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徒然草 第18章(第105段〜第108段)

女の性と寸陰を惜しむこと

有明の月の下、人けのない御堂の廊で語り合う男女の情景、馬を堀に落とされて仏弟子の序列をまくし立てた証空上人、女に笑われない男の心得と女の性質をめぐる長い論、そして一瞬の時間を惜しんで道に励めと説く「寸陰惜しむ人なし」の段を収める。

有明の月の下、御堂の廊で語り合う男女
第105段、有明の月が照らす御堂の廊。消え残る雪と霜の中、男女が並んで腰をかけ、尽きることのない話を静かに交わしている。
  1. 1北きた北きたきたのやかげにのやかげにのやかげに消き消ききえのこりたるえのこりたるえのこりたる雪ゆき雪ゆきゆきののの、、、いたうこほりたるにさしいたうこほりたるにさしいとうこおりたるにさし寄よ寄よよせたるせたるせたる車くるま車くるまくるま、、、霜しも霜しもしもいたくきらめきていたくきらめきていたくきらめきて、、、有明ありあけ有明ありあけありあけののの月つき月つきつきさやかなれどもくまなくさやかなれどもくまなくさやかなれどもくまなくはははあらぬにあらぬにあらぬに、、、人ひと人ひとひとばなれなるばなれなるばなれなる御堂みだう御堂みだうみどうののの廊らう廊らうろうににに、、、なみなみになみなみになみなみにはははあらずとあらずとあらずと見み見みみゆるゆるゆる男をとこ男をとこおとこ、、、女をんな女をんなおんな、、、物もの物ものものがたりするさまこそがたりするさまこそがたりするさまこそ何事なにごと何事なにごとなにごとにかあらむつきすまじけれにかあらむつきすまじけれにかあらむつきすまじけれ。。。
  2. 2見み見みみえてえてえて、、、えもいはれぬにほひのさとかえもいはれぬにほひのさとかえもいわれぬにおいのさとかをををりたるこそりたるこそりたるこそをををかしけれかしけれかしけれ。。。けはひなどけはひなどけわいなどはははづれづれずれはははづれづれずれ聞きこ聞きこきこえたるもゆかしえたるもゆかしえたるもゆかし。。。
  3. 3高野かうや高野かうやこうやののの上人しやうにん上人しやうにんしょうにん、、、京都きやうと京都きやうときょうとへへへのぼりけるにのぼりけるにのぼりけるに、、、ほそほそほそ道みち道みちみちにてにてにてうまにうまにうまに乘の乘ののりたるりたるりたる女をんな女をんなおんなののの行ゆ行ゆゆきあひたりけるがきあひたりけるがきあいたりけるが、、、口くち口くちくちひきけるひきけるひきける男をとこ男をとこおとこあしくひきてあしくひきてあしくいきて、、、ひじりのひじりのひじりの馬むま馬むまうまををを堀ほり堀ほりほりへへへおとしてけりおとしてけりおとしてけり。。。
  4. 4ひじりいとひじりいとひじりいと腹はら腹はらはらあしくあしくあしく咎とが咎とがとがめてめてめて、、、「「「こここはははけうのけうのきょうの狼藉らうぜき狼藉らうぜきろうぜきかなかなかな。。。ののの弟子でし弟子でしでしはははよなよなよな、、、比丘びく比丘びくびくよりよりよりははは比丘尼びくに比丘尼びくにびくにはははおとりおとりおとり、、、比丘尼びくに比丘尼びくにびくによりよりより優婆塞うばそく優婆塞うばそくうばそくはははおとりおとりおとり、、、優婆塞うばそく優婆塞うばそくうばそくよりよりより優婆夷うばい優婆夷うばいうばいはははおとれりおとれりおとれり。。。かくうばいなどのかくうばいなどのかくうばいなどの身み身みみにてにてにて、、、比丘びく比丘びくびくををを堀ほり堀ほりほりににに蹴け蹴けけ入い入いいれさするれさするれさする、、、未曾有みぞう未曾有みぞうみぞうののの惡行あくぎやう惡行あくぎやうあくぎょうなりなりなり」」」といはれければといはれければといわれければ、、、口引くちひき口引くちひきくちいきののの男をとこ男をとこおとこ、、、「「「いかにいかにいかに仰おほ仰おほおおせらるゝやらむせらるゝやらむせらるるやらむ、、、えこそえこそえこそ聞き聞ききききき知し知ししらねらねらね」」」といふにといふにというに、、、上人しやうにん上人しやうにんしょうにんなほいきまきてなほいきまきてなおいきまきて、、、「「「何なに何なになにといふぞといふぞというぞ。。。ののの男をとこ男をとこおとこ」」」とあらゝかにいひてとあらゝかにいひてとあららかにいいて、、、きききはははまりなきまりなきまりなき放言はうごん放言はうごんほうごんしつとしつとしつと思おも思おもおもひけるけしきにてひけるけしきにていけるけしきにて、、、馬むま馬むまうまひきかへしてにげられけりひきかへしてにげられけりひきかえしてにげられけり。。。たふとたふととうとかりけるいさかひなるべしかりけるいさかひなるべしかりけるいさかいなるべし。。。
  5. 5女をんな女をんなおんなのものいひかけたるのものいひかけたるのものいいかけたる返かへ返かへかえりりり事こと事ことこと、、、とりあへずよきとりあへずよきとりあえずよき程ほど程ほどほどにするにするにする男をとこ男をとこおとこはははありがたきものぞとてありがたきものぞとてありがたきものぞとて、、、ののの御時おほんとき御時おほんときおおんとき、、、しれたるしれたるしれたる女房にようばう女房にようばうにょうぼうどもどもども若わか若わかわかききき男をとこ男をとこおとこだちのだちのだちの參まゐ參まゐまいらるゝごとにらるゝごとにらるるごとに、、、「「「ややや聞き聞ききききき給たま給たまたまへるへるえる」」」とてとてとて問と問ととひてひていて試こころ試こころこころみられけるにみられけるにみられけるに、、、なにがしのなにがしのなにがしの大納言だいなごん大納言だいなごんだいなごんとかやとかやとかやははは、、、「「「數かず數かずかずならぬならぬならぬ身み身みみはははえええ聞き聞ききききき候さふら候さふらそうらはずはずわず」」」ととと答こた答こたこたへられけりへられけりえられけり。。。
  6. 6ははは「「「岩倉いはくら岩倉いはくらいわくらにてにてにて聞き聞きききてきてきて候さふら候さふらそうらひしやらむひしやらむいしやらむ」」」ととと仰おほ仰おほおおせられたりけるせられたりけるせられたりけるををを、、、「「「これこれこれははは難なん難なんなんなしなしなし。。。數かず數かずかずならぬならぬならぬ身み身みみむつかしむつかしむつかし」」」などさだめあはれけりなどさだめあはれけりなどさだめあわれけり。。。
  7. 7すべてすべてすべて男をとこ男をとこおとこをばをばをば、、、女をんな女をんなおんなににに笑わら笑わらわらはれぬやうにおふしたつべしとぞはれぬやうにおふしたつべしとぞわれぬようにおうしたつべしとぞ。。。ののの前關白殿さきのくわんぱくどの前關白殿さきのくわんぱくどのさきのかんぱくどのはははをさなくてをさなくておさなくて、、、のよくのよくのよく敎をし敎をしおしへまゐらせさせへまゐらせさせえまいらせさせ給たま給たまたまひけるゆゑにひけるゆゑにいけるゆえに、、、御詞おほんことば御詞おほんことばおおんことばなどのよきぞとなどのよきぞとなどのよきぞと人ひと人ひとひとののの仰おほ仰おほおおせられけるとかやせられけるとかやせられけるとかや。。。
  8. 8はははあやしのあやしのあやしの下女げぢよ下女げぢよげじょののの見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつるもるもるも、、、いといといとはははづかしくづかしくずかしく心遣こころづか心遣こころづかこころづかひせらるゝとこそひせらるゝとこそいせらるるとこそ仰おほ仰おほおおせられけれせられけれせられけれ。。。女をんな女をんなおんなのなきのなきのなき世よ世よよなりせばなりせばなりせば、、、衣紋えもん衣紋えもんえもんももも冠かうぶり冠かうぶりこうぶりもいかにもあれもいかにもあれもいかにもあれ、、、ひきつくろふひきつくろふひきつくろう人ひと人ひとひとももも侍はべ侍はべはべらじらじらじ。。。
  9. 9かくかくかく人ひと人ひとひとにににはははぢらるゝぢらるゝじらるる女をんな女をんなおんな、、、いかばかりいみじきものぞといかばかりいみじきものぞといかばかりいみじきものぞと思おも思おもおもふにふにうに女をんな女をんなおんなののの性しやう性しやうしょうはははみなひがめりみなひがめりみないがめり。。。ののの相しやう相しやうしょうふかくふかくふかく、、、貪欲とんよく貪欲とんよくとんよくはははなななはははだしくだしくだしく、、、物もの物ものものののの理ことわり理ことわりことわりををを知し知ししらずらずらず、、、たゞまよひのたゞまよひのただまよいの方かた方かたかたににに心こころ心こころこころもももはやはやはやくうつりくうつりくうつり、、、詞ことば詞ことばことばもたくみにもたくみにもたくみに、、、苦くる苦くるくるしからぬしからぬしからぬ事こと事ことことをもをもをも問と問ととふときふときうときはははいはずいはずいわず。。。
  10. 10用意ようい用意よういよういあるかとあるかとあるかと見み見みみればればれば、、、又また又またまたあさましきあさましきあさましき事こと事ことことまでとはずまでとはずまでとわず語かた語かたかたりにいひりにいひりにいい出いだ出いだいだすすす。。。深ふか深ふかふかくたばかりかざれることくたばかりかざれることくたばかりかざれることははは男をとこ男をとこおとこののの智惠ちゑ智惠ちゑちえにもまさりたるかとにもまさりたるかとにもまさりたるかと思おも思おもおもへばへばえば、、、そのそのその事こと事ことことあとよりあとよりあとより顯あら顯あらあらはははるゝるゝるるををを知し知ししらずらずらず、、、すなほならずしてすなほならずしてすなおならずして拙つたな拙つたなつたなきものきものきものははは女をんな女をんなおんななりなりなり。。。
  11. 11そのそのその心こころ心こころこころにしたがひてよくにしたがひてよくにしたがいてよく思おも思おもおもはれむことはれむことわれむことははは、、、心こころ心こころこころうかるべしうかるべしうかるべし。。。さればさればされば何なに何なになにかかかははは女をんな女をんなおんなのののはははづかしからむづかしからむずかしからむ。。。もしもしもし賢女けんぢよ賢女けんぢよけんじょあらばあらばあらば、、、それもそれもそれも物もの物ものものうとくすさまじかりなむうとくすさまじかりなむうとくすさまじかりなむ。。。
  12. 12たゞたゞただ迷まよひ迷まよひまよいをををあるじとしてあるじとしてあるじとして、、、かれにしたがふときかれにしたがふときかれにしたがうとき、、、やさしくもおもしろくもやさしくもおもしろくもやさしくもおもしろくも覺おぼ覺おぼおぼゆべきことなりゆべきことなりゆべきことなり。。。
  13. 13をををしむしむしむ人ひと人ひとひとなしなしなし。。。これよくこれよくこれよく知し知ししれるかれるかれるか、、、おろかなるかおろかなるかおろかなるか。。。愚おろか愚おろかおろかにしてにしてにして怠おこた怠おこたおこたるるる人ひと人ひとひとのためにいはゞのためにいはゞのためにいわば、、、一錢いつせん一錢いつせんいっせんかろしといへどもかろしといへどもかろしといえども、、、これこれこれをををかさぬればかさぬればかさぬれば貧まづ貧まづまずしきしきしき人ひと人ひとひとををを富と富ととめるめるめる人ひと人ひとひととなすとなすとなす。。。
  14. 14さればさればされば商人あきびと商人あきびとあきびとののの一錢いつせん一錢いつせんいっせんををををををしむしむしむ心切こころせつ心切こころせつこころせつなりなりなり。。。刹せつ刹せつせつ那な那ななおぼえずといへどもおぼえずといへどもおぼえずといえども、、、これこれこれををを運はこ運はこはこびてやまざればびてやまざればびてやまざれば、、、命いのち命いのちいのちををを終を終をおふるふるふる期忽ごたちまち期忽ごたちまちごたちまちにいたるにいたるにいたる。。。さればさればされば道人だうにん道人だうにんどうにんははは、、、遠とほ遠とほとおくくく日月じつげつ日月じつげつじつげつををを惜をし惜をしおしむべからずむべからずむべからず。。。
  15. 15唯今ただいま唯今ただいまただいまののの一念空いちねんむな一念空いちねんむないちねんむなしくすぐることしくすぐることしくすぐることををを惜をし惜をしおしむべしむべしむべし。。。もしもしもし人ひと人ひとひときたりてきたりてきたりて、、、「「「我わ我わわががが命明日いのちあす命明日いのちあすいのちあすははは必かなら必かならかならずずず失うしな失うしなうしなはるべしはるべしわるべし」」」ととと吿つ吿つつげげげ知し知ししらせたらむにらせたらむにらせたらむに、、、今日けふ今日けふきょうののの暮く暮くくるゝるゝるる間ま間まま、、、何事なにごと何事なにごとなにごとをををかたのみかたのみかたのみ何事なにごと何事なにごとなにごとをををかいとなまむかいとなまむかいとなまむ。。。
  16. 16我等われら我等われらわれらがいけるがいけるがいけるけふけふきょうののの日ひ日ひひ、、、なんぞそのなんぞそのなんぞその時節じせつ時節じせつじせつにことならむにことならむにことならむ。。。一日いちにち一日いちにちいちにちのののうちにうちにうちに飮食おんじき飮食おんじきおんじき、、、便利べんり便利べんりべんり、、、睡眠すいめん睡眠すいめんすいめん、、、言語ごんご言語ごんごごんご、、、行步ぎやうぶ行步ぎやうぶぎょうぶ、、、止や止ややむことむことむことををを得え得ええずしてずしてずして多おほ多おほおおくのときくのときくのときををを失うしな失うしなうしなふふう。。。
  17. 17そのあまりのいとまそのあまりのいとまそのあまりのいとま、、、いくばくならぬうちにいくばくならぬうちにいくばくならぬうちに無益むやく無益むやくむやくののの事こと事ことことをををなしなしなし、、、無益むやく無益むやくむやくのことのことのことをををいひいひいい、、、無益むやく無益むやくむやくのことのことのことををを思惟しゆゐ思惟しゆゐしゆいしてしてして、、、時とき時ときときをををうつすのみならずうつすのみならずうつすのみならず、、、日ひ日ひひををを消け消けけししし月つき月つきつきをををわたりてわたりてわたりて、、、一生いつしやう一生いつしやういっしょうをををおくるおくるおくる尤愚もつともおろか尤愚もつともおろかもっともおろかなりなりなり。。。
  18. 18ははは法華ほけ法華ほけほけののの筆受ひつじゆ筆受ひつじゆひつじゅなりしかどもなりしかどもなりしかども、、、心常こころつね心常こころつねこころつねににに風雲ふううん風雲ふううんふううんのおもひのおもひのおもいををを觀くわん觀くわんかんぜしかばぜしかばぜしかば、、、白蓮びやくれん白蓮びやくれんびゃくれんのまじはりのまじはりのまじわりをををゆるさゞりきゆるさゞりきゆるさざりき。。。しばらくもこれなきしばらくもこれなきしばらくもこれなき時とき時ときときははは、、、死人しにん死人しにんしにんにおなじにおなじにおなじ。。。
  19. 19光陰何くわういんなに光陰何くわういんなにこういんなにのためにのためにのために惜をし惜をしおしむとならばむとならばむとならば、、、內うち內うちうちににに思慮しりよ思慮しりよしりょなくなくなく、、、外ほか外ほかほかににに世事せじ世事せじせじなくしてなくしてなくして、、、止や止ややまむまむまむ人ひと人ひとひとはやはやはやめめめ、、、修しゆ修しゆしゅせむせむせむ人ひと人ひとひとははは修しゆ修しゆしゅせよとなりせよとなりせよとなり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔第105段〕北側の家の陰に消え残った雪が、ひどく凍りついているところに寄せてある牛車の轅にも、霜がたいそうきらめいて、有明の月がさやかに照っているけれども、かげりなくというわけでもないころ、人けのない御堂の廊下に、並々ではないと見える男が、女と長押に腰かけて語り合っている様子は、何の話なのだろうか、尽きそうにもない。頭の形や顔立ちなども、たいそう美しいと見えて、何ともいえない香りがさっと漂ってくるのは、趣がある。話す様子などが、とぎれとぎれに聞こえてくるのも、心ひかれる。

〔第106段〕高野山の証空上人が京へのぼったとき、細い道で、馬に乗った女と行き会ったが、馬の口を引いていた男がまずく引いて、上人の馬を堀に落としてしまった。上人はたいそう腹を立てとがめて、「これはとんでもない無礼だ。仏の四部の弟子はな、比丘よりは比丘尼が劣り、比丘尼より優婆塞が劣り、優婆塞より優婆夷が劣っているのだ。このような優婆夷などの身で、比丘を堀に蹴落とさせるとは、前代未聞の悪行だ」と言われたので、口取りの男は、「何をおっしゃっているのやら、さっぱりわかりません」と言うので、上人はますます息まいて、「何を言うか、修行もせず学問もない男め」と荒々しく言って、この上ない暴言を吐いてしまったと思った様子で、馬を引き返して逃げて行かれた。尊いけんかであったにちがいない。

〔第107段〕女が言葉をかけたときの返事を、とっさにほどよくできる男はめったにいないものだといって、亀山院の御時、いたずら好きな女房たちが、若い男たちが参上するたびに、「ほととぎすはお聞きになりましたか」と尋ねて試しなさったところ、何とかいう大納言は、「数ならぬ身には、聞くことができません」と答えられた。堀川内大臣殿は「岩倉で聞いたように思います」とおっしゃったのを、「これは無難だ。『数ならぬ身』は感心しない」などと、評定し合われた。

およそ男は、女に笑われないように育てるべきだということだ。浄土寺の前関白殿は、幼いころ、安喜門院がよくお教え申しあげなさったので、お言葉などが立派なのだと、ある方がおっしゃったとかいう。山階左大臣殿は、「身分の低い下女が見申しあげるのでも、たいそう気恥ずかしく、気をつかってしまう」とおっしゃった。女のいない世であったら、衣紋も冠もどうであろうと、身なりを整える人もいないだろう。

このように男に気をつかわせる女は、どれほどすばらしいものかと思うと、女の性質はみなねじけている。我執が深く、欲が強く、物の道理を知らず、ただ迷いの方に心がすぐ移り、言葉もたくみで、差しつかえのないことでも、尋ねると言わない。用心深いのかと見れば、またあきれたことまで、問われもしないのに話しだす。深くたくらんで取りつくろうことは、男の知恵にもまさっているかと思えば、そのことが後から露見するのを知らない。すなおでなく、つたないものは女である。その心に従って、よく思われようとするのは、情けないことだろう。だから、どうして女に気後れすることがあろうか。もし賢い女がいたら、それもまた親しみにくく、興ざめなことだろう。ただ迷いに身をまかせて女に従うときだけ、優しくも、おもしろくも感じられるものである。

〔第108段〕わずかな時間を惜しむ人はいない。これはよく知っているからか、愚かだからか。愚かで怠る人のために言うならば、一銭は軽いけれど、これを積み重ねれば、貧しい人を富んだ人にする。だから商人が一銭を惜しむ心は切実である。一瞬一瞬は意識されないけれど、これを運び続けてやまなければ、命の終わる時はたちまちやって来る。だから仏道を修める人は、遠い先の年月を惜しんではならない。ただ今の一瞬が、むなしく過ぎることを惜しむべきである。もし人がやって来て、「あなたの命は明日必ず失われるだろう」と告げ知らせたなら、今日が暮れるまでの間、何を頼みにし、何をしようとするだろうか。私たちが生きている今日という日も、どうしてその最後の日と違うだろうか。

一日のうちに、飲食、便利(排泄)、睡眠、言語、歩行と、やむをえないことで多くの時間を失う。その残りの時間はいくらもないのに、その間に無益なことをし、無益なことを言い、無益なことを考えて、時を過ごすだけでなく、日を費やし、月を重ねて、一生を送るのは、もっとも愚かなことである。謝霊運は法華経の翻訳の筆録者であったけれども、心にいつも風雲の思い(俗世の野心)を抱いていたので、慧遠は白蓮社の交わりを許さなかった。しばらくでもこれ(時を惜しむ心)がない時は、死人と同じである。時間を何のために惜しむのかといえば、内には思い煩いがなく、外には世の雑事がなくして、やめようとする人はやめ、修行しようとする人は修行せよ、ということである。

意訳

〔第105段〕凍った雪、霜にきらめく轅、雲間の有明の月、人けのない御堂の廊で語り合う男女と、ふと漂う香り。冬の夜明け前の情景を、絵のように描く。

〔第106段〕馬を堀に落とされた証空上人が、身分の序列を持ち出して怒鳴ったものの、口取りの男には通じない。思わず「修行も学問もない男め」と罵倒してしまい、自分の暴言にうろたえて逃げ去る。「たふとかりけるいさかひなるべし」という結びは、皮肉とも、上人の人のよさへの共感とも読める。

〔第107段〕女房たちに「ほととぎすは聞きましたか」と試された若い貴族たち。男は女の目を意識して身を整えるものだが、兼好はここで一転して、女の性質の欠点を辛辣に並べ立てる。そして最後に、迷いに身をまかせてこそ女は魅力的に見えるのだと結ぶ。極端な女性批判と、恋の情趣への理解とが同居する、複雑な段である。

〔第108段〕一銭も積もれば富となるように、一瞬も積もれば一生となる。明日死ぬと言われたら今日をどう過ごすか、今日もまたその日と同じではないか。食事や睡眠に使う時間の残りを、無益なことに費やしてはならない――時間の尊さを、商人の一銭のたとえで説く名高い段である。

語釈・文法注

ながえ
轅。牛車の前に長く突き出た二本の棒。
なげし
長押。柱と柱の間に横に渡した材。
かぶし
頭の形。頭つき。
證空上人
高野山の僧。伝未詳。
四部の弟子
仏教の四種の信者。比丘(男の出家者)・比丘尼(女の出家者)・優婆塞(男の在家信者)・優婆夷(女の在家信者)。
非修非學
修行もせず、学問もしないこと。
龜山院
亀山天皇(1249〜1305)。
時鳥
ほととぎす。初音を聞くことが風流とされた。
堀川內大臣殿
源(堀川)具守(1249〜1316)。
淨土寺の前關白殿
九条師教(1273〜1320)。
安喜門院
後堀河天皇の皇后、藤原有子(1207〜1286)。
山階左大臣殿
洞院実雄(1217〜1273)。
人我の相
自分と他人を区別し、自分に執着する心。
寸陰
わずかな時間。
謝靈運
中国、南朝宋の詩人(385〜433)。
惠遠
慧遠。中国、東晋の僧(334〜416)。廬山で念仏結社の白蓮社を開いた。

文法

つきすまじけれ
「まじけれ」は打消推量「まじ」の已然形で、「こそ」の結び。尽きそうにもない。
こはけうの狼藉かな
「けう」は「希有」で、めったにない、とんでもない。
えこそ聞き知らね
「え…ず」は不可能。「こそ…ね」の係り結び。
女のなき世なりせば
「せば…まし」の反実仮想。ここでは結びが「侍らじ」となっている。
何かは女のはづかしからむ
「何かは…む」は反語。どうして女に気後れすることがあろうか。

解説

第105段は、季節・時刻・光・香りを重ねた美しい描写で、第43段・第44段・第104段とともに、兼好の物語的な筆致がよく表れた段である。

第106段の証空上人は、仏典の知識をふりかざして怒るが、相手にはまったく通じず、最後は自分の暴言にうろたえる。兼好はこれを「たふとかりけるいさかひ」と評している。腹を立てながらも、すぐに悔いて逃げ出すところに上人の純朴さを見たのであろう。

第107段の後半の女性論は、『徒然草』の中でもとりわけ辛辣で、仏教の女性観の影響が指摘される。ただし兼好は第3段で恋の情趣を重んじ、第8段・第9段では女性の魅力の強さも語っている。この段も最後には、迷いに身をまかせてこそ女は「やさしくもおもしろくも」見えるとして、恋そのものは否定していない。

第108段は、時間の尊さを説いた段として名高い。冒頭の「寸陰惜しむ人なし」は、中国の古典の言葉をふまえている。商人の一銭のたとえ、明日死ぬと告げられたらというたとえ、一日の時間の使い方の分析と、具体的な例を重ねて、ただ今の一瞬を惜しめと説く。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(徒然草) 板倉屋書房、明治36年(1903)、804〜806頁(コマ416–417)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日