竹取物語 第13章
天の羽衣
十五夜の真夜中、あたりが昼より明るく光り、天人たちが雲に乗って降りてくる。兵たちは戦う気力を失い、閉ざした戸もひとりでに開く。かぐや姫は翁と嫗に手紙を残し、帝に手紙と不死の薬を託すと、天の羽衣を着せられて地上の思いを失い、天人とともに月へ昇っていく。
- 1かゝるかゝるかかる程程ほどににに宵宵よいうちうちうちすぎすぎすぎててて、、、子子ねののの時時ときばかりばかりばかりににに、、、家家いえのののあたりあたりあたり晝晝ひるのののあかさあかさあかさにににももも過過すぎぎぎててて光光ひかりりりたりたりたり。。。望望もち月月づきのののあかさあかさあかさををを十十とおあはせあはせあわせたるたるたるばかりばかりばかりにににててて、、、在在あるるる人人ひとののの毛毛けののの穴穴あなさへさへさへ見見みゆるゆるゆるほどほどほどなりなりなり。。。大大おお空空ぞらよりよりより人人ひと雲雲くもににに乘乘のりりりててておりおりおりきききててて、、、地地つちよりよりより五五ご尺尺しゃくばかりばかりばかりあがりあがりあがりたるたるたるほどほどほどににに立立たちちち連連つらねねねたりたりたり。。。これこれこれををを見見みててて、、、內內うち外外となるなるなる人人ひとののの心心こころどもどもども、、、物物ものにににおそはおそはおそわるゝるゝるるやうやうようにににててて、、、相相あい戰戰たたかははわむむん心心こころもももなかりなかりなかりけりけりけり。。。辛辛からうじてうじてうじて思思おもひひい起起おこしししててて、、、弓弓ゆみ矢矢やをををとりとりとりたてたてたてむむんとととすれすれすれどもどもども、、、手手てににに力力ちからもももなくなくなくなりなりなりてててなえなえなえかゞまりかゞまりかがまりたるたるたる中中なかににに、、、心心こころさかしきさかしきさかしきものものもの念念ねんじじじててて射射いむむむとととすれすれすれどもどもども、、、外外ほかざまざまざまへへへいきいきいきけれけれければばば、、、あれあれあれももも戰戰たたかははわででで、、、心心ここちちちたゞたゞただしれしれしれにににしれしれしれててて守守まもりりりあへあへあえりりり。。。
- 2立立たてててるるる人人ひとどもどもどもはははさうさうそう束束そうぞくのののきよらきよらきよらなるなるなることことこと物物ものにににももも似似にずずず。。。とぶとぶとぶ車車くるま一一ひとつつつ具具ぐしししたりたりたり。。。羅羅らさしさしさしたりたりたり。。。そのそのその中中なかににに王王おうとととおぼしきおぼしきおぼしき人人ひと、、、家家いえににに造造みやつこ麿麿まろまうでまうでもうでこここ」」」ととといふいふいうににに、、、たけくたけくたけく思思おもひひいつるつるつる造造みやつこ麿麿まろももも、、、物物ものににに醉醉えひひいたるたるたる心心ここちちちしししてててうつぶしうつぶしうつぶしににに伏伏ふせせせりりり。。。いはくいはくいわく「「「汝汝なんじをさなきをさなきおさなき人人ひと、、、聊聊いささかかかなるなるなる功功く德德どくををを翁翁おきなつくりつくりつくりけるけるけるににによりよりよりててて、、、汝汝なんじががが助助たすけにににとてとてとて片片かた時時ときのののほどほどほどゝゝとてててくだしくだしくだしゝゝしををを、、、そこらそこらそこらののの年年とし頃頃ごろそこらそこらそこらののの金金こがね賜賜たまひひいててて、、、身身みをををかへかへかへたるたるたるががが如如ごとくくくなりなりなりにににたりたりたり。。。かぐやかぐやかぐや姫姫ひめははは罪罪つみをををつくりつくりつくり給給たまへへえりりりけれけれければばば、、、かくかくかくいやしきいやしきいやしきおのれおのれおのれががが許許もとにににしばししばししばしおはしおはしおわしつるつるつるなりなりなり。。。罪罪つみのののかぎりかぎりかぎりはてはてはてぬれぬれぬればばば、、、かくかくかく迎迎むかふるふるうるををを、、、翁翁おきなははは泣泣なききき歎歎なげくくく、、、あたはあたはあたわぬぬぬことことことなりなりなり。。。はやはやはや返返かへししし奉奉たてまつれれれ」」」ととといふいふいう。。。
- 3翁翁おきな答答こたへへえててて申申もうすすす、、、「「「かぐやかぐやかぐや姫姫ひめををを養養やしなひひい奉奉たてまつるるることことことはははたとせたとせたとせあまりあまりあまりににになりなりなりぬぬぬ。。。片片かた時時ときとととのたまふのたまふのたまうににに怪怪あやしくしくしくなりなりなり侍侍はべりりりぬぬぬ。。。またまたまたことことことどころどころどころにににかぐやかぐやかぐや姫姫ひめととと申申もうすすす人人ひとぞぞぞおはしますおはしますおわしますらむらむらん」」」ととといふいふいう。。。「「「こゝこゝここにににおはするおはするおわするかぐやかぐやかぐや姫姫ひめははは、、、重重おもききき病病やまいをををししし給給たまへへえばばばえええ出出いでででおはしますおはしますおわしますまじまじまじ」」」ととと申申もうせせせばばば、、、そのそのその返返かえどどどはははなくなくなくててて、、、屋屋やののの上上うえにににとぶとぶとぶ車車くるまをををよせよせよせててて、、、「「「いざいざいざかぐやかぐやかぐや姫姫ひめ、、、きたなききたなききたなき所所ところにににいかでいかでいかで久久ひさしくしくしくおはせおはせおわせむむん」」」ととといふいふいう。。。立立たてててこめこめこめたるたるたる所所ところののの戶戶と即即すなわちちちたゞたゞただあきあきあきにににあきあきあきぬぬぬ。。。格格こう子子しどもどもどもゝゝも人人ひとはははなくなくなくしししてててあきあきあきぬぬぬ。。。嫗嫗おうないだきいだきいだきててて居居いたるたるたるかぐやかぐやかぐや姫姫ひめとととにににいでいでいでぬぬぬ。。。えええとゞむとゞむとどむまじけれまじけれまじければばば、、、たゞたゞたださしさしさし仰仰あおぎぎぎててて泣泣なきききをりをりおり。。。
- 4竹竹たけ取取とり心心こころまどひまどひまどいててて泣泣なききき伏伏ふせせせるるる所所ところににに寄寄よりりりててて、、、かぐやかぐやかぐや姫姫ひめいふいふいう、、、「「「こゝこゝここにににももも心心こころにににもももあらあらあらでででかくかくかくまかるまかるまかるににに、、、のぼらのぼらのぼらむむんをををだにだにだに見見み送送おくりりり給給たまへへえ」」」ととといへいへいえどもどもども「「「何何なにしししににに悲悲かなしきしきしきににに見見み送送おくりりり奉奉たてまつらららむむん。。。我我われをををばばばいかにいかにいかにせせせよよよとてとてとて棄棄すてゝてゝててははは昇昇のぼりりり給給たまふふうぞぞぞ。。。ぐしぐしぐしてててゐゐいててておはせおはせおわせねねね」」」ととと泣泣なきききててて伏伏ふせせせれれればばば、、、「「「御御み心心こころまどひまどひまどいぬぬぬ。。。文文ふみををを書書かきききおきおきおきてててまからまからまからむむん。。。戀戀こいしからしからしからむむんをりをりをりをりおりおりとりとりとり出出いでゝでゝでて見見み給給たまへへえ」」」とてとてとてうちうちうち泣泣なきききててて書書かくくくことことことははは
- 5「「「このこのこの國國くにににに生生うまれれれぬるぬるぬるとととならならならばばば、、、歎歎なげかかかせせせ奉奉たてまつらららぬぬぬ程程ほどまでまでまで侍侍はべるるるべきべきべきををを、、、侍侍はべらららででで過過すぎぎぎわかれわかれわかれぬるぬるぬることことこと、、、返返かえすすす返返がえすすすほいほいほいなくなくなくこそこそこそおぼえおぼえおぼえ侍侍はべれれれ。。。脫脫ぬぎぎぎおくおくおくきぬきぬきぬをををかたみかたみかたみととと見見み給給たまへへえ。。。月月つきののの出出いでででたらたらたらむむん夜夜よははは見見みおこせおこせおこせ給給たまへへえ。。。見見みすてすてすて奉奉たてまつりりりてててまかるまかるまかる空空そらよりよりよりもももおちおちおちぬぬぬべきべきべき心心ここちちちすすす」」」とととかきかきかきおくおくおく。。。
- 6あまあまあまびとびとびとののの中中なかにににもたもたもたせせせたるたるたる箱箱はこありありあり。。。天天あまののの羽羽は衣衣ごろも入入いれれれりりり。。。又又またあるあるあるははは不不ふ死死しののの藥藥くすり入入いれれれりりり。。。ひとりひとりひとりののの天天てん人人にんいふいふいう「「「壺壺つぼなるなるなる御御おん藥藥くすり奉奉たてまつれれれ。。。きたなききたなききたなき所所ところのののものものもの聞聞きこしこしこしめしめしめしたれたれたればばば、、、御御み心心ここちちちあしからあしからあしからむむんものものものぞぞぞ」」」とてとてとて、、、もてもてもてよりよりよりたれたれたればばば、、、聊聊いささかかか甞甞なめめめ給給たまひひいててて、、、少少すこしししかたみかたみかたみとてとてとて、、、脫脫ぬぎぎぎおくおくおくきぬきぬきぬににに包包つつまままむむんとととすれすれすればばば、、、あるあるあるあまあまあま人人びとつゝまつゝまつつませせせずずず、、、おんぞおんぞおんぞをををとりとりとり出出いでゝでゝでてきせきせきせむむんとととすすす。。。そのそのその時時ときにににかぐやかぐやかぐや姫姫ひめ「「「しばししばししばし待待まててて」」」ととといひいひいいててて「「「きぬきぬきぬ着着きつるつるつる人人ひとははは心心こころことことことににになるなるなるなりなりなり。。。物物ものひとひとひとことことこといひいひいいおくおくおくべきべきべき事事ことありありあり」」」ととといひいひいいててて文文ふみかくかくかく。。。あまあまあま人人びと「「「おそしおそしおそし」」」ととと心心こころもとなもとなもとながりがりがり給給たまふふう。。。かぐやかぐやかぐや姫姫ひめ「「「物物もの知知しらららぬぬぬことことことなななののの給給たまひひいそそそ」」」とてとてとて、、、いみじくいみじくいみじくしづかしづかしずかにににおほやけおほやけおおやけににに御御お文文ふみ奉奉たてまつりりりたまふたまふたまう。。。あわてあわてあわてぬぬぬさまさまさまなりなりなり。。。
- 7「「「かくかくかく數數あま多多たののの人人ひとをををたまひたまひたまいてててとゞめとゞめとどめさせさせさせ給給たまへへえどどど、、、許許ゆるさささぬぬぬ迎迎むかへへえまうでまうでもうできききててて、、、とりとりとりゐゐいてててまかりまかりまかりぬれぬれぬればばば、、、口口くちをしくをしくおしく悲悲かなしきしきしきことことこと、、、宮宮みや仕仕づかえつかうつかうつこうまつらまつらまつらずずずなりなりなりぬるぬるぬるももも、、、かくかくかくわづらはしきわづらはしきわずらわしき身身みにににててて侍侍はべれれればばば、、、心心こころ得得えずずずおぼしめしおぼしめしおぼしめしつつつらめらめらめどもどもども、、、心心こころ强强づよくくくうけたまはらうけたまはらうけたまわらずずずなりなりなりにににしししことことこと、、、なめげなめげなめげなるなるなるものものものにににおぼしおぼしおぼし召召めしししとゞめとゞめとどめられられられぬるぬるぬるなむなむなん、、、心心こころにににとまりとまりとまり侍侍はべりりりぬるぬるぬる」」」とてとてとて、、、
- 8「「「今今いまはははとてとてとて天天あまのののはごろもはごろもはごろもきるきるきるをりをりおりぞぞぞ君君きみをををあはれあはれあわれとととおもひおもひおもいいでいでいでぬるぬるぬる」」」
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現代語訳
こうしているうちに、宵も過ぎて、夜中の十二時ごろに、家のあたりが昼の明るさ以上に光り輝いた。満月の明るさを十合わせたほどで、そこにいる人の毛穴まで見えるほどである。大空から人が雲に乗って降りてきて、地面から五尺ほど上がったあたりに立ち並んだ。これを見て、家の内外にいる人々の心は、何かに襲われたようになって、戦い合おうという気持ちもなくなってしまった。やっとのことで気持ちを奮い起こして、弓矢を取って構えようとするけれども、手に力も入らなくなって、ぐったりとしてしまう中で、気丈な者がこらえて射ようとしたが、矢はあらぬ方へ飛んでいったので、荒々しく戦うこともなく、気持ちはただぼうっとして、互いに顔を見合わせている。
立っている人たちは、衣装の美しいことはたとえようもない。空を飛ぶ車を一台伴っている。絹傘をさしかけている。その中の王と思われる人が、「家にいる造麻呂、出てまいれ」と言うと、勇み立っていた造麻呂も、何かに酔ったような気持ちになって、うつ伏せに伏した。王が言うには、「お前、愚かな者よ。わずかばかりの善行を翁が積んだので、お前の助けにしようと、ほんのしばらくの間と思って姫を下したのだが、長年の間たくさんの黄金を授けて、お前は生まれ変わったように裕福になった。かぐや姫は罪をお犯しになったので、このように卑しいお前のもとに、しばらくいらっしゃったのだ。罪の償いの期限が終わったので、こうして迎えに来たのを、翁は泣いて嘆く。それはできないことだ。早くお返し申し上げよ」と言う。
翁が答えて申し上げるには、「かぐや姫をお育て申し上げることは二十年あまりになりました。ほんのしばらくの間とおっしゃるので、不審に思われてきました。また別の所に、かぐや姫と申す人がいらっしゃるのでしょう」と言う。「ここにいらっしゃるかぐや姫は、重い病気にかかっていらっしゃるので、出ていらっしゃることはできないでしょう」と申し上げると、その返事はなくて、屋根の上に飛ぶ車を寄せて、「さあ、かぐや姫、汚れた所に、どうして長くいらっしゃるのですか」と言う。閉めきってあった塗籠の戸は、すぐにすっかり開いてしまった。格子なども、人がいないのにひとりでに開いた。嫗が抱きかかえていたかぐや姫は、外に出てしまった。引きとめることもできそうにないので、嫗はただ空を仰いで泣いている。
竹取の翁が心乱れて泣き伏している所に寄って、かぐや姫が言う。「私も、心ならずもこうして去っていくのですから、せめて天に昇るのだけでも見送ってください」と言うけれども、翁は「どうして、悲しいのにお見送りなどいたしましょう。私をどうしろと言って、捨てて昇っていかれるのか。一緒に連れていってください」と言って泣き伏しているので、かぐや姫は「お心が乱れてしまっています。手紙を書き残してまいりましょう。私を恋しく思うときどきに、取り出してご覧ください」と言って、泣きながら書く言葉は、
「この国に生まれた身であったならば、お二人を嘆かせ申し上げないときまでおそばにお仕えすべきでしたのに、そうできずに別れていくことは、返す返すも不本意に思われます。脱いで置いていく着物を形見としてご覧ください。月の出ている夜は、月の方をご覧ください。お二人を見捨て申し上げて去っていく空から、落ちてしまいそうな気持ちがいたします」と書き置く。
天人の中の一人に持たせている箱がある。天の羽衣が入っている。また別の箱には不死の薬が入っている。一人の天人が言う。「壺に入っているお薬をお召し上がりなさい。汚れた所の物を召し上がっていたので、ご気分が悪いことでしょう」と言って、持って近寄ったので、かぐや姫はほんの少しおなめになって、少しを形見として、脱いで置いていく着物に包もうとすると、そばにいる天人が包ませず、天の羽衣を取り出して着せようとする。そのときに、かぐや姫は「しばらく待ちなさい」と言って、「羽衣を着た人は、心が変わってしまうといいます。一言、言っておかなければならないことがあります」と言って手紙を書く。天人は「遅い」とじれったがりなさる。かぐや姫は「物の情けを知らないことをおっしゃいますな」と言って、たいそう静かに帝にお手紙を差し上げなさる。落ち着いた様子である。
「このように大勢の人をお遣わしくださって、私をお引きとめなさいましたが、拒むことのできない迎えがやってきて、私を連れて去っていきますので、残念で悲しいことです。宮仕えをいたさずに終わったのも、このような面倒な身の上でございましたので、ご納得がいかないとお思いになったでしょうが、強情にお受けしないままになってしまったことを、無礼な者だとお心にとどめられてしまったことが、心残りでございます」と書いて、
「今はもうこれまでと、天の羽衣を着るこのときになって、あなた様のことをしみじみといとしく思い出すことです」
と詠んで、壺の薬を添えて、頭中将を呼び寄せて帝に差し上げさせる。頭中将に、天人が受け取って渡す。頭中将が受け取ると、天人がさっと天の羽衣をお着せ申し上げたので、かぐや姫の、翁を気の毒だ、悲しいとお思いになっていた気持ちも消えてしまった。この羽衣を着た人は物思いもなくなってしまったので、車に乗って、百人ほどの天人を引き連れて天に昇ってしまった。その後、翁と嫗は血の涙を流して嘆き惑うけれども、どうしようもない。あの書き置いた手紙を読んで聞かせたけれども、「何のために命も惜しかろうか。誰のために何をすることがあろうか。何もかも無用だ」と言って、薬も飲まず、そのまま起き上がることもなく病床についてしまった。
意訳
物語の頂点となる昇天の場面である。真夜中、満月の十倍もの光とともに天人たちが降りてくると、二千人の兵は戦う気力を奪われ、閉ざされた戸もひとりでに開いてしまう。天人の王は、かぐや姫が罪の償いのために地上に下されていたこと、その期限が終わったことを告げる。かぐや姫は嘆く翁に手紙を書き置き、帝にも最後の手紙と歌、不死の薬を託す。天人が急かしても「物の情けを知らないことを言うな」としずかに筆をとる姿には、地上で育まれた深い情が表れている。しかし天の羽衣を着せられた瞬間、翁への思いも悲しみも消え去り、姫は何事もなかったように天へ昇っていく。人間らしい心を得た姫が、それを一瞬で失うという結末は、天上の世界の清らかさと、地上の人の世の情の尊さを対比させている。
語釈・文法注
- 羅蓋
- 薄絹を張った長柄の傘。貴人の頭上にさしかけるもの。
文法
- 「家に造麿まうでこ」
- 底本では開きの「「」がなく、閉じの「」」だけがある。そのまま翻刻した。「まうでこ」は「まうで来」の命令形。
- 「しれにしれて」
- 同じ動詞を「〜に〜」の形で重ねて強調する。すっかりぼんやりして。
- 「ゐておはせね」
- 「ね」は他に対する願望の終助詞「なむ」と同じく、〜してほしい、の意。連れて行ってください。
- 「心ことになるなり」
- 「なり」は伝聞・推定の助動詞。心が変わってしまうといいます。
- 「おぼしめしつらめども」
- 「らめ」は現在推量の助動詞「らむ」の已然形。お思いになっていらっしゃるでしょうが。
和歌
今はとて天のはごろもきるをりぞ君をあはれとおもひいでぬる
- 詠者
- かぐや姫
- 状況
- 天の羽衣を着せられる直前、帝への手紙に添えた最後の歌。
修辞
- 表現
- 「あはれ」は、しみじみとした愛情を表す。羽衣を着れば地上の心を失うことを知りながら、最後に帝への思いを告げている。
解説
天人降臨の場面は、地上の権力(帝の兵)がまったく無力であることを鮮やかに描いている。弓を射ても矢があらぬ方へ飛び、戸がひとりでに開くさまは、超自然の力の前に人間がなすすべもない様子を印象づける。
かぐや姫が地上に下されたのは「罪をつくり給へりければ」とされるが、その罪が何であったかは物語の中で語られない。罪を犯した天女が人間界に流されるという話型は「貴種流離譚」の一種とされ、羽衣伝説とも関係が深い。
天の羽衣を着ると「物思ひ」がなくなるという設定は、天上界が煩悩のない世界であることを示している。かぐや姫が羽衣を着る直前に急いで手紙を書いたのは、地上の心を失う前に、帝と翁たちへの思いを残しておきたかったからである。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部三 雑上(竹取物語) 板倉屋書房、明治36年(1903)、25–27頁(コマ16–17)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日