徒然草 第2章(第7段〜第11段)
あだし野の露と住まいのたたずまい
世は定めないからこそすばらしいと説く無常の段に始まり、人の心をまどわす色欲のおそろしさ、住む人の心がおのずと表れる住まいのたたずまい、山里の庵で目にした柑子の木の囲いまでを語る。

- 1野野のののの露露つゆ消消きゆるときなくゆるときなくゆるときなく、、、ののの煙煙けぶり立立たちさらでのみちさらでのみちさらでのみ住住すみみみはははつるならひならばつるならひならばつるならいならば、、、いかにものゝあはれもなからむいかにものゝあはれもなからむいかにもののあわれもなからむ。。。世世よはははさだめなきこそいみじけれさだめなきこそいみじけれさだめなきこそいみじけれ。。。
- 2命命いのちあるものあるものあるものををを見見みるにるにるに、、、人人ひとばかりばかりばかり久久ひさしきしきしきはははなしなしなし。。。ををを待待まちちち、、、夏夏なつのせみののせみののせみの春秋春秋はるあきををを知知しらぬもあるぞかしらぬもあるぞかしらぬもあるぞかし。。。つくづくつくづくつくづくととと一一ひととせとせとせをををくらすくらすくらす程程ほどだにもこよなうのどけしやだにもこよなうのどけしやだにもこよのうのどけしや。。。
- 3あかずあかずあかずをををしとおもはゞしとおもはゞしとおもわば、、、千千ちとせとせとせををを過過すぐすともすともすとも一夜一夜ひとよののの夢夢ゆめののの心心こころちこそせめちこそせめちこそせめ。。。すみすみすみはははてぬてぬてぬ世世よににに、、、みにくきすがたみにくきすがたみにくきすがたををを待待まちえてちえてちえて何何なにかはせむかはせむかわせむ。。。命長命長いのちながければければければ辱辱はじおほしおほしおおし。。。
- 4長長ながくともくともくともにたらぬにたらぬにたらぬほどにてほどにてほどにて、、、死死しなむこそめやすかるべけれなむこそめやすかるべけれなむこそめやすかるべけれ。。。そのそのそのほどほどほど過過すぎぬればかたちぎぬればかたちぎぬればかたちををを愧愧はづるづるずる心心こころもなくもなくもなく、、、人人ひとにいでまじらはむことにいでまじらはむことにいでまじらわむことををを思思おもひひい、、、夕夕ゆうべののの陽陽ひににに子孫子孫しそんををを愛愛あいししし、、、さかゆくさかゆくさかゆく末末すえををを見見みむまでのむまでのむまでの命命いのちをををあらましあらましあらまし、、、ひたすらひたすらひたすら世世よをををむさぼるむさぼるむさぼる心心こころのみのみのみふかくふかくふかく、、、物物もののあはれものあはれものあわれも知知しらずなりゆきなむあさましきらずなりゆきなむあさましきらずなりゆきなむあさましき。。。
- 5世世よののの人人ひとののの心心こころまどはすことまどはすことまどわすこと色欲色欲しきよくにににはしかずはしかずはしかず。。。人人ひとののの心心こころはははおろかなるものかなおろかなるものかなおろかなるものかな。。。にほひなどにほひなどにおいなどはははかりのものなるにかりのものなるにかりのものなるに、、、しばらくしばらくしばらく衣裳衣裳いしょうにたきものすとにたきものすとにたきものすと知知しりながらりながらりながら、、、えならぬにほひにえならぬにほひにえならぬにおいにははは心心こころときめきするものなりときめきするものなりときめきするものなり。。。
- 6ののの仙人仙人せんにんののの、、、物洗物洗ものあらふふう女女おんなのののはははぎのぎのぎの白白しろきききををを見見みててて通通つうををを失失うしなひけむひけむいけむははは、、、まことにまことにまことに手手てあしあしあしはだへなどのきよらにはだへなどのきよらにはだえなどのきよらに肥肥こえあぶらつきたらむえあぶらつきたらむえあぶらつきたらむははは、、、外外ほかののの色色いろならねばさもあらむかしならねばさもあらむかしならねばさもあらむかし。。。
- 7女女おんなははは髮髮かみのめでたからむこそのめでたからむこそのめでたからむこそ人人ひとののの目目めたつべかめれたつべかめれたつべかめれ。。。人人ひとのののほどほどほど、、、心心こころばへなどばへなどばえなどははは物物ものうちいひたるけはひにこそうちいひたるけはひにこそうちいいたるけわいにこそ物物ものごしにもごしにもごしにも知知しらるれらるれらるれ。。。事事ことにににふれてふれてふれて、、、うちあるさまにもうちあるさまにもうちあるさまにも、、、人人ひとののの心心こころをををまどはしまどはしまどわし、、、すべてすべてすべて女女おんなのののうちとけたるいもねずうちとけたるいもねずうちとけたるいもねず、、、身身みををををををしともしともしとも思思おもひたらずひたらずいたらず、、、堪堪たふべくもあらぬわざにもよくふべくもあらぬわざにもよくうべくもあらぬわざにもよく堪堪たへへえ忍忍しのぶぶぶははは、、、たゞたゞただ色色いろををを思思おもふがゆゑなりふがゆゑなりうがゆえなり。。。
- 8まことにまことにまことに愛着愛着あいじゃくののの道道みちそのそのその根深根深ねふかくくく源源みなもととほしとほしとおし。。。ののの樂欲樂欲ぎょうよくおほしといへどもおほしといへどもおおしといえども、、、皆皆みなしつべししつべししつべし。。。そのそのその中中なかにたゞかのまどひのにたゞかのまどひのにただかのまどいのひとつやめがたきのみぞひとつやめがたきのみぞひとつやめがたきのみぞ、、、老老おいたるもいたるもいたるも若若わかきもきもきも、、、智智ちあるもあるもあるも愚愚おろかなるもなるもなるも、、、かはるかはるかわる所所ところなしとぞなしとぞなしとぞ見見みゆゆゆ。。。
- 9さればさればされば女女おんなののの髮髮かみ筋筋すじにてよれるにてよれるにてよれる綱綱つなにににははは、、、大象大象だいぞうもよくつながれもよくつながれもよくつながれ、、、女女おんなのののはははけるあしだにてけるあしだにてけるあしだにて作作つくれるれるれる笛笛ぶえにににははは、、、秋秋あきののの鹿鹿しか必必かならよるとぞいひよるとぞいひよるとぞいい傳傳つたへへえ侍侍はべるるる。。。みづからいましめてみづからいましめてみずからいましめて、、、恐恐おそるべくつゝしむべきるべくつゝしむべきるべくつつしむべきはははこのまどひなりこのまどひなりこのまどいなり。。。
- 10家居家居いえいのののつきづきつきづきつきづきしくあらほしきこそかりのやどりとしくあらほしきこそかりのやどりとしくあらおしきこそかりのやどりとははは思思おもへどへどえど、、、興興きょうあるものなれあるものなれあるものなれ。。。よきよきよき人人ひとののどやかにののどやかにののどやかに住住すみなしたるみなしたるみなしたる所所ところははは、、、さしさしさし入入いりたるりたるりたる月月つきののの色色いろももも、、、ひときはしみじみとひときはしみじみとひときわしみじみと見見みゆるぞかしゆるぞかしゆるぞかし。。。
- 11今今いまめかしくきらゝかならねどめかしくきらゝかならねどめかしくきららかならねど、、、木木こだちものだちものだちものふりてふりてふりて、、、わざとならぬわざとならぬわざとならぬ庭庭にわののの草草くさももも心心こころあるさまにあるさまにあるさまに、、、すのすのすの子子こ、、、調度調度ちょうどもむかしもむかしもむかし覺覺おぼえてえてえて、、、やすらかなるこそやすらかなるこそやすらかなるこそ心心こころにくしとにくしとにくしと見見みゆれゆれゆれ。。。
- 12多多おおくのたくみのくのたくみのくのたくみの心心こころををを盡盡つくしてみがきたてしてみがきたてしてみがきたて、、、からのやまとのめづらしくからのやまとのめづらしくからのやまとのめずらしく、、、えならぬえならぬえならぬ調度調度ちょうどどもならべおきどもならべおきどもならべおき、、、前栽前栽せんざいののの草木草木くさきまでまでまで心心こころのまゝならずのまゝならずのままならず作作つくりなせるりなせるりなせるははは、、、見見みるるる目目めもくるしくいとわびしもくるしくいとわびしもくるしくいとわびし。。。
- 13さてもやさてもやさてもやはははながらへながらへながらへ住住すむべきむべきむべき。。。またまたまた時時ときののの間間まののの煙煙けぶりともなりなむとぞともなりなむとぞともなりなむとぞうちうちうち見見みるよりもおもはるゝるよりもおもはるゝるよりもおもわるる。。。大大おおかたかたかたははは家居家居いえいにこそことざまにこそことざまにこそことざまはははおしおしおしはははからるれからるれからるれ。。。
- 14ののの大臣大臣おとどののの寢殿寢殿しんでんににに鳶鳶とびゐさせじとてゐさせじとていさせじとて繩繩つなをををはられたりけるはられたりけるはられたりけるををを、、、ががが見見みててて、、、「「「鳶鳶とびのゐたらむのゐたらむのいたらむ何何なにかかかははは苦苦くるしかるべきしかるべきしかるべき。。。このこのこの殿殿どのののの御心御心みこころさばかりにこそさばかりにこそさばかりにこそ」」」とてそのとてそのとてその後後のちははは參參まいらざりけるとらざりけるとらざりけると聞聞ききききはははんべるにんべるにんべるに、、、綾綾あやののの小路小路こうじののの宮宮みやのおはしますのおはしますのおわしますののの棟棟むねににに、、、いつぞやいつぞやいつぞや繩繩つなをををひかれたりしかばひかれたりしかばひかれたりしかば、、、かのためしかのためしかのためし思思おもひひい出出いでられでられでられ侍侍はべりしにりしにりしに、、、「「「まことやまことやまことや鳥鳥とりのむれゐてのむれゐてのむれいて、、、池池いけののの蛙蛙かわずをををとりければとりければとりければ、、、御覽御覽ごらんじかなしませじかなしませじかなしませ給給たまひてなむひてなむいてなむ」」」ととと人人ひとののの語語かたりしこそさてりしこそさてりしこそさてはははいみじくこそとおぼえしかいみじくこそとおぼえしかいみじくこそとおぼえしか。。。德大寺德大寺とくだいじにもいかなるゆゑかにもいかなるゆゑかにもいかなるゆえか侍侍はべりけむりけむりけむ。。。
- 15神無月神無月かんなづきのころのころのころといふといふという所所ところををを過過すぎてぎてぎて、、、あるあるある山里山里やまざとにたづねにたづねにたずね入入いることることること侍侍はべりしにりしにりしに、、、遙遙はるかなるなるなる苔苔こけののの細道細道ほそみちをををふみわけてふみわけてふみわけて、、、心心こころぼそくぼそくぼそく住住すみなしたるみなしたるみなしたる庵庵いおりありありあり。。。
- 16木木きののの葉葉はにににうづもるゝかけひのしづくならでうづもるゝかけひのしづくならでうずもるるかけいのしずくならでははは、、、つゆおとなふものなしつゆおとなふものなしつゆおとなうものなし。。。ににに菊紅葉菊紅葉きくもみじなどなどなど折折おりちらしたるさすがにりちらしたるさすがにりちらしたるさすがに住住すむむむ人人ひとのあればなるべしのあればなるべしのあればなるべし。。。
- 17かくてもあられけるよとかくてもあられけるよとかくてもあられけるよと、、、あはれにあはれにあわれに見見みるるるほどにほどにほどに、、、かなたのかなたのかなたの庭庭にわににに大大おおきなるきなるきなるののの木木きののの、、、枝枝えだもたわゝになりたるがもたわゝになりたるがもたわわになりたるが、、、まはりまはりまわりをををきびしくかこひたりしこそすこしことさめてきびしくかこひたりしこそすこしことさめてきびしくかこいたりしこそすこしことさめて、、、このこのこの木木きなからましかばとなからましかばとなからましかばと覺覺おぼえしかえしかえしか。。。
現代語訳
〔第7段〕あだし野の露が消える時もなく、鳥部山の煙が立ち去ることもなく、人がいつまでもこの世に住みつづけるならいであったら、どんなにか物のあわれもないことだろう。この世は定めがないからこそすばらしいのだ。命あるものを見ると、人ほど長生きするものはない。かげろうのように夕べを待たずに死に、夏の蝉のように春や秋を知らないものもあるのだ。しみじみと一年を暮らすだけでも、この上なくゆったりとしたものである。いつまでも満ち足りず、命が惜しいと思うならば、千年を過ごしても、一夜の夢のような気持ちがするだろう。住みとおすことのできないこの世に、醜い姿になるまで生きながらえて、何になろうか。命が長ければ恥をかくことも多い。長くても四十に満たないくらいで死ぬのが、見苦しくないだろう。その年ごろを過ぎてしまえば、容姿を恥じる心もなく、人前に出て交わることを望み、夕日のように傾いた身で子孫をかわいがり、その子孫が栄えてゆく行く末を見とどけるまでの命を当てにし、ひたすら世の中をむさぼる心ばかりが深くなって、物のあわれもわからなくなってゆくのは、情けないことだ。
〔第8段〕世の人の心を惑わすものは、色欲に及ぶものはない。人の心というものは愚かなものだなあ。香りなどは仮のものなのに、しばらく衣服に香をたきしめているのだと知りながら、何ともいえないよい香りには、きっと胸がときめくものである。久米の仙人が、洗濯をする女のすねの白いのを見て神通力を失ったというのは、ほんとうに、手足や肌などが清らかで、ふっくらとつやがあったのだろうが、それは外から加えた色ではないのだから、そういうこともあるだろう。
〔第9段〕女は髪のみごとなのが、人の目をひくようだ。人柄や気立てなどは、物を言う気配によって、物越しにも知られるものである。何かにつけて、ふだんのちょっとしたふるまいにも、人の心を惑わし、およそ女が気を許して眠ることもせず、わが身を惜しいとも思わず、とても耐えられそうもないことにもよく耐え忍ぶのは、ひとえに色恋を思うからである。まことに愛欲の道は、その根が深く、源が遠い。六塵の欲望は多いけれども、みな捨て去ることができるだろう。その中でただ一つ、あの愛欲の迷いだけはやめがたく、老いた者も若い者も、賢い者も愚かな者も、変わるところがないと見える。だから、女の髪の毛でよった綱には大きな象もしっかりつながれ、女のはいた下駄で作った笛には秋の鹿が必ず寄ってくると言い伝えている。自分で戒めて、恐れつつしまなければならないのは、この迷いである。
〔第10段〕住まいがその人にふさわしく好ましいのは、仮の宿りだとは思うけれども、興趣のあるものだ。身分も教養もある人がゆったりと住みなしている所は、さしこむ月の光も、ひときわしみじみと見えるものである。当世風にきらびやかではないけれど、木立がどことなく古びていて、わざとらしくない庭の草も趣のあるさまで、簀の子や透垣の配置も風情があり、何気なく置いてある道具類も昔がしのばれて、落ち着いているのは奥ゆかしく見える。大勢の職人が心を尽くして磨きあげ、唐のものや日本のものの珍しく見事な道具類を並べておき、庭の植え込みの草木まで自然のままでなく作りたててあるのは、見た目にも見苦しく、ひどくわびしい。そうしてまで、いつまでも住んでいられようか。また、またたく間に煙となってしまうだろうと、ちょっと見ただけでも思われる。だいたい住まいによって、その人の人柄は推し量られるものだ。後徳大寺の大臣(藤原実定)が、寝殿に鳶をとまらせまいとして縄を張られたのを、西行が見て、「鳶がとまっていたとて何の差しつかえがあろう。この殿のお心はその程度のものか」と言って、その後は参上しなかったと聞いておりますが、綾小路宮(性恵法親王)のいらっしゃる小坂殿の棟に、いつだったか縄を引かれたことがあったので、あの例が思い出されましたところ、「実は、鳥が群れてとまって池の蛙を取ったので、宮がそれをご覧になって悲しまれたからなのです」と人が語ったのは、それならば立派なことだと思われた。徳大寺にも、どのようなわけがあったのでしょうか。
〔第11段〕十月のころ、栗栖野という所を過ぎて、ある山里に人を訪ねて分け入ったことがありましたが、はるか遠くまで続く苔の細道を踏み分けて行くと、ひっそりと住みなしている庵があった。木の葉にうずもれた懸樋のしずくのほかには、何ひとつ音をたてるものもない。閼伽棚に菊や紅葉などを折り散らしてあるのは、やはり住む人がいるからなのだろう。こんなふうにしても住んでいられるのだなあと、しみじみと見ているうちに、向こうの庭に大きな柑子の木で、枝もたわむほどに実がなっているのが、まわりを厳重に囲ってあったのには、少し興ざめがして、この木がなかったらよかったのにと思われた。
意訳
〔第7段〕もし人が死なずにいつまでも生きるのなら、ものの情趣はなくなってしまう。命ははかないからこそ尊い。かげろうや蝉にくらべれば、一年でも十分にゆたかな時間であり、執着すれば千年でも一夜の夢にすぎない。老いて醜くなり、子孫の繁栄ばかりを願って世にしがみつくより、四十に満たずに死ぬのが見苦しくない――無常をむしろ肯定する、『徒然草』の根本にある考え方である。
〔第8段〕〔第9段〕人を迷わせるものの最たるものは色欲である。香りが仮のものと知りながら心がときめき、女のすねを見て神通力を失った仙人の話もうなずける。女の髪や声には人を惑わす力があり、女自身も恋のためには眠りも身も惜しまない。ほかの欲は捨てられても、この迷いだけは老若賢愚を問わず断ちがたい。だからこそ自らを戒めなければならない。
〔第10段〕住まいにはその人の心が表れる。古びた木立や自然な庭、さりげない道具に囲まれた家は奥ゆかしく、職人に磨きたてさせ珍品を並べた家は見苦しい。鳶を寄せつけまいと縄を張った後徳大寺の大臣は西行に見限られたが、同じように縄を張った綾小路宮には、蛙を鳥から守るという優しい理由があった。見かけだけで判断せず、心のありかを推し量ろうとする兼好の姿勢がうかがえる。
〔第11段〕晩秋の山里で、苔むした細道の先にひっそりと住む庵を見つけ、世を捨てた暮らしの美しさに感じ入ったのもつかの間、庭の柑子の木が実を取られまいと厳重に囲ってあるのを見て興ざめする。世を捨てたはずの人に残る小さな執着を、見逃さずに書きとめている。
語釈・文法注
- あだし野
- 京都の嵯峨野の奥にあった葬送の地。化野。「露」は人の命のはかなさのたとえ。
- 鳥部山
- 京都の東山の南にあった葬送の地。火葬の煙が絶えなかった。
- かげろふ
- 蜉蝣。朝に生まれて夕べに死ぬといわれ、はかない命のたとえとされた。
- 四十
- 「よそぢ」。四十歳。当時は四十歳から長寿を祝う「四十の賀」を行った。
- 久米の仙人
- 大和国の竜門寺で修行し、空を飛ぶ術を得た仙人。吉野川で洗濯する女のすねを見て、術を失って落ちたと『今昔物語集』などに伝える。
- 六塵
- 仏教で、色・声・香・味・触・法の六つの対象。心を汚すので「塵」という。
- 厭離
- この世を嫌って離れること。
- すいがい
- 透垣。竹や板を、すきまをあけて編んだ垣根。
- 後德大寺の大臣
- 藤原実定(1139〜1191)。歌人。「ほととぎす鳴きつる方を眺むれば」の歌で知られる。
- 西行
- 平安末期の歌僧(1118〜1190)。佐藤義清。出家して諸国を旅した。
- 小坂殿
- 綾小路宮(亀山天皇の皇子、性恵法親王)の御所。
- 栗栖野
- 京都の山科のあたりの野。
- 閼伽棚
- 仏に供える水や花を置く棚。
- 柑子
- 蜜柑の一種。小ぶりで酸味が強い。
文法
- あらほしきこそ
- 底本どおり。通行本文は「あらまほしきこそ」で、「ま」が落ちた誤植と思われる。「あらまほし」は、そうあってほしい、望ましいの意。
- 死なむこそめやすかるべけれ
- 「む」は婉曲の助動詞。死ぬようなのが。「こそ…べけれ」の係り結び。
- 肥えあぶらつきたらむは
- 「たら」は完了の助動詞「たり」の未然形、「む」は推量(婉曲)。ふっくらとつやがあったのだろうが。
- べかめれ
- 「べかるめれ」の撥音便「べかんめれ」の撥音の無表記。
- さてもやはながらへ住むべき
- 「やは」は反語。そのようにしてまで、いつまでも住んでいられようか、いや住めはしない。
- なからましかばと
- 反実仮想「ましかば…まし」の後半を略した形。この木がなかったならば(よかったのに)。
解説
第7段は、『徒然草』の無常観を代表する段である。「世はさだめなきこそいみじけれ」と、無常を嘆くのではなく、それゆえにものの情趣が生まれると肯定するところに、兼好の独自の立場がある。「長くとも四十にたらぬほどにて死なむこそめやすかるべけれ」という言葉は有名だが、兼好自身は七十歳近くまで生きたとされる。
第8段・第9段は色欲を戒めるが、一方的に否定するのではなく、人がそれに引かれる心をよく知ったうえで語っている。第3段で恋の情趣を知らない男をつまらないと言ったことと合わせて読むと、兼好が人間の欲望をありのままに見つめていることがわかる。
第10段は住まい論であるとともに、人物論でもある。後徳大寺の大臣と綾小路宮の、同じ「縄を張る」という行為の裏にある心の違いを対比し、最後に「徳大寺にもいかなるゆゑか侍りけむ」と、実定にも何か理由があったのかもしれないと付け加えるところに、軽々しく人を裁かない兼好の慎重さがある。
第11段の「この木なからましかば」は、山里の庵の閑寂な美しさを描いた直後に、その主の執着を見つけてしまう落差がおもしろい。世を捨てた人にも欲が残ることを、兼好は自分の問題としても見つめていたのだろう。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(徒然草) 板倉屋書房、明治36年(1903)、765〜767頁(コマ396–397)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日