徒然草 第18章(第105段〜第108段)
女の性と寸陰を惜しむこと
有明の月の下、人けのない御堂の廊で語り合う男女の情景、馬を堀に落とされて仏弟子の序列をまくし立てた証空上人、女に笑われない男の心得と女の性質をめぐる長い論、そして一瞬の時間を惜しんで道に励めと説く「寸陰惜しむ人なし」の段を収める。

- 1北北きたのやかげにのやかげにのやかげに消消きえのこりたるえのこりたるえのこりたる雪雪ゆきののの、、、いたうこほりたるにさしいたうこほりたるにさしいとうこおりたるにさし寄寄よせたるせたるせたる車車くるま、、、霜霜しもいたくきらめきていたくきらめきていたくきらめきて、、、有明有明ありあけののの月月つきさやかなれどもくまなくさやかなれどもくまなくさやかなれどもくまなくはははあらぬにあらぬにあらぬに、、、人人ひとばなれなるばなれなるばなれなる御堂御堂みどうののの廊廊ろうににに、、、なみなみになみなみになみなみにはははあらずとあらずとあらずと見見みゆるゆるゆる男男おとこ、、、女女おんな、、、物物ものがたりするさまこそがたりするさまこそがたりするさまこそ何事何事なにごとにかあらむつきすまじけれにかあらむつきすまじけれにかあらむつきすまじけれ。。。
- 2見見みえてえてえて、、、えもいはれぬにほひのさとかえもいはれぬにほひのさとかえもいわれぬにおいのさとかをををりたるこそりたるこそりたるこそをををかしけれかしけれかしけれ。。。けはひなどけはひなどけわいなどはははづれづれずれはははづれづれずれ聞聞きこえたるもゆかしえたるもゆかしえたるもゆかし。。。
- 3高野高野こうやののの上人上人しょうにん、、、京都京都きょうとへへへのぼりけるにのぼりけるにのぼりけるに、、、ほそほそほそ道道みちにてにてにてうまにうまにうまに乘乘のりたるりたるりたる女女おんなののの行行ゆきあひたりけるがきあひたりけるがきあいたりけるが、、、口口くちひきけるひきけるひきける男男おとこあしくひきてあしくひきてあしくいきて、、、ひじりのひじりのひじりの馬馬うまををを堀堀ほりへへへおとしてけりおとしてけりおとしてけり。。。
- 4ひじりいとひじりいとひじりいと腹腹はらあしくあしくあしく咎咎とがめてめてめて、、、「「「こここはははけうのけうのきょうの狼藉狼藉ろうぜきかなかなかな。。。ののの弟子弟子でしはははよなよなよな、、、比丘比丘びくよりよりよりははは比丘尼比丘尼びくにはははおとりおとりおとり、、、比丘尼比丘尼びくによりよりより優婆塞優婆塞うばそくはははおとりおとりおとり、、、優婆塞優婆塞うばそくよりよりより優婆夷優婆夷うばいはははおとれりおとれりおとれり。。。かくうばいなどのかくうばいなどのかくうばいなどの身身みにてにてにて、、、比丘比丘びくををを堀堀ほりににに蹴蹴け入入いれさするれさするれさする、、、未曾有未曾有みぞうののの惡行惡行あくぎょうなりなりなり」」」といはれければといはれければといわれければ、、、口引口引くちいきののの男男おとこ、、、「「「いかにいかにいかに仰仰おおせらるゝやらむせらるゝやらむせらるるやらむ、、、えこそえこそえこそ聞聞きききき知知しらねらねらね」」」といふにといふにというに、、、上人上人しょうにんなほいきまきてなほいきまきてなおいきまきて、、、「「「何何なにといふぞといふぞというぞ。。。ののの男男おとこ」」」とあらゝかにいひてとあらゝかにいひてとあららかにいいて、、、きききはははまりなきまりなきまりなき放言放言ほうごんしつとしつとしつと思思おもひけるけしきにてひけるけしきにていけるけしきにて、、、馬馬うまひきかへしてにげられけりひきかへしてにげられけりひきかえしてにげられけり。。。たふとたふととうとかりけるいさかひなるべしかりけるいさかひなるべしかりけるいさかいなるべし。。。
- 5女女おんなのものいひかけたるのものいひかけたるのものいいかけたる返返かえりりり事事こと、、、とりあへずよきとりあへずよきとりあえずよき程程ほどにするにするにする男男おとこはははありがたきものぞとてありがたきものぞとてありがたきものぞとて、、、ののの御時御時おおんとき、、、しれたるしれたるしれたる女房女房にょうぼうどもどもども若若わかききき男男おとこだちのだちのだちの參參まいらるゝごとにらるゝごとにらるるごとに、、、「「「ややや聞聞きききき給給たまへるへるえる」」」とてとてとて問問とひてひていて試試こころみられけるにみられけるにみられけるに、、、なにがしのなにがしのなにがしの大納言大納言だいなごんとかやとかやとかやははは、、、「「「數數かずならぬならぬならぬ身身みはははえええ聞聞きききき候候そうらはずはずわず」」」ととと答答こたへられけりへられけりえられけり。。。
- 6ははは「「「岩倉岩倉いわくらにてにてにて聞聞ききてきてきて候候そうらひしやらむひしやらむいしやらむ」」」ととと仰仰おおせられたりけるせられたりけるせられたりけるををを、、、「「「これこれこれははは難難なんなしなしなし。。。數數かずならぬならぬならぬ身身みむつかしむつかしむつかし」」」などさだめあはれけりなどさだめあはれけりなどさだめあわれけり。。。
- 7すべてすべてすべて男男おとこをばをばをば、、、女女おんなににに笑笑わらはれぬやうにおふしたつべしとぞはれぬやうにおふしたつべしとぞわれぬようにおうしたつべしとぞ。。。ののの前關白殿前關白殿さきのかんぱくどのはははをさなくてをさなくておさなくて、、、のよくのよくのよく敎敎おしへまゐらせさせへまゐらせさせえまいらせさせ給給たまひけるゆゑにひけるゆゑにいけるゆえに、、、御詞御詞おおんことばなどのよきぞとなどのよきぞとなどのよきぞと人人ひとののの仰仰おおせられけるとかやせられけるとかやせられけるとかや。。。
- 8はははあやしのあやしのあやしの下女下女げじょののの見見み奉奉たてまつるもるもるも、、、いといといとはははづかしくづかしくずかしく心遣心遣こころづかひせらるゝとこそひせらるゝとこそいせらるるとこそ仰仰おおせられけれせられけれせられけれ。。。女女おんなのなきのなきのなき世世よなりせばなりせばなりせば、、、衣紋衣紋えもんももも冠冠こうぶりもいかにもあれもいかにもあれもいかにもあれ、、、ひきつくろふひきつくろふひきつくろう人人ひとももも侍侍はべらじらじらじ。。。
- 9かくかくかく人人ひとにににはははぢらるゝぢらるゝじらるる女女おんな、、、いかばかりいみじきものぞといかばかりいみじきものぞといかばかりいみじきものぞと思思おもふにふにうに女女おんなののの性性しょうはははみなひがめりみなひがめりみないがめり。。。ののの相相しょうふかくふかくふかく、、、貪欲貪欲とんよくはははなななはははだしくだしくだしく、、、物物ものののの理理ことわりををを知知しらずらずらず、、、たゞまよひのたゞまよひのただまよいの方方かたににに心心こころもももはやはやはやくうつりくうつりくうつり、、、詞詞ことばもたくみにもたくみにもたくみに、、、苦苦くるしからぬしからぬしからぬ事事ことをもをもをも問問とふときふときうときはははいはずいはずいわず。。。
- 10用意用意よういあるかとあるかとあるかと見見みればればれば、、、又又またあさましきあさましきあさましき事事ことまでとはずまでとはずまでとわず語語かたりにいひりにいひりにいい出出いだすすす。。。深深ふかくたばかりかざれることくたばかりかざれることくたばかりかざれることははは男男おとこののの智惠智惠ちえにもまさりたるかとにもまさりたるかとにもまさりたるかと思思おもへばへばえば、、、そのそのその事事ことあとよりあとよりあとより顯顯あらはははるゝるゝるるををを知知しらずらずらず、、、すなほならずしてすなほならずしてすなおならずして拙拙つたなきものきものきものははは女女おんななりなりなり。。。
- 11そのそのその心心こころにしたがひてよくにしたがひてよくにしたがいてよく思思おもはれむことはれむことわれむことははは、、、心心こころうかるべしうかるべしうかるべし。。。さればさればされば何何なにかかかははは女女おんなのののはははづかしからむづかしからむずかしからむ。。。もしもしもし賢女賢女けんじょあらばあらばあらば、、、それもそれもそれも物物ものうとくすさまじかりなむうとくすさまじかりなむうとくすさまじかりなむ。。。
- 12たゞたゞただ迷迷まよいをををあるじとしてあるじとしてあるじとして、、、かれにしたがふときかれにしたがふときかれにしたがうとき、、、やさしくもおもしろくもやさしくもおもしろくもやさしくもおもしろくも覺覺おぼゆべきことなりゆべきことなりゆべきことなり。。。
- 13をををしむしむしむ人人ひとなしなしなし。。。これよくこれよくこれよく知知しれるかれるかれるか、、、おろかなるかおろかなるかおろかなるか。。。愚愚おろかにしてにしてにして怠怠おこたるるる人人ひとのためにいはゞのためにいはゞのためにいわば、、、一錢一錢いっせんかろしといへどもかろしといへどもかろしといえども、、、これこれこれをををかさぬればかさぬればかさぬれば貧貧まずしきしきしき人人ひとををを富富とめるめるめる人人ひととなすとなすとなす。。。
- 14さればさればされば商人商人あきびとののの一錢一錢いっせんををををををしむしむしむ心切心切こころせつなりなりなり。。。刹刹せつ那那なおぼえずといへどもおぼえずといへどもおぼえずといえども、、、これこれこれををを運運はこびてやまざればびてやまざればびてやまざれば、、、命命いのちををを終終おふるふるふる期忽期忽ごたちまちにいたるにいたるにいたる。。。さればさればされば道人道人どうにんははは、、、遠遠とおくくく日月日月じつげつををを惜惜おしむべからずむべからずむべからず。。。
- 15唯今唯今ただいまののの一念空一念空いちねんむなしくすぐることしくすぐることしくすぐることををを惜惜おしむべしむべしむべし。。。もしもしもし人人ひときたりてきたりてきたりて、、、「「「我我わががが命明日命明日いのちあすははは必必かならずずず失失うしなはるべしはるべしわるべし」」」ととと吿吿つげげげ知知しらせたらむにらせたらむにらせたらむに、、、今日今日きょうののの暮暮くるゝるゝるる間間ま、、、何事何事なにごとをををかたのみかたのみかたのみ何事何事なにごとをををかいとなまむかいとなまむかいとなまむ。。。
- 16我等我等われらがいけるがいけるがいけるけふけふきょうののの日日ひ、、、なんぞそのなんぞそのなんぞその時節時節じせつにことならむにことならむにことならむ。。。一日一日いちにちのののうちにうちにうちに飮食飮食おんじき、、、便利便利べんり、、、睡眠睡眠すいめん、、、言語言語ごんご、、、行步行步ぎょうぶ、、、止止やむことむことむことををを得得えずしてずしてずして多多おおくのときくのときくのときををを失失うしなふふう。。。
- 17そのあまりのいとまそのあまりのいとまそのあまりのいとま、、、いくばくならぬうちにいくばくならぬうちにいくばくならぬうちに無益無益むやくののの事事ことをををなしなしなし、、、無益無益むやくのことのことのことをををいひいひいい、、、無益無益むやくのことのことのことををを思惟思惟しゆいしてしてして、、、時時ときをををうつすのみならずうつすのみならずうつすのみならず、、、日日ひををを消消けししし月月つきをををわたりてわたりてわたりて、、、一生一生いっしょうをををおくるおくるおくる尤愚尤愚もっともおろかなりなりなり。。。
- 18ははは法華法華ほけののの筆受筆受ひつじゅなりしかどもなりしかどもなりしかども、、、心常心常こころつねににに風雲風雲ふううんのおもひのおもひのおもいををを觀觀かんぜしかばぜしかばぜしかば、、、白蓮白蓮びゃくれんのまじはりのまじはりのまじわりをををゆるさゞりきゆるさゞりきゆるさざりき。。。しばらくもこれなきしばらくもこれなきしばらくもこれなき時時ときははは、、、死人死人しにんにおなじにおなじにおなじ。。。
- 19光陰何光陰何こういんなにのためにのためにのために惜惜おしむとならばむとならばむとならば、、、內內うちににに思慮思慮しりょなくなくなく、、、外外ほかににに世事世事せじなくしてなくしてなくして、、、止止やまむまむまむ人人ひとはやはやはやめめめ、、、修修しゅせむせむせむ人人ひとははは修修しゅせよとなりせよとなりせよとなり。。。
現代語訳
〔第105段〕北側の家の陰に消え残った雪が、ひどく凍りついているところに寄せてある牛車の轅にも、霜がたいそうきらめいて、有明の月がさやかに照っているけれども、かげりなくというわけでもないころ、人けのない御堂の廊下に、並々ではないと見える男が、女と長押に腰かけて語り合っている様子は、何の話なのだろうか、尽きそうにもない。頭の形や顔立ちなども、たいそう美しいと見えて、何ともいえない香りがさっと漂ってくるのは、趣がある。話す様子などが、とぎれとぎれに聞こえてくるのも、心ひかれる。
〔第106段〕高野山の証空上人が京へのぼったとき、細い道で、馬に乗った女と行き会ったが、馬の口を引いていた男がまずく引いて、上人の馬を堀に落としてしまった。上人はたいそう腹を立てとがめて、「これはとんでもない無礼だ。仏の四部の弟子はな、比丘よりは比丘尼が劣り、比丘尼より優婆塞が劣り、優婆塞より優婆夷が劣っているのだ。このような優婆夷などの身で、比丘を堀に蹴落とさせるとは、前代未聞の悪行だ」と言われたので、口取りの男は、「何をおっしゃっているのやら、さっぱりわかりません」と言うので、上人はますます息まいて、「何を言うか、修行もせず学問もない男め」と荒々しく言って、この上ない暴言を吐いてしまったと思った様子で、馬を引き返して逃げて行かれた。尊いけんかであったにちがいない。
〔第107段〕女が言葉をかけたときの返事を、とっさにほどよくできる男はめったにいないものだといって、亀山院の御時、いたずら好きな女房たちが、若い男たちが参上するたびに、「ほととぎすはお聞きになりましたか」と尋ねて試しなさったところ、何とかいう大納言は、「数ならぬ身には、聞くことができません」と答えられた。堀川内大臣殿は「岩倉で聞いたように思います」とおっしゃったのを、「これは無難だ。『数ならぬ身』は感心しない」などと、評定し合われた。
およそ男は、女に笑われないように育てるべきだということだ。浄土寺の前関白殿は、幼いころ、安喜門院がよくお教え申しあげなさったので、お言葉などが立派なのだと、ある方がおっしゃったとかいう。山階左大臣殿は、「身分の低い下女が見申しあげるのでも、たいそう気恥ずかしく、気をつかってしまう」とおっしゃった。女のいない世であったら、衣紋も冠もどうであろうと、身なりを整える人もいないだろう。
このように男に気をつかわせる女は、どれほどすばらしいものかと思うと、女の性質はみなねじけている。我執が深く、欲が強く、物の道理を知らず、ただ迷いの方に心がすぐ移り、言葉もたくみで、差しつかえのないことでも、尋ねると言わない。用心深いのかと見れば、またあきれたことまで、問われもしないのに話しだす。深くたくらんで取りつくろうことは、男の知恵にもまさっているかと思えば、そのことが後から露見するのを知らない。すなおでなく、つたないものは女である。その心に従って、よく思われようとするのは、情けないことだろう。だから、どうして女に気後れすることがあろうか。もし賢い女がいたら、それもまた親しみにくく、興ざめなことだろう。ただ迷いに身をまかせて女に従うときだけ、優しくも、おもしろくも感じられるものである。
〔第108段〕わずかな時間を惜しむ人はいない。これはよく知っているからか、愚かだからか。愚かで怠る人のために言うならば、一銭は軽いけれど、これを積み重ねれば、貧しい人を富んだ人にする。だから商人が一銭を惜しむ心は切実である。一瞬一瞬は意識されないけれど、これを運び続けてやまなければ、命の終わる時はたちまちやって来る。だから仏道を修める人は、遠い先の年月を惜しんではならない。ただ今の一瞬が、むなしく過ぎることを惜しむべきである。もし人がやって来て、「あなたの命は明日必ず失われるだろう」と告げ知らせたなら、今日が暮れるまでの間、何を頼みにし、何をしようとするだろうか。私たちが生きている今日という日も、どうしてその最後の日と違うだろうか。
一日のうちに、飲食、便利(排泄)、睡眠、言語、歩行と、やむをえないことで多くの時間を失う。その残りの時間はいくらもないのに、その間に無益なことをし、無益なことを言い、無益なことを考えて、時を過ごすだけでなく、日を費やし、月を重ねて、一生を送るのは、もっとも愚かなことである。謝霊運は法華経の翻訳の筆録者であったけれども、心にいつも風雲の思い(俗世の野心)を抱いていたので、慧遠は白蓮社の交わりを許さなかった。しばらくでもこれ(時を惜しむ心)がない時は、死人と同じである。時間を何のために惜しむのかといえば、内には思い煩いがなく、外には世の雑事がなくして、やめようとする人はやめ、修行しようとする人は修行せよ、ということである。
意訳
〔第105段〕凍った雪、霜にきらめく轅、雲間の有明の月、人けのない御堂の廊で語り合う男女と、ふと漂う香り。冬の夜明け前の情景を、絵のように描く。
〔第106段〕馬を堀に落とされた証空上人が、身分の序列を持ち出して怒鳴ったものの、口取りの男には通じない。思わず「修行も学問もない男め」と罵倒してしまい、自分の暴言にうろたえて逃げ去る。「たふとかりけるいさかひなるべし」という結びは、皮肉とも、上人の人のよさへの共感とも読める。
〔第107段〕女房たちに「ほととぎすは聞きましたか」と試された若い貴族たち。男は女の目を意識して身を整えるものだが、兼好はここで一転して、女の性質の欠点を辛辣に並べ立てる。そして最後に、迷いに身をまかせてこそ女は魅力的に見えるのだと結ぶ。極端な女性批判と、恋の情趣への理解とが同居する、複雑な段である。
〔第108段〕一銭も積もれば富となるように、一瞬も積もれば一生となる。明日死ぬと言われたら今日をどう過ごすか、今日もまたその日と同じではないか。食事や睡眠に使う時間の残りを、無益なことに費やしてはならない――時間の尊さを、商人の一銭のたとえで説く名高い段である。
語釈・文法注
- ながえ
- 轅。牛車の前に長く突き出た二本の棒。
- なげし
- 長押。柱と柱の間に横に渡した材。
- かぶし
- 頭の形。頭つき。
- 證空上人
- 高野山の僧。伝未詳。
- 四部の弟子
- 仏教の四種の信者。比丘(男の出家者)・比丘尼(女の出家者)・優婆塞(男の在家信者)・優婆夷(女の在家信者)。
- 非修非學
- 修行もせず、学問もしないこと。
- 龜山院
- 亀山天皇(1249〜1305)。
- 時鳥
- ほととぎす。初音を聞くことが風流とされた。
- 堀川內大臣殿
- 源(堀川)具守(1249〜1316)。
- 淨土寺の前關白殿
- 九条師教(1273〜1320)。
- 安喜門院
- 後堀河天皇の皇后、藤原有子(1207〜1286)。
- 山階左大臣殿
- 洞院実雄(1217〜1273)。
- 人我の相
- 自分と他人を区別し、自分に執着する心。
- 寸陰
- わずかな時間。
- 中国、南朝宋の詩人(385〜433)。
- 惠遠
- 慧遠。中国、東晋の僧(334〜416)。廬山で念仏結社の白蓮社を開いた。
文法
- つきすまじけれ
- 「まじけれ」は打消推量「まじ」の已然形で、「こそ」の結び。尽きそうにもない。
- こはけうの狼藉かな
- 「けう」は「希有」で、めったにない、とんでもない。
- えこそ聞き知らね
- 「え…ず」は不可能。「こそ…ね」の係り結び。
- 女のなき世なりせば
- 「せば…まし」の反実仮想。ここでは結びが「侍らじ」となっている。
- 何かは女のはづかしからむ
- 「何かは…む」は反語。どうして女に気後れすることがあろうか。
解説
第105段は、季節・時刻・光・香りを重ねた美しい描写で、第43段・第44段・第104段とともに、兼好の物語的な筆致がよく表れた段である。
第106段の証空上人は、仏典の知識をふりかざして怒るが、相手にはまったく通じず、最後は自分の暴言にうろたえる。兼好はこれを「たふとかりけるいさかひ」と評している。腹を立てながらも、すぐに悔いて逃げ出すところに上人の純朴さを見たのであろう。
第107段の後半の女性論は、『徒然草』の中でもとりわけ辛辣で、仏教の女性観の影響が指摘される。ただし兼好は第3段で恋の情趣を重んじ、第8段・第9段では女性の魅力の強さも語っている。この段も最後には、迷いに身をまかせてこそ女は「やさしくもおもしろくも」見えるとして、恋そのものは否定していない。
第108段は、時間の尊さを説いた段として名高い。冒頭の「寸陰惜しむ人なし」は、中国の古典の言葉をふまえている。商人の一銭のたとえ、明日死ぬと告げられたらというたとえ、一日の時間の使い方の分析と、具体的な例を重ねて、ただ今の一瞬を惜しめと説く。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(徒然草) 板倉屋書房、明治36年(1903)、804〜806頁(コマ416–417)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日