古典ライブラリー

徒然草 第2章(第7段〜第11段)

あだし野の露と住まいのたたずまい

世は定めないからこそすばらしいと説く無常の段に始まり、人の心をまどわす色欲のおそろしさ、住む人の心がおのずと表れる住まいのたたずまい、山里の庵で目にした柑子の木の囲いまでを語る。

月明かりの差す古びた住まいと、木立や草を自然に残した庭
第10段に描かれる、住む人の心を映す住まい。古びた木立や自然な庭草、簀の子と透垣が、月明かりの中に静かな趣を添えている。
  1. 1野の野ののののの露つゆ露つゆつゆ消き消ききゆるときなくゆるときなくゆるときなく、、、ののの煙けぶり煙けぶりけぶり立た立たたちさらでのみちさらでのみちさらでのみ住す住すすみみみはははつるならひならばつるならひならばつるならいならば、、、いかにものゝあはれもなからむいかにものゝあはれもなからむいかにもののあわれもなからむ。。。世よ世よよはははさだめなきこそいみじけれさだめなきこそいみじけれさだめなきこそいみじけれ。。。
  2. 2命いのち命いのちいのちあるものあるものあるものををを見み見みみるにるにるに、、、人ひと人ひとひとばかりばかりばかり久ひさ久ひさひさしきしきしきはははなしなしなし。。。ををを待ま待ままちちち、、、夏なつ夏なつなつのせみののせみののせみの春秋はるあき春秋はるあきはるあきををを知し知ししらぬもあるぞかしらぬもあるぞかしらぬもあるぞかし。。。つくづくつくづくつくづくととと一ひと一ひとひととせとせとせをををくらすくらすくらす程ほど程ほどほどだにもこよなうのどけしやだにもこよなうのどけしやだにもこよのうのどけしや。。。
  3. 3あかずあかずあかずをををしとおもはゞしとおもはゞしとおもわば、、、千ち千ちちとせとせとせををを過すぐ過すぐすぐすともすともすとも一夜ひとよ一夜ひとよひとよののの夢ゆめ夢ゆめゆめののの心こころ心こころこころちこそせめちこそせめちこそせめ。。。すみすみすみはははてぬてぬてぬ世よ世よよににに、、、みにくきすがたみにくきすがたみにくきすがたををを待ま待ままちえてちえてちえて何なに何なになにかはせむかはせむかわせむ。。。命長いのちなが命長いのちながいのちながければければければ辱はぢ辱はぢはじおほしおほしおおし。。。
  4. 4長なが長ながながくともくともくともにたらぬにたらぬにたらぬほどにてほどにてほどにて、、、死し死ししなむこそめやすかるべけれなむこそめやすかるべけれなむこそめやすかるべけれ。。。そのそのそのほどほどほど過す過すすぎぬればかたちぎぬればかたちぎぬればかたちををを愧は愧ははづるづるずる心こころ心こころこころもなくもなくもなく、、、人ひと人ひとひとにいでまじらはむことにいでまじらはむことにいでまじらわむことををを思おも思おもおもひひい、、、夕ゆふべ夕ゆふべゆうべののの陽ひ陽ひひににに子孫しそん子孫しそんしそんををを愛あい愛あいあいししし、、、さかゆくさかゆくさかゆく末すゑ末すゑすえををを見み見みみむまでのむまでのむまでの命いのち命いのちいのちをををあらましあらましあらまし、、、ひたすらひたすらひたすら世よ世よよをををむさぼるむさぼるむさぼる心こころ心こころこころのみのみのみふかくふかくふかく、、、物もの物ものもののあはれものあはれものあわれも知し知ししらずなりゆきなむあさましきらずなりゆきなむあさましきらずなりゆきなむあさましき。。。
  5. 5世よ世よよののの人ひと人ひとひとののの心こころ心こころこころまどはすことまどはすことまどわすこと色欲しきよく色欲しきよくしきよくにににはしかずはしかずはしかず。。。人ひと人ひとひとののの心こころ心こころこころはははおろかなるものかなおろかなるものかなおろかなるものかな。。。にほひなどにほひなどにおいなどはははかりのものなるにかりのものなるにかりのものなるに、、、しばらくしばらくしばらく衣裳いしやう衣裳いしやういしょうにたきものすとにたきものすとにたきものすと知し知ししりながらりながらりながら、、、えならぬにほひにえならぬにほひにえならぬにおいにははは心こころ心こころこころときめきするものなりときめきするものなりときめきするものなり。。。
  6. 6ののの仙人せんにん仙人せんにんせんにんののの、、、物洗ものあら物洗ものあらものあらふふう女をんな女をんなおんなのののはははぎのぎのぎの白しろ白しろしろきききををを見み見みみててて通つう通つうつうををを失うしな失うしなうしなひけむひけむいけむははは、、、まことにまことにまことに手て手ててあしあしあしはだへなどのきよらにはだへなどのきよらにはだえなどのきよらに肥こ肥ここえあぶらつきたらむえあぶらつきたらむえあぶらつきたらむははは、、、外ほか外ほかほかののの色いろ色いろいろならねばさもあらむかしならねばさもあらむかしならねばさもあらむかし。。。
  7. 7女をんな女をんなおんなははは髮かみ髮かみかみのめでたからむこそのめでたからむこそのめでたからむこそ人ひと人ひとひとののの目め目めめたつべかめれたつべかめれたつべかめれ。。。人ひと人ひとひとのののほどほどほど、、、心こころ心こころこころばへなどばへなどばえなどははは物もの物ものものうちいひたるけはひにこそうちいひたるけはひにこそうちいいたるけわいにこそ物もの物ものものごしにもごしにもごしにも知し知ししらるれらるれらるれ。。。事こと事ことことにににふれてふれてふれて、、、うちあるさまにもうちあるさまにもうちあるさまにも、、、人ひと人ひとひとののの心こころ心こころこころをををまどはしまどはしまどわし、、、すべてすべてすべて女をんな女をんなおんなのののうちとけたるいもねずうちとけたるいもねずうちとけたるいもねず、、、身み身みみををををををしともしともしとも思おも思おもおもひたらずひたらずいたらず、、、堪た堪たたふべくもあらぬわざにもよくふべくもあらぬわざにもよくうべくもあらぬわざにもよく堪た堪たたへへえ忍しの忍しのしのぶぶぶははは、、、たゞたゞただ色いろ色いろいろををを思おも思おもおもふがゆゑなりふがゆゑなりうがゆえなり。。。
  8. 8まことにまことにまことに愛着あいぢやく愛着あいぢやくあいじゃくののの道みち道みちみちそのそのその根深ねふか根深ねふかねふかくくく源みなもと源みなもとみなもととほしとほしとおし。。。ののの樂欲げうよく樂欲げうよくぎょうよくおほしといへどもおほしといへどもおおしといえども、、、皆みな皆みなみなしつべししつべししつべし。。。そのそのその中なか中なかなかにたゞかのまどひのにたゞかのまどひのにただかのまどいのひとつやめがたきのみぞひとつやめがたきのみぞひとつやめがたきのみぞ、、、老お老おおいたるもいたるもいたるも若わか若わかわかきもきもきも、、、智ち智ちちあるもあるもあるも愚おろか愚おろかおろかなるもなるもなるも、、、かはるかはるかわる所ところ所ところところなしとぞなしとぞなしとぞ見み見みみゆゆゆ。。。
  9. 9さればさればされば女をんな女をんなおんなののの髮かみ髮かみかみ筋すぢ筋すぢすじにてよれるにてよれるにてよれる綱つな綱つなつなにににははは、、、大象だいざう大象だいざうだいぞうもよくつながれもよくつながれもよくつながれ、、、女をんな女をんなおんなのののはははけるあしだにてけるあしだにてけるあしだにて作つく作つくつくれるれるれる笛ぶえ笛ぶえぶえにににははは、、、秋あき秋あきあきののの鹿しか鹿しかしか必かなら必かならかならよるとぞいひよるとぞいひよるとぞいい傳つた傳つたつたへへえ侍はべ侍はべはべるるる。。。みづからいましめてみづからいましめてみずからいましめて、、、恐おそ恐おそおそるべくつゝしむべきるべくつゝしむべきるべくつつしむべきはははこのまどひなりこのまどひなりこのまどいなり。。。
  10. 10家居いへゐ家居いへゐいえいのののつきづきつきづきつきづきしくあらほしきこそかりのやどりとしくあらほしきこそかりのやどりとしくあらおしきこそかりのやどりとははは思おも思おもおもへどへどえど、、、興きよう興きようきょうあるものなれあるものなれあるものなれ。。。よきよきよき人ひと人ひとひとののどやかにののどやかにののどやかに住す住すすみなしたるみなしたるみなしたる所ところ所ところところははは、、、さしさしさし入い入いいりたるりたるりたる月つき月つきつきののの色いろ色いろいろももも、、、ひときはしみじみとひときはしみじみとひときわしみじみと見み見みみゆるぞかしゆるぞかしゆるぞかし。。。
  11. 11今いま今いまいまめかしくきらゝかならねどめかしくきらゝかならねどめかしくきららかならねど、、、木こ木ここだちものだちものだちものふりてふりてふりて、、、わざとならぬわざとならぬわざとならぬ庭には庭にはにわののの草くさ草くさくさももも心こころ心こころこころあるさまにあるさまにあるさまに、、、すのすのすの子こ子ここ、、、調度てうど調度てうどちょうどもむかしもむかしもむかし覺おぼ覺おぼおぼえてえてえて、、、やすらかなるこそやすらかなるこそやすらかなるこそ心こころ心こころこころにくしとにくしとにくしと見み見みみゆれゆれゆれ。。。
  12. 12多おほ多おほおおくのたくみのくのたくみのくのたくみの心こころ心こころこころををを盡つく盡つくつくしてみがきたてしてみがきたてしてみがきたて、、、からのやまとのめづらしくからのやまとのめづらしくからのやまとのめずらしく、、、えならぬえならぬえならぬ調度てうど調度てうどちょうどどもならべおきどもならべおきどもならべおき、、、前栽せんざい前栽せんざいせんざいののの草木くさき草木くさきくさきまでまでまで心こころ心こころこころのまゝならずのまゝならずのままならず作つく作つくつくりなせるりなせるりなせるははは、、、見み見みみるるる目め目めめもくるしくいとわびしもくるしくいとわびしもくるしくいとわびし。。。
  13. 13さてもやさてもやさてもやはははながらへながらへながらへ住す住すすむべきむべきむべき。。。またまたまた時とき時ときときののの間ま間ままののの煙けぶり煙けぶりけぶりともなりなむとぞともなりなむとぞともなりなむとぞうちうちうち見み見みみるよりもおもはるゝるよりもおもはるゝるよりもおもわるる。。。大おほ大おほおおかたかたかたははは家居いへゐ家居いへゐいえいにこそことざまにこそことざまにこそことざまはははおしおしおしはははからるれからるれからるれ。。。
  14. 14ののの大臣おとゞ大臣おとゞおとどののの寢殿しんでん寢殿しんでんしんでんににに鳶とび鳶とびとびゐさせじとてゐさせじとていさせじとて繩つな繩つなつなをををはられたりけるはられたりけるはられたりけるををを、、、ががが見み見みみててて、、、「「「鳶とび鳶とびとびのゐたらむのゐたらむのいたらむ何なに何なになにかかかははは苦くる苦くるくるしかるべきしかるべきしかるべき。。。このこのこの殿どの殿どのどのののの御心みこころ御心みこころみこころさばかりにこそさばかりにこそさばかりにこそ」」」とてそのとてそのとてその後のち後のちのちははは參まゐ參まゐまいらざりけるとらざりけるとらざりけると聞き聞きききききはははんべるにんべるにんべるに、、、綾あや綾あやあやののの小路こうぢ小路こうぢこうじののの宮みや宮みやみやのおはしますのおはしますのおわしますののの棟むね棟むねむねににに、、、いつぞやいつぞやいつぞや繩つな繩つなつなをををひかれたりしかばひかれたりしかばひかれたりしかば、、、かのためしかのためしかのためし思おも思おもおもひひい出い出いいでられでられでられ侍はべ侍はべはべりしにりしにりしに、、、「「「まことやまことやまことや鳥とり鳥とりとりのむれゐてのむれゐてのむれいて、、、池いけ池いけいけののの蛙かはづ蛙かはづかわずをををとりければとりければとりければ、、、御覽ごらん御覽ごらんごらんじかなしませじかなしませじかなしませ給たま給たまたまひてなむひてなむいてなむ」」」ととと人ひと人ひとひとののの語かた語かたかたりしこそさてりしこそさてりしこそさてはははいみじくこそとおぼえしかいみじくこそとおぼえしかいみじくこそとおぼえしか。。。德大寺とくだいじ德大寺とくだいじとくだいじにもいかなるゆゑかにもいかなるゆゑかにもいかなるゆえか侍はべ侍はべはべりけむりけむりけむ。。。
  15. 15神無月かんなづき神無月かんなづきかんなづきのころのころのころといふといふという所ところ所ところところををを過す過すすぎてぎてぎて、、、あるあるある山里やまざと山里やまざとやまざとにたづねにたづねにたずね入い入いいることることること侍はべ侍はべはべりしにりしにりしに、、、遙はるか遙はるかはるかなるなるなる苔こけ苔こけこけののの細道ほそみち細道ほそみちほそみちをををふみわけてふみわけてふみわけて、、、心こころ心こころこころぼそくぼそくぼそく住す住すすみなしたるみなしたるみなしたる庵いほり庵いほりいおりありありあり。。。
  16. 16木き木ききののの葉は葉ははにににうづもるゝかけひのしづくならでうづもるゝかけひのしづくならでうずもるるかけいのしずくならでははは、、、つゆおとなふものなしつゆおとなふものなしつゆおとなうものなし。。。ににに菊紅葉きくもみぢ菊紅葉きくもみぢきくもみじなどなどなど折を折をおりちらしたるさすがにりちらしたるさすがにりちらしたるさすがに住す住すすむむむ人ひと人ひとひとのあればなるべしのあればなるべしのあればなるべし。。。
  17. 17かくてもあられけるよとかくてもあられけるよとかくてもあられけるよと、、、あはれにあはれにあわれに見み見みみるるるほどにほどにほどに、、、かなたのかなたのかなたの庭には庭にはにわににに大おほ大おほおおきなるきなるきなるののの木き木ききののの、、、枝えだ枝えだえだもたわゝになりたるがもたわゝになりたるがもたわわになりたるが、、、まはりまはりまわりをををきびしくかこひたりしこそすこしことさめてきびしくかこひたりしこそすこしことさめてきびしくかこいたりしこそすこしことさめて、、、このこのこの木き木ききなからましかばとなからましかばとなからましかばと覺おぼ覺おぼおぼえしかえしかえしか。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔第7段〕あだし野の露が消える時もなく、鳥部山の煙が立ち去ることもなく、人がいつまでもこの世に住みつづけるならいであったら、どんなにか物のあわれもないことだろう。この世は定めがないからこそすばらしいのだ。命あるものを見ると、人ほど長生きするものはない。かげろうのように夕べを待たずに死に、夏の蝉のように春や秋を知らないものもあるのだ。しみじみと一年を暮らすだけでも、この上なくゆったりとしたものである。いつまでも満ち足りず、命が惜しいと思うならば、千年を過ごしても、一夜の夢のような気持ちがするだろう。住みとおすことのできないこの世に、醜い姿になるまで生きながらえて、何になろうか。命が長ければ恥をかくことも多い。長くても四十に満たないくらいで死ぬのが、見苦しくないだろう。その年ごろを過ぎてしまえば、容姿を恥じる心もなく、人前に出て交わることを望み、夕日のように傾いた身で子孫をかわいがり、その子孫が栄えてゆく行く末を見とどけるまでの命を当てにし、ひたすら世の中をむさぼる心ばかりが深くなって、物のあわれもわからなくなってゆくのは、情けないことだ。

〔第8段〕世の人の心を惑わすものは、色欲に及ぶものはない。人の心というものは愚かなものだなあ。香りなどは仮のものなのに、しばらく衣服に香をたきしめているのだと知りながら、何ともいえないよい香りには、きっと胸がときめくものである。久米の仙人が、洗濯をする女のすねの白いのを見て神通力を失ったというのは、ほんとうに、手足や肌などが清らかで、ふっくらとつやがあったのだろうが、それは外から加えた色ではないのだから、そういうこともあるだろう。

〔第9段〕女は髪のみごとなのが、人の目をひくようだ。人柄や気立てなどは、物を言う気配によって、物越しにも知られるものである。何かにつけて、ふだんのちょっとしたふるまいにも、人の心を惑わし、およそ女が気を許して眠ることもせず、わが身を惜しいとも思わず、とても耐えられそうもないことにもよく耐え忍ぶのは、ひとえに色恋を思うからである。まことに愛欲の道は、その根が深く、源が遠い。六塵の欲望は多いけれども、みな捨て去ることができるだろう。その中でただ一つ、あの愛欲の迷いだけはやめがたく、老いた者も若い者も、賢い者も愚かな者も、変わるところがないと見える。だから、女の髪の毛でよった綱には大きな象もしっかりつながれ、女のはいた下駄で作った笛には秋の鹿が必ず寄ってくると言い伝えている。自分で戒めて、恐れつつしまなければならないのは、この迷いである。

〔第10段〕住まいがその人にふさわしく好ましいのは、仮の宿りだとは思うけれども、興趣のあるものだ。身分も教養もある人がゆったりと住みなしている所は、さしこむ月の光も、ひときわしみじみと見えるものである。当世風にきらびやかではないけれど、木立がどことなく古びていて、わざとらしくない庭の草も趣のあるさまで、簀の子や透垣の配置も風情があり、何気なく置いてある道具類も昔がしのばれて、落ち着いているのは奥ゆかしく見える。大勢の職人が心を尽くして磨きあげ、唐のものや日本のものの珍しく見事な道具類を並べておき、庭の植え込みの草木まで自然のままでなく作りたててあるのは、見た目にも見苦しく、ひどくわびしい。そうしてまで、いつまでも住んでいられようか。また、またたく間に煙となってしまうだろうと、ちょっと見ただけでも思われる。だいたい住まいによって、その人の人柄は推し量られるものだ。後徳大寺の大臣(藤原実定)が、寝殿に鳶をとまらせまいとして縄を張られたのを、西行が見て、「鳶がとまっていたとて何の差しつかえがあろう。この殿のお心はその程度のものか」と言って、その後は参上しなかったと聞いておりますが、綾小路宮(性恵法親王)のいらっしゃる小坂殿の棟に、いつだったか縄を引かれたことがあったので、あの例が思い出されましたところ、「実は、鳥が群れてとまって池の蛙を取ったので、宮がそれをご覧になって悲しまれたからなのです」と人が語ったのは、それならば立派なことだと思われた。徳大寺にも、どのようなわけがあったのでしょうか。

〔第11段〕十月のころ、栗栖野という所を過ぎて、ある山里に人を訪ねて分け入ったことがありましたが、はるか遠くまで続く苔の細道を踏み分けて行くと、ひっそりと住みなしている庵があった。木の葉にうずもれた懸樋のしずくのほかには、何ひとつ音をたてるものもない。閼伽棚に菊や紅葉などを折り散らしてあるのは、やはり住む人がいるからなのだろう。こんなふうにしても住んでいられるのだなあと、しみじみと見ているうちに、向こうの庭に大きな柑子の木で、枝もたわむほどに実がなっているのが、まわりを厳重に囲ってあったのには、少し興ざめがして、この木がなかったらよかったのにと思われた。

意訳

〔第7段〕もし人が死なずにいつまでも生きるのなら、ものの情趣はなくなってしまう。命ははかないからこそ尊い。かげろうや蝉にくらべれば、一年でも十分にゆたかな時間であり、執着すれば千年でも一夜の夢にすぎない。老いて醜くなり、子孫の繁栄ばかりを願って世にしがみつくより、四十に満たずに死ぬのが見苦しくない――無常をむしろ肯定する、『徒然草』の根本にある考え方である。

〔第8段〕〔第9段〕人を迷わせるものの最たるものは色欲である。香りが仮のものと知りながら心がときめき、女のすねを見て神通力を失った仙人の話もうなずける。女の髪や声には人を惑わす力があり、女自身も恋のためには眠りも身も惜しまない。ほかの欲は捨てられても、この迷いだけは老若賢愚を問わず断ちがたい。だからこそ自らを戒めなければならない。

〔第10段〕住まいにはその人の心が表れる。古びた木立や自然な庭、さりげない道具に囲まれた家は奥ゆかしく、職人に磨きたてさせ珍品を並べた家は見苦しい。鳶を寄せつけまいと縄を張った後徳大寺の大臣は西行に見限られたが、同じように縄を張った綾小路宮には、蛙を鳥から守るという優しい理由があった。見かけだけで判断せず、心のありかを推し量ろうとする兼好の姿勢がうかがえる。

〔第11段〕晩秋の山里で、苔むした細道の先にひっそりと住む庵を見つけ、世を捨てた暮らしの美しさに感じ入ったのもつかの間、庭の柑子の木が実を取られまいと厳重に囲ってあるのを見て興ざめする。世を捨てたはずの人に残る小さな執着を、見逃さずに書きとめている。

語釈・文法注

あだし野
京都の嵯峨野の奥にあった葬送の地。化野。「露」は人の命のはかなさのたとえ。
鳥部山
京都の東山の南にあった葬送の地。火葬の煙が絶えなかった。
かげろふ
蜉蝣。朝に生まれて夕べに死ぬといわれ、はかない命のたとえとされた。
四十
「よそぢ」。四十歳。当時は四十歳から長寿を祝う「四十の賀」を行った。
久米の仙人
大和国の竜門寺で修行し、空を飛ぶ術を得た仙人。吉野川で洗濯する女のすねを見て、術を失って落ちたと『今昔物語集』などに伝える。
六塵
仏教で、色・声・香・味・触・法の六つの対象。心を汚すので「塵」という。
厭離
この世を嫌って離れること。
すいがい
透垣。竹や板を、すきまをあけて編んだ垣根。
後德大寺の大臣
藤原実定(1139〜1191)。歌人。「ほととぎす鳴きつる方を眺むれば」の歌で知られる。
西行
平安末期の歌僧(1118〜1190)。佐藤義清。出家して諸国を旅した。
小坂殿
綾小路宮(亀山天皇の皇子、性恵法親王)の御所。
栗栖野
京都の山科のあたりの野。
閼伽棚
仏に供える水や花を置く棚。
柑子
蜜柑の一種。小ぶりで酸味が強い。

文法

あらほしきこそ
底本どおり。通行本文は「あらまほしきこそ」で、「ま」が落ちた誤植と思われる。「あらまほし」は、そうあってほしい、望ましいの意。
死なむこそめやすかるべけれ
「む」は婉曲の助動詞。死ぬようなのが。「こそ…べけれ」の係り結び。
肥えあぶらつきたらむは
「たら」は完了の助動詞「たり」の未然形、「む」は推量(婉曲)。ふっくらとつやがあったのだろうが。
べかめれ
「べかるめれ」の撥音便「べかんめれ」の撥音の無表記。
さてもやはながらへ住むべき
「やは」は反語。そのようにしてまで、いつまでも住んでいられようか、いや住めはしない。
なからましかばと
反実仮想「ましかば…まし」の後半を略した形。この木がなかったならば(よかったのに)。

解説

第7段は、『徒然草』の無常観を代表する段である。「世はさだめなきこそいみじけれ」と、無常を嘆くのではなく、それゆえにものの情趣が生まれると肯定するところに、兼好の独自の立場がある。「長くとも四十にたらぬほどにて死なむこそめやすかるべけれ」という言葉は有名だが、兼好自身は七十歳近くまで生きたとされる。

第8段・第9段は色欲を戒めるが、一方的に否定するのではなく、人がそれに引かれる心をよく知ったうえで語っている。第3段で恋の情趣を知らない男をつまらないと言ったことと合わせて読むと、兼好が人間の欲望をありのままに見つめていることがわかる。

第10段は住まい論であるとともに、人物論でもある。後徳大寺の大臣と綾小路宮の、同じ「縄を張る」という行為の裏にある心の違いを対比し、最後に「徳大寺にもいかなるゆゑか侍りけむ」と、実定にも何か理由があったのかもしれないと付け加えるところに、軽々しく人を裁かない兼好の慎重さがある。

第11段の「この木なからましかば」は、山里の庵の閑寂な美しさを描いた直後に、その主の執着を見つけてしまう落差がおもしろい。世を捨てた人にも欲が残ることを、兼好は自分の問題としても見つめていたのだろう。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(徒然草) 板倉屋書房、明治36年(1903)、765〜767頁(コマ396–397)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日