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徒然草 第19章(第109段〜第115段)

高名の木のぼりとぼろぼろ

危ないところでなく易しいところで過ちは起こると説く「高名の木のぼり」、負けまいと打てという双六の名人の言葉、囲碁双六を悪事とする聖の言、すべてを捨てて道に向かう決意、老人の見苦しいふるまい、牛飼を叱って主人に頭をぶつけられた為則、師の敵を討つぼろぼろの決闘を収める。

木から降りる作業人に、地上から声をかける木登りの名人
第109段「高名の木のぼり」の情景。作業人が軒ほどの高さまで降りたところで、名人が注意を促す。過ちは安心したときに起こる、という戒めが示されている。
  1. 1ののの木き木ききのぼりといひしのぼりといひしのぼりといいし男をとこ男をとこおとこ、、、人ひと人ひとひとをををおきてゝおきてゝおきてて高たか高たかたかききき木き木ききにのぼせてにのぼせてにのぼせて、、、梢こずゑ梢こずゑこずえをををきらせしにきらせしにきらせしに、、、いとあやふくいとあやふくいとあやうく見み見みみえしえしえしほどほどほどはははいふこともなくていふこともなくていうこともなくて、、、おるゝおるゝおるる時とき時ときときににに軒のき軒のきのきだけばかりになりてだけばかりになりてだけばかりになりて、、、「「「あやまちすなあやまちすなあやまちすな。。。心こころ心こころこころしておりよしておりよしておりよ」」」とことばとことばとことばをををかけかけかけ侍はべ侍はべはべりしりしりしををを、、、「「「かばかりになりてかばかりになりてかばかりになりてははは、、、飛と飛ととびおるゝともおりなむびおるゝともおりなむびおるるともおりなむ、、、いかにかくいふぞいかにかくいふぞいかにかくいうぞ」」」ととと申まう申まうもうししし侍はべ侍はべはべりしかばりしかばりしかば、、、「「「そのそのその事こと事ことことににに候さふら候さふらそうろうふふう。。。目め目めめくるめきくるめきくるめき、、、枝えだ枝えだえだあやふきあやふきあやうきほどほどほどははは、、、おのれがおそれおのれがおそれおのれがおそれ侍はべ侍はべはべればればれば申まう申まうもうさずさずさず。。。あやまちあやまちあやまちはやはやはやすきすきすき所ところ所ところところになりてになりてになりて、、、必仕かならずつかまつ必仕かならずつかまつかならずつかまつることにることにることに候さふら候さふらそうろうふふう」」」といふといふという。。。
  2. 2あやしきあやしきあやしき下臈げらふ下臈げらふげろうなれどもなれどもなれども、、、聖人しやうにん聖人しやうにんしょうにんのいましめにかなへりのいましめにかなへりのいましめにかなえり。。。もかたきもかたきもかたき所ところ所ところところををを蹴出けいだ蹴出けいだけいだしてしてして、、、後うしろ後うしろうしろやすくおもへばやすくおもへばやすくおもえば、、、必かなら必かならかならおつるとおつるとおつると侍はべ侍はべはべるやらむるやらむるやらむ。。。
  3. 3ののの上手じやうず上手じやうずじょうずといひしといひしといいし人ひと人ひとひとににに、、、そのてだてそのてだてそのてだてををを問と問ととひひい侍はべ侍はべはべりしかばりしかばりしかば、、、「「「勝か勝かかたむとたむとたむとうつべからずうつべからずうつべからず、、、負ま負ままけじとけじとけじとうつべきなりうつべきなりうつべきなり。。。いづれのいづれのいずれの手て手ててがとくまけぬべきとがとくまけぬべきとがとくまけぬべきと案あん案あんあんじてじてじて、、、そのそのその手て手ててをををつかはずしてつかはずしてつかわずして、、、一ひと一ひとひとめなりともめなりともめなりとも、、、遲おそ遲おそおそくまくべきくまくべきくまくべき手て手ててにつくべしにつくべしにつくべし」」」といふといふという。。。
  4. 4道みち道みちみちををを知し知ししれるれるれるをををしへしへしへ、、、身み身みみををををををさめさめさめ國くに國くにくにををを保たも保たもたもたむたむたむ道みち道みちみちもまたしかなりもまたしかなりもまたしかなり。。。
  5. 5「「「圍碁ゐご圍碁ゐごいご雙六すぐろく雙六すぐろくすぐろくこのみてあかしこのみてあかしこのみてあかし暮くら暮くらくらすすす人ひと人ひとひとははは、、、にもまされるにもまされるにもまされる惡事あくじ惡事あくじあくじとぞとぞとぞ思おも思おもおもふふう」」」とあるとあるとあるひじりのひじりのひじりの申まう申まうもうしゝことしゝことししこと、、、耳みみ耳みみみみにとゞまりていみじくおぼえにとゞまりていみじくおぼえにとどまりていみじくおぼえ侍はべ侍はべはべるるる。。。
  6. 6明日あす明日あすあすははは遠國をんごく遠國をんごくおんごくへへへ赴おもむ赴おもむおもむくべしとくべしとくべしと聞き聞ききかむかむかむ人ひと人ひとひとににに、、、心こころ心こころこころしづかになすべからむわざしづかになすべからむわざしずかになすべからむわざをばをばをば人ひと人ひとひといひかけてむやいひかけてむやいいかけてむや。。。俄にはか俄にはかにわかののの大事だいじ大事だいじだいじをもをもをもいとなみいとなみいとなみ、、、切せち切せちせちににに歎なげ歎なげなげくこともあるくこともあるくこともある人ひと人ひとひとははは、、、他た他たたののの事聞ことき事聞こときこときききき入い入いいれずれずれず、、、人ひと人ひとひとののの愁喜しうき愁喜しうきしゅうきをもをもをもとはずとはずとわず、、、とはずとてなどやととはずとてなどやととわずとてなどやと恨うら恨うらうらむるむるむる人ひと人ひとひともなしもなしもなし。。。
  7. 7さればさればされば年とし年としとしもやうやうたけもやうやうたけもようようたけ、、、病やまひ病やまひやまいにもまつはれにもまつはれにもまつわれ、、、いはむやいはむやいわむや世よ世よよをもをもをも遁のが遁のがのがれたらむれたらむれたらむ人ひと人ひとひと、、、又また又またまたこれにこれにこれに同おな同おなおなじかるべしじかるべしじかるべし。。。人間にんげん人間にんげんにんげんののの儀式ぎしき儀式ぎしきぎしき、、、いづれのいづれのいずれの事こと事ことことかかか去さ去ささりがたからぬりがたからぬりがたからぬ。。。
  8. 8世俗せぞく世俗せぞくせぞくのもだしがたきにしたがひてのもだしがたきにしたがひてのもだしがたきにしたがいて、、、これこれこれをををかならずとせばかならずとせばかならずとせば、、、ねがひもおほくねがひもおほくねがいもおおく、、、身み身みみもくるしくもくるしくもくるしく、、、心こころ心こころこころのいとまもなくのいとまもなくのいとまもなく、、、一世いつせ一世いつせいっせははは雜事ざふじ雜事ざふじぞうじののの小節せうせつ小節せうせつしょうせつにさへられてにさへられてにさえられて空むな空むなむなしくしくしく暮く暮くくれなむれなむれなむ。。。
  9. 9れれれ途みち途みちみちとほしとほしとおし。。。吾わ吾わわががが生旣しやうすで生旣しやうすでしょうすでにににたりたりたり。。。諸緣しよえん諸緣しよえんしょえんをををすべきすべきすべき時とき時ときときなりなりなり。。。信しん信しんしんをもをもをも守まも守まもまもらじらじらじ。。。禮義れいぎ禮義れいぎれいぎをもをもをも思おも思おもおもはじはじわじ。。。このこのこの心こころ心こころこころをもをもをもたざらむたざらむたざらむ人ひと人ひとひとははは、、、ものぐるひともいへものぐるひともいへものぐるいともいえ。。。
  10. 10うつゝなしうつゝなしうつつなし、、、なさけなしともおもへなさけなしともおもへなさけなしともおもえ。。。そしるともくるしまじそしるともくるしまじそしるともくるしまじ。。。譽ほまれ譽ほまれほまれむるともむるともむるとも聞き聞きききいれじきいれじきいれじ。。。
  11. 11四十よそぢ四十よそぢよそじにもあまりぬるにもあまりぬるにもあまりぬる人ひと人ひとひとののの色いろ色いろいろめきたるかためきたるかためきたるかた、、、おのづからおのづからおのずから忍しの忍しのしのびてあらむびてあらむびてあらむはははいかゞはせむいかゞはせむいかがわせむ。。。ことにことにことにうちうちうち出い出いいでゝでゝでて男女なんによ男女なんによなんにょのことのことのこと、、、人ひと人ひとひとのののうへうへうえをもをもをもいひたわるゝこそいひたわるゝこそいいたわるるこそ似に似ににげなくげなくげなく見み見みみぐるしけれぐるしけれぐるしけれ。。。
  12. 12大おほ大おほおおかたきゝにくゝかたきゝにくゝかたききにくく見み見みみぐるしきことぐるしきことぐるしきこと、、、老人らうじん老人らうじんろうじんののの若わか若わかわかききき人ひと人ひとひとにまじはりてにまじはりてにまじわりて、、、興きよう興きようきょうあらむとものいひたるあらむとものいひたるあらむとものいいたる。。。數かず數かずかずならぬならぬならぬ身み身みみにてにてにて世よ世よよのおぼえあるのおぼえあるのおぼえある人ひと人ひとひとををを、、、へだてなきさまにいひたるへだてなきさまにいひたるへだてなきさまにいいたる。。。
  13. 13貧まづ貧まづまずしきところにしきところにしきところに酒宴しゆえん酒宴しゆえんしゅえんこのみこのみこのみ、、、客人まらうど客人まらうどまろうどににに饗應きやうおう饗應きやうおうきょうおうせむときらめきたるせむときらめきたるせむときらめきたる。。。
  14. 14のおのおのおほいほいほい殿どの殿どのどの、、、嵯峨さが嵯峨さがさがへへへおはしけるにおはしけるにおわしけるに、、、川かは川かはかわのわたりにのわたりにのわたりに水みづ水みづみずののの流なが流ながながれたるれたるれたる所ところ所ところところにてにてにて、、、王丸御牛わうまるおほんうし王丸御牛わうまるおほんうしおうまるおおんうしををを追お追おおひたりければひたりければいたりければ、、、あがきのあがきのあがきのまでざゞとかゝりけるまでざゞとかゝりけるまでざざとかかりけるををを、、、爲則ためのり爲則ためのりためのり御車みくるま御車みくるまみくるまのしりにのしりにのしりに候さふら候さふらそうらひけるがひけるがいけるが、、、「「「希有けう希有けうきょうののの童わらは童わらはわらわかなかなかな。。。かゝるかゝるかかる所ところ所ところところにてにてにて御おん御おんおん牛うし牛うしうしをばをばをばおふものかおふものかおうものか」」」といひたりければといひたりければといいたりければ、、、おおおほいほいほい殿御どのみけしき殿御どのみけしきどのみけしきけしきあしくなりてけしきあしくなりてけしきあしくなりて、、、「「「おのれおのれおのれ車くるま車くるまくるまやらむことやらむことやらむこと、、、さいさいさい王丸わうまる王丸わうまるおうまるにまさりてえしらじにまさりてえしらじにまさりてえしらじ。。。希有けう希有けうきょうののの男をとこ男をとこおとこなりなりなり」」」とてとてとて御車みくるま御車みくるまみくるまにかしらにかしらにかしらをををうちあてられにけりうちあてられにけりうちあてられにけり。。。
  15. 15このこのこの高名かうみやう高名かうみやうこうみょうのさいわうのさいわうのさいおう丸まる丸まるまるははは、、、ののの男をとこ男をとこおとこ、、、料れう料れうりょうののの御牛飼みうしかひ御牛飼みうしかひみうしかいぞかしぞかしぞかし。。。このこのこの太秦殿うづまさどの太秦殿うづまさどのうずまさどのににに侍はべ侍はべはべりけるりけるりける女房にようばう女房にようばうにょうぼうののの名な名ななどもどもども、、、一人ひとり一人ひとりひとりはははひざさちひざさちひざさち、、、一人ひとり一人ひとりひとりはははことづちことづちことづち、、、一人ひとり一人ひとりひとりははははははうううはははららら、、、一人ひとり一人ひとりひとりはははおとおとおとうしとつけられけりうしとつけられけりうしとつけられけり。。。
  16. 16といふといふという所ところ所ところところにてにてにて、、、聚あつ聚あつあつりてりてりて、、、ののの念佛ねんぶつ念佛ねんぶつねんぶつををを申まう申まうもうしけるにしけるにしけるに、、、外ほか外ほかほかよりよりより入い入いいりくるぼろぼろのりくるぼろぼろのりくるぼろぼろの、、、「「「もしこのもしこのもしこの中なか中なかなかにいろにいろにいろをををししし坊ばう坊ばうぼうととと申まう申まうもうすぼろやおはしますすぼろやおはしますすぼろやおわします」」」ととと尋たづ尋たづたずねければねければねければ、、、そのそのその中なか中なかなかよりよりより、、、「「「いろいろいろをををしこゝにしこゝにしここに候さふら候さふらそうろうふふう。。。かくのたまふかくのたまふかくのたまうはははたぞたぞたぞ」」」ととと答こた答こたこたふればふればうれば、、、「「「しらしらしら梵字ぼんじ梵字ぼんじぼんじととと申まう申まうもうすものなりすものなりすものなり。。。おのれがおのれがおのれが師し師ししなにがしとなにがしとなにがしと申まう申まうもうしゝしゝしし人ひと人ひとひと、、、東國とうごく東國とうごくとうごくにていろにていろにていろをををしとしとしと申まう申まうもうすぼろにころされけりとすぼろにころされけりとすぼろにころされけりと承うけたまは承うけたまはうけたまわりしかばりしかばりしかば、、、そのそのその人ひと人ひとひとににに逢あ逢ああひひい奉たてまつ奉たてまつたてまつりてりてりて、、、うらみうらみうらみ申まう申まうもうさばやとさばやとさばやと思おも思おもおもひてひていて尋たづ尋たづたずねねね申まう申まうもうすなりすなりすなり」」」といふといふという。。。
  17. 17いろいろいろをををししし「「「ゆゝしくもゆゝしくもゆゆしくも尋たづ尋たづたずねおはしたりねおはしたりねおわしたり、、、さることさることさること侍はべ侍はべはべりきりきりき。。。こゝにてこゝにてここにて對面たいめん對面たいめんたいめんしたてまつらばしたてまつらばしたてまつらば、、、道塲だうぢやう道塲だうぢやうどうじょうをををけがしけがしけがし侍はべ侍はべはべるべしるべしるべし。。。前まへ前まへまえののの河原かはら河原かはらかわらへへへまゐりあはむまゐりあはむまいりあわむ。。。あなかしこあなかしこあなかしこ。。。わきざしたちわきざしたちわきざしたち、、、いづかたいづかたいずかたをもをもをもみつぎみつぎみつぎ給たま給たまたまふなふなうな。。。あまたのわづらひにならばあまたのわづらひにならばあまたのわずらいにならば、、、佛ほとけ佛ほとけほとけ事こと事ことことのさまたげにのさまたげにのさまたげに侍はべ侍はべはべるべしるべしるべし」」」といひといひといい定さだ定さださだめてめてめて、、、二人河原ふたりかはら二人河原ふたりかはらふたりかわらににに出い出いいであひてであひてであいて、、、心こころ心こころこころゆくばかりにつらぬきあひてゆくばかりにつらぬきあひてゆくばかりにつらぬきあいて、、、ともにともにともに死し死ししにけりにけりにけり。。。
  18. 18ぼろぼろといふものぼろぼろといふものぼろぼろというもの昔むかし昔むかしむかしはははなかりけるにやなかりけるにやなかりけるにや。。。近ちか近ちかちかききき世よ世よよににに、、、梵論字ぼろじ梵論字ぼろじぼろじ、、、梵字ぼんじ梵字ぼんじぼんじ、、、漢字かんじ漢字かんじかんじなどいひけるものなどいひけるものなどいいけるもの、、、そのそのそのはじめなりけるとかやはじめなりけるとかやはじめなりけるとかや。。。世よ世よよをををすてたるにすてたるにすてたるに似に似ににててて、、、我執がしふ我執がしふがしゅうふかくふかくふかく、、、佛道ぶつだう佛道ぶつだうぶつどうをををねがふにねがふにねがうに似に似ににててて、、、鬪諍とうじやう鬪諍とうじやうとうじょうををを事こと事ことこととすとすとす。。。
  19. 19放逸無慚はういつむざん放逸無慚はういつむざんほういつむざんのありさまなれどものありさまなれどものありさまなれども、、、死じに死じにじにをををかろくしてかろくしてかろくして、、、少すこ少すこすこしもなづまざるかたのいさぎよくしもなづまざるかたのいさぎよくしもなずまざるかたのいさぎよく覺おぼ覺おぼおぼえてえてえて、、、人ひと人ひとひとののの語かた語かたかたりしまゝにりしまゝにりしままに書か書かかきつけきつけきつけはははんべるなりんべるなりんべるなり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔第109段〕木登りの名人と評判だった男が、人を指図して高い木に登らせて梢を切らせたとき、たいそう危なく見えた間は何も言わないで、降りるときに軒の高さほどになってから、「けがをするな。気をつけて降りよ」と言葉をかけましたので、「これくらいの高さになったら、飛び降りても降りられるだろう。どうしてそんなことを言うのか」と申しましたところ、「そのことでございます。目がくらみ、枝が危ないうちは、自分で恐れておりますので申しません。過ちは、易しい所になって、必ずしでかすものでございます」と言う。身分の低い者だけれども、聖人の戒めにかなっている。蹴鞠も、難しい所を蹴り出した後、安心だと思うと、必ず落とすとかいうようでございます。

〔第110段〕双六の名人と評判の人に、その方法を尋ねましたところ、「勝とうと思って打ってはならない。負けまいと思って打つべきである。どの手が早く負けてしまうだろうかと考えて、その手を使わないで、一目でも遅く負けるような手を使うのがよい」と言う。道を心得た者の教えであり、身を修め、国を保つ道もまた同じである。

〔第111段〕「囲碁や双六を好んで日を暮らす人は、四重罪・五逆罪にもまさる悪事だと思う」と、ある聖が申したことが、耳にとどまって、すばらしく思われます。

〔第112段〕明日は遠国へ出立するはずだと聞いている人に、心静かにしなければならないようなことを、人は言いかけるだろうか。急な大事を処理し、ひどく嘆き悲しむことのある人は、ほかのことは聞き入れず、人の喜びや悲しみも見舞わない。見舞わないからといって、どうしてかと恨む人もいない。だから、年もしだいにとり、病気にもつきまとわれ、まして世を捨てたような人は、またこれと同じであるはずだ。人間の儀礼は、どれが避けがたくないだろうか。世俗の黙っていられない義理に従って、これを必ずしなければならないとするならば、願いも多く、身も苦しく、心の暇もなく、一生は雑事の小さな義理にさまたげられて、むなしく暮れてしまうだろう。日は暮れ、道は遠い。わが生涯はもう思うにまかせない。もろもろの縁を捨て去るべき時である。信義も守るまい。礼儀も考えまい。この心を持たない人は、狂っているとも言え。正気でない、情けがないとも思え。そしられても苦にしまい。ほめられても耳を貸すまい。

〔第113段〕四十を過ぎた人が、色恋めいたことを、自然と人目を忍んでするのは、しかたがない。ことさらに口に出して、男女のことや人の身の上をも言い戯れるのは、似つかわしくなく見苦しい。だいたい聞き苦しく見苦しいこと。老人が若い人に交じって、おもしろがらせようとして物を言うこと。取るに足りない身で、世間の評判の高い人のことを、親しいように言うこと。貧しい家で酒宴を好み、客にごちそうしようと派手にふるまうこと。

〔第114段〕今出川の大臣殿が嵯峨へいらっしゃったとき、有栖川のあたりで水の流れている所で、牛飼の賽王丸が御牛を追ったところ、牛が足でかいた水が前板までざっとかかったのを、為則が御車の後ろに控えていたが、「とんでもない童だ。こんな所で御牛を追うものか」と言ったところ、大臣殿はご機嫌が悪くなって、「お前は車を進めることについて、賽王丸にまさって知っているはずがあるまい。とんでもない男だ」と言って、(為則の)頭を御車にぶつけさせなさった。この名高い賽王丸は、太秦殿の家来で、天皇の御料の御牛飼であるよ。この太秦殿にお仕えしていた女房の名前は、一人はひざさち、一人はことづち、一人ははうはら、一人はおとうしと名づけられた。

〔第115段〕宿河原という所で、ぼろぼろが大勢集まって、九品の念仏を唱えていたところ、外から入ってきたぼろぼろが、「もしやこの中に、いろをし房と申すぼろはいらっしゃいますか」と尋ねたので、その中から「いろをしはここにおります。そうおっしゃるのはだれだ」と答えると、「しら梵字と申す者です。私の師の何某と申した人が、東国でいろをしと申すぼろに殺されたと承ったので、その人にお会い申して、恨みを晴らしたいと思って、お尋ね申すのです」と言う。いろをしは「よくぞ尋ねていらっしゃった。そういうことがありました。ここでお相手申しては、道場をけがすことになりましょう。前の河原へ参ってお会いしよう。決して、脇にいる方々、どちらにも加勢なさるな。大勢の迷惑になったら、仏事の妨げになりましょう」と言い決めて、二人は河原に出て向き合い、思う存分刺し違えて、ともに死んでしまった。ぼろぼろというものは、昔はいなかったのだろうか。近ごろ、梵論字、梵字、漢字などといった者が、その始まりだったとかいうことだ。世を捨てたように見えて我執が深く、仏道を願うように見えて争いを事とする。勝手気ままで恥知らずなありさまだが、死を軽んじて、少しもこだわらないところが潔く思われて、人が語ったままに書きつけておくのである。

意訳

〔第109段〕木登りの名人は、危ない高い所では何も言わず、軒の高さまで降りてきたときに「気をつけろ」と声をかけた。人は危ない所では自分で用心するが、易しくなって気がゆるんだときに失敗する――「高名の木のぼり」として、もっとも有名な段の一つである。

〔第110段〕〔第111段〕双六の名人は「勝とうと打つな、負けまいと打て」と言う。最悪の手を避け、少しでも負けを遅らせる手を選ぶ――身を修め国を治めるのも同じだと兼好は言う。一方で、囲碁双六に日を暮らすことを大罪以上の悪とした聖の言葉も記す。

〔第112段〕旅立つ前日の人や、大事を抱えた人に、だれも雑用を頼まない。年をとった者、世を捨てた者も同じである。義理を果たそうとすれば一生が雑事で終わる。「日暮れ途遠し」――信義も礼儀も捨て、狂人と言われようとかまわない。兼好の、もっとも激しい決意表明である。

〔第113段〕〔第114段〕四十を過ぎて色恋を口にする人、若者に交じっておどける老人、貧しいのに見栄を張る人は見苦しい。牛飼の腕前を知らずに口を出して叱られた為則の話は、専門家への敬意を説く第51段などと通じる。

〔第115段〕念仏の場で師の敵に出会ったぼろぼろは、道場をけがすまいと河原に出て、仲間にも手出しを禁じ、刺し違えて死んだ。我執が深く争いを好む者たちだが、死をいとわない潔さに、兼好は心を動かされている。

語釈・文法注

高名の木のぼり
木登りの名人として評判の者。
鞠
蹴鞠。鞠を蹴り上げて地面に落とさないように続ける遊び。
雙六
盤上で二つのさいころを振って駒を進める遊び。賭けごとにも使われた。
四重五逆
仏教で、もっとも重い罪。四重は殺生・偸盗・邪淫・妄語、五逆は父母や聖者を殺すなどの五つの罪。
日暮れ途とほし
年老いて、なすべきことがまだ多く残っている。『史記』の伍子胥の言葉による。
蹉跎
つまずいて思うように進めないこと。時機を失うこと。
放下
すべてを捨て去ること。
今出川のおほい殿
西園寺兼季(1281〜1339)。菊亭の大臣とも。
ありす川
有栖川。京都の嵯峨を流れる小川。
さい王丸
賽王丸。名高い牛飼。
前板
牛車の前方の、乗り降りの際に踏む板。
太秦殿
藤原信清(1159〜1216)とされる。
宿河原
今の川崎市多摩区の地名。
ぼろぼろ
半僧半俗の放浪の念仏者。のちの虚無僧の起源とされる。
九品の念佛
極楽往生の九つの等級(九品)に合わせて唱える念仏。

文法

飛びおるゝともおりなむ
「な」は強意、「む」は推量。飛び降りても降りられるだろう。
人いひかけてむや
「て」は強意、「む」は推量、「や」は反語。言いかけるだろうか、いや言いかけはしない。
いづれの事か去りがたからぬ
「か」は反語。どれが避けがたくないことがあろうか(どれも避けがたい)。
ものぐるひともいへ
命令形で、言いたければ言え、の意の放任。
御けしき
底本は「御けしき」と書く。ご機嫌。

解説

第109段の「高名の木のぼり」は、『徒然草』の中でもっとも広く読まれている段の一つで、学校の教科書の定番でもある。危険の中ではなく、安心した時にこそ失敗が起こるという名人の言葉は、身分の低い者の言葉でありながら「聖人のいましめにかなへり」と兼好は評する。蹴鞠の例を添えて、教訓の普遍性を示している。

第110段の双六の名人の言葉も、勝負や処世の知恵として名高い。兼好は、それぞれの道の名人の言葉に普遍的な真理を見いだすことが多く、これは第187段・第188段などにも通じる考え方である。

第112段は、『徒然草』の中で兼好の決意がもっとも強く表れた段である。「日暮れ途遠し。吾が生既に蹉跎たり」は漢籍をふまえた表現で、残された時間の少なさへの切迫した思いがこめられている。

第115段のぼろぼろは、のちの虚無僧の源流とされる。兼好は彼らの生き方を批判しながらも、死を恐れない潔さには強くひかれている。最後の「人の語りしまゝに書きつけはんべるなり」は、自分が見たのではなく聞いた話であることを断る言葉である。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(徒然草) 板倉屋書房、明治36年(1903)、806〜809頁(コマ417–418)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日