古典ライブラリー

竹取物語 第13章

天の羽衣

十五夜の真夜中、あたりが昼より明るく光り、天人たちが雲に乗って降りてくる。兵たちは戦う気力を失い、閉ざした戸もひとりでに開く。かぐや姫は翁と嫗に手紙を残し、帝に手紙と不死の薬を託すと、天の羽衣を着せられて地上の思いを失い、天人とともに月へ昇っていく。

  1. 1かゝるかゝるかかる程ほど程ほどほどににに宵よひ宵よひよいうちうちうちすぎすぎすぎててて、、、子ね子ねねののの時とき時ときときばかりばかりばかりににに、、、家いへ家いへいえのののあたりあたりあたり晝ひる晝ひるひるのののあかさあかさあかさにににももも過す過すすぎぎぎててて光ひか光ひかひかりりりたりたりたり。。。望もち望もちもち月づき月づきづきのののあかさあかさあかさををを十とを十とをとおあはせあはせあわせたるたるたるばかりばかりばかりにににててて、、、在あ在ああるるる人ひと人ひとひとののの毛け毛けけののの穴あな穴あなあなさへさへさへ見み見みみゆるゆるゆるほどほどほどなりなりなり。。。大おほ大おほおお空ぞら空ぞらぞらよりよりより人ひと人ひとひと雲くも雲くもくもににに乘の乘ののりりりててておりおりおりきききててて、、、地つち地つちつちよりよりより五ご五ごご尺しやく尺しやくしゃくばかりばかりばかりあがりあがりあがりたるたるたるほどほどほどににに立た立たたちちち連つら連つらつらねねねたりたりたり。。。これこれこれををを見み見みみててて、、、內うち內うちうち外と外ととなるなるなる人ひと人ひとひとののの心こころ心こころこころどもどもども、、、物もの物ものものにににおそはおそはおそわるゝるゝるるやうやうようにににててて、、、相あひ相あひあい戰たたか戰たたかたたかははわむむん心こころ心こころこころもももなかりなかりなかりけりけりけり。。。辛から辛からからうじてうじてうじて思おも思おもおもひひい起おこ起おこおこしししててて、、、弓ゆみ弓ゆみゆみ矢や矢ややをををとりとりとりたてたてたてむむんとととすれすれすれどもどもども、、、手て手ててににに力ちから力ちからちからもももなくなくなくなりなりなりてててなえなえなえかゞまりかゞまりかがまりたるたるたる中なか中なかなかににに、、、心こころ心こころこころさかしきさかしきさかしきものものもの念ねん念ねんねんじじじててて射い射いいむむむとととすれすれすれどもどもども、、、外ほか外ほかほかざまざまざまへへへいきいきいきけれけれければばば、、、あれあれあれももも戰たたか戰たたかたたかははわででで、、、心ここ心ここここちちちたゞたゞただしれしれしれにににしれしれしれててて守まも守まもまもりりりあへあへあえりりり。。。
  2. 2立た立たたてててるるる人ひと人ひとひとどもどもどもはははさうさうそう束ぞく束ぞくそうぞくのののきよらきよらきよらなるなるなることことこと物もの物ものものにににももも似に似ににずずず。。。とぶとぶとぶ車くるま車くるまくるま一ひと一ひとひとつつつ具ぐ具ぐぐしししたりたりたり。。。羅ら羅ららさしさしさしたりたりたり。。。そのそのその中なか中なかなかににに王わう王わうおうとととおぼしきおぼしきおぼしき人ひと人ひとひと、、、家いへ家いへいえににに造みやつこ造みやつこみやつこ麿まろ麿まろまろまうでまうでもうでこここ」」」ととといふいふいうににに、、、たけくたけくたけく思おも思おもおもひひいつるつるつる造みやつこ造みやつこみやつこ麿まろ麿まろまろももも、、、物もの物ものものににに醉ゑ醉ゑえひひいたるたるたる心ここ心ここここちちちしししてててうつぶしうつぶしうつぶしににに伏ふ伏ふふせせせりりり。。。いはくいはくいわく「「「汝なんぢ汝なんぢなんじをさなきをさなきおさなき人ひと人ひとひと、、、聊いささ聊いささいささかかかなるなるなる功く功くく德どく德どくどくををを翁おきな翁おきなおきなつくりつくりつくりけるけるけるににによりよりよりててて、、、汝なんぢ汝なんぢなんじががが助たすけ助たすけたすけにににとてとてとて片かた片かたかた時とき時ときときのののほどほどほどゝゝとてててくだしくだしくだしゝゝしををを、、、そこらそこらそこらののの年とし年としとし頃ごろ頃ごろごろそこらそこらそこらののの金こがね金こがねこがね賜たま賜たまたまひひいててて、、、身み身みみをををかへかへかへたるたるたるががが如ごと如ごとごとくくくなりなりなりにににたりたりたり。。。かぐやかぐやかぐや姫ひめ姫ひめひめははは罪つみ罪つみつみをををつくりつくりつくり給たま給たまたまへへえりりりけれけれければばば、、、かくかくかくいやしきいやしきいやしきおのれおのれおのれががが許もと許もともとにににしばししばししばしおはしおはしおわしつるつるつるなりなりなり。。。罪つみ罪つみつみのののかぎりかぎりかぎりはてはてはてぬれぬれぬればばば、、、かくかくかく迎むか迎むかむかふるふるうるををを、、、翁おきな翁おきなおきなははは泣な泣ななききき歎なげ歎なげなげくくく、、、あたはあたはあたわぬぬぬことことことなりなりなり。。。はやはやはや返かへ返かへかへししし奉たてまつ奉たてまつたてまつれれれ」」」ととといふいふいう。。。
  3. 3翁おきな翁おきなおきな答こた答こたこたへへえててて申まう申まうもうすすす、、、「「「かぐやかぐやかぐや姫ひめ姫ひめひめををを養やしな養やしなやしなひひい奉たてまつ奉たてまつたてまつるるることことことはははたとせたとせたとせあまりあまりあまりににになりなりなりぬぬぬ。。。片かた片かたかた時とき時ときときとととのたまふのたまふのたまうににに怪あや怪あやあやしくしくしくなりなりなり侍はべ侍はべはべりりりぬぬぬ。。。またまたまたことことことどころどころどころにににかぐやかぐやかぐや姫ひめ姫ひめひめととと申まう申まうもうすすす人ひと人ひとひとぞぞぞおはしますおはしますおわしますらむらむらん」」」ととといふいふいう。。。「「「こゝこゝここにににおはするおはするおわするかぐやかぐやかぐや姫ひめ姫ひめひめははは、、、重おも重おもおもききき病やまひ病やまひやまいをををししし給たま給たまたまへへえばばばえええ出い出いいでででおはしますおはしますおわしますまじまじまじ」」」ととと申まう申まうもうせせせばばば、、、そのそのその返かへ返かへかえどどどはははなくなくなくててて、、、屋や屋ややののの上うへ上うへうえにににとぶとぶとぶ車くるま車くるまくるまをををよせよせよせててて、、、「「「いざいざいざかぐやかぐやかぐや姫ひめ姫ひめひめ、、、きたなききたなききたなき所ところ所ところところにににいかでいかでいかで久ひさ久ひさひさしくしくしくおはせおはせおわせむむん」」」ととといふいふいう。。。立た立たたてててこめこめこめたるたるたる所ところ所ところところののの戶と戶とと即すなは即すなはすなわちちちたゞたゞただあきあきあきにににあきあきあきぬぬぬ。。。格かう格かうこう子し子ししどもどもどもゝゝも人ひと人ひとひとはははなくなくなくしししてててあきあきあきぬぬぬ。。。嫗おうな嫗おうなおうないだきいだきいだきててて居ゐ居ゐいたるたるたるかぐやかぐやかぐや姫ひめ姫ひめひめとととにににいでいでいでぬぬぬ。。。えええとゞむとゞむとどむまじけれまじけれまじければばば、、、たゞたゞたださしさしさし仰あふ仰あふあおぎぎぎててて泣な泣ななきききをりをりおり。。。
  4. 4竹たけ竹たけたけ取とり取とりとり心こころ心こころこころまどひまどひまどいててて泣な泣ななききき伏ふ伏ふふせせせるるる所ところ所ところところににに寄よ寄よよりりりててて、、、かぐやかぐやかぐや姫ひめ姫ひめひめいふいふいう、、、「「「こゝこゝここにににももも心こころ心こころこころにににもももあらあらあらでででかくかくかくまかるまかるまかるににに、、、のぼらのぼらのぼらむむんをををだにだにだに見み見みみ送おく送おくおくりりり給たま給たまたまへへえ」」」ととといへいへいえどもどもども「「「何なに何なになにしししににに悲かな悲かなかなしきしきしきににに見み見みみ送おく送おくおくりりり奉たてまつ奉たてまつたてまつらららむむん。。。我われ我われわれをををばばばいかにいかにいかにせせせよよよとてとてとて棄す棄すすてゝてゝててははは昇のぼ昇のぼのぼりりり給たま給たまたまふふうぞぞぞ。。。ぐしぐしぐしてててゐゐいててておはせおはせおわせねねね」」」ととと泣な泣ななきききててて伏ふ伏ふふせせせれれればばば、、、「「「御み御みみ心こころ心こころこころまどひまどひまどいぬぬぬ。。。文ふみ文ふみふみををを書か書かかきききおきおきおきてててまからまからまからむむん。。。戀こひ戀こひこいしからしからしからむむんをりをりをりをりおりおりとりとりとり出い出いいでゝでゝでて見み見みみ給たま給たまたまへへえ」」」とてとてとてうちうちうち泣な泣ななきききててて書か書かかくくくことことことははは
  5. 5「「「このこのこの國くに國くにくにににに生うま生うまうまれれれぬるぬるぬるとととならならならばばば、、、歎なげ歎なげなげかかかせせせ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららぬぬぬ程ほど程ほどほどまでまでまで侍はべ侍はべはべるるるべきべきべきををを、、、侍はべ侍はべはべらららででで過す過すすぎぎぎわかれわかれわかれぬるぬるぬることことこと、、、返かへ返かへかえすすす返がへ返がへがえすすすほいほいほいなくなくなくこそこそこそおぼえおぼえおぼえ侍はべ侍はべはべれれれ。。。脫ぬ脫ぬぬぎぎぎおくおくおくきぬきぬきぬをををかたみかたみかたみととと見み見みみ給たま給たまたまへへえ。。。月つき月つきつきののの出い出いいでででたらたらたらむむん夜よ夜よよははは見み見みみおこせおこせおこせ給たま給たまたまへへえ。。。見み見みみすてすてすて奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりてててまかるまかるまかる空そら空そらそらよりよりよりもももおちおちおちぬぬぬべきべきべき心ここ心ここここちちちすすす」」」とととかきかきかきおくおくおく。。。
  6. 6あまあまあまびとびとびとののの中なか中なかなかにににもたもたもたせせせたるたるたる箱はこ箱はこはこありありあり。。。天あま天あまあまののの羽は羽はは衣ごろも衣ごろもごろも入い入いいれれれりりり。。。又また又またまたあるあるあるははは不ふ不ふふ死し死ししののの藥くすり藥くすりくすり入い入いいれれれりりり。。。ひとりひとりひとりののの天てん天てんてん人にん人にんにんいふいふいう「「「壺つぼ壺つぼつぼなるなるなる御おほん御おほんおん藥くすり藥くすりくすり奉たてまつ奉たてまつたてまつれれれ。。。きたなききたなききたなき所ところ所ところところのののものものもの聞き聞ききこしこしこしめしめしめしたれたれたればばば、、、御み御みみ心ここ心ここここちちちあしからあしからあしからむむんものものものぞぞぞ」」」とてとてとて、、、もてもてもてよりよりよりたれたれたればばば、、、聊いささ聊いささいささかかか甞な甞ななめめめ給たま給たまたまひひいててて、、、少すこ少すこすこしししかたみかたみかたみとてとてとて、、、脫ぬ脫ぬぬぎぎぎおくおくおくきぬきぬきぬににに包つつ包つつつつまままむむんとととすれすれすればばば、、、あるあるあるあまあまあま人びと人びとびとつゝまつゝまつつませせせずずず、、、おんぞおんぞおんぞをををとりとりとり出い出いいでゝでゝでてきせきせきせむむんとととすすす。。。そのそのその時とき時ときときにににかぐやかぐやかぐや姫ひめ姫ひめひめ「「「しばししばししばし待ま待ままててて」」」ととといひいひいいててて「「「きぬきぬきぬ着き着ききつるつるつる人ひと人ひとひとははは心こころ心こころこころことことことににになるなるなるなりなりなり。。。物もの物ものものひとひとひとことことこといひいひいいおくおくおくべきべきべき事こと事ことことありありあり」」」ととといひいひいいててて文ふみ文ふみふみかくかくかく。。。あまあまあま人びと人びとびと「「「おそしおそしおそし」」」ととと心こころ心こころこころもとなもとなもとながりがりがり給たま給たまたまふふう。。。かぐやかぐやかぐや姫ひめ姫ひめひめ「「「物もの物ものもの知し知ししらららぬぬぬことことことなななののの給たま給たまたまひひいそそそ」」」とてとてとて、、、いみじくいみじくいみじくしづかしづかしずかにににおほやけおほやけおおやけににに御お御おお文ふみ文ふみふみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりたまふたまふたまう。。。あわてあわてあわてぬぬぬさまさまさまなりなりなり。。。
  7. 7「「「かくかくかく數あま數あまあま多た多たたののの人ひと人ひとひとをををたまひたまひたまいてててとゞめとゞめとどめさせさせさせ給たま給たまたまへへえどどど、、、許ゆる許ゆるゆるさささぬぬぬ迎むか迎むかむかへへえまうでまうでもうできききててて、、、とりとりとりゐゐいてててまかりまかりまかりぬれぬれぬればばば、、、口くち口くちくちをしくをしくおしく悲かな悲かなかなしきしきしきことことこと、、、宮みや宮みやみや仕づかへ仕づかへづかえつかうつかうつこうまつらまつらまつらずずずなりなりなりぬるぬるぬるももも、、、かくかくかくわづらはしきわづらはしきわずらわしき身み身みみにににててて侍はべ侍はべはべれれればばば、、、心こころ心こころこころ得え得ええずずずおぼしめしおぼしめしおぼしめしつつつらめらめらめどもどもども、、、心こころ心こころこころ强づよ强づよづよくくくうけたまはらうけたまはらうけたまわらずずずなりなりなりにににしししことことこと、、、なめげなめげなめげなるなるなるものものものにににおぼしおぼしおぼし召め召めめしししとゞめとゞめとどめられられられぬるぬるぬるなむなむなん、、、心こころ心こころこころにににとまりとまりとまり侍はべ侍はべはべりりりぬるぬるぬる」」」とてとてとて、、、
  8. 8「「「今いま今いまいまはははとてとてとて天あま天あまあまのののはごろもはごろもはごろもきるきるきるをりをりおりぞぞぞ君きみ君きみきみをををあはれあはれあわれとととおもひおもひおもいいでいでいでぬるぬるぬる」」」
  9. 9とてとてとて、、、壺つぼ壺つぼつぼののの藥くすり藥くすりくすりそへそへそえててて、、、頭とうの頭とうのとうの中ちゆう中ちゆうちゅう將じやう將じやうじょうををを呼よ呼よよびびび寄よ寄よよせせせててて奉たてまつ奉たてまつたてまつらららすすす。。。中ちゆう中ちゆうちゅう將じやう將じやうじょうにににあまあまあま人びと人びとびととりとりとりててて傳つた傳つたつたふふう。。。中ちゆう中ちゆうちゅう將じやう將じやうじょうとりとりとりつれつれつればばば、、、ふとふとふと天あま天あまあまののの羽は羽はは衣ごろも衣ごろもごろもうちうちうち着き着ききせせせ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりつれつれつればばば、、、翁おきな翁おきなおきなをををいとほしいとほしいとおし悲かな悲かなかなしししとととおぼしおぼしおぼしつるつるつることことことももも失う失ううせせせぬぬぬ。。。このこのこのきぬきぬきぬ着き着ききつるつるつる人ひと人ひとひとははは物もの物ものもの思おもひ思おもひおもいもももなくなくなくなりなりなりにににけれけれければばば、、、車くるま車くるまくるまににに乘の乘ののりりりててて百ひやく百ひやくひゃく人にん人にんにんばかりばかりばかり天てん天てんてん人にん人にんにん具ぐ具ぐぐしししててて昇のぼ昇のぼのぼりりりぬぬぬ。。。そのそのその後のち後のちのち翁おきな翁おきなおきな嫗おうな嫗おうなおうな、、、血ち血ちちののの淚なみだ淚なみだなみだををを流なが流ながながしししててて惑まど惑まどまどへへえどどどかひかひかいなしなしなし。。。あのあのあの書か書かかきききおきおきおきししし文ふみ文ふみふみををを讀よ讀よよみみみててて聞き聞ききかかかせせせけれけれけれどどど「「「何なに何なになにせせせむむんにににかかか命いのち命いのちいのちももも惜を惜をおしからしからしからむむん。。。たたたがががためためためにににかかか何なに何なになに事ごと事ごとごともももようようようもももなしなしなし」」」とてとてとて藥くすり藥くすりくすりもももくはくはくわずずず、、、やがてやがてやがておきおきおきもももあがらあがらあがらずずず病や病ややみみみふせふせふせりりり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

こうしているうちに、宵も過ぎて、夜中の十二時ごろに、家のあたりが昼の明るさ以上に光り輝いた。満月の明るさを十合わせたほどで、そこにいる人の毛穴まで見えるほどである。大空から人が雲に乗って降りてきて、地面から五尺ほど上がったあたりに立ち並んだ。これを見て、家の内外にいる人々の心は、何かに襲われたようになって、戦い合おうという気持ちもなくなってしまった。やっとのことで気持ちを奮い起こして、弓矢を取って構えようとするけれども、手に力も入らなくなって、ぐったりとしてしまう中で、気丈な者がこらえて射ようとしたが、矢はあらぬ方へ飛んでいったので、荒々しく戦うこともなく、気持ちはただぼうっとして、互いに顔を見合わせている。

立っている人たちは、衣装の美しいことはたとえようもない。空を飛ぶ車を一台伴っている。絹傘をさしかけている。その中の王と思われる人が、「家にいる造麻呂、出てまいれ」と言うと、勇み立っていた造麻呂も、何かに酔ったような気持ちになって、うつ伏せに伏した。王が言うには、「お前、愚かな者よ。わずかばかりの善行を翁が積んだので、お前の助けにしようと、ほんのしばらくの間と思って姫を下したのだが、長年の間たくさんの黄金を授けて、お前は生まれ変わったように裕福になった。かぐや姫は罪をお犯しになったので、このように卑しいお前のもとに、しばらくいらっしゃったのだ。罪の償いの期限が終わったので、こうして迎えに来たのを、翁は泣いて嘆く。それはできないことだ。早くお返し申し上げよ」と言う。

翁が答えて申し上げるには、「かぐや姫をお育て申し上げることは二十年あまりになりました。ほんのしばらくの間とおっしゃるので、不審に思われてきました。また別の所に、かぐや姫と申す人がいらっしゃるのでしょう」と言う。「ここにいらっしゃるかぐや姫は、重い病気にかかっていらっしゃるので、出ていらっしゃることはできないでしょう」と申し上げると、その返事はなくて、屋根の上に飛ぶ車を寄せて、「さあ、かぐや姫、汚れた所に、どうして長くいらっしゃるのですか」と言う。閉めきってあった塗籠の戸は、すぐにすっかり開いてしまった。格子なども、人がいないのにひとりでに開いた。嫗が抱きかかえていたかぐや姫は、外に出てしまった。引きとめることもできそうにないので、嫗はただ空を仰いで泣いている。

竹取の翁が心乱れて泣き伏している所に寄って、かぐや姫が言う。「私も、心ならずもこうして去っていくのですから、せめて天に昇るのだけでも見送ってください」と言うけれども、翁は「どうして、悲しいのにお見送りなどいたしましょう。私をどうしろと言って、捨てて昇っていかれるのか。一緒に連れていってください」と言って泣き伏しているので、かぐや姫は「お心が乱れてしまっています。手紙を書き残してまいりましょう。私を恋しく思うときどきに、取り出してご覧ください」と言って、泣きながら書く言葉は、

「この国に生まれた身であったならば、お二人を嘆かせ申し上げないときまでおそばにお仕えすべきでしたのに、そうできずに別れていくことは、返す返すも不本意に思われます。脱いで置いていく着物を形見としてご覧ください。月の出ている夜は、月の方をご覧ください。お二人を見捨て申し上げて去っていく空から、落ちてしまいそうな気持ちがいたします」と書き置く。

天人の中の一人に持たせている箱がある。天の羽衣が入っている。また別の箱には不死の薬が入っている。一人の天人が言う。「壺に入っているお薬をお召し上がりなさい。汚れた所の物を召し上がっていたので、ご気分が悪いことでしょう」と言って、持って近寄ったので、かぐや姫はほんの少しおなめになって、少しを形見として、脱いで置いていく着物に包もうとすると、そばにいる天人が包ませず、天の羽衣を取り出して着せようとする。そのときに、かぐや姫は「しばらく待ちなさい」と言って、「羽衣を着た人は、心が変わってしまうといいます。一言、言っておかなければならないことがあります」と言って手紙を書く。天人は「遅い」とじれったがりなさる。かぐや姫は「物の情けを知らないことをおっしゃいますな」と言って、たいそう静かに帝にお手紙を差し上げなさる。落ち着いた様子である。

「このように大勢の人をお遣わしくださって、私をお引きとめなさいましたが、拒むことのできない迎えがやってきて、私を連れて去っていきますので、残念で悲しいことです。宮仕えをいたさずに終わったのも、このような面倒な身の上でございましたので、ご納得がいかないとお思いになったでしょうが、強情にお受けしないままになってしまったことを、無礼な者だとお心にとどめられてしまったことが、心残りでございます」と書いて、

「今はもうこれまでと、天の羽衣を着るこのときになって、あなた様のことをしみじみといとしく思い出すことです」

と詠んで、壺の薬を添えて、頭中将を呼び寄せて帝に差し上げさせる。頭中将に、天人が受け取って渡す。頭中将が受け取ると、天人がさっと天の羽衣をお着せ申し上げたので、かぐや姫の、翁を気の毒だ、悲しいとお思いになっていた気持ちも消えてしまった。この羽衣を着た人は物思いもなくなってしまったので、車に乗って、百人ほどの天人を引き連れて天に昇ってしまった。その後、翁と嫗は血の涙を流して嘆き惑うけれども、どうしようもない。あの書き置いた手紙を読んで聞かせたけれども、「何のために命も惜しかろうか。誰のために何をすることがあろうか。何もかも無用だ」と言って、薬も飲まず、そのまま起き上がることもなく病床についてしまった。

意訳

物語の頂点となる昇天の場面である。真夜中、満月の十倍もの光とともに天人たちが降りてくると、二千人の兵は戦う気力を奪われ、閉ざされた戸もひとりでに開いてしまう。天人の王は、かぐや姫が罪の償いのために地上に下されていたこと、その期限が終わったことを告げる。かぐや姫は嘆く翁に手紙を書き置き、帝にも最後の手紙と歌、不死の薬を託す。天人が急かしても「物の情けを知らないことを言うな」としずかに筆をとる姿には、地上で育まれた深い情が表れている。しかし天の羽衣を着せられた瞬間、翁への思いも悲しみも消え去り、姫は何事もなかったように天へ昇っていく。人間らしい心を得た姫が、それを一瞬で失うという結末は、天上の世界の清らかさと、地上の人の世の情の尊さを対比させている。

語釈・文法注

羅蓋
薄絹を張った長柄の傘。貴人の頭上にさしかけるもの。

文法

「家に造麿まうでこ」
底本では開きの「「」がなく、閉じの「」」だけがある。そのまま翻刻した。「まうでこ」は「まうで来」の命令形。
「しれにしれて」
同じ動詞を「〜に〜」の形で重ねて強調する。すっかりぼんやりして。
「ゐておはせね」
「ね」は他に対する願望の終助詞「なむ」と同じく、〜してほしい、の意。連れて行ってください。
「心ことになるなり」
「なり」は伝聞・推定の助動詞。心が変わってしまうといいます。
「おぼしめしつらめども」
「らめ」は現在推量の助動詞「らむ」の已然形。お思いになっていらっしゃるでしょうが。

和歌

今はとて天のはごろもきるをりぞ君をあはれとおもひいでぬる

詠者
かぐや姫
状況
天の羽衣を着せられる直前、帝への手紙に添えた最後の歌。

修辞

表現
「あはれ」は、しみじみとした愛情を表す。羽衣を着れば地上の心を失うことを知りながら、最後に帝への思いを告げている。

解説

天人降臨の場面は、地上の権力(帝の兵)がまったく無力であることを鮮やかに描いている。弓を射ても矢があらぬ方へ飛び、戸がひとりでに開くさまは、超自然の力の前に人間がなすすべもない様子を印象づける。

かぐや姫が地上に下されたのは「罪をつくり給へりければ」とされるが、その罪が何であったかは物語の中で語られない。罪を犯した天女が人間界に流されるという話型は「貴種流離譚」の一種とされ、羽衣伝説とも関係が深い。

天の羽衣を着ると「物思ひ」がなくなるという設定は、天上界が煩悩のない世界であることを示している。かぐや姫が羽衣を着る直前に急いで手紙を書いたのは、地上の心を失う前に、帝と翁たちへの思いを残しておきたかったからである。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部三 雑上(竹取物語) 板倉屋書房、明治36年(1903)、25–27頁(コマ16–17)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日