劣っているのに出仕し、無知なのに大学者と交わり、下手な芸で名人の席に連なり、雪のような白髪頭で盛りの人と肩を並べ、まして及ばないことを望み、かなわないことを嘆き、来ないことを待ち、人を恐れ、人にこびるのは、人から与えられる恥ではない。むさぼる心に引かれて、自分で自分を辱めているのである。むさぼることがやまないのは、命が終わるという大事が、今ここに来ていることを、たしかに知らないからである。

〔第135段〕資季大納言入道とかいう方が、具氏宰相中将に会って、「あなたが尋ねられるようなことなら、何事でもお答えしないことがあろうか」と言われたので、具氏が「さあ、どうでしょうか」と申しあげたのを、「それなら勝負なさい」と言われて、(具氏は)「本格的なことは、ほんの少しも学び知っておりませんので、お尋ねするまでもありません。何ということもないつまらないことの中で、はっきりしないことをお尋ねしましょう」と申しあげた。(資季が)「まして手近な浅いことなら、何事でも明らかにしてさしあげよう」と言われたので、近習の人々や女房なども、「おもしろい勝負だ。同じことなら御前で争われるがよい。負けた人はごちそうをふるまわれるべきだ」と決めて、御前で対決させなさったところ、具氏が「幼いころから聞き慣れておりますが、その意味のわからないことがあります。『うまのきつりやうきつにのをか、なかくぼれいりくれんどう』と申すことは、どういう意味でございましょうか。お聞かせください」と申しあげたところ、大納言入道は、はたと答えに詰まって、「これはつまらないことだから、言うにも足りない」と言われたのを、「もとより深い道は存じません。つまらないことをお尋ねしようと、取り決めました」と申しあげたので、大納言入道の負けになって、罰としてのごちそうを盛大にふるまわれたということだ。

〔第136段〕医師のあつしげが、故法皇の御前に控えていたとき、お食事が運ばれてきたので、「今運ばれてまいりましたお食事のいろいろを、文字も効能もお尋ねくだされば、そらで申しあげますので、本草の書と照らし合わせてごらんください。一つも申し誤りはいたしますまい」と申しあげた。ちょうどその時、六条の故内府(源有房)が参上なさって、「有房もこのついでに物を習いましょう」と言って、「まず『しほ』という文字は、何偏でございましょうか」と尋ねられたところ、「土偏でございます」と申しあげたので、「学問のほどはもうわかってしまった。今はそれくらいにしておきなさい。知りたいことはもうない」と申されたので、どっと笑いが起こって、(あつしげは)退出してしまった。

意訳

〔第134段〕鏡で自分の醜さを知った律師は、人前に出なくなった。人は他人のことはよく見るが、自分のことは知らない。容貌、心、芸、身分、年齢、病、死の近さ――自分を知れば、身を引くべきときがわかる。恥とは人から与えられるものではなく、むさぼる心が自ら招くものだ。「おのれを知るを物知れる人といふべし」は、『徒然草』の人間観の核心にある言葉である。

〔第135段〕何でも答えると豪語した大納言入道に、具氏は、子どものころから聞く意味不明の言葉の意味を尋ねた。答えられずに「つまらないことだ」と逃げた入道は、「つまらないことを聞くと最初に決めた」と言い返されて負ける。知ったかぶりの末路を描いた笑話である。

〔第136段〕食べ物の文字も効能も何でも答えると自慢した医師に、有房は「塩の字は何偏か」と尋ねた。「土偏です」と答えたとたん、「もう学問のほどはわかった」と言われ、満座の笑いの中で退出する。正しくは「鹽」の字は土偏ではない。第135段と対になる、自慢の失敗談である。

語釈・文法注

三昧僧
法華三昧などの修行に専念する僧。
律師
僧官の一つ。僧正・僧都に次ぐ。
愛樂
愛し好むこと。
堪能
その道にすぐれていること。名人。
雪の頭
白髪頭。
資季大納言入道
藤原資季(1207〜1289)。
具氏宰相中將
源具氏(1232〜1275)。
あらがひ
言い争い。賭けをして勝負すること。
所課
罰として課せられるもの。ここでは負けた者がふるまうごちそう。
醫師のあつしげ
和気篤成。後嵯峨院に仕えた医師。
故法皇
後嵯峨院(1220〜1272)。
本草
薬物について記した書。
六條の故內府
源有房(1251〜1319)。内大臣。
とよみ
どよめき。大笑い。

文法

なんぞやがて退かざる
「なんぞ…ざる」で、どうして…しないのか。漢文訓読調の言い方。
なんぞ茲をおもふこと茲にあらざる
ここを思うのがここではないのはどうしてか、の意。自分の現状を見つめて、それに即して改めないのはなぜか、と解される。
答へ申さゞらむや
「や」は反語。お答えしないことがあろうか(何でも答える)。
うまのきつりやうきつにのをか、なかくぼれいりくれんどう
意味のはっきりしない言葉。子どもの遊び歌か呪文の類いとされ、昔から諸説がある。
土偏に候ふ
「塩」の旧字「鹽」は、土偏ではなく「鹵(しお)」を部首とする。

解説

第134段は、「おのれを知る」ことを説いた、『徒然草』の思想の中心をなす段の一つである。自分の容貌、心、芸、身分、年齢、病、死の近さを列挙し、それを知りながら身を引かないのは、むさぼる心のためだと指摘する。人から受ける恥ではなく、自らが招く恥であるという指摘は鋭い。

第135段と第136段は、知ったかぶりや自慢の失敗を描いた笑話の対である。第135段の「うまのきつりやう…」という言葉は意味不明だが、それゆえに「そぞろごと」として勝負の決め手になった。第136段は、医師が自分の専門外の漢字の知識で恥をかく話で、第79段の「よくわきまへたる道には、かならず口おもく」の教えを裏返した例と言える。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(徒然草) 板倉屋書房、明治36年(1903)、815〜817頁(コマ421–422)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日