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徒然草 第6章(第30段〜第37段)

人のなきあとと九月二十日の月

人が亡くなった後に忘れ去られてゆくさまを描く第30段、雪の朝の手紙をとがめた人の思い出、九月二十日の月夜に見た女主人の奥ゆかしいふるまいなど、亡き人をしのぶ段が続き、内裏の造営、甲香、手紙や男女のこまやかな心づかいについての短い段を収める。

露の置く荒れた庭に面した妻戸を開き、明け方の月を眺める女性
第32段、九月二十日ごろの月夜。客を送り出した女性が妻戸をさらに開き、露の置く荒れた庭の向こうに月を眺めている。
  1. 1人ひと人ひとひとのなきあとばかりのなきあとばかりのなきあとばかり悲かな悲かなかなしきしきしきはははなしなしなし。。。のののほどほどほど、、、山里やまざと山里やまざとやまざとなどになどになどにうつろひてうつろひてうつろいて、、、便たより便たよりたよりあしくせばきあしくせばきあしくせばき所ところ所ところところにあまたあひにあまたあひにあまたあい居ゐ居ゐいててて、、、後のち後のちのちのわざどもいとなみあへるのわざどもいとなみあへるのわざどもいとなみあえる心こころ心こころこころあわたゞしあわたゞしあわただし。。。
  2. 2日ひ日ひひかずのかずのかずのはやはやはやくくく過す過すすぐるぐるぐるほどぞものにもほどぞものにもほどぞものにも似に似ににぬぬぬ。。。はてのはてのはての日ひ日ひひはははいとなさけなういとなさけなういとなさけのう互たがひ互たがひたがいにいふにいふにいう事こと事ことこともなくもなくもなく、、、我われ我われわれかしこげにものかしこげにものかしこげにものひきしたゝめひきしたゝめひきしたためちりぢりちりぢりちりぢりににに行ゆ行ゆゆきあがれぬきあがれぬきあがれぬ。。。
  3. 3もとのすみかにかへりてぞもとのすみかにかへりてぞもとのすみかにかえりてぞ更さら更さらさらににに悲かな悲かなかなしきことしきことしきことはははおおおほかるべきほかるべきほかるべき。。。「「「しかじかのしかじかのしかじかの事こと事ことことははは、、、。。。跡あと跡あとあとのためのためのため忌い忌いいむなることぞむなることぞむなることぞ」」」などいへるこそかばかりのなどいへるこそかばかりのなどいえるこそかばかりの中なか中なかなかににに何なに何なになにかかかはははととと人ひと人ひとひとののの心こころ心こころこころはははなほうたておぼゆれなほうたておぼゆれなおうたておぼゆれ。。。
  4. 4年月經としつきへ年月經としつきへとしつきへてもつゆてもつゆてもつゆ忘わす忘わすわするゝにるゝにるるにはははあらねどあらねどあらねど、、、ははは日々ひび日々ひびひびににに疎うと疎うとうとしといへることなればしといへることなればしといえることなれば、、、さささはははいへどいへどいえど、、、そのきはばかりそのきはばかりそのきわばかりははは覺おぼ覺おぼおぼえぬにやえぬにやえぬにや。。。よしなしごといひてよしなしごといひてよしなしごといいてうちもうちもうちも笑わら笑わらわらひぬひぬいぬ。。。
  5. 5はははけうときけうとききょうとき山やま山やまやまののの中なか中なかなかにをさめてさるべきにをさめてさるべきにおさめてさるべき日ひ日ひひばかりまうでつゝばかりまうでつゝばかりもうでつつ見み見みみればればれば、、、ほどなくほどなくほどなくももも苔こけ苔こけこけむしむしむし、、、木き木ききののの葉は葉ははふりふりふりうづみうづみうずみててて、、、夕ゆふべ夕ゆふべゆうべののの嵐あらし嵐あらしあらし、、、夜よ夜よよののの月つき月つきつきのみぞことゝふよすがなりけるのみぞことゝふよすがなりけるのみぞこととうよすがなりける。。。
  6. 6思おも思おもおもひひい出い出いいでゝでゝでて忍しの忍しのしのぶぶぶ人ひと人ひとひとあらむあらむあらむほどこそあらめほどこそあらめほどこそあらめ、、、そもまたそもまたそもまたほどなくうせてほどなくうせてほどなくうせて、、、聞き聞ききききき傳つた傳つたつたふるばかりのふるばかりのうるばかりの末々すゑずゑ末々すゑずゑすえずえはははあはれとやあはれとやあわれとやははは思おも思おもおもふふう。。。さるさるさるはははあととふわざもあととふわざもあととうわざも絕た絕たたえぬればえぬればえぬれば、、、いづれのいづれのいずれの人ひと人ひとひとととと名な名ななをををだにだにだに知し知ししらずらずらず。。。
  7. 7年々としどし年々としどしとしどしののの春はる春はるはるののの草くさ草くさくさのみぞのみぞのみぞ心こころ心こころこころあらむあらむあらむ人ひと人ひとひとはははあはれとあはれとあわれと見み見みみるべきるべきるべきををを、、、はてはてはてははは嵐あらし嵐あらしあらしにむせびしにむせびしにむせびし松まつ松まつまつももも、、、千ち千ちちとせとせとせををを待ま待ままたでたでたで薪たきゞ薪たきゞたきぎにくだかれにくだかれにくだかれ、、、ふるきふるきふるき墳つか墳つかつかはははすかれてすかれてすかれて田た田たたとなりぬとなりぬとなりぬ。。。そのかたゞになくなりぬるぞかなしきそのかたゞになくなりぬるぞかなしきそのかただになくなりぬるぞかなしき。。。
  8. 8雪ゆき雪ゆきゆきのおもしろうのおもしろうのおもしろうふりふりふりたりしあしたたりしあしたたりしあした、、、人ひと人ひとひとのがりいふべきのがりいふべきのがりいうべき事こと事ことことありてありてありて、、、文ふみ文ふみふみをやをやをやるとてるとてるとて、、、雪ゆき雪ゆきゆきのことのことのことははは何なに何なになにともいはざりしともいはざりしともいわざりし返かへ返かへかえりりり事こと事ことことににに、、、「「「このこのこの雪ゆき雪ゆきゆきいかゞいかゞいかが見み見みみるとるとると、、、一筆ひとふで一筆ひとふでひとふでのたまはせぬのたまはせぬのたまわせぬほどのほどのほどの、、、人ひと人ひとひとののの、、、仰おほ仰おほおおせらるゝせらるゝせらるる事聞ことき事聞こときこときききき入い入いいるべきかるべきかるべきかははは。。。かへすがへすかへすがへすかえすがえす口くち口くちくちをををしきしきしき御心みこころ御心みこころみこころなりなりなり」」」といひたりしこそといひたりしこそといいたりしこそをををかしかりしかかしかりしかかしかりしか。。。今いま今いまいまはははなきなきなき人ひと人ひとひとなればなればなれば、、、かばかりのかばかりのかばかりの事こと事ことことももも忘わす忘わすわすれがたしれがたしれがたし。。。
  9. 9九月二十日くぐわつはつか九月二十日くぐわつはつかくがつはつかのころのころのころ、、、あるあるある人ひと人ひとひとにさそはれにさそはれにさそわれ奉たてまつ奉たてまつたてまつりてりてりて、、、明あ明ああくるまでくるまでくるまで月見つきみ月見つきみつきみありくことありくことありくこと侍はべ侍はべはべりしにりしにりしに、、、おぼしいづるおぼしいづるおぼしいずる所ところ所ところところありてありてありて、、、入い入いいりたまひぬりたまひぬりたまいぬ。。。
  10. 10あれたるあれたるあれたる庭には庭にはにわののの露つゆ露つゆつゆしげきにしげきにしげきに、、、わざとならぬにほひしめやかにわざとならぬにほひしめやかにわざとならぬにおいしめやかにうちかうちかうちかをををりてりてりて、、、忍しの忍しのしのびたるけはひいとものあはれなりびたるけはひいとものあはれなりびたるけわいいとものあわれなり。。。よきよきよきほどにてほどにてほどにて出い出いいででで給たま給たまたまひぬれどひぬれどいぬれど、、、なほことざまなほことざまなおことざま優いう優いうゆうににに覺おぼ覺おぼおぼえてえてえて、、、物もの物ものもののかくれよりしばしのかくれよりしばしのかくれよりしばし見居みゐ見居みゐみいたるにたるにたるに、、、ををを今いま今いまいますこしおしあけてすこしおしあけてすこしおしあけて、、、月見つきみ月見つきみつきみるけしきなりるけしきなりるけしきなり。。。
  11. 11やがてかけこもらましかばやがてかけこもらましかばやがてかけこもらましかば口くち口くちくちをををしからまししからまししからまし。。。あとまであとまであとまで見み見みみるるる人ひと人ひとひとありとありとありとはははいかでいかでいかで知し知ししらむらむらむ。。。かやうのかやうのかようの事こと事ことことはははたゞたゞただ朝夕あさゆふ朝夕あさゆふあさゆうののの心こころ心こころこころづづづかひによるべしかひによるべしかいによるべし。。。そのそのその人程ひとほど人程ひとほどひとほどなくうせにけりときゝなくうせにけりときゝなくうせにけりときき侍はべ侍はべはべりしりしりし。。。
  12. 12今いま今いまいまののの內裏うち內裏うちうちつくりいだされてつくりいだされてつくりいだされて、、、有職いうそく有職いうそくゆうそくののの人々ひとびと人々ひとびとひとびとににに見み見みみせられけるにせられけるにせられけるに、、、いづくもいづくもいずくも難なん難なんなんなしとてなしとてなしとて、、、すでにすでにすでに遷幸せんかう遷幸せんかうせんこうののの日近ひちか日近ひちかひちかくなりけるにくなりけるにくなりけるに、、、御ご御ごごらんじてらんじてらんじて、、、「「「穴あな穴あなあなははは、、、まろくまろくまろくふちふちふちもなくてぞありしもなくてぞありしもなくてぞありし」」」ととと仰おほ仰おほおおせられけるせられけるせられける、、、いみじかりけりいみじかりけりいみじかりけり。。。
  13. 13これこれこれはははえふのえふのえうの入い入いいりてりてりて、、、木き木ききにてにてにてふちふちふちをををしたりければあやまりにてなほされにけりしたりければあやまりにてなほされにけりしたりければあやまりにてなおされにけり。。。
  14. 14ははは、、、ほらがひのやうなるがちひさくてほらがひのやうなるがちひさくてほらがいのようなるがちいさくて、、、口ぐち口ぐちぐちのののほどのほどのほどのほそながにしてほそながにしてほそながにして出い出いいでたるでたるでたる貝かひ貝かひかいのののふたなりふたなりふたなり。。。武藏むさし武藏むさしむさしののの國くに國くにくにといふといふという浦うら浦うらうらにありしにありしにありしををを、、、所ところ所ところところのもののもののものははは「「「へなだりとへなだりとへなだりと申まう申まうもうししし侍はべ侍はべはべるるる」」」とぞいひしとぞいひしとぞいいし。。。
  15. 15手て手ててのわろきのわろきのわろき人ひと人ひとひとののの、、、憚はゞか憚はゞかはばからずらずらず文ふみ文ふみふみかきちらすかきちらすかきちらすはははよしよしよし。。。見み見みみぐるしとてぐるしとてぐるしとて人ひと人ひとひとにかゝするにかゝするにかかするはははうるさしうるさしうるさし。。。
  16. 16「「「久ひさ久ひさひさしくおとづれぬころしくおとづれぬころしくおとずれぬころ、、、いかばかりいかばかりいかばかり恨うら恨うらうらむらむとむらむとむらむと、、、我わ我わわがががをををこたりこたりこたり思おも思おもおもひひい知し知ししられてられてられて、、、ことばなきことばなきことばなき心こころ心こころこころちするにちするにちするに、、、をんなのかたよりをんなのかたよりおんなのかたより、、、やあるやあるやある一人ひとり一人ひとりひとりなどいひおこせたるこそありがたくうれしけれなどいひおこせたるこそありがたくうれしけれなどいいおこせたるこそありがたくうれしけれ。。。さるさるさる心こころ心こころこころざましたるざましたるざましたる人ひと人ひとひとぞよきぞよきぞよき」」」ととと人ひと人ひとひとののの申まう申まうもうししし侍はべ侍はべはべりしりしりし。。。
  17. 17さもあるべきことなりさもあるべきことなりさもあるべきことなり。。。
  18. 18「「「朝夕あさゆふ朝夕あさゆふあさゆうへへへだてなくなれたるだてなくなれたるだてなくなれたる人ひと人ひとひとののの、、、ともあるともあるともある時とき時ときときににに、、、我わ我わわににに心こころ心こころこころをををきききひきひきひきつくろへるさまにつくろへるさまにつくろえるさまに見み見みみゆるこそゆるこそゆるこそ、、、今いま今いまいまさらかくやさらかくやさらかくやははは」」」などいふなどいふなどいう人ひと人ひとひともありぬべけれどもありぬべけれどもありぬべけれど、、、なほげにげにしくよきなほげにげにしくよきなおげにげにしくよき人ひと人ひとひとかなとぞおぼゆるかなとぞおぼゆるかなとぞおぼゆる。。。
  19. 19うときうときうとき人ひと人ひとひとのののうちとけたることなどいひたるうちとけたることなどいひたるうちとけたることなどいいたる、、、またよしとまたよしとまたよしと思おも思おもおもひつきぬべしひつきぬべしいつきぬべし。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔第30段〕人の亡くなった後ほど悲しいものはない。四十九日の間、山里などに移り住んで、不便で狭い所に大勢が集まって、法事などを営み合っているのは、気ぜわしい。日数の早く過ぎることは、たとえようもない。最後の日には、ひどく情けなく、互いに言葉をかけ合うこともなく、われ先にと、それぞれ荷物をまとめて散り散りに去ってしまう。もとの住まいに帰ってからこそ、いっそう悲しいことは多いにちがいない。「これこれのことは、ああ恐ろしい。残された人のために忌むべきことだ」などと言っているのは、これほどの悲しみの中で何をそんなことをと、人の心はやはりいやなものだと思われる。年月がたっても少しも忘れるわけではないが、「去る者は日々に疎し」と言われることなので、そうは言っても、その当座ほどには悲しく思わないのだろうか、つまらない話をしてつい笑ってしまう。亡骸は人けのない山の中に納めて、しかるべき日だけお参りして見ると、まもなく卒塔婆も苔むし、木の葉が降り積もって埋め、夕べの嵐、夜の月だけが訪れるよすがとなるのだった。思い出してしのぶ人があるうちはまだよいが、その人もまたまもなく亡くなって、話に聞き伝えるだけの子孫たちは、しみじみと思うだろうか。そうして供養することも絶えてしまうと、どこのだれとも名前さえわからない。年ごとの春の草だけを、心ある人はしみじみと見るだろうが、しまいには嵐にむせび泣くように鳴った松も、千年を待たずに薪として砕かれ、古い墓はすき返されて田となってしまう。その形さえなくなってしまうのは悲しい。

〔第31段〕雪がおもしろく降った朝、ある人のもとへ言わなければならないことがあって手紙をやるのに、雪のことは何も書かなかった返事に、「この雪をどう見るかと一筆もおっしゃらないような、ひねくれた方のおっしゃることを、聞き入れられましょうか。返す返す残念なお心です」と言ってきたのは、おもしろかった。今は亡き人なので、これほどのことも忘れがたい。

〔第32段〕九月二十日のころ、ある方に誘われ申しあげて、明け方まで月を見て歩いたことがありましたが、その方が思い出しなさる所があって、取り次ぎをさせて入っておしまいになった。荒れた庭の露がしっとりと置いている所に、わざとらしくない香の香りがしめやかに漂って、ひっそりと暮らしている様子が、たいそうしみじみと感じられる。ほどよい時に(その方は)お出になったが、なお住む人の様子が優雅に思われて、物陰からしばらく見ていると、(女主人は)妻戸をもう少し押し開けて、月を眺める様子である。(客を送り出して)すぐに戸を閉めて引きこもってしまったなら、残念だったろう。後まで見ている人があるとは、どうして知ろうか。こういうことは、ただ日ごろの心がけによるのだろう。その人はまもなく亡くなったと聞きました。

〔第33段〕今の内裏が造営されて、有職故実に通じた人々にお見せになったところ、どこにも欠点はないということで、もう遷幸の日も近づいていたときに、玄輝門院がご覧になって、「閑院殿の櫛形の穴は、丸くて縁もなかった」とおっしゃったのは、すばらしいことだった。これは、(新造の内裏では)葉の形に切り込みを入れて、木で縁をつけてあったので、まちがいだとして直されたのだった。

〔第34段〕甲香は、ほら貝のようなもので小さく、口のあたりが細長く突き出ている貝のふたである。武蔵国の金沢という浦にあったのを、土地の者は「へなだりと申します」と言った。

〔第35段〕字の下手な人が、遠慮しないで手紙を書き散らすのはよい。見苦しいからといって人に書かせるのは、いやみである。

〔第36段〕「長い間訪れなかったころ、どんなに恨んでいるだろうと、自分の怠りを思い知らされて、言いわけのしようもない気持ちでいたところ、女の方から、『下男はいますか、一人よこしてほしい』などと言ってきたのは、めったにないことでうれしかった。そういう気立ての人はよい」と、ある人が申しておりました。いかにももっともなことである。

〔第37段〕「朝夕へだてなく慣れ親しんだ人が、何かの折に、自分に対して気がねし、改まった様子に見えるのは、今さらそうでなくてもよいのに」などと言う人もあるだろうが、やはり、いかにも誠実で、よい人だなあと思われる。親しくない人が打ち解けたことなどを言ったのも、またよいと心ひかれるにちがいない。

意訳

〔第30段〕葬儀と四十九日の慌ただしさ、法事が終わると散り散りに去る人々、時がたてば笑い話もする遺族。墓は苔むし、しのぶ人もやがて死に、子孫は名も知らず、ついには墓の松も薪にされ、墓は田に変わる。死者がこの世から完全に消えてゆく過程を、冷静に、しかし深い悲しみをこめて描いている。

〔第31段〕〔第32段〕雪のことに触れない手紙をとがめた人、客が帰ったあとも妻戸を開けて月を眺めていた女主人――どちらも今は亡き人である。だれも見ていないところでの心がけこそが、その人の品格を表すという。

〔第33段〜第35段〕新しい内裏の小さな誤りを見抜いた玄輝門院の見識、武蔵の金沢で聞いた「へなだり」という呼び名、字が下手でも自分で手紙を書くべきだという意見など、短い見聞と所感が並ぶ。

〔第36段〕〔第37段〕無沙汰をわびる言葉もない男に、女の方から用事にかこつけて便りをくれる心づかい。親しい人の改まった態度、疎遠な人の打ち解けた言葉。人間関係のこまやかな機微をとらえている。

語釈・文法注

中陰
人の死後四十九日の間。中有とも。
あなかしこ
ああ恐ろしい、の意の感動詞。
さるものは日々に疎し
『文選』の古詩「去る者は日に以て疎し」による。
から
亡骸。死体。
卒都婆
卒塔婆。墓の後ろに立てる、供養のための細長い板。
ひがひがしからむ
「ひがひがし」は、ひねくれている、情趣を解さない。
あないせさせて
取り次ぎを頼んで、来訪を告げさせて。
妻戶
寝殿造りの建物の四隅にある、両開きの板戸。
玄輝門院
後深草天皇の妃、藤原愔子(1246〜1329)。伏見天皇の母。
閑院殿
鎌倉時代の里内裏。正元元年(1259)に焼失した。
くしがた
櫛形の穴。清涼殿の殿上の間と鬼の間の境の壁にあけた、櫛の形の窓。
甲香
巻貝のふた。練香の材料にする。
金澤
武蔵国の金沢。今の横浜市金沢区。北条氏の一族金沢氏の本拠で、兼好も訪れたことがある。
仕丁
雑役をする下男。

文法

口をしからまし
反実仮想「ましかば…まし」。すぐに戸を閉めてこもってしまったなら、残念だっただろう(実際はそうしなかった)。
聞き入るべきかは
「かは」は反語。聞き入れられようか、いや聞き入れられない。
えふの入りて
「えふ」は「葉」の字音。葉の形に切り込みが入って、の意と解されている。
我に心をきひきつくろへる
「心をき」は「心置き」で、気がねして。

解説

第30段は、人の死後に起こることを、葬儀から数十年後まで順に追った段である。悲しみが時とともに薄れること、墓が荒れ、名前も忘れられ、ついには墓のあった所が田になることまでを、感傷におぼれずに書きとめている。「その形だになくなりぬるぞ悲しき」と結ぶところに、兼好の無常観の深さがある。

第31段と第32段は、どちらも今は亡き人の思い出である。第32段で月を見る女主人を見ていた兼好は、その人の、人に見られることを意識しない心がけに感じ入っている。「かやうの事はたゞ朝夕の心づかひによるべし」という言葉は、『徒然草』全体に通じる人間観をよく示している。

第34段の武蔵国金沢は、北条氏の一族金沢(かねさわ)氏の領地で、金沢文庫があった。兼好は若いころ関東に下ったことがあり、この段はその折の見聞と考えられる。

第36段・第37段は、男女や友人の間のこまやかな心づかいを取り上げている。相手を気づまりにさせない思いやり、親しい中にも礼を失わない態度を、兼好は「よき人」の条件として重んじた。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(徒然草) 板倉屋書房、明治36年(1903)、775〜777頁(コマ401–402)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日