古典ライブラリー

徒然草 第20章(第116段〜第122段)

友とするにわろきもの

ありのままに付けた昔の名を慕い、凝った名付けを退ける段、友とするに悪い者七つと善い友三つ、鯉や雉など貴人の前に出してよい魚鳥、鎌倉の鰹が上流にまで広まった世の移り変わり、唐物を好む愚かさ、動物を飼うことの是非、人の身につけるべき才能の順序を語る。

林の枝にとまり、自由に飛び交う鳥たち
第121段の、生き物を閉じ込めて楽しむことへの戒めをもとにした情景。林で自由に飛び交う鳥たちの姿に、野山で生きるものへの思いやりを重ねている。
  1. 1寺院じゐん寺院じゐんじいんののの號がう號がうごう、、、さらぬよろづのさらぬよろづのさらぬよろずの物もの物ものものにもにもにも名な名ななをををつくることつくることつくること、、、昔むかし昔むかしむかしののの人ひと人ひとひとはははすこしもすこしもすこしも求もと求もともとめずめずめず、、、たゞありのまゝにたゞありのまゝにただありのままに安やす安やすやすくつけゝるなりくつけゝるなりくつけけるなり。。。このごろこのごろこのごろはははふかくふかくふかく案あん案あんあんじじじ、、、才覺さいかく才覺さいかくさいかくをををあらあらあらはははさむとしたるやうにさむとしたるやうにさむとしたるように聞きこ聞きこきこゆるゆるゆる、、、いとむつかしいとむつかしいとむつかし。。。
  2. 2人ひと人ひとひとののの名な名ななももも、、、めなれぬめなれぬめなれぬ文字もじ文字もじもじをををつかむとするつかむとするつかむとする益えき益えきえきなきなきなき事こと事ことことなりなりなり。。。何事なにごと何事なにごとなにごともめづらしきもめづらしきもめずらしき事こと事ことことをもをもをもとめとめとめ、、、異說いせつ異說いせついせつををを好この好このこのむむむはははののの人ひと人ひとひとののの必かならず必かならずかならずあることなりとぞあることなりとぞあることなりとぞ。。。
  3. 3友とも友ともともとするにわろきものとするにわろきものとするにわろきもの七なな七ななななつありつありつあり。。。一いち一いちいちにににははは高たか高たかたかくやんごとなきくやんごとなきくやんごとなき人ひと人ひとひと、、、二に二にににににははは若わか若わかわかききき人ひと人ひとひと、、、三さん三さんさんにににははは病やまひ病やまひやまいなくなくなく身み身みみつよきつよきつよき人ひと人ひとひと、、、四し四ししにににははは酒さけ酒さけさけをををこのむこのむこのむ人ひと人ひとひと、、、五ご五ごごにににははは武たけ武たけたけくくく勇いさ勇いさいさめるめるめる兵つはもの兵つはものつわもの、、、六ろく六ろくろくにににはははそらごとするそらごとするそらごとする人ひと人ひとひと、、、七しち七しちしちにににははは欲よく欲よくよくふかきふかきふかき人ひと人ひとひと。。。
  4. 4善よ善よよききき友三ともみ友三ともみともみつありつありつあり、、、一いち一いちいちにににはもはもはものくるゝのくるゝのくるる友とも友ともとも、、、二に二ににににに、、、三さん三さんさんにににははは智惠ちゑ智惠ちゑちえあるあるある友とも友ともとも。。。
  5. 5鯉こひ鯉こひこい食く食くくひたるひたるいたる日ひ日ひひははは、、、そゝけずとなむそゝけずとなむそそけずとなむ。。。膠にかは膠にかはにかわにもつくるものなればにもつくるものなればにもつくるものなれば、、、ねばりたるものにこそねばりたるものにこそねばりたるものにこそ。。。鯉こひ鯉こひこいばかりこそばかりこそばかりこそ、、、御前おまへ御前おまへおまえにてもきらるゝものなればにてもきらるゝものなればにてもきらるるものなれば、、、やんごとなきやんごとなきやんごとなき魚うを魚うをうおなりなりなり。。。
  6. 6鳥とり鳥とりとりにににははは雉きじ雉きじきじさうなきものなりさうなきものなりそうなきものなり。。。雉松茸きじまつたけ雉松茸きじまつたけきじまつたけなどなどなどははは、、、ののの上うへ上うへうえにかゝりたるもにかゝりたるもにかかりたるも苦くる苦くるくるしからずしからずしからず。。。そのそのその外ほか外ほかほかははは心こころ心こころこころうきことなりうきことなりうきことなり。。。中宮ちゆうぐう中宮ちゆうぐうちゅうぐうののの御方おほんかた御方おほんかたおおんかたののの、、、御湯殿おゆどの御湯殿おゆどのおゆどのののの上うへ上うへうえ棚たな棚たなたなににに雁かり雁かりかりののの見み見みみえつるえつるえつるををを、、、ののの御覽ごらん御覽ごらんごらんじてじてじて、、、歸かへ歸かへかえらせたまひてらせたまひてらせたまいて、、、やがてやがてやがて御文おほんふみ御文おほんふみおおんふみにてにてにて、、、「「「かやうのものさながらそのすがたにてかやうのものさながらそのすがたにてかようのものさながらそのすがたにて、、、御棚みたな御棚みたなみたなにゐてにゐてにいて候さふら候さふらそうらひしことひしこといしこと、、、見み見みみならはずならはずならわず、、、さまさまさま惡あ惡ああしきことなりしきことなりしきことなり。。。はかばかしきはかばかしきはかばかしき人ひと人ひとひとのさふらはぬのさふらはぬのさうらわぬ故ゆゑ故ゆゑゆえにこそにこそにこそ」」」などなどなど申まう申まうもうされたりけりされたりけりされたりけり。。。
  7. 7鎌倉かまくら鎌倉かまくらかまくらののの海うみ海うみうみにににといふといふという魚うを魚うをうおははは、、、かのかのかの境さかひ境さかひさかいにににはははさうなきものにてさうなきものにてそうなきものにて、、、このこのこの頃ごろ頃ごろごろもてなすものなりもてなすものなりもてなすものなり。。。それもそれもそれも鎌倉かまくら鎌倉かまくらかまくらののの年寄としより年寄としよりとしよりののの申まう申まうもうししし侍はべ侍はべはべりしりしりしははは「「「このこのこの魚うを魚うをうおおのれらおのれらおのれら若わか若わかわかかりしかりしかりし世よ世よよまでまでまでははは、、、はかばかしきはかばかしきはかばかしき人ひと人ひとひとののの前まへ前まへまえへへへいづることいづることいずること侍はべ侍はべはべらざりきらざりきらざりき。。。頭かしら頭かしらかしらははは下部しもべ下部しもべしもべもくはずもくはずもくわず、、、切き切ききりてすてりてすてりてすて侍はべ侍はべはべりしものなりりしものなりりしものなり」」」ととと申まう申まうもうしきしきしき。。。
  8. 8かやうのものもかやうのものもかようのものも世よ世よよののの末すゑ末すゑすえになればになればになれば、、、上うへ上うへうえざままでもざままでもざままでも入い入いいりたつわざにこそりたつわざにこそりたつわざにこそ侍はべ侍はべはべれれれ。。。
  9. 9唐から唐からからのもののもののものははは、、、藥くすり藥くすりくすりののの外ほか外ほかほかはははなくともなくともなくとも事こと事ことことかくまじかくまじかくまじ。。。書ふみ書ふみふみどもどもどもはははこのこのこの國くに國くにくにににに多おほ多おほおおくひろまりぬればくひろまりぬればくいろまりぬれば、、、書か書かかきもきもきもうつしてむうつしてむうつしてむ。。。もろこしもろこしもろこし船ふね船ふねふねのたやすからぬのたやすからぬのたやすからぬ道みち道みちみちににに、、、無用むよう無用むようむようのものどものみとりのものどものみとりのものどものみとり積つ積つつみてみてみて、、、所ところ所ところところせくせくせくわたしもてくるいとおろかなりわたしもてくるいとおろかなりわたしもてくるいとおろかなり。。。
  10. 10「「「遠とほ遠とほとおきものきものきものををを寶たから寶たからたからとせずとせずとせず」」」ともともとも、、、またまたまた「「「得え得ええがたきがたきがたき寶たから寶たからたからをををたふとたふととうとまずまずまず」」」ともともとも、、、ふみにもふみにもふみにも侍はべ侍はべはべるとかやるとかやるとかや。。。
  11. 11養やしな養やしなやしなひひい飼か飼かかふものにふものにうものにははは馬牛むまうし馬牛むまうしうまうし、、、繫つな繫つなつなぎくるしむるこそいたましけれどぎくるしむるこそいたましけれどぎくるしむるこそいたましけれど、、、なくてかなはぬものなればいかゞはせむなくてかなはぬものなればいかゞはせむなくてかなわぬものなればいかがわせむ。。。犬いぬ犬いぬいぬはははまもりまもりまもり防ふせ防ふせふせぐつとめぐつとめぐつとめ、、、人ひと人ひとひとにもまさりたればにもまさりたればにもまさりたれば必かならず必かならずかならずあるべしあるべしあるべし。。。
  12. 12されどされどされど家いへ家いへいえごとにあるものなればごとにあるものなればごとにあるものなれば、、、ことさらにことさらにことさらに求もと求もともとめめめ飼かひ飼かひかいはずともありなむはずともありなむわずともありなむ。。。そのそのそのほかのほかのほかの鳥獸てうじう鳥獸てうじうちょうじゅうすべてすべてすべて用よう用ようようなきものなりなきものなりなきものなり。。。はしるはしるはしる獸けだもの獸けだものけだものははは檻をり檻をりおりにこめにこめにこめ、、、くさりくさりくさりをををさゝれさゝれさされ、、、飛と飛ととぶぶぶ鳥とり鳥とりとりははは翼つばさ翼つばさつばさをををきりきりきり、、、こにこにこに入い入いいれられてれられてれられて、、、雲くも雲くもくもををを戀こ戀ここひひひ野山のやま野山のやまのやまをををおもふおもふおもう愁うれ愁うれうれやむやむやむ時とき時ときときなしなしなし。。。
  13. 13そのおもひそのおもひそのおもい我わ我わわががが身み身みみにあたりてにあたりてにあたりて忍しの忍しのしのびがたくばびがたくばびがたくば、、、心こころ心こころこころあらむあらむあらむ人ひと人ひとひとこれこれこれをををたのしまむやたのしまむやたのしまむや。。。生しやう生しやうしょうをををくるしめてくるしめてくるしめて目め目めめをををよろこばしむるよろこばしむるよろこばしむるははは、、、ががが心こころ心こころこころなりなりなり。。。
  14. 14ががが鳥とり鳥とりとりををを愛あい愛あいあいせしせしせし、、、林はやし林はやしはやしにたのしぶにたのしぶにたのしぶををを見み見みみててて逍遙せうえう逍遙せうえうしょうようののの友とも友ともともとしきとしきとしき。。。とらへとらへとらえ苦くるし苦くるしくるしめたるにあらずめたるにあらずめたるにあらず。。。「「「凡およそ凡およそおよそめづらしきめづらしきめずらしき禽とり禽とりとり、、、あやしきあやしきあやしき獸けだもの獸けだものけだもの、、、國くに國くにくににやしなはずにやしなはずにやしなわず」」」とこそとこそとこそ文ふみ文ふみふみにもにもにも侍はべ侍はべはべるなれるなれるなれ。。。
  15. 15人ひと人ひとひとののの才能さいのう才能さいのうさいのうははは、、、文ふみ文ふみふみあきらかにしてあきらかにしてあきらかにしてひじりのひじりのひじりの敎をしへ敎をしへおしえををを知し知ししれるれるれるををを第一だいいち第一だいいちだいいちとすとすとす。。。次つぎ次つぎつぎにににははは手て手ててかくことかくことかくこと、、、旨むね旨むねむねとするとするとする事こと事ことことはははなくともこれなくともこれなくともこれををを習なら習ならならふべしふべしうべし。。。學問がくもん學問がくもんがくもんにたよりあらむためなりにたよりあらむためなりにたよりあらむためなり。。。
  16. 16次つぎ次つぎつぎににに醫術いじゆつ醫術いじゆついじゅつををを習なら習ならならふべしふべしうべし。。。身み身みみををを養やしな養やしなやしなひひい人ひと人ひとひとをををたすけたすけたすけ、、、忠孝ちゆうかう忠孝ちゆうかうちゅうこうのつとめものつとめものつとめも醫い醫いいにあらずばあるべからずにあらずばあるべからずにあらずばあるべからず。。。次つぎ次つぎつぎににに弓射ゆみい弓射ゆみいゆみい、、、馬むま馬むまうまににに乘の乘ののることることることにいだせりにいだせりにいだせり。。。必かならず必かならずかならずこれこれこれをををうかゞふべしうかゞふべしうかがうべし。。。
  17. 17文武醫ぶんぶい文武醫ぶんぶいぶんぶいののの道みち道みちみち、、、まことにまことにまことに缺か缺かかけてけてけてはははあるべからずあるべからずあるべからず。。。これこれこれををを學がく學がくがくばむばむばむをばをばをば、、、いたづらなるいたづらなるいたずらなる人ひと人ひとひとといふべからずといふべからずというべからず。。。次つぎ次つぎつぎにににははは人ひと人ひとひとののの天てん天てんてんなりなりなり。。。よくよくよく味あぢ味あぢあじをををとゝのとゝのととのへへへ知し知ししれるれるれる人大ひとおほき人大ひとおほきひとおおきなるなるなる德とく德とくとくとすべしとすべしとすべし。。。
  18. 18次つぎ次つぎつぎににに細工さいく細工さいくさいくよろづのよろづのよろずの要えう要えうようおほしおほしおおし。。。このこのこの外ほか外ほかほかののの事こと事ことことどもどもども、、、多能たのう多能たのうたのうははは君子くんし君子くんしくんしのののはははづるところなりづるところなりずるところなり。。。詩歌しいか詩歌しいかしいかにたくみににたくみににたくみににたへなるにたへなるにたえなるははは、、、幽玄いうげん幽玄いうげんゆうげんののの道みち道みちみち、、、君臣くんしん君臣くんしんくんしんこれこれこれををを重おも重おもおもくすとくすとくすとはははいへどもいへどもいえども、、、今いま今いまいまののの世よ世よよにににはははこれこれこれをもをもをもちてちてちて世よ世よよををを治をさ治をさおさむることむることむること、、、漸やうやう漸やうやうようようおろかなるにおろかなるにおろかなるに似に似ににたりたりたり。。。
  19. 19こがねはすぐれたれどもこがねはすぐれたれどもこがねわすぐれたれども、、、くろがねのくろがねのくろがねの益多えきおほ益多えきおほえきおおきにしかざるがごとしきにしかざるがごとしきにしかざるがごとし。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔第116段〕寺院の名や、そのほかのあらゆる物に名をつけることを、昔の人は少しも凝らず、ただありのままにたやすくつけたのである。このごろは深く考えて、才気をひけらかそうとしたように聞こえるのは、まことにいやみである。人の名も、見慣れない文字を使おうとするのは、無益なことである。何事も珍しいことを求め、変わった説を好むのは、浅はかな人が必ずすることだということだ。

〔第117段〕友とするのに悪いものが七つある。一つには身分が高く尊い人、二つには若い人、三つには病気をせず体の丈夫な人、四つには酒を好む人、五つには勇猛な武士、六つにはうそをつく人、七つには欲の深い人。よい友が三つある。一つには物をくれる友、二つには医者、三つには知恵のある友。

〔第118段〕鯉の吸い物を食べた日は、鬢の毛がほつれないという。膠にも作るものだから、粘りけのあるものなのだろう。鯉だけは、天皇の御前でも料理されるものなので、尊い魚である。鳥では雉がこの上ないものである。雉や松茸などは、御湯殿の上にかけてあっても差しつかえない。そのほかのものは困ったことである。中宮の御方の御湯殿の上の黒御厨子に雁が見えたのを、北山入道殿(西園寺実兼)がご覧になって、お帰りになってすぐに、お手紙で、「このようなものが、そのままの姿で御棚に置いてございましたことは、見慣れないことで、みっともないことです。しっかりした人がお仕えしていないからでしょう」などと申しあげなさった。

〔第119段〕鎌倉の海で鰹という魚は、あの地方では比べるものがないものとして、このごろもてはやしているものである。それも、鎌倉の年寄りが申しましたことには、「この魚は、私たちが若かったころまでは、身分のある人の前に出ることはございませんでした。頭は下男も食べず、切って捨てておりました」と申した。このようなものも、末の世になると、上流の人々の間にまで入りこむものなのでございます。

〔第120段〕唐の物は、薬のほかはなくても不自由しないだろう。書物は、この国に多く広まっているので、書き写すこともできよう。唐土からの船が、たやすくはない航海に、無用の物ばかりを取り積んで、所狭しと運んでくるのは、まことに愚かである。「遠い国の物を宝としない」とも、また「得がたい宝を尊ばない」とも、書物にあるそうだ。

〔第121段〕養い飼うものとしては、馬と牛。つないで苦しめるのはかわいそうだが、なくてはならないものなので、しかたがない。犬は守り防ぐ役目が人にもまさっているので、必ず飼うべきである。けれども、どの家にもいるものなので、わざわざ求めて飼わなくてもよいだろう。そのほかの鳥獣は、すべて無用のものである。走る獣は檻に閉じこめ、鎖につなぎ、飛ぶ鳥は翼を切り、籠に入れられて、雲を恋しがり、野山を思う悲しみがやむ時がない。その思いを、わが身に引き当てて耐えがたいならば、心ある人がこれを楽しむだろうか。生き物を苦しめて目を楽しませるのは、桀や紂のような暴君の心である。王子猷が鳥を愛したのは、林で楽しそうにしているのを見て、そぞろ歩きの友としたのである。捕らえて苦しめたのではない。「およそ珍しい鳥や、変わった獣は、国で飼わない」と、書物にもあるようです。

〔第122段〕人の才能としては、書物に通じて聖人の教えを知っているのを第一とする。次には字を書くこと。専門とするほどでなくても、これを習うのがよい。学問の助けとなるからである。次に医術を習うのがよい。身を養い、人を助け、忠孝の務めも、医術でなくては果たせない。次に弓を射ることと馬に乗ることは、六芸に挙げられている。必ずこれを学ぶべきである。学問・武芸・医術の道は、ほんとうに欠けてはならない。これを学ぼうとする者を、無益な人と言ってはならない。次に、食は人の天である。よく味を調えることを知っている人は、大きな長所とすべきである。次に細工は、あらゆる面で役立つことが多い。このほかのことは、多芸であるのは君子の恥とするところである。詩歌にたくみで、管絃にすぐれているのは、奥深い道で、君臣ともにこれを重んじるとはいうものの、今の世では、これによって世を治めることは、しだいに疎遠になっていくようだ。金はすぐれているけれども、鉄の効用の多さには及ばないようなものである。

意訳

〔第116段〕寺や人の名に凝った文字を使うのは浅はかである。昔のように、ありのままに名付けるのがよい。

〔第117段〕友とするに悪いのは、身分の高い人、若い人、病気をしない丈夫な人、酒好き、勇猛な武士、うそつき、欲深い人。よい友は、物をくれる友、医者、知恵のある友。率直で、ちょっと皮肉のきいた友人論として、よく知られている。

〔第118段〜第120段〕鯉と雉は貴人の前に出せるが、雁を棚にそのまま置くのは見苦しい。昔は下男も食べなかった鰹が、今では上流にまで出回る。唐の珍品を大枚をはたいて取り寄せるのは愚かだ――食べ物や物産を通して、世の移り変わりと、ぜいたくへの戒めを語る。

〔第121段〕馬・牛・犬のように役に立つもの以外の鳥獣を、檻や籠に閉じこめて楽しむのは、暴君の心である。自分の身に置きかえてみよ――生き物への深い共感がこめられた段である。

〔第122段〕身につけるべき才能は、まず学問、次に書、医術、弓馬、料理、細工の順。詩歌管絃は奥深いが、世を治めるには役立たない。金より鉄が役に立つように――実用を重んじる、意外なほど現実的な教養論である。

語釈・文法注

淺才
才知の浅いこと。
くすし
医者。
あつもの
熱い吸い物。
鬢
頭の左右側面の髪。
御湯殿の上
清涼殿の御湯殿に続く部屋。天皇の食事の支度などをした。
くろみ棚
黒御厨子。黒塗りの棚。
北山入道殿
西園寺実兼(1249〜1322)。
かつを
鰹。
六藝
中国の古代の教養。礼・楽・射・御(馬術)・書・数。
桀紂
夏の桀王と殷の紂王。中国古代の暴君の代表。
王子猷
王徽之。東晋の人。王羲之の子。
食は人の天なり
食物は人の命のもとである。『史記』などに見える言葉。
絲竹
弦楽器と管楽器。音楽。

文法

事かくまじ
「事かく」は不自由する。不自由しないだろう。
書きもうつしてむ
「て」は強意、「む」は可能の推量。書き写すこともできよう。
心あらむ人これをたのしまむや
「や」は反語。心ある人がこれを楽しむだろうか、いや楽しまない。
ありなむ
「な」は強意、「む」は適当。…でもよいだろう。

解説

第117段の友人論は、『徒然草』の中でもとくに有名な段である。悪い友の筆頭に「高くやんごとなき人」を挙げ、「病なく身つよき人」を加えるのは意表をつく。身分の高い人とは気がねなく付き合えず、丈夫な人は病人の気持ちがわからないということだろう。よい友の一番目が「ものくるゝ友」であるのも、兼好らしい率直さとユーモアである。

第119段の鰹の話は、鎌倉時代の食文化の変化を伝える記事として、歴史学でも引用される。兼好は関東に滞在したことがあり、この話もその折に聞いたものであろう。

第121段は、生き物を飼うことへの批判である。仏教の不殺生の教えを背景にしながらも、「そのおもひ我が身にあたりて忍びがたくば」と、自分の身に置きかえて考えるように促す点に、兼好の思いやりの深さがある。

第122段の才能論は、学問を第一としながら、医術・弓馬・料理・細工といった実用の技を重んじ、詩歌管絃をむしろ下に置く。歌人である兼好がこう書いているのは興味深く、時代の変化を冷静に見ていたことがうかがえる。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(徒然草) 板倉屋書房、明治36年(1903)、809〜811頁(コマ418–419)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日